僕のヒーローアカデミア 僕の師匠は異世界最強の魔導士!?   作:ポップ推しの視聴者

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ついに始まった騎馬戦。
3つのサポートアイテムを駆使して戦う緑谷チームは順調にポイントを加算していく。
だが、轟と交戦開始と同時にバックパック全損、アンカーショットの半壊を招く。
そんな絶望的な状況でも策を張り巡らせ、緑谷は轟チームから1000万ptの鉢巻を奪取することに成功する。
しかし、そんな劇的変化のなかで、一人だけは次に向けて動き出していた。


第20話 逆転に次ぐ逆転

会場の屋根の上からコートを見下ろす人物がいる。

緑谷魔歩、雄英高校の臨時教員として雇われた魔法使いであり、緑谷出久の師匠だ。

そんな彼は緑谷が1000万ptを奪取する瞬間を観戦していた。

そしてその策略には素直に感嘆の言葉を漏らす。

だがしかし、それだけでは終わらなかった。

 

「…言ったはずだったんだがな。勝ちを確信したときが相手の最も大きい隙だと。それはあいつ自身にも当てはまるのに。」

 

「それに、オールマイトも言ってたと自分でも言ってたんだがな。」

 

 

 

 

「トルクオーバー!!レシプロバースト!!!」

 

会場のけたたましい歓声を、観客の視線を、緑谷たちの意識すらも置き去りにし、飯田たちの姿が消えた。

いや、消えたように見えた。

 

「…え?」

 

緑谷は、何かが自分たちの横を通り過ぎたことを認知した。

そして、轟は辛うじてその凄まじい速度の中で、緑谷の首に巻く1枚のハチマキを掠め取ることに成功する。

全員がその光景を認知するまでに、僅かに間が必要だった。

 

「とら…れた?」

 

緑谷は呟くことしかできなかった。

 

「なっ…何だ今の超加速!?え!飯田かぁ!!?」

 

プレゼント・マイクの実況とすら呼べない大声に、会場も再度大きな歓声に包まれる。

 

「何度でも言うぞ…!僕は君に挑戦する!!」

 

1000万ptが再度奪取され、轟チームの手元に戻る。

そんな激動の得点争いの中、飯田は少し興奮気味に轟に状況を話す。

その技の反動でエンストして走れないことを手短く話す。

だが、残り時間は10秒、ここさえ耐え抜けば…

当然そんなことはさせないと、緑谷たちはすぐさま轟チームに突っ込む。

 

「常闇くん、攻撃!麗日さん、僕に個性(ゼロ・グラビティ)!!」

 

常闇はダークシャドウを轟チームに向かわせ、麗日の個性を受けた緑谷は空中に飛び上がる。

そして真空呪文(バギ)を使って轟チームの背後空中に回り込み、ダークシャドウと挟み撃ちの形を作る。

先に攻撃を仕掛けたのはダークシャドウだった。

しかし、上鳴の無差別放電攻撃がダークシャドウを寄せ付けない。

氷の壁を溶解し、爆豪チームも氷のフィールドに内に入ってくる。

空中から緑谷と爆豪が轟に迫りくる。

轟も棒を持ち、地面につけて氷結による防御の姿勢をとる。

そして放電攻撃はまだ続く。

そんな強固な防御陣を突破しようと2人が近づいた瞬間、試合終了の合図が会場全体に響き渡る。

上鳴の放電攻撃は止まり、空中にいた爆豪と緑谷はコートに落下する。

騎馬戦が終わったのだ。

麗日と常闇はすぐに緑谷に駆け寄り、発目は残骸と成り果てた自身のサポートグッズを急いで拾い集める。

1000万ptを取り返すことができなかった。

その事実が緑谷に影を落とす。

それも、一度奪取したその直後に。

 

(1000万ptを取ったことで…油断したんだ…バカだ!僕は!!)

