【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

33 / 84

【あらすじ】
五条悟に導かれ、
安曇野禍福は戦地へ。
託された彼女を救うべく、高専術師らが打って出る――。



第30話「空奏疾駆」

 

 2025年4月20日0時6分――。

 安曇野禍福(あずみのかふく)は。

 

 特級超過呪霊喇誑(ラテブラ)顕現中の東京結界に、踏み入っていた。

 

 

 

「お願いします、『俺たち』を勝たせてください……俺を、助けてください」

 

 

 

 摩天楼を軽々と越す、巨影。

 今や、列島の六割の呪力を吸い上げ、育ち、聳え立った悪意の煮凝(にこご)り。

 

 

 

 それは、安曇野(あずみの)本家の負の遺産にして。

 婪佳久(らんかく)の、産まれながらの呪い。

 

 

 

 ――その負債を、今こそ祓う。

 

 

 

「……私情か?」

 

「私情です。毎度ご迷惑おかけしますが、お願いします――なんとかしてください」

 

 

 

 そのための、安曇野禍福の申し出に。

 

 

 

「わかった――こいつは()()、しくじるなよ」

 

「……はい」

 

 

 

 その、特級呪具。

 禍福は――天逆鉾を、受け取った。

 

 

 

「……なんの請負よ、さっきの」

 

「ほっとけ――行くぞ」

 

 

 

 作戦変更を伏黒、釘崎は決意した。

 

 なにせ、流れが変わった。

 禍福の登場によって――アレには、ワンチャンスが生じていたのだ。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 特級超過呪霊『喇誑(ラテブラ)』――第二形態。

 

 既にその呪力、列島全域の六割。

 次なる変態を許そうものなら、恐らく。

 

 今度こそ、新生『呪いの王』が完全顕現する。

 

 

 

「……、――――!、!?」

 

「おっ、なんだ。やっぱ鳥型で匍匐(ほふく)は辛かったか?」

 

 

 

 ――と、思いきや。

 電撃を浴びせ、成長を阻害していた鹿紫雲(かしも)は、勘づく。

 

 

 

 その体は、わずかに崩れやすくなっていた。

 突如として輪郭が薄まり、解けかけていた。

 

 開かれた超高出力収束呪力の砲門は腐り落ち、

 でろでろと起こる異常に塗れ―― 『喇誑(ラテブラ)』は。

 

 

 

 全身から開いた眼を、一点に向けていた。

 

 

 

 ――確信した。アイツのせいだ。

 

 アレを見た途端、二つの魂の調和が大きく乱れた―― 押し潰した母体側の魂が、わずかに動きだした。

 

 

 

 もとより、釘崎や伏黒にも反応はあった。

 だがアレを前には比にならない。

 

 受動的な脅威への拒絶でなく、

 『喇誑(ラテブラ)』自身が決意していた。

 

 

 

 ――あいつを殺す。コイツらなんてどうでもいい。

 ――あれを殺して、この体の魂を折る。

 

 それでこそ、己は――初めて産まれ落ちる!!

 

 

 

「――――――ッ!!!」

 

 

 

 誰に望まれるでもなく、飛ばされる悪意の咆哮は、ついに己の持つ呪力に我を通す。

 

 

 

「オイオイ。そっちにお()かよ!?」

 

 

 

 鹿紫雲は理解した。

 己の役目が変わった。故に身を引いた。

 

 

 

 これまでの『悪癖』、単に呪力を垂れ流すというだけの、『喇誑(ラテブラ)』の攻撃には繊細さが加わった。

 

 その結果、千を越す呪力の放射が描く流星群は――精緻に、ただ禍福一人にのみ追従していた。

 

 

 

 そう、状況は変わった。

 今の『喇誑(ラテブラ)』は禍福以外、眼中にないのだ。

 

 

 

 ならば、もっといい手段だってできる。

 

 

 

「そういう因果、か――ったく。あんま漫画っぽく(ワクワク)させんなよ」

 

 

 

 満場一致、白羽の矢は立った。

 

 

 

 ―― 『喇誑(ラテブラ)』の囮役。

 それが、安曇野禍福の役割であった。

 

