【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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割とデカいオチあります。お見逃しのないよう。

また文章後半は『REMENBER』を聞きながら読むといいかもしれません。

もしくは、呪術関係ないけど、
BLUEENCOUNTの『Survivor』なんてオススメです。



第8話「紡双」

 

「なんで『投射呪法』持ってんだ。ってのは、置いておくとして――回復も速いな、あれ」

 

「ん、デカいのたくさん当てないと無理。でも、」

「入れさせてはもらえないか――どれ」

 

 刹那。婪佳久(らんかく)は、過ぎ去る全てを見る他にできなかった。

 

 大気が裂かれる甲高い慟哭と共に、

 閃いた二つの亜音速。

 

 

 

「『投射呪法』対『爆縛呪法』……速度勝負と行こう

 

 

 

 ぎゃぎゃぎゃっ、と。

 飛び出した少年は韋駄天の如く。ターボババアと並走し、立ち合い、撃ち合って一合。

 互いに飛び退いて構え、相対し合った。

 

 

 

「……うん、これが限界だな」

 

「いや勝てないんかいっ!」

 

「仕方ないだろッ、こちとら一度でも触れられてフリーズしたら、『線』から落ちてマグマ直行だ。投射呪法の方が小回り効くんだよ――それに」

 

「ヤツは、領域持ちだ」

「……!」

 

 

 

 ――説得力しかなかった。

 

 二人の間の緊張と停滞。それはさながら、

 ガンマンの早撃ちが如く先手を争う――猛者の世界!

 

 

 

「領域を封じるので手一杯なんだよ。『天逆鉾(こいつ)』ありきのイーブンだ。向こうも掌印の隙を晒せない、互いに一手でも通れば負ける、下手の打てない千日手。それが限界――互いに、それ以上ができない」

 

 

 

 さっきまで領域を使われる想定をしてなかった身の上。

 黙ってこくこくと頷くしかない。

 

 

 

 ……間違いなく、彼らの技量は、わたしより上だ。

 

 

 

「つまり――私が当てられるか」

「あぁ、そうなるな」

 

 だが、やはり。

 引き腰を叱咤し、立ち上がる。

 

 

 

 間違いなく――呪力量だけなら、わたしが一番!

 

 

 

「禍福、ゼッタイ当てる。だから付き合って」

 

「……俺に命を賭けろと?」

「わかってんよ。トチったら殺す、でしょ?」

 

 刺すような視線を、ヘラヘラ笑って返した。

 笑うのもまた戦いだ。隣り合い、構えをとる。

 

 

 

 ――あんな悪意を前にすれば、コイツなんて可愛いものだ。

 

 

 

「能天気め」

「そりゃどーも」

 

 

 

 駆け出すターボババア――足手纏いがついたと踏んだらしい――上等、後悔させてやる――!

 

 そう、軽口を最後に、呪力が沸る。

 呪いの幻音は、死の都に響いた――。

 

 

 

―――

――

 

 いくつものビルを突き通り、線路を突っ切り、

 ――渋谷の隕石跡の上、超速はぶつかり合う。

 

「ひゃはははは――っ!」

 

 特級呪霊・捷疾鬼婆(ターボ・ババア)

 それは『暴走』、突っ走るという概念の呪霊。

 高速道路に不定期で出現し、観測者以上の速度で抜き去る無法の象徴――それだけに。

 

「全く勉強になる。崩す気満々だな」

 

 まるで疲れなし。

 圧倒的速度による手数、勢いの押し付け。

 

 

 

 相手の揚げ足を取り、我のあり様を押し通さんとする極まった対話拒否を受けながらも――かろうじて対応を間に合わせ、禍福は延命していた。

 

 

 

 両者の是非は、どっちの攻撃が当たるか。

 

 『投射呪法』のフリーズと『天逆鉾』。

 どちらが通るか。それのみ――故に。

 

 

 

 その時まで、互いに気づけなかった。

 

 

 

「だバーァ!?」

「なに!?」

「ゲコっ」

 

「……!」

 

 

 

 一撃が、通った。

 

 

 

 ヤツの真後ろ。自分の裏をかこうと動いた場所に。

 分かり切っていたとでも言いたげに。

 

 なぜそこに――式神の足で移動したのか。

 だが、なぜ拳が当たる。なぜ間に合う!?

 

 

 

「禍福!」

「――、っ!」

 

 

 

 生じる一秒のフリーズ。

 そこに同時、呪力を撃ち込む。前後同時の一撃。

 だが、二つの位置はわずかに合わない。

 

 被害は、片腕が吹っ飛ぶにとどまった。

 

 

 

「いや、十分!」

 

 

 

 逃げ出すその背を、速度で追いついて、『天逆鉾』で追撃する。

 

 片腕がないぶん体制は不安定。

 さっきより速度が出せなくなった!

