【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
対御三家決戦用特級完全自立型呪骸――『
空性結界が再現した、恐竜繁殖時代の密林。湿度の高い空気が肌に張り付き、巨大なシダが風もなく揺れている。人間大の呪骸がそこに立っていた。地層そのものを転用した躯体。かろうじて恐竜とわかる輪郭の中に、化石と土と石がぎっちぎちに詰まっている。
乙骨憂太と夏油勲は、その脅威に圧倒されていた。
(もう、『接続』するしか――!)
だがそのとき――森の奥を、何かが激しくかきわけてきた。
太い蔓が千切れ、巨大な葉が薙ぎ払われる音が近づく――次の瞬間。
大熊の姿が、勢いよく転がり込んできた。
「パンダぁあああッシュ!」
「どわぁっ!?」
スーパーパンダが、ドロップキックで
層でできた躯体が鈍音を立てて後方に沈む。
場の空気が一瞬で変わった。乙骨も夏油も、思わず目を見開く。
「おおっ、パンダさん! 生きてたんすね!」
「パンダ君! どうしたのそんな大きく――」
パンダの纏う残穢を捉え、乙骨の表情が「まさか」と硬直する。
だが詳しい経緯を話せる時間はなかった。
「説明は後だ、まずコイツ倒さねーと話になんねーだろ!」
「なんだぁオマエ……ティンカーベルを喰ったのかぁ?」
『
石造りの顎が、乾いたカチカチという音を立てて動く。
「ちょーどいい、丸呑みにしてやる!」
「パンダさんアイツやべぇんです、攻撃全部が必中効果で――!」
「わーってる、任せろ!」
その咆哮と同時、無数の骨の刃が迸った。
地層から剥がれ落ちた鋭い骨片が、湿った空気を裂いて一直線にパンダへ襲いかかる。
そのひとつひとつに必中効果が乗っており、例外なく、パンダは――!
「「えっ、消えた!?!?」」
――が、その瞬間、パンダの姿が一瞬で消えた。
攻撃が虚空を通り過ぎ、古生の樹木を粉砕して散る。
次の刹那には、何事もなかったかのようにパンダの姿がそこに再発生していた。
「戻った!?」
「えっなんすか今のジャスガ!?」
(ま、そーしか見えねえよな)
『
「へぇ〜。それ触られてても使えるのかァ〜!?」
パンダは必中効果を踏み倒し、一気に間合いを詰めた。
『
両者が――激突する。
「オラオラオラオラ!」
夜蛾正道の生涯最高機体同士。
拳によって奏でられる至上の喝采。
石爪とパンダの爪が鍔迫り合い、尾を蹴りが弾き、重量が真正面からぶつかり合う。
硬さの差は明白。だが必ずしも、パンダが不利とは限らない。
「ほいっと」
「んぶ!?」
丸いフォルムに詰まった弾力と伸縮性。うまく身を回して受け流し、隙を作って、勢い十分にお尻がぶち込まれる。
『
(
「いっぺんやられたからなぁ。ある程度のカードは割れてんぜ?」
パンダは軽く息を整えながら、乙骨に目配せを送った。
「憂太!」
説明はできない。時間がなく、なにより『縛り』がバレるわけにいかない。
パンダにできるのは「合わせてくれよ」と願うことだけだ。
「
無茶ぶりにしか聞こえないパンダの言葉。
乙骨は一瞬戸惑うも、即座に返答した。
「
その結果。パンダと同時、乙骨までもが消えるようになった。
(今の、『生得領域』への転移――確かに、これなら必中効果を回避できる!)
(発動条件クリア! よしよし。あとはわかるな?)
「命令に従えば発動するのか――くだらねー!
パンダが致命打を回避させ、乙骨の刀が叩き込まれる。先ほど以上の大火力が地層の躯体に直撃し、『
(さすがに連発は呪力消費がデカいな! ある程度は素で耐えて、致命打だけを最短発動で誤魔化すしかねえ)
(十分な仕切り直しだパンダくん、一瞬でも反転術式の治癒に集中できるのは――!)
――いける。夏油勲さえも好転を感じ取った。
阿吽の呼吸で繰り出される乙骨とパンダの猛攻。
初めてダメージレースが成立している。
この体制が続けば、勝機はある――!
(オレも繰り出すんだ、この状況に最適な呪霊を――!)
故に、彼は思考を回していた。手持ち個体の中に、ダメ押しとなる手段はないか。低級呪霊でもいい、なにか有効な術式は――。
と、そんな時、予想外の事態が起きた。
「――なっ、なにいっ!? 必中効果が切れたぞ!?」
「のわーっなんだ!? 土地がっ!
唐突に、『
その攻撃に付与されていた必中効果が、解除された。
誰かが領域を展開したわけでもないのに、なんの前触れもなく。
「なぜだか分からんがチャンスだ! 今のうちに叩くぞ!」
パンダは
だが、夏油勲は叫んだ。
「パンダさん同意します緊急回避ぃっ!!」
「へ――おわぁあっぶね!?」
予期せぬ攻撃が、またひとつ回避される。
それは先程まで、脅威として認識していない存在による攻撃だった。
――ツタだ。周囲一帯に生い茂る植物が、明確な悪意と呪力を帯びて襲ってきたのだ。太い蔓が鞭のようにしなり、足元の草が波打って足首を狙い、巨大な葉が刃のように振り下ろされる。
「呪霊発生です! この森そのものが呪霊に転じ、暴れ出しました!」
先ほどの『
生得領域への一時離脱終了と同時、呪力探知全開で、全員が地面との戦いに動く。
風に吹かれたように波立って足を刺しにくる草原を踏み砕き、大手を広げて倒れ込んでくる樹海に捕まらないよう走り回る。
「パンダくん。これって
「あ、あぁ! 明らかな
「じゃあさっきのは任せた。――
「はいっ!?」
夏油勲は器用に木と木を飛び移り、呼びかけに答え乙骨の隣に着地する。乙骨はというと、圧倒的な呪力量にものを言わせ、周囲一帯の邪魔立てを踏み潰していた。
「二手に分かれる――この森を、僕らで祓おう」
「――っ、押忍!」
しかしこの熱帯雨林は、すでに葉のひとつひとつが呪力を捻出し始めている。
乙骨ですら手に負えない呪力量になる前に。
――『森に対する畏怖』の呪胎が花開く前に。
一刻も早く、祓う必要があった――。
サブタイのIQがどんどん下がっていく。
以前にお伝えした通り、週2投稿はなるべく頑張ります。
【補足・パンダのブラフ】
生得領域への転移の発動条件は、「同意すること」です。
なので、ただ一言『
そうなると勝ち筋が消えるので、パンダはあたかも「命令に従う」ことが発動条件のように見せかけました。