ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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勧誘

 白金魔導研究所の見学が終わり、行きと同じ道を再び辿って旅籠に戻った時には空は暗くなっていた。

 あの険しい悪路にクラスの連中は再びバテると思ったのだが、予想に反して道中は割と賑やかだった。どうやら今日の見学は皆には刺激的だったようで、興奮した様子で魔術議論に花を咲かせていた。

 自由行動の時間になり、皆は昨日同様別々に行動する。

 宿舎に戻る生徒もいれば、街へとくり出して行く生徒もいる。

 

「ねぇ、リィエル。これから町に食事に行こうかと思うんだけど、どうかな?」

「……いや」

 

 ルミアがその中で一人でいるリィエルに声を掛けるも、リィエルは露骨に拒絶した。

 

「おい、いい加減にしろよお前」 

 

 流石に見かねのか、グレン先生がリィエルの肩を掴んで声を発する。

 

「いつまでもガキみたいなことしてねぇで──」

「うるさいっ!」

 

 だがリィエルはグレン先生の手を振り払い、逃げるように駆け出した。道行く人を撥ね飛ばしながら路地裏に飛び込み、そのまま、あっという間に姿を消してしまう。

 まるで駄々をこねる子供だ。仮にも護衛役が護衛任務を放り出すとは本末転倒だな。

 リィエルに余計なことを言った先生にも非があるが。

 

「……ちっ。あの馬鹿……すまないルミア」

「いえ気にしないでください。それより、リィエルを追いかけてください。私達が追いかけても、多分、逆効果でしょうから……今は、先生がリィエルの傍にいてあげてください」

「……悪いな。そうするわ」

 

 本命であるアルベルトがいるから問題ないと踏んでか、先生もルミアから離れるつもりか。

 

「お前も手伝ってくれ、キヨポン」

「え、なんで」

「あいつすばしっこいし、一人で探すにはちょいと広すぎる」

 

 はぁ…。仕方ない。

 

「わかりました。丁度先生に伝えたいことがあるので……仕事の話で」

「っ!わかった」

「前に渡した通信魔導器、まだ持ってますよね?」

 

 オレと先生は二手に分かれてリィエルを探しながら、通信魔術を使って連絡を取る。

 

「一応、先生には研究所の所長について伝えておきます」

『所長の件って……あのバークスっておっさんのことか?』

「そうです、あの男が天の智慧研究会と繋がっている可能性があります」

『はぁ!?』

「帝国保安局の内定調査で、あの研究所関連の資金の流れに微かな違和感があったとかで徹底的に洗ったところ、例の組織と密かに繋がっている可能性が浮上したとのことです。その時は可能性はゼロに近かったのですが」

『おい。だったらなんでそのことを俺に話さなかったんだ…ッ!?』

「今こうして話してるでしょ?」

『いや、そういうことは事前にだな……!』

「オレの立場を考えて欲しいですね。既に一般人の先生に軍の情報を明かすことは軍規違反に該当します。オレが上に逆らえないことはアルベルトから聞いているでしょ?」

『ッ……スマン。冷静じゃなかった』

 

 例の作戦については先生に言わなくていいな。

 

「今話すのは、今日の研究所見学で奴がクロだとハッキリしたからです。そう判断した根拠は二つあります。一つ目は案内中、ルミアを計十五回も冷たい目で見ていました」

『マジか!?』

 

 やはり気付いていなかったか。

 

「内定調査によると、バークス=ブラウモンは相当の『異能嫌い』…典型的な異能差別主義者のようです。ルミアだけに冷たい視線を向けていたのは、あいつが異能者だと知っていたからでしょうね」

『知っていた?なんで研究所の所長がルミアの素性を知ってるんだよ?』

「知っている組織は、今わかっているのでも王室と政府の上層部……天の智慧研究会の三つです。状況的に見て、後者から教えてもらったと考えるのが妥当でしょ」

『あ、ああ……成程。だからクロだって話か』

「とはいえ、視線だけでは外道魔術師である証拠にならないので少し泳がせてから揺さぶりをかけてみました」

『揺さぶり?』

「『Project : Revive Life』についてですよ。バークスはシスティーナとルミアの会話に割り込んだ…ルミアに近付くのを堪え切れなかったのもあるでしょうが、この話題に食いついていました。それに政府機関の研究所の所長にしてはやけに詳しいと思い、試しにルーンの機能限界と『アルター・エーテル』に関する問題の解決策を挙げてみたんです。意外と簡単にボロを出しましたね」

