【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
全呪霊統合体、顕現開始――。
この世全ての悪を背負わんと、成長する過去最凶の呪霊。
そこへ、伏黒・釘崎が駆けつける。



最終章③「受愚戴転 -捌-」
第28話「摂取不捨」


 

 ――特級超過(ちょうか)呪霊という呪霊区分が存在する。

 

 それは、2018年以降に定義された新種。

 インフレーションを重ね、特級呪霊の飽和した現代日本における、実質的な『特級を超す』認定。

 

 それは、災厄中の災厄。

 完全体両面宿儺、および五条悟相当の格付である。

 

 

 

 そして、2025年4月20日0時1分――。

 

 

 

 ――特級超過呪霊『喇誑(ラテブラ)』。

 

 2013年以来、二度目の不完全顕現。

 

 日下部・一級術師と交戦後、東京23区の結界へ侵入。

 

 

 

 以下――『窓』による『喇誑(ラテブラ)』に『捕食』された呪霊の記録。

 

 

 

 特級――二十一体(非登録込み)

 

・日本三大怨霊・祟徳院

・特級半精呪霊・九頭龍

・特級仮想呪霊・滝夜叉姫

・特級仮想呪霊・化身玉藻前

・特級仮想呪霊・丑午前

・特級仮想呪霊・酒呑童子

・特級仮想呪霊・口裂け女

・特級仮想呪霊・トイレの花子さん

・特定疾病呪霊・疱瘡婆

・特定疾病呪霊・十九之冠葵

・特定災害呪霊・リーマン兄弟

・特定思想呪霊・末法

・特級叛霊・八岐大蛇

・特級叛霊・悪路王大獄

 

 その他――推定七体が識別の間もなく、鏖殺。

 

 一級は最低56体、二級以下の低級呪霊は最低211836体。

 

 

 

 『喇誑(ラテブラ)』の生得術式『受愚戴転』は、非術師の呪力を自己存在に置換する。

 

 

 

 よって、『捕食』された呪霊は再発生の機会(リソース)を失う。

 日本全土の呪いの七割が集結する東京における呪霊の一斉消失。

 呪霊を形作っていた列島の呪力は、その身ひとつに注がれた。

 

 

 

 この時点で『喇誑(ラテブラ)』の呪力量は、およそ。

 日本列島全土の三割以上――。

 

 

 

―

――

―――

 

 

 

 0時4分――『喇誑(ラテブラ)』、第二形態へ移行。

 

 その姿形は、ムカデの如く伸ばした多足で高層ビルを股にかけ。

 先頭、二つの大翼は大木の如く主柱として天に聳える。

 そこから垂れ下がる上半身は、魚頭じみた流線の三角錐を成し――卵白の繭、蛹を掲げる。

 

 翼の葉を散らしての前進は――停止していた。

 

 

 

 ――次に予想されるのは、更なる、変態。

 それによる、『新生・呪いの王』の――完全顕現。

 

 

 

 これが産まれ落ちたら最後、五条悟を含め、あらゆる呪術的アプローチは通用しなくなる。

 

 

 

 

「――『共鳴り』!!」

 

 

 

 ――そこへ。

 図体・実力差を無視して、一撃が通った。

 

 

 

 所詮は産まれ途中。未だ痛みに不慣れな赤子未満。

 怒涛の地鳴りと共に、巨体は大袈裟に頽れた。

 

 ソレは暴走する呪力の塊。残穢は色濃い。

 

 

 

 ――『芻霊呪法』行使の触媒には、それだけで事足りる。

 

 

 

「旧高専結界を見張る予定だったが、これ以上行かれると――」

 

「――流石に、五条先生(ごじょセン)にも支障でるわよねェ!」

 

 

 

 同時刻――。

 

 特級術師・伏黒恵。

 一級術師・釘崎野薔薇――交戦開始。

 

 

 

―――

――

―

 

 『喇誑(ラテブラ)』は、コントロールされた呪力を脅威として見ていた。

 

 ――あれらは呪力を譲らない。

 ――あれでは食べられない。

 

 かみ殺さねば、のみこめない。

 

 

 

 ……否、それ以上に。

 

 

 

 あの二人を見た途端。

 も(・)う(・)ひ(・)と(・)つ(・)の(・)魂(・)の抵抗は強まった!

