【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
五条悟、伏黒、釘崎。全てのバトンが継がれた。
折れた少女の心根に、少年は踏み入る。
すべてが決定的に変わる分水嶺。彼の決断は……。



第31話「受愚戴転 -再誕-」

 

 

 

 そこには――初めて出逢う、童女がいた。

 

 

 

「もう、いいよ」

 

 

 

 鉄枷のついた、痩せぎすの足を抱く姿。

 粗末で穢れた非人の装束。

 

 

 

「いいから。せめて、殺してよ……それで、復讐になるでしょう」

 

 

 

 それは彼女の――心根の、有様。

 

 

 

 その魂は、初めから折れていた。

 呪いに、膝を屈していた。

 

 

 

 たった今、分たれる間際でなお、粘着質な呪縛は、彼女の心根に絶望として根ざし――仮初の笑顔さえ、食い潰していた。

 

 黒く、重く、べっとりと。ヘドロのよう、というには硬すぎる『縛り』が、全身に塗れて見える。

 

 

 

 事実、その呪霊は彼女の根っこに位置する。

 強引に引き抜けば、彼女は死ぬだろう。

 

 

 

 求められた、介錯。

 そこに踏み入り――俺は、復讐者として、

 

 

 

「そんな気はない」

 

 

 

 そう、迷うことなく突っぱねた。

 

 

 

「……なんで」

 

「俺が復讐したかったのは、個人じゃなかった」

 

「……どうして」

 

 

 

 紛れもない、本音を口にする。

 ついこないだまでは、とても考えつけなかった事を。

 

 

 

「俺は、理不尽によって未来が失われるのが許せなかった。正しい順序を踏めば、正しく死ねると信じたかった」

 

 

 

 どうせ幸せになれないなら、五条悟を呪っていたかった。あの幼い日、大きすぎた喪失を経て――それしか、立っていられる理由がなかった。

 

 

 

 でも……今は、違う。

 

 

 

「俺は、理不尽に何かを奪うモノを。独り歩きした災厄にこそ、因果応報をぶつけてやりたかったんだ――お前も呪われた、奪われた者だ」

 

 

 

 それは――さらなる絶望になるだろう。

 お前ならいいと。裁かれるのを待っていた罪人に言い放ったのだ。

 

 

 

 だが、それでも――俺は。言いたい。

 

 

 

「いいのかよ。そんなヤツに、人生丸ごと奪われて。昔みたいに、モノみたいに利用されて――お前は呪われっぱなしが嫌だから、呪術師になったんじゃなかったのか!」

 

 

 

 お前と学んだ事だ。

 俺の考える、呪術師のあり方。

 俺の知るお前は、そんなんじゃ――!

 

 

 

「――わたしは、大勢の人を殺したんだ」

 

 

 

「わたし、生きてちゃいけなかったんだよ。呪霊を祓って、お前らとは違うって証明したかった――でも、わたしはやっぱり。理不尽の側だ」

 

「生きてる限り、みんなに、不幸を回すんだ」

 

 

 

 ――分かっている。

 彼女の心は、彼女の記憶を得た自分こそ、よく分かっている――けど。それでも、

 

 

 

 俺はもう、これまでのようにはいられない。

 

 

 

「――知ったことか、そんなこと……オマエが居なくなる方がッ、俺にとってよっぽど不幸で、理不尽だって言ってんだよ!」

 

 

 

 その童女の、胸ぐらを掴み上げた。

 手が汚れるのも厭わずに。

 硝子玉の様な、丸々とした眼と目が合った。

 

 

 

 ――いや、現実において、俺は『天逆鉾』を振り下ろしているわけだが。そんなのは関係ない、二人の世界で――俺は、確かにソイツに掴みかかっていた。

 

 

 

「お前のいない世界で、俺が本当の意味で笑えるわけがないだろ! あぁ、確かに殺したさ、もう死人は帰ってこない。終わりきったことだ。でもお前はまだ助かるだろう。お前ならッ、同じ場面で手を伸ばすだろ!」

 

「でなきゃどうして――お前はあの時、俺を助けた!!

