ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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よう実のアニメ3期のオープニング映像でキヨポンの運のよさがゼロだったのには思わず笑いました。
二年生編をアニメ化するみたいですが色々大丈夫なんでしょうか


日常の崩壊

「あーあ、やっぱりダメな奴はダメなんだわ……よし、今日こそ一言言ってやるわ」

「あはは。今日こそ、じゃなくて、今日も、じゃないかな?システィ」

「細かいことはいいの!」

 

 不機嫌そうに頬杖をついてシスティーナは周囲を見渡した。

 元々、この教室には座席に余裕があったはずだ。だと言うのに今では満席御礼。立ち見で参加する生徒も教室の後方に多くいる。

 

「あいつ…最近、ホント人気出てきたわね」

「だって、先生の授業、凄くわかりやすいから。私達みたいな学士レベルの内容はもちろん、修士生レベルの高度な内容も平易に説明してくれるし、普通の講師なら当然と割り切って流してた箇所もちゃんと理論的に説明してくれるし」

「はぁ……なんか面白くないわね」

「ふふっ」

 

 見れば、ルミアが何やら訳知り顔でシスティーナをみて微笑んでいた。

 

「……何よ?ルミアったら」

「システィって、グレン先生がどんどん皆の人気者になっていくから寂しいんだよね?」

「な……何、言ってるのよ!?」

「だって、最初の頃、お小言とはいえ先生に話しかけていた人ってシスティだけだったでしょ?それが今では気軽に話しかけるようになったもの。なんだか先生が遠くに行っちゃったような気がするんだよね?」

「そ…そんなじゃないわよ‼︎ 私は…‼︎」

 

 バァン‼︎

 

 突然教室の扉が無造作に開かれた。

 

「あ、先生ったら、何考えてるんですか!?また遅刻ですよ!?もう…………え?」

 

 説教をくれてやろうと待ち構えていたシスティーナは、教室に入ってきた人物を見て言葉を失った。その人物は、グレンでもキヨトでもなかった。代わりに、教室に入ってきた見覚えのない二人の男がいた。

 

「あー、ここかー。いや、皆、勉強熱心ゴクローサマ!あ、君達の先生はね。今、ちょっと取り込んでるのさ。だから、オレ達が代わりにやって来たっつーこと。ヨロシク!」

 

 巫山戯た口調でそんなことを宣うチンピラに教室内がどよめく。誰が見ても怪しい不審人物二人組。何故このような輩が学院内に侵入しているのか、疑念を抱きながら正義感の強いシスティーナが立ち上がる。

 

「ちょっと貴方達、ここがアルザーノ帝国魔術学院だと理解してますか?部外者は立ち入り禁止ですよ?そもそもどうやって入ってきたんですか。門は守衛の方が立っているはずですよね?」

「あ〜、あの弱っちいのね。悪いけど、サクッとブッ殺しちゃったわ」

「は、あ……?」

 

 男の軽い殺人宣言にシスティーナは言葉を失いかけるが、すぐに肩を怒らせて言い返す。

 

「ふ、ふざけないで下さい!この学院で守衛を務めている方は戦闘訓練を受けた魔術師です! 貴方達みたいな人にそう簡単にやられるわけないし、この学院の結界は超一流と呼ばれる魔術師にだって破ることはできないんですよ!?」

「あの程度で戦闘訓練受けてまーす、とか言っちゃうの? へえ、天下の魔術学院も大したことないんだねー」

「ともかく、即刻出て行ってください!でなければ実力をもって排除します!」

「えー、ヤダー、排除されちゃう!怖ーい、助けてママー!」

「…っ、警告はしましたからね?」

 

 一向に出て行く気配を見せない男達に、システィーナは覚悟を決め、指先を男に向け――黒魔【ショック・ボルト】の呪文を唱えた。

 

「《雷精の──」

「《ズドン》」 

 

 ヒュン!と空気が切り裂かれる音が響く。刹那の時間に一条の閃光がシスティーナの頬を掠め、背後の壁に小さな穴が穿たれた。

 

「……え?」

「《ズドン》《ズドン》《ズドン》」

 