 

 

 

「……、――――!」

 

 

 

 ――手ずから、排除すべき脅威として。

 『喇誑(ラテブラ)』は初めて定義を得た。

 

 高層ビルを股にかける巨躯は、その大翼を輝かせ――呪力の滂沱を産み落とす。

 

 

 

「やっぱバカげてんな……釘崎」

 

「わーってるわよ、少数精鋭かつ最小手でしょ!」

 

 

 

 比喩抜きに放たれる呪力の雨あられ。

 木の葉として消費される呪霊の数々。

 残った摩天楼を撃ち砕く破滅の暴風。

 

 振り墜ちる、百人十色の呪力特性を帯びた流星群。

 

 

 

 だが――彼等は前もって情報を受け取っている。

 

 

 

「領域展開――『継棘勅座(けいきょくちょくざ)』!!!」

 

 

 

 釘崎野薔薇の回答。

 それは一か八か、0.2秒の領域展開。

 

 

 

 『喇誑(ラテブラ)』に学習されるのを最小限に抑え、示された呪術戦の極致。

 

 領域は釘(パス)として、過去の降霊記録に従い、

 生得領域の椅子(シンボル)に、呪力と魂を運び入れ――受肉体を作成する。

 

 

 

 降霊されしは、二名。

 

 

 

「これで貸し借り無し――ってか赤字だろッ、なんてとこ呼び出すのよ釘崎!」

 

「文句は後で聞くから。防御よろしくっ!」

 

 

 

 悪罵を言いつつも、両手を空に重ね。

 空を面で捉え、掴んで振り回し――悉くの流星を撃ち返してみせた。

 

 

 

 ――死滅回游・残存泳者『烏鷺亨子』。

 

 

 

 その傘の下、『正の呪力』を込めた釘を脳に打ち、釘崎は術式の焼き切れを解消させ。

 

 

 

「オラァ! 吹き荒れろ私の釘千本ノック!!」

 

 

 

 ――自身は、攻撃全振り。

 片っ端から『共鳴り』を撃ち込んだ。

 

 

 

 呪力流星群がなんぼのもんじゃい、とばかりに放たれる釘状呪力の乱れ撃ち。さながらトンカチによる固定砲台。

 

 どさくさに紛れて『正の呪力』を込めた実物の釘も撃ち込まれ、実力差など知らんとばかりに大怪獣を拷問しにかかる。

 

 

 

 そこに加えて――、

 

 

 

「――なんだよ。こういう仕事も回せるんじゃねぇか」

 

 

 

 空を穿ち、奔り――弾けた、雷轟。

 

 電気にまつわる現象を起こす術式効果。

 領域を使うまでもない必中が、巨体を焦がす。

 

 呪力の塊は焼け焦げ、だが直ぐにぶり返し――全身の眼が彼を睥睨した。

 

 

 

「はッ、いいじゃない―― 乗ってやるよ、釘崎野薔薇!」

 

 

 

 閃光が、横たえるビルを踏みつぶし、降り立つ。

 

 その光は、――白装束の人型の像を結んでいた。

 水色の髪を鬣の如く揺らし、獰猛な笑みを作る――――彼こそ、『雷神』。

 

 

 

 ――死滅回游・残存泳者『鹿紫雲一(かしもはじめ)』。

 

 

 

「いいのよね鹿紫雲さん。命、賭けてくれるんでしょ?」

 

「ああ、普段ならいざ知らず。ここで出し惜しむ道理がねぇだろ」

 

 

 

 彼のソレは本来、一発、それきりだ。

 

