【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 55話『朶頤光海』・上

 

 ――特級呪霊『花御』、再発生。

 術式、身体構造ともに、過去確認された同個体と同格。

 しかしその呪力量は、格段に上昇している。

 

 

 

「――勲(カオル)くん。1分でいい、時間を稼いで」

 

「押忍! ――えっ、あれ相手にタイマンですか!?」

 

 

 

 その威圧、圧倒的実力差を前に。

 夏油勲(かおる)は目を剥いた。

 

 まるで現実的に受け取れない命令に思えたのだ。

 だが乙骨は至極真面目だった。

 

 

 

「脳負荷をクールダウンさせる時間がいるんだ。『呪いの種子』は必ず避けるよう気をつけて」

 

 

 

 息を呑み、夏油勲は敵へ向き直る。

 その呪霊は聞いたこともない言語を発話しているのに――意味だけは、不思議と理解できた。

 

 

 

「――やめなさい、愚かな児等(こら)よ」

 

「私はただ、この星を守りたいだけだ。空も森も、命をもって泣いています。いまだ人間の舞台装置として消費される不条理に――」

 

 

 

 単なる呪いの戯言ではない。独自の言語体系を確立している。呪霊としての格の高さを目の当たりにした、夏油勲は――。

 

 

 

「ひっ、ひぃっ! なんてことだ! これが大地の怒り! やはり大自然には逆らえないんだぁっ!」

 

 

 

 などと恐れ慄き、腰を抜かして間抜け面を見せた!

 

 

 

(こいつとの実力差は明確だ! 正面からやりあえば瞬殺される! 時間を稼ぐために今すべきは――庇護すべき弱者ぶることだ!)

 

「くっ来るなぁっ! やめろぉーっオレにそばに近寄るなぁーっ!!」

 

 

 

 無論、これは弱者の演技!

 ピーターパンを見て学んだ経験が遺憾なく発揮された!

 

 夏油勲は苦し紛れとばかりに、低級呪霊を次々と放った。

 ――それさえ、花御と触れただけで消し飛ばされるという結果を前に、

 

 

 

「ゆっ、許してくれぇっ! オレたちもこの世界のシステムに従うしかなかったんだぁっ!」

 

 

 

 勝つためならば、土下座すら躊躇いなく彼は行う。

 

 現に彼は擬似術師――自ら呪力を捻出できない半端者だ。

 

 産まれたての花御にとっては、彼を殺す程度、赤子を捻るようなものに見えた。

 

 

 

「星に優しい人間がいることは彼らも知っています――しかし、その慈愛がどれだけの足しになろうか」

 

(――そういうスタンスなのかコイツ。じゃあ対話は有効じゃないな! 分かっちゃいたけど!)

 

「死して、賢者となりなさい」

 

 

 

 慈悲深い言葉とともに、花御は拳を振り落とす。

 勲の断末魔は、抗いようもなく刈り取られ――!

 

 

 

「なぁんちゃって⭐︎ やったれ、可塑曼陀羅(カポマンダラ)ぁっ!」

 

「かぶりぃいいい!」

 

「――!?」

 

 

 

 

 ――る前に、凶悪な紅の大鋏が顔を出し、花御を殴り返した。

 低級呪霊の消失反応の中、何度も死んで呪力出力をパンプアップさせた、超巨大ヤドカリ呪霊が!

 

 

 

(速攻だ! こいつは産まれたてで実戦経験が低い! そこに突け入り、攻め倒すっきゃねえ!)

 

「可塑曼陀羅(カポマンダラ)、畳みかけろ!」

 

「イエッサー! オラオラオラァ――っ!」

 

 

 

 呪霊操術の利点のひとつは、持ち主が弱くても、持ち主以上に強い呪霊が出せることだ。そうして成立した奇襲に、この呪霊はもってこいの性能だった。

 

 

 

「かぶりゃぁああっ!」

 

(このヤドカリは式神! しかし防御力が全くない、容易に破壊できる……)

 

「復⭐︎活ぁっ! とりゃあああ!」

 

(――先ほどより呪力出力が上がった!? 攻撃に特化した式神を量産する術式! なんてピーキーな……!)