 呆けるシスティーナに男は三度魔術を放つ。それぞれ首、腰、肩を掠めて三つの閃光が駆け抜けた。目にも留まらぬ雷光の線。背後の壁に穿たれた四つの小さな穴。それら全てが男の使用した魔術の正体を物語っている。

 

「そんな……い、今のは……【ライトニング・ピアス】!?」

「へへっ よく知ってんじゃーんお前ら坊ちゃん嬢ちゃんは生で見た事ねーだろ?」

 

 黒魔【ライトニング・ピアス】。学生が手習う汎用魔術ではない、軍用の攻性呪文であり、殺傷性の高い危険な術だ。しかも巫山戯た言動の癖して男の詠唱は恐ろしく短く、術行使の技量の高さが窺えた。

 今まで目にする機会もなかった危険な魔術を間近で放たれたシスティーナは先の勢いは完全に萎み、恐怖のあまりその場に座り込んでしまった。

 

「さーて、煩いのが静かになったところで自己紹介しよっか。オレ達は俗に言うテロリストでーす。この学院はオレ達が占拠したのでー、今から君達は人質ね。大人しくしててねー? 逆らったら容赦なくブッ殺してくから」

 

 物騒な脅迫に教室内は静まり返る。突然の展開に理解が追いついていないのだ。だが時間が経てば嫌でも理解する。理解すれば必然、生徒達は一斉にパニックに陥り騒ぎ出す。 

 

「うるせぇ、黙れガキ共。殺すぞ」

 

 指先を頭上に向けて詠唱、放たれた一発の雷光が天井に穴を開ける。殺気を合わせた威嚇に生徒達は強制的に沈黙して恐怖に震え始めた。

 

「よーしよし、良い子だ。良い子ついでに訊きたいことがあるんだけどさ、こんなかでルミアちゃんって女の子いるかな?いたら返事してー?もしくは知ってる人は教えてー?」

 

 すると学院の生徒達は何故『ルミア』がここで出てきたのか全く分からなかった。

 

「んー……どれがルミアちゃんだ?」

 

 チンピラ男は面白そうに笑いながら学院の生徒達を眺めていた。

 

「君かな?」 

 

 男が声を掛けた生徒は、眼鏡を掛けた小柄な少女、リンだった。

 

「ち…違います…」

「あっそ、じゃどの子がルミアちゃんか知ってる?」

「…し…知りま…せん」

 

「ホント?俺ウソつき嫌いだよ?」

 

 男はリンに顔を近づけながら威圧をかけていると

 

「貴方達…ルミアって子をどうするつもりなの?」 

 

 システィーナは男達に質問していた。

 

「おお さっきの。何?お前ルミアちゃんを知ってるの?」 

「私の質問に答えなさい‼︎貴方達の目的は一体――――」

 

 システィーナは男達の目的を聞き出そうとすると、チンピラ男がそんなシスティーナに苛立ったのかシスティーナに指差しながら

 

「ウゼェよ、お前」

「え――」

「《ズド――」

 

 男が一節詠唱を唱えようとすると

 

「やめて下さい‼︎」

 

 集められた生徒達の中から大きな声が聞こえた。

 

「私がルミアです。他の生徒達に手を出すのはやめて下さい!」

「へえ……君がルミアちゃんなんだ。うん実は知ってた。最初から名乗り出るか我が身可愛さで教える奴が出るまで関係ない奴を一人ずつ殺ってくゲームだったんだけどね。いやぁークリアが早すぎだよつまんないなー」

 

 ルミアは男の物言いに絶句する。この男は狂っていた。

 

「遊びはその辺にしておけ、ジン」

 

 ここで初めて紳士然としたダークコートの男が口を開く。この男も雰囲気で分かりにくいが、狂人の類いだろう。今のチンピラ風のバンダナの男———ジンの凶行を遊びと言い切ったのだから。

 

「貴女は私と来てもらう。言うまでもないと思うが、是非はない」

「…わかりました」

 

 紳士然としたその男の言うことに素直に従い、ルミアは席から移動した。

 そのルミアが、何故か遠くに行ってしまうような気がして……システィーナは声をかける。

 

