人違いだと思う、いやマジで   作:平々凡々侍

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ご無沙汰してます、平々凡々侍です。
かなり遅くなりましたが新年明けましておめでとうございます。
今年もマイペース(牛歩かも笑)に更新していきます。
稚拙な文ですがまた気軽にお付き合いいただけると嬉しいです。




???/夢想

 

 目を開けると、どこかもわからない場所に突っ立っていた。

 

 その上、誰かの啜り泣く声も微かに聞こえてきた。

 

 立ちながら寝ていた記憶はない。というか立ち寝なんてしたこともない……と思う。誰かを泣かせた覚えだってない。

 

(どこだろ、ここ)

 

 視界に入る日差しに目を細めつつ足元を見ればそこには畳があって、次に辺りを見てみれば襖がある。どうやら自分は和室にいるらしい。不思議と懐かしさを覚えるような場所で頭の中はなんだかぼんやりしているというか霧がかったような感覚だった。

 

 おかしい。

 俺は今はヤヌス区内のとあるマンションの一室(1R)に住んでいる筈で、こんな和室は部屋にはない。そしてリフォームをした覚えもDIYした覚えもないときた。

 

(自分()じゃないのだけは確かだけど……)

 

 まぁ普通に考えて、目の前にある縁側と向こうから差し込んでくる日の光を見れば、ここが自分家じゃないことなんて熟考するまでもなく分かる話ではある。………じゃあ何でそんな場所に自分は立っているのか、なんて考え出すとここに来た記憶がさっぱりなこともあってちょっと……いや、実際かなり怖くて現実逃避しそうになってしまった。もしかして自分が忘れてるだけでここは自分家なんじゃ?とか、日差しが気持ち良くて立ちながらボーっとしてたんじゃ?なんて具合に。

 

 現実をちゃんと見ることにした俺はまず縁側の方を向き、そこにちょこんと座っている着物を羽織った子供の背を見る。さっきからチラチラ視界の端に目立つ金髪が見える度に気にはなっていたが、啜り泣く小さな声はどうやらこの子供のものであるようだった。

 

 子供が何故か知らないが泣いている。

 元々小さいであろう背は泣いて縮こまっているので更に小さく見える。

 

(なんで泣いてるんだろ?)

 

 子供が誰かなんて知る由もない。

 だけれども。だからこそ。

 単純に気になった。

 単純に放って置けないと思った。

 好奇心と親切心、その両方が大凡6:4ぐらいの割合でふと胸中に湧いた。

 

「ーーいい天気だね」

 

 初っ端かける言葉を間違えた気がしながらも、口に出したものは仕方がない。ええいままよ!とこのまま勢いに任せて行ってしまおうと俺は縁側に進んで啜り泣く子供の隣のスペースに腰掛け、

 

「ねぇ、どうして泣いてるの?」

 

 ーーただそう聞いて子供の顔を見つめようとした瞬間、世界(・・)が一変した。

 

 ────────────────────────

 

(! 何が起きて………また、どこだここ?)

 

 困惑しながら見た世界は真っ赤っ赤だった。火事が起きているようであちこちからパチパチという火花が弾ける音がする。辺りに煙はまだそこまで充満していないところから察するに火事発生から時間はそこまで経っていないようだった。

 

 辺りを見渡せば今自分が立っている場所は先程いた和室と何処となく雰囲気は似通っているように感じられた。だが、縁側が見当たらないところから考えるに同じ建物内の別の場所だったりするのだろうと俺は勝手に結論付けた。もしかしたらそもそもここが最初居た場所とは全く違う場所という可能性は大いにあるのだろうがそれならそれでいい。ぶっちゃけここがどこかなんてことに然程の興味もなかった。

 

 ただ「さっきの子供はどうなったのだろうか?」「ここから自分が無事に家に帰るにはどうすれば?」ということを俺は考えていた。瞬きの内に世界が変わるなんてこと現実にあり得るとは思えなくて、今一現実味を感じられてないからこそ慌てずにこんな思考ができているのかもしれない。

 

(夢、なのかな……?)

