ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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もう秋ですね。あの猛暑が噓だったかのように気温下がりました。



嘘には二種類ある。過去に関する事実上の嘘と未来に関する権利上の嘘である。
交戦が終わり


「キリがないな……」

 

 攻性呪文で着実に塵にしてはいるが、次から次へと新たに召喚されているため減っていかず、その数はむしろ増えていっている。

 術者であるエレノアにも何発か確実に深手を負わせている。

 筈なのだが、傷口から黒い粒子のようなものが噴き出して損傷箇所を修復していて、ピンピンしている。

 現に、頭部から吹き出したそれで瞬く間に右の眼球が元通りになっていた。

 

「酷いですわ。女性はもっと絹を触るように優しく扱ってくださいな」

「生憎とそんな方法は知らない」

 

 次から次へと増え続ける女の死者達。

 法医呪文などの回復系魔術を軽く凌駕している回復力を持つ、死なない死霊術師。

 この戦いの終わりがまったく見えない。

 なんだこれ。完全にいたちごっこだ。

 

「付き合ってられないな…」

 

 物理攻撃でさばいても埒が明かない。

 人間一人分入れるドーム状の簡易結界を展開し、結界内に閉じ籠る。

 

「あらあら?そのようなところに籠っていないで、出てきたらどうです?」

 

 死者の群れは更に数を増え、固まり、もつれあいながら、圧倒的な物量で攻めて来る。

 

「「「■■■■■■■■■■■■―――っ!!!!」」」

 

 結界を破ろうと表面に張り付いて、死者の顔で隙間なく埋め尽くされる。

 メンタルの弱いシスティーナならトラウマになるぐらい不気味だ。

 

 ん?

 

「どういうことだ……?」

 

 エレノアの操る死者が何故か全員女であるのは、単に個人の趣味かなにかだと思っていたが………。今は情報が少ないな。

 

「……《その光で穢れを祓い清め給え》」

 

 祓魔の浄化呪文――白魔【ピュアリファイ・ライト】を一節で詠唱。

 掲げた左手から強烈な白い閃光を放ち、結界内を明るく照らす。

 

「「「■■■■■■■■■■■■―――っ!!!!????」」」

 

 白色の閃光に当てられた無数の死者は、細い断末魔の悲鳴を響かせて一瞬で消滅した。

 

「《送り火》」

 

 続けて白魔【セイント・ファイア】を詠唱。結界の解除と同時に、ごうっと明るい橙色の炎が吹き荒れた。

 分厚い熱波とともに、きらきらと光の粒がきらめく。

 

「「「■■■■■■■■■■■■―――っ!!!!????」」」

 

 それは、死者・悪霊のみを祓い清める浄化の火。

 周囲にいた残りの死者達を呑み込んだ炎の渦は森の草木に燃え移ることなく、死体を動かす偽りの生命を全て焼き尽くしていく。

 ついでにむせかえるほどの死臭と辺りの呪われた瘴気が清められていった。

 

「いい具合に敵を固まらせてくれたおかげで片付けやすかったよ」

「触媒も無しに高等浄化呪文を……しかも一節で」

「その口ぶりだと、事前調査が甘かったみたいだな」

「クッ、《おいでま――」

「《還れ・在るべき場所へ・契約は棄却されたし》」

 

 即座に対抗呪文で召喚を却下し、霧散する魔力が僅かな光を放つ。

 

「いい加減死体にはウンザリだ」

 

♢♢

 

(全力でないというのにこれ程ですか……)

 

 目の前の少年はホワイトルームに長年いた分実戦経験が浅い上、制約で全力が出せないなら自分でも勝てるだろうと、エレノアはどこかで高を括っていた。

 だが、死者の群れに囲まれた絶体絶命の状況でマナ・バイオリズムが乱れず、感情も一切揺らがず、搦手を用意して自分に有利な状況にしても、予想を超えて難無く対応していく。

 前回の呪詛返しといい、高位司祭が使うような高等浄化呪文まで使えるのは想定していなかった。

 用意の周到さと即応性、魔術師としての技量。それらを兼ね備えていた少年に、エレノアは追い詰められないでいる。

 

(厄介ですわね……それに)

 

 実力もそうだが、キヨトの『目』に引っかかった。

 普通の人間のように、その瞳は爛々と輝いているわけでも、濁ってもいない。

 あるのは、金色の虹彩の中心に黒々と開いた瞳孔を形作る虚無の闇だけだった。

 

