【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
完全体両面宿儺に勝利した五条悟は、
夏油の亡骸と共に、家入の待つ保健室へと生還していた――。
「――よ。久々のクズコンビ」
緊急医務室にて、家入硝子は笑顔を見せた。
事態が事態。デスマーチやら、仲間の死やらは覚悟の上だった。
だが結果的に、彼女の表情は穏やかそのものだった。
「硝子。羂索の野郎、天元様持って逃げやがった。今回で仕留めておきたかったけど、まぁいいでしょ。傑だけは取り返せたし!」
「……だから、今度こそ頼む。」
想像だにしなかったお客様と対面したけれど、それも良しとする。
実際、素直に嬉しい。
人が減るどころか、まさかの同期勢揃いとは。
「はいよ。オマエ用の準備が無駄にならずに済んで何より。そんでさ」
しかし。それはそれとして、問うなら今しかないだろう。
「オマエ、前ん時は夏油の遺体、どうした?」
「……」
『――どうして前も私に任せなかったんだ。そうすればこんなことには』
喉から出かかった言葉の続きは、飲み込めた。
――五条と硝子は別に親友でも恋人でも何でもない。
それどころか、仕事上の付き合いすら。
なにせ五条悟は――2013年、ただ一度きりを除いて――常に傷一つ負わず帰還したから。
それでも、五条も夏油も、同じ青春を過ごした腐れ縁だ。
少なくとも硝子はそう思っている。
だからこそ。その旅立ちに関われなかったのには納得がいかなかった。
二人だけで迎えた、卒業式と同様に。
「……」
五条悟は。本当に、珍しく。
ほんの僅か、眼を逸らし――だが、観念してパイプ椅子にのしかかり。
ため息を吐くように、白状した。
「ミゲルを通じてあいつら……傑の『家族』に引き渡した。最期はやっぱり、あいつの居場所に帰るべきだと思ったからね」
「――、うっわ」
高専入学で知り合ってから13年。
今更この馬鹿の行いで驚くことはない、と思っていたが。
「完全に規定違反じゃん、ウケる」
本当にとんでもないことをしでかしていた。
――術師は遺灰から骨片まで全てが情報の宝庫だ。
呪術で情報を抜き取れないように処置し弔うためにも、高専には医療班が存在している――。
「で――バレんの怖かったから誰にも言わなかったってことでいい?」
というのに。遺体をそっくりそのまま、ましてや呪詛師集団に引き渡すとは……。
「いーや? 伝えても別に告げ口なんかしないっしょ。同期の遺体を処理する羽目になるオマエに気を使って……」
――仲間の屍を見るのは、まだいい。
そんなの、学生時代でさえ灰原の前例がある。
――私に引き渡さなかったのも、いい。
だが。なんで、何も言わなかった。
どうして。夏油の最期に立ち会わせなかった。
口以上にものを言う、硝子の視線に……刺されるまでもなく。
「……いや、違うな」
普段のテンションを装おうとした五条悟は。
口にして初めて、気づいたらしく。
彼の瞳は――横たわった親友の貌を前に。
ついぞ、気づけずにいた本音を口にした。
「俺が、耐えられなかったんだ」
「俺は……弱いから。友達が友達を、バラすところを想像すらしたくなかった」
つい――笑ってしまった。
苦笑か、或いは別か。勝手に口が微笑んでいた。
とにかく、硝子には。それ以上なじれなかった。
「……オマエが、そんな弱いやつじゃないって。ずっと前から知っていたのに」
その、あまりに似合わない面に免じて。
何より、我らが青春への、不器用極まる終着は。
――これ以上ないと思えたから。
「……馬鹿の癖に、変な気の使い方をするからこんがらがるんだ。ま、でもその気遣いはありがたく受け取っておくよ」
「そりゃあ、どういたしまして」
「――あ、そうそう傑は跡形もなくこんがり焼いてやってくれよ。アイツ死体使われてんの滅茶苦茶キレてたから!」
(傑に……やっぱり。そうか)
しかし。見過ごせない事がまだひとつある。
――今の五条は、何一つの傷も見当たらないのだ。
世界を断つ『解』に引き裂かれた後も、『竈』の火傷も。何もかも。
まるで、あの決戦そのものが存在しなかったかのように、綺麗さっぱり消え去っていた。
「五条、オマエはこれで良かったのか?」
傷跡すらないからこそ――、
硝子には、それが酷く痛ましく思えた。
「なんだよ藪から棒に……あ、宿儺の遺言、間に受けてんの? んな負け惜しみどうでもいいだろ。それより――」
「――はぐらかすな五条悟。本当にこれで良かったのか?」
彼は。二度と、彼の愛するモノを得られない。
そう言い当てられた、彼は。
「さぁ――どうなんだろうね」
自分自身、不思議なように。
ボンヤリした目で、やけに、すんなりと返す。