「ダ……ダメよ……ルミア……行ったら殺されちゃう……」

「大丈夫だよ、システィ。きっとグレン先生がみんなを助けてくれるから……」

「あ、そのグレンって奴なら来ないぜ。もう俺らの仲間がブッ殺したからさぁ」

「っ!?せ…先生が…ウソ…そんな…」

 

 システィーナはジンのそんな絶望的な事実を告げられ絶望していた。

 

♢♢

 

「学院にテロをしかけてくるとは大胆な……アイツが言っていた例の連中か?」

 

 学院の結界が突破されたのを感知したオレは、教室を出てトイレに身を隠していた。

 そして教室の様子を鞄の中に仕込ませておいた昆虫型の使い魔越しに様子を覗いていた。

 

 ルミアはダークコートの男により教室から連れ出され、生徒達は全員拘束と【スペル・シール】を掛けられて教室に閉じ込められてしまった。これで彼らは魔術を封じられ、一切の反抗ができない。

 そして唯一システィーナだけがチンピラ男により連れ出され、魔術実験室へと連れ込まれた。

 ルミアが敵の一人に連れ去られるのは想定内だ。相手がルミアを連れ立っているところを強襲してルミアを奪還し下手人を始末する予定だったが、まさかシスティーナの方もさらわれるとは思っていなかった。

 おおかた、楯突いてきたのが気に食わなかったからいたぶる気なんだろう。すぐには殺されないだろうが…

 

「…仕方ない」

 

 予定変更だ。

 オレの目算通りならルミア救出が可能な時間にまだ余裕はある。

 方針が決まりシスティーナの方へ向かっていると、学院内を見ていた遠見の魔術が一人の男を捉えた。

 グレン先生だ。

 あの柄の悪い奴が仲間が殺したとか言っていたが、死んだかどうか碌に確認などしていなかったようだ。

 

 殺傷力の高い魔術を使える自分達に敵はいないと高を括っているわけか。

 

「返って好都合か」

 

 向こうはオレという存在を認識していないようだ。

 このままグレン先生にシスティーナを任せるという手があるが、正直不安要素があり過ぎて信頼していいものか疑問な為、合流とかはせずそのままシスティーナの方へ直行する。

 

 予め呪文を唱えてから実験室の扉を開ける。

 

「んあ?」

「あ……」

 

 そしてそこには、服をはだけさせられて涙を流すシスティーナとそれを見て楽しそうにするジンとかいうガラの悪い奴がいた。

 

「なんだテメェ?全員拘束して教室に閉じ込めたはずだぞ」

「生憎その時教室を出てたんだ…そんなことより、彼女嫌がっているだろ。離れろ」

「プっ、アハハハハハハハ!何ヒーロー気取ってんだよ?状況わかってるの?」

 

 やっぱり舐めているなコイツ。なら…

 

「わかっていないのはアンタじゃないのか?」

「あ?」

 

 人は暴力の前には屈する。その理屈は分からなくもない。ただ、その理論を貫き通すには常に相手の力量を上回る必要がある。

 

「―――アンタ程度の力量じゃ相手にならないって言ってるんだ。雑魚」

「アァん?調子乗ってんじゃねぇぞガキが!」

 

 安い挑発に乗った男は左手を構える。さっき教室で使った【ライトニング・ピアス】だろう。

 

「駄目!逃げて!貴方じゃそいつには……!」

「もうおせぇよ!《ズドン》!」

 

 瞬時に呪文が完成し、指先から放たれた閃光は直線で進んでくる。

 システィーナはオレが撃たれる瞬間を想像し目を瞑り、打った本人は殺したと確信して歪んだ笑みを浮かべる。

 

 だが、閃光はオレに当たることなく真横を素通りした。

 

「…………は?」

 

 チンピラが間抜けな声を上げる。

 あいつが狙ったのは、実験室に入る前に光操作で作り出しておいたオレの幻影だ。

 蜃気楼と同じ原理だ。

 光は通常直進するが、密度の異なる空気があるとより密度の高い冷たい空気の方へ進む性質がある。

 だがオレは黒魔の物理作用力で周囲の光を強引に捻じ曲げ、相手に誤った位置にいるように誤認させた。

 今あいつの目には水面に広がる波紋のようにオレの輪郭が揺らいでいるように見えるだろう。

 

