ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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キヨポンキヨポン。
3年生編のキヨポンヤバい。


変化の兆し

 グレン先生の授業はオレから見ても質の高いものであった。

 クラスが究めたと思い込んでいた【ショック・ボルト】を教材にした術式構造と呪文の基礎に関する説明が教科書の内容よりも理路整然としていて、非常に理解しやすい。あと文字や記号、図形もちゃんと奇麗に書いてくれる。

 

「確かに魔力操作のセンスさえあれば実践することは難しくない。だが、詠唱事故による暴発の危険性は最低限理解しておけ。軽々しく簡単なんて口にすんな。舐めてるといつか事故って死ぬぞ」

 

 真剣な表情を生徒達に向けるグレン先生。昨日まで怠惰の限りを尽くしていたとは思えないほどの変わり身だ。

 

「最後にここが一番重要なんだが……説明の通り、魔力の消費効率では一節詠唱は三節詠唱に絶対勝てん。だから無駄のない魔術行使と言う観点では三節がやはりベストだ。だから俺はお前らには三節詠唱を強く薦める。別に俺が一節詠唱できないから悔しくて言ってるんじゃないぞ。本当だぞ。本当だからな?」

 

 なんだかんだ言って悔しいのか。

 

「とにかくだ。将来『魔術師』を名乗りたかったら自分に足らん物はなんなのかよく考えておくことだな。まぁ、お薦めはせんよ。こんな、くっだらねー趣味に人生費やすくらいなら、他によっぽど有意義な人生があるはずだしな……さて、もう時間だから今日はここまでだ。じゃーな」

 

 そう言ってグレンが教室から退室する。クラスメイト達は一斉に板書をノートに 取り始めた。皆、何かに取り憑かれているかのような勢いだった。

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 グレン先生の姿が見えなくなってから、システィーナが頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「まさか、あいつにこんな授業ができるなんて……」

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

 左隣に座るルミアも目を丸くしていた。

 

「認めたくないけど……人間としては最悪だけど……講師としては本当にすごい奴だわ。……人間としては最悪だけど!!」

「あ、あはは、二回も言わなくったって……」

「……システィーナから見て、他の講師がやる授業より凄いのか?」

 

 実質、授業を受けること自体今日が初めてのオレはシスティーナに確認する。

 

「……正直言うとそうね。他の先生達はあそこまで細かい説明できていなかったわ。自己流の習得法や実践法をひけらかすばかりで、肝心の魔術文法と魔術公式にはほとんど触れていないって感じね」

「ええ…大丈夫なのかここ」

 

 由緒正しい学院の正規の講師がそんなんで良いのか。研鑽という意味を辞書で改めて確認することをお勧めする。

 

「…オレの二組への編入はある意味幸運だったってことか」

「あ、あはは……そう、なのかな。あっ、幸運と言えばキヨト君が【ショック・ボルト】の問題を言い当てたね」

「そうよね。あれは本当にビックリしたわ」

「…たまたまだ」

「えー本当に?」

「ああ。右に曲がるなんて知らなかった」

 

 知らなかったという点に関して、噓は言っていない。

 

「ふーん…キヨト君あんまり驚いた感じじゃなかったからもしかしてと思ったんだけど」

 

 なんかルミアから疑われてる。

 

「いや、ちゃんと驚いてた。ただ変にリアクション取ると先生が調子に乗りそうだと思ってやらなかっただけだ」

「確かにあいつ誰も答えれなかった時なんて物凄く調子に乗ってたわね!それに私のことを白猫なんて呼ぶし、ホント失礼しちゃうわ!私は猫じゃないっての!」

「講師泣かせや説教女神なんかよりはマシだと思うが…」

「何か言った?」

「いえ……別になにも」

 

 こわっ。

 システィーナの前で白猫とか呼ぶのはやめておいた方がいいな。

 そこはグレン先生の特権ということにしておく。

 

「それはそうと、あの先生なんで突然真面目に授業する気になったんだろうな?」

「そういえば、昨日はあんなこと言っていたのに…」

「んーなんでだろうねー?」

「ルミア……貴女、どうしてそんなに嬉しそうなの? なんか笑みがこぼれてるわよ?」

「ふふ、そうかな?」

「そうよ。なんかかつてないほど、ごきげんじゃない。何かあったの?」

「えへへ、なんでもないよー?」

 

 のらりくらりとかわして嬉しそうな微笑みを崩さない様子からして、絶対ルミアが先生に何か言ったな。

 

