【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
満身創痍のパンダ。第二次・死滅回游の泳者として復活した夜蛾の元に急ぐ。



第2部 52話『パンダとティンカーベル③』

 

 ――ティンカーベルの『生得領域内外の物体の置き換え』は、数分間しか維持できない。

 

 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()行為だ。

 一定以上の時間を過ぎると現実への帰還が不可能となる。

 

 

 

 『恐竜王(プロドロムス)』は、その仕様を知らず立ち去ったことで――難を逃れたパンダとティンカーベルは、『空性結界の裏道』を進んでいた。

 

 

 

「あ、ありがとなティンカーベル。助かったぜ……てかそっか。オレ、まさみちとまた会えるんだな……」

 

 

 

 ジャングルもなければ土もない。何のアセットも用意されていない無の空間を、ティンカーベルはパンダを咥えて飛行する。

 

 

 

「やっと実感わいてきた?」

 

「あぁ。頑張って起きてねぇとな。おねむ起こしちゃいかねぇわ……なぁ、ちょっとお喋りしようぜ」

 

「えっいいの!? 聞かせて聞かせて! 『外』では、どんな風に暮らしてたの!?」

 

 

 

 満身創痍のパンダは、しかし笑顔を保っていた。

 その口から語られる話は、どれもがティンカーベルにとって新鮮に思えた。

 

 ――ナヨナヨしてるようでそうでもなかった友だちの話。

 料理ブームで金が足りなくなってバイトした話。

 バカな目隠し教師がいて、女子生徒のスカート履いて遊んでたり。後輩ができたり――。

 

 

 

「――ガッコウかぁ~。人間と同じクラスかぁ~。てかパパそんな教育熱心だったの!? 嫉妬しちゃうんですけど」

 

「すぐ逃がされたってのも十分特別扱いされてると思うぜ、オレは」

 

 

 

 直感で思ったことをパンダは口にする。

 

 彼女が夜蛾といられた時間はあまりないことは察せられる。だが、きっと愛情はあったのだろうと。

 

 

 

 

「……そんなんじゃないよ」

 

 

 

 しかし、やはり気むずかしい妹らしい。

 彼女の反応は複雑であった。

 

 

 

「私はここしか世界を知らない。けど、ここは私の居場所じゃないの」

 

「私たちは死ぬために産まれてきた。この世界の強度を高めるため、呪術的事実を積み上げるため。隕石の肥やしになって、最後には大いなる一存在になるために……けど、私だけは世界に含まれてないの」

 

「現に私は、パパに捨てられて。アナタを連れて行けば、認めてくれるかもしれないって……!」

 

 

 

 声音は涙ぐんだものに変わっていた。

 死ぬために産み落とされたハズなのに、その摂理に加われずにいる悲しみ。

 およそ現実の生物において有り得ない孤独は、とうてい理解者が得られるものではない。

 

 ティンカーベルは生まれて初めて、その悩みを吐露したのだ。

 だが、言葉は途切れた。

 

 

 

「お兄ちゃん? ……ねぇお兄ちゃん!?」

 

 

 

 パンダを咥えた口に、柔らかな感触が乗ってくる。

 それが漏れ出した中身(ワタ)だと直感した瞬間、ティンカーベルは青ざめた。

 

 

 

「あーもう寝ないと言っといてこれかよ、許さないから! ここに来て、私より先に逝くなんて許さないから!」

 

「だ、だから……順番逆だろって……」

 

 

 

 ティンカーベルは加速する。空性結界の裏道を突き進む。

 一刻も早く、再開の瞬間に向かって――。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――対御三家決戦用特級完全自立型呪骸『恐竜王(プロドロムス)』。

 

 その脅威に直面した乙骨憂太、夏油(かおる)は。

 

 

 

 一方的に叩きのめされていた!

 

 

 

(――くそっ、フィジカルで真正面から敵わないなんて!?)

 

「ひゃっはァ! 人間はみんなブッ殺しだぁーっ!」

 

 

 

 牙を剥く、腐土と骨の集合体(だいきょうりゅう)

 振るい回される全身凶器の超高密度呪力。

 

 ついに刀を投げ捨てて殴り合いに発展した乙骨は、しかし明確に競り負けていた。

 

 

 

(呪力出力が高い、というよりも『重い』! いやそれ以前に、『核』となる部位がどこにあるのか特定できない――!)

 

 

 

 鉄壁。そう評する他にない感触だった。

 これは呪骸だ、呪霊と異なり質量がある。

 

 乙骨は今、呪力強化された地層そのものと殴り合っているのだ。

 

 

 

(領域展開による必中効果で崩せるか――?)

