【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 61話『相生と相剋』

 

(――反応できなかった!? 私の『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』が!? くそっ油断した油断した油断した――っ!)

 

 

 

 新技を繰り出そうとした矢先、斬って捨てられたのはこちらだった。

 灰原結はカウンター主軸で立ち回る術師。自ら攻撃に打って出ることには不慣れだった。

 

 ――なんだかんだ、勲(かおる)くんって起点作ってくれてたんだな……。

 

 

 

(センチになってる場合か何とかしないと! こんな半端に死んでたまるかっ!!)

 

 

 

 どくどくと切開された腹から温度が奪われ、思考が霞んでいく。

 手で覆うのがやっとで、倒れ伏した身体に力が入らない。

 失血死は目前。一刻も早い救命行為が必要だった。

 単なる縫合では意味がない、切断痕は骨まで達している。

 

 致命傷を受けたという現実を拒み、彼女の思考はフルスロットルで回る。生存すべくあらゆる発想を動員し――。

 

 

 

「――あれ。これ、もしかして。こうすれば――」

 

 

 

 ようやく、その術式解釈(こたえ)に行き着いた。

 

 

 

―

――

―――

 

 

 

(――灰原結。バカな、いったい何を……)

 

 

 

 加茂憲泰、そして日下部篤哉。敵味方がそろって目を剥いていた。

 完全に死んだものと考えていた彼女が――五体満足で、彼らに割って入っていた!

 

 

 

「トレンチコートのオッサン! 私に合わせて!」

 

「頼むぞ夏油じゃねぇ方!」

 

「灰原結だっつーの世間知らずッ!!」

 

 

 

 即座、日下部は連携する。

 彼の周囲を占める飽和攻撃――五色の呪力放射はすべて灰原に任せた。

 彼女の空を埋め尽くさんと生え広がる黒髪は、全自動(フルオート)で滂沱の雨を弾き落としていく。

 

 絶対的に不足していた手数の解決。残る問題は、

 

 

 

「『それ』ばっかりはムリ! 何とか抑えて!」

 

「言われんでもそーするっちゅーの!」

 

「……また斬り合いを? しぶといな、君たちは」

 

 

 

 加茂憲泰の手にした『剣』だ。

 五行操術で作成しうる最高の物体。完成されし究極強度の呪具。

 

 灰原結を殺しかけ、依然として振るわれる大太刀を――日下部の刃が抑えにかかる。

 

 

 

(やべぇ殺しにきてるさっきまで全然本気じゃなかったのかよ! とにかく『逸らす』だけに集中だ! 直撃は灰原が庇ってくれると祈るしかねぇ!)

 

(チッ、やりきれん。技術でどうこうなる呪具の差ではないだろうに、よくやる……!)

 

 

 

 鎬を削り合う最高峰の剣術同士。

 一見して対等な斬り合いだが、実際には、

 

 

 

(……ええい何なんだ。どうなっている、この女の体は!)

 

「糸を縫うように差し込む攻撃! こういうのは得意なのよね!」

 

 

 

 灰原結本体の格闘(じゃまだて)ありきの戦闘だった。

 日下部が剣を封じているのをいいことに、間隙を縫い、拳が。蹴りが。加茂憲泰へと差し込まれる。

 

 ――日下部のカウンターと加茂憲泰の剣舞。並大抵の反応速度では合わせることはできない。しかし、

 

 灰原は明らかに状況を見切っていた――それこそ『赤燐躍動』さながらに、強化された動体視力によって。

 

 

 

(見違えた判断力と俊敏さ。呪力の膨大さに反した『細かさ』。まさか――!)

 

「――貴様、全身を式神化させたのか!?」

 

「悪い? 髪で出来たなら他もできたっていいでしょ」

 

 

 

 そう。これが灰原結が一命を取り留めた理由。

 全筋肉、全神経、全血脈脈――あらゆる繊維を『式神』へ転用したのだ。

 

 『蜘蛛の糸』の術式対象は、自ら呪力を捻出し呪力によって再生するようになる。

 これによって、反転術式なしで、切断痕の完全治療を実現していたのだ。

 

 通常の呪力強化に加え、身体機能そのもの増強。

 灰原結の肉体は、格段にグレードを上げていた!

