ようこそロクでなし魔術講師のいる教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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キヨポンはタロットカードのどれになるか考えてました。


ナンバー0

「止まるな!走れ走れ!!」

 

 実験室から通路に出たオレ達は現在、敵が送り込んできたボーン・ゴーレムの大群に追い回されていた。

 

「おらあああッ!」

「≪大いなる風よ≫ッ!」

 

 グレンが魔力強化された拳闘で立ちはだかるボーン・ゴーレムの頭蓋を粉砕し、システィーナが【ゲイル・ブロウ】でゴーレム達を吹き飛ばす中、オレは後方から追いかけてくるゴーレムを担当する。

 

「≪魔弾よ≫≪第二射≫―」

 

 【ウェポン・エンチャント】と同じ無属性系呪文の黒魔【マジック・バレット】を連唱する。

 左手の指先から、集中魔力の光弾を放ち、迫ってくるゴーレム達の眉間を射貫く。直接的な魔力干渉で竜の牙製のゴーレムの頭蓋は容易く砕けた。

 

「おまっ、連唱できるのかよ!?」

「たまたまです」

「いやたまたまでできるわけねえだろ」

「そんなことより、この状況どうするつもりですか?」

 

 三人で対応するには敵の数が多すぎる。

 魔力も無限じゃない。先ほどからシスティーナは間断なく魔術を行使し続けている。気丈にも表情には出さないが相当消耗しているはずだ。ただでさえ風系呪文は三属性系の中でエネルギー変換効率が悪いというのに。

 その上身体を鍛えてこなかったんだろう。疲労具合はひどく、一緒に走るだけで精一杯のようだ。

 

「………確かにこのままじゃマズイよな」

「先生、何とかならないんですか!?」

「ゴーレムはカテゴリー的には魔法生物だ!術者が吹き込んだ魔力で動いている!こいつらを止めるんなら魔力相殺の術【ディスペル・フォース】を使うしかねえ!」

「でしたら私が使えます!」

「ああ!? お前の歳で習うやつじゃねえだろ!」

「はい! 学院じゃなくてうちでお父様から習ったんですけど!」

「マジか……」

「やめたほうがいいと思うぞ」

「どうしてよ!?」

「ディスペルしていった所で、術者がまた魔力を吹き込めばゴーレムになってまた襲いかかって来るだろうな」

「――っ!?」

「キヨトの言うとおりだ、白猫。おまけに【ディスペル・フォース】に必要な魔力量は対象物に潜在する魔力量に比例する。半自律行動のために魔力増幅回路が組み込まれているあの連中を、いちいちディスペルしようとすれば、お前一気に枯渇するぞ?」

 

 寧ろ術者はそれを狙って物量戦を仕掛けてきたんだろうな。

 おそらく術者は遠見の魔術か使い魔であるゴーレムを通して、オレ達を見ているに違いない。

 このまま嬲り殺しで終わるのも良し、仮にこの状況を打開できたところで消耗したところを狙って仕掛けてくる可能性も考慮に入れたほうが良いか。

 それならここで全員、ゴーレム達を相手して消耗するわけにはいかない。

 最悪、オレだけでも次に備えて温存しておかないとな。

 

 オレは床に転がっていたゴーレムの剣を拾い上げ、剣身の部分に【ウェポン・エンチャント】で魔力を符呪する。

 【マジック・バレット】の使用を少し控え、すぐそばまで近付いてきた相手に剣で対抗する。

 動きを見てわかったが、ゴーレム達は耐久性や運動能力が高くとも、剣の腕は達人レベル程ではない。動きも単調であるため対処しやすい。

 

「先生!この先は行き止まり!」

「ああ、このまま走っても体力が消耗して全員御陀仏だ。だったらここでこいつらを掃除するしかねえ」

 

 どうやらグレン先生はあれでこの状況を打破するつもりのようだ。

 

「つうわけだから白猫、お前は先に奥まで行って即興で呪文を改変だ」

「ええ!?」

「改変する魔術はお前の得意な【ゲイル・ブロウ】だ。威力を落として、広範囲に、そして持続時間を長くなるように改変しろ。節構成はなるべく三節以内だ。完成したら俺達に合図しろ。後は俺がなんとかしてやる」