 初撃の狙いが外れた瞬間を狙ってオレは動いた。

 体を大きく前傾させ、床を蹴らずに両足を滑らせる。

 東方の剣士に伝わる縮地法という走法を利用したもので、筋力ではなく体に働く重力を利用して素早く移動することで、相手との距離を詰める技だ。

 

「なっ!?《ズ―」

 

 三メトラはあったチンピラとの間合いを一瞬で詰め、ルーン語を発する奴の喉元、丁度喉仏の下あたりに、人差し指と中指を揃えてズブリとめり込ませた。

 

「―――っっっ!」

 

 声にならない悲鳴が上がった。完全に不意を突いて放たれた一撃で男は詠唱を中断し、両手で喉元を押さえながら身を蹲らせる。

 魔術師は喉が命だ。どれほど魔術を究めようが、詠唱するための喉が使えなければ発動できない。

 

「テ――メェ…!がっ!?」

 

 蹴りを男の顎に入れる。蹴り上げの衝撃で男は意識を失ったようで、床に崩れ落ちた薄く開いた瞼の下に白目を覗かせていた。

 

 先ずは一人目…

 

「え?え?」

 

 目を開けたシスティーナは今の状況を飲み込めていないようで、呆けている。

 

「大丈夫かシスティーナ?」

 

 即座にチンピラの手足を拘束してから黒魔【スペル・シール】の付呪で魔術起動を封じる。

 それからシスティーナの両腕を縛っていた拘束を解く。

 ついでに彼女の肩に制服のマントをかけておく。今システィーナの制服の上半身部分は引き裂かれている。そうなれば当然、中の下着は丸見えなわけで。

 目のやり場に困るし、本人も見られたくないだろうしな。

 幸いオレはそれなり背は高いため、マントの前を閉めれば充分に衣服として機能した。

 

「これ、貴方がやったの?」

 

 拘束で動けないチンピラを見やるシスティーナは戸惑っているようだ。学生がテロリストを倒したなんて前代未聞だからか。

 

「…いやぁ火事場の馬鹿力ってやつかな。無我夢中でやったらなんか倒せた」

「それだけで倒せるとは思えないんだけど…あっ、そうだ!大変なのキヨト!皆教室に閉じ込められちゃって、ルミアが連れて行かれちゃって!グレン先生が殺されちゃって!」

「俺がなんだって?」

「えええ!?グ、グレン先生!?死んだはずじゃ!?」

「いや死んでねえし」

 

 死んだと聞かされていた人間がひょっこり現れ、システィーナはパニックに陥る。

 

「遅刻ですよ先生」

「仕方ねえだろ。こっちも襲われてたんだから」

「普通に寝坊したんじゃなくて、ですか?」

「…それより、これお前が倒したのか?」

 

 話を逸らしたな。

 

「なんか倒せました」

「なんかって…まあいいや」

 

 グレン先生はオレが拘束したチンピラをわざわざ全裸にひん剥き、亀甲縛りに縛り上げ、全身に見るも無惨な落書きを書き込み、置いてあった花を尻と帽子に差し込み、最後に股関へ『不能』と書いた紙を貼った。

 

「ふぅ~、完全無力化完了だ」

「あの…それにいったい何の意味が?」

「ん~、特にない」

 

 ないならやるなよ。そういう趣味なんじゃないかと疑ってしまう。

 

「それで白猫。一体、何が起こったんだ?状況を教えろ」

「あ……はい……」

 

 グレン先生に促され、システィーナは一連の出来事を説明した。

 

「ルミアが連れて行かれた?」

「……はい」

 

 システィーナが悔しそうに、哀しそうに目を伏せる。

 

「なんでアイツが?」

「わかりません」

 

 するとグレン先生のポケットから金属を打ち鳴らしたような甲高い共鳴音が響いた。

 何事かとシスティーナが身を固くする中、眉間にしわを寄せたグレン先生はポケットからオレが使っている宝石型の魔導器と同じ半割りの宝石を出して耳に当てた。

 