 

 問題なく刃が捉え、術式中断。足が止まる。

 そしてそこに、

 

 

 

「はい、そこっ!」

「バ――!?」

 

 

 

 やはり、拳が待っている。

 

「そうか――呪力に乗った負の感情を!」

 

 

 

 そう。これは後出しジャンケンである。

 

 婪佳久は体質上、呪力の悪意が読みとれる。

 呪力の意図が、近くにいるだけで感じられる。

 

 それで、禍福とターボババアの次の行動を予測していた――。

 

 

 

(いや、にしたって、なんで行動が間に合――)

 

 

 

 だが、断じて先読みではない。

 あくまでも呪力を出された上での知覚。

 

 その場の悪意ともなれば具体的でなく直感的。

 能力の全貌把握には時間を要する。

 

 ましてや、初見技まではわからない。

 

 

 

「ばッ、バ――ッ!!」

 

「うお!」

「わっ」

「ゲコー!?」

 

 

 

 死を意識した、覚醒。

 追い込まれた獣が見せた意地。

 

 術式対象の拡張により、

 手でなく、足で作動したフリーズ。

 

 

 

 その蹴りをひとつ、間隙を作り――ターボババアは逃げ出した。

 

 

 

「クソ。蛙の式神は消えたか!」

 

 

 

 だが。そもそも一度でも触れられれば負けなのが禍福だ。

 

 即座のシン・影流『簡易領域』によるジャストガード。

 フリーズを避けて追いかける。追い上げる。

 今の速度なら間違いなく追いつく――それだけに。

 

 

 

「――なんだと」

 

 

 

 ――驚愕した。背後、地を穿った爆音と衝撃。

 

 呪力の爆発――暴力的極まる速度問題の解決。

 身を飛ばし、距離を殺した婪佳久は――彼らの競争に割って入っていた。

 

 

 

 

 その白い体には、紅い紋様。

 呪印の一部が、浮き出ている。

 

 

 

(暴走――いや違う。これは!)

 

 

 

 ……婪佳久は今、術式『受愚載転』を、呪力による身体強化に動員していた。

 

 むろん、コントロール範囲を超えた呪力行使。

 体から呪力がはみ出す暴走まっしぐらな行為。

 だが彼女は、ある解釈により、呪力の『手放す方向』を限定した。

 

 それは、肉体の逸脱でなく肉体の延長としての運用――ブースター噴射による、体の後押し。

 

 

 

(素の実力で、俺たちについてくるというのか!)

 

 

 

 ――溢れる呪力で、身を押し出す!

 

 これは、過剰強化された肉体の限界突破。

 受愚載転『疑似紡操(フェイクブースト)――こいつで、間に合わす!!

 

 

 

「ちょこざいなッ、てんだよ――!」

 

 

 

 もはや地に足を着かず、一直線に迫る突進。

 それを遮る、ターボババアの手、邪魔立て(フリーズ)の発生を――すかさず、禍福は『天逆鉾』で封殺。道は開かれ、

 

 

 

「小手先がなんだ、結局は――!」

 

 

 

 かくして、悉く――攻撃は通った。

 予測に従い、限界稼動する圧倒的呪力の塊。

 音速突破手前で迫る『天逆鉾』。

 

 

 

 即興というにはできすぎたダンス。

 一カ月間任務を共にした二人の、かつてない連携――崩す側は、崩される側に回った。

 

 手数でも火力でも負けた上で、小手先の捌き芸など焼け石に水――そう。

 

 

 

「最後は――暴力(フィジカル)だろーがッ!!」

 

 

 

 宣言通り、完勝の実現。

 息ぴったりに叩き込まれた二つの呪力が、ダメージレースに勝利した――わけだが。

 

 

 

(……こんなふうにだけは、死にたくないなぁ)

 

 動きながらも、そのオーバーキルぶりに、禍福は最早ドン引きであった。

 

 

 

 ――足掻きも虚しく、復活叶わず、足を叩き折られ、ついには馬乗りにされて。

 ただただ呪力で、間髪入れず、死ぬまで殴られる。

 

 おそらく五条悟の通常攻撃の半分以上ある威力を、叩き込まれるターボババア……。

 

 

 

 思わず、禍福は同情を禁じ得なかった――。

 

 

 

―――

――

 

「やー。出し切れた出し切れたっ!」

 

 

 

 いやーいい仕事をしたもんだ。

 とまじりっけなしの晴れ晴れ笑顔。

 

 

 

 だが禍福は、ひとつ気がかりがあった。

 

 

 

「なぁ。なんで伏黒さんの式神が消えたんだ」

 

 

 

 コイツの呪力量からして、破壊されたわけじゃないハズだ――そうなると。

 

 

 

