【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
最終編前の過去編です。
今回、ショッキングかも知れない内容が含まれます。
「キッショ!」と茶化せない方、
ご不快に感じられる方は、ブラウザバックを推奨します。
それと、今年の4月20日はなんの日だったか。
皆さん、思い出しながら読んでいただけると嬉しいです。
第18話「受愚戴転 -陸-」
4月20日0時0分。
観測不能となっていた、旧東京高専および、地下『薨星宮』の再出現を『窓』が確認。
同日時――作戦実行。
特級術師・五条悟
特級術師・伏黒恵
一級術師・釘崎野薔薇
以上三名が『一億総呪殺の儀』阻止と、
真人を含めた特級呪霊攻略のため、突入。
また――
任務如何によっては、補佐として投入される。
……てなわけで。
「で、復讐どーすんの」
深夜の教室。
無駄に大きな窓を満たす闇を背に。
クラスの彼女はそう問うた。
「わからない。五条悟が、やったかもわからない。――だが、やめるわけにはいかない。やはり、俺の過去は過ぎ去っていないものだ」
「……それが、らしさ?」
「……わからない。まだ。もう暫くは、見極めたい」
机に突っ伏す彼。
少年は、迷っていた。
否――二人揃って、迷ったフリをしていた。
「……ま、今は。それどころじゃないしね?」
古い校舎の、無意味な遮光カーテンが揺れた。
短い白髪がゆらぎ、その眼は覗き込んで、くすくす笑う。
彼女と――互いに、そらしあっていた禍福の目は、初めて重なる。
「ああ……そうだな」
魅力的な、口実だ。
思えばデートというには、こないだ二人で遊び歩いたとき、二人に笑顔はなかった。
「そうだ、暇だし。棚の卒アル見よーよ。旧東京高専も……釘崎先生世代のもあるし!」
「ふむ、五条悟は老けているんだろうか」
不謹慎ではあるが。
今なら大義名分を得て、日常を演じられる――。
……なんて、思っていたのに。
「やあモラトリアム諸君。お邪魔しまーっす!」
ぽん、と。彼らの間。
笑顔で肩に手を置いた――悪意。
特級呪霊、真人が。ここに居た。
「「――な」」
――――それは。4月20日における最初のイレギュラーであった。
真人は本来、『無為転変』による『一億総呪殺の儀』実行には必須だ。
真人は『薨星宮』本殿にいる筈だった――だが。
真人はハナから、その役目をほっぽり出した。
高専側の保険――新高専の廊下に展開された、伊地知による『空間をツギハギにつなげてループさせる』――高専術師以外タネを知らない結界は。
真人の『空間の魂の爆破』により、崩壊――。
これにより真人は最速で、
二人のいる、教室へと侵入した――――!
「――――『無為転変』」
なぜここに。イレギュラーの同時多発。
不測の事態は、戦慄さえも許されない。
置かれた掌から悪意は脳髄へ。
魂への干渉。実質的死刑宣告。
まな板の上の鯉に落ちた刃――瞬間。
「『三名』の記憶の一部を、交換・定着――――自分らの正体。精々、噛み締めな♪」
彼らの脳内に、溢れ出した。
――――『存在しない記憶』。
―
――
―――
――むかしむかし。少しだけ昔。
具体的には十二年前――2013年。
ある呪術師の家の地下懲罰房にて、
鎖に繋がれた童女がおりました。
「……ぅ、わ。なんだこれ、なっ! おま、助け……ッあ、ぁああ――!」
「……、ごちそうさまでした」
――それは、童女のせめてもの礼節です。
眼前、牢から放たれた低級呪霊に、認識もできず取り殺された一般人。
その死に際、彼女に向けられた――負の呪力。
それが、痩せぎすの彼女の餌となり、術式を動かして――彼女だけは、助かるのです。
「四体やった。メシください」
これが、この場での日常。
童女――三歳だった婪佳久の世界は、シンプルに二つだけでした。
人か、人でなしであるか。
「……いえ、か」
バケモノが見える。
バケモノと同じ力が使える。
ならば、わたしもきっと、人でなし。
だから――こうして、人の世から隔絶された場所にいる。
それでも、役立つ限りは、殺されない。
変死体の前で飯を食らい、
戸の隙間から夜空を眺める。
奴隷根性の塊に、不満などございません。
――その、腹の底を除いては。
―――
――
―
受胎九相図――童女には、その母親に似た体質がありました。
身に覚えのない懐妊。
呪霊を孕む特異体質。
彼女には産まれた時から、体内に――『呪胎』、すなわち特級に変ずるモノ。
―― 『
童女だけでなく――喇誑も、気付いた時には檻の中でした。
自分を包む生命体が生きようとする限り、押さえ込まれる。どう頑張っても出てこれません。
どうやら、産まれる場所を間違えたようです。
婪佳久は、一度としてそれを自覚した事はなく。
喇誑は、ずっと、不快に思っていました。
ただ――産まれ堕ちたい。
――この殻から、漏れ出したい。
――このままでは一生中途半端だ――ただのひとつの存在として、根を降ろしたい。
外に、己の存在を巡らせたい。
己の快不快のみが生きる指針――。
つまりは、赤ちゃんとして。
泣き喚き、母の腹を蹴り――自立を願いました。
かくして、その待望は。
負の感情を喰らい、産声をあげたのです――!