(………いったい、なにをどうしたらあのような『目』になるのでしょう)

 

 エレノアの頬から冷や汗が一滴滴り落ちた。

 

 

 

 

 一方その頃、他の森にて。

 突如、ごうと激しく火柱が燃え上がり、赤く燃え立つ焔が暗闇を灼いた。

 

「ヒャッハ――ッ!やったぜぇ!」

 

 黒いローブ――天の智慧研究会の礼服――に身を包んだ外道魔術師の男が、歓喜の叫びを上げた。

 

「仕留めた!あの《星》を仕留めたぞぉ――ッ!」

 

 男が放った獄炎の魔術が、アルベルトをついに火達磨にした。

 事実、今、男の眼前にそびえ立つ火柱の中には、アルベルトの影が閉じ込められ、揺らめいている。

 

「ヒャハハハ!噂の特務分室のエース様も大したことないなぁ――ッ!」

 

 ルミア=ティンジェル確保の前に護衛に就いている特務分室の魔導士を始末せよ、という指示で四人がかりで奇襲を仕掛けた。

 他の三人があっさりと返り討ちにあった時は心底肝が冷えたが……終わってみれば実に大したことがない。

 

「いいぜぇ!あの《星》のアルベルトを仕留めたとなりゃあ、俺様の組織内での評価もうなぎ登りだ!そして、このままあのルミア=ティンジェルを手に入れれば――」

 

 男がそこまで言いかけたその時、

 

 とっ!

 

 何処から飛来してきた一条の雷閃が、暗闇を斬り裂き、その男の頭部を正確無比に刺し貫いた。 

 

 

 

「……ふん。自分が相手していたものは、光操作によって作り出された幻影……それにすら気付けぬとは、勝負以前の問題だ」

 

 男が永遠の眠りへと叩き落とされた場所から、少し離れた木の上にアルベルトが立っていた。

 

「あの程度の実力なら精々が第一団《門》クラスの中でも雑魚か………舐められたものだな」

 

 アルベルトは誰へともなく呟いた後、突き出していた左手の指を下ろし、遠目の魔術を起動する。

 

「っ!」

 

 アルベルトはその鋭い眼光を大きく見開いた。

 右目のまぶたの裏に広がる光景に、リィエルに剣で貫かれるグレンの姿があった。

 そしてリィエルの近くには、同じ青髪の青年が見える。

 

「チッ…そう来たか。最も恐れていたことが起こってしまったか」

 

 自分が足止めされていたことに気付いたアルベルトは、まんまとしてやられたと忌々しそうに舌打ちしつつも、冷静に次の行動へと移った。

 

♢♢

 

「結構しぶといな」

「いくら死なないからと、ッ……」

 

 地面に転がったエレノアの顔を見下ろす。切り裂いてやった四肢は胴体から離れ、代わりに黒い粒子をまき散らす胴体の方の切断面から新たに形成されていく。

 

「《光の障壁》ー《四層》」

 

 ザクザクザクザク

 

 オレは【フォース・シールド】を発動し、四枚の極薄の小さな魔力障壁をエレノアの四肢の部分に展開する。四肢が生え終わる前に再びその部分は切断された。

 

「っ、普通【フォース・シールド】は防御に使う魔術のはずですが……」

「どう使おうがオレの勝手だろ。《障壁》」

「がっ!?」

 

 新たに分厚く大きい障壁を今度はエレノアの真上に展開し、起き上がれないように背中から圧迫して押さえつける。

 黒魔【フォース・シールド】は座標指定型で、発動の際にその障壁の範囲や場所、サイズを決めてから障壁を展開する。

 防御に使用されるのがメインだが、工夫次第では攻撃面や色々なことにも活用が可能だ。

 例えば崩れた足場の代わりにしたり、通路などで相手の逃げ道を塞いだり、こうやって厚さと座標を調整して敵の身体を寸断させると同時に再生を阻害したり、相手の動きを押さえつけたりなど。

 尤も、そういう使い方はオレしかやっていないようで、結界術を得意とする《法皇》のクリストフから思いっきりドン引きされたが。

 

「どうする?このまま続けるならこっちにも考えがある」

「私をすぐに始末出来ないことはもうお分かりなのでは?」

「その口ぶり、やっぱり完全な不死じゃないか」

 