「で、でも……わ、私にそんな高度なことができるかどうか……」

「大丈夫だ。お前は生意気だが、確かに優秀だ。生意気だがな」

「生意気を強調しないでください!」

「俺がここ最近で教えたことを理解しているなら、それくらいできるはずだ。てか、できれ。できないなら単位落としてやる」

「り、理不尽だ……」

 

 無茶苦茶だこの講師。

 そもそも生きるか死ぬかの状況で、単位を気にするべきかどうか……いや、システィーナの緊張を解すために敢えてふざけているのか?

 精神が脆くともシスティーナは魔術師として優秀だ。

 ならやりきってくれるか。

 システィーナを先に行かせ、グレン先生はオレに向き直る。

 

「で、キヨト………いやキヨポン」

「なんで言い直したんですか」

「うるせえ…お前を戦力としてカウントしても良いんだよな?」

 

 実験室でのことで少し警戒しているな。

 

「……さあ。戦力になるか云々はともかく、こんなところで死にたくないという点に関して利害は一致していると考えて結構ですよ」

「なんか回りくどいな……ならこき使ってやるから安心しろ。お前はここで俺とコイツらの足止めだ」

「とても講師とは思えない発言ですね……まあ、やれることはやりますよ」

 

 少しやりやすくするか。

 

「《光の障壁よ》―――」

 

 オレは無属性系呪文の黒魔【フォース・シールド】を何度か一節詠唱する。通路に光の六角形模様が並ぶ半透明の魔力の壁が何枚か展開された。

 ただし完全に通路を防ぐために一列に配列するのではなく、直進を阻むだけで敢えて僅かな通り道を開けた単純な迷路の形だ。

 

「えっ、なにしてんのお前?」

「見れば分かりますよ」

 

 先頭のボーン・ゴーレムが魔力障壁の一枚にぶつかり、粉々に砕ける。その後も突進してきたゴーレム達が障壁の前に次々と砕けていく。

 その様子を見たグレン先生はピンときたようで、ニヤリと笑った。

 

「あー…成る程ね、その手があったか。【フォース・シールド】は防御魔術だが、【マジック・バレット】や【ウェポン・エンチャント】と同じく魔力を使ったものから、突進してもゴーレムの方が先に砕けちまうって話か」

「当然向こうは当たって砕けろ戦法でお構いなしに障壁にぶつかってくるかもしれませんが、ある程度の足止めはできるだろうし、次のを新しく展開すればいいだけです」

「それなら通路全体にビッシリ障壁を張れば良くね?」

「通り道があれば障壁の破壊は控えてくれるかもしれないので。その場合、入り組んだ道を通るわけなので勢いが落ちます。障壁の通路を出てきたところをグレン先生が叩いてください」

「マジか。そこまで考えたのかよ…」

 

 グレン先生の笑顔が引き攣った。

 

 破壊か通過か。

 敢えて選択肢を二つ用意し、どちらを取れば良いか迷わせる。どちらも取ったところで、こちらには有利な状況が出来上がるわけだ。

 

「そろそろ一体目が来るので対処お願いします」

「わかってる、よ――ッ!」

 

 術者は破壊と通過の両方を選んだようだ。

 手前のところで剣を振りかぶって障壁の破壊を試みる班と、障壁の迷路の通過を試みる班に分かれている。

 グレン先生の放った拳が迷路を抜け出たゴーレムを粉砕していく。

 

「戦いやすくなったのはいいが、少しはこっちも手伝ってくれませんかね!?」 

「はあ…」

 

 一年のブランクで体が鈍っているのか。帝国式軍隊格闘術に少しキレがない。

 グレン先生がゴーレム達の無数の剣を体さばきでいなしていく中、オレは後方から援護射撃してゴーレム達を破壊していく。

 

