【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 53話『スーパーパンダVS恐竜王①』

 

 対御三家決戦用特級完全自立型呪骸――『恐竜王(プロドロムス)』。

 

 空性結界が再現した、恐竜繁殖時代の密林。湿度の高い空気が肌に張り付き、巨大なシダが風もなく揺れている。人間大の呪骸がそこに立っていた。地層そのものを転用した躯体。かろうじて恐竜とわかる輪郭の中に、化石と土と石がぎっちぎちに詰まっている。

 

 乙骨憂太と夏油勲は、その脅威に圧倒されていた。

 

 

 

(もう、『接続』するしか――!)

 

 

 

 だがそのとき――森の奥を、何かが激しくかきわけてきた。

 太い蔓が千切れ、巨大な葉が薙ぎ払われる音が近づく――次の瞬間。

 

 大熊の姿が、勢いよく転がり込んできた。

 

 

 

「パンダぁあああッシュ!」

 

「どわぁっ!?」

 

 

 

 スーパーパンダが、ドロップキックで登場(リングイン)した。

 層でできた躯体が鈍音を立てて後方に沈む。

 場の空気が一瞬で変わった。乙骨も夏油も、思わず目を見開く。

 

 

 

「おおっ、パンダさん! 生きてたんすね!」

 

「パンダ君! どうしたのそんな大きく――」

 

 

 

 パンダの纏う残穢を捉え、乙骨の表情が「まさか」と硬直する。

 だが詳しい経緯を話せる時間はなかった。

 

 

 

「説明は後だ、まずコイツ倒さねーと話になんねーだろ!」

 

「なんだぁオマエ……ティンカーベルを喰ったのかぁ?」

 

 

 

 『恐竜王(プロドロムス)』が嘲るように口を開く。

 石造りの顎が、乾いたカチカチという音を立てて動く。

 

 

 

「ちょーどいい、丸呑みにしてやる!」

 

「パンダさんアイツやべぇんです、攻撃全部が必中効果で――!」

 

「わーってる、任せろ!」

 

 

 

 その咆哮と同時、無数の骨の刃が迸った。

 地層から剥がれ落ちた鋭い骨片が、湿った空気を裂いて一直線にパンダへ襲いかかる。

 そのひとつひとつに必中効果が乗っており、例外なく、パンダは――!

 

 

 

「「えっ、消えた!?!?」」

 

 

 

 ――が、その瞬間、パンダの姿が一瞬で消えた。

 

 攻撃が虚空を通り過ぎ、古生の樹木を粉砕して散る。

 次の刹那には、何事もなかったかのようにパンダの姿がそこに再発生していた。

 

 

 

「戻った!?」

 

「えっなんすか今のジャスガ!?」

 

(ま、そーしか見えねえよな)

 

 

 

 『恐竜王(プロドロムス)』は興味深げに、首を軋めながら傾げる。

 

 

 

「へぇ〜。それ触られてても使えるのかァ〜!?」

 

 

 

 パンダは必中効果を踏み倒し、一気に間合いを詰めた。

 『恐竜王(プロドロムス)』も、お手並み拝見とばかりに悠然と前へ。

 

 両者が――激突する。

 

 

 

「オラオラオラオラ!」

 

 

 

 夜蛾正道の生涯最高機体同士。

 拳によって奏でられる至上の喝采。

 

 石爪とパンダの爪が鍔迫り合い、尾を蹴りが弾き、重量が真正面からぶつかり合う。

 硬さの差は明白。だが必ずしも、パンダが不利とは限らない。

 

 

 

「ほいっと」

 

「んぶ!?」

 

 

 

 丸いフォルムに詰まった弾力と伸縮性。うまく身を回して受け流し、隙を作って、勢い十分にお尻がぶち込まれる。

 

 『恐竜王(プロドロムス)』が大きくよろめき、その場に膝をついた。地層でできた躯体が、鈍い音を立てて沈む。

 

 

 

(オレ)と張り合えるだけのフィジカル、加えてこの呪力の通りの良さ。アップデートされてやがるな……!)

 

「いっぺんやられたからなぁ。ある程度のカードは割れてんぜ?」

 

 

 

 パンダは軽く息を整えながら、乙骨に目配せを送った。

 

 

 

「憂太!」

 

 

 

 説明はできない。時間がなく、なにより『縛り』がバレるわけにいかない。

 パンダにできるのは「合わせてくれよ」と願うことだけだ。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 無茶ぶりにしか聞こえないパンダの言葉。

 乙骨は一瞬戸惑うも、即座に返答した。

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 その結果。パンダと同時、乙骨までもが消えるようになった。

 

 

 

(今の、『生得領域』への転移――確かに、これなら必中効果を回避できる!)