 

1位:轟チーム

 

順位が発表されていく。

 

2位:緑谷チーム

 

だがしかし

 

3位:爆豪チーム

 

1〜3位のチームリーダーは誰もその結果に満足などしてはいなかった。

 

4位:心操チーム

 

そんな複雑な心境のまま、決勝トーナメントへと進むこととなったのだ。

 

「ごめん…みんな。1000万pt…取れなかった。」

 

緑谷はチームメイトに謝罪する。

チームメイトはその謝罪に驚く。

なぜ謝られたのか?

決勝に残ったのだからむしろ感謝を伝えるくらいであったが、緑谷は納得がいっていなかった。

最後の一瞬。

自分が油断したから1000万ptを取られたと、悔しそうに呟く。

それは緑谷だけではなかった。

爆豪も、3位という結果には納得がいっておらず、地面を何度も殴りつけていた。

 

「さすが轟さんです。2戦ともトップで通過するなんて。」

 

八百万は轟に向けて素直な賞賛の声をかける。

だが、轟から返ってくる応答は生返事であった。

八百万はそんな轟の様子に不満を感じて拳を握る。

 

(同じ推薦(対等)なはずなのに…轟さんの世界に私は…)

 

雄英高校ヒーロー科にたった4枠しかない推薦入学者であった八百万百。

轟も同じく推薦入学者だったからこそ、彼と自分を特別だと考えていた。

しかし、今彼の視線は自分ではなく緑谷に向いている。

確かに緑谷は一般入試を1位で通過し、個性把握テストも4位、体育祭の予選でも3位、騎馬戦でも2位という高水準の成績を残している。

それを理解してなお、轟の視線の先に緑谷がいることに納得をしきれない彼女がいた。

そんな勝利の感動を味わうもの、苦渋を飲むもの、その勝利に困惑するもの、当然と受け止めるものとし様々な反応が入り乱れる中、一人の言葉がその空気をきり裂く。

 

「んじゃあ!1時間の昼休憩を挟むぜ!!そっから午後の部だ!!」

 

プレゼント・マイクの言葉で観客たちも一度会場を離れる。

轟の奮戦の様子を見ていたエンデヴァーだったが、自身の息子が1位で通過したというのに、不満そうな表情で観客席をあとにする。

蛙吹は悔しそうに会場をあとにしながらも、決勝に残った芦戸に賞賛を送る。

だが、芦戸は自分が残れたのは驚きの対策として爆豪が選んだだけだと話す。

麗日も、飯田に先ほどの超必殺技(レシプロバースト)のことを話しにいき、お昼休憩に向かっていた。

飯田が、緑谷に挑むためだと話し、肝心の人物を探すも近場にはいなかった。

 

 

 

人気のない通路の端で、緑谷と轟が対峙していた。

轟はまるで緑谷を睨みつけるかのような鋭い目つきを向けており、爆豪とはまた少し違う冷たい威圧感に、緑谷はそれに少し気圧されていた。

何を話されるのか?

全く想像もできずに話を待っていると、轟はようやく話を始めた。

 

「…気圧された。てめえの制約を破りかけた。」

 

緑谷には分からなかった。

気圧された?制約を破る?何のことなのかと。

轟が左手を見つめたことでようやく理解する。

 

(左側の…制約か?)

 

使わなかった左側(炎の個性)のことだ。

轟は話す。

あの時あの場にいた、麗日や飯田、八百万も誰も緑谷から威圧感を感じなかったと。

だが、轟自身は確かに威圧感のようなものを感じたと。

そして、緑谷が火炎呪文を唱えた時に、つられて自分も左側を使いそうになったこと話す。

 

「俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ。」

 

【フレイムヒーロー:エンデヴァー】

 

雄英高校出身のヒーローで、個性:ヘルフレイムをもちNo.2の座に君臨する実力派のヒーローだ。

そんなエンデヴァーの息子がこの轟焦凍なのだ。

 

「…お前は、炎も氷結も使えるよな。」

 

轟の問いに困惑しながらも、その通りだと答える。

轟は続けた。

ヴィランが攻めてきた時の、魔歩先生と同じ個性を持つ緑谷は越えるべき壁だと。

そして話し始めたのは轟の身の上話だった。

 