 

♢♢

 

 それからというもの、ダメ講師グレンはすっかり人気者となっていた。

 グレン先生の授業の話を聞きつけたのか、他所のクラスの生徒達も空いている時間に二組の授業に潜り込んだりして、教室で空いている席は日を追うごとに他のクラスからの飛び入り参加者で埋まっていく。

 九日経つ頃には今や大盛況で立ち見の生徒はおろか、若手の講師ですら聞きに来るほどの人気っぷりだ。

 そんな状況下で、当の本人は今日も面倒臭そうにしながらも造詣の深い授業を行っていた。

 本日の内容は『汎用魔術』と『固有魔術』について。

 

「今日はお前らが 誰でも扱えるからと馬鹿にしがちな汎用魔術の 術式を詳しく分析してみたが、固有魔術と比較して汎用魔術がいかに緻密に高精度に完成された術なのか理解できたかと思う。そりゃ当然だ。【ショック・ボルト】みたいな初等の汎用魔術一つをとっても、お前らの何百倍も優秀な何百人もの魔術師達が何百年もかけて、少しずつ改良・洗練させてきた代物なんだからな。そんな偉大なる術式様に向かって、やれ独創性がないだの、古臭いだの……もうね、お前らアホかと」

 

 同感だな。

 基礎をしっかり理解せず、安易に先を急いだり、基礎を軽んじるのは得策ではない。

 基礎の積み重ねこそが応用力に繋がるものだ。

 オレには才能というものがない。

 才能とは物事を巧みになしうる生まれつきの能力であり、突出している個性の一部だ。1から10やって11の事を理解できる人種を凡人と呼ぶに対し、才能で1やれば11を導ける人種を天才と呼ぶ。

 凡人と天才の違いがそうだとしたら、間違いなくオレは前者だ。

 だから凡人のオレは基礎を1から学び積み重ねていかないとその先に進めないため、固有魔術こそ至高だという考えには同意しかねる。

 

「お前らは個々の魔術師にオンリーワンな術である固有魔術をとてつもなく神聖視しているが、実は固有魔術を作るなんて全然、たいしたことじゃねーんだ。魔術師としちゃ三流の俺だって余裕で作れる。じゃ、固有魔術の何が大変かと言えば、お前らの何百倍も優秀な何百人もの魔術師達が何百年もかけてやっと完成させた汎用魔術に対し、固有魔術は自分たった一人で術式を組み上げて、かつ、それら汎用魔術の完成度を何らかの形で越えてなければならないという一点に尽きる。じゃねーと固有魔術なんて使う意味がない」

 

 それ絶対余程の天才じゃないと無理だ。

 

「今日見たとおり、お前らが小馬鹿にした汎用魔術はとっくに隙も改良の余地もない完成形だ。並大抵のことじゃ、固有魔術は汎用魔術の劣化レプリカにしかならんぜ?俺も昔やってみたけど、ロクなものができんかったから馬鹿馬鹿しくなってやめたわ。はっはっは、時間の盛大な無駄遣いだった」

 

 へえ、グレン先生が作った固有魔術か。どんなのか少し気になるな。

 

「この領域の話になってくると、センスとか才能とかが問われるな。だが、それでも先達が完成させた汎用魔術の式をじっくりと追っていくことには意味がある。自身の術式構築力を高める意味でも、ネタ被りを避ける意味でもな。お前らが将来、自分だけの固有魔術を作りたいなんて思っているなら、なおさらだ。ま、そんな屁の突っ張りにもならん自己満足に時間費やすくらいなら他に有意義な人生の過ごし方がある気がするがな…」

 

 と、その時、本日の講義時間の終了を伝える鐘が、遠くで鳴り響いた。

 

「……時間だな。じゃ、今日はこれまで。あー、疲れた」

 

 授業終了を宣言するとクラスに弛緩した空気が蔓延し始める。

 グレン先生は黒板消しをつかんで、黒板に書かれた術式や解説をおもむろに消し始める。

 

「あ、先生待って!まだ消さないで下さい。私、まだ板書取ってないんです!」

 

 システィーナが手を挙げる。

 すると、グレン先生は露骨にニヤリと意地悪く笑い、腕が分身する勢いで黒板を消し始めた。

 クラスのあちこちから悲鳴が上がる。

 

「ふはははははははは――ッ!もう半分近く消えたぞぉ!?ザマミロ!?」

「子供ですか!?貴方はッ!」

 

 キイイイイイ!