 

 

―――

――

 

 

 

(自分の事も解っちゃいなかった……きっと、誰の事も理解できやしない身分だろう、でも)

 

 

 

「これを抱えて、笑えてたんだよな。お前は」

 

 

 

 束になって落ちる死の斜線。

 狙いすまし、周到に尾を巡らせ、想定されうる軌道の全てに重なった邪魔立て。

 

 挙げ句、ビルだったものを解体しての質量攻撃という、人間一人には贅沢なオーバーキル。

 

 

 

 ――その飽和攻撃を、既に遠く置き去って、少年は。

 ――己を睨む、宿業を見据えていた。

 

 

 

「いつまでいいようにされてんだ、婪佳久」

 

「……ッ、――――――!!!!」

 

 

 

 翼を広げた獣が、東京を股にかけて吠え猛る。

 

 無限の怒りが彼を見ていた。

 無数の光線が彼を掻き消さんと迫った。

 

 

 

 そのどれひとつとして。もう、目を逸らしはしない。

 

 

 

 彼は、身軽な気分に従って制服の前を開き、

 ただ静かに、『逆鉾』を手にして、

 

 

 

「……言われないと分からないか、呪霊」

 

 

 

 ――その全てを、斬って捨てる。

 

 

 

 それは――術式と『簡易領域』の同時併用。

 

 シン影流『簡易領域』が起こす自動の抜刀モーション、そのカウンターを、禍福は『人体には構造上不可能な速度』で設定していた。

 

 

 

 さながら、同時に刃を三つ出せというような。

 それこそ、雨を刃ひとつで斬り伏せろという指定。

 

 だが、彼の術式効果。

 Gの発生しない『擬似加速』で、縛りは実現。

 

 簡易領域による呪力出力増加・術式『爆縛呪法』の『命を賭ける縛り』による呪力出力上限解放・呪力コントロール先鋭化によって――彼は。

 

 

 

 ――際限なく、ボルテージを上げていく。

 

 

 

「……確かに、お前は俺の復讐対象そのものだよ」

 

 

 

 とはいえ、呪力保有量という絶対値は覆らない。

 如何に強まったところで相手が相手。

 それに禍福は反転術式が使えない。

 

 『喇誑(ラテブラ)』の猛攻を単独で捌き、少しだけ生き延びれるようになったに過ぎない。

 

 

 

「だが、物事には順番がある。お前は、後だ

 

 

 

 事実彼は、じりじりと後退せざるを得なかった。

 このままではいずれ、必敗。

 

 

 

 ――否。

 踏みとどまり、前傾――今こそ、前へ進む。

 

 

 

「教えてやるよ――女に会いに行く男を阻めば、どうなるかを!」

 

 

 

 極限に極限を重ねた限界稼働。

 死中に求めた活、その実現。

 

 かろうじて両足が収まる程度の『線』。

 術式の発動条件は、解釈の拡張により、

 

 

 

 ――空中に、発生していた。

 

 

 

爆縛呪法(ばくばくじゅほう)・術式拡張――――」

 

 

 

 それは、自殺行為でしかない。

 

 人間である限り、絶対に踏めない位置の『線』だ。

 それを踏まねば、加速は得られない。

 無論、地面はマグマ一色、即死判定のみが敷かれる。

 

 その両脚は跳躍していた。

 

 まさしく狂気の沙汰。

 己に対する必中必殺の『命を賭ける縛り』。

 

 

 

 だが五条悟――先生に、教わった。

 

 

 

 ――確かな土壌と、一握りのアイデア。

 

 呪術師の成長曲線は。

 

 必ずしも――、一定ではない。

 

 

 

「――――空奏疾駆(くうそうしっく)』!!!」

 

 

 

 禍福は――空の『線』を、駆け昇る。

 

 

 

 それは、二段ジャンプだった。

 空を『面』で捉え、小さく呪力で蹴る。

 

 流動的な大気から見出す『面』は本来、そうそう捉えられるモノではなかった。

 

 

 

 ――だが今ここに、

 死線を幾重も踏み抜いた脚はある!!