 

 

 

「馬鹿げた事を、そんな真似(もの)は人(・)間(・)性(・)の(・)完(・)全(・)放(・)棄(・)だ(・)! 部位ごとに異なる自我を与えようものなら、バラバラに動作し、人体は破綻す――」

 

「そーなってねーだろうが見て分かれ!」

 

「ぶっ――!?」

 

 

 

 拳が食い込む。黒髪が舞い踊る。式神を満遍なく積載した肉体が、しなやかに躍動し踊り狂う。

 

 ――加茂憲泰の懸念は最もだった。こんな術は本来成立しない。

 だが灰原結には二つの勝因があった。

 ひとつは、宿儺の『呪霊の切り分け』を目撃し、『身体部位ごとに術式対象を区分けする』術式解釈(アイデア)を得ていたこと。

 

 そして、もうひとつは――。

 

 

 

「限界まで鍛えてもらって分かったんだけどさぁ。私には式神術の才能がない! 自我を持った式神なんて高級品、逆立ちしたって私には『作れねえ』んだよ!」

 

(術式の開示――!)

 

「っつーわけで安心して殴られときな! これが私の拡張術式(あたらしい)『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』――『玻璃の糸(シナプス)』だッ!!」

 

 

 

 

 かくして、全身を式神に置き換えた改造人間が猛威を振るう。

 翻される太刀なぞ無縁とばかりに、その反応速度と膂力でもって。

 

 彼女の一打には、持ちうる呪力の限りが投じられていた。

 本来ならそのまま呪力が尽きる。しかし今の灰原――全細胞が式神として機能し呪力を捻出する肉体にとっては、呪力回復量(自己補完)が上回る。

 

 そんな贅沢な大呪力を撃ち続ける、鬼人が完成していた。

 

 

 

「ちょこざいな。無能が開き直りおって――!」

 

「いいぞ、灰原! そのまま畳みかけろ! おかげでだいぶ楽になってきた!」

 

 

 

 日下部は絶えず、加茂の注意を引きつけ続ける。

 斬り合いを怠れば即座に崩され、押し切られるだろう局面だ。

 

 ついに最大の問題である、呪力出力差が埋まった。

 今の灰原の火力ならば、『五行操術』の相性補正を加味しても倒せる芽はある――!

 

 

 

(こいつ、普通に俺と切り合いつつ片手で灰原さばいてんだよな~。正直帰りてェ~ッ!!)

 

 

 

 どちらが先に崩れるか。ここにきて真っ正面の技量勝負になってきた。

 そして相手は戦後日本を生き抜いた特級術師。

 日下部は老骨に鞭打って食い下がり、灰原は全能感のまま殴り続ける。

 

 ――そして事態は、突如として動いた。

 

 

 

「はぁっ!? なにこれバリア!? 負けが込んできたからって小学生じみたコトしないでくれる!?」

 

 

 

 灰原の拳が、不可視の盾に弾き返されていた。

 ――憲泰が翳した掌に起こる、『五行の打ち消し合い』による空間断絶だ。

 

 

 

「失礼な。これは『相剋』、れっきとした五行の一概念だよ」

 

「じゃあ五行極めたら剣出せるんですかァ!? せめて太極図ださんかい保守派筆頭さんよォっ!?」

 

「おい灰原ヤケ起こすんじゃねーぞ頼むから!」

 

 

 

 日下部は冷静に分析し、「やべーな」と汗を垂らす――突破手段がない。

 

 あれは『相生』効果の塊の剣とは真逆。概念的拒絶の塊だ。

 こちらは物理攻撃だより。接触できないんじゃ、どうしようも――。

 

 

 

「――なぁ。世界が終わる瞬間とは、どんな光景だと思う?」

 

 

 

 脈略のない問いかけだった。

 剣と拳で、格闘することに手一杯の二人に、聞いていられる暇はない。

 

 しかし――日下部は直感した。

 

 

 

(……やべぇ。すっげぇイヤな予感がする――ッ!)