 だが釘崎野薔薇により、肉体のスペアは確保された。

 そのうえで釘崎の命令による、『命を賭ける縛り』。

 

 これらによって――代償は、踏み倒される。

 

 

 

「――術式解放『幻獣琥珀(げんじゅうこはく)』!!」

 

 

 

 集中する呪力の波状攻撃。

 その、いずれにも取り合わず、

 

 ――雷神は、駆ける。

 

 

 

「充電切れなんて野暮はしねぇ。景気よく―― 音量、アゲてくぞ!!!」

 

 

 

 生涯あり得なかった、術式の鍛錬による新解釈。

 今の鹿紫雲の体は、『完全体』というべき状態だ。

 

 

 

 ――身に纏う雷の電気信号(ばくおん)は、呪詞の詠唱と術式開示だ。

 ――ただ呪力を垂れ流すだけで、全性能は底上げされる。

 

 加えて、フィジカルの最適化。

 全身の神経信号を術式の一部とする、術式と肉体の限りない同一化。

 

 結果、抵抗値は極限まで狭まった。

 術式という電気回路で呪力が膨らみ、呪力で術式が廻る――人間大の永久機関は。

 

 

 

 過剰強化された敏捷性(アジリティ)は一蹴りで、中空。

 

 駆け上がる雷となって――新たな呪いの王の前へ、躍り出て、

 

 

 

「――はァッ!!」

 

 

 

 放つ光は、空を埋めた。

 

 

 

 屈めた身を大きく開き、呪力特性を物理現象に変え、放たれるスパーク――膨らみに膨らんだ雷撃の解放。

 

 無尽蔵の呪力流星群を、真っ向から稲妻の波が押し返す。

 肥大化しきった呪いの山、その木々ひとつひとつを焼き焦がす轟天の電磁波。そして、

 

 

 

「――『あ』ッッツツ!!!」

 

 

 

 咆哮が、空を穿った。

 

 

 

 超音波が放つ蒸発光線。

 曲線が紡ぐ致命の波。

 蒸発の照射までもが乱れ飛ぶ。

 

 閉じられた雛鳥の眼は血を流し、乾いてもいない翼は焦がされ、山火事が如く悪臭は立ちこめる。

 

 

 

 ――2013年での、五条悟と同じ作戦だ。

 呪力でなく、物理ダメージで打ち壊す。

 

 それだけでは祓えないが――変態の阻害には十分以上な大火力。

 

 

 

 このうえで、本命の呪力をぶつけられれば……!

 

 

 

「おわ、っと!」

 

 

 

 刹那。鹿紫雲の、両横――。

 二つのビル跡は独りでに動き、地面ごと横にスライドして挟撃した。

 

 磁石同士の反発現象を発生させ、上に飛んで回避はできたが……。

 

 

 

「――コイツ。術式の扱いに慣れだしたな?」

 

 

 

 1月末、廃工場にて討伐されたプレス機呪霊の芸当。だけでなく、

 

 

 

「ちょっ――なんてもん食わせてんのよ、水色頭!」

 

「あァッ俺のせいかよ!?」

 

「中に仲間いんだぞ、死んでたらどうする!」

 

「知るかッ、勝ってから言うことだろウニ坊主!」

 

 

 

 辛うじて、烏鷺によって軌道は逸らされたものの。

 

 『喇誑(ラテブラ)』の呪力特性に――電撃が、追加されていた。

 

 

 

 そう。あらゆる呪力特性を内包する『喇誑(ラテブラ)』は。

 必然、あらゆる呪力に耐性を獲得していく。

 

 現時点でさえ、単純な呪力の攻撃で祓える相手ではない――。

 

 

 

 ならば、普通じゃない(イカれた)やり方で応じるのみ。

 

 

 

「チッ。成長を許すな、削ぎ落とせ――『渾(こん)』!!」

 

「――――オオオオオ――ンッ!!」

 

 

 

 ――伏黒恵により、突き立てられる爪と牙。

 呪力を過剰供給され、肥大化した『玉犬・渾』が、大怪獣へと喰らいつく。

 

 

 

 己と同じだけの図体は『喇誑(ラテブラ)』の目を引くには十分。

 そのバランスに長けた性能は遙か格上を相手に――接触を避けながらビル跡を飛び移り、爪を差し込んで――ヒットアンドアウェイを演じていた。

 

 

 

(直で触れれば即吸収されかねない。『脱兎』や拡張術式、もしくは不完全な召喚でもなきゃ、式神が喰われる。ましてや魔虚羅は使えない!)