「知ってるだろ?個性婚。」

 

【個性婚】

 

より強い個性を持つ子どもを作るために、個性で判断した相手と結婚し、子どもを作ることだ。

道徳に反すると、今では否定されているが、超常発生当初は多くの場所で行われていた。

そして、エンデヴァーもその個性婚を行った人物の一人だった。

熱と冷気。

その2つの特性を併せ持つ子どもを作ろうとして結婚し、生み出されたのが轟焦凍だった。

つまり、オールマイト(No.1)を超えるために、自分の代わりに轟焦凍をNo.1にしようとしているのだと言う。

 

「記憶のなかの母は…いつも泣いていた。」

 

そう呟きながら自身の顔の左側を左手で覆う。

 

「お前の左側が憎いと…母は俺に煮え湯を浴びせた。」

 

その言葉に緑谷は絶句する。

想像を絶する過程の状況にもはや緑谷は思考をすることもままならない。

 

「炎を氷も使うお前に、半冷(左側)だけで勝つことで…半熱(やつ)を完全否定する!!」

 

その顔は明らかに憎悪に染まっていた。

鋭い目で緑谷を睨みつけていたが、その憎悪の矛先が緑谷ではないことなど火を見るより明らかだった。

別次元の話だった。

自分が知っている家庭のレベルをはるかに超えている。

そんな彼に何を伝えればいいのか…。

動揺し、迷ってしまい言葉が見当たらない。

漫画やアニメであれば、間違いなく主人公とも呼べる存在だろう。

そんな緑谷の心の中には様々な感情がわき上がっていた。

畏怖、動揺、怒り、迷い…そして。

 

(でも…じゃあ【あの時】君は…。)

 

彼は轟に一陣の落胆を感じていた。

轟は既に通路から離れ、食堂に向かって歩き始めていた。

言葉はまだまとまらない。

だがそれでも今の轟に何も言わないのは彼の心が許せなかった。

 

「僕は…助けられてばかりだ。さっきも…。」

 

後ろから追いついてきた緑谷に気づいて振り返る。

 

「笑ってみんなを助けるヒーローになるには、誰よりも強くならなきゃいけない…。」

 

緑谷は真っすぐに轟の目を見つめる。

それに応えるように轟も緑谷に視線だけでなく、身体も向き直る。

 

「だから…No.1は譲れない。」

 

変わらない。

轟の事情を把握してもなお、自身の夢のためにそれを覆らせることは出来ない。

それが緑谷のひとまずの答えだった。

だが、それともう一つ、緑谷は伝えたいことがあった。

 

「轟くん、最初に控室で言った宣戦布告。」

 

轟が振り返り、憎悪の潜む瞳を彼に向ける。

 

「かっこよかった…そう感じてた。」

 

突然の言葉に轟の怒気は少し削がれた。

かっこいい、何故いきなりそんな事を言い始めたのか分からない。

 

「でも、今はそう思えない。」

 

まっすぐ轟を見つめる。

 

「負けたくない。今の君に。」

 

何故わざわざ言い直したのか、何故かっこいいなどと勝負に関係のないことを話したのか、それらの答えは轟の頭に浮かぶことはない。

だが、その言葉に真っ向から反発するように緑谷を睨みつけると、その場を立ち去っていく。

そんな轟を少し不満の残る視線で見送ってから、食堂へと移動する。

食堂はすでに満席に埋まっており、料理を受け取った緑谷はどうしようかと途方に暮れていた。

どうしようかと迷っていると、そんな緑谷を呼ぶ声が聞こえる。

そこに視線を向けると、飯田と麗日が緑谷の席を確保していたらしく手を振って呼びかけていた。

緑谷は安心したようなため息をはきながら、その席に座り二人にお礼をいう。

ご飯を食べながらも、話は当然というべきか先ほどの騎馬戦の話になった。

飯田の恐ろしい超加速、【レシプロバースト】そのインパクトはそれほどまでに凄まじかった。

 