 だが、多勢に無勢という事実は変わらない。

 その間に障壁が一層、二層と次々に砕かれ、足止めを受けていたゴーレム達の大群とオレ達との距離が少しずつ縮まっていく。

 

「出来ました!」

 

 どうやらシスティーナの即興改変の方が早かったようだ。

 

「何節詠唱だ!?」

「三節です!」

「よし、俺の合図に合わせて唱え始めろ!奴らめがけてぶちかませ!」

 

 オレ達はすぐにシスティーナ後ろに退避し、体勢を整える。

 ゴーレム達共との距離が迫ったのを見計らって、

 

「今だ!」

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》!」

 

 システィーナの両手から爆発的な風が生まれた。

 それは【ゲイル・ブロウ】のような局所に集中する突風ではない。廊下全体を埋め尽くすような、広範囲にわたって吹き抜ける指向性の嵐だった。

 廊下を駆け流れる風の壁は迫り来るゴーレム達の速度を劇的に落としてはいるが、それでも距離は詰まってくる。

 即興ゆえ威力が足りなかったか。

 

「だ、だめ……完全には足止めできない…ごめんなさい、先生……ッ!」

「いいや、上出来だ。助かる」

 

 グレン先生が懐から赤い結晶型の魔術触媒を取り出し、呪文を唱え始める。

 

「≪我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・――…」

 

 唱えた呪文に応じて、グレン先生の左拳を中心に、リング状の円法陣が三つ、縦、横、水平に噛み合うように形成され、それぞれが徐々に速度を上げながら回転を始めた。

 

「へ?この呪文って……」

「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素よりなりし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに≫――ッ!」

 

 七節にも渡って紡がれた、渾身の大呪文が完成する。

 

「ええい!ぶっ飛べ、有象無象!黒魔改【イクスティンクション・レイ】――ッ!」

 

 グレン先生が前へ左掌を開いて突き出す。

 左掌を中心に高速回転していたリング状の円法陣が前方に拡大拡散しながら展開。

 次の瞬間、その三つ並んだリングの中心を貫くように発生した巨大な光の衝撃波が、グレン先生の左掌から放たれ、廊下の遥か向こうまで一直線に駆け抜けた。

 【ショック・ボルト】や【ライトニング・ピアス】のような雷光でも、【ブレイズ・バースト】のような爆炎でもない。

 

 黒魔改【イクスティンクション・レイ】。対象を問答無用で根源素にまで分解消滅させる術である。個人で詠唱する術の中では最高峰の威力を誇る呪文であり――二百年前の『魔導大戦』で、大陸最高峰と名高いセリカ=アルフォネア教授が邪神の眷属を殺すために編み出した、限りなく固有魔術に近い神殺しの術だ。

 その威力をすぐ近くで拝むことができるとはな。

 

「す、凄い……こんな、高等呪文を……」

 

 光が消えた後には、先ほどまで追い立ててきていたゴーレムたちも、歴史ある校舎の壁も天井に至るまで───射線上にあったすべてのものが、跡形もなく消滅していた。

 

「い、いささかオーバーキルだが、俺にゃこれしかねーんだよな……ご、ほ……っ!」

「先生!?」

 

 突然血を吐いて倒れるグレン先生に、システィーナは駆け寄る。

 

「これって、マナ欠乏症!?」

「ああ、分不相応な術を裏技で無理やりだったからな……」

 

 マナ欠乏症とは極端に魔力を消耗した時に起こるショック症状だ。魔力の源は肉体に内包するマナという生命エネルギーだ。これを急激に消耗すれば当然命に関わる。魔術とは自らの命と引き換えに振るう諸刃の剣なのである。

 触媒を使っても規格外の大魔術の行使するにはギリギリだったか。

 あれを何発も撃てるとすれば、アルフォネア教授くらいなものだろう。

 

「先生、これを使ってください」

「……お前これ」

 

 そう言ってオレはグレン先生にある物を渡す。

 魔晶石――オレの予備魔力が詰まった、宝石だ。

 