 

「正直不本意な使い方だが。堪えてくれよ……!」

 

 

 

 また――伏黒の足元には絶えず影がある。

 それは、不完全に召喚され疾走する『貫牛』だ。

 

 自立して行動できず、一時的に攻撃力は下がるも、加速性能は健在。

 

 『貫牛』の影の上に乗る限り、相手がいかに巨大であろうとも遅れは取らない。

 

 これらは式神との相互同意の縛りによるもの。

 相互契約によって、限定機能は成り立った。

 

 なにより伏黒恵は自身の膨大な呪力量と出力は、下がったスペックをカバーするにあまりあった。

 

 

 

 この、伏黒恵の回答により。

 ――固定砲台も、確実に運び込める。

 

 

 

「これ――効くんだってねェ!?」

 

 

 

 走る伏黒の影の上でフルスイング。

 場外ホームランで撃ち込まれた釘。

 

 それは、特大玉犬に抑え込まれた喇誑へ、

 

 

 

「嘱託式――シン・影流『簡易領域』」

 

 

 

 遠隔起動する領域となって。

 術式を無視して必中、内部炸裂した。

 

 

 

「――――ッ!!!?」

 

「こっちも、くれてやる」

 

 

 

 伏黒恵もまた。

 取り出した『万里の鎖』と――日下部より預かった、『天逆鉾』により。

 

 『喇誑(ラテブラ)』の呪力強化を貫通させ、山肌を削りにかかる。

 

 

 

「がるゥ――うぅぅぅぅぅぉおオオオ――――ッツ!!」

 

 

 

 玉犬は、その爪を内部へと食い込ませ。

 呪力の塊に臆する事なく肉薄を続ける。

 

 落とされる雷が。跳ね返される呪力の流星群が。

 回復速度を押し負かさんと空を閃き、穿つ。

 

 ――烏鷺が戦場を成り立たせ。

 ――伏黒、釘崎、鹿紫雲が削る。

 

 間違いなく、ここには現代呪術の天井人が揃っていた。

 

 

 

 己を殺し得る、牙。

 死というイメージ。

 

 

 

 『喇誑(ラテブラ)』は、初めて――『敵』の定義を、知るに至った。

 

 

 

「――、…………!」

 

 

 

 手始めに、辺り一帯――――影が、消される。

 

 

 

「これは――空の呪霊のか!?」

 

 

 

 夜の影を払いのけ、東京中を占めた――夏晴。

 

 過去の呪霊の領域展開によって起きた結果を。

 

 領域展開でなく――無尽蔵の呪力量だけで、再現していた。

 

 

 

 全方位を照らす日射により。

 影の式神はすべて解かれる。

 

 

 

 ――だが。それさえも前哨でしかない。

 

 

 

「……へぇ。呪霊のくせにか」

 

「嘘っ。釘崎、イマドキ呪霊ってあーなの!?」

 

「んなわけねーだろ!」

 

「言ってる場合か、離脱だ!」

 

 

 

 ――――術式反転。

 

 それは、正の呪力を術式に流すことによる、術式効果の逆転活用。

 正の呪力である以上、呪霊に行う事は不可能である。

 

 

 

 だが――『喇誑(ラテブラ)』は。

 決して尽きる事のない底なしの負の呪力で。

 自壊しながらも、それを実現する。

 

 

 