―――
――
―
12年前――2013年。
五条悟により安曇野本家全名は鏖殺された。
それは旧総監部の公式発表であり、その当時活動していた呪術師全体の共通認識であり――。
――――その裏の真実は。
五条悟と御三家、旧総監部しか知らなかった。
「……なんだ、これ。――なんなんだよ、これは――ッ!」
唯一の生き残り、安曇野禍福は。
見せつけられた主観映像に、慟哭せざるを得なかった。
だって、情報と違う――今、この視点をもつ、怪物は。
『――――ッ!!!』
緊急事態を認識した総監部の命により、
周辺地域の呪術師が即応、出動し、全滅。
それに続いて――、
禪院家より出動した『躯倶留隊』及び『炳』。
加茂家より出動した『
五条家より出動した『
――の悉くを、もろともせず。
そのいずれもが、人員の三割を喪失。
まるでこれまでの倍返しとばかりに。
安曇野の術師を、家屋もろとも焼きうって皆殺しにして、足蹴とし――天高く、笑っていた。
そして、
『本家の始末は――』
『――やはり私たちが!』
「――、母さん、父さん」
――暴走する呪力。操られた拳を前に。
――それらが、飛沫に変わった感触を、見せられて。
『だから、やめとけって言ったんですけどね……その他。はやく逃げなよ――アレは、僕が祓う』
「――、五条、悟」
刹那。眼前に現れた術師の呪力。
呪力量自体は大した事がない――と思う間も無く。
怪物の視点は、『赫』色の閃光で吹っ飛んだ。
顔をあげれば。
それは――変わり果てた両親を、その身が赤く汚れるのも厭わず、両手に抱えた――若き、『最強』の姿。
『――ごじょーッ、さとる――オマエ、が!』
そう。視界の端。
その場に出くわして叫んだ、幼少期の自分に焼きついた記憶そのもの。
死体の両親と、その血に塗れ――殺意に濡れた眼の、五条悟で。
『うわ――ぁ!』
幼少期の自分が吹っ飛んで。
ふたつの呪力は、激突した。
……そこからは、あの日の夢の通りだった。
無下限呪術の通用しないソイツを相手に、
五条悟は初の『領域展開』に成功。
『無量空所』を、覚醒しかかっていた『呪胎』にくらわせ――『呪胎』は、休眠状態に入り。
その、結果――。
『……ん、ぁ。え?』
呑気な声。視点人物――童女が、起き上がる。
体の、あちこちが痛む。
何か、ひどく疲れている。
パチパチ、周りから拍手みたいな音が鳴る。
何が起きたのか、と上を向いて。
『――わ、ぁ』
はじめての。
牢屋から覗き見るんじゃない。
本物の夜空を見上げ、無垢に歓喜し。
『……や』
『わ』
『よかった〜、生きてたかぁ。強い子だよ、本当』
銀河と同じだけ、瞬く眼を持った男が。
――血まみれの満身創痍でフレンドリーに話しかけてきて、ついギョッとした。
「ん? アレ? なんで僕こわがられてんの?」
「だ、だって……わたし、人じゃないし――」
「――あ〜、オッケ。こりゃ、ひとつ教育すべきかな」
そして――その。
黒ずくめにグラサンの長身男は。
数日後に家入の補助によって完治し、復帰。
