【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

101 / 101
【あらすじ】
満身創痍のパンダ。第二次・死滅回游の泳者として復活した夜蛾の元に急ぐ。



第2部 52話『パンダとティンカーベル③』

 

 ――ティンカーベルの『生得領域内外の物体の置き換え』は、数分間しか維持できない。

 

 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()行為だ。

 一定以上の時間を過ぎると現実への帰還が不可能となる。

 

 

 

 『恐竜王(プロドロムス)』は、その仕様を知らず立ち去ったことで――難を逃れたパンダとティンカーベルは、『空性結界の裏道』を進んでいた。

 

 

 

「あ、ありがとなティンカーベル。助かったぜ……てかそっか。オレ、まさみちとまた会えるんだな……」

 

 

 

 ジャングルもなければ土もない。何のアセットも用意されていない無の空間を、ティンカーベルはパンダを咥えて飛行する。

 

 

 

「やっと実感わいてきた?」

 

「あぁ。頑張って起きてねぇとな。おねむ起こしちゃいかねぇわ……なぁ、ちょっとお喋りしようぜ」

 

「えっいいの!? 聞かせて聞かせて! 『外』では、どんな風に暮らしてたの!?」

 

 

 

 満身創痍のパンダは、しかし笑顔を保っていた。

 その口から語られる話は、どれもがティンカーベルにとって新鮮に思えた。

 

 ――ナヨナヨしてるようでそうでもなかった友だちの話。

 料理ブームで金が足りなくなってバイトした話。

 バカな目隠し教師がいて、女子生徒のスカート履いて遊んでたり。後輩ができたり――。

 

 

 

「――ガッコウかぁ~。人間と同じクラスかぁ~。てかパパそんな教育熱心だったの!? 嫉妬しちゃうんですけど」

 

「すぐ逃がされたってのも十分特別扱いされてると思うぜ、オレは」

 

 

 

 直感で思ったことをパンダは口にする。

 

 彼女が夜蛾といられた時間はあまりないことは察せられる。だが、きっと愛情はあったのだろうと。

 

 

 

 

「……そんなんじゃないよ」

 

 

 

 しかし、やはり気むずかしい妹らしい。

 彼女の反応は複雑であった。

 

 

 

「私はここしか世界を知らない。けど、ここは私の居場所じゃないの」

 

「私たちは死ぬために産まれてきた。この世界の強度を高めるため、呪術的事実を積み上げるため。隕石の肥やしになって、最後には大いなる一存在になるために……けど、私だけは世界に含まれてないの」

 

「現に私は、パパに捨てられて。アナタを連れて行けば、認めてくれるかもしれないって……!」

 

 

 

 声音は涙ぐんだものに変わっていた。

 死ぬために産み落とされたハズなのに、その摂理に加われずにいる悲しみ。

 およそ現実の生物において有り得ない孤独は、とうてい理解者が得られるものではない。

 

 ティンカーベルは生まれて初めて、その悩みを吐露したのだ。

 だが、言葉は途切れた。

 

 

 

「お兄ちゃん? ……ねぇお兄ちゃん!?」

 

 

 

 パンダを咥えた口に、柔らかな感触が乗ってくる。

 それが漏れ出した中身(ワタ)だと直感した瞬間、ティンカーベルは青ざめた。

 

 

 

「あーもう寝ないと言っといてこれかよ、許さないから! ここに来て、私より先に逝くなんて許さないから!」

 

「だ、だから……順番逆だろって……」

 

 

 

 ティンカーベルは加速する。空性結界の裏道を突き進む。

 一刻も早く、再開の瞬間に向かって――。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――対御三家決戦用特級完全自立型呪骸『恐竜王(プロドロムス)』。

 

 その脅威に直面した乙骨憂太、夏油(かおる)は。

 

 

 

 一方的に叩きのめされていた!

 

 

 

(――くそっ、フィジカルで真正面から敵わないなんて!?)

 

「ひゃっはァ! 人間はみんなブッ殺しだぁーっ!」

 

 

 

 牙を剥く、腐土と骨の集合体(だいきょうりゅう)

 振るい回される全身凶器の超高密度呪力。

 

 ついに刀を投げ捨てて殴り合いに発展した乙骨は、しかし明確に競り負けていた。

 

 

 

(呪力出力が高い、というよりも『重い』! いやそれ以前に、『核』となる部位がどこにあるのか特定できない――!)

