【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
二人は、己の過去を前に、共に未来へと駆け出していく。
「よし――よし!」
困難を極めた摘出作業は、辛くも成功。
伏黒恵はついつい握り拳に力が籠った。
――
共鳴りによる、癒着した呪霊と人体の境界の顕在化。
そして、天逆鉾による物理切断。
ここまでの全て、どれかひとつでも欠ければ、婪佳久をアイツから無事に引き離せなかった。
極めて順調。順調過ぎて怖いぐらいだ。
そして――そういう時こそ、不測の事態とは起こるモノで。
「畳み掛けるぞ――領域展か――!」
「伏黒くん。ステイ」
「――、なんでだよ」
終止符を打つ。ハズが、止められた。
隣立った同期の一名。釘崎野薔薇に。
「あーも。これだからウニ頭は、さっすが華ちゃん七年待ちボーケさせる男は違いますねぇ〜!」
「?、?」
首根っこを掴まれ、ズルズル引き摺られてのフェードアウト。
納得いかぬ、という顔の伏黒を他所に。
「――ねぇ、やっぱアイツ藤原でしょ! ちょっ離せ、せめて一発殴らせろ!」
「ホントお前、わかんねぇやつだな。怪我人は黙って帰って服着て寝てろ」
ついでに、
「行くわよ。あれはもう、二人の問題なんだから」
――少年と少女は。最終局面に突入していた。
―
――
―――
――術式『
それは、非術師の呪力を一身に集める術式。
いわば呪霊の発生サイクルの侵略。
特級超過呪霊『
だが――その呪力の殆どは、引き出された時点で『彼女』に奪われた。否、それだけではない。
「――オマエは、産まれきれなかった。
術式『受愚戴転』は、この場にふたつ存在している。
「それって逆に、わたしにも言えることなんだよね」
そう、彼女は――13年、『
特級術師・婪佳久。
その肉体にも、後天的に『受愚戴転』の術式は刻まれていた。
よって『
――婪佳久を殺さねば、『
「あぁ……やっと、わかったよ」
「――――ッッツツ‼︎‼︎」
ぐずぐずにほつれていく死に損ないは、大きすぎる図体で足掻き、親殺しにかかり。
「――オマエは、わたしなんかじゃない!!」
だが婪佳久は――真正面から。
呪印の浮かんだ痩身ひとつ。
正の呪力で、怪物を殴り返した。
「出力最大――『
――膨大な呪力のコントロールを手放し、指向性を与えて体外放出する。
本来であれば自壊を伴う技は今や、『正の呪力』となった事で欠陥を克服。
どころか、それは――擬似的な、反転術式のアウトプットとなっていた。
『黒閃』による潜在能力解放、莫大な呪力量によって成立した芸当。
こと正の呪力の扱いならば、呪霊よりも人間の婪佳久は上手をいく。
「誰にどう頼まれたってオマエにだけはなるもんかよ。――わたしは人で、呪術師でッ、どこまでいってもオマエは呪いだ!!」
よって、ここでの婪佳久は――列島半分の呪力を使い果たすまで、無敵と化した。
「決着つけようか。オマエを殺して――初めて、わたしは産まれ落ちる!」
いわばこれは、互いの存在を食い合うシーソーゲーム。
加えて、心臓を抜かれたも同然な今の喇誑は、大きくキャパシティを損ない、呪術の学習容量が減っていた。今、新たな技能を獲得できる余裕はない。
故に――、呪術戦の極地は、解禁される。
「……そこは、わたし『達』だろう。婪佳久」
――
その構えは、シン・影流『簡易領域』のそれだ。
だが。結界は――カウンターのプログラムを排除。
相手を領域内に収める縛りによって――範囲を拡張。
そして。上がる彼の片手には――――韋駄天の印。
安曇野禍福は――シン・影流『簡易領域』により、結界術の基礎を習得している。