 

「ぎゃああああ!?」

 

 黒板を消している最中に爪で黒板を引っかいてしまったようで、不快音にやられたのか耳を押さえて悶えるグレン先生。意地悪して勝手に自滅するとは…何とも間抜けな。

 

 聴くのに夢中で手を動かすことを怠っていたシスティーナが頭を抱える。

 

「もう…ホントあのねじ曲がった性格だけはなんとかならないの」

「あはは、板書は私が取ってあるから後で見せてあげるね?あっ、キヨト君は大丈夫?」

「問題ない。先生が消す直前に書き終えた」

 

 親友だけじゃなくオレにも気配りできるとは…一部で聖女だの大天使ルミアと呼ばれるだけのことはある。

 

「あっホントだ。全部書いてるね。字も丁寧だし」

 

 あの、ルミアさん?オレの板書を見るのは別に構いませんが、近いです。

 おかげでクラス内の男子共の鋭い視線がこっちに向いています。

 

「あ、あの…キヨト君」

「ん?」

 

 右側の席からリンに声をかけられた。

 

「どうした?」

「えっと…私も板書まだ半分も書いてなくて。その、もしよかったらだけど…見せてくれないかな?」

 

 リンも聞いているのに夢中だったようだ。

 

「駄目、かな?」

「いや。問題ない」

 

 ここで断る理由もないしな。

 

「あの…リンの後でもいいので私にも見せてほしいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 オレの真後ろの席からもノートを見せてほしいとお願いされた。

 サラリとした紫色の長髪におっとりとした感じの女子生徒、名前は確か……テレサ=レイディだったか。よく隣のウェンディと仲よさそうに話しているのを見かける。

 というかウェンディに見せて貰えば…あっ、ウェンディも板書取れていなかったのか。恨めしそうに黒板を見る様子から大体察した。

 

「悪いキヨポン、俺にも写させてくれ!」

「ゴメンキヨト君、僕も」

 

 大柄な男子生徒カッシュ=ウィンガーと、女顔の小柄な男子生徒セシル=クレイトンからも頼られた。

 

「ってなんでカッシュはキヨポン呼びなんだ…」

「だってなんかあだ名呼びの方がなんか親しみやすいじゃんか」

「親しみやすいか?オレには間抜けっぽく聞こえるが」

「そ、そんなこと…ないと思うよ」

「ええ、私はとても可愛いらしいと思いますよ」

 

 テレサの言う可愛いは褒め言葉なんだろうが、男のオレにはなんか複雑だ。

 

「…ふふっ」

「どうしたルミア?急に笑って」

「ん?キヨト君、クラスの皆とちゃんとお話できてるなと思って…ずっと私とシスティとしか話していなかったから」

 

 確かに…オレはシスティーナとルミアとしか殆ど会話をしたことがない。

 編入したてということで、カッシュも含め何人かがいろいろ話しかけてくれたがどれも上手く返すことができず、次第に話しかけてくれる人が少なくなってしまい、こうして今現在に至る。

 

…正直まだ同年代とどう接すればいいのか苦心しているが。

 

「言われてみればこうしてちゃんと話すのは初めてだね」

「あー…最初の頃どう接すれば良いか分かんなくてそれっきりだったな」

「なんか距離を置いた感じになってごめん」

「あっ、いや…」

「…まあそれはそれとしてだ。大天使のルミアちゃんとお近づきなんていい御身分だなぁ。あぁん?」

「は?」

 

 カッシュはいったい何を言っているんだ。しかも態度がその辺のチンピラみたいになっているし。

 

「しかもクラスの美少女達に頼られるなんてなんて羨ましい…」

「そうだそうだ!」

「陰キャとはいえイケメンは敵だ!」

 

 なんか他の男子まで便乗しだしたぞ。

 

「ズルいぞキヨポン!」

「そこの席代われキヨポン!」

「キヨポン!キヨポン!」

「「「「キヨポン!キヨポン!キヨポン!キヨポン!」」」」

「あの…あんまりそう連呼しないでくれないか」

 

 呼ばれ慣れていないのもあって凄く恥ずかしい。

 

「…なんかクラスの男子共がアホになってきてるような」

「あ、あはは…」

「あらあら」

「あわわわ…」

 

 嫉妬に狂う男子達(セシルとギイブルを除く)による謎のキヨポンコールに女子達が引いている。

 この事態を収拾させる為の打開策は…

 

「…なぁ、元はと言えばグレン先生があんなアホなことしなければ、こういう事態にならなかったんじゃないか?」

「「「確かに!」」」

「げっ」

 