 

 

 

 ――否。不可能だ。

 

 この土地そのものである『恐竜王(プロドロムス)』は、この空性結界(せかい)の自然環境を『領域(からだ)』として行使でき――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なおかつ、領域展開と同様に呪力出力のバックアップを得ている。

 

 空性結界との押し合いは規格(スケール)差で成立しないため――領域返しが成立しない。

 

 

 

「どうだ見たかよ文明人! これが大地のパワーってヤツだぜ! まぁ死んだ土なんだけど!」

 

(欠損はすぐに修復される。原料がそこらじゅうにあるんだから当然か……!)

 

 

 

 ある程度の欠損は与えられる。

 だがそのたびに、『恐竜王(プロドロムス)』は地面を喰らい、己の一部に変えていく。

 

 ――放っておけば、コイツは際限なく肥大化する。

 ――常に一定以上のダメージを与え続けねば、勝ちの目は消える!

 

 

 

「へぇーっ土が美味く感じるのか! 面白い味覚してんなお前!」

 

「テメェはいー加減ブッ潰れろ!」

 

「っぶねぇ!?」

 

「うおーっマミー危ねえッス回帰し(かくまわれ)といてください!」

 

 

 

 その点、夏油(かおる)の呪霊操術は有効だった。

 

 ――自身は、特級半精呪霊『可塑曼陀羅(カポマンダラ)』の領域内(ほんたい)に待避。

 必中効果から逃れつつ、絶えず呪霊を展開し継戦する。

 

 呪霊操術の本懐は、たとえ一体を対策されても、別の一体を繰り出せばいいこと。

 真正面から戦闘すれば無論押し負けるものの、乙骨の戦闘補佐には十分だった。

 

 

 

 しかし、勝つには――。

 

 

 

(もう、『接続』するしか――!)

 

 

 

 この空性結界の盟主、加茂憲泰(のりやす)との戦闘に温存すべき『5分間』を費やすしかない――!

 

 

 

―――

――

 

 

 

「ねぇお願いパパっ! 私をパンダお兄ちゃんの素材にしてあげて!」

 

 

 

 ――呪骸の作成には、本来なら人間の魂を使う。

 だが今回は呪霊を素材としてきた。

 

 ――死ぬために作った呪骸だ。

 人を殺すか、隕石に潰されるか。

 ティンカーベルさえも、死ぬことを本懐と捉えてる。

 

 そこに呪術師として、感情など――。

 

 

 

「わっ、パパ?」

 

「……すまない」

 

 

 

 夜蛾正道。空性結界の中枢の独房に囚われていた男は、己の作り出した殺人兵器の一体を抱きしめて泣いていた。

 

 

 

「すまなかった、ティンカーベル。パパは酷いヤツだ……死の冷たさを知った後だというのに、こんな事を……」

 

 

 

 ――魂に関する呪骸の作成方法を、加茂憲泰(のりやす)に漏らすわけにいかなかった。

 かと言って、人質を取られた以上は共謀せざるを得なかった。

 ここで命令に従い、呪骸生産に徹するしかなかったのだ。

 

 その役割も、『恐竜王(プロドロムス)』の完成で用済みとなった。

 

 降って湧いた第二の生は、やはり総監部の人間に狙われ利用される末路だったのだ。

 

 

 

「えっ、え!? パパどうしたの、私のしたことダメだったの?」

 

「違う。違うんだ……お前は、よくやってくれた」

 

「わ」

 

 

 

 だが、計算外(バグ)が起きた。

 呪霊を素材にしたにも関わらず、悪感情でなく善性を有する存在。

 

 ティンカーベルという失敗作は、加茂憲泰(のりやす)に警戒されていない。

 

 だからこそ、付け入る隙になる。

 

 

 

「お前のお陰で初めて、パパは今まで以上のことができる。自慢の娘だ。ありがとう。……これからは、みんな一緒だ。ティンカーベル」

 

「……っ、うん!」

 

 

 

 やつれた男の瞳に光が灯った。

 ティンカーベルは満面の笑みを見せて頷く。

 

 

 

 そうして彼は、本当の最終作業に着手した――。

 

 

 

――――

――

 

 

 

 くじらの水しぶきを聞いた気がした。

 小さなパンダは、布団の上でむくりと起きる。

 

 

 

「ん? えーと……昨日は確か……」

 

 

 

 微睡む目をこすりつつ、習慣に従ってパンダは動く。

 布団を片づける、朝ご飯を用意する。

 

 ――そのたび、一人分しかない事をひどく寂しく感じた。

 

 

 

 けど、慣れている。こうしてぼーっと過ごすのは。

 外をいくら探しても友達がいない。

 うちにいても、やることも宿題もない。

 ずっとただここにいる。ふと窓を見たところで、誰も――。

 

 

 

「ま、――まさみち?」

 

 

 

 ずっと喋らなかったから、正しく発音できたか分からない。

 目をこすってもう一度窓の外を見た。

 そして見間違いでないと分かって、玄関の存在すら忘れて、その窓の外へと転がり出る。

 

