【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 54話『自然に還れ!』

 

 加茂憲泰(のりやす)は、空性結界の中枢に座し、事の成り行きを見守っていた。

 

 

 

「あちゃー、植物まで呪霊(いのち)になっちゃったか」

 

 

 

 そして完全なる想定外に、人知れず頭を抱えていた。

 

 

 

「演出を強化(もり)すぎてしまったな。よもやそれほどまで、この仮想環境が実在性を帯びるとは」

 

「空性結界の処理能力が喰われている、これではもう『恐竜王』は必中効果を望めんな……この地点の秘匿定義にも支障が出る……」

 

 

 

 元より、究極の一個体を形作るために構築した環境だ。

 意図して人工的に呪霊を作り、呪骸の素材とし、目的の最強呪骸を産み出したのだ。

 

 だが今や、()()()()()()()()が、この環境の中心に居座った。

 この環境のすべては、呪胎を育て上げるために働いている――。

 

 

 

「まっ、いいか。元より『恐竜王』は保険に過ぎん……せいぜい、潰しあってくれよ」

 

 

 

 自身の位置が露見したというのに、加茂憲泰(のりやす)は目の色を変えなかった。

 たとえ攻め込まれたとて、蹴散らすまでの事だと――。

 

 

 

――

―――

 

 

 

「乙骨さん、ヤバいですこれ! ネバーランドにまで被害が出かけて――ゲホッガボッ!?」

 

「内臓を呪力強化して! 酸素や花粉も攻撃に使われてるんだ!」

 

「そんな高度なのできな――ゴホッゴハ!」

 

 

 

 暴れ出した森全域。その被害の広大さを、呪霊操術を有する夏油勲は把握していた。

 

 そして事の重大さを、己の血反吐で理解した。

 

 

 

(息できねえ! 鼻水がとめどなく出るし、目を開けていられない――これが環境を敵に回すって事なのか!)

 

 

 

 人間はどうあっても自然環境の影響から逃れられない。

 このテリトリーにいる限り、悪影響に晒されるのは当然の道理だ。

 

 

 

「なんとか止めないと……けど、こんなのどうすれば……!」

 

 

 

 しかも、殺す以前に命が定義されていない。

 これは呪胎だ。存在が定まっておらず、森の木々すべてを自身として操っている。

 

 木を一本一本引っこ抜けばいいのか。

 焼け野原にすれば無力化できるのか。

 

 

 

(いや、地中の種子すら使われている。根こそぎは無理だ――!)

 

 

 

 どうすれば倒せるのか、有効手段は。勝利条件は何なのか。

 彼には、なにひとつビジョンが見えなかった。

 

 だが、隣立つ青年は違った。

 

 

 

「――(カオル)くん、くれぐれも離れないでね。間違っても君を廃人にさせるわけにはいかない」

 

「えっ、あはい!」

 

 

 

 術式反転による治癒で、かろうじて夏油勲は返答した。

 彼に掴まれたのを確認してから、乙骨は構える。

 

 ――空性結界が相手では、領域の押し合いが成立しない。

 だが押し合いとは、より優れた領域が制するもの。

 

 状況が乱れた今――その手は印を結んでいた。

 

 

 

「領域展開」

 

 

 

 森の一部が、丸っと結界に囲われ、分断される。

 展開半径に収められる限り、彼の周囲は取り込まれた。

 

 幾重もの剣と十字架の聳え立つ、丘の上へ。

 

 

 

   領域展開 真贋相愛(しんがんそうあい)

 

 

 

(領域内の様子は、たとえ空性結界を持つ相手でも観測できない。ここなら僕は、隠し札を使える――)

 

 

 

 乙骨憂太の領域は包蔵(ストック)する術式のうち、ひとつを選択し必中効果とする。彼が術式を選択した、次の刹那。

 

 その世界は、一面の銀河に覆い尽くされた。

 

 

 

「無 量

 空 処」

 

 

 

 乙骨を殺さんと一斉に動き出していた森が、寸前でピタリと静止する。

 

 

 

 ――『蒼』『赫』『茈』は、六眼による精密な呪力コントロールが前提の空間作用だ。

 だが『無限』の情報量を叩きつける、必中効果『無量空処』だけは例外だった。

 

 乙骨は、五条悟から模倣(コピー)した『無下限呪術』を、必中効果でのみ活用できる。

 

 

 