 ちゃっかりキヨポンコールに紛れていたグレン先生に矛先が向く。

 

「そ、そうよ!こっちはまだ板書取っていないって言ったのに大人気ないですよ!」

「そうよそうよ!」

「書き直しを要求しますわ!」

「ハッ、嫌だよ!二回も書くなんて面倒臭え!」

「だったら板書終わる前に消すなよ!」

 

 システィーナを代表とする女子達(リンやルミアを除く)もグレン先生へのブーイングに参加する。

 

「うっせバーカバーカ、手を動かさないお前らが悪いっつーの!」

「馬鹿っていう人が馬鹿よ!この馬鹿講師!」

「ハッ、この天才で稀代の名講師、グレン=レーダス大先生様を馬鹿呼ばわりする奴がお馬鹿さんですぅ~」

「自分で言うんじゃねえよ腹立つな!」

 

 なんだこのレベルの低い争いは…

 振っておいてなんだがこれはひどい。

 

「やかましいぞ、グレン=レーダスッ!貴様、何、バカ騒ぎさせておるかッ!?」

 

 隣のクラス、一組の担当講師がクレームしに駆けつけるまでこのバカ騒ぎが続いた。

 

 

♢♢

 

 生徒達がすっかりと帰宅した放課後。グレンは一人学院東館の屋上バルコニーを囲う鉄柵に寄りかかり、閑散とした風景を遠目に眺めていた。

 ふと、グレンはこの学院に非常勤講師としてやって来てからの日々を思い出す。

 

『あっ、先生!本を運ぶの手伝いましょうか?』

 

 何故か妙になついてくる、子犬みたいなルミア。

 

『わ、私も手伝うわよ……ルミアだけに手伝わせるわけにもいかないでしょうが…ちょ、重い!?な、何よコレ!?アンタ、ルミアと私でどうしてこんなに扱い違うの!?この馬鹿講師覚えてなさいよ――ッ!?』

 

 逆に、妙につっかかってくる、生意気な子猫みたいなシスティーナ。

 

 いまだ若く、そして幼い彼女達は何をやってくれるのか、どう成長していくのか。その手助けをしてやりたくないと言えば……嘘になる。

 

「まぁ、なんつーか……」

 

 相変わらず魔術は嫌いだ。反吐が出る。こんなもの早くこの世からなくなるべきだ。この考えはきっとこれからも変わらないだろう。だが、こんな穏やかな日々は――

 

「悪くない……か」

 

 自分でも気づかずグレンは笑みを浮かべていた。

 

「おー、おー、夕日に向かって黄昏れちゃってまぁ、青春しているね」

「……いつからいたんだよ?セリカ」

 

 そこには、淑女然とした妙齢の金髪の美女、グレンの養母であるセリカ=アルフォネアがたたずんでいた。

 

「さあ、いつからだろうな? 先生からデキの悪い生徒に問題だ。当ててみな」

「アホか。魔力の波動もなければ、世界法則の変動もなかった。だったら、忍び足で来たに決まってる」

「おお、正解。あはは、こんな馬鹿馬鹿しいオチが皆、意外とわかんないんだな。特に世の中の神秘は全部魔術で説明できると信じきっちゃってるヤツに限ってね」

 

 グレンの即答に、セリカは満足そうに微笑み、真面目な表情をする。

 

「グレン、お前のクラスに『キヨト=タカミネ』と言う生徒がいるだろ?」

 

 その名前で思い出すのは一人の生徒しかいない。クラスで唯一の東方人で、明らかに他の生徒とは違う雰囲気を持っている生徒。

 

「ああ、確かにいるが……ソイツがどうした?」

「お前から見てどういう奴に見える?」

「どうって…」

 

 覇気が感じられずずっと無表情。地味な陰キャという感じだがイケメンという点だけは憎たらしい、それだけだ。他に見張る物はない。

 

「……実はそいつ編入の際、受けた筆記テストの全教科ぴったり五十点を取ったそうだ。百点満点中のだ」

「全教科ぴったり五十点?」

「あまり点数自体は高くなかったが、成績優秀者のフィーベルでさえ解けなかった正解率3パーセントの問題を証明式も含め完璧に解いていたんだよ。その代わり一番簡単な問題を何問か間違えている」