 

 

 

 初見殺しに次ぐ初見殺し。翻弄される花御は、しかし優れた頑強さでダメージを耐え、事態に適用しようとしていた。

 

 故にこそ、畳みかける。

 

 

 

「厄介だよなぁ、この術式は。オレが弱いことが利点になるだけじゃなく――相性ゲーを強制できるんだからよぉ!」

 

 

 

 呪霊操術の最大の利点は、適用されようと別の呪霊を繰り出せばいいことだ。

 夏油勲が繰り出す次の一手。

 

 それは、この北陸区画(ブロック)到着前にゲットしていた――準一級・特定疾病呪霊。

 

 

 

「よくやった可塑曼陀羅(カポマンダラ)、交代だ! ――カモンっ、『公GUY』ッ!」

 

「これは――!?」

 

 

 

 またも花御は瞠目する。

 現れたのは、脈動する汚物の塊だった。

 

 金属の塊はいくつもの口があった。

 頭頂の煙突からは煙が、

 その他からは黒い液体が、

 とめどなく垂れ流され、汚染を広げていく。

 

 

 

 その呪霊の姿もさることながら――真に驚いたのは。

 

 自分が、別世界に放り込まれたという事実!

 

 

 

「――フシャアアアッ!!」

 

 

 

   領域展開 汚濁䑓蓏(おだくだいだら)

 

 

 

 掌印のもとに、広がる黒塗りの小宇宙。

 花御に炸裂する必中効果。

 

 ――その効果は本来、人間や呪霊相手には『遅効性の毒』として機能する。

 しかし自然という存在を圧縮し完成した花御にとっては――速攻性の猛毒となる!

 

 

 

「ぐぅっ、ううううっ!?!?」

 

「どうだ! オレはともかく、オレの仲間を舐めるんじゃあないぞ! オレは兎も角なっ!」

 

 

 

 血を吐き、跪く。

 いくつもの異常が身に起きていた。

 

 時間をかけて耐え、適用する方針が悪手なのは明白だった。領域とは何か分からずとも、本能でどう対策すべきかは理解していた。

 

 領域の主そのものを叩くべきだと。

 

 

 

「ぬ、ぅううう!」

 

「くっ流石にそうするか――!」

 

 

 

 術式解放。花御は――『倒木攻撃』に打って出た。

 自身の呪力によって具現化した巨大植物は、形状こそ歪ながら――『質量で叩き潰せばいい』という、至極もっともな生存戦略(けつろん)であった。

 

 

 

(『公GUY』はノロいし頑丈でもない! シンプルに殴られたら死ぬ! なんとかしねぇと!)

 

 

 

 相性の問題で戦闘が成立してこそいるが、純粋なスペックは花御よりも数段劣る。

 

 次の手を。次の攻め手を重ねることが、夏油勲には求められていた。

 

 

 

(しかも、あいつ――速すぎるだろ!!)

 

 

 

 疾走する花御の速度は、倒木が到達する速度を上回っていた。

 毒に蝕まれてなお健在の屈強なフィジカル。

 術式効果の全貌も見えていない。

 

 いかにして対処するか、勲に判断する時間がほとんどなかった――故に。

 

 

 

 一分経っていたなど、思考の埒外だった。

 

 

 

「ありがとう、勲(カオル)くん」

 

「!?」

 

 

 

 倒木が、『リカ』の両手に受け止められた。

 そして花御の拳に、抜き放たれた刀身が正面衝突する。

 

 ――反転術式(正の呪力)を帯びた、刀身が。

 

 

 

「ぐっ――!?」

 

(浅い!? 半分『精霊』だから効きにくいのか……!)

 

 

 

 本来、呪霊ならば即死する、反転術式のアウトプット。

 それが決定打とはならなかったものの――乙骨憂太は、花御を飛び退かす事に成功した。

 

 

 

「乙骨さんっ!」

 

「接続限界まで残り1分――ここでカタをつける!」

 

「ラジャーです! 仲間パワーで押し切ってやりましょう!」

 

 

 

 依然、求められるのは短期決戦。

 夏油勲の呪霊操術と、乙骨の『模倣(コピー)』――ここからは、より手数がモノを言う。

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