童女を夜中の『仕事場』に連れ――見せた。
『これは、呪霊!』
『んでこれが――呪術!』
鮮やかなまでのオーバーキル。
赤い光を打ち込み、土地神を爆散させ。
驚き見るこちらに、目線を合わせて語り聞かせた。
『呪術を認識し、使える人間もいる。それが呪術師。自分を怪物と誤解してたようだけど――君ばっちり人間だから。安心して⭐︎』
そして――童女は、騙されていたと知った。
人なのに、得るべき人権を剥奪され、道具としていいように利用されてきたのだと分かった。
――その視野の、涙が止まらない。
怒りでどうにかなりそうな、童女の加減なしな憤慨。
そこに、彼は――道を提示した。
『てことで――これからの話をしようか』
『まず君は保育園にでも預けさせて、んでもって小中も通ってもらう。普通にはムリだから、通信校みたいな形になるだろうけど、工面するよ』
『もちろんタダじゃないよ。卒業後は――僕の学校、呪術高専に来てほしい』
『君は、自分の呪術――力の使い方を知らなかっただけだ。僕と、僕の育てた君の先輩は、きっと答えを提示できる』
『いや、してみせるよ――必ずね』
『そうしたら君は、文句なしに人として生きられる。誰にも迷惑をかけることもない。収入も入るから経済的に自立だって出来ちゃうよ! 教育機関なのにね?』
『ってなわけで。すぐに決めなくてもいいから。まずはゆっくり――』
走馬灯のように流れる、彼女の記憶の中。
これは、その先頭にあった。
その後の全てにつながる――彼女の、原点。
『――――やりたい、です。……わたし。なれるなら、人になりたい。だから、おねがい。わたしを――!』
――――わたしが。
禍福の両親を、殺した、の?
―――
――
―
「……」
現実において。二人は立ち尽くしていた。
処理できる以上の情報量とショック。
それは無量空処を喰らった状態に近い。
「……」
婪佳久は、開いた両手を見ていた。
こぼれそうな目で。
間違いなく――わたしの体は、禍福の家族を。
両の手、感触がこびりついている。
わたしの、呪い。私の孕んだ呪い。
なぜ知らなかった。なぜ、こんな事を忘れていられた――!
「――ぎゃ、あ! オン、ギャあ! あ――ッ!」
「……!」
わたしから。わたしじゃない声がした。
わたしを、本当の意味で見知ったモノ。
頬に手を当てる。
ありえない位置、舌と、指先が触れた。
『――――わたしって、人間なのかな?』
――安曇野本家、全203名とその他103名を鏖殺。
――その前にも、何人もの非術師を見殺しにして飯を食ってきた。
『――――まだ、呪いを回すための存在ってのがしっくりくるんだよね』
――あの日と同じ。両手には呪印が浮かぶ。
耳を塞ごうとしても。掌から口が開き、
そうでなくとも体の奥から――呪いの産声は、差し込まれる。
『――そうしたら君は、文句なしに人として生きられる。誰にも迷惑をかけないで済む。収入も入るから経済的に自立だって――!』
また――わたしは、騙されてたっていうのか?
