【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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文章量の少ない回なので、
連続で投稿しちゃいます。
次回は明日、5/12(月)です。



第17話「沈魚落雁」

 

 白昼堂々、街中に張られた、小さな帷。

 とはいえ一般人には認識できず、触れない。

 

 一般人がぶつかる危険性はあったが、

 位置は街道の端にある電灯付近。心配ないだろう。

 

 この中では、先生の呪術師が戦っている。

 自分らも入るべき、でなくとも補助監督に連絡すべき……なのが普通だが。

 

「……お前らはデート続行、って」

 

「なんだかんだ、ここまで流されてきちゃったね」

 

「あぁ。勢いに押され続けてるな。調子崩されっぱなしだ」

 

「ムッツリ露呈したもんね〜」

「しつけェ」

 

 タイマンをやる。助太刀不要。

 そう言われた以上、この場の始末は管轄外だ。

 ――さしあたって。

 

「……で、どうしよっか」

 

「……しおりの消化を続行する、とか?」

 

「異議なぁーし」

 

 漫然と、二人は街道を流されていった。

 

 

 

――

―――

 

 なんとなくで婪佳久はグリーンダカラを。

 禍福も、同ブランドの麦茶を買っていた。

 

 なにやら市のゴリ推しで催された花火大会は、

 生憎の雨で中止されて、

 コンビニのビニール傘片手に歩き、

 

 立ち入った観覧車のなか。

 彼女は、急にこんな事を言い出した。

 

 

「……ねぇ、さっきの術師(?)さぁ。自分らしく、とか言ってたよね」

 

 

 ……それは。つい先ほど、自分を殺しにかかった暗殺者の言葉だった。

 

 彼女は体質上、呪力に乗った負の感情、すなわち悪意を感じるのに長けている。

 襲撃を受け、何か感じるものがあったのだと予想はついた――故に。

 

「わからないんだ、あれ」

 

 

 

 

 

「――わたし、人間なのかな」

 

 その発言が、普段とは違うと、すぐ分かった。

 

 

 

 

 

「……どういう事だ」

 

「正直思うんだよ。まだ、呪いを回すための存在って方がしっくりくるって」

 

「こんなのがタダの術式じゃないぐらいわかってる。でなきゃ軟禁とかしないでしょ、普通」

 

 不意に否定をしようとして――否定材料がないことに気づく。

 

 

 

 ――『受愚戴転』。

 術者を殺してでも、非術師(たにん)の呪力を吸って動き、何なら暴走する術式――完全に慣れきって麻痺していたが、何かなら何までおかしい。

 

 天与呪縛とも違う。もはや、呪術として成立するものなのかさえ――、

 

 

 

「これ多分。最後の思い出作りだったりするんじゃないかな」

 

「わかるんだもん。どんどん力が強くなってるの。2018年から、ちっともいい方に向かわない」

 

「わたしって、悪感情の器でしかないのかな」

 

「……」

 

 

 

 ……なにも、言えない。

 彼女とは知り合ってから四ヶ月ほど。

 彼女の過去については殆ど知らない。

 

 ただならぬことがあったのは分かるが――。

 

 

 

 そこに踏み込んだら、最後。

 関係が、終わってしまう気がする。

 

 

 

「……ごめん。曖昧な話しちゃった」

 

「アンタも、釘崎先生と同じだよ」

「いつも全身全霊で術式使って。復讐、命賭けなんだもんね」

 

 

 

 どこか、遠い景色を眺めるような眼で見られた。

 

 コイツはいつもそうだ。

 俺の何を見て、何が善いというのか。

 

 なぜ、微笑みがそこで伴うのか。分からないが――勘違いだ。

 

 

 

「……そんなんじゃないさ」

 

「俺だって、中途半端な人間だ」

 

 

 

 復讐者である事を一貫できない。

 このような存在である事に甘んじている。

 

 釘崎先生に着せられた服も、何もかも享受している。

 

 俺は、なりゆきのままここに居る。

 そのくせ。口では、復讐を諦められない。

 

「俺なんてのは……惰性とポーズの復讐者だ」

 