「ただ一つ分かるのは……アレは俺にとって、正しい死だったってことだ」
「信じられないかもしれないけど。あそこには傑も、七海と灰原も、学長もな。皆いたんだよ」
――あぁ、知っているとも。
「そんな憩いを拒んだ。僕はもう二度とあそこに行けやしない――死ぬときは、独りだろうね」
硝子は知っている。
この男がふとした瞬間、何かに思いを馳せる一瞬があることを。
硝子は知っている。
五条悟にとっての「青春」の重みを。
硝子は知っている。
内に秘め続けていた――『飢え』を。
「それでも。『俺』はともかく、『僕』はあそこにいちゃ行けなかったのさ……始めはただの意地だった。でも、今は違う」
「どう違うっての?」
今の彼が。死んだ上で存続した五条悟が。
すなわち、消えゆく魂の残留であり。
それは本当に、五条悟であるのか。
いつまで五条悟であれるのかは、わからない。けれど――、
「そうだな……なってみたいんだよ。新しい自分ってヤツにさ」
「……」
それでも――あぁ。
決して、見る事が叶わないと思っていた。
そんな彼と、眼が合った。
「死ぬ時が独りってんなら……せめて生きてる時間だけは大勢の人間に囲まれていたい。自分のために呪術を振るうんじゃなく、誰かのために生きる人間になりたいと思った」
「そうすれば――『僕』はこの侘しさを、一生背負っていける気がするんだよ」
――この先、五条悟が全力を出すことはない。
孤高の侘しさを抱えたまま、命を賭けた死闘ではなく――ただ時間という摂理の前に、五条悟は散るであろう。
(……馬鹿野郎。とっくの前から、オマエは他人のために戦う人生を選び続けてきただろうに)
それでもいいと、今の五条は思っている。
だって、誰にも置いてかれなかったから。
「そっか――ほれ。生き方を変えるってなら余計なドッキリとか考えず早く行ってやりな。オマエの教え子たちが『五条先生、どのツラ下げて帰って来たんです会』の準備して待ってるんだから」
「……祝勝会なんだろうけどさ、もうちょいマシな名前にできなかった? てか、それ考えたの歌姫でしょ絶対――よよよ……辛いです……皆が好きだから……んじゃ、早速行くかー!」
「ああ待て待て、本体忘れてんぞ目隠し掛け器。そら」
「おっ助かる〜。よしっ……つーか絶対これ死装束のつもりで用意してたよね? まぁいっか!」
剥き出しだった六眼が単色の黒に覆われ、青い眼も再び眠りにつく。
それは、『五条先生』が戻ってきた証でもある。
「じゃ、僕先行ってるから。硝子もすぐ来なよ!」
――五条が去ると同時。
医務室には静寂が戻る。
たった一人の空間で、硝子は煙草をふかした。
「……しかし。何が死ぬ時は独り、だ」
「オマエは違ったろ? なぁ――夏油」
―――
――
―
「や、日下部サン」
「げ」
「ゲってなんだよゲ、って。まーともかく、勝ったんで聞きたいんだけどさ。なんで僕負ける前提で作戦会議してたの?」
「そりゃぁお前。そん時はお前に丸投げするだけだからだろう」
「五条悟単独で事が済むなら俺らの出る幕はない。被害は最小限に。渋谷と同様だ」
「んな、人任せな〜」
「テメェにだけは言われる筋合いねぇっちゅーの」
「またまたぁ。そういう日下部サンは死滅回游ん時なにして〜……あーっ逃げんな――!」
―――
――
―
「はいおっぱっぴー! やっと掴んだ呪力の核心! 渋谷よ、私は帰ってきた! さぁ状況を――!」
「――お、起きたか釘崎」
「大遅刻だナ」
「しゃけ」
「……、えっパンダ先輩ちっさ! って狗巻先輩、腕、え!? と――どなた様で?」
「これ真希」「コレ言うな」「え――ッ!?!?」
―――
――と、かくして。
五条悟は『北』へ征った。
一見して解決にも見える、完全勝利。
だが、何ひとつ根本解決にはならないまま、むしろ――より悪化した未来へと繋がっていく。
東京は呪霊が跳梁跋扈する魔の地帯となり。
呪詛師も便乗して被害拡大。
日本の首都は大阪へと移行。
他にも無数に問題は生じた、だが何よりも。
五条悟が産まれ直したことで、全ての、呪いのレベルは押し上がる。
そんな――平安に次ぐ、第二の呪術全盛の世。
――――令和日本、2025年へ。
ここまでお読み頂いた方々、誠にありがとうございます。
本作は、投稿者と、その親友との間に産まれた合作です。
ここまでのプロローグは九割、親友が作成しました。
(どうかこれを書いてくださり、この形で世に出す事を許可してくれたマイブラザーの分も、熱いご感想・ご評価のほど、よろしくお願いします)
以降の内容は、親友の発想を膨らませ、自分が出力した内容となります。
少しだけ毛色が変わるかもしれませんが、
ここまでお楽しみ頂けた方、是非是非お読みいただけると嬉しいです。
どうぞ、よろしくお願いします。