「――――!!!」
声にならない絶叫をあげる。
遮れなかった。
口が開く。体の表面に開く無数の口腔、その奥で、無数の眼が己を捉える。
お前を知っていると。
わたしを、わたしが。悔い破って、泡のように膨んで、
「お、ぇ……えっ、う」
血と。胃の中身がひり出される。
人としての機能が破綻する。器が、決壊する。
――おんぎゃあ、おんぎゃあ。
潮のように押し寄せる喝采。
腹の底から。体か笑っている。反響する。
そうか、わたし――ずっと、見えないフリをして笑ってきた。
強くなればなんとかなる、そう信じて戦ってきた。だが、その意義は、もう――。
(あれ。なんでだっけ――わたし、今日まで)
ひとりでに、顔があがる――見せつけられた。
呪印が浮かんだを見て止めに来たのか。
あるいは――殺しに来たか。
『――それに、おかげで禍福さんは助かったし、あなたは禍福さんが止めてくれましたから』
『みたいだね。よか――五条先生じゃ、なくて?』
(なんで――本気で、人として生きられるなんて思ってたんだろう)
天逆鉾を手に迫る、禍福の顔に浮かぶ。
動く体についていけていない、色濃すぎて何も読み取れない、激情の色。
――心の奥で。
何か。折れてはいけないものが、折れる音がした。
「――!」
刹那で覆った。二つの魂、その親子関係の逆転。一瞬でその体は、無数に牙を剥いた口に食い潰され、血色に塗り替わる。
大気を吸ったように、呪印に染まった蕾は大きく膨らんで――開花し。
校舎を突き破って、星空を食い、広がる。
――それは、虚無であった。
無限にその手を広げ、あらゆる呪いを吸って膨らむ虚空。
ぽっかりと開いた世界の空洞は。
だが確かな輪郭を持って影を降ろす――乾ききっていない翼と、開ききっていない瞳の、自立さえままならぬ形であるが。
「――――ッ!」
檻から放たれたカナリアの呪霊は、『無量空所』による麻痺を脱し、殻を食い破り、中断された呪胎の変態を再開させ――好きなように喝采を唄う。
これが――。
安曇野の産んだ負の遺産。
大衆の、呪いに対する呪い。
紛れなき過去最凶の――超特級。
特級超過呪霊・『
「あれが――俺の本当の仇」
それを前に、
「――俺が。アイツを――!」
禍福の刃先は震えた。
憤怒だ。他意はない――そう言い聞かすには。
自分たちの教室は、あまりに脆く。
悪意は、仰ぐほどに大きいモノだった――。
イェーイ! ハッピーイースターっ!!
ちくしょう、昨日投稿できていれば母の日も巻き込めたのに……っ!
えっ? その漢字なら『らたぶら』って読むだろ。って?
……筆者の当て字センスはここらが限界です。ご了承ください。
しっかし、今回書いてて楽しかったです。
Kalafinaさんの『満天』聴きつつ筆ノリノリでした。
オリキャラと一緒に傷ついてくれた方がいたなら冥利に尽きます。
てなわけで、急に過去編を挟んだということは。
次回からは最終局面、最終章『一億総呪殺』編となります。
訳あって三つのパートに分かれており、
最終編①、②、③と展開していきます。
引き続き、ご期待ください。
【オマケ①・御三家はほのお、みず、くさタイプ】
禪院家より出動した『躯倶留隊』及び『炳』。
加茂家より出動した『
五条家より出動した『
……はい。ほのお、みず、くさですね。
なんで禪院家って何かと『火』ってあるんだろ。
と思ってやってみました。
五条家はまあ、花だろうし。加茂は消去法です。
【オマケ②・婪佳久って懲罰房で何してたん?】
誤解のなきよう明言しておきます。
幼少期の婪佳久がぶちこまれてたのは安曇野家の懲罰房です。
禪院家でもそういうのあったんで、あるんだろうなと。
で、安曇野は『五条家許すまじ』な思想だったため、
たまたまどっかで見つけた婪佳久の才能を見出して掻っ攫い、
とにかくソイツの目の前で非術師を殺しまくり、
婪佳久の中に非術師の呪力を浴びせまくっていた、という経緯になります。
そうして薪をくべられまくった結果、
『暴走』し、教わった通りに殺し回ったわけですね。
第二章の前半で、一般人のバカ三名を殴りかけた場面がありましたが。彼女は幼少期から、その一線を越えてたわけです。
婪佳久は、マジもんの『日常の選択肢に殺人がある』キャラなのです。
【オマケ③・プロローグでの伏線ついて】
プロローグにて『2013年に五条悟は家入の治療を受ける事があった』とありましたが、モロこのことでした。
「硝子……反転頼む」ガクッ。
って感じで。
(家入としても「絶対ただの一家鏖殺ではなかったんだろうな」とは認識してます)
アホほど呪力ぶつけられて、反転全開で肉壁になり、
人生初の領域展開もやった。
なんてしてたらそりゃーガス欠も起こしますよね。
2018年の新宿ほどは強くない時期でしょうし。
また前述の通り、
本作の五条は、安曇野の騒動において、初の領域展開に成功します。
(『なつのおもいで』参照)
学生五条が2006年で、この時点では領域できてなくて、
原作本編の2018年時点では使える。
と考えたら不自然ではないかな~と。