「飯田くんあれ凄かったね!ズバーン!!って!」

 

「あれは本来間違った使い方だけどな…。」

 

飯田は、レシプロバーストの理論を説明する。

強制的な過剰加速、その反動によるデメリットを簡単に説明した。

だが、そのデメリットを加味しても

 

「あのスピードに対応するのは至難だよ。」

 

驚異の加速力と最高速度だった。

緑谷は飯田と対峙した瞬間のことを思い出す。

反応すらできなかった。

気が抜けた一瞬とはいえ、何かが起きた、その程度の認識しかできなかった。

あれと正面から対峙して、何とかできる方法を考えなければ…

 

「決勝では…勝てない。」

 

思考しているつもりだった。

だが、緑谷の悪癖とも言うべきか、思考が言葉になって思いっきり出ていた。

それは当然その場の二人にも聞こえる。

 

「そうだよ緑谷くん。僕は、この力も使って君に勝つ。」

 

挑戦ではなく勝つ。

飯田は緑谷に向かってそう言い切った。

緑谷は飯田に宣言されたことでようやく自身の思考が声として漏れ出していたことに気がつく。

目を丸くしてアワアワと動き出すが、直ぐにその動きを止める。

少しだけ思考を巡らすと、飯田に向かって言葉を返す。

 

「負けないよ、僕だって。優勝するのは…僕だ。」

 

そんな強気の目線を見せつける。

飯田もそれに応えるように笑みを浮かべる。

そんな二人の様子に男の戦いの気配を感じながらも、自分がその世界にいないことに気がつく。

そんな二人に羨ましさを感じながらも、そこにいない自分に悔しさを覚える。

そんな二人の世界を壊すかのように大きな声を上げる。

 

「く〜!かっこいいね2人とも!!私だって負けてられないよ!」

 

2人に向かって拳を握る。

 

「私だって負けないよ!私も決勝に行くんだからさ!」

 

その言葉に2人も麗日に顔を向けて、頷くことで答える。

そんなお昼ご飯を過ごすと、会場に戻る。

レクリエーションの次に決勝トーナメントを行うらしい。

ミッドナイトの説明では、一対一のガチンコ勝負になるらしい。

そんな決勝トーナメントの抽選を行おうとした瞬間、会場に一つの弱々しい声が響く。

 

「俺…辞退します。」

 

その言葉に会場にいる全員が目を丸くする。

その言葉は決勝トーナメントに残れた尾白のセリフだった。

全員が動揺する。

どうして…と。

すると尾白は、自分は騎馬戦で後半まで意識がほとんどなかったことを話す。

そして、全員が勝つつもりで必死に到達したこの場に自分が立つことは自分自身が許せないと話した。

それと同様にB組の庄田ニ連撃も辞退を進言した。

周りはもちろん2人の辞退を留めたが、彼らのプライドがそれを許さずに、ミッドナイトの判断で2人の辞退が認められ、鉄哲と塩崎の2人が決勝トーナメントに進出することが決まった。

そしてトーナメント表が明らかになる。

緑谷の初戦は尾白が警戒していた普通科の心操だった。

そして、レクリエーションが行われる。

対策を積むもの、気を休めるもの、集中するもの、緊張を紛らわせるもの、レクリエーションに参加するもの。

それまでの準備は様々だった。

緑谷は、尾白に心操の話を聞いていた。

おそらく問いかけに答えることで作動するタイプ。

そして衝撃などで解けるのではないか?

