【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
また文章後半は『REMENBER』を聞きながら読むといいかもしれません。
もしくは、呪術関係ないけど、
BLUEENCOUNTの『Survivor』なんてオススメです。
「なんで『投射呪法』持ってんだ。ってのは、置いておくとして――回復も速いな、あれ」
「ん、デカいのたくさん当てないと無理。でも、」
「入れさせてはもらえないか――どれ」
刹那。
大気が裂かれる甲高い慟哭と共に、
閃いた二つの亜音速。
「『投射呪法』対『爆縛呪法』……速度勝負と行こう」
ぎゃぎゃぎゃっ、と。
飛び出した少年は韋駄天の如く。ターボババアと並走し、立ち合い、撃ち合って一合。
互いに飛び退いて構え、相対し合った。
「……うん、これが限界だな」
「いや勝てないんかいっ!」
「仕方ないだろッ、こちとら一度でも触れられてフリーズしたら、『線』から落ちてマグマ直行だ。投射呪法の方が小回り効くんだよ――それに」
「ヤツは、領域持ちだ」
「……!」
――説得力しかなかった。
二人の間の緊張と停滞。それはさながら、
ガンマンの早撃ちが如く先手を争う――猛者の世界!
「領域を封じるので手一杯なんだよ。『
さっきまで領域を使われる想定をしてなかった身の上。
黙ってこくこくと頷くしかない。
……間違いなく、彼らの技量は、わたしより上だ。
「つまり――私が当てられるか」
「あぁ、そうなるな」
だが、やはり。
引き腰を叱咤し、立ち上がる。
間違いなく――呪力量だけなら、わたしが一番!
「禍福、ゼッタイ当てる。だから付き合って」
「……俺に命を賭けろと?」
「わかってんよ。トチったら殺す、でしょ?」
刺すような視線を、ヘラヘラ笑って返した。
笑うのもまた戦いだ。隣り合い、構えをとる。
――あんな悪意を前にすれば、コイツなんて可愛いものだ。
「能天気め」
「そりゃどーも」
駆け出すターボババア――足手纏いがついたと踏んだらしい――上等、後悔させてやる――!
そう、軽口を最後に、呪力が沸る。
呪いの幻音は、死の都に響いた――。
―――
――
―
いくつものビルを突き通り、線路を突っ切り、
――渋谷の隕石跡の上、超速はぶつかり合う。
「ひゃはははは――っ!」
特級呪霊・
それは『暴走』、突っ走るという概念の呪霊。
高速道路に不定期で出現し、観測者以上の速度で抜き去る無法の象徴――それだけに。
「全く勉強になる。崩す気満々だな」
まるで疲れなし。
圧倒的速度による手数、勢いの押し付け。
相手の揚げ足を取り、我のあり様を押し通さんとする極まった対話拒否を受けながらも――かろうじて対応を間に合わせ、禍福は延命していた。
両者の是非は、どっちの攻撃が当たるか。
『投射呪法』のフリーズと『天逆鉾』。
どちらが通るか。それのみ――故に。
その時まで、互いに気づけなかった。
「だバーァ!?」
「なに!?」
「ゲコっ」
「……!」
一撃が、通った。
ヤツの真後ろ。自分の裏をかこうと動いた場所に。
分かり切っていたとでも言いたげに。
なぜそこに――式神の足で移動したのか。
だが、なぜ拳が当たる。なぜ間に合う!?
「禍福!」
「――、っ!」
生じる一秒のフリーズ。
そこに同時、呪力を撃ち込む。前後同時の一撃。
だが、二つの位置はわずかに合わない。
被害は、片腕が吹っ飛ぶにとどまった。
「いや、十分!」
逃げ出すその背を、速度で追いついて、『天逆鉾』で追撃する。
片腕がないぶん体制は不安定。
さっきより速度が出せなくなった!
