【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
今回、後半だけでも読んで下さい。
【あらすじ】
任務完了。しかし、伏黒恵は、なぜ迷惑系配信者なんて助けたのか。
安曇野禍福に、今の正義感を開かす。
「助かったー!」
「ああ、これで動画が持ち帰れる!」
……そーいや、そんな趣旨だったな。
と。驚天動地の余韻が薄らぐ間もなく。
禍福は、旧・東京高専に戻るや否や、不法侵入者と対面していた。
「これから、お前らの身柄は警察に引き渡す」
「「えっ」」」
「当然だ。東京に入るのは法的に禁止行為、アカウントも消える。公表によって起こる社会的制裁を想定した甘い処置だ。……そもそも、命拾いしただけ感謝しておけ」
そして。速攻で伏黒に連行された。
こんなことは一度二度でないのだろう。
お勤めご苦労様です、と敬礼した自衛隊がシームレスに身柄を確保。すごすごと術師の護衛付きで立ち去った――ドナドーナドナ、と聞こえてくるテンポの流れ作業。
だから、だろうか。
「……アンタ、最初から助けるつもりだったのか」
ウニ頭が振り返る。
なんでだろう――初めて、ちゃんと目を向けられたのだと思った。
「なんで、そう思った」
「……いえ。なんとなくです」
互いに、淡白な言葉を交わした。
「任務完了だ。新東京高専までは、送っていく」
「お願いします」
―――
――
―
キャタピラの音を背景に、ぼうっと運ばれる自衛隊の車両内。
「なんでお前、五条先生に復讐なんて考えてんだ? 理由によっちゃ手伝うぞ。不倫問題とかだったら」
――いっきに、禍福の眉間に皺ができた。
だが、いまさら伏黒恵を無視もできない。
「……御三家の出なら、ご存知ないのですか」
「知ってたなら聞いてない。手間なんだよ。昔の話は旧総監部の記録を掘り起こさないといけない」
「旧総監部の粛清、あれだけでも分かるでしょう。自分は考えなしのバカが、力を持っている不始末を承知したくないだけです」
「まぁ、それはわかる」
――同意が欲しいわけではない。
というか話したくない。他人に話した所で、どうせ否定される事は目に言えている。
故に、辛辣に口にした。
「あれは、自分の両親を含めて――安曇野家を鏖殺しました」
「……旧総監部の一員だった家か」
――安曇野家。
それは、藤原の末裔。
それは、かつて菅原道真を追放し、道真に呪われて没落し、長野に逃れた――藤原時平の家系にして、呪術御三家のなり損ない。
「俺の両親は家を出て、呪術師として稼ぎつつ、呪術に関わせずに俺を育てた――ある意味、貧弱な呪術師で、真人間でした」
菅原道真の末裔である五条家とは、古くより犬猿だった。
「実際、のちに資料を漁ったら、五条家へのヘイトを向けていたのは殆どジジババだけで、若いのは嫌々ながら風習に従っていたそうです。知らない先祖の因縁とか、どうでもよかったんでしょう。でも――五条悟は、その因縁を蒸し返しました」
実際、後ほど、この話は事実と分かった。
旧・呪術総監部のデータベースに、2013年、同様の記録があった。
――五条悟自らの手による、安曇野家鏖殺。
「……それで、家を出た人間さえも殺したと?」
当時、禍福は三歳。記憶は断片的で、しかし色濃い。
『禍福、あなたは逃げなさい!』
――確かに、母がそう言っていたと覚えている。
何から逃げろと言うのか、戸惑った事も。
だが、逆らって追いかけた先。
燃える長野の屋敷、両親は死んでいた。
――五条悟も、そこにいて。
血に濡れた両親を抱えていたのも。
そんな、安曇野が死んだ日――、
――この、呪術界で言わせれば指して珍しくもない、
強いて、五条悟が直々に手を下したというのだけが目を引く程度のお家騒動は。
その後、2018年のゴタゴタで、完全に忘れられていた。
「俺の中では、終わってない。――なにもできなかった。我を通せなかった。脅威とすら見られず殺されなかった。勧善懲悪を起こしてやりたかった――それだけの話です」
……同情なんて要らない。
只人にとって、過去とは過ぎ去った事だ。
そんなヤツの言葉など、復讐者には要らない。
「それで、呪術師に?」
「ええ、海外で独学で修行しました。以降は親のツテからフリーで仕事を……他人にものを決められたくなかったので。お陰様で、収入源には困りませんでしたよ」
「……そうか」
知っている。たかが知れている。
復讐に対する人の意見。
だからって殺人はよくないだの、それをやってもなにも戻らないだの。
「……確かに。あの人は信じられないくらいの常識知らずで、自分のためにしか呪術を使わない変態だ。……けど多分。そんなみみっちい事はしない」
ほれ見た、これだ。他人事、無責任の究極形。
ありきたりで実のない、気休め未満の言葉。
そういうのこそ、大嫌いだ。
理解してもらおうなんて思わない。
――今となっては自分さえ、自分がバカだったとしか思えな――。
「でも、それなら止めない。――どうせあの人は『最強』だし、今じゃ不死身だ。好きなだけグサグサやってやれ。実際、ちょっとスカッとする」
――はい?