「遅えぞセリカ! 何度連絡かけたと思ってんだ!?」

『悪い悪い。丁度講演中だったんで着信切ってたんだよ』

 

 宝石から女性の声が響いた。この学院、どころか世界でもトップレベルの第七階梯を誇る魔術師であるセリカ=アルフォネア教授。聞けばグレン先生の育ての親でもあるとのこと。

 

「こっちはそれどころじゃねーぞ!?」

『……何かあったのか?』

 

 宝石から聞こえてくる声が硬くなった。

 

「ああ、学院がテロリスト共に襲撃された。結界は掌握され、学院は完全に封鎖された。入ることも出ることもできん。人質に取られた生徒は五十人前後、教室に無力化されて閉じ込められている。その内二人は保護、一人は黒幕に連れてかれた。下手人は天の智恵研究会だ」

『あのロクでなし共が出っ張ってるとはな・・・』

 

 やはり天の智恵研究会とかいう連中か。全裸のチンピラの腕に彫られている短剣に絡みつく蛇のタトゥーを確認できた。

 『優れた魔術師による世界支配』というあからさまな選民思想を掲げる、世間一般の道徳倫理など意に介さない外道魔術師達で構成された、アルザーノ帝国有史の時代から存在する最古の魔術結社。

 魔術という強大な力を扱える自分達は天から選ばれた優れた存在であり、魔術師ではない人間を下賤な家畜以下。価値がないから殺そうが実験動物にしようが、自分達が魔術を極めるためなら許されると自信を正当化しており、連中の起こす事件の被害者の比率で一般人の方が比較的多い。

 

「で、最後にこれが重要なんだが……俺もこの学院の魔導セキュリティのレベルの高さは知ってる。だが、ここまで鮮やかにセキュリティを掌握されて所から察するに……いるぞ、学院内に裏切り者がな」

『あぁ、私もそれを考えていた』

「なぁ、セリカ。そっちにいるはずの教授や講師達の中で不自然に姿が見えない奴っているか?特に教授格かそれに準ずる能力を持つ講師だ」

『わからん。会場では団体行動じゃない。すぐに確認するのは不可能だ』

「ち……事情を説明してさっさと確認しろ!それから早く帝国宮廷魔導士団を回すように手配してくれ!」

『無理だ。お前も知っているとおり、魔術学院はとにかく各政府機関の面子や縄張り争いがうるさい魔窟なんだ。呼ぶとしても迅速に…というワケにはいかない』

 

 心配せずとも既に宮廷魔導士団の耳に届いている…が、敢えて黙っておくか。

 

「ふざけんな!?生徒達の命がかかってんだぞ!?」

 

 グレン先生の怒鳴り声が実験室に響いた。

 普段はもっと冷めた感じだったが、今のは熱血漢のような感じだ。

 

 それから幾らか問答を続けた後、

 

『とにかく、こっちは対応を急ぐ、お前は無理をせず、保護した生徒と一緒にどこか安全な場所で隠れていろ』

「ああ、わかった」

『じゃあ、いったん切るぞ……死ぬなよ?』

「……こんな所で死んでたまるか」

 

 通信魔術を解除し、グレン先生は宝石をポケットに押し込んだ。

 

「先生・・・助けは来そうですか?」

「今の会話で来ると思うか?」

 

 肩を落として俯いたシスティーナがすぐに何か決心した顔になり、踵を返そうとしたのを見てオレは前に出て行く手を阻む。

 

「…どうするつもりだ?」

「決まってるでしょ。ルミアを助けに行く」

「ハッキリ言って無謀だぞ」

 

 前にグレン先生との口論の際にも思ったが、システィーナは一見強がって見せてはいるが、メンタルがかなり脆い。自分の弱さに必死に仮面つけて隠しているだけだ。

 正直、自分が死ぬかもしれないという極限状態の中で生き残れるとは思えない。というか今のこいつは殺し合いでは役に立たない。

 

「キヨトの言う通りだ。お前一人に何ができんだよ?お前自身分かってんだろ?大人しくしてろ」

「でも…でも……ッ!」

「大人しくしてろ」

 