問題なく刃が捉え、術式中断。足が止まる。
そしてそこに、
「はい、そこっ!」
「バ――!?」
やはり、拳が待っている。
「そうか――呪力に乗った負の感情を!」
そう。これは後出しジャンケンである。
婪佳久は体質上、呪力の悪意が読みとれる。
呪力の意図が、近くにいるだけで感じられる。
それで、禍福とターボババアの次の行動を予測していた――。
(いや、にしたって、なんで行動が間に合――)
だが、断じて先読みではない。
あくまでも呪力を出された上での知覚。
その場の悪意ともなれば具体的でなく直感的。
能力の全貌把握には時間を要する。
ましてや、初見技まではわからない。
「ばッ、バ――ッ!!」
「うお!」
「わっ」
「ゲコー!?」
死を意識した、覚醒。
追い込まれた獣が見せた意地。
術式対象の拡張により、
手でなく、足で作動したフリーズ。
その蹴りをひとつ、間隙を作り――ターボババアは逃げ出した。
「クソ。蛙の式神は消えたか!」
だが。そもそも一度でも触れられれば負けなのが禍福だ。
即座のシン・影流『簡易領域』によるジャストガード。
フリーズを避けて追いかける。追い上げる。
今の速度なら間違いなく追いつく――それだけに。
「――なんだと」
――驚愕した。背後、地を穿った爆音と衝撃。
呪力の爆発――暴力的極まる速度問題の解決。
身を飛ばし、距離を殺した婪佳久は――彼らの競争に割って入っていた。
その白い体には、紅い紋様。
呪印の一部が、浮き出ている。
(暴走――いや違う。これは!)
……婪佳久は今、術式『受愚載転』を、呪力による身体強化に動員していた。
むろん、コントロール範囲を超えた呪力行使。
体から呪力がはみ出す暴走まっしぐらな行為。
だが彼女は、ある解釈により、呪力の『手放す方向』を限定した。
それは、肉体の逸脱でなく肉体の延長としての運用――ブースター噴射による、体の後押し。
(素の実力で、俺たちについてくるというのか!)
――溢れる呪力で、身を押し出す!
これは、過剰強化された肉体の限界突破。
受愚載転『
「ちょこざいなッ、てんだよ――!」
もはや地に足を着かず、一直線に迫る突進。
それを遮る、ターボババアの手、
「小手先がなんだ、結局は――!」
かくして、悉く――攻撃は通った。
予測に従い、限界稼動する圧倒的呪力の塊。
音速突破手前で迫る『天逆鉾』。
即興というにはできすぎたダンス。
一カ月間任務を共にした二人の、かつてない連携――崩す側は、崩される側に回った。
手数でも火力でも負けた上で、小手先の捌き芸など焼け石に水――そう。
「最後は――
宣言通り、完勝の実現。
息ぴったりに叩き込まれた二つの呪力が、ダメージレースに勝利した――わけだが。
(……こんなふうにだけは、死にたくないなぁ)
動きながらも、そのオーバーキルぶりに、禍福は最早ドン引きであった。
――足掻きも虚しく、復活叶わず、足を叩き折られ、ついには馬乗りにされて。
ただただ呪力で、間髪入れず、死ぬまで殴られる。
おそらく五条悟の通常攻撃の半分以上ある威力を、叩き込まれるターボババア……。
思わず、禍福は同情を禁じ得なかった――。
―――
――
―
「やー。出し切れた出し切れたっ!」
いやーいい仕事をしたもんだ。
とまじりっけなしの晴れ晴れ笑顔。
だが禍福は、ひとつ気がかりがあった。
「なぁ。なんで伏黒さんの式神が消えたんだ」
コイツの呪力量からして、破壊されたわけじゃないハズだ――そうなると。
「ん? どーだろ、蛙さんの感情しかわかんなかったからなぁ。ま、なんかあったんじゃないかな。どっかで恨み買ってたとか?」
「一言余計だが……そういう事だよな」
――それは、この戦いよりはるかに優先の事項。