「わーってんだよ、ったく人使いが荒い!」

 

 

 

 烏鷺による空間歪曲。

 『喇誑(ラテブラ)』から一同は距離を取る。

 

 怪獣の足元から逃れ、彼らは――見た。

 

 

 

 『喇誑(ラテブラ)』の周囲。のべ半径300メートルの範囲には――森林ができていた。

 

 

 

 ビルとアスファルトを突き抜け、復活した大地の命。

 それらは急成長し、種から大樹となって種を撒き、枯れ果て土壌となって、生存領域を瞬く間に広げていく。

 

 原因は明らか。生じた、反転呪力の塊だ。

 

 『喇誑(ラテブラ)』の産む正のエネルギーは、大きすぎるあまりに漏出し、実質的にアウトプットを起こしていた。

 

 

 

 つまり――その天地創造なぞ、力の一片。

 

 

 

「……、『――』『――』『――』『――』」

 

 

 

 刹那。東京に輪唄はこだました。

 『喇誑(ラテブラ)』の全身に開いた口が紡ぐ詠唱。

 

 のべ3000万を超す呪力特性は統制される。

 

 

 

 同時、『喇誑(ラテブラ)』は――シン・陰流『簡易領域』を展開。

 

 プログラムを必要とするカウンターなどは設けず、純粋に簡易領域による呪力強化(バックアップ)のみを適用。

 

 

 

 ――正の呪力により焼け爛れる炉心。

 両翼を主柱とする魚頭じみた上半身は、煌々と、顎のように上下に開かれ――砲門となった。

 

 ――周囲に産まれた緑は枯れ、呪力へと還り、

 ――より『喇誑(ラテブラ)』へと、非術師の呪力(ブースト)は高まっていく。

 

 

 

 史上初となる呪霊の反転術式行使。

 

 『受愚戴転』の効果は、非術師の呪力吸収。その反転効果は――すなわち、解放。

 

 無下限呪術・『赫』のように。マイナスにプラスをかけ合わせる、より大きなマイナスの創出。

 

 

 

「……、――――ッ!!!!」

 

 

 

 術式反転――『歐帯(カラザ)』。

 

 その結実。無制限での、超高出力指向性放出。

 

 

 

 それはもう、ほとんど波だった。

 これまでの波状攻撃という意味ではない、文字通りの意味で。

 

 再現のない呪力の氾濫が、光の鞠を膨らませ、幾重もの摩天楼を消し潰していく。

 

 

 

「出力最大――『宇守羅彈』!!!」

 

 

 

 対して。烏鷺は術式を『天元の東京結界』という面を掴んで行使。

 

 跳ね返すとまではいかずとも、辛うじて――軌道を逸らす。

 よしんば真上へと飛ばし、迂回させて投げ返せれば――。

 

 

 

 ――――否。事は、それでは済まなかった。

 

 

 

「――――!!」

 

 

 

 無制限にして辺り一面だった呪力放出は、――束ねられ、絞られていく。

 

 

 

 この呪力の波など、『喇誑(ラテブラ)』にとって攻撃ですらなかった。

 ただ、漏れ出たモノが破壊力をもっていた。それだけの事。

 

 だが、攻撃の意思(イメージ)を得た事により、

 

 

 

「あの、藤原の餓鬼じゃあるまいわ――ッ!!」

 

 

 

 開き切った顎が閉じる。

 全方位の放出は、扇状に狭まり、やがて、

 

 淡い青の炎は色を変え、――光線となった。

 

 

 

 完成される超高出力『収束』呪力砲。

 それは最早、一個人の一芸でどうこうなるモノではない。

 

 

 

 ――『宇守羅彈』は、砕かれ。

 領域を使ってもないのに、術式は焼き切れる。

 

 

 

「っづ……! 釘崎、一時離脱する。反転に集中すっから後よろしく!」

 

「上等。宿儺から逃げたとは思えぬ頑張りよ烏鷺!」

 

「一言多いわ!!!」

 

 

 

 だが最後の意地で、軌道は曲げられた。

 少しでも、上へ。

 

 しかし――これでは余波だけで、東京結界の外が滅びる!