 有無を言わさない、突き放すようなグレン先生の言葉に、システィーナの肩が小刻みに震えていく。水滴が床を叩く音が小さく響いた。

 

「でも……私、悔しくて…だって…」

 

 どうにか絞り出したちゃんとした言葉はそれだけで、システィーナはまるで子供のように泣き出してしまった。

 一見すれば先生がまた泣かしたように見えるな。

 

「…泣くな、馬鹿」

 

 ぽん、と。グレン先生はシスティーナの頭に優しく手を乗せた。

 

「グレン先生……?」

「魔術が現実に存在する以上、存在しないことを望むのは現実的じゃない。大切なのはどうすればいいのか考えること……なのだそうだ。お前の親友の受け売りだけどな。ルミアの奴はこういう事件が起こらないように将来、魔術を導いていけるような立場になりたいらしい」

 

 魔術を導く?

 

「あの子が……そんなことを」

「大層な夢だよなアホだろ?けど立派だ。そんな奴を死なせるわけにはいかねーよな。だから俺がなんとしても助けてやる。お前らが言った敵の残りは二人だと決めつけて暗殺する。もう、それしかない」

 

 暗殺……それをさも当然のように言った。

 前の職場を辞めて一年は経つが、既にそれまでの経験やトラウマが体に染みついているようだな。

 

「くは、くははは……暗殺ね。そんな言葉があっさり出るとは……三流魔術講師と聞いちゃいたが、お前もこっち側の人間だったのか……クハハハ」

 

 転がしていたチンピラが意識を取り戻して笑っていた。

 思っていたより早いな…ま、叩き起こす手間が省けたと考えるべきか。

 

「否定は「先生。こいつにルミアを何処に連れて行ったか聞きだしたらどうですか?」は?」

 

 オレはグレン先生の言葉を遮りつつ提案する。

 

「学院内を虱潰しに探すよりも確実でしょ?噓をつかれたら困りますが」

「ま、まあそうだな」

「言うわけねぇだろ。つーか話聞いてなかったのか?断言してやる。そいつは絶対、ロクな奴じゃねぇ。もう何人も殺ってきた……俺らと同じ外道さ。そういう人間だ。そういう目をしてやがる。俺にはわかるぜ」

「そうか」

「そうかって…淡白すぎだろおい。ガキだったら普通もっとビビるところだぞ?」

 

 普通、ね。生憎と今まで世間の言う普通とは無縁の人生を送っていたからな………。

 

「テロリストが立てこもっている状況でそんなこといちいち反応するだけ時間の無駄だろ?」

「無駄って……」

 

 チンピラだけでなくシスティーナとグレン先生も戸惑ってるな。

 

「素直に答えた方が身のためだぞ?」

「はっ、なんだ?脅してんのか?言わなかったら殺す的な」

「いや、どっちかというと警告のつもりだ。それにアンタに手を下すのはオレ達じゃない」

「?なに言ってんだ?」

「アンタ、見張りを任されたはずなのにサボってシスティーナを襲おうとしていたんだろ?任務を放棄して勝手なことをした結果、こうして捕まってる。そんな役立たずに慈悲をかけるほど、アンタのお仲間はお優しい奴か?」

「は?………あっ」

「アンタら外道魔術師っていう人種に仲間意識なんてものがあるとは正直思えないな。ひょっとしたら今この瞬間、アンタが持ち場を離れていることに気付いているのかもしれない。捕まっていることに気付くのも時間の問題かもな」

「……っ!!」

 

 今の状況を悟ったのか、チンピラの余裕な表情が崩れてみるみる青くなる。

 

「今すぐ話してくれるなら、宮廷魔導士団が駆けつけてくるまで見つからないように匿ってやる。無罪とはいかなくともある程度宮廷魔導士団に便宜を図ってやることも考えるが………グレン先生はどう思います?」

「え?」

 

 チンピラには見えない角度でグレン先生にハンドサインを送ると、オレの意図を察したのかグレン先生は滅茶苦茶意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「あーそれは仕方ねえなー。教えてくれねえんなら助けることもできねーし、そもそも助ける義理なんてねーし。巻き添えとかも勘弁だしー」

