暫くバイクを走らせ着いた目的地。日は沈んでいるがそれでも煌々と輝く様子は昔ながらの建物たちが力強く生きていることの証明をしているように感じさせる。バイクを停めた後セナと横並びで通りを歩けばある程度の注目を集めていた。それが果たして端正な顔立ちを持つセナに向けられているものなのか、それともキヴォトスに於いて珍しい男に対して向けられていたのかは分からなかったがそこに悪い視線がなかったのだけは幸いといえたのだろう。
もし、その視線があれば消すだけだろうけど。
なんて考えていると隣から少し窘めるような声が聞こえる
「また変なこと考えていませんよね」
どうやら勘の鋭い彼女様はこちらの思考を読めるらしい。バレないよう少し誤魔化しを含む普段通りの声で
「んー?セナのこと考えてただけだよ」
と本当のことも嘘も含む言葉で返せば
「そうですか」
と一見ポーカーフェイスのまま返されるけどほんの少しだけ、本当に少しの朱が肌色に交じり溶けて消えるのを見る。人前だから抑えているのか、けどそっちのほうがこっちとしても良い。だって、
「意外と独占欲あるんだよ?俺」
「?そうですか」
先ほどまでの羞恥が鳴りを潜め困惑を混じらせた顔の頬にプニと指を突く。
「、、、何してるんですか」
「したくなっただけ」
柔らかくてほどよく弾力のあり瑞々しさを感じさせるその肌はいつまでも触りたいと思わせるほどに魅力的で、それに併せ彼女の顔も合わされば
(セナはやっぱりかわいいなぁ」
「声に出てますよ」
「ごめんごめん」
口に出るほどそう思うのも仕方の無いことなのだろう。
さすがは観光地という風に、町をぶらつけば人がそれなりに集まる店達を観察していればいくつか目を引くものが見つかる。そのなかでも特に目を引いたのは
「綺麗ですね、この髪飾り」
「あぁ、可愛らしい意匠だな」
セナが手に取ったのは花をモチーフにした髪飾り、白の髪色の彼女には良く映えるだろうなと思った。
「けどこの花ってさ」
「おっ、兄ちゃんこの花分かるか?」
どうやら店員なのか犬に似たおっちゃんが話しかけてくる。まだキヴォトスに来てから獣人と話していなかったなと思いながら
「アネモネ、ですか?」
「そうだ!良く分かったな」
「、、、友が良く教えてくれていたもので」
「おぉそうか!博識なんだなぁ」
そうだ、この花を教えてくれた友はアネモネをいつでも携えていた、もはやそれしか持てなかったのだろうか
「じゃあアネモネの花言葉は知ってるかい?」
「純真無垢、無邪気ですよね?タク」
無意識に喉元まで来ていた言葉に蓋をするようにセナが代わりに答えてくれる。彼女は意図しないで言ったんだろうが助かった。
「合ってる、よく知ってたな」
「昔聞いたことがあった気がしただけです。そこまで詳しくは知らないのですが」
と、少し自慢気な(気がする)彼女の頭を撫でると彼女の言ったアネモネのような綺麗な手触り
(落ち着くなぁ)
けれどセナがそこまで花言葉に造形が深くなくて良かった。アネモネのもうひとつの花言葉は、、、
(本当に純真無垢で無邪気なやつだったなぁ)
店員に別れを告げてまた歩き始めると段々人も減り少し寂れた道に出る。それでもネットに載っていただけはある、ある程度の人が残っていた。そしてそのなかにはやはり俺たちと同じところを目指そうとする人たちもいるようで、
「そういえば、目的地教えてなかった」
「いえ、知っていますよ。この先にある神社のことでしょう」
「当たり、よく知ってたな」
「前、ネットの記事に出てきました。そのときよりかは人も少なくなっていますね」
「まぁ、話題になったのは少し前っぽいからな」
ゲヘナでは珍しい神社。どちらかといえば百鬼夜行とかにありそうだかどうやらそこからの移住者や転校してきた生徒たちが造り上げたらしい。そしてそのときに同時に植えられたのが
「巨大な枝垂れ桜、か」
「きれいですね」
植えたときは普通並みの桜だったそうだそうだがどんどん大きくなっていって通常の5倍ほどまで異常成長したらしい。
流石枝垂れ桜と言うべきか神社の階段を上りきった2人の足元まで枝が落ちてきそうに枝が垂れている。それと同時に町より高い位置にあるこの場所では視界の下には街明かり、上には綺麗な満天の星が広がっている。流石に一時期騒がれただけの光景だと納得できた。
しかしふと横を見ればそれらを圧倒するような彼女のセナの顔がある。もしや、俺は今世界で一番綺麗なもので囲まれているのではないのか?と莫迦みたいに思っていると同時に先ほどお店の髪飾りを思い出す。セナが心惹かれたのなら買ってやろうと思っていたけど流石に過去の事と重ねてしまったものを贈るのはどうなのかと思い買えなかったが自分で作れば良いじゃんと思いつき早速行動に移す。
花は桜とかで良いかなと思いつつ手のひらのなかでその形を作り、出来を確めるがそこにあったのは
(これは、確か、ヘデラだったか?それに髪に指す部分に蔦が絡み付いて、、、)
「どうかしましたか」
「ッ!?い、いや、何でも」
「なんでもないときの顔じゃないと思うのですが」
急いで作り直そうとして出来たのはやっぱりヘデラの紅い花がついた髪飾りで、誤魔化せないなと思い彼女にそのまま新しくできたほうを渡す。比較的デザインはしっかりしていたがそれでもあまり見栄えは良くない。
「今作ったんだけど、やっぱり不恰好だ」