なに、言ってんだ。コイツ?
恩人の先生をブッ刺したんだぞ、どんな理由でも承知できないだろ、それは。
いや、そもそも。婪佳久もだが。
なんで、復讐者相手にその態度なんだ?
「――俺が、助ける価値のないと思うヤツを助けたのは。自分自身が一度、助かる価値のないヤツになったからだ」
「――」
「それでも、あの人に助けられた。まるで、俺の気持ちも、俺の中の善悪も気にされなかった。――そんな俺でも……いてほしいと、言ってくれるやつがいた」
――そんな事はない。そう、つい言おうとしていた自分に息を呑んだ。
どうやら俺は。少なくとも、コイツはそんな人間じゃないと思ったらしい。
けど、本人が言うなら、そういうことがあったのだろう。
それに、それなら、理解できる。
――なぜ、見捨てる選択肢を奪おうとしなかったのか。
――なぜ、俺へ向ける目に、不信がないのか。
「許せないんだろ。なら、好きなだけ
そう言って、送り出された。
……送り出されてしまった。
ぽつねん、と遠くなる車両を眺めながら、呆気にとられた。
「……応援されても、困るんだがな」
我ながら、面倒な人間の言葉に辟易する。
もうクタクタだし、めんどくさい。
もう、今日はいいや。帰って寝よう。
今日は、珍しく都合よくものを感じられる。
人間とは、酷く疲れると、そのぶん何かを得たと錯覚する生き物だ。
だからか。少しだけ、前進した気もするし――不思議と今日は、それだけでもいいと思えるから。
―
――
―――
――――2025年3月21日0時25分。
旧・東京高専からの連絡が途絶える。
不測の事態と判断。
即座、特級術師・伏黒恵が急行――その結果。
「……嘘だろ」
対面したのは。祓われた筈の――悪人の形象。
「報告にあった、ツギハギ呪霊……!」
「や、はじめましてっ、ウニ頭君♪」
しれっと、待機していた筈の術師全員の肩に手を乗せて――人質とし。
さも当然と、高専結界をくぐり抜けた特級呪霊――『真人』は、嗤う。
(今日特級何体出んだよ……いやそれよりも!)
「――なんで、高専結界を通れてんだよ!」
「元からやれるよ。
――馬鹿を言え。それで今日まで例外なく、旧東京高専は東京内でも安全地帯でいられたんだぞ――なんて。そんな人の都合など知ってか知らずか、嘲笑し。
「馬鹿と鋏は使いようってね。今回も同じだよ」
「……あの配信者を焚き付けたの、お前だったのか」
「その通り。この通り民間人も三十弱ほど掻っ攫えた。臨時収入って嬉しいよね」
その場の全員、掌の上で転がしながら。
一思いにやられることも許されず、震える人質の生殺与奪を複数の手で握りながらも。
「布瑠部由良由良――!」
「あータンマタンマ。君とガチる気はないし、ヘタに手出しできないでしょ? ……今日の俺、あくまで告知がしたいの。いっぺんやってみたかったんだよね、これ」
「……告知?」
――立ち上がり、大きく、上機嫌に叫んだ。
「――来たる4月20日。我々は『一億総呪殺の儀』を執り行うッ!」
「目標は――旧東京高専地下、『
「そんなの、お前の呪力量で出来るわけ――!」
「それを実現させるための一ヶ月の儀式だよ――最終日以外では認識できず、止められない!」
「べらべらと―― 魔虚羅!」
召喚、翻る魔虚羅の『対魔の剣』――だが。
真人を、すり抜けて空を切った。
「なに!?」
「言っただろ、最終日以外は止められない」
「結界――いやそれとも違う、これは」
伏黒恵は、異常事態に目を剥いた。
だが認める他にない。
この気配、この違和感。
――真人を含めて、高専そのものの存在が薄れていくのを感じる。
間違いなくさっきまで『ここにあった』。
その空間の影が薄れ、遠ざかるのを感じる。
(位相がズレた――これ、獄門疆モドキか。この次元から存在しなくなる!)
『適用』できない――つまり。
適用する対象自体が、既にこの世界にないのだ。
(それだけの呪術。たしかにそういう縛りでもなきゃ成立しない!)
ハッタリなんかじゃない。
ヤツの言っている事は真実――!