『あんな代案を言い出したのって、そう言う意図があってのことだったのかよ……いや、俺もあの所長に少し違和感を覚えてたけどよ』

 

 どうだか。

 

「見解を聞いてみたところ、あの所長は試したことがないと答えた。つまり、あの所長も『Project : Revive Life』に挑戦したことがあるということです。これが二つ目」

『挑戦したって………ちょっと待って。それって何人もの関係のない人間の魂を……』

「『アルター・エーテル』を作るために大勢から抽出したんでしょうね………」

『なんだよソレ……人格者っぽいこと言っておきながら、自分は好き勝手に命を弄んでるじゃねえかよ……!!』

「あんなの芝居ですよ。自分が外道だとバレないために、人格者に見えるよう振る舞っているだけです」

 

 通信機の向こうにいるグレン先生に、オレはそう冷たく諭す。

 

 外道魔術師に限った話ではない。

 人間を見るとき、人はまず外見から情報を得る。それは格好いいとか可愛いとか、その逆でもいいが、そういったことを読み取るわけだ。第一印象と言えば分かりやすい。

 そして次に、会話や行動でその人間の内面を量ろうとする。社交的だ、好戦的だ、消極的だ、と。

 だがそれもまた外見と同じ表面的なものでしかない。本当の考え方なんてものはすぐに見えてこない。

 表と裏を使い分けている。この性質は、殆どの人間が持っているものだ。 

 要するに、表面ばかり見てるだけでは簡単に騙されてしまうということだ。

 言動だけでなく、ほんのわずかな挙動も見逃してはいけない。

 

「それと、昨日アルベルトと情報を共有したところ、島に来ていた人間主義者達が忽然と姿を消したそうです。研究所の閉鎖を要求したデモ活動をした翌日に。オレはバークスが連中を殺したと見ています」

『道理でそれっぽい連中が見当たらねえわけだ。もう本当好き勝手にやってるな………』

「この国の外道魔術師なんて大抵そうでしょ………とにかく、これでバークスに対する疑惑が濃厚になりました。ルミアに対し何らかの行動を起こす可能性があります」

『じゃあルミアだけでも先に本土に帰すべきか』

「いや、本土も本土で危険であることには変わりありませんよ」

 

 尤も、そんなこと軍上層部が許すはずがないが………。

 

「バークスの方はこっちで対処するので、先生は伏兵に備えてルミアの守りを固めることをお勧めします。このままリィエルが見つからなければ、どこかのタイミングで切り上げるべきかと」

『は?それってリィエルを放っておけってことかよ?』

「あまりルミアから長く離れるわけにはいかないでしょ?リィエルと違い、身を守る術を持っていないですし」

 

 今のリィエルを無理矢理連れ戻したところで、護衛が務まるとは思えない。正直言ってアイツはお荷物だ。仮にあの男の関係者だったとしても、贔屓するつもりはない。

 

『だからって、あいつのことを放っておけるかよ』

「それは講師としてですか?それとも元相棒として?」

『………両方に決まってるだろ』

 

 身勝手な都合で、仲間を捨てて逃げた人間が言ってもな………。まあいい。

 

「一時間。見つからなかったら引き上げます。では………」

 

 伝えることは伝え、オレは通信を終える。

 

「さて………」

 

 進入禁止区域の一つである樹海に入り、足を止める。

 

「隠れてないで、出てきたらどうだ?」

 

 ずっとオレを尾けていた奴に声をかける。

 

「……あらあら。バレていましたか」

 

 すると、後方からメイド服に身を包んだ、一人の女が現れた。

 

「陛下に呪殺具を仕掛けた侍女長か…」

「ふふふ……覚えていただいて光栄です」

 

 このねっとりとした視線………魔術競技祭で感じたのはコイツのだったか。

 

「私は天の智慧研究会、第二団≪地位≫(アデプタス・オーダー)が一翼、エレノア=シャーレットと申します。以後お見知りおきを、ホワイトルームの最高傑作キヨト=タカミネ様」