「そうですか。ならコイツはこのままここに放置して探しに行きますか」

「そうだなー。あっ、ついでに分かりやすいように外に『ここで捕まってます』ってでかい表札でも貼っておくかー」

「て、テメエら…!!」

「え?え?」

 

 オレとグレン先生の茶番に引き気味のシスティーナを『白猫行こうぜー』と促しながら実験室から出ようとすると………。

 

「ま、待て!わ、わかった!知っていること全部話す!」

 

 あっさり堕ちたな。

 

「ならさっさと教えろ。ルミアを何処に連れて行った?」

「ル、ルミアって子なら――」

 

 チンピラがルミアの居場所を吐こうとした瞬間、その場に魔力の共鳴音が鳴り響いた。オレ達を囲むように空間が揺らぎ、その揺らぎの中から人型の骸骨がゾロゾロと出てきた。

角と尻尾のようなのを生やし、剣や盾などで武装している。その数、十数体。いや、今もなお、その数はどんどん増え続けている。

 

「どうやら時間切れのようだな」

 

 オレ達はあっと言う間に、大量の骸骨達に包囲されていた。

 

「せ、先生…これは――」

「くそ、ボーン・ゴーレムかよ!?しかも、こいつら、竜の牙を素材に錬金術で錬成された代物じゃねえか!?ずいぶんと大盤振る舞いだな、おい!?」

 

 この数の多重で遠隔連続召喚するとは…人間業じゃないな。その上希少性の高い竜の牙を使い魔の素材としてこれだけ揃えるとは………それなりの伝手と実力がある魔術師か。

 

「……始末するにしては過剰だな」

「ひっ!ま、待ってくれレイクの兄貴!!お、俺は別に裏切ってなんか――ぐああぁぁぁ!」

 

 ゴーレム達に囲まれて見えないが、チンピラの悲鳴が聞こえた。更には粘着質のものが床を叩いたり、潰れたりするような音が何度も響いて来る。

 死んだか。

 大して情報を聞き出せなかったが…まあいっか。

 

 無惨に殺されたのを察しのかシスティーナは恐怖し、傍まで来ていたゴーレムに気付いていないようだ。

 

「下がってろ!」

 

 咄嗟にグレン先生が間に割って入る。左手の甲で振り下ろされた剣の腹を叩いて弾き、ゴーレムの頭部を殴るが、全く効いてる様子はなかった。

 

「ち、硬ぇ!?こいつら牛乳飲み過ぎだろコンチクショウ!?炭酸水でも飲んどけ!」

「言ってる場合か」

 

 竜の骨に対し物理的な干渉はほとんど損害にならない。拳打のような打撃攻撃はもちろん、攻性呪文の基本三属と呼ばれる、炎熱、冷気、電撃も通用しない。

 このゴーレムを打ち倒すなら、もっと直接的な魔力干渉………無属性系の攻性呪文が必要だ。

 

「システィーナ、先生に【ウェポン・エンチャント】を」

「わ、わかった!≪その剣に光在れ≫ッ!」

 

 すぐに冷静になったシスティーナが一節詠唱で唱えた、黒魔【ウェポン・エンチャント】が完成する。

 グレン先生の両拳が一瞬白く輝き、その拳に魔力が符呪された。

 

「すまん、助かった!おりゃあああ!」

 

 正面と左右から襲いかかってきたゴーレムの頭蓋が今度こそ粉砕される。

 だが多勢に無勢だ。

 

「逃げた方がいいみたいですよ。《大いなる風よ》」

「≪大いなる風よ≫!」

 

 オレに続いてシスティーナが黒魔【ゲイル・ブロウ】の呪文を唱える。

 猛烈な突風が吹き荒れ、出入り口の扉を塞いでいたゴーレム達を扉ごと吹き飛ばした。

 ダメージは無いに等しいだろうが、外までの道が開けた。

 

「ナイスだお前ら!俺が先頭を行く!着いて来い!」

「は、はい!」

 

 はぁ………仕方ない。

 グレン先生が先頭で行く手を阻むゴーレム達を蹴散らし、オレとシスティーナは後ろから追ってくるゴーレム達の牽制をすることとなった。





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