それぞれ勘付き、向こうを見やる。
さっきまで自分らのいた八王子。そこには、
「「――領域」」
そう、大規模な、領域展開が為されていた。
「禍福、待って」
「何故だ」
「退避しろって言われてるの、私たち」
「それって――」
向こうには、確か特級が二体。
俺たちは二人がかりでやっと一体祓って、呪力はカラカラ。
――そりゃ、行ったところでどうこうなるまい。
「てか、私が無理だよ。なんだかんだ渋谷まで来ちゃったんだから」
「――ん? なんで、ここから八王子の領域が見えんだ?」
綺麗に二度見をかます禍福など捨て置き、
「いいから、さっさと戻ろ。巻き込まれるよ」
努めて軽薄に、彼女はそう言って歩く。
けれど――やはり。
とても。楽には見えそうになかった。
「わかった――戻ろう」
「……いいの?」
「パンピー三人よりはな」
そっか、と。そいつは笑った。
――帰ったら、家入さん直行だろう。
自分の呪力で手足を壊したなんて。
普通、あり得るモノではない――。
「不相応だよな、本当」
「……アンタほどじゃないよ」
その後は、珍しく。
そいつは、黙って運ばれていた。
……あの笑顔が、軽く見えなかったのは。
きっと、それこそ。ひどい怪我のせいだろう。
―
――
―――
「……おかしいな。二対一と思ってたんだが」
魔虚羅が、消された。
なぜそうなったのか。答えは目の前にあった。
――そこは、快晴の下だった。
距離感のおかしくなる、広々とした夏晴れ。
だが太陽がない。誇張抜きに、全方位から光が来る。影が全く生まれない。
式神が存在できる
だから摩虎羅は、問答無用で消されたのだ。
上空。自分を眺める大きな一つ目は、いったい何キロメートルあるのだろう。
「未登録の特級、自然のカテゴリ――『空』の呪霊、ってとこか」
ともかく。どうやら、これは。
「鉄、鉄ノ味、鉄ノッ!」
――黒沐死、虹龍。そしてこの領域を張った一体。
俺――伏黒恵は。
特級呪霊三体を、同時に相手する必要があるらしい。
お待たせしました。次回から伏黒戦です。
サポートだけでも既に十分な仕事をしていますが、
こっからが本番戦です。是非ともお見逃しなく。
【オマケ①・ターボババアは劣化直哉】
このターボババアの強さは、
人間のころの直哉以上、呪霊直哉以下の設定です。
とはいえ、尋常でない回復速度と手数。
逃亡も辞さない狡猾さ。
仕留める上では、実力者でも方法を選ばされる側になるでしょう。
てか、逆に一級で仕留められる人いるんですかね?
そこそこ手に負えないヤツな気がします。
呪術高専一年生の今時点で、
伏黒のサポートありきとはいえ、
禅院家当主以上の呪霊を二人がかりで倒せた。
と書くと結構すごい、のかも?
【オマケ②・『疑似紡操』について】
シン・影流『簡易領域』や『落花の情』によるカウンターは、
あらかじめ設定したモーションをオート再生するものでした。
その前例から、条件次第では『体で呪力を動かす』のでなく、
『呪力で体を動かす』こともできるのでは?
と思って作った、親子関係逆転の能力です。
とはいえ、婪佳久の呪力コントロールの精度では、
大雑把に「ロケット噴射を背中に備えさせる」程度しかできません。
加減を放棄したアクセルベタ踏み行為のため、
燃費最悪で自壊必死、オマケに直進しかできないという欠陥技ですが、
推進力にモノを言わせれば高速飛行が可能となります。
そこにエスパー染みた察知能力と、
呪力の砲弾によるロングレンジ攻撃が加わると思うと、
ほとんどニュータイプの乗ったモビルスーツみたいな挙動になってそうですね。
まあこんなの使ってたら体がいくつあっても足りないので、
真衣ちゃんの『構築術式』みたく、
下策も下策の最終手段といえるでしょう。