 

 

 

「鬼さん、こちらだ――俺を、噛み潰し(つかまえ)てみせろよ!」

 

 

 

 これより、始まるのは。

 理論上、五条悟を含めた術師史上、最速の立体起動。

 

 

 

・踏み外せば即死の『命を賭ける』縛り

・空を歩けと言う人には『無理難題』の縛り

 

 2つのブーストを得た術式効果『擬似加速』。

 そこに二段ジャンプの速度は加わり、

 

 

 

 飛翔した――安曇野禍福は。

 

 

 

「天上天下ッ――唯我独尊!」

 

 

 

 その速度、マッハに到達。挙げ句、その身は。

 

 

 

 単独で――ヒットアンドアウェイを演じ出す。

 

 

 

 空一面を覆う呪力の弾幕(シャワー)

 針鼠が如く広がる、呪力の『波』による超長距離広範囲のホーミング。

 

 

 

 そこから空の一蹴りから抜き出て、前へ。

 追従さえ許さず一瞬で『喇誑(ラテブラ)』本体へと飛来。

 

 ただ一人の手にした『天逆鉾』が、その物量を真正面から手数で斬って落とし――――本体をも、貫く。

 

 

 

「…… ――――――!!!!」

 

 

 

 完全なるランナーズハイ。

 

 超弩級(デカブツ)に弾幕、気分はさながら特攻兵。

 まぎれもない少年の人生における絶頂。

 

 

 

 黒閃を撃つまでもなくゾーンに突入した禍福は、今の好条件でのみ『空を面で捉え蹴る』行為を、拡張した術式の範疇として解釈していた。

 

 

 

 加えて、今起きている全ては『擬似加速』。

 付与されたのは仮想の速度。

 

 この速度で衝突すればぶっ潰れるだの。

 そもそも天逆鉾は物理的に壊れるはずだの。

 

 

 

 ――知った事かと、韋駄天は止まらない!!!

 

 

 

「――――『黒閃』ッ!!」

 

 

 

 マッハ2、突破。

 もはや呪力とインパクトの一致は半ば必然。

 

 

 

 なんならソニックブームだけでも巨体が焦がされ、

 続く滅多刺しが流星群を上塗り、全身くまなく抱擁せんと奔る。

 

 ビル以上の巨木が如き多脚は穿たれ、

 翼を柱としていた頭は首から落ち、

 その翼は焼き切れんとばかりに呪力を飛ばしていた。

 

 

 

 それでも。『擬似加速』に、上限などない。

 

 

 

 ――間違いなく、その牙は。

 この新生『呪いの王』に届き得る域。

 

 

 

 だが――安曇野禍福はあくまで、囮役だ。

 

 

 

「――伏黒さんッ!!」

 

 

 

 彼の一歩が――空を、一閃する。

 

 東京を覆っていた呪力、全方位の日射は切り裂かれ、崩壊。

 世界に、夜影は戻された。

 

 

 

 そして、今。

 頭上の禍福に翻弄される『喇誑(ラテブラ)』の、懐。

 

 

 

 ――伏黒恵の術式が、回帰する。

 

 

 

『脱兎』×『摩虚羅』―――― 八握剣(やつがのつるぎ)多重畏凱将群(たじゅういかいしょうぐん)』!!!

 

 

 

 刹那。広がる影は輪郭を得た。

 現れ出でる、翼の耳飾りを備えた兎の群れ。

 

 

 

 その一体一体の知性はさほどないが、脱兎は群れでひとつの式神――『適応』による検証結果は、伏黒恵を含め全個体に共有され、並列思考が成立する。

 

 

 

「鹿紫雲、位置は!」

 

「あぁ、診断完了。腹の下、()()の位置だ――者ども、行ってこい!!!