 

 スカートの両端を摘み上げ、軽くお辞儀をする。その姿はとても優雅でいて、完璧と称するものだった。だがエレノアの目は濁った狂気で満ちていた。

 

 エレノア=シャーレット。

アルザーノ帝国大学経済学部を首席で卒業、剣術・魔術も超一流の才媛を買われ、王室に女王付き侍女長兼秘書官として雇われた、エリート中のエリート。

 経歴に関する資料ではそう書かれていたが、その正体は天の智慧研究会のスパイで、魔術競技祭で陛下に呪殺具を仕掛け、王室親衛隊にルミアを殺すようけしかけた。

 

「わざわざ人払い結界を張って……この前(呪詛返し)の借りを返しにでも来たのか?」

「ふふふ、いいえ。少々キヨト様とお話がしたくて参りましたわ」

「なんだ?」

「単刀直入に申します──私達『天の智慧研究会』と一緒に来ませんか?」

 

 は?

 

「『Project : Revive Life』を完成された(・・・・・)実績も踏まえ、第三団≪天位≫(ヘヴンス・オーダー)の席をご用意しております」

 

 たかが模造人間造りで随分と好待遇だな。

 天の智慧研究会の構成員は三つの位階でランクを付けられていて、第一団《門》と第二団《地位》の位階の者達ばかり。その上の最上位階、第三団《天位》は都市伝説とされているとか。

 前に似たような勧誘を受けた記憶があるな。あの時はつまらない人形劇を見せてくる変な奴だったが。変な幻覚も見せてきたのが気に入らなかった。

 

「別に大したことをしていないが」

「御冗談を。今は亡き稀代の天才錬金術師シオン以外に、あの禁呪の完成に成功したのは貴方様だけですのよ?偉大な功績を成し遂げた貴方様には、それ相応の地位に就くべきだと言うのが大導師様のお考えです」

「偉大って………特に難しい術式は使っていない。ただアンタらとは違うアプローチでやってみただけだ」

 

 殆どの連中は『コピー人間を作るには、コピーとコピーコピーを合成するしかない』という固定観念に囚われていたに過ぎない。同じことをして、同じ問題で行き詰まるのは当たり前だ。シオンは自分の魔術特性を利用してなんとかできたみたいだが、あれはアイツの固有魔術そのものと言っていいから成功と言っていいのやら。

 

「オレから言わせれば、アンタらは物事を一方向からだけじゃなく、様々な角度や立場から捉えることができていない。オレに助力を乞うまでの何百年もの間、誰も成果を上げれなかったのがその証拠だ」

「手厳しいですわね……」

「そんな発想が乏しい連中の下につくメリットが見当たらない」

「ホワイトルームの運営をしていた貴方のお父様との契約で、貴方様が私共の下に就くことは決まっていたのにメリットを求めるのですか?」

「施設の閉鎖とあの男が死んだ時点で、その契約は無効になったも同然だ」

 

 そもそもあの男が勝手に決めたことだ。了承していないオレがそれに律儀に従う気は毛頭ない。

 

「困りましたわね………ではこういう条件はいかがでしょうか?」

 

 エレノアはクスクス、と笑いながら、手を叩いて提案を口にした。

 

「――――我々の組織に入れば、貴方様にかけられている【制約(ギアス)】を我々の方で解呪してさしあげましょう」

 

 ん?

 

「特務分室に捕えられた際、室長のイヴ=イグナイト様から【制約(ギアス)】をかけられたのでしょう?貴方様を自身に従順な駒にするために?しかもその弊害で全力を出せないでいる」

 

 【制約】とは、相手に行動の制限を課す束縛式の白魔術だ。非常に強い強制力があり、逆らうのは至難の業で、基本的に呪った術者本人にしか解けないわけだが……。

 

「せっかく自由になられたというのに、彼女の駒になるのはさぞ屈辱でしょう?ですが安心してください。我々の力ならその様な枷、容易く外してみせましょう」

 

 で、今度はコイツらが新しく【制約】を施してオレを従わせる、なんてこともあり得るか。

 

「それではもう一度聞きます。我々と来る気はありませんか?」

 

