【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
「――侮ったことを謝罪しよう。全力で、殺してやる」
気迫。加茂憲泰から放たれる、迷いなき殺気。
初めて、本当の意味で自分は敵と認識されたのだと、灰原結は理解した。
「……そう。手間が省けて助かるわ」
――こちらの術式はすでに見られている。
が、あくまでも入れ替え修行前の『
(まずは受ける! 新技は温存。相手はどんな術式を――!)
「そぅら」
おもむろに、指向性高出力呪力放射が放たれた。
灰原の『
(『
「ふんっ!」
同時、背後から加茂憲泰の拳が入る。
髪は前面に向かっている。隙を狙っての前後同時攻撃。
「まぁ、対応してくるか」
「……っ!」
それさえも『
目の前の大きな呪力と、背後の小さな呪力を両方とも。
自動制御でなく、灰原結の操作によって!
「それで。素人上がりが、どこまで捌ける?」
猛攻。呪力を纏う打撃が叩き込まれる。
火力もさることながら、その拳に色めく『呪力特性』の移り変わりに、灰原は翻弄されていた。
(さっきから何なんだコレ。耐えず呪力特性が塗り変わっている――!?)
あるときは紅く燃え立つ炎。次には重厚な土。その次には透明の呪力。
変化のたびに異なる対応が求められ、呪力の流れから動作を読むことは困難だった。
――放っておけば『
(なんであれ『
一撃でもモロに喰らえば死ぬ、その前提で灰原は『
こと手数に関して、この術式は最高だ。呪力一本一本が自ら呪力を捻出し、呪力量に応じて伸びる。
たとえ壊されたとしても生やせばいい。
そうして無尽蔵に用意される
――透明な呪力から、流水へ。流水から弾性を帯びた柔軟な呪力へ。そして炎へ。
そのいずれもが達人級に扱われ、加茂憲泰の手を替え品を替え、一打を差し込もうと狡猾に打ち込んでくる。
「……やれそうでやれんな。こんな雑草じみた術式だったとは」
(にしたって、こんなパリンパリンやられるかよ!?)
一撃でも喰らえば、という仮定は現実だった。
呪力強化されたワイヤーの塊を、何度も束にして叩きつけられても、その拳を前には容易く破壊されるばかり。
(呪力特性を自在に変化させる術式? それにしては変化が規則的だ。そもそも何のために呪力特性を変えてるんだ?)
「……残念だが、頃合いだ。開示させてもらおうか」
ようやく、加茂憲泰の攻撃が止まった。
彼はやれやれといった風に、その手に立ち昇る呪力を見せ、こう言った。
「これは『五行操術』――五行思想を現実にする術式だ。呪力に属性を与え、その相性を利用する」
(ポケモンの有利属性みたいなもんか……)
「おまえも対象だ。殴った相手は必ず不利属性と見なされる。私を攻撃しても、そう簡単には殺せはしない」
異常な攻撃力の種が分かった。呪力量でなく、相性の問題なのだ。
相手は常に有利な属性で攻撃していて、こちらは常に不利属性での防御を強いられる。
安全マージンをとりつつも着実なダメージを稼ぐ。堅実な術式効果だ。
「常に不利属性って。アンタが属性変える必要あんの?」
それ故に、決定打にはなり得ない。
灰原は勢いづき、攻勢に回ろうとした。
その時だった。
――『
「……ッ、え?」
身を固める暇さえなかった。
切開された以上、踏ん張る以前の問題だ。
膝を打ち、舞い落ちる黒い花弁に紅が広がる。
そして加茂憲泰は、得物を見せた。
「あぁ。この通りな」
――五色に煌めく刀身。
全呪力特性が混合両立された、完成された呪力の塊を。
―――――
――
―
――『五行操術』。その術式のコンセプトは明確だ。
有利属性攻撃で一定のダメージを与え、
これは後者にあたる。
本来どれかしらが
形成しうる最上の呪力。決して刃こぼれしない、崩れることのない――無窮の刀身だ。
「
その死を決定づける矛先が、灰原に振り落とされる。
致命の間際、
「……あぁ。そういやぁ居たな、学長殿」
「……あ、あんた。なんで……?」
――日下部篤哉が。
両者に割って入り、不意打ちを叩き込んでいた。
(しょーがねぇだろ、コイツは勝ち逃げできんだぞ! 俺だってやりたかねーが取り逃がすわけにいかねぇんだ!)
日下部は防御を捨てていた。
反射神経に任せ、抜き放った剣を間髪入れずに叩き込む。
しかし加茂憲泰は一歩も引かない――それこそ、相性の問題だ。
「私に剣術を挑むとは。年期の違いを知るがいい!」
相生の剣が振るわれる。
ただ一度のかち合いで、日下部の刀身は容易く打ち負けた。
「ちっ――!」
即座、シン・影流『簡易領域』・『朧月』が展開。
欠損した刀身を呪力の刃が補う。
しかし呪具の強度差は覆らない。灰原結の二の舞に――。
――――。ならなかった!