 

 

 

 ――呪術師は、ヒーローではない。

 

 他者のためでなく、己が矜持で動くものだ。

 

 俺たちは万人でなく、俺たちの救いたい人を救う。

 

 人の本質に対する嘲笑を祓い、穢されたくないものを守る。

 

 

 

「お前が怪物か人かなんて、心底どうでもいい」

 

 

 

 いつの間にか――。

 目の前の童女は、少女になっていた。

 

 そして。俺の掌は、その彼女へと差し出されていた。

 

 

 

「もう一度、俺を助けろ。俺は――オマエが欲しい」

 

 

 

 やめてくれ。そんな顔をしないでくれ。

 こっちだって今、とんでもないことを口走っている自覚はあるんだ。

 

 呪いと承知していても、止められない。

 この気持ちばかりは、死んでも死に切れない。

 

 

 

「俺と、奪い返しに行こう。お前の未来を。俺たちの未来を!」

 

 

 

 ――理由は、なんでもいい。

 

 守るべきは、弱者でも何でも。

 田舎がイヤで都会で住みたかった、なんてのでもいい。

 

 それに全力で命を張れるならば、それでいい。

 

 

 

 俺にとって、一番に譲りたくないモノは――!

 

 

 

「オマエといる未来が俺は欲しい、オマエを奪われたくない――オマエ自身は、そう思わないのかよ!!!

 

 

 

 そう、手を伸ばした。

 掴まなきゃ許さない、このまま終わるなんて承知できない。

 

 言いたいだけ言っただけの言葉――そのあとに。

 

 

 

 確かに。彼女を掴んだ感触がした。

 

 

 

「――ぅ、おおおおお――ッ!!!!!」

 

 

 

 彼女の魂が目覚めんとして、

 もう一方、呪霊の魂は極端に弱まる。抵抗が弱まる。

 

 

 

 確かに手にした『天逆鉾』で、呪縛の境界線(せいめいせん)をなぞった。そして。

 

 

 

 ――――万力を込めて引き出した。

 ――刹那。魂の世界は遠ざかる。

 

 そして染まる、夜闇の帷に閉ざされた世界。

 穢れの跳梁跋扈する現実で――確かに。

 

 

 

 俺の中で、彼女は、まだ息をしていた。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「――――――、ッ!!!!

 

「――、やべっ!」

 

 

 

 そして――安曇野禍福は。

 またも、後の始末を忘れていた。

 

 

 

 本体と分断され、引っこ抜かれた基盤を取り返さんと迫る、致命的な悪意の暴流――そこに。

 

 

 が、割って入る。

 まるで、わかっていたとでもばかりに。

 

 

 

「……」

 

「――婪佳久(らんかく)

 

 

 

 ――『受愚載転(じゅぐたいてん)』は、婪佳久の生得術式ではなかった。

 否。彼女は、そもそも呪術師ですらなかった。

 

 その実は、体内の呪霊の術式と呪力を持たされていた一般人。

 呪霊操術による呪霊の術式を遠隔起動してきたようなもの。

 

 

 

『――なれるものなら、ニンゲンになりたい。だから――!』

 

 

 

 そんな状態で呪術を学んできた。

 その前提での努力は、なにひとつとして身にならない。

 

 

 

(――わたしは。やっぱり、怪物かも知れない――――けど……!)

 

 

 

 スキル以前に彼女の目標――正しい呪術の習熟による、力の掌握なんて到底成り立たない――、

 

 

 

 否――――証明は、ここに。

 

 

 

「……わたしはッ――呪術師だ――――!!!」

 

 

 

 ――確かに、禍福は奇跡を見た。

 彼女からすれば最も、起こり得ない現象。

 

 

 

 ましてや今。婪佳久は一身に呪いにあてられ衰弱し切っていた。

 呪力以前に生命力など風前の灯。

 

 それが、生来のアホ火力と重なった結果の、

 

 

 

 ――『黒閃』が、世界を灼いた。

 

 

 

 

「――ぁは、なんだろ――すッげ〜頭にクる、これ」

 

 

 

 その場の全てを塗りつぶす、黒点の瞬き。

 その大威力は、過去最大の大怪獣を盛大にぶっ飛ばし、

 

 余波だけでも致死の爆心地に、至近距離で居合わせた禍福は、

 

 