 

 お願いだから夢であってほしい。というか夢であれ。

 

「………ぁ」

 

 そう思いつつ何の気無しに横目で左側にあった襖を見て、サーッと血の気が引いた。俺の目に入った襖には赤い何か(・・・・)が大量に飛び散っていた。いや赤い何か(・・・・)なんて解らないフリをしたって仕方がない。それはきっと血だった。こんな大量のものはテレビや映画なんかでしか見たことがないがそれで見たものによく似た赤黒い色。誰のものかも分からない血がベッタリとついた襖。その光景から目を背けようと逃げるように下を見れば俺の足元にも同じ色はあった。幸いというべきか否か、その血を出したであろう誰かの姿はこの部屋には見当たらない。誰かが争った痕跡だけがこの部屋には残っていた。

 

「……………はぁ」

 

 血を見たことによる恐怖か不安か、少しの息苦しさと眩暈を感じながら落ち着こうと一度息を吐いてから俺は歩き始めた。前にある襖を開けて前に進み、また見えた襖を開けて進む。進む。進む。進む。進む。

 

 真っ赤っ赤の世界の中、一々見える誰かの血に嫌気が差しながらも開いた何度目かの襖の先で俺は足を止めた。

 

「君は……」

 

 目の前には誰かがこちらに背を向けて立っていた。その背中に俺は既視感を覚えて、

 

(さっき泣いてた子供……?)

 

 もしかしたら、と思った。さっき見た子供の背に比べて今見える背は随分と大きくなっているがどことなく面影があるような気がする。髪が同じ金色な点とか今時珍しい着物を羽織ってるのも同じだし。まぁ顔をちゃんと見れてる訳じゃないのに面影というのもおかしな感じだけど……。

 

「あの、大丈夫ーー」

 

 目の前にいる誰かになんて声を掛けて歩み寄ろうとして俺は思わず足を止める。

 

「え」

 

 今一度誰かを見てみればその右手には謂わゆる刀が握られていて、その刃からは血がポタポタと垂れていた。更に立っている誰かの前には何者かが倒れているようだった。……死んで、いるのだろうか?ここからは倒れている人の顔が見えないためよく分からない。

 

 もしかしなくても今目の前に立っているこの人は危ない人なのだろうか?そこまで考えて思わず無言で一歩後退りしようとした俺だった。

 

 が、足は不思議なことに前に進んでいて、気付けば俺は誰かの隣に立っていた。

 

 なんで俺はそんなことをしたのだろうか? 

 前に立つ誰かの肩が僅かに震えている様に見えたから?それがさっき見た啜り泣く子供の背とどこか重なって見えたから?それらしい理由を考えてみたが結局の所は「体が勝手に動いたから」この行動の理由はそうとしか言いようがなかった。

 

「君、大丈夫?」

 

 俺はそう聞いて先程そうしたのと同じように隣にいる誰かの顔を見ようとして、

 

 

 ーー気付いた時には、俺は砂漠に独り倒れていた。

 

 ────────────────────────

 

「………っ、はぁ、はぁ」

 

 なんだってこんなことになってるのか。わからない。

 どこを目指して自分が今歩いているのか。わからない。

 自分が何者でどこから来たのか。わからない。

 

 わからないだらけの中、砂の上を目的も何もわからないままにずっと歩いている。歩き出してどれだけの時間が経ったのかは定かではない。歩き始めた最初の頃はまだ日が昇っていた気がする。今は日が沈んで欠けた月が出ている。日が昇って、日が沈んで、また日が昇って、また日が沈んで、そんな光景をもう二、三回は見ているような………いや記憶も曖昧だからなんともいえないが。

 

 足はとっくにフラついている。何度も倒れたが何度も立ち上がった。砂の上なので倒れても然程痛みがないお陰だ。それをいうと足場が柔らかく不安定な砂のせいで何度も倒れている。左肩には覚えもない傷がある。付いてから間もないからか、それとも何かが原因で傷が開いたのかなんなのかわからないが血が出ているので右手で仕方なく押さえている。水分はいつから飲んでないか不明だがもはや喉の渇きは感じない。これって脱水症状ってやつ?と思ったがすぐに「だっすいってなんだっけ?」と疑問が湧いた。多分疲れで頭がどうになってしまっている。それがわかったので無駄に考えるのをやめようとした。

 

(おれ、なにしてんだろ)

 

 だというのに、雑念というのはキリがなく頭に過ぎってくる。

 

(なにをこんな必死になって……歩いてんだろ……どこに行けばいいかもわからないのに……つかれた、だるい、さむい、ねむい)

 