 エレノアの異常な再生能力の正体で考えうる可能性は、異能か固有魔術だろうが、何度か回避行動を取っていたことからも、完全な不死というわけではないことは薄々感づいていた。

 

「確かにアンタはそう簡単には死なないようだ。だが無敵じゃない。再生能力はあっても身体が頑丈じゃないし、痛みを感じないわけじゃない」

 

 どうやったら殺せるか分からないが、そんなことに時間を費やすつもりはない。

 動けなくすればいいだけのこと。

 

「例えば、今から巨大な岩でアンタを下敷きにしたとしよう。当然アンタは頑丈じゃないから、岩の重量に耐えられず圧し潰される。その後身体の再生が始まるだろうが、元に戻ったところでまた岩に圧し潰される。岩をどかさない限りその繰り返しだ。人の手が届かないところを考えると、海の底だろうか。深いだけに水圧に圧し潰される上、水中だから詠唱も碌にできない。転移魔術の構築が少し面倒そうだが。まあなんにせよ、普通なら一回で死ねるだろうが、アンタはそうはいかないだろうな」

「………冗談キツイですわね」

「冗談に聞こえたか?」

 

 簡単に死なないというのは考えものだ。

 普通の人間ならそこで終わりだろうが、コイツは圧し潰される際の苦痛を味わいながらも死ねない。肉体的に殺しきることが困難なら、先に精神を壊していけばいいだけのこと。とっくに壊れているだろうが。

 ついでにもう少し恐怖を植え付けておく。

 

「そう言えばアンタ、頭を切り落としたらどうなる?」

「はい?」

「アンタは大きな肉片を核に、欠損した部分を修復していく。だがもしそれが頭だったら?」

「――ッ」

「首から新しく頭が生えてくるんだろうか?もしそうなら頭が新しくできた時、元の頭の方は生きているだろうか?」

 

 (ノー)だ。

 

 霊魂――自己存在はこの世界で唯一無二のもの。命の理に逆らうことはできない。

 霊魂を分割することはできるにはできるが、この外法は術者の寿命を一気に縮めるなど、魂に多大なるダメージを与えてしまう。

 

「約束するよ。オレは今からアンタを断頭する。そしてその頭を拾い上げ、新しい頭が作られていく様を絶命するまで観察させてやる。その後は新しい頭を断頭して同じようにやる、何度も何度も何度も……」

「――ッ」

 

 ようやく焦りを見せたな。

 流石にそんな経験がないのか、狂気に満ちていたエレノアの顔は蒼白し、大量の汗が浮かび上がった。

 最後のひと押しとして、殺気を込めてエレノアを睨み付ける。

 

「もう一度聞く。このまま続けるか?」

「ッ」

 

 数秒の沈黙の末、エレノアは口を開く。

 

「……いいえ、もう十分です。ここは引かせていただきます――――あちらは目標を確保したようですし」

「そうか」

 

 オレは遠見の魔術を起動して、ルミアの様子を確認する。

 ルミアにこっそり符呪しておいた魔力信号を辿ると、眠っているルミアを担いで旅籠から抜け出す、血まみれのリィエルの姿が見えた。

 

「………アンタら、リィエルに何かしたな」

「此方を選んだのは彼女の選択ですわ。私たちは彼女にきっかけを与えただけです」

「成程。大方、アイツの『兄貴』を騙った奴が目の前に現れて、『自分を助けるためにルミアを攫って来い』とか言ったんだろ」

「……お見通しでしたか」

 

 リィエルの素性を知っていなければ、そんな手段は思いつかない。

 その反対に、リィエルの素性を知らない軍上層部は、こうなることを予想できなかっただろう。

 

「それでは私はこれで失礼します――《爆》!」

 

 エレノアは最速最短を誇る呪文を詠唱すると、周囲から爆炎が上がり視界を封じられる。

 暫くして爆炎が収まり視界が開けた時には、すでにエレノアの姿は消えていた。

 

「……四肢が無い状態で黒魔【クイック・イグニッション】を使ったのか」

 

 確か緊急回避的な用途で運用される、最速最短の呪文で起動可能なC級クラスの軍用転移魔術、だったか。

 ただし転移できる範囲は限られる。島から出るということはまず無い。

 一応エレノアに魔力信号を発する術を符呪しておいたが、転移するならおそらく協力者であるバークスのところだろう。

 

