ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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10月に入り、アニメでは某侍コメディが学園ものとして帰ってきましたね。
来年には新訳劇場版もあるということで楽しみです。


突入

 島の中央部に向け、鬱蒼と茂る樹海の中を駆けたオレは、開けた場所にある広大な湖畔で一息ついていた。

 街の屋台で買った軽めの夕食を口にしながら、アルベルトを待つこと数分が経過。

 

「………遅かったな。伝えてきた予定の時刻より五分も過ぎている。几帳面なお前にしては珍しい」

「自分も連れていけとしつこい奴がいたんだ」

「………みたいだな」

 

 オレが通った道から、アルベルトの後にグレン先生が出てきた。

 

「どうした?息が上がってるぞ、グレン」

「うっせぇ!こちとら病み上がりじゃボケ!」

「その様子だと、【リヴァイヴァー】は無事に成功したみたいですね」

「……ああ、白猫のおかげでな」

 

 命の危機を脱したとはいえ、グレン先生はややバテ気味の様子だが。

 

「……というか何しに来たんですか先生?」

「あ?決まってんだろ。ルミアとリィエルを連れ戻しに来たんだよ」

 

 は?

 

「ルミアは分かりますが、なんでリィエルもですか?アイツがなにしでかしたか忘れたんですか?」

「アイツは『勘違い』をしてんだよ。で、ちょっと魔が差しちゃってつい、こんなオイタやらかしちまっただけだ。それを正して連れ戻す。…それが二年前、アイツを拾った俺の責任だ」

 

 責任、ね。

 

「……リィエルが勘違いしたということは、リィエル本人に自分の正体を伝えていないようですね」

「っ!?知ってたのか!?」

「薄々感づいてはいました。武器錬成の際に使用する術式、レイフォードという姓、そしてリィエルという名前の意味……あの男と交流のあったオレが気付かないとでも?」

 

 思った通りだ。

 リィエルの素性が露見すれば、良くて無期封印刑か、悪くて魔術実験用のモルモットとして扱われる。だから二年前、アルベルトと先生は事実を改竄隠滅した、と。

 

「一応言っておきますと、この事はイヴには言ってませんよ」

「そ、そうか。事情をわかっているのなら話が早い。リィエルのこと「ですがそれがどうしました?」……は?」

「それがどうしたと言ったんです。リィエルがあの男に関わりがあるとしても、あくまでも他人。オレには関係ありません」

「か、関係ないって…仮にも仲間だろ」

 

 仲間。仲間、ね。

 意味は知っているが………。

 

「仲間だの同士だの、そんな言葉を並べておけばオレも説得に回るとでも思ったのですか?第一、『兄貴』がいる今、あの馬鹿が先生の言葉に耳を貸すとは思えません」

 

 今まで、先生を『兄』と認識していたから何とかなったものの、宿主をその自称リィエルの兄貴に乗り換えたことで、もうその認識がなくなった今……

 

「アルベルトと同じこと言いやがって……無理矢理にでも聞かせるんだよッ!じゃねえと…アイツが、あまりにも哀れ過ぎるじゃねえか……ッ!」

「甘いですね。余計な情けで怪我をするのは自分だけじゃないというのに」

 

 そもそも先生がリィエルに魔術罠を仕込むことを止めなければ、斬られる前にリィエルを無力化だってできた。裏切り行為を未然に防ぐことだってできたはずだ。

 喉奥から搾り出されるようなグレン先生の言葉を、オレはバッサリと切り捨てる。

 

「リィエルに肩入れするのはあの二人への負い目ですか?それともさっき言っていたリィエルに対する責任感から?逃げた先生には似合いませんね」

「!」

「身勝手な都合で今まで一緒に戦ってきた仲間を捨てて逃げた。今回のリィエルの裏切りも、先生がアイツの前から去った事が原因です。違いますか?」

「そ、それは……」

 

 オレの容赦のない指摘に口ごもるグレン先生に、更なる追い打ちをかける。

 

「それと、シオンのことをオレに話すつもりあったんですか?」

「!?い、いやあの…話すタイミングが――」

「アルベルトからオレのことを聞いた後、話す機会はいくらでもあったと思いますが」

「っ……」

「仲間だ、責任だ……口先だけのクズの言葉があまりにも薄っぺらくて、まったく話になりませんよ」

「………」

 

 最後まで責任感のある奴と、何もかも投げ出した奴の言葉、どちらの方が説得力があるか明白だ。だがその上でオレは敢えて先生に問う。

 