 ――前にも、こんな場面があった気がした。

 こうして暗い世界の中、駆け寄ったことが。

 

 

 

「まさみちぃ!」

 

「……あぁ。ただいま」

 

 

 

 きっとそのときも、大声で泣いたに違いない。

 時間が、堰を切ったように溢れ出していた。

 

 

 

「もう、もうっ遅すぎるだろ、今までどこ行ってたんだよ~! そうだ、兄ちゃんも姉ちゃんも……!」

 

「……悪かった」

 

 

 

 泣きべそをかくパンダの背を、大きな片手が撫でていた。

 そしてもう片方の手が、なにかを差し出してくる。

 

 

 

「今度こそ、お別れを言いに来たんだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんの分も」

 

「……お別れ?」

 

 

 

 手渡されたそれを、パンダは受け取って顔を上げる。

 

 

 

「またな、パンダ。もっと大きくなるんだぞ」

 

 

 

 そう言ったきり、遠のいていく背中を、パンダは黙って見送っていた。

 

 

 

「……そうか。今度は、ちゃんとお別れしてくれたんだな。まさみち」

 

 

 

 満足だ。きっと、これで終わりなのだろうと悟っていた。

 この場所は役目を終えた。もう家を訪ねる者はいない。

 

 日に日に感じ取れるものが減っていっている。

 きっとこれ以上のことは起きえな――。

 

 

 

「――へい兄ちゃん、アタシのこと忘れてない?」

 

「えっ?」

 

 

 

 後ろから声がして振り返る。

 見慣れぬプテラノドンが翼でこちらをつついていた。

 

 

 

「わ、え。だれ?」

 

「ねぇお願い。アタシも外に連れてって。たとえ一抹の夢だとしても、アタシもあなたと旅がしたいの!」

 

「どういう意味で言って――」

 

「んじゃそういうわけで! これからよろしくね!」

 

 

 

 おっかなびっくりの小パンダは、わけがわからずあわてふためき。

 その意識は――急速に現実へと浮上した。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 立ち上がったパンダは、空っぽの独房の中にいた。

 

 

 

「これ……俺の体、なのか?」

 

 

 

 懐かしく感じる視点の高さ。

 感じたことのない体感覚が、かつてない完成度の肉体を手に入れたのだと告げている。

 

 ――誰が、なんのために?

 

 

 

「……まさみち?」

 

 

 

 呪骸作成の機材だけは転がっているが、肝心の持ち主だけは見当たらない。

 なんども周囲を見渡しているうち、自分の手が掴んでいるものに気付く。

 

 それは、今のパンダにすら大きすぎる、新しいグローブだった。

 

 

 

「……っ、……まさみち……!」

 

 

 

 間に合わなかった。けど確かに、受け取ることはできた。

 

 生き返ったというのに、生きて一緒にだけはいられない。

 残酷な運命にパンダは涙を流しそうになって。

 ぐっと、堪えた。

 

 

 

「……そうか。分かったよティンカーベル、頑張んないとなぁ!」

 

 

 

 そして、檻を叩き壊し疾走する。

 ティンカーベルが残した残穢を辿り、空性結界の裏道を逆走し、地上へと。

 

 

 

「見ててくれよ、まさみち! ティンカーベル! パンダお兄ちゃんは頑張るぞ!」

 

 

 

 その身に三つの魂を宿して。

 スーパーパンダが参戦する――。

 





なんかもうパンダ編ですねこれ。
納得できる内容になるまで時間かかって投稿遅れました、申し訳ない。



アニメでも原作でも、完全自立『人工』呪骸って言われてたけど、
自然発生する呪骸っているんですかね?

そもそも完全自立人工呪骸の作成過程に『魂の情報を複製』って激ヤバ文言あるんですけど何だっただろ……。

楽巌寺に伝えられるあたり意外とポピュラーな呪術なのかな…。
いやでもファンパレの設定が原作通りの場合、傀儡操術の術式効果なんだし伝えたところで再現性ないよな…。




【補足・ティンカーベルの生得領域への離脱について】

 宿儺の生得領域に虎杖が招かれた時と同様の現象です。
 ただし、生きたまま生得領域内に転移されています。

 一時的な異世界転生みたいなもので、まったくの別世界へ転移します。『世界を断つ解』であろうと例外なく回避でき、術者をあらゆる干渉から守りきる絶対防衛機能です。

 相手が五条悟だろうが本作の虎杖や伏黒であろうが、釘崎の共鳴りだろうが100%逃げ切れます。

 ただし、数分以上この生得領域に留まると、現実に戻ることができなくなります。
 高すぎる回避性能の弊害ですね。

 あと領域展開と同等の呪力消費が必要です。やってることの規模がでかすぎてさもありなん
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