 

「あ――禍福。いたんだったね。生きてる?」

 

 

 

 婪佳久により、庇われ、

 お姫様抱っこの格好で無事着地、難を逃れた。

 

 

 

「……お陰様で。死ぬかと思ったよ」

 

 

 

 しかも、自覚なしときた。

 色々と悪辣なマッチポンプ。

 オマケに、嫌いな男を想起させる、揺らめいた短い白髪。

 

 

 

 だが。死に際に掴んだ――呪力の確信。

 

 『反転術式』によって、彼女は、息を吹き返していた。

 

 それどころか、

 

 

 

「あと、逆だろ普通は。いー加減降ろせ」

 

「なんだよ。礼の一言くらい欲しいんですけど〜」

 

 

 

 これは――反転術式のアウトプット。

 今の彼女の膨大な呪力は、『正の呪力』に変換され、その漏出だけで禍福の疲労は癒えていた。

 

 技術力もへったくれもない、呪力効率は下の下もいいところだが、アホみたいな呪力量で成り立った――黒閃によるゾーンに入った事による副次効果というべきか。

 

 

 

「この後でなら好きなだけ言ってやる」

 

「ふふ、言質とったり」

 

 

 

 ともかく、笑顔に迎えられ、息が抜ける。

 

 なんか、普段の三倍増しで目がギラついて見えるが、そこは無視。触れぬ神に祟りなしである。

 

 

 

「――――!!?!?

 

 

 

「アイツ……!」

 

「うわ〜、露骨にパワーダウンすんじゃん」

 

 

 

 降ろされてすぐ、禍福らは振り返る。

 明らかに――『喇誑(ラテブラ)』の状態は変わっていた。

 

 

 

 苦しみ悶え、もとより混沌としていた呪力は悪化し、取り止めなくなって。

 ただ消えたくないと、蠢くばかりの不出来ものになっていた。

 

 そりゃそうだろう。生まれ途中で母体と離されたのだ。

 そうでなくとも、呪力は腹で回すモノ。

 

 腹に埋まっていた婪佳久を取り出された時点で――彼女に、呪力の七割が奪い取られている。

 

 

 

 今の特級術師・婪佳久は、単独で列島上の全呪力の半分弱を有していた。

 

 

 

 それでも――禍福たちにとっては。

 乗り越えるべき、過去に違いない。

 

 

 

「……婪佳久」

 

 

 

 ――、少し。躊躇う。

 

 禍福は。彼女の過去を知ってしまった。

 

 

 

 比喩でなく、文字通りの意味で。

 全てではないけれど、本当は、もっと順序立てて知るべき所まで。

 

 昔は奴隷同然で、今でも少年兵そのものであるコトも。

 

 

 

 そんな彼女を、力だけで頼りたくはない。そう思って、

 

 

 

「大丈夫――呪術師でしょ。わたし達」

 

 

 

 ――愚問だったと知る。

 ならば。もはや――互いに、言葉は不要。

 

 

 

「あぁ。――そうだな」

 

 

 

 双方、構える。

 ただ、自分のために。

 

 たまたま、同じ敵がいただけの者として――。

 





 ――みなさん、いよいよお別れです!

 基板を引っこ抜かれた『喇誑(ラテブラ)』は大ピンチ!
 しかも『偏殺即霊体』に近しい第三形態となって、禍福に襲い掛かるではありませんか!

 果たして、日本と呪術史の運命やいかに!?

 呪術廻戦 -受愚戴転-・最終回
『婪佳久&禍福・大勝利! 希望の未来へ、レディ・ゴーッ!!



 ……このぐらいのノリで、とは言わずとも、
 エゴ全開で虎杖に伏黒ひっぱり出してほしかったんだけどなぁ(小声)



 あっ。因みに婪佳久が白髪なのはストレスのせいです。

 肌が真っ白なのは、2歳の頃までまったく日の光を浴びなかったせいで後天的にアルビノっぽくなってます。五条悟の妹とかそういうんじゃありません。悪しからず。



 最後に……今回、『Stone Cold』って曲ききながら書いてました。
 禍福のイメソンと勝手に思ってます(おこがましい)
 そうでなくとも名曲なんで、オススメです。
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