貴公、私がソルロンドの貴族だと言ったら、信じるか?
………いや、事実だ。
私の出自と生家は『由緒正しい』ソルロンド貴族さ。
少なくとも血統、その半分はな。
私はソルロンドの好色な貴族の父と、『大沼』の呪術師の家系の母の間に産まれた。
そう、雑種だ。
見目の良かった母を、女を漁りに来た父が見初めたのが切欠だよ。
何でも『手近な女は粗方喰い尽くした』ので、異形と評判の大沼の女を『試しに』来たんだとさ。
そこで偶々眼に付いたのが母で、父のチラつかせた多額の金に目が眩んで、悦んで着いて行ったんだとか。
中々に浅ましいだろ?まあ、私を産んだ後、5年も経たずに追い出されたがね。
私の母は生来、高飛車で鼻持ちならない性格だったらしい。
先祖にアストラの騎士が居たらしくてね。
その為か顔立ちが整っていて、周囲の人達を見下して、振り回して、魔性の女気取りだったとか。
だもんだから、父に抱かれた時も『自分は選ばれた人間』とか、割と本気で、自分は優良種だと思っていたそうだ。
本人は父と結婚して自分も貴族になる積りだったそうだが、実際には愛妾未満、娼婦も同然の扱いだったが。
そもそも父は既婚者で、愛人も沢山囲っていたし、母はその内の一人。
幾ら母が美形と言っても、それはあくまで『大沼では』ってだけの話。
所詮は金で買われた女だよ。
ソルロンドの貴族令嬢や御婦人達と比較してしまえば、まあ………
身内の贔屓目に見ても、『中の下』ってところかな。
教養に乏しく顔も冴えない。
それでいて他人との共感性に疎く、高飛車で身の程を弁えない女。
そりゃ追い出されるとも。自業自得だ。
馬車で『出荷』される直前まで、『自分はソルロンドの貴族だ』って喚き散らしてたなあ。
私か?
もちろん、私も追い出されたよ。
正確には、出自を隠匿して白教の寺院に放り込まれたんだが。
厄介払いだね。
父が私をどう想っていたか?
さあ。多分、最初から興味が無かったんじゃないかな。
別に、これといって恨みは無いよ。
最低限の教育は受けられたし、朝夕にはパンと清潔な水が貰えたからね。
その後、14歳まで寺院で修業して、15でアストラに向かった。
先祖の故郷に興味もあったし、あとは………まあ出稼ぎだな。
当時アストラじゃカエルの化物が大繁殖していてね。
ああ………そりゃあそうか、貴公の出身もアストラだったな。そう言えば。
うん、兎に角兵隊や聖職者の需要が多かったから、私にとっては都合が良かった。
大沼?
ははっ!死んでもごめんだな!
それから40くらいまで、喰うに困らなかった。
カエル狩りにも慣れたし、20年以上死ぬことも無かった。
だからかね、こうなったのは。
油断していたのだろう。まさか呪い殺されるとはな………
しかもそのせいで、このケッタイな『輪っか』が刻印されることになるとは。
ああ、目が覚めたらもう刻まれてたよ。
多分、『死』が引き金になったんだろう。
そこから先は、聞かなくとも大体分かるだろう?
この世の地獄だよ。
石を投げられ、糞尿を投げられ。
散々に追い散らされたよ。
名を変えて、顔を隠しても、何処かしらから素性がワレるのよなあ。
からがら寺院(ふるす)に還って助言を貰おうとして。
訊いてもいない『注ぎ火の秘儀』の探索の使命を聞いた。
他にやることも無いから、生きる権利を使命で買った。
私も、結局は母と同類だったよ。
はっはっはっ!
此処(ロードラン)か?
退屈しないな。
何せ、次から次へと『使命』『使命』『使命』だ。
忙し過ぎて、記憶も人格も摩りきれそうだ。
まあ正直、外界よりも気に入っている。
少なくとも罵声は飛んで来ないからな。
何よりも火防女だ。
灰の香り。火の匂いだ。
心が充たされる、丸で太陽のようだ。
貴公、知っているか?