 

 

 

 鉄壁。そう評する他にない感触だった。

 これは呪骸だ、呪霊と異なり質量がある。

 

 乙骨は今、呪力強化された地層そのものと殴り合っているのだ。

 

 

 

(領域展開による必中効果で崩せるか――?)

 

 

 

 ――否。不可能だ。

 

 この土地そのものである『恐竜王(プロドロムス)』は、この空性結界(せかい)の自然環境を『領域(からだ)』として行使でき――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なおかつ、領域展開と同様に呪力出力のバックアップを得ている。

 

 空性結界との押し合いは規格(スケール)差で成立しないため――領域返しが成立しない。

 

 

 

「どうだ見たかよ文明人! これが大地のパワーってヤツだぜ! まぁ死んだ土なんだけど!」

 

(欠損はすぐに修復される。原料がそこらじゅうにあるんだから当然か……!)

 

 

 

 ある程度の欠損は与えられる。

 だがそのたびに、『恐竜王(プロドロムス)』は地面を喰らい、己の一部に変えていく。

 

 ――放っておけば、コイツは際限なく肥大化する。

 ――常に一定以上のダメージを与え続けねば、勝ちの目は消える!

 

 

 

「へぇーっ土が美味く感じるのか! 面白い味覚してんなお前!」

 

「テメェはいー加減ブッ潰れろ!」

 

「っぶねぇ!?」

 

「うおーっマミー危ねえッス回帰し(かくまわれ)といてください!」

 

 

 

 その点、夏油(かおる)の呪霊操術は有効だった。

 

 ――自身は、特級半精呪霊『可塑曼陀羅(カポマンダラ)』の領域内(ほんたい)に待避。

 必中効果から逃れつつ、絶えず呪霊を展開し継戦する。

 

 呪霊操術の本懐は、たとえ一体を対策されても、別の一体を繰り出せばいいこと。

 真正面から戦闘すれば無論押し負けるものの、乙骨の戦闘補佐には十分だった。

 

 

 

 しかし、勝つには――。

 

 

 

(もう、『接続』するしか――!)

 

 

 

 この空性結界の盟主、加茂憲泰(のりやす)との戦闘に温存すべき『5分間』を費やすしかない――!

 

 

 

―――

――

 

 

 

「ねぇお願いパパっ! 私をパンダお兄ちゃんの素材にしてあげて!」

 

 

 

 ――呪骸の作成には、本来なら人間の魂を使う。

 だが今回は呪霊を素材としてきた。

 

 ――死ぬために作った呪骸だ。

 人を殺すか、隕石に潰されるか。

 ティンカーベルさえも、死ぬことを本懐と捉えてる。

 

 そこに呪術師として、感情など――。

 

 

 

「わっ、パパ?」

 

「……すまない」

 

 

 

 夜蛾正道。空性結界の中枢の独房に囚われていた男は、己の作り出した殺人兵器の一体を抱きしめて泣いていた。

 

 

 

「すまなかった、ティンカーベル。パパは酷いヤツだ……死の冷たさを知った後だというのに、こんな事を……」

 

 

 

 ――魂に関する呪骸の作成方法を、加茂憲泰(のりやす)に漏らすわけにいかなかった。

 かと言って、人質を取られた以上は共謀せざるを得なかった。

 ここで命令に従い、呪骸生産に徹するしかなかったのだ。

 

 その役割も、『恐竜王(プロドロムス)』の完成で用済みとなった。

 

 降って湧いた第二の生は、やはり総監部の人間に狙われ利用される末路だったのだ。

 

 

 

「えっ、え!? パパどうしたの、私のしたことダメだったの?」

 

「違う。違うんだ……お前は、よくやってくれた」

 

「わ」

 

 

 

 だが、計算外(バグ)が起きた。

 呪霊を素材にしたにも関わらず、悪感情でなく善性を有する存在。

 

 ティンカーベルという失敗作は、加茂憲泰(のりやす)に警戒されていない。

 

 だからこそ、付け入る隙になる。

 

 

 

「お前のお陰で初めて、パパは今まで以上のことができる。自慢の娘だ。ありがとう。……これからは、みんな一緒だ。ティンカーベル」

 

「……っ、うん!」

 

 

 