「先生の魔力と相性が良くないかもしれませんが、少しはマシになるかと」

「…いいのか?魔晶石に魔力を溜めるのに時間と手間がかかるものだ」

「そんなことを気にしている状況ですか?」

「……そうだな。ありがたく使わせてもらうぜ」

「使ってから言うな」

 

 魔晶石を吞み込んだグレン先生はがよろよろと立ち上がる。

 

「……はぁ…はぁ…早くここを離れるぞ…敵が来る前にどこかに身を隠……」

 

 その時かつん、と。

 硬質な足音が、オレ達の目の前で止まる。

 

「そう簡単に逃がしてはくれねえのかよ…そっちは」

「───【イクスティンクション・レイ】を使えるとはな…三流魔術師と侮っていた」

 

 廊下の向こう側から姿を現したのは、ルミアを連れて行ったダークコートの男だ。

 名をレイクというらしいその魔術師は、五本の浮遊剣を用意してオレ達の前に立ちふさがった。

 

「あー、もう、浮いてる剣ってだけで嫌な予感するよなぁ…」

「予定外の事が多いな。前調査では第三階梯にしか過ぎない三流魔術師と聞いていた…しかもそちらの男子生徒は頭が切れる上にジンを瞬殺するほどの実力があるときた」

「たまたまだ。それに殺したのはアンタだろ?」

「命令違反だ。任務を放棄し、勝手なことをした上裏切ろうとした報いだ。聞き分けのない犬に慈悲をかけてやるほど、私は聖人じゃない」

 

 だろうな。そもそも魔術師という人種に聖人と呼べる奴がいるのだろうか疑問だ。

 

「白猫、お前魔力に余裕は?お前はあの剣をディスペルできそうか?」

「残りの魔力全部使っても多分、少し足りない……というより詠唱だってさせてくれるかどうか……」

 

 グレン先生がシスティーナへこそこそと耳打ちしている。どうやら隙をついて武器を無力化するつもりのようだ。

 隙を作るにしても、グレン先生はまだオレの魔力が馴染んでいないだろうから満身創痍の状態であることは変わらない。

 なら……

 

 オレはグレン先生の背中を押し、システィーナへ向けて突き飛ばす。

 

「……え?」

 

 その勢いのまま二人は壁のなくなった空間……つまりは校舎の外へと出た。

 

「ちょっ、お前ぇえええ―!?」

「きゃあああああ――ッ!?」

 

 ここは四階だがなんとかするだろう。

 落下中にシスティーナが【ゲイル・ブロウ】を唱えて、落下速度を相殺したのだろう。外から突風が吹き荒れる音が響いてきた。

 

「逃がしたか」

「流石にアンタを相手に庇いながらやるのは無理そうだからな」

「満身創痍とはいえあの講師と一緒なら勝機が上がるかもしれなかっただろうに?」

「一人の方がやりやすい時もある。それに……」

「それに、なんだ?」

 

「――――アンタの相手はオレ一人で十分だ」

 

「ふっ、大口をたたくじゃないか、学院生。勇敢なのか、はたまた蛮勇か、その選択後悔するなよ!」

 

 レイクが指を打ち鳴らすと、背後に浮かぶ剣が一斉にオレへと殺到した。

 

 左、右、正面の三方向から刃の切っ先が迫る。

 

 相手の剣は細いレイピアよりも幅の広い十字型の鍔に刃渡り約90センチの両刃剣(ロングソード)、対するこっちが使っているゴーレム用の剣は片側のみに刃があり、三日月のような曲線を描いている湾刀だ。

 

 両刃剣は切ることと突くことの両方を重視している。ほぼ真っ直ぐの両刃にすることで、どちら側の刃でも敵を攻撃できる。

 一方、片刃剣は両刃剣に比べて耐久性に優れていないが切ることに特化している。対象物に刃先が接触した時に反りのある湾刀(・・・・・・・)反りのない直剣(・・・・・・・)より接触部分が減少し移動範囲が拡大する。同時に刀身への反発する力が直剣より湾刀は分散し、刃先への影響が減るからだ。

 両刃剣とどちらが全体的に強いのか問われても、そう簡単に優劣をつけられないものだ。

 