「もう一度聞くグレン=レーダス。どうしてリィエルも連れ戻したい?」

 

 数秒間の沈黙の末、グレン先生は………。

 

「…………それは、俺があいつの教師だからだ」

「………」

「わかってるよ。俺は口先だけは達者なクズだ。だけど今の俺はあいつらの教師でもある……そしてリィエルも今は俺の生徒なんだ。あいつらの中に交ぜちまったせいで…あいつらにとってもリィエルは必要になっちまったんだ。それを今さら、奪うなんて残酷なこと、あいつらを泣かせる真似だけは絶対にしたくねぇ………シオンのことを黙っていてすまなかった。気にいらないなら、俺を好きなだけぶん殴ればいい……だけど、どうか俺を連れて行ってくれ……」

 

 頼む、とグレン先生はいつになく真摯な表情で深々と頭を下げ、オレに懇願する。

 アルベルトに視線を向けるが、当人は沈黙を貫いている。

 まさか、情に絆されたのか?

 ………まあいい。

 

「ついて来るのなら好きにしてください」

「っ!」

「ただし、リィエルを殺すかどうかはリィエル次第です。オレにそれ以上を望まないように」

「…ああ、それでいい」

 

 さて、余計なのがついてきたがそろそろ突入するか。

 

 

「つーか、なんでこんなでかい湖で集合なんだよ?白金魔導研究所とは道が違うぞ」

「「……」」

 

 オレとアルベルトは揃って、グレン先生に冷めた視線を送った。

 

「な、何だよ?」

「阿呆か、貴様は。白金魔導研究所はあくまで帝国の公的機関だ。誘拐した王女など連れ込んでみろ。一発で露見するだろうが」

「ぐ…。そ、そんなん分かってるよ!言ってみただけだ!」

「どうだかな」

 

 絶対に分かってなかったな。 

 

「じゃ、じゃあ、どうやって居場所が分かるんだよ」

「簡単な話です。既にバークスの秘密の地下研究所を突き止めてたんです」

「は?突き止めた?いつ?」

「昨日の自由時間の間に使い魔を使って」

「使い魔を、って………この広い島でよく見つけられたな」

「探すのはそう難しくありませんでした。バークスは腐っても研究者、研究所に流れる資金の齟齬から分かる金額、個人用の研究所を勝手に造ったと考えるのが自然です。しかも人目につかないようにするなら、必ず地下に設置します」

「いや、地下なら余計見つけるの難しい筈だろ」

「お前は本当に窮地に陥らないと頭が冴えない男だな」

 

 呆れたのか、アルベルトの眉が少し吊り上がっている。

 

「………先生、バークスの研究分野が特殊な環境を必要としている事は知っていますよね?」

「そ、そりゃあな…他の研究所と同様に土地に通う霊脈なんかもそうだが、白金術は特に水が必要で…そうか!」

「白金魔導研究所と同じく豊富な生命マナが必要になる以上、建てる場所の立地条件も限られます。当然、この場合は島の中央にある水の豊富な湖から地下水路を引くことになります。豊富な水がある湖にあたりをつければいいだけですし、あとは大規模な水路を用意出来る場所、土地の高低差等の条件を満たす場所に水生生物型の使い魔を潜らせて、不自然な水の流れを辿ってみたら簡単に見つかりました」

「マジかよ。お前ビーチバレー片手間にそこまで突き止めちまったのか。じゃあ、この湖にその秘密の研究所に繋がる地下水路の入り口があるってわけか」

「ふん、ようやく理解したか。愚鈍なのは相変わらずだ」

「ぐっ…悪かったな」

 

 研究分野の性質上、バークスの秘密研究所には必ず地下水路が必要になる。別に樹海の何処かに魔術的な手段で厳重に隠されているであろう入り口から、ご丁寧に進入する必要は無い。研究所内に通じている水路から進入すればいい。

 エレノアに仕込んでおいた魔力信号も、その研究所から発せられていることが確認できている。

 

「既に内部の構造は把握していますが、その最中にかなりの数の生き物の反応を感知しました」

「生き物?魔獣か?」

「それについて説明する時間がないので、自分の目で確かめてください」

「おい」

「いずれにしろ、障害があると事前にわかっていればいい」

 

 他にも色々見つけたが、今は説明を省く。

 