 

 

 

「させ、るかぁ!――――『あ』ッッツツ!!!」

 

 

 

 放たれる、鹿紫雲の超音波。

 『幻獣琥珀』による3000万以上の呪力振動数(ベクタパラメータ)、その調律をレントゲン分析した彼は。

 

 音波で、拡散できる周波数(ノイズ)をぶつけ――線を、再び無秩序な波の攻撃へと引き落とす。

 

 

 

 問題の矮小化(ダウングレード)には成功。次いで、

 

 

 

「鄒霊呪法――術式反転・『杭(かいな)』!!!」

 

「翔べ――『天逆鉾』!!!」

 

 

 

 釘崎と伏黒は『喇誑(ラテブラ)』本体を叩いた。

 吹き飛ぶビルだった瓦礫を飛び移り、放たれる小人達の釘と刃――『呪術的絶縁体』の双撃によって。

 

 

 

 辛うじて――呪力の砲撃は、霧散した。

 

 

 

 被害は最小化され、

 天(・)元(・)の(・)結(・)界(・)に(・)亀(・)裂(・)が(・)走(・)る(・)程(・)度(・)で、留まる。

 

 

 

「……!」

 

「――どっわ!?」

 

「わかっちゃいたが。なんつう呪力量してんだ!?」

 

 

 

 大怪獣の全身、開かれる睥睨。

 正の呪力の爆発から伏黒と釘崎は飛び退く。

 

 反転術式を獲得した負の呪力の巨塊だ、触れれば即死は免れない。

 

 

 

 いよいよ認めざるを得ない――これは、手に負えない状況悪化に入りつつある。

 

 

 

 もはや一刻の猶予もない。

 これ以上、強まったらどうしようもない。

 

 

 

「……伏黒、今の感触」

 

「あぁ。婪佳久(らんかく)の魂は眠ってる。だが」

 

「相当に根深い。叩き起こそうにも……って感じよね」

 

 

 

 ターザンが如く『万里の鎖』で空中、瓦礫から瓦礫を渡り、

 釘崎を抱えて軽々と危険域を脱した伏黒は――断じた。

 

 

 

 『喇誑(ラテブラ)』の母体、婪佳久。

 その魂を叩き起こす、という手段は通用しない。

 

 

 

 なにせ―― 『喇誑(ラテブラ)』が婪佳久を、物理的に取り込んで、手放さない。

 

 

 

 まだ産まれ途中。『呪胎』を脱し、完全顕現するまでは母体が必要なのだ。

 ただでさえ13年、婪佳久が3歳だった頃からあった強固な繋がり。

 

 

 

 引き剥がそうにも、物理的に根が深すぎる。

 解消するにも、呪術だけでは足りない。

 

 

 

 ――婪佳久の摘出は、極めて絶望的。

 ――日下部の、生殺を問わないという判断は、ひどく正確だった。

 

 

 

「……やるしか、ないよな」

 

 

 

 今ならまだ――討伐手段は、ある。

 

 今の天逆鉾と『杭』を撃った時、ほんの僅かだが、東京を覆う呪力の日光が消えた。

 

 その瞬間に、切り札を使う。

 

 

 

 ――伏黒恵による、0.2秒の領域展開。

 からの、『極ノ番・愨陽(こくよう)』――全式神を火力に変換した一撃ならば、確実に削り切れる。

 

 

 

 だが。間違いなく、婪佳久は死ぬ。

 

 

 

(わかってんだよ、んな事は――ッ!)