 だが、今この状況においてはオレに分がある。

 どんなに強いパワーでも、一直線ならば横合いからの力で軌道をずらすことが可能だ。

 的確な位置へ剣をぶつけ、浮遊剣の軌道を自身の急所から外せばいい。

 

 迫りくる複数の剣を一本の剣で対応するためのコツは握り方にある。

 

 剣を両手で持つ時の悪い例が両手とも間隔を空けずに握ることだ。これだと腕の振り幅+αしか剣は動かないし動きも読みやすい。片手で持つなら尚更だ。

 剣を持つ時には右手を鍔に付け、左手は柄の端にかかるように柔らかく握る。

 右手を支点に、左手を力点にして剣を振る。

 人間が振るう場合、梃子の原理でわずか数センチ動かしただけで切っ先は数十センチから1メトラも動く。さらに腕や体捌きを加えることで剣は自在に変化し、切っ先の可動域を一平方メトラ以上まで広がる。

 

 まず正面から突っ込んできた剣を弾き、残りを受け流し、躱す。

 剣を振る毎に身体の軸の位置を変え、浮遊剣の軌道から外れる。

 

 最初に三方向から襲いかかってきた三本の剣は、達人の技量に匹敵する速さと鋭さでオレを切り刻まんとするが、その動きは単調で無機的。

 対する残りの二本の剣は有機的な剣撃を繰り出してくる。生きていると言っていい。

 

「《光の障壁よ》」

 

 【フォース・シールド】で背後に魔力障壁を展開し、背後から斬りかかってきた二本の剣の攻撃を防ぐ。

 

「………二本は術者の自由意志で自在に動かせる手動剣、三本は手練れの剣士の技が記憶された自動剣か」

「ご名答だ。しょせん手練れの剣士の技を模した所で自動化された剣技は死んでいる。五本揃えた所で真の達人には通用せん。かと言って五本全てを私が操作すれば、しょせん私は、魔術師、やはり真の達人には通用せん。私はこれまで何十人もの騎士や魔術師を暗殺し、三本の自動剣と二本の手動剣の組み合わせが最も強い、と結論した」

「自動剣と手動剣が互いの短所を補いあっているというわけか……」

 

 この手動剣の動きは素人のものではない。超、とまではいかないだろうが一流の剣技だ。遠隔操作でこの動きができるということは、この男自身も相当の剣の使い手なんだろう。

 魔術師は肉体修練で練り上げる技術をとにかく軽んじる。精神修練で培う魔術の下に置きたがるものだが――

 

「アンタ、魔術師らしくないな」

「それは貴様もだろ?剣一本でここまで私の攻撃を捌ききるとは……魔術学院の生徒にしては異端すぎるぞ」

 

 異端、ね。

 

「本当にただの学生か?」

「さあ、単に魔術師らしさという教科書の通りに動くのが嫌いなだけかもしれないぞ?」

 

 教科書通りに動くのが嫌いのは本当だ。

 

「…ふん、無駄話はそこまでだ」

 

 レイクが腕を振った。

 それに応じ、今度は二本の手動剣が先に肉薄してくる。技の鋭さそのものは自動剣にやや劣る。だが状況に応じて変化し、対応する有機的な剣。続いて単調だが、速さ鋭さ共に超一流の自動剣が死角から襲いかかってきた。

 後方にさっき展開した魔力障壁がまだあるから後ろへは下がれないか。詠唱を完成させる暇もない。

 

 オレは剣を片手で持ち、高速回転させる。

 握る時は親指と人差し指で柔らかく、腕自体の動きは最小限に、手首の部分だけを柔らかくして回す。

 剣身を右手の外側に前転、一回転したところで内側に返すように前転、一回転したところでまた返すように外側に前転、と勢いを殺さず連続で左右に切り上げをするように、切っ先で横向きの8の字を描くように。

 

 避けられる攻撃は最小限の動きで回避しつつ、避け切れないと判断したものは8の字回転で捌く。

 浮遊剣として使われている相手の両刃剣は長さと重さがある分小回りが効かなく、側面からの力で弾かれた場合の振れが大きい。

 この隙を数少ない好機と判断し、オレは攻勢に出る。

 