「それから、さっき研究所内に潜ませておいた使い魔が気になるやり取りを拾いました」

「気になる会話?」

「一応会話の内容を魔導器に保存しています」

 

 魔導器を操作し、録音した会話の一部を再生する。

 

 

『ほう!その娘が例の『感応増幅者』か!ご苦労だった!』

『バークスさん…………やっぱり……』

 

「ルミア!」

「静かにしろグレン。会話が聞こえん」

「わ、悪い」

 

『私のような優れた魔術師は、さらに上の位階を目指さなければならぬのだ。ゆえに私は倫理だの、生命の尊厳だのとうるさい帝国を見限り、天の智慧研究会に鞍替えする――――貴様を利用したとある儀式魔術の成功を手土産にな!それだけよ!』

『そんな…………バークスさん、天の智慧研究会に近づくなんて…………あんな邪悪な組織に肩入れするなんて、やめてください!あなたの優れた才覚はそんなところで使われるべきものではないはず…………ッ!』

『くくく…………これは、傑作だ。何も知らぬのだな、貴様は…………こんな滑稽で愉快なことがあろうか…ッ!ふはははははははは―――ッ!』

『…バークスさん?』

『ルミア=ティンジェル……と言ったか。王室の血を引きながら放逐され、廃嫡された哀れな異能の娘よ…………貴様、なぜ帝国王室の家系に”女”が不自然なまでに多いか知っているか?』

『何を…』

『貴様ら王室の血族で異能が発現した者…………貴様で何人目になると思う? まさか自分一人だけだと思ってはいまいな?』

『……えっ!?』

『天の智慧研究会が邪悪?くっくっくっ……私に言わせれば、貴様ら帝国王家の方がよほど邪悪で汚らわしいわ!反吐が出る!仮初めにもそんな呪われた一族にかつて忠誠を誓わされていたなど、我が身を切り刻んでやりたくなってくるわ!そんな薄汚れた血の女王に統治される帝国の行く末など、わかりきったもの…………そのような国、早々に滅ぼし、真に優れた魔術師達――――天の智慧研究会が実権を握って、愚かな民衆を管理してやるべきだと思わぬかね?ん?』

『やめてください。私を侮辱することは構いません。ですが…………この国のために、人々のために、日々身を粉にして尽くしているお母さんのことを悪く言うことだけは…………絶対に許しません』

『…ふん、気に食わない目だ。貴様にはどうやら"教育"が必要のよう――――』

『バークス様。彼女は儀式に必要なことは承知のはず。余計な傷をつけて重要な儀式に支障をきたすようなら、入会拒否だけの処分ではすみませんわよ?』

『わ、わかっておるエレノア殿……』

 

 ここで会話が終わる。

 

「以上です」

「……あいつら、ルミアを使ってなにかロクでもねえこと始めるつもりみてえだ」

「バークスが言っていたことに色々気になるところがあるが、王女の救出を急いだ方が良いな。バークスは典型的な異能差別主義者、用の済んだ彼女に何をするかわからん」

「ならとっとと中に突入すんぞ」

「こうやって先生への細かい説明で時間を無駄にしてますがね」

「うっ……」

「まったくだな」

「お前ら本当に言いたい放題だな!」

 

 

 オレ達は【エア・スクリーン】で周囲に球体状の空気の膜を張り、湖の中へと潜る。

 湖の底にあった出入口の横穴を暫くの間進んでいき、やがて不自然に開けた場所に出た。

 四方は明らかに人工的に石垣を並べて作られた壁。上へ上がれば貯水庫のような場所に入る。

 

「ここから先にさっき言った生き物がいるので注意を、特にグレン先生」

「ちょ、なんで俺を名指し?」

「いや、この中で先生が一番弱いので」

「し、心配すんなよ。こっちはちゃんと武器を持ってきてるし」

「持って来たのは俺だがな」

 

 アルベルトと先生の軽口を聞き流しながら浮上する。

 

 周囲を見渡すと、使い魔との視覚同調で見た通り、そこは貯水庫のような場所だった。オレ達が今やってきた、一際大きなプールを中心に、水路と水路を挟む通路が、大小様々なプールとプールを繋ぎ、延々と迷路のように複雑に絡み合っている。所々に水生系の樹木が林立し、あちこちにヒカリゴケが群生しているその様は、白金魔導研究所の風景と酷似していた。

 

 と、確かこの辺りに……。

 