 好条件を出して再び勧誘してくる。答えは一つだ。

 

「―――必要ない」

 

 オレが放った言葉に、エレノアは眉を潜めた。

 

「……今、何と?」

「必要ないと言ったんだ。なにか勘違いしているみたいだから訂正しておく。確かにオレはイヴに制約をかけられている。だがそれはアイツも同じことだ」

「どういう意味ですの?」

「あの女の下につけばオレの自由はある程度保証されるという話だったが、口約束やただの書面へのサインだけじゃ信用できなかったからな。反故にされないよう、魔術師らしくいかせてもらった」

 

 個人のみの【制約】ではなく、他者間に交わす【制約】。

 詠唱式ではなく、スクロール状の魔道具に記された術式文書にサインしての儀式系だ。

 その文面はこうだ。

 

術式対象:

ーキヨト=タカミネ

ーイヴ=イグナイト

制約内容:

ーキヨト=タカミネはイヴ=イグナイトの命令に逆らう行為や裏切り行為、彼女の許可が無い限り全力を出すことを禁則とする。

ー対するイヴ=イグナイトもキヨト=タカミネに対し、自由意志を奪うような行為及び、殺害・傷害の意図、及び行為を禁則とする。第三者に教唆することも禁則に含む。

注意事項:

―上記の内容が強引に破られるなどした場合、違反者には呪いが自動的に発動する。

 

解呪条件:

ーどちらか片方が制約内容に該当しない状況で死亡する。

ー両名が当制約の破棄に同意する。

etc.

 

 

 イヴは最初この案に渋ったものの、オレという駒を利用できるなら致し方ないと了承した。

 これでオレはアイツを裏切ることができないし、命令にも従うしかない

 

………今のところは。

 

 アイツの方も、オレの自由を損なうような行動を取ることができない。

 この両者間に交わされた【制約】は、お互いウィンウィンの関係になるようになっている。

 もし【制約】を条件以外で強引に解呪しようものなら、呪いが違反者の内側から蝕む。たとえ契約者本人に抵触する意思がなかったとしても、「契約違反である」と見做された時点で問答無用で呪いは発動する。その行為が中止されない限り呪いは持続し続け、最終的には目や口から血を溢れさせた苦悶の表情で死に至るわけだ。リスクは大きいが破らなければいいだけのこと。お互いまだ死にたくないしな。

 そうして両者の同意のもと、互いにこの【制約】をかけた。

 こいつが勘違いしたのは、【制約】を使ってオレを制御しているということしか情報を掴んでいないからだろう。

 

「両者合意による他者間の【制約】………なんと大胆な手を」

「そういうわけだから、少し窮屈には感じても屈辱なんてものを感じてはいない。勧誘なら他を当たってくれ」

「まあ、つれない御方」

 

――というか

 

 

「この三文芝居にいつまで付き合えばいい?」

「三文芝居、とは?」

「勧誘なんてのはあくまでも建前。オレをここに足止めしている間に、ルミアを連れ去るのが目的なんだろ?ルミアがいる中でアンタらがなにもしないわけがない」

 

 今回がルミアの暗殺なら、殺すチャンスはいくらでもあった。なのに実行しなかった。泊まっている旅籠に奇襲を仕掛ける事さえしなかった。

 強硬手段も取らなかったということは、今回は生け捕りということになる。

 

「………やれやれ。勧誘はついでの様なものでしたが、バレてしまっては仕方ありません」

 

 不気味に笑いながら、エレノアは呪文を詠唱する。

 

「――《おいでませ》、《嗚呼・おいでませ》…」

 

 エレノアの詠唱に合わせて地面にいくつもの法陣が現れる。

 

「――《おいでませ》《夜霊の呼び声に・応じませ》《応じませ》…」

 

 それぞれの法陣の中心にある黒い穴から次々と何かが這い出てきては立ち上がった。

 

 爛れた肌、所々剥き出しの骨、生気のない目。

 その容貌から一目でわかるように現れた者は皆死人であり、そして何故か皆女性であった。

 

死霊術師(ネクロマンサー)か……」

「《彼の血が肉が・汝等慰めたもう・潤したもう》《いざ・いざ・召され》!」

「「「■■■■■■■■■■■■―――っ!!!!」」」

 