「《紅蓮の獅子よ・憤怒のままに──……」

「《霧散せよ》」 

 

 左手を掲げ、三節詠唱の呪文を唱え始めたところで、レイクの一節詠唱が完成する。

 その瞬間、オレの左掌に生まれかけていた火球が、ぱぁんと音を立てて弾け、魔力の残滓となって空間に散華した。

 

「軍用魔術を使ってくるとは、思いも寄らなかった…が、遅いぞ」

 

 黒魔【トライ・バニッシュ】。空間に内在する炎熱、冷気、電撃といった三属エネルギーをゼロ基底状態へ強制的に戻して打ち消す、対抗呪文だ。

 

「呪文の撃ち合いにおいて三節詠唱が一節詠唱に勝てるわけあるまい。【ブレイズ・バースト】とはこう唱えるのだ。≪炎獅子――」

 

 かかった。

 

「《――》」

 

 レイクの一節詠唱による黒魔【ブレイズ・バースト】の超高速起動が完成する前に、オレは小声で詠唱しながら袖口の裏側から小さな宝石を二つ出し、レイクへと投擲する。

 

「なっ!」

 

 レイクは、すぐさま起動しかけていた【ブレイズ・バースト】の魔術を解除し、跳び下がる。

 オレが投げたまるで燃えているかのように赤く輝くその宝石は、『爆晶石』という。

 爆発を封じる『封爆のルーン』でも刻まない限り、いとも簡単に爆発する代物だ。

 その『封爆のルーン』も、オレの手元から一定以上離れたら消えるように施していたが。

 

 レイクがさっきいた場所にカツンッ、と小さな音が鳴り衝突。

 

 その瞬間、二つの宝石が赤い閃光を放ちながら、

 

 ドガァァァァァァンッッッ!!

 

 爆発した。

 煙が立ち込め、数秒後にようやく視界が晴れる。

 

「……爆晶石とはなんて無茶苦茶なっ」

 

 煤まみれの状態だが、レイクは未だ健在だった。

 とっさに操作した二本の手動剣が辛うじて間に合ったようで、眼前で交差させて向かってくる衝撃と爆風を防いだか。

 少し足りなかったようだ。爆発の威力は宝石の大きさに比例するからな。

 

「そう簡単にはいかないようだ…」

 

 すかさずレイクが指を打ち鳴らし、三本の自動剣が空中へと浮いて襲い掛かってくる。

 オレはまだ残っていた後方の魔力障壁の裏に隠れ、剣の追撃から逃れる。

 

「………誘ったな。【ブレイズ・バースト】を三節で唱えたのは爆晶石を使う隙を作るための布石か。あのまま私が【ブレイズ・バースト】を撃っても爆発にやられて死ぬ。かと言って、剣の魔導器で迎え撃とうとしたところで捌かれ、できた隙を狙って軍用魔術か爆晶石を仕掛けられただろう。どちらを取っても貴様に有利だ。ただの魔術学院の生徒にできる立ち回りではない………キヨトと言ったな?貴様、一体何者だ?」

「…さぁ?アンタの想像に任せるよ」

 

 コイツにオレのことを言う義理も義務もない。

 

「…まぁ、いい。貴様の実力は認めるが、二度目は通用せんぞ?」

「そうか、残念だ」

 

 だろうな。同じ手は通じる相手じゃないことは分かり切っていたがな。

 

 そろそろだな。

 

「《―――」

「詠唱の隙は与えん!」

 

 オレが片手で口元を隠し、小声で呪文を詠唱を開始したのと、レイクが五本の剣を放ったのは同時だった。

 

 さっきよりも速度が上がった五本に内、三本の自動剣が効果時間の切れかかっていた魔力障壁を砕き、障害を除いた瞬間を逃さず残る二本の手動剣がオレの胸を、腹剣が深々と刺し穿つ――――ように向こうには見えただろう。

 

「なっ!?」

 