 

 

 

 そして雷神のイカズチが、活路を切り開く。

 

 

 

 レントゲン診察は既に完了済み。

 内包された婪佳久の位置は推定されていた。

 

 加えて今の『喇誑(ラテブラ)』が禍福に目を取られ、無抵抗――婪佳久に当たらないギリギリを攻める事も可能。

 

 

 

 指定のポイントに叩きつけたマイナス電荷に、手にした如意棒のプラス電荷を込め、放たれる――――領域展開をするまでもなく『必中必殺』となる超加速電磁気力砲(レールガン)の大火力が肉を灼いて、道を開く。

 

 

 

「了解―― 形態(モード)変更『対魔の剣』!!!」

 

 

 

 解剖、完了。

 そこへ『適応』を終えた脱兎が『正の呪力』を帯びて、一斉に潜り込む。

 

 

 

 術師単体での『相互の縛り』ができるのは、式神使いである伏黒のアドバンテージだ。

 

 脱兎との相互に結ばれたモード限定の縛り。

 相互の術式開示による術式効果底上げによる、本来備わらない戦闘機能の追加。

 

 

 

 それによる集団突撃が――出来物めいた形で、『喇誑(ラテブラ)』でない部分を浮き彫りにしていく。

 

 

 

「釘崎!」

 

「あいよおっ――『共鳴り』!!」

 

 

 

 そして、脱兎に運ばれた釘崎野薔薇は――。

 

 

 

 ――ガガガガガガッ!!!

 

 

 

 と、 『喇誑(ラテブラ)』の部分のみに鍵の束を打った。

 

 間髪入れずに差し込まれる釘打ちの押し出し。

 パイルバンカーの如き掘削作業。

 

 

 釘崎、伏黒の手によって、

 

 『喇誑(ラテブラ)』の部分と、そうでない部分の境界は、開かれ――石像を産み出すが如く。

 

 

 

 確かな、少女の輪郭は浮かび上がっていく。

 

 

 

 より細く、顕在化した深すぎる繋がりの境。

 さながら臍の緒の切れていない胎児。

 

 根ざすのが腹でなく、脊髄という悪趣味極まるモニュメントとは――まさしく、呪縛。

 

 

 

 だがまだだ。この繋がりを断つには呪力だけでは足りない。

 

 

 

 婪佳久は『呪霊を孕む』体質――呪霊を祓うのでなく、彼女の持つ『物理的な繋がり』を断つ必要があった。

 

 何より、むき出しの婪佳久本体に負荷を与えるわけにいかない。釘を刺すなんてもってのほかだ。

 

 執刀には寸分違わぬコントロールと、何より手早さが必須。

 

 

 

 ――故に、導く。

 

 

 

「一丁上がりぃ――やったれ禍福!」

 

「――了解!」

 

 

 

 脱兎ともども始まる自由落下。その間際。

 

 釘崎は空にトンカチを振り――そこに乗った足を、押し出した。

 

 

 

 刹那、轟く、超速の爆音。

 

 飛翔せし禍福。その手には――『天逆鉾』

 

 

 

 あらゆる(まじない)を断ち切る、捌縁(やつえん)の魔刀。

 

 

 

(――ああ。借り物ばっかりだ。――先輩に頭下げて、先生に迷惑かけて、最後の決め手も借り物の武器)

 

 

 

 黒閃現象、正の呪力、必中攻撃。

 高等呪術のみが通用する呪霊ならば――特級呪具も、また例外ではない。

 

 

 

(結局俺は、自分では何もできなかったのかも知れない。けど――)

 

 

 

「――――起きろ。婪佳久――!」

 

 

 

 それでも――手を伸ばした。

 それでも――刃を差し込んだ。

 

 お前を助けたい。それだけは決して、偽りない本音であると。そして、刹那。

 

 

 

 ――――少女の。魂に、触れた。

 





今の禍福くんは劇場版限定フォームみたいなもんです。

別に主人公最強モノじゃないので、マッハ3(直哉ライン)越す描写はしません。あくまで『理論上は五条悟以上に加速できる、現にマッハ2を突破した』としか書いてません。

なんなら呪霊直哉のが強いと思ってます。

Fate/Zeroの全盛期言峰みたいなもんですよ。この時だけヤバいのです。

なのでその。このぐらいの無双展開は許してください。



ってかオイこら鹿紫雲ー!

オリ主人公が頑張って加速して突っ走ってるのに『超加速電磁気力砲』なんて完全上位互換技をしれっと撃ってんじゃねぇ!!

いやむしろやってくれ。原作でやれなかったぶん暴れてもええんやで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。