 やつれた男の瞳に光が灯った。

 ティンカーベルは満面の笑みを見せて頷く。

 

 

 

 そうして彼は、本当の最終作業に着手した――。

 

 

 

――――

――

 

 

 

 くじらの水しぶきを聞いた気がした。

 小さなパンダは、布団の上でむくりと起きる。

 

 

 

「ん? えーと……昨日は確か……」

 

 

 

 微睡む目をこすりつつ、習慣に従ってパンダは動く。

 布団を片づける、朝ご飯を用意する。

 

 ――そのたび、一人分しかない事をひどく寂しく感じた。

 

 

 

 けど、慣れている。こうしてぼーっと過ごすのは。

 外をいくら探しても友達がいない。

 うちにいても、やることも宿題もない。

 ずっとただここにいる。ふと窓を見たところで、誰も――。

 

 

 

「ま、――まさみち?」

 

 

 

 ずっと喋らなかったから、正しく発音できたか分からない。

 目をこすってもう一度窓の外を見た。

 そして見間違いでないと分かって、玄関の存在すら忘れて、その窓の外へと転がり出る。

 

 ――前にも、こんな場面があった気がした。

 こうして暗い世界の中、駆け寄ったことが。

 

 

 

「まさみちぃ!」

 

「……あぁ。ただいま」

 

 

 

 きっとそのときも、大声で泣いたに違いない。

 時間が、堰を切ったように溢れ出していた。

 

 

 

「もう、もうっ遅すぎるだろ、今までどこ行ってたんだよ~! そうだ、兄ちゃんも姉ちゃんも……!」

 

「……悪かった」

 

 

 

 泣きべそをかくパンダの背を、大きな片手が撫でていた。

 そしてもう片方の手が、なにかを差し出してくる。

 

 

 

「今度こそ、お別れを言いに来たんだ。お兄ちゃんとお姉ちゃんの分も」

 

「……お別れ?」

 

 

 

 手渡されたそれを、パンダは受け取って顔を上げる。

 

 

 

「またな、パンダ。もっと大きくなるんだぞ」

 

 

 

 そう言ったきり、遠のいていく背中を、パンダは黙って見送っていた。

 

 

 

「……そうか。今度は、ちゃんとお別れしてくれたんだな。まさみち」

 

 

 

 満足だ。きっと、これで終わりなのだろうと悟っていた。

 この場所は役目を終えた。もう家を訪ねる者はいない。

 

 日に日に感じ取れるものが減っていっている。

 きっとこれ以上のことは起きえな――。

 

 

 

「――へい兄ちゃん、アタシのこと忘れてない?」

 

「えっ?」

 

 

 

 後ろから声がして振り返る。

 見慣れぬプテラノドンが翼でこちらをつついていた。

 

 

 

「わ、え。だれ?」

 

「ねぇお願い。アタシも外に連れてって。たとえ一抹の夢だとしても、アタシもあなたと旅がしたいの!」

 

「どういう意味で言って――」

 

「んじゃそういうわけで! これからよろしくね!」

 

 

 

 おっかなびっくりの小パンダは、わけがわからずあわてふためき。

 その意識は――急速に現実へと浮上した。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 立ち上がったパンダは、空っぽの独房の中にいた。

 

 

 

「これ……俺の体、なのか?」

 

 

 

 懐かしく感じる視点の高さ。

 感じたことのない体感覚が、かつてない完成度の肉体を手に入れたのだと告げている。

 

 ――誰が、なんのために?

 

 

 

「……まさみち?」

 

 

 

 呪骸作成の機材だけは転がっているが、肝心の持ち主だけは見当たらない。

 なんども周囲を見渡しているうち、自分の手が掴んでいるものに気付く。

 

 それは、今のパンダにすら大きすぎる、新しいグローブだった。

 

 

 

「……っ、……まさみち……!」

 

 

 

 間に合わなかった。けど確かに、受け取ることはできた。

 

 生き返ったというのに、生きて一緒にだけはいられない。

 残酷な運命にパンダは涙を流しそうになって。

 ぐっと、堪えた。

 

 

 

「……そうか。分かったよティンカーベル、頑張んないとなぁ!」

 

 

 

 そして、檻を叩き壊し疾走する。

 ティンカーベルが残した残穢を辿り、空性結界の裏道を逆走し、地上へと。

 

 

 

「見ててくれよ、まさみち! ティンカーベル! パンダお兄ちゃんは頑張るぞ!」

 

 

 

 その身に三つの魂を宿して。

 スーパーパンダが参戦する――。

 





なんかもうパンダ編ですねこれ。
納得できる内容になるまで時間かかって投稿遅れました、申し訳ない。



アニメでも原作でも、完全自立『人工』呪骸って言われてたけど、
自然発生する呪骸っているんですかね?