「ん? どーだろ、蛙さんの感情しかわかんなかったからなぁ。ま、なんかあったんじゃないかな。どっかで恨み買ってたとか?」

 

「一言余計だが……そういう事だよな」

 

 

 

 ――それは、この戦いよりはるかに優先の事項。

 

 それぞれ勘付き、向こうを見やる。

 さっきまで自分らのいた八王子。そこには、

 

 

 

「「――領域」」

 

 そう、大規模な、領域展開が為されていた。

 

 

 

「禍福、待って」

「何故だ」

 

「退避しろって言われてるの、私たち」

「それって――」

 

 

 

 向こうには、確か特級が二体。

 俺たちは二人がかりでやっと一体祓って、呪力はカラカラ。

 

 ――そりゃ、行ったところでどうこうなるまい。

 

 

 

「てか、私が無理だよ。なんだかんだ渋谷まで来ちゃったんだから」

 

「――ん? なんで、ここから八王子の領域が見えんだ?」

 

 

 

 綺麗に二度見をかます禍福など捨て置き、

 

 

 

「いいから、さっさと戻ろ。巻き込まれるよ」

 

 

 

 努めて軽薄に、彼女はそう言って歩く。

 

 

 

 けれど――やはり。

 とても。楽には見えそうになかった。

 

 

 

「わかった――戻ろう」

「……いいの?」

「パンピー三人よりはな」

 

 

 

 そっか、と。そいつは笑った。

 

 

 

 ――帰ったら、家入さん直行だろう。

 自分の呪力で手足を壊したなんて。

 普通、あり得るモノではない――。

 

 

 

「不相応だよな、本当」

「……アンタほどじゃないよ」

 

 

 

 その後は、珍しく。

 そいつは、黙って運ばれていた。

 

 

 

 ……あの笑顔が、軽く見えなかったのは。

 きっと、それこそ。ひどい怪我のせいだろう。

 

 

 

――

―――

 

「……おかしいな。二対一と思ってたんだが」

 

 魔虚羅が、消された。

 なぜそうなったのか。答えは目の前にあった。

 

 

 

 ――そこは、快晴の下だった。

 距離感のおかしくなる、広々とした夏晴れ。

 

 だが太陽がない。誇張抜きに、全方位から光が来る。影が全く生まれない。

 

 式神が存在できる媒介(ぜんてい)――『影』が消えた。

 だから摩虎羅は、問答無用で消されたのだ。

 

 

 

 上空。自分を眺める大きな一つ目は、いったい何キロメートルあるのだろう。

 

「未登録の特級、自然のカテゴリ――『空』の呪霊、ってとこか」

 

 ともかく。どうやら、これは。

 

 

 

「鉄、鉄ノ味、鉄ノッ!」

 

 

 

 ――黒沐死、虹龍。そしてこの領域を張った一体。

 

 俺――伏黒恵は。

 特級呪霊三体を、同時に相手する必要があるらしい。




お待たせしました。次回から伏黒戦です。
サポートだけでも既に十分な仕事をしていますが、
こっからが本番戦です。是非ともお見逃しなく。



【オマケ①・ターボババアは劣化直哉】

 このターボババアの強さは、
 人間のころの直哉以上、呪霊直哉以下の設定です。

 とはいえ、尋常でない回復速度と手数。
 逃亡も辞さない狡猾さ。
 仕留める上では、実力者でも方法を選ばされる側になるでしょう。

 てか、逆に一級で仕留められる人いるんですかね?
 そこそこ手に負えないヤツな気がします。

 呪術高専一年生の今時点で、
 伏黒のサポートありきとはいえ、
 禅院家当主以上の呪霊を二人がかりで倒せた。

 と書くと結構すごい、のかも?



【オマケ②・『疑似紡操』について】

 シン・影流『簡易領域』や『落花の情』によるカウンターは、
 あらかじめ設定したモーションをオート再生するものでした。

 その前例から、条件次第では『体で呪力を動かす』のでなく、
 『呪力で体を動かす』こともできるのでは?

 と思って作った、親子関係逆転の能力です。

 とはいえ、婪佳久の呪力コントロールの精度では、
 大雑把に「ロケット噴射を背中に備えさせる」程度しかできません。

 加減を放棄したアクセルベタ踏み行為のため、
 燃費最悪で自壊必死、オマケに直進しかできないという欠陥技ですが、

 推進力にモノを言わせれば高速飛行が可能となります。

 そこにエスパー染みた察知能力と、
 呪力の砲弾によるロングレンジ攻撃が加わると思うと、
 ほとんどニュータイプの乗ったモビルスーツみたいな挙動になってそうですね。

 まあこんなの使ってたら体がいくつあっても足りないので、
 真衣ちゃんの『構築術式』みたく、
 下策も下策の最終手段といえるでしょう。
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