 考えてもわからないんだから仕方がない。考えるだけ無駄。それはわかってる。わかっているつもりだが、考えてしまう。そのせいで意識が歩くことに集中しきれずまた倒れた。そのまま意識が眠りそうになった。だがこのまま寝るとやばそうでなんとか手を砂の上について身を起こそうと力を入れ、上手く力が入らず顔から砂にペタンと倒れた。……口に砂が入って気持ち悪い。仕方がないので這いながら進むことにした。

 

「…………」

 

 ふと、自分は今何の為に生きているのか、気になった。

 

 わからない。ただ一つの想いがあった。

 

(生きなきゃ)

 

 何の為に?肝心なところはわからない。

 でも生きなきゃいけない。その確信だけがあった。

 

(生きて、生きて、生きて)

 

 誰の願いか望みなのか、それはわからないがずっと声が聞こえる。だから俺はこうして地を這っている。何かにどうしようもなく心を、体を、命を、突き動かされている。

 

 その何かの正体も理解できないままに這っていた俺は不意に夜空を見上げた。

 

 そこには満天とは言えずとも、確かに星が瞬いていた。

 

 届きもしない星を見つめて。

 

 届かないと知りながら手を伸ばして。

 

 俺は再び手を地につけて立ち上がろうと両の手に力を込めた。

 

 不思議と今度は上手く立ち上がれて、俺はまた歩き始めた。

 

(生きるよ、生きて……みせるから)

 

 それが、他の誰でもない、君の望みだっていうのなら。

 

 ────────────────────────

 

『十五歳の時、世界の終わりは絵空事だった』

『でも、ただ一つ、この世の終わりでも譲れないのは、あの黄昏に染まる砂浜、夕陽が海に沈み、花火が夜空に打ち上がる』

『たとえ明日が良いものでなくても今日より悪くはない』

 

(………ん、ん?)

 

 誰かの声がして俺の意識はゆっくりとだが覚める。

 

『この手紙を読んでいる時、お前も、お前の世界も』

『全部、変わってるだろう』

 

「………あー、テレビか」

 

 目を擦りながら徐々にはっきりしてきた意識で音のした方に目を向ければその先ではつけっぱなしのテレビがあってCMが流れていた。どうやら俺はソファーの上でテレビを見ながらいつの間にか寝落ちしていたらしい。テレビに表示されている時間は深夜の1時丁度だった。

 

(………なんかすごいしっちゃかめっちゃかな夢見てた気がする)

 

 まぁ夢って大体しっちゃかめっちゃかだろと言われたらまぁその通りだと思うけどさ。内容は……ぼんやりしてて思い出せそうになかった。

 

「ふぁあ〜……ねむっ」

 

 大きな欠伸を一つした俺は「変な時間に起きちゃったけど二度寝しよっかな」と思いソファから立ち上がってベッドに行こうとしてふと目の前にあるローテーブル、その上に置いてあるものが気になって手に取った。

 

(……なにこれ? ビデオ?)

 

 それは買った覚えもないビデオだった。ケースに書かれてあるタイトルは「家出」。テーブルにはビデオの近くにレシートも置いてあって見てみればそこには「返却期限」の文字があった。

 

「………あ、レンタルビデオかこれ」

 

 寝惚けた脳みそがちょっと遅れてそう理解した俺はビデオを一旦テーブルに置いてからズボンのポケットに入ったままのスマホを取り出し画面に表示された今日の日付とレシートの返却期限を照らし合わせる。

 

(しかも返却期限今日までじゃん!)

 

「えーっと……レンタルした店は、Random Play?」

 

 覚えのない店名に疑問を抱きつつスマホの地図アプリを起動。店名を検索しようと指を動かし「R」を入力した時点で一番上に「Random Play」が出てくる。どうやら俺がこの店でビデオをレンタルしたのは確からしい。

 

(今は深夜だし、二度寝して起きてから返却に行こっと)

 

 そう予定を決めた俺はスマホをテーブルの上に置き、改めてビデオを手に取って見てみる。

 

(…………知ってるような、知らないような?)

 

 不思議な話だが、そうとしか言いようがなかった。レンタルしたのであれば観た筈で知らない筈はないのだが……相も変わらずいい加減な記憶(あたま)である。

 

「ま、深く考えても仕方ないか」

 

 ちゃんと返却すればそれでいいだろう。さっさと寝よ。そう考えた俺はビデオを置いて今度こそ立ち止まることベッドに向かった。

 

 胸の奥に湧いた心当たりのない微かな寂しさに、気付かない振りをして。

 





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