 残念ながら、二本の手動剣が攻撃したのはチンピラにやったのと同様、光操作で作り出しておいたオレの幻影だ。

 爆晶石を投擲する際に既に発動させておいたのだ。

 剣は実体のある相手に当たらなければ意味を成さない。だから虚像を作りだして欺いただけだ。

 ちなみにさっきの詠唱は攻撃を誘い出すためのハッタリで、まともに発動はしない。

 

 本命はあっちだ。

 

「───均衡保ちて・零に帰せ》───!!」

「《力よ無に帰せ》――ッ!」

 

 レイクの背後の廊下の先からグレン先生とシスティーナが、ありったけの魔力を乗せて【ディスペル・フォース】を飛ばした。

 この瞬間、五本の浮遊剣はただの剣に成り下がる。

 

 レイクの誤算は二つ。オレとの戦闘に注意が行き過ぎて、二人が戻って来る可能性を失念していたこと。そしてグレン先生にはもう一つ秘策があることを把握していなかったことだ。

 

 【ディスペル・フォース】によってレイクの剣がその場に静かな音を立てながら落ちる前にオレは縮地でレイクとの距離を詰めていく。

 

「ち――《目覚めよ刃》!」

 

 レイクが再び自らの剣に魔力を送って、浮遊剣を再起動させようとするが…

 

「なっ、起動しない!?」

「チェックメイトだぜ」

 

 ニヤリと笑うグレン先生の右手には、愚者のアルカナのタロットカードが握られていた。

 

「!?」

 

 レイクの注意が僅かにグレン先生の方に向く。

 その隙がオレが懐に入るまで十分で……

 

「――終わりだ」

「しまッ―」

 

 オレの放った平突きで、寝かせた刀身がレイクの左胸部の肋骨の隙間を通り、急所を完全に貫通する。

 

 ぴしゃ、と滴る緋色が床を叩いた。

 

「……ふん、見事だ」

 

 レイクは微動だにしない。直立不動のままオレに賞賛を送った。

 

「……術が起動しなかったのは、貴様の仕業だな?グレン=レーダス」

「ああ。これは俺特製の魔導器だ。この絵柄に変換した魔術式を読み取ることで、俺はとある魔術を起動できる。それは俺を中心とした一定領域内における魔術起動の封殺」

 

 レイクはグレン先生の手に握られている愚者のアルカナを一瞥して、何かに納得したように呟く。

 

「そうか、愚者か。なるほどな……。つい最近まで帝国宮廷魔導士団に一人、凄腕の魔術師殺しがいたそうだ。いかなる術理を用いたのか与り知らぬが、魔術を封殺する魔術をもって、反社会的な外道魔術師達を一方的に殺して廻った帝国子飼いの暗殺者」

「…」

「活動期間はおよそ三年。その間に始末した達人級の外道魔術師の数は明らかになっているだけでも二十四人。その誰もが敗れる姿など想像もつかなかった凄腕ばかり。裏の魔術師達の誰もが恐れた魔術師殺し、コードネームは――『愚者』」

「何が…言いたい?」

 

 暗く冷え切った目をするグレンの問いに、レイクは口の端を吊り上げ凄絶に笑った。

 

「さぁな?」

 

 最後にそう言い残して。

 レイクは崩れ落ちるように倒れた。

 

 これで二人目。残るはあと一人。

 

 

「ひやひやさせやがった全く。まぁよくやったお疲れさん。それとお前にあんなことさせて悪かった」

 

 人殺しをさせたことを気にしているのかグレン先生は。

 

「気にしないでください先生。これもオレの仕事ですから」

「これも仕事.....................って、お前まさか!」

 

 せっかくのタイミングだから改めて自己紹介をしておくとするか。

 

「オレは帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー0《愚者》キヨト=タカミネです」

 

「なっ!?」

 

「初めまして、先輩(・・)

 

 





ただ強いだけではないキヨポンを書いてみた結果、こうなりました。
キヨポンはトランプでいうところのジョーカーな感じがしたので、タロットカードのアルカナも愚者にしました。
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