という仮説を聞かされる。

緑谷は尾白の話を聞いてから対策を考えると、一度選手控室に移動する。

まだそこには誰もおらず、一人の空間だった。

それを確認した緑谷は、控室の床に座り座禅を組む。

大きく息を吐いて体の力を抜き、意識を深く深くへと落とし込む。

緑谷はリラックスをしつつも意識を自身の身体に巡る魔力へと集中させる。

 

【瞑想】

 

魔法力を高めたり、回復させたりする技術だ。

障害物走、騎馬戦と魔法を何発も使い魔法力を消耗していた。

その魔法力を少しでも補充するために、瞑想でレクリエーションが行われている中回復に努める。

やがて、レクリエーションも終わりに近づき緑谷の初戦が近づく。

緑谷は立ち上がり、拳を握ったり開いたりして挙動を確認する。

 

(魔法力は…8割くらいか?不安ではあるけど、やるしかない。)

 

拳を強く握りしめて覚悟を引き締める。

会場へ向かう通路を歩いていると、オールマイトとすれ違う。

 

「緑谷少年。どうだい、決勝への意気込みは。」

 

「き、緊張してます…。僕なんかがこの場所に立っていることが…。」

 

そんな緑谷のセリフにオールマイトは大きなため息をつきながら緑谷の頭にチョップを繰り出す。

緑谷は少しだけ痛く頭を押さえながら目を丸くしてオールマイトを見つめる。

オールマイトは笑顔を浮かべながら緑谷にこう告げた。

 

「ヒーローってのは怖い時、不安な時こそ笑っていくもんだぜ!そんなガチガチの顔じゃ、誰も安心できないさ。」

 

その言葉に緑谷は力強く頷く。

そしてゲートに向かって歩を進める。

 

「Hey!準備はいいか!!?」

 

プレゼント・マイクの言葉に会場は盛り上がりを見せる。

 

「結局いろいろやってきたが、やっぱりこれだよ!ガチンコ勝負!!」

 

その決勝トーナメントの開幕を告げる言葉に会場のテンションはさらに加速する。

そして第一回戦の選手の名前が高らかに紹介される。

 

「3位!2位!と順調に順位を伸ばしてる!!このまま次は1位に昇格か!?緑谷出久!!」

 

その紹介と同時に緑谷はゲートから競技場内へと歩いてくる。

会場の歓声が緑谷に注がれ、緊張しつつも笑みをつくってセメントスのつくったバトルフィールドに向かって歩いていく。

 

「VS!!」

 

「ごめん!まだ目立った活躍はなし!普通科、心操人使!!」

 

心操も紹介を受けながら対極にあるゲートから歩いてバトルフィールドにやってくる。

2人の選手がバトルフィールドで対峙する。

プレゼント・マイクはこの決勝トーナメントの戦いのルールを話し始める。

基本は何でもありのガチンコ勝負。

敗北条件は場外、行動不能、降参宣言。

ただし、殺すのはクソだとのことだ。

当然。

ヒーローは敵を殺すのではなく捕まえるために存在しているのだから。

セメントスもクソの場合は試合をとめるとのことだ。

 

「まいった…か。」

 

心操が話し始めたことで、緑谷は警戒を高ためる。

彼の話に応答したら終わる。

それを理解しているため、口を固く引き締める。

心操は続けて話す、これは心の強さを問われる戦いだと。

 

「強くなりたい将来があるなら…なりふり構ってちゃダメなんだ。」

 

その言葉には、言葉以上のなにかが秘められていたことを緑谷はすぐに察知する。

何かある、何かを持っている。

 

「Ready…」

 

「あの猿はプライドがどうとか言ってたけど…」

 

「START!!!」

 

「チャンスをドブに捨てるなんて馬鹿だと思わないか?」

 

もはやプレゼント・マイクの開始の宣言など緑谷の耳には届いてなかった。

緑屋の耳に届いていたのは、心操が言い放った尾白への罵倒だった。

一瞬、彼の頭に血が昇る。

目を見開き、拳を握り口元にも力がはいる。

だが…それは一瞬だった。

緑谷は1度目を瞑って大きく深呼吸をする。

もう一度繰り返す。

次に目を開いた時、その瞳から怒りが消えていた。

拳は握ったままだが、その目は感情をみるのではなく戦場を見ていた。

心操はその様子に舌打ちをする。

 

(あいつに何かを伝えられたか?)