(これで、領域内の植物は無力化した――けど)

 

「おわぁっ!? マズイです乙骨さん、結界がミシミシ言ってます!」

 

「外からの攻撃だね。森全部を入れられたわけじゃない」

 

 

 

 むしろ全域の、ごく一部に過ぎないだろう。圧倒的な面積が、森に開かれた空白を塗りつぶそうと、領域に攻撃しているのが伝わった。

 

 

 

「けど大丈夫。少なくとも3分は保つよ。『極小の結界』を構築したから」

 

「……極小? 小さけりゃ強度上がるのか……?」

 

 

 

 ――領域の結界は外からの衝撃に弱い。

 かといって、こちらも領域外への手出しも観測も不可能だ。

 

 唯一、『あの術式』を除けば。

 

 

 

(正直これは宿儺に見られたくない。けど、出し惜しみをしてる場合じゃない)

 

 

 

 この場に乙骨を阻める者はいない。

 故に、指輪は丁重に嵌められる。

 

 

 

「おいで。リカ」

 

「……あい」

 

 

 

 ――5分間。式神『リカ』の完全顕現、及び『接続』。

 乙骨を覆う呪力量は、最大限に膨れ上がる。

 

 

 

「どれがいーぃ?」

 

「アレをやる。難しいけど、なんとか共同作業しよう」

 

「わかった! ガンバる〜!」

 

 

 

 そして、その全出力が領域に注がれた。

 夏油勲は目を剥く。

 

 

 

(この呪力消費、領域展開したときの倍はあるぞ――()()()()()()()()()()()のか!?)

 

 

 

 変化はそれだけではない。領域内の刀が、軒並み消え失せていた。

 ランダムで術式が付与される機能が、削減され、結界の別機能へとリソースが集中していく。

 

 

 

 ――乙骨憂太の『真贋相愛』は、必中のみの領域。

 領域の押し合いは、必中効果同士の衝突によって起こる。

 

 だが――リカとの5分間『接続』でのみ、リカを動員した200%の『真贋相愛』は。

 

 

 

 必中効果を、2つに増やせる。

 

 

 

――『獄門疆』、必中開門」

 

 

 

 リカによる必中効果の発動。

 領域の風景が塗り替わる。

 紅に染まる空から、肉の柱が降り落ちて、大樹たちを組み伏せていた。

 

 ――特級呪物、獄門疆。

 それは、生きた結界と呼ばれた源信なる人物の成れの果て。

 つまりこの呪物の効果は本来、人間の術式であり――『模倣(コピー)』の術式対象となる。

 

 

 

「止まった! 領域の軋みが……!」

 

「この術式の拘束効果は、一部に触れるだけでも全身に作用するんだ。本来なら封印までがワンセットなんだけど」

 

 

 

 領域の振動が停止し、内外問わず、森が無力化されたのは明らかだった。

 しかし、これはあくまで急場しのぎに過ぎないと乙骨は自覚していた。

 

 ――領域の必中効果である以上、領域を解けば解除される。

 かといって、ずっと領域を展開し続けるわけにはいかない。

 

 加茂憲泰(のりやす)か『恐竜王』に領域を叩き壊されるという、最悪のケースさえも在り得る。領域外の様子は、領域内からでは死角なのだ。

 

 

 

「じゃあ、このまま封印するんです?」

 

「できない。閉門を命じれば、外の部位が領域内に入ろうとする」

 

「領域が壊れちゃいますよね……」

 

「そうだね。だから、また別の術式を使うんだ」

 

 

 

 続いて、乙骨憂太による必中効果。

 問題を解決する二の矢が、解放された。

 

 

 

「最初の質問に答えるよ、(カオル)くん。土地そのものの敵を、どうすれば倒せるのか。勝利条件は何か――()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 

 三度、世界が色を変える。

 大自然が屈服し、肉の柱が立ち並ぶフィールドに、風が吹き込む。

 その息吹に撫でられた森の木々は、もし顔があったなら青褪めたことだろう。

 

 なにせソレは、呪霊という種族にとっての、侵略的外来種に他ならない。

 

 

 

「――『受愚戴転』、出力最大」

 

 

 

 その真髄は、呪力の統合と再定義。

 名もなき存在に個性を与え、成長指針と呪力を与え、強制的に成長させる。

 

 

 

(術式解釈を安定させるには、過去実際に存在した呪霊をイメージするしかない――東堂くんの話を思い出すんだ。京都校交流戦の報告書を――)