祭祀場の下に幽閉されている娘を。
絶世の美形だ。
貴公と同郷だぞ。
名は確か…………………………
――――――――――
「っく」
ごきり。
首を回すと筋が音を発てた。
衰えたかな?無駄に歳を喰ったモノだ。
自分の出自は人間性と共に溢れ落としたのに、『自らの出自を語る自分』は覚えているという矛盾。
まあ今更か。
何せ『何を忘れたのか』さえ忘れ、『忘れた』という事実さえも忘れてしまうのだから文句の着けようもない。
明け方、カーレと別れた。
ついでに装備を変更する。
ロードランでは兎に角防御性能を重視した中・重量級の装備だったが。
平地の長距離を移動するなら、重苦しい甲冑は邪魔になる。
私は愛用の『聖職の甲冑』を脱いで、替わりに軽量の防具を身に着ける。
『ガーゴイルの兜』『チェインアーマー』『バルデルの手甲』『騎士の足甲』
剣も愛用の『神聖のクレイモア』と『塔のカイトシールド』から、お気に入りの『ロングソード』と『ヒーターシールド』へ。
これで装備重量は4割カット出来る。
防御性能も4分の1カットだが………
正直に言えば、ガーゴイルの兜が若干不満なのだが。主にデザインと物理防御が。
性能としては軽く頑丈で強靭、視界が広く使い易いのだが。
ちなみにロングソードは私のフェイバリッド武器で、全ての属性派生を網羅してコレクションしている。
白の原盤がもう少し入手しやすければな………邪教のロングソードを造るのは苦労した。
閑話休題(それはそれとして)
エレの教会を出て再び北上。
前方に奇妙な一団。
人数は1、2、3…5人程の小グループ。
芝刈り………野草採集だろうか?
身なりだけ見れば、何処かの集落の住民が野良仕事をしているとも見えるが。
ふぅむ。
遠眼鏡で軽く様子を探る。
ああ、駄目だこりゃ。
表情が明らかに正気じゃない。
昨日のカーレは確かに『生きていた』
目の前の彼等は『生きている』だけ。
亡者のようなモノだ。
視認されれば襲ってくるだろう。
迂回するべきか?
NO。
経験上、ああいう目に見える範囲の敵集団を安易にやり過ごして別ルートを進めると、場違いに強力な敵やトラップに出会すモノだ。
面倒だが、始末して進むのが良いだろう。
『静かに眠る竜印の指輪』と『霧の指輪』をセレクト。
距離を少し離し、『ファリスの黒弓』に『羽根矢』を番える。
狙いを定め、大胸筋を開くように弦を引き絞り、息を留めてストップ。
鷹の目の巨人に祈りを捧げて―
死ね。
弓が撓り、弦が弾け、殺意は呪詛となって鏃に宿り、違うことなく標的の頭に的中。
と、同時に『もう一本』矢を番え、間を措かず狙撃。的中。
亡者の頭がトマトのように砕けたところで一度息を吐く。
直後に後方にローリングを2回。
距離を離して、集団の様子を確認。
仲間が突如倒れたことで周囲を警戒し始める。
何かを捜すように右往左往。
しかし見て回る範囲に何も見つからず。
結局、仲間の死など無かったかのように、元の作業を再開し始めた。
やはり亡者か。
生きているように見えて意思は無く、何らかのルーティーンで刺激に反応するだけ。
想定より生命点は低いようだ。
今の手応えは1射目で絶命していた。
2射は不要。
ルーンも獲得出来た。
カーレから実物を取得させて貰えたからだろうか。
「さて………」
再び矢を番える。
ウサギはあと4羽。
増援、潜伏中の敵無し。
さっくりと狩ってしまうとしようか。
――――――――――
それから10分程でカタがついた。
丸でトンボ捕りのように楽な作業だった。
死体―恐らくその内に甦るだろうが―を改める。
遠くからだと農民のように見えたが、意外に仕立ての良い衣類を身に着けている。
それと、何やら遺灰のようなモノを所持していた。
これは………少々判らない。
ドロップアイテムの類いか?
まあ、邪魔にはならないので、ソウル化して仕舞い込む。
彼等は何やら果実のようなモノを採集していたらしい。
これ自体を食していたとは思えないので、恐らくは何かの薬品の材料なのだろう。
ついでに拾い集め、その場を跡にする。
腰が痛い。やはり歳かな。
これ、読んでて面白いのか、自分じゃ判らんのよなあ………