 

(発動条件クリア! よしよし。あとはわかるな?)

 

「命令に従えば発動するのか――くだらねー! (オレ)のフィールドでどこまでやれるか試してみろッ!!」

 

 

 

 パンダが致命打を回避させ、乙骨の刀が叩き込まれる。先ほど以上の大火力が地層の躯体に直撃し、『恐竜王(プロドロムス)』が僅かに隙を晒す。合いの手を入れるように、パンダの拳が差し込まれる。

 

 

 

(さすがに連発は呪力消費がデカいな! ある程度は素で耐えて、致命打だけを最短発動で誤魔化すしかねえ)

 

(十分な仕切り直しだパンダくん、一瞬でも反転術式の治癒に集中できるのは――!)

 

 

 

 ――いける。夏油勲さえも好転を感じ取った。

 

 阿吽の呼吸で繰り出される乙骨とパンダの猛攻。

 初めてダメージレースが成立している。

 

 この体制が続けば、勝機はある――!

 

 

 

(オレも繰り出すんだ、この状況に最適な呪霊を――!)

 

 

 

 故に、彼は思考を回していた。手持ち個体の中に、ダメ押しとなる手段はないか。低級呪霊でもいい、なにか有効な術式は――。

 

 と、そんな時、予想外の事態が起きた。

 

 

 

「――なっ、なにいっ!? 必中効果が切れたぞ!?」

 

「のわーっなんだ!? 土地がっ! (オレ)の一部が言いなりにならないだと――っ!?」

 

 

 

 唐突に、『恐竜王(プロドロムス)』の弱体化したのだ。

 

 その攻撃に付与されていた必中効果が、解除された。

 誰かが領域を展開したわけでもないのに、なんの前触れもなく。

 

 

 

「なぜだか分からんがチャンスだ! 今のうちに叩くぞ!」

 

 

 

 パンダは生得領域への転移(ジャストガード)に使っていた呪力を攻撃に回し、この機に乗じようとした。乙骨も示し合わせ、領域展開の印を結ぼうとする。

 

 だが、夏油勲は叫んだ。

 

 

 

「パンダさん同意します緊急回避ぃっ!!」

 

「へ――おわぁあっぶね!?」

 

 

 

 予期せぬ攻撃が、またひとつ回避される。

 それは先程まで、脅威として認識していない存在による攻撃だった。

 

 ――ツタだ。周囲一帯に生い茂る植物が、明確な悪意と呪力を帯びて襲ってきたのだ。太い蔓が鞭のようにしなり、足元の草が波打って足首を狙い、巨大な葉が刃のように振り下ろされる。

 

 

 

「呪霊発生です! この森そのものが呪霊に転じ、暴れ出しました!」

 

 

 

 先ほどの『恐竜王(プロドロムス)』の弱体化は、悪兆だったのだと全員が理解した。

 

 生得領域への一時離脱終了と同時、呪力探知全開で、全員が地面との戦いに動く。

 風に吹かれたように波立って足を刺しにくる草原を踏み砕き、大手を広げて倒れ込んでくる樹海に捕まらないよう走り回る。

 

 

 

「パンダくん。これって()()だよね?」

 

「あ、あぁ! 明らかな想定外の現象(バグ)だ!」

 

「じゃあさっきのは任せた。――(カオル)くん」

 

「はいっ!?」

 

 

 

 夏油勲は器用に木と木を飛び移り、呼びかけに答え乙骨の隣に着地する。乙骨はというと、圧倒的な呪力量にものを言わせ、周囲一帯の邪魔立てを踏み潰していた。

 

 

 

「二手に分かれる――この森を、僕らで祓おう」

 

「――っ、押忍!」

 

 

 

 

 しかしこの熱帯雨林は、すでに葉のひとつひとつが呪力を捻出し始めている。

 乙骨ですら手に負えない呪力量になる前に。

 

 ――『森に対する畏怖』の呪胎が花開く前に。

 一刻も早く、祓う必要があった――。





サブタイのIQがどんどん下がっていく。
以前にお伝えした通り、週2投稿はなるべく頑張ります。



【補足・パンダのブラフ】

生得領域への転移の発動条件は、「同意すること」です。
なので、ただ一言『恐竜王(プロドロムス)』は「同意する」趣旨の発言をすれば、生得領域への転移対象に加わることができます。

そうなると勝ち筋が消えるので、パンダはあたかも「命令に従う」ことが発動条件のように見せかけました。
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