 人払いの結界から抜けた後、アルベルトに連絡を取る。

 

『遅い。いったい何をしていた?』

「エレノア=シャーロットが現れて戦闘になった」

『―なに?』

「そう言うアンタも襲撃を受けていたのか?」

 

 そうでないと、ルミア誘拐をアルベルトが見逃す筈がない。

 

『…ああ。俺としたことが、足止めされていることに気付いた時には遅かった』

「リィエルが裏切って、ルミアを連れ去ったことは知っている」

『その前にグレンを斬ったこともか?』

「ん?いや、それは知らなかった。容態は?」

『かなり不味い。既に治癒魔術の効果を受け付けん。古典的法医術的に言えば、”死神の鎌に捕まった”状態だ。こいつを救うには【リヴァイヴァー】を使う他ない』

 

 通常の治癒魔術――白魔【ライフ・アップ】は、被術者本人の自己治癒能力を増幅させて傷を癒す法医呪文だ。だが自身を癒すだけの生命力が、今のグレン先生に残っていないということは、もうすでに死ぬ一歩手前状態ということだ。

 となると、その状態から救う方法として、施術者の生命力を被術者へ増幅移植する白魔儀【リヴァイヴァー】だが、この儀式魔術には行使に大量の魔力が必要になる。

 

 かといって、この後のルミア救出のために、魔力を空にするわけにはいかない。

 

「それならシスティーナを頼ると良い。アイツの潜在的な魔力容量は恐らくオレやお前以上だ。念の為仕込んでおいた魔力信号によると、今は旅籠の自室にいる」

『わかった。もうすぐ着く』

 

 メンタルが弱くとも、それくらいシスティーナには役に立ってもらわないとな。

 それにしても、今まで依存していた相手を手にかけるか。

 行くとこまで行ったなリィエル。

 

「オレは先にルミアのところに行く」

『後で俺も行く。敵戦力が不明な上に、リィエルとも戦わなければいけないともなると、単独は危険だ。着くまで突入は待て』

「わかった。で、そのリィエルについては――――いいんだな?」

『………』

 

 行くとなれば、間違いなくリィエルと敵対するだろう。

 騙されているとはいえ、選んだのはリィエル自身だ。

 

『………ああ、遠慮は無用だ。行く手を阻むというならば、力を持って奴を排除しろ…いや、言い方が温いな』

 

 

 

『殺せ』

 

 

 

「……わかった」

 

 通信を終え、もう一度遠見の魔術を行使するも、ルミアから発せらていた魔力信号を辿れなかった。とっくに向こうに探知され、解呪されたか。

 当然劣等生のリィエルじゃない。やったのは自称リィエルの兄貴だろう。

 

 だが問題ない。ルミアを連れ去ったリィエルも、バークスのところ――島の中央部に向かっているに違いない。

 この島は霊脈上、新鮮な生命マナが豊富である。そしてバークスの研究分野は生命マナを利用した白金術――生命そのものがメインだ。

 つまり、天の智慧研究会がわざわざ本土から離れたこの島で事を起こしたのは、ルミアを使ってそれ関係の実験を行うための可能性がある。

 そして、その場所はとっくに割れている。

 

「好都合だ」 

 

 ルミア救出と並行して例の作戦を実行できる。

 ついでにルミアを狙う理由(ワケ)もある程度分かるだろう。

 

 

 方針も決まったところで準備をする。

 制服の懐に手を突っ込み、サイコロサイズの小さな黒い布切れを取り出す。それは圧縮の魔術によって縮小された外套であり、魔術を解除すればあっという間に元の大きさに戻る。

 帝国宮廷魔導師団の外套だ。と言っても、余計な部分は取り除き(・・・・・・・・・・)、色々イジっているが。

 外套に袖を通し、素早く手札の確認する。

 アリバイ作りも忘れない。

『複製人形』と呼ばれる魔導人形。それをオレの姿へと変身させ、その人形にオレの行動パターンをインプットし、オレの荷物の中に待機させている。

 魔導演算器を操作したから、しばらくすれば圧縮の魔術も解けて動くだろう。

 

「さて、行くか」

 




エレノアの再生能力が、四年前まで連載していた某「死なない」系漫画の能力に似ていますね。あっちの方は死亡した際に発揮しますが。
断頭の話はあっちを参考にしました。
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