「あった」

「あ?なにがあったんだキヨト?」

「島に来ていた人間主義者達が消息不明なの伝えましたよね?見つけました」

「えっ」

 

 樹木の下に転がっていたそれらは人骨だった。白骨化してそれ程時間が経っていないためか風化は進んでいなく、獣のようなものに噛み砕かれた形跡がくっきり残っている。

 ボロボロになった布の切れ端も辺りに散らばっていて、樹木に引っかかっている布には、『研究所を閉鎖しろ!』という文字がでかでかと書かれていた。

 

「おい、これって……」

「骨の状態から見て、どうやらバークスは連中を殺すだけじゃ飽き足らず、ここにいる獣達の餌にしていたみたいですね」

「なんだよ。それ………」

「惨いことをするな」

 

 先生とアルベルトは嫌悪感を隠さない。

 

「なんで…コイツらはただ抗議をしに来ただけなんだろ?なのになんでこんな目に…」

「単純に、バークスは普通の人間を家畜としか見ていないんでしょう。さっき聞かせた録音の内容でもわかる通り、奴の本性は無駄にプライドの高い自惚れ屋です。天の智慧研究会の連中同様、魔術と言う強大な力を扱える自分は選ばれた存在で、天から与えられた『特権』だと捉えているんでしょう。バークス自身、その特権を振りかざしているだけ、という認識しているかと」

 

 魔術は強固な社会的地位を確立する後ろ盾になる。この国ではそれが伝統になっている。それもある意味『特権』。それだけじゃ満足できない奴は、今度は天の智慧研究会の掲げる『特権』を振りかざし、多くの悲劇を生む。

 そうなると特権なんてものは、人の精神を腐敗させる最悪の毒だ。

 天の智慧研究会だけの話じゃない。この国の魔術師たちは何十世代にもわたってそれに浸りきっている。自分を正当化し、他人を責めることは、彼らの本能になっているのだ。

 

「要するに、バークスみたいな外道魔術師は、特権と人の皮を被った野獣に過ぎません。知識はあっても教養が、自尊心はあっても自制心がありません。だからこういう事も平然とやる」

「……随分と尖った見解だな。野獣と言えば、そろそろ来るぞ」

「え?」

 

 突然グレン先生の目の前の水路から大量の水が巻き上げられ、盛大な水柱がそびえ立った。

 

「どぉわぁああああ――ッ!?なんだぁああああ――ッ!?」

 

 水柱の中から巨大な影が現れ、先生の前に立ちはだかる。

 そのシルエットは一言で表せば、蟹だった。

 人の倍以上の身の丈を持つ、冗談のような巨大な蟹。

 川辺や磯辺で見かける普通の蟹と決定的に違う点は、通常、蟹のハサミは左右の一対だけだが、その巨大な蟹は三対もの、いかにも凶悪そうなハサミを持っているところだ。

 

「何、この生物の進化過程構造をガン無視しちゃった、クリーチャーッ!?」

 

 その巨体に見合わぬ俊敏な動作で、蟹が一斉にそのハサミの群れを振り下ろしてきた。

 蟹の狙いがすぐ目の前にいたグレン先生だったため、オレは横から攻撃を仕掛ける。

 

「《灯火》」

 

 指先から放った炎を蟹に当てる。

 着弾すると同時に解放された熱量が業火として顕現し、蟹を吞みこむ。

 やがて炎が収まった頃には、そこに蟹の丸焼きができあがっていた。

 

「一節詠唱の【ブレイズ・バースト】をこの至近距離で俺を巻き込まずに…」

「ん?【ブレイズ・バースト】じゃありませんよ」

「は?」

「いや、だから今のは【ブレイズ・バースト】じゃありません。【ファイア・トーチ】です」

「なに言ってんだキヨポン?【ファイア・トーチ】は火種くらいしか出せねえ初級呪文だぞ」

「基本的な術式の大部分はそのままに、魔力効率を上げればこれぐらいできますよ」

 

 魔力を物理的な作用エネルギー…すなわち、物理作用力へと変換する際、『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属がもっとも変換効率が良い。つまり、もっとも効率良く施術対象に損害を与えることができるわけだ。

 

「…確かに物理作用力理論や変換効率式さえ理解すれば、初等呪文でもやり方次第で人を殺せるわけだが……実際にやるか普通?」

「今この場で言う事ですか?」

 

 ここで教師面されても意味がないため適当に返し、ただ丸焼きになった蟹を見る。

 