おどけてそう笑って彼女を見れば貫かれそうな程まっすぐな瞳
「不恰好じゃありませんよ、とても綺麗です。大切にします」
どうやら気に入ったようなのでなんとなく初めに作ったほうを自分の頭に着ける。幸い髪が長かったのと少し加工できたのでなんとか着けることが出来た。
「お揃い」
「、、、そういうことしますよね、貴方は」
セナがふにゃりと表情を崩した
その表情が普段のポーカーフェイスとそもそもの可愛さと相候ってとても綺麗で、さっきまで同じくらい綺麗だと評した後ろの夜景と町の灯と桃色の桜なんて足元に及ばないくらい綺麗で。こんな言葉達を並べるのも失礼だと思ってしまう。
「それにしても綺麗だ」
「えぇ、綺麗ですね」
どうやら俺が彼女の後ろの光景の事を言っていると思ったらしくセナが後ろに振返り彼女の後ろ姿が目に写る。その姿が何処か浮世離れ染みていて、何処かへ行ってしまいそうで。まるで、あの時みたいに。
咄嗟に彼女の腕を掴みこちらに引き寄せながら顔を近づけた。
彼女と身体が密着し、困惑を強めた彼女の顔を見て安心しながらそれでも離れたくなくて手首にあった指を彼女の指の間に滑り込ませギュッっと握る。
やはり困惑したまま手元に視線を落とした彼女が少し逡巡した後控えめに手を握り返してくれたとき
(もう少しとっておきたかったんだけど)
駄目そうだ、と思いながらセナの背中に腕を回しながら彼女と唇を交わす。ビクンと大きく一度跳ねた後、へにゃりと力が抜けたように腕を回してくる彼女のことがどうにもいじらしくて愛おしくて、腕の力が緊しと強まる。彼女の唇を勝手に奪ってしまった罪悪感と受け入れてくれた幸福と人の目から少しだけしか外れていない所でこんなことをしている背徳感が脳内で嵐のように暴れまわり麻薬のように心を蝕んでいく。蜂蜜のように甘い甘い蜜が蕩け出すように2人の唇の間に橋が架かる。どのくらい息をしていなかっただろうか、若干酸欠のようになった頭のなかでぼんやり考えながら荒い呼吸音だけ響かせる2人の間をひとひらの桜の花びらが吹き抜ける。祝福するかのように高く舞い上がったそれは町を見下ろすようにゆらゆらと舞いながら星空の中へ吸い込まれていく。こちらはもう満員だと言わんばかりの星々が見守る中、いつまでもいつまでもこの時が続けば良いのにとヘデラを頭に携えた死体が、時を進めることの無くなった心のなかで呟く。
暫くして、人が近づいてきてふたりして冷静になったが俺の方と言えばまだ熱い頭で頑張って語彙を絞り出す。
「あー、そういえばここの神社恋愛の神様だっけ」
しまった、明らかに今は違う話題出すべきだろなどと考え慌てていると極めて冷静に言葉が返される。
「そうですね、正に神様の力の通りですね」
と、言われたがヨクミテミルト彼女も真っ赤な顔で会話を頑張っているようでなんとなく可笑しくて笑ってしまった俺につられセナも笑う。アハハと笑いあっているといつの間にか人もいなくなっていたようで何時になったのかと確認すればかなり時間がたっていたことが分かり辺りも暗くなっていた。
「さて、結構遅い時間になったけど行こっか」
「どこへですか?」
「え?旅館だけど」
そう。当日でいきなり予約できるかなと思いダメ元で電話をしてみると意外にもすんなり予約が取れたので
「今日はここに泊まります」
「そんなこと聞いて無いんですけれど」
「言ってないもん」
「そういう問題では無く、それにこんなに立派なところ泊まるのにいくらかかるんですか」
「そーゆーのは気にしなくて良いの」
そう話しながら玄関口から入ると女将さんらしき猫の獣人が迎えてくれる。
「お待ちしておりました、お部屋はご準備できておりますのでご案内いたします」
「ありがとうございます」
「いえ、お礼をするのはこちらの方です。いきなりキャンセルが入ったもので用意していた食材や準備か無駄になるところを丁度電話して下さいましたから」
道中で女将さんの後ろを着いていく二人がコソッと会話を交わす。
「ホントにお金大丈夫なんですか?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。旅館二部屋取るくらいなら全然大したことねぇよ」
「、、、別々で二部屋なんですか?」
少しジトッとした目でみられた気がしたが気のせいだろうと思いながら
「そうだけど」
と返せば少し落胆したようすのセナ
「一緒の方が良かった?」
「そんなことは、、、あり、ます」
「え。ぁあ、そう」
そんな答えを予想していなかったのでなんか綺麗にカウンターを食らってしまった、不覚
「その、なに、やりたいことでもあった?」
「えぇ。やりたいことが、ありまして」
「なんか今含みが」
「ありませんよ」
「ソッカァ」
などと話しているといつの間にかある部屋の前で止まる
「さて、この部屋でございます」
「部屋まで案内してくれてありがとうございました、では彼女にも部屋の案内を」
と、女将さんを促すが、
「え?いや2人で一部屋ですが」
え?ん?は?電話では確か二部屋って
「ゑ?いや聞いてな「分かりました、ありがとうございます。では」
「いや、アノ、セナサン?」
「黙って部屋に入って下さい」
「ヒェ」
途端、セナに部屋に連れ込まれ聞こえたのは女将さんの「夕食は既にご準備できておりますのでごゆっくり」という言葉だけだった。
死んでも離れない
次回、ドキドキ同衾回!