 

「私は知ったんだ。工場勤めだった恋人が生きているか確かめに出向いた先で。かの冷たい時代の背景にあった脅威を――その原理を知った時は愕然としたよ。だってそうだろう?」

 

 

 

 まるで渋谷の、宿儺に呼び止められた時のような心地だった。

 ――いや、むしろ単純威力ならば、あの瞬間を超えるだろう。

 ――――こればっかりは、いくらなんでも『無理』だ!!

 

 

 

「できるんだよ。五行のうちひとつを完璧に引き抜けば、五行思想(ぶっしつ)は形を保てなくなる」

 

「えっ、あれ。どこ!? 日下部さん!?」

 

 

 

 

 即断――シン・影流『簡易領域』を展開し、解除。

 結界座標をずらすことで、日下部は転移していた。

 

 灰原には、撤退判断の意図を理解する間も、伝える間もなかった。

 すでに術式開示という発動条件は済んでいた。

 

 相乗の剣が消え、空になった手を加茂憲泰は、灰原へと向け、放つ。

 

 

 

「極ノ番――『胞末(ほうばつ)』」

 

 

 

 過去、特級認定を降された――その奥義を。

 

 

 

―――

――

―

 

 

 

 ――灰原のすべてを、白光と波が包んでいた。

 

 眼球を貫き、頭蓋を無視し、脳の奥まで波及する絶大の熱波。

 全身を揺らがせる抗い難い、凪。

 

 本能で理解する。この熱が骨まで通れば、生存は絶無だと。

 

 

 

(『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』・拡張術式――『五色の糸(タングレット)』!!)

 

 

 

 瞬時、温存していた新技を行使した。

 それは『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』、つまり式神化した髪を編み上げ、全身を覆う漆黒の外骨格(よろい)だった。

 

 ――体外は『五色の糸(タングレット)』が。

 ――体内は『玻璃の糸(シナプス)』が。

 そして身体そのものを呪力強化が。

 

 三重の呪力装甲で敷かれる、全力の生存策。

 

 

 

 それでさえ、

 

 

 

(あ、これ――耐えられるかどうかの次元じゃ――)

 

 

 

 容易く、彼女の意識は掻き消えた。

 爆心の熱と衝撃が。その身体を横一直線に突き飛ばし、足先が地面に触れた瞬間に回転し転倒へ。

 ものの数秒で振り回され、そのまま四散する――ハズだった、しかし。

 

 

 

 灰原結の身体は、受け身をとって少なからず威力を相殺していた。

 気絶した主人に代わり、全身を覆う『五色の糸(タングレット)』が自ら動いて、その動作を実行していたのだ。

 

 そして彼女の全身、繊維という名の式神たちは事態に対応する。

 

 ――『五色の糸(タングレット)』の維持による対熱・対衝撃防御。

 ――『玻璃の糸(シナプス)』による断絶した身体機能の補完・生命活動の維持。

 なにより『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』全体が行う、身体呪力強化。

 

 九秒にわたる無音の献身の結果。

 ――灰原結は意識を取り戻すに至る。

 

 

 

「ぐっ、ううううう――!?」

 

 

 

 眼球を炙られ喉を灼熱感が支配し、最大化した体感覚は絶不調の直中にあった。

 再生と爆風の板挟み。それでも生存本能と術式経験(やまかん)に従い、対放射線呪力防御を実行した。

 

 ――今、灰原の全身は『式神』に転用されている。

 そして『式神』である以上、死亡の定義は生命活動の停止ではなくなる。

 脳に刻まれた『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』の術式が止まらない限り、再生し続けることができるのだ。

 

 

 