「やっぱり合成魔獣か……」

「ああ。その昔、軍事用に研究されていた合成魔獣だろう。合成魔獣の兵器利用に関する研究は現在では凍結・禁止されているのだが…昔の研究成果が残っていたのか、あるいはバークス=ブラウモンが禁じられた合成魔獣兵器の研究を続けていたのか……」

「どっちにしても、思った通りバークスは色々とやらかしているな」

 

 まあ、これで例の作戦に必要な要素が揃ったわけだが。

 

「ってちょっと待てよ。さっきキヨポンが内部にかなりの数の生き物がいるって言ってたよな?てことは……」

 

 グレン先生がそう言った瞬間、この区画の、あちこちで水柱が上がった。

 

「ですよねー」

 

 蟹だけではない。巨大な烏賊、半魚人のような化け物、ゼリーの塊のような不定形生物…多種多様な怪物が次から次へと姿を現し始める。

 そのどれもこれもが、どこか歪な姿の出来損ないだった。

 

「……キヨト。コイツらがいることを事前に把握していたのなら対策ぐらい考えているだろうな」

「ああ。無いわけでもない。アイツらを使うことを許可してくれたらな」

「は?アイツら?」

「………いいだろう。使え」

 

 アルベルトからの許可を貰い、オレは呪文を詠唱する。

 

「《お前たち・来い》」

 

 召喚【コール・ファミリア】を二節詠唱で、オレの周りの空間が揺らぐ。

 虚空に開かれた門から、無数の魔獣達が出てきて、咆哮を挙げた。

 正確には、ホワイトルームにいた頃にオレが造り出した合成魔獣だ。

 

 

 にじり寄って来ていた怪物達が、現れたオレの召喚獣達を警戒してか、動きを止めて威嚇するような動作を取る。対するオレの召喚獣も負けじと威嚇する。

 

 

 両者睨み合いが続く中、

 

「蹴散らせ」

 

 オレの合図と同時に、召喚獣達は各々怪物達に向かって飛び出した。

 

 

♢♢

 

「……っく…ぁ…ぅあああ…あッ!?」

 

 リィエルによってバークスの研究所に連れて来られたルミアは苦悶の声を上げた。

 鎖付きの手枷で吊られたルミアの身体を、描かれたルーンの術式に沿って膨大な魔力が疾走しているのだ。それは激しい苦痛となって、ルミアを責め立てる。

 

「ふは、ふはははッ!いいぞ…いいぞぉ……ッ!?」

 

 だが、そんなルミアの苦痛などまるで意に介さず、バークスはモノリス型魔導演算器に霊脈を通して送られてくる大量のデータの解析に夢中だった。

 

 ルミアの足元に展開された法陣に直結した、別の巨大な法陣。

 その中には、氷晶石柱中に封じられた三つの素体が正三角形の頂点を位置取るような配置で据えられている。

 現在、その氷晶石柱の表面上を光のルーン文字が無数に疾走しており、中身がよく見えない状態ではあるが…辛うじて見える影から、封じられてる素体はまるで少女の姿をしているようであった。

 

「流石はバークスさん、お見事な腕前ですね」

 

 青髪の青年は表向きバークスを褒めちぎりながら、内心冷め切っていた。

 

(ふん。かつて俺が作った術式を丸々譲渡したんだ…このくらいできて当然だというのに、何を偉そうに浮かれているんだ、この男は……)

 

 青年は周囲の設備を見渡しながら、さらに物思う。

 

(まぁ、いい…ここの設備は確かにこの男のものだしね、精々利用させて貰うさ…どうせ、この男は俺の踏み台なんだ。今だけは勝利の美酒に酔えばいい……)

 

 そして、青年はリィエルに眼を向ける。

 リィエルは部屋の隅でルミアに背を向けていた。固く握り締めたその小さな手や肩が、かたかたと震えている。ルミアが苦悶の声を上げるつど、その弱々しい背中がびくりと震える。儀式の様子など見向きもしていなかった。

 

(はぁ、やれやれ…今は、これはこれで好都合なんだが…こんな調子じゃ、この先どこまで使い物になるかわからないな…我が『妹』ながら情けない……)

 

 軽く嘆息しながら、青年は儀式の中央に向きなおる。

 その先にあるのは、先刻、儀式の完了した三体の氷晶石柱漬けの素体だ。

 その三体の素体を、青年は慈しむような目で細めた。

 

(でも、それもじきに解決だ。あと少しで俺だけの『力』が手に入る…バークスごときに手柄を取られてたまるか……ッ!)