「は?なんだそりゃ、狙って点数を揃えたってのか?」

「そうとしか思えなくてな、私が本人に直接問いただしてみた」

「お前が?なんだって?」

「『偶然って怖いスね』と返された。本人曰く、故意にそんなことしたって得しないんだと。白々しいったらありゃしないが、それでも偶然だと言い張ってたよ」

「ええ…」

 

 訳が分からない。

 魔術を志す者のほとんどが、大なり小なり自己顕示欲の塊だ。普通の人間とは一線を画した自分、他者が持ちえない強大な力を持った自分というものに憧れ、他者に自分を大きく見せようとするものだ。それなら試験を受ける際も満点を取ろうとするはずだが…。

 

(なんなんだアイツ…?魔術師を単純に目指してるってわけじゃねえのか)

 

 思考を巡らせている間も、セリカの話は続いていく。明日からしばらく帝都である学会で学院を留守にすること、二組は明日授業があること。そして何より、二組の前任の講師ヒューイ=ルイセンが失踪したこと。

 

「一身上の都合で退職したというのは、一般生徒向けの話だ。そもそも、正式な手続きで退職するなら、代わりの講師が一カ月も用意できないなんて事態は起こらんよ」

「どーにも、きな臭い話になってきたな……」

「ま、近頃はこの近辺も何かと物騒だ。お前に心配はいらんと思うが、まあ私の留守中、気をつけてくれ」

「……ああ」

 

 グレンはなんとなく心に棘が刺さったような不安を抱いた。

 

「あ、やっぱりここにいた! 先生!」

 

 屋上の出入り口の扉が開かれ、もうすっかり見慣れてしまった、いつもの二人組が姿を見せた。片や笑顔で、片や仏頂面で。

 

「あれ、アルフォネア教授?ひょっとして、私達お邪魔しましたか?」

「いいや。私はもう上がるところだ。どうした? グレンに用か?」

 

 笑顔のルミアがグレンの前に歩み寄って、それにシスティーナが渋々続く。

 

「今日の授業で復習していたんですけど、どうしても先生に聞きたいことかあるって……システィが」

「ちょ、ちょっと!?それは言わないって約束でしょ!?裏切り者ッ!」

「ほーう?つまりなんだ?システィーチェ君。まさかまさか、君はこの天才で稀代の名講師、グレン=レーダス大先生様に何か質問があるとでも言うのかね?んー?」

「だからアンタにだけは聞きたくなかったのよ!後、私はシスティーナよ!いい加減覚えてよ⁉︎」

「なーんか覚えにくいから、やっぱ、お前は白猫でいいや」

「ああ、もう――っ!」

 

 やんややんやと騒ぎ立てる三人を、セリカはしばらくの間微笑ましく見守って、安堵したようにそっと屋上を後にした。

 

♢♢

 

 翌日。本来この日から五日間ほどは学院の講師たちがある魔術学会に揃って顔を出すため休校になるはずだった。だが前任の講師が微妙な時期に辞めてしまい、授業に遅れがでている二組はこの五日間も授業があるのだ。

 

 にもかかわらず…

 

「…………遅い!」

 

 今まで調子が良かったグレン先生が三十分ほど遅刻しているのだ。

 

「少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

 

 システィーナは久しぶりに怒り心頭の様子だ。

 

「でも、珍しいよね?最近、グレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 

 ルミアがその隣で首を傾げながら言った。

 まあ、今日がもともと休校日と言う事もあるから、もしかしたら休みと勘違いしているかも知れないな。

 

 そう思っていると.....

 

「ん?」

「?どうしたのキヨト君」

「いや、別に…」

 

 今感じたのは魔力の波動…学院の結界が干渉を受けたのか。

 

「悪い。少し席を外す」

「ちょっ!キヨト!一応今は授業中よ!どこ行こうってのよ」

「手洗いだ。すぐ戻る」

「まったく…早く戻って来なさいよね!」

「ああ」

 

 戻れたらな。

 オレは教室を出てすぐ、懐からあるものを出す。

 見た目は半割りの宝石…だがれっきとした遠隔通信の魔導器である。

 一粒の宝石を二つに割って魔術的処理を施したもので、この二つの宝石で音をやりとりして話が可能だ。

 呪文を唱え、この片割れを持っているもう一人にコールをかける。

 

 そして向こうが出てなにか口にする前に、オレは簡潔に述べた。

 

「――緊急事態だ。学院が襲撃を受けている」

 




原作でも配点を知らずに全教科五十点揃えてたキヨポン…ヤバいですね。
キヨポン要素にはやはり初期の点数揃えが必要と思い入れました。
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