「――てことで、また当日ね。生きたくば止めてみろーっ! じゃねー!」
「まっ……!」
そのまま。人質を連れて、地下までゴッソリと。
止める間もなく、文字通り。気配は消えた。
「……クソ。乗るしかないのか」
色濃すぎる残穢だ。
ていうか、その割に曖昧極まる。
全く種が分からない。一体何者が……?
『もしアレが『完全』に暴走したら、対処できませんよ』
『あー大丈夫、その時はもっとヤバいの二体はくるよ、多分』
『……はぁ?』
ヤツは、『我ら』と言った――間違いない。
どういう理屈かはわからないが。
真人の協力者、特級呪霊が存在する!
『――ま、大丈夫でしょ。恵も特級なんだから』
「……、クソ」
致し方ない。
これは共有し、ただちに要請せねば。
現総監部と、五条悟に。
「あの特級呪霊……こうなりゃ、こっちもアイツを呼ぶしかないな」
こんなの、過去最大の呪術テロだ――!
―――
――
―
「キヒヒッ! ――やってくれたなァ、真人!」
「……我らは気づかれる事なく計画を実行する方針だったでしょう」
こう、帰るなりガミガミ言ってくる感じ。
同じ呪いのよしみだ。
なんだか少し、嬉しくも懐かしい。
「貴方に『私の無為転変』を注ぎ、再発生のプロセスを速め、復活させた際――貴方とは協力関係を誓う縛りを結んだハズです」
そう、向けられる殺意にヘラヘラ笑顔を返して。
真人は腰を下ろし、背もたれを抱いた。
「ま、いーじゃんいーじゃん。元々俺をマークしてたヤツいたし。どちみち当日にはバレてたよ?」
今は亡き家主の代わりに、豪奢な椅子が来客を歓迎する。
ここは東京深くの、比較的原型のあった古屋敷。
「それに、言ったよね――俺は、同じ呪いとしてお前らを認めてない。強い弱い、縛りの有無以前だ。君らはこの世にある上で、本懐を遂げられていないんだから」
鏡には、誰一人映らないが――。
真人の視線の先。同様に座すは、二体。
「だから宣言してやったのさ。お前ら……五条悟とやりたがってたじゃん?」
「応、当然だともよ!」
片方、赤い帽子に四つ腕の呪霊は快活に嗤い。
南瓜頭はただただ、正座で俯く。
その二体の顔には――涙が刻まれていた。
そういう有り様なのだ。目の下には縦のラインがある。
その他には似ても似つかない。
けど、強いて他に共通項を挙げるなら。
「その通りです。貴方も、人の呪ならば判りましょう――我らは、罪なのです。呪など、それを産む人など、それを是正できない術師も、あるべきでない咎――五条悟が止められなかったから、今があるのです」
魂が。像が、定まらない。
間違いなくカテゴリは定義されている。
だがそのカテゴリ自体が曖昧なのだ。
何せ、この二体は――。
「我ら――大衆の呪術に対する呪い!」
「――人も呪も、否定するまで」
――――特級事象呪霊。
渋谷事変――『ジャック・オー』
新宿決戦――『ニコラウス』
南瓜頭に、赤帽子。
二つの、呪術が認識されたキッカケ。
海外圏を含めた大衆の畏れ――その象徴。
故に、曖昧ながら最強。次世代の呪霊――!
「いいね、そうでないと……五条悟に勝ったら、俺はお前らを認めてやるさ」
その協力者――真人は、舌舐めずりをして、
(まぁ実際。これだけ事を広めれば、確実に来るよね…… 今度こそ、この手で殺してやるさ――アイツだけは!)
この先の新たな歴史に、誰よりも期待して、醜悪な笑みを深めていた――。
最終回まで毎日投稿で突っ切るとか言ったな?
アレは嘘だ。
次回は、5月3日(土)になります。
……いやほんとすんません。読者に優しくありたいのです。
リア友複数に「一話一話おもろいけど無量空処くらう」と言われ、「確かにやべぇかも」と思ったのです。
前書きにある通り、五月からは三日ごとの投稿とさせてください。
(「んなことねーっす自分ついてけるっス」って人いたら知らせて下さい、再考します)
さてさて。次の一年ズは誰になるのか。
明かされた禍福の過去はどのような展開を辿るのか。
新たな章の幕開けに皆さんお備えください。
【オマケ・伏黒を書いて思ったコト】
心残りがあります。
伏黒は書けても津美紀が書けなかった、という事です。
なんとか入れられないモノか苦心したのですが、
どうやってもノイズになるので完全排除しました。
本誌の伏黒って、あらゆる行動と思考に津美紀のフィルターが入ってるんだろうな、と思いつつ、その再現ができなかったのが悔やまれます。
……まぁ、そもそも伏黒ってキャラをらしく書けてたのか、
本作自体おもしろいのか否か。
読み手の反応を見ないことには分かりませんがね!
てことで何度でも言うぞ。
ご感想ご評価お待ちしております。