 

 青年が歪んだ笑みをうっすらと口元に浮かべた…その時だ。

 遠くで、地鳴りのような音が突然、響き渡った。

 

「何事だ!?」

 

 作業を止め、バークスが怒声を上げる。

 すると、この儀式部屋の入り口にエレノアの姿が現れた。

 

「今、遠見の魔術で確認しました……侵入者ですわ」

「何だと!?馬鹿な!どうしてここが割れた!?そんなはずは――」

「……はて?」

 

 すると何を思ったか、エレノアはなぜか自分の身体のあちこちに指を這わせ始める。

 そして、後頭部に触れた時、その指を止めて。

 

「あらあらまぁ…障壁で押さえつけられたあの時ですか…油断しましたわ」

 

 くすり、と。微笑みながらも、頬から汗を流すエレノア。

 

「………誘い込まれるだけでなく、一杯食わされてしまいましたか」

「そ、それは一体、そういうことだ!?エレノア殿ッ!」

「さぁ、どういうことでしょうか?とにかく敵戦力は三名。帝国宮廷魔導士団、特務分室のエース、アルベルト様と、同じく特務分室のキヨト様、そして、帝国魔術学院講師、グレン様ですわ」

「……ッ!?」

「……先、生……?」

「グレン…だと?まさか、生きていたのか……?」

 

 グレンという名前に、リィエルとルミア、そして青髪の青年が反応する。

 

「……先生……ッ!よかった!やっぱり――」

 

 グレンが生きている。そのことに驚くもルミアの表情は明るくなっていく。

 

「まだ、儀式の完遂まで時間がかかりますわ。それまでにこの部屋に至られると、儀式を台無しにされる恐れがあります。いかがいたしましょうか?」

「くぅ…おのれぇ、政府の犬共め……ッ!」

 

 バークスがわなわなと震えながら、傍らのモノリス型魔導演算器に取り縋り、呪文を唱えながら指を動かし、操作を始める。

 

 石板状のモノリスの表面を、次々とルーン文字が走っていく……

 

「いいだろう!情報によると、奴らがいるのは、まだこの中央制御室からは程遠い第四区画――あそこならば、対処は容易い!私の作品で蹴散らしてくれるわ!」

 

 バークスは、矢次ぎ早に、モノリスの表面上にルーンを描いていく。

 光の文字となって刻まれたルーンを切っ掛けに、表面に様々なルーンが一気に羅列し、モノリス表面上を上から下へ、左から右へとせわしなく流れていった。

 

「作品、とは?」

「ふふふ、あの区画には私が作った無数の合成魔獣が封印されているのだよ。その合成魔獣どもの封印を解き、連中にけしかけてくれるわ」

 

 歪んだ嘲笑を浮かべ、バークスが最後の操作をする。

 

「これでいい…さぁ、行け…私の最高傑作達……ッ!」

 

 己の勝利を何一つ疑っていないそんなバークスに、流石にエレノアも小さく嘆息する。

 

「僭越ながら、そんなもので彼ら三人…特にキヨト様が止まるとは、とても思えませんが」

「そんなもの、だと……?」

 

 バークスの顔がみるみるうちに怒気に染まっていく。

 

「エレノア殿…貴様、私の合成魔獣作製の腕を疑っておるのか?」

「いえ、そうではありませんが…キヨト様は『ホワイトルームの最高傑作』と呼ばれる程の天才。人並み外れた能力を有していて、並の魔術師では太刀打ちできません。一方、アルベルト様は帝国宮廷魔導士団のエース。帝国軍において最高クラスの魔導士ですわ。それに、グレン様とて元・魔導士……」

「ふん。何が魔導士だ。魔導士など所詮、魔術を戦にしか使えぬ低能共ではないか。大体なんなのだその『ホワイトルームの最高傑作』とは?どうせ呼び名が御大層なだけの思い上がった若造だろう。真の賢者たる魔術師の敵ではないわ」

「(無知というのも考えものですわね)」

「まぁ、そこで見ているがいい」

「はぁ…それでは、ゆるりと拝見させていただきますわ」

 

 にっこりと。

 

 エレノアはまるで見世物を見物するかのように、無邪気に微笑んだ。





【ファイア・トーチ】のくだりは、昔の漫画を参考にしました。

「メ○ゾーマではない。○ラだ」
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