 

 

 

 釘崎には、やらせられない。

 彼女はあいつの教師だ。

 たとえ呪術師がヒーローでなかろうと、情を持つなという方が無理な話だ――やるならば、俺しか居ない。

 

 

 

 そう、伏黒恵は漆黒の意思を固めんとして――。

 

 

 

「……!」

 

 

 

 ――雷迅を、眼にした。

 

 

 

「――おおおっ、禍福!?」

 

「……。は、ぁ~……、待たせやがって」

 

 

 

 ここに降り立つ――韋駄天。

 五条悟を除く、現代『最速』の少年。

 

 ――その、音(・)速(・)突(・)破(・)の推参を。

 





今回、過去最長の一話です。
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます。
ようやく次回からオリ主のターンです。
ちゃんと釘崎・伏黒にも出番あるので、もろもろご期待ください。



【オマケ①・本作の鹿紫雲について】

五条悟が勝った事で、宿儺と戦えなかったので、本作では生きています。

孤高の侘しさについては、五条から解答を得て一区切りつけられた、のかな?

イメージとしては…↓



「最強は、死ぬことすら許されないのか?」

「さぁ、急に言われてもよく分かんないなぁ。僕ってば産まれながらの最強でGTGだし? ……でも。そうだな――――僕は一人じゃなかった。キミもそうなんじゃない?」

「……それも、そうだな」

的な感じで、五条悟に挑み、ボコされた感じの想定です。



聞きたかったこと聞けて、答えは得た。
でも五条に対する義理立てもある。

よって現在も、高専術師とは協力関係です。



高専『所属』というわけでなく、あくまで『共闘』関係となっています。
(譲れない一線がありつつも、高専メンバーとの交友はむしろ良好そのもの)

また、釘崎が領域で召喚できる受肉体のうち『最強』であり、
一級術師の権限をもってしても、おいそれと呼び出せない切り札となっています。



あと、最近になって、無類のマンガ好きとなりました。
現代の『熱』に浮かされて、江戸最強の術師もまた、今を生きています。



【オマケ②・ナレ死したオリ呪霊について】

・特級半精呪霊・九頭龍
→九頭竜です。『花御は精霊寄り』という設定があったため、カテゴライズするなら『半精呪霊』になるんじゃないかな〜と思い…。

・特級仮想呪霊・滝夜叉姫
→某将軍様を出したかった反面、祟られたくなかったので、妥協してコイツにしました。

・特定疾病呪霊・十九之冠葵
→コロナウイルスです。

・特定思想呪霊・末法
→釈尊滅後正法1000年、像法1000年を過ぎて末法に入る、と恐怖された『思想』を反映する呪霊です。
(カルト教団とか出そうかと思いましたが辞めました。ええ、やめました)



【オマケ③・喇誑第二形態のモチーフについて】

『金星のアルテミット・ワン』です。
もう見た目がそのまんまですよね。
『摂取』の侵略的外来種、『鳥』である事の繋がりから拝借いたしました。

あとは、GODZILLAです。
呪霊の形で現れた災害、
術式という名の超自然的概念、という意味でも。


喇誑の全身に目が開く様子は、MV『廻廻奇譚』のサムネ絵が発想の元です。

また、廻廻奇譚のオープニングアニメ映像においては、サビのとこで虎杖・七海が、なにやら東京でデカブツを攻撃する様子がありましたが、

今回はそのイメージから、大怪獣相手に伏黒・釘崎・烏鷺・カシモが同じような大立ち回りさせよう、と考えて書きました。



【オマケ④・『喇誑』のモデルについて】

これについては、結論を避けたいので、ヒントだけを並べます。

・『罪を一身に負う寵児』
 即ち、あらゆる原罪を一身に背負うもの。
 他のあらゆる罪を奪い取るもの。

・二度目の顕現

・『それ』は『実在』すると信じられてきた。
 だから、従来の呪霊よりも強い実在性を持つ。

…まぁ、わかってくれますよね?

『新生・呪いの王』のガワを被せ、『それ』に近しい怪物を書きたかったわけです。


ちなみに、九相図母に似た体質から、覚えのない懐妊をしていた彼女は……そういう事です。

つくづく、呪われてますよね。
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