「切れんなよ、『蜘蛛の糸(ラプンツェル)』――ッ!!」

 

 

 

 脳機能の集中呪力強化。術式機能の死守。

 呪力切れなど無視し、呪力捻出量にモノを言わせた集中防御。

 ただそれのみに専念する、永遠に感じられた短い時間の果て、

 

 

 

「……はっ、は……う、げぇええっ、え」

 

 

 

 もうもうと広がる茸雲の下。

 黒い雨の降りしきる焦土の上。

 灰原結は瀕死の重体ながら、生存を勝ち得ていた。

 

 

 

(……まだ頭がぐわんぐわんする。肉の焼けた臭い――これって、まさか……)

 

 

 

―――

――

―

 

 

 

 ――原子核崩壊。

 世界を構成する五行のうち一行を完全に欠落させ、『五行操術』そのものを破綻させる。

 その不整合を埋めようと起こる反応は、中性子反応と類似した挙動となり、呪力の爆発的解放をもたらす。

 

 代償に、『五行操術』にはクールタイムが発生。

 一定時間、一切の術式効果が発動できなくなる――ただし。

 

 

 

「――領域展開」

 

 

 

 領域を用いる場合は、その限りではない。

 

 灰原結が『胞末』を耐え抜いた。そう認識した時点で、加茂憲泰は領域使用を決断していた。実力差など関係なく、確実に排除すべき脅威として認めたのだ。

 

 印を結び、破滅の世界が改めて構築される――その刹那。

 

 

 

「――『神風(バードストライク)』」

 

「――しまっ」

 

 

 

 その右腕を、飛来した黒鳥が刈り取っていた。

 

 

 

「がぁ、っああっおのれ貴様、いつの間に裏切って――!」

 

「――ご苦労、灰原結。やはり出資先を変えて正解だったよ。お陰でこの通り――」

 

 

 

 彼女は、見ていたのだ。

 泥臭く食い下がり続ける二人の姿を。

 敵の力と、確実に隙が産まれる瞬間を。

 

 今がその時だった。

 

 噴き出す鮮血を、双眼鏡(オペラグラス)越しに眺め、彼女はほくそ笑む。

 傍らの少年の拍手を一身に浴びながら。

 

 

 

「――最小限の労力で、最大の効果だ♡」

 

 

 

 一級術師・冥冥は、二度目の裏切りを演じてみせたのだ――。

 





【補足】加茂憲泰の領域

『五行』の満ちた空間。
必中効果がない縛りで広大な結界となっており、
術式効果の底上げにのみ特化。

『胞末』を発動させ、
この結界を自ら吹き飛ばす『縛り』で更に威力増強を図る。

(必中効果がないから避けれるよね?
 なお被害は領域内に満遍なく及ぶぞ! という構成)

相手も領域展開で応じた場合、
必中命令の衝突や結界術の実力差を無視し、
単純威力のみで領域の押し合いに勝利できる。

領域外の相手に対し、『胞末』を不意打ちで浴びせるためにも使用できる。

むろん他の技も使用でき、『相生』の剣や『相剋』の盾が大気中から生えてくる(伏黒の領域内の式神みたいな感じ)



ちなみに『胞末』は五条悟と宿儺には耐えられる。
そんで「へー凡庸な術式の割に頑張るじゃん」とたぶん褒めてもらえる。



【補足②】灰原の耐久力について

五条悟は攻撃が通じないor魂に届く攻撃以外は回復できる。
宿儺は圧倒的呪力と完全体フィジカルで耐える。
秤金次は暴力的な反転術式のスピードで耐える。

いろんな不死身のキャラがいましたが、灰原結の場合は『人体改造』『自動修復』『常に呪力量が最大のまま減らない』『三種の身体呪力強化の重ねがけ』という方向性になりました。

硬い。硬さのレベルが違う。
耐久力だけなら特級レベルの性能です。
これから京都に乗り込むんだから、せめて打たれ強くなってよね⭐︎
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