 

「いいよなぁ、お前は恵まれてて。」

 

心操は緑谷に話しかけ続ける。

そんな様子を見ていた相澤は2つの紙を見比べながら話し始めた。

入試の不合理を。

入試での仮想敵はロボットであるため、心操の実力を正しく測ることができなかったのだ。

心操の個性は【洗脳】。

問いかけに応じた者の意識を乗っ取って指示通りの行動をさせる個性だ。

そしてその発動条件は尾白がある程度見破っており、緑谷に話していたことで緑谷も対策を取っていた。

 

「お前…いい個性だよな。火も風も起こせるなんて…かっこいいぜうらやましい…!」

 

その言葉が緑谷の心に響く。

だが表情は変えずに見据える。

 

「俺はこんな個性のせいで…出遅れちまったよ。」

 

その言葉で緑谷の心にある感情が生まれる。

そして、緑谷は左手を腰の後ろに隠して、右手を心操に向ける。

心操は何かを放たれると警戒して睨みつけるが、緑谷の行動は予想とは大きく違った。

人差し指を立てて2回、自分に向けて動かした。

 

「なにー!!?なんと、ヒーロー科緑谷出久が、普通科の心操人使に向かって挑発!!?」

 

その緑谷の行動に会場もどよめきを隠せない。

相手は普通科。

そんな普通科の相手にヒーロー科が挑発するなど弱者をいじっているようにしか見えなかった。

その行動に心操も侮辱を感じて、苛立ちをあらわにする。

その挑発に乗るように心操は緑谷に駆け出していく。

 

「おぉと!心操、緑谷に突撃!!正直やっちまえ!!」

 

プレゼント・マイクの贔屓な実況に少し苦笑いをするも、すぐに意識を心操に集中させる。

彼の言葉には答えない、だからこそ【行動】で語ることにした。

心操は右拳を振り上げて、緑谷に殴りかかる。

緑谷はその攻撃に右手を添えて受け流す。

心操は緑谷を通り過ぎて、目を丸くするもすぐに再び緑谷に向かって拳を振り下ろす。

だが、緑谷はその心操の攻撃すべてを右手一本でいなしていく。

 

「おぉ!?緑谷、流れるような動きで心操の攻撃をシャットアウト!!?」

 

心操の繰り返される攻撃をすべて、技で捌いていく。

心操は舌打ちをしながらも諦めずに攻撃を繰り返す。

が、それが意味をなすことはない。

それどころか、

 

「はぁ…はぁ…、くそ!」

 

疲れ始めた心操を見極めると、胸に右手を押しつけてそのまま突き飛ばす。

心操は緑谷の力に負けて、フィールドのうえに転がる。

心操が起き上がろうとするも、それより前に緑谷が心操に近づいて襟をつかんで投げ飛ばす。

心操はラインギリギリまで投げ飛ばされてなんとか止まる。

 

「緑谷!!勝利に王手か!!?」

 

「くそ…うらやましいぜ。恵まれた人間がよ!!」

 

「お前には俺の…こんな個性(洗脳)でも夢見ちまう俺の気持ちがわかるわけねえだろう!!」

 

そう叫びながら突撃してくる心操。

心操は緑谷の体を掴んで、場所を入れ替えることで緑谷を逆にラインギリギリに立たせる。

そのまま力ずくで押し切ろうとするも、緑谷の体は動かない。

目を見開いて渾身の力を入れるも緑谷の体はびくともしない。

 

「強…!?」

 

緑谷は心操の足を払う。

心操はバランスを崩して前に倒れ込む。

緑谷のすぐ後ろはライン。

当然、前に倒れ込んだ心操はそのラインを越えてしまった。

ミッドナイトが心操の敗北を宣言し、緑谷の2回戦進出を大々的に告げる。

会場は大きな盛り上がりを見せる。

最初の2回戦進出者が決まった。




騎馬戦の決着から本戦第一回戦まででした。
心操戦もかなり大きく変化しているポイントになります。
緑谷は魔法こそ使えるものの未だ無個性であることは変わらない。
それ故に個性を持つ心操には色々と感じることも思うこともあると思います。
次回は心操と緑谷の会話からですね。
次回もよろしくお願いします。
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