 

 

 

 乙骨の必中命令が、呪胎に送信された。

 命じられた成長の指向性。こうあれかしと定められ、

 そして領域が解除されると同時――森全体が変容し始める。

 

 植物に帯びていた呪力は抜け落ちていき、呪力は形を変え、より確固たる実像を帯びていく。

 

 

 

「……くっ」

 

「乙骨さん!」

 

「ゆうだっ!」

 

 

 

 乙骨は跪き、ボタボタと鼻血が滴り落ちる。

 リカはすかさず反転術式のアウトプットを、その湯だった頭に注いだ。

 

 ――領域の機能倍増。たとえリカとの分担であっても、脳負荷は余りある。

 

 

 

 そんな彼らを前に、ソレは形を得た。

 

 

 

――花御(はなみ)』、ですか」

 

 

 

 その貌には、確かな愉悦が浮かんでいた。

 望まぬ変化だったハズだ。

 変化を受け入れてしまうのも、歪められた結果だと自覚している。それでも、

 

 

 

「何故でしょう。不思議と、懐かしく感じます」

 

 

 

 発話される言語は意味不明ながら、不思議と脳に意図だけは伝達される。

 呪胎はこれが自身の姿そのものだと、この降誕を歓喜する。

 

 

 

「……あの、乙骨さん。これ倒せる存在になってます……?」

 

「少なくとも殺せる相手になった。さっきまでの環境じゃ僕でも生還できなかったよ」

 

「なっ、なら好転してますね! よっしゃあ頑張るぞォ!」

 

 

 

 かくして夏油勲、乙骨憂太による。

 特級呪霊花御(はなみ)の討伐が始まった――。





ずっとサブタイが藤岡弘探検隊とかウルトラマンタロウのノリ。
いやルソーなんだけどさ。



【補足①】乙骨の必中効果増設

メリットとしては、必中命令同士の衝突を第一の必中効果に任せて、
第二の効果を必中させる、という押し合い無視のクソコンボができます。

これ凌ぎ切るには領域展開した上で簡易領域でも張らないとムリです。(そんな高負荷結界術できるかー!)

しかしデメリットが大きいです。

①領域展開3回分の呪力消費が求められる

②領域内の刀がすべて消失する
(ランダム性を排除し、領域の全機能を2つの必中効果に極振りするため)

③発動後にはリカの反転術式でもカバーしきれないほどの脳負荷が発生。
少なくともリカとの『接続』時の最大メリットである、連続領域展開が不可能となる

あまりにも重いデメリットのため、絶対に勝てると確信した場面でしか使用が許されません。少なくとも相手のタネが割れてない場面では使えません。

そのため第一幕(九十九戦)では使用されませんでした。
そもそも必中効果の競り合いが成立しない相手でしたからね。



【補足②】獄門疆のコピー経緯

第一部で五条悟が破壊した『獄門疆』の破片を回収し、リカに食わせました。効果は100%再現されています。
これで黒縄みたく壊しても安心! なんたるライフハック。



【補足③】乙骨による『受愚戴転』の運用

呪力に名前(個性)を与え呪霊にする。
呪力に乗ったラベルの挿げ替え。

これが受愚戴転という術式の正規運用です。
本シリーズで初めて、裏技なしで乙骨が行使してくれました。
なんかビーム特化で使ってるヤツの方がおかしいんです。

なお第一部終盤の『喇誑』は、呪力を奪って『呪いの呪霊』、つまり自分を形作る使い方をしていました。
一存在の完成だけに術式を使っていましたが、やろうと思えば呪霊を産みまくることだってできます。
そういう意味でも、この術式は呪霊にとって侵略的外来種です。




【オマケ・乙骨のストック一覧】

・鄒霊呪法(釘崎野薔薇)
・呪言(狗巻棘)
・【判明】無下限呪術(五条悟)
・付喪操術(西宮桃)
・心身掌握(ラルゥ)
・G戦杖(シャルル・ベルナーク)
・御廚子(虎杖悠仁)
・治天下大王(ドルゥヴ・ラクダワラ)
・邪去侮の梯子(来栖華・天使)
・宇守羅彈(烏鷺亨子)
・【判明】獄門疆(源信)
・受愚戴転(婪佳久)
・十割呪法(七瀬三可紗)
・星の怒り(九十九由基)
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