 本来それは、幻滅されて然るべき人間だ。

 

 少なくとも――生き残るにはそれしかなかったとは言え、自分で道を決めて突き進んだ――彼女ほどの者ではない。

 

 

 

「そっ、か……そーだよね、あんた明らか呪術師とか向いてないもん!」

「うっせえ」

 

 

 

 それはそれとして、そこまで言われる謂れはない。

 と、眉間に皺が寄せられるのを見てか、彼女はケラケラ笑った。

 

「……調子が戻ったなら何よりだよ」

「お前が考え詰めるなんて、らしくもない」

 

 そして――逆転が決まった。

 豆鉄砲でも喰らったような顔。

 してやったり、と思わなくもない。

 

 

 

「どうせ、長生きしてればわかるだろ。先の話だ」

「大人なら。大人になった時には、きっと分かっている事だ」

 

「お前も、道半ばで終わる気はないだろう」

 

「はは……うん。そうだね、その通りかも」

 

 

 

 ――そうだ。

 俺たちは、たぶん。焦りすぎている。

 

 

 

 世の中、答えの出ない問題はありふれている。

 要は、自分が納得できるか。

 それは自分が決める事だ。

 その決断が大事ならば、すぐに結論づけなくたっていいはずだ。

 

 呪術高専の一年生。

 本来なら二年になってる時期だが、何にせよ。

 まだまだ、進路票を渡される時分ではない。

 

 

 

「とりあえず、もうちょっと回って行こうよ」

「……そうだな」

 

 

 

 そう――割り切る事もできないまま。

 漫然と決めかね、悩みながらも。

 

 あと少しだけは、このままでいたいから。

 

 霞んだ夕焼け空の下。

 二人は――横浜遠征を制覇した。





幼魚と逆罰の、苦みがありつつも希望もある雰囲気、好きだったんですよね。
起首雷同なら釘崎の「共犯ね」とかも。

それに近いものが作れていたら嬉しいです。



あと、改行を多めにしてみました。この方が読みやすかったりしますかね?
ここすき乗ってなさそうな回もそうすべきでしょうか…?



【余談・今回の内容は、夏油傑の『大義』と真逆です】

 夏油傑は、結論を急ぎすぎたのでは、と筆者は思います。非術師を嫌悪する自分、弱者を守りたいという善意、二つのどちらが結論なのか。

 そうなるだけの理由は書かれていましたが、それでもやっぱりやりすぎたことしてるし、本人にもその自覚があるように思えました。



 今回、もし彼ら二人が結論を急いでも、きっと同じで良い方には転びません。

 先延ばしというのは怠惰で退廃的ですが、それでも、人間にはあるべき機能なのです。



 これも、マイブラザーの請負ですが……、

 思うに、人が大人である定義のひとつは、
『どんな時でも生活を維持・継続できる存在』なんじゃないでしょうか。



 誰かがボタンを押したら即滅ぶ世界で、
 たとえ災害で全部がおじゃんになっても、
 一個人として大事なものを失っても、

 それが、形骸化した体裁だけの惰性であろうとも、



 それでも人として暮らしを維持できる。
 日常を作ることができる。

 預かり知れぬ事を棚上げして、日に三食食べて寝こけることができる。



 それは紛れもない美徳でもあり、世の平穏。
 多くの地域と環境に順応してきた、人類が霊長足りえる理由。
 『意味』や『大義』なんぞより、人にとって大事な事だと思うのです。



 だってなんだかんだ、世の中って、そこそこ頭空っぽでいられた方が楽じゃないですか。



 だから、今回の禍福と婪佳久は、
 防衛本能的に『無知』を発揮するのです。

 でも、夏油傑は、その楽ができなかったのでしょう。



 無知が良い事なのか、悪い事なのかを考えすぎた。
 術師の屍の上に成り立つ一般人の暮らしが肯定できなくなった。
 これまでの『家族』や『日常』を良しと思えなくなった。

 だから、夏油はああなっちゃったんじゃないですかね。

 家入の「お前も大概子供だよ」的発言も、そういう事……なのかな?
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