 発声器官からおぞましい金切り声を上げながら、死者の群れがオレに向けて殺到して来た。

 

 ごり押しで攻める気か。

 相手が死霊術を使ってくるとは想定していなかったが……許容範囲内か。

 

「――やれ」

 

 オレの言葉を合図に、地面から無数の木の根が突き出て、死者の群れを刺し貫いていく。

 

「っ!?これは――」

「外道魔術師でも、流石にトレントのことは知っているだろ」

 

 オレの傍に立っていた木がミシミシと音を立てながら蠢き、木の幹に二つの眼、大きな口を想起させる穴が現れた。

 トレントは、巨木の姿をした大型の植物型魔獣であり、単体でありながら森そのものと化すことがある特殊な存在。その身体は長い年月を経た樹皮や根、苔やつる草に覆われており、一見するとただの古木や丘と見間違うほど自然と同化する。

 その高い擬態能力に、普通の木と見分けるのが困難を極める相手だ。

 

「ですがいつの間に召喚を……?詠唱の素振りなんて一度も―――」

「なあ、オレがこんな森に足を踏み入れたのが、単なる偶然だと思ってるのか?」

「っ!?まさか」

 

 エレノアが周囲を見渡す。

 

「ご明察通り、今ここにいるこの森の殆どはオレの使い魔のトレントだ」

 

 天の智慧研究会が奇襲した場合に備えて、昨日のうちにこの島の幾つかのポイントに仕込ませておいた。 

 木を隠すなら森の中と言う。もっとも、木じゃなくてトレントだが。

 

「この私が……誘い込まれたと……?」

「そうなるな」

 

 リィエル捜索の協力なんて口実だ。

 街に戻ってからずっと気持ち悪い視線を向けられ、あまり良い心地がしなかったから、わざと一人になる状況を作っただけのこと。案の定、この女はオレに接触してきた。

 

「あまり時間をかけるつもりはない。《灯火》」

「《出でよ赤き獣の王》!」

 

 オレは指先に灯した炎をエレノアへ放つと、エレノアも炎で対抗。

 互いの炎がぶつかり合い、大爆発を引き起こした。

 

「《光の障壁よ》」

 

 前方に魔力障壁を展開し、爆炎から身を守る。大爆発により、その場一帯が灼熱の炎に飲み込まれた。

 爆炎に巻き込まれてトレントも死者の群れも一瞬で塵となっていく中、

 

「うふふ、うふふふふっ」

 

 エレノアの不気味な笑い声が木霊す。

 炎の中から現れたエレノアは身体中火傷で皮膚が爛れていた。

 だが、それは黒い霧に包まれて次々と修復されていく。

 

「せっかちな殿方ですこと」

「マジかよ…」

 

 なんだあれ。条件起動型の回復魔術とはどこか違う気がする。

 

 

「さあ、おもてなしを続けましょうか?」

「できれば遠慮したいな」

 

♢♢

 

 サイネリア島の旧開発地区にある断崖絶壁にて。

 

 ザシュッ

 

 天の智慧研究会の刺客と思しき人物と対峙していたグレンの口元から、赤い雫が垂れた。

 

「―――がっ……は……?」

 

 何が起こっているのか分からないまま、口から血を吐いたグレンは喉の奥から迫り上がる異物感に口を開くが、背中側に穴の開いた肺はヒュウヒュウと空気を萎ませるだけだった。

 自身の胸から大剣が生えていた。否、背後から何者かに突き立てられたというのが正しい。

 痛みよりも背中が灼けるような熱さを感じながら、グレンは後ろを振り返る。

 

「リィ、エル?」

 

 リィエルが錬成した大剣で、グレンの背中を突き刺していた。

 

「なん……で……」

「グレン、今までありがとう。私は兄さんのために生きる。さようなら」

「あ、兄貴……?お前、何を……!」

 

 グレンは意識が遠のきそうになりながらもリィエルに問い掛けるが、リィエルは何も答えず剣を横薙ぎに振る。

 大剣が抜け、グレンはそのまま暗い海の中へと落ちて行った。




他者間の制約の部分は、某聖杯戦争アニメのを参考にしています。
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