「……なに?」
初めて、加茂憲泰は眉をひそめた。
決して対等でない刃同士、にも関わらず。
「シン・影流『簡易領域』――『夕月』!」
打ち合いが成立した。
刃を、刃で
(どういうことだ。なぜ斬り合いが成立する――)
「ヒントはそこら中にあったろ。旧総監部長殿」
「――なに?」
五色の剣閃を、ただ一振りの銀色が拮抗していた。
ぶつかり合う至高の剣技。
「五行だよ。中華思想で言う、世界の構成を五つに分けた考え。この空性結界にはソイツが満ちているじゃねーの」
「……なるほど。多少の蘊蓄はあるようだね」
信じられないが、加茂憲泰は現実を受け入れた。
生前、シン・影流の門下術師すら造作なく殺してきた『相生』の剣を――日下部篤哉は『中和』したのだ。
――この空性結界全体に仕組んだ術式情報を。
なにかしらの手段で空性結界から
超高度の結界術を、一切の
(『朧月』を使ったのは意表を突くためか。ぬかったな、まんまと凌がれてしまった――)
(術式開示完了。これで少しは出力上がるだろ。しかし――)
「バレちゃあ仕方ないな。そうだとも。君は実質的に私の領域内にいるのだ!」
(――やっぱそーなるよなぁ、クソッ!)
ますます――日下部篤哉を、生かして返す理由は無くなった。
五色の剣のみならず、五色の
「耐久試験だ。どこまで保つ? 私を引き留めることが君にできるとでも?」
(できるわけねーだろ
いずれの攻撃も一度の直撃で即死する。
生命の警鐘に追い立てられ、脊髄反射は追い着く限りに実行され続ける。
純粋な剣術勝負は、横槍によって崩された。
ましてや、確実に一定以上のダメージを与える『五行操術』だ。
攻撃はおろか、生き残ることすら不可能なのは時間の問題だった。だからこそ、
「なんだ。やはり現代術師はこんなものか。戦後の苦労を知らん世代はこれだから……」
「――だーっウルせえんだよ、ぐちぐちグチグチと! 今を生きてる連中に迷惑かけてんのはアンタでしょーがっ!!」
口撃に、打って出た。
より寿命が減るだけの行為とは分かっていた。
こんな事を言うなんて真っ平ゴメンだ。
しかしあくまで、毅然とした態度を装って、日下部は叫んでいた。
「そりゃー第二次を防げなかった俺が情けないのは当然だ、何とでも言え! けどな!
「どんな悲しき過去があろうが、非術師全員を呪術師にして殺し合わせていい理由があるってのか! 答えてみやがれ先輩サマよォ!」
どこまでも負け犬の遠吠えだ。加茂憲泰は、ただ黙って立ち去るだけでいいはずだった。しかし、
「……理由? 在るに決まっているだろう。戦争とは、あらゆる環境を巻き込むモノ――誰一人、無縁でいられるものか」
彼は、自らが作った五色の嵐のなか、刃を手に歩み寄ってくる。
自らが放棄した斬り合いを、再び選択しようとする。
(いいぞ。そのまま勝手に間合いに入ってこい……!)
このままでは呪力が尽きる。
その前に産まれた恐らく最期の好機。
日下部は、次の瞬間に全神経を動員させようとして――。
――まだ、選択肢が残っている事に気がついた。
「――なに?」
「……お前、行けるのか!?」
両者、同時に目を剥いた。
完全に除外していた選択肢の発生だった。
――灰原結が。五体満足の無傷で、両者に割って入っていたのだ。
「えぇ、トレンチコートのオッサン! 私に合わせて!」
「頼むぞ夏油じゃねぇ方!」
「灰原結だっつーの世間知らずッ!!」
学長としての直感を信じた日下部は、共闘を選んだ。
――死に貧した術師には、『目覚め』る者がいる。
羽化を始めた存在に、何人も触れることは許されない。今の灰原が正にそれだった。
彼女は、触れたのだ。呪力の確信に――!
ぎりぎり投稿間に合わず。次週こそは投稿ペースを維持したい。
っていうか灰原結おまえ普通に死にかけるって本当に入れ替え修行後かお前。
相手が特級術師なので仕方ないんだけどさ。
パワーバランスがモロ展開に影響している……。
【補足①】相生ソードの出し方
『五行操術』は仕様上、呪力特性を変化させた際、
直前の呪力特性が一定時間残ります。
最短で全呪力特性を一周させ、それらが反作用を起こさないよう神がかった呪力制御を行えば、完成します。
普通は絶対に成立しません。当たり前にスイと出せる方がおかしい。
【補足②】相生ソード 効果
常に特級レベルの出力を発揮し続ける、絶対壊れない呪具です。
とにかく強度が高くて壊されません。アロンダイトです。
たとえば虎杖の領域とかの『呪力を剥奪する』状況だろうと、呪力を発揮し続けます(一度形成してしまえば呪力を割かなくていいのもポイント)
えっ、釈魂刀?
知らん、そんなものは俺の管轄外だ。
【補足③】いつ日下部は空性結界のデータを引き抜いたのか
夏油勲と協力し、空性結界内の境界を叩ききったシーン。
あの場面でしれっとやっていました。
いとも容易く行われるえげつない行為。