そもそも完全自立人工呪骸の作成過程に『魂の情報を複製』って激ヤバ文言あるんですけど何だっただろ……。

楽巌寺に伝えられるあたり意外とポピュラーな呪術なのかな…。
いやでもファンパレの設定が原作通りの場合、傀儡操術の術式効果なんだし伝えたところで再現性ないよな…。




【補足・ティンカーベルの生得領域への離脱について】

 宿儺の生得領域に虎杖が招かれた時と同様の現象です。
 ただし、生きたまま生得領域内に転移されています。

 一時的な異世界転生みたいなもので、まったくの別世界へ転移します。『世界を断つ解』であろうと例外なく回避でき、術者をあらゆる干渉から守りきる絶対防衛機能です。

 相手が五条悟だろうが本作の虎杖や伏黒であろうが、釘崎の共鳴りだろうが100%逃げ切れます。

 ただし、数分以上この生得領域に留まると、現実に戻ることができなくなります。
 高すぎる回避性能の弊害ですね。

 あと領域展開と同等の呪力消費が必要です。やってることの規模がでかすぎてさもありなん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

現代最強の術師・両面宿儺と史上最強の術師・五条悟による呪術廻戦(作者:ソル   )(原作:呪術廻戦)

タイトル通り▼現代生まれの高専教師両面宿儺と、虎杖の体に受肉した平安時代の五条家当主、五条悟による立場逆転if


総合評価:4776/評価:8.73/連載:47話/更新日時:2026年08月04日(火) 21:38 小説情報

もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら(作者:ケンタ〜)(原作:葬送のフリーレン)

▼ もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら。▼ 最強の大呪術師はどう生きるのだろうか。▼ 注意▼ 五条悟がバチバチに戦いますが、最初は実力出てないように見えるかもしれません。▼ でもその時は『まだ五条様は本気を出していない』だけなので、安心して読み進めてください。


総合評価:6154/評価:7.53/連載:47話/更新日時:2026年06月05日(金) 21:40 小説情報

禪院家に生まれしハンター(作者:とっとこDIO)(原作:呪術廻戦)

禪院家の二十五代目当主の三兄弟の三男として生まれたオリ主。名を"禪院龍甚"術式は禪院家相伝に非常に似通った術式【百竜夜行】▼モンスターを調伏《狩猟》する事で操り、狩猟したモンスターの装備を纏う事で力を発揮する。▼※フロンティア・ストーリーズのみの登場であるモンスターは、今作に登場しません。▼↓主人公の見た目の特徴を言ってなかったのでここに…


総合評価:336/評価:5.38/連載:24話/更新日時:2026年07月22日(水) 21:16 小説情報

呪術廻戦のあの世は鬼灯の冷徹のあの世だったようです(作者:久保サカナ)(原作:呪術廻戦)

米花町の公務員がまさかの虎杖悠仁に転生!?▼窓口担当でも怨恨で殺されない位の持ち前の善性で宿儺の指を全て飲んで秘匿死刑を受け入れた虎杖であったが「捨てる神あれば拾う鬼神あり」がこの世界の理であった。▼鬼灯様「その生き様や良し!!獄卒に採用です」▼腐れメロンパンこと羂索を地獄に堕とすべく「現世派遣獄卒」になった虎杖悠仁の愉快!痛快!地獄×呪術コメディライフが今…


総合評価:10095/評価:8.19/完結:65話/更新日時:2026年08月09日(日) 13:33 小説情報

9×9=(作者:龍川芥/タツガワアクタ)(原作:呪術廻戦)

なあ宿儺、九九って知ってるか?▼・本編完結、≡(モジュロ)編開始▼24/2/9更新▼ガルダ 様よりオリ主の挿絵を頂きました。▼【挿絵表示】▼


総合評価:24875/評価:9.06/連載:60話/更新日時:2026年04月20日(月) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>