「――領域展開――――」
刹那。とりまく世界は一変した。
婪佳久・喇誑に必中される『術式開示』によるルール説明。
術式情報を得た事で、その場の全員は結界に浮かんだ『線』と。
――煌々と紅く燻る、溶岩地帯を視認する。
線を踏めば、擬似加速。
線を踏まない――もしくは線内に足の収まらない人外は、マグマ。
「――――『
あらゆる速度が停止するマグマに体積の大半を晒し、一切の挙動は絶たれる。
線から落ちれば、あらゆる動きは停止する。
無論、術式も機能不全。代謝と抗いは不能となり、
さながら、焼けた鉄板の上に乗った氷が如く――泡と悪臭を放ち、盛大に溶けていく。
「――婪佳久、いけるな」
「――勿論っ!」
そこへ。禍福の有する『天逆鉾』と、婪佳久の『正の呪力』が畳みかける。
二人は、『無為転変』による記憶の交換・定着により、互いの人生の一部を追体験した。
いわば憑依による訓練をしたように、肉体でなく魂に、それぞれの術式経験は刻まれた。
婪佳久は、これまでの禍福の『線』を踏む技能を譲り受け、そこに呪力の意図を読む能力も伴い――禍福と共に、領域の加速に乗って、呪力コントロールのギアをより高め、
「「――『黒閃』ッ!!!」」
正の呪力による、黒い火花。
婪佳久にとってあり得えざるハズの、呪力掌握という待望を果たすに至っていた。
――
そこに叩き込まれる、少年少女の全盛期。
このままいけばオーバーフロー、間違いなく祓われる。
その認識が。
理解し難い恐怖が――より。
『呪いに対する呪霊』の、逆鱗を起こした。
「――、!!!!」
「ぅ、わ!?」
「婪佳久!?」
――――黒閃は、微笑む相手を選ばない。
死中に見出した活。
有り合わせの技能を結集した一撃が、婪佳久を『線』から突き飛ばす。
とはいえ、婪佳久は『擬似紡操』による呪力放出で飛行可能、マグマに接触することはないだろう。そう禍福は即座に前へ集中した。
なにせ――眼前の事態の方がよほどヤバい。
「あ、ァァア――アズミノ、カフク――!」
「コイツ、ここに来て――!」
二度目の、変態。
焼け落ち、溶解する蛹を破り、顔を出す、呪詛。
その様相は一転、人間大となり、知性を得て。
「――――キサマさぇ、居なければ!!!」
そのキャパシティは全て、禍福殺害へと向かう。
結界の『線』に、眼のついた足は乗り、
そして――両肩より伸びるブレードを備えた鞭が、壮絶に領域内を掻き乱す。
(――逆鉾が弾かれる。なんだよ、この硬度は!)
「死ね死ねシね死ネ死ね死――!!!」
切断は不可能と即断、というか下手に手を出せば絡みつかれてズタズタだ。
混沌に取り合わず、禍福は術式解釈を拡張。
空中に『線』を設定し、空を『面』で捉え、駆け上がる。
爆縛呪法『空奏疾駆』を発動し、立体軌道で魔の手を逃れ――否。
「嘘だろ――!?」
「――コロすッ、アズミノカフク――ッッ!!」
――『
童女の日本人形を着飾ったクリーチャーは。
見た一度で、『空の面』を学習。
領域のバックアップによる加速と相まって、
禍福の足が乗った『空の線』を踏み、
二次元から三次元へと飛び上がる。
――かくして、球状のサーキットを越える速度の交錯。
――怒り心頭に振るわれる蛇腹剣との接戦が開始され、
禍福は、理解した。
(逆鉾が通らない。こいつ呪力を質量に変換してやがる。呪霊としてでなく物理的に存在している! しかも――これまで己を縛った13年分の呪力を解放したか!)
そう、『
そして、これまでの学習内容を棄却。
全学習容量を禍福に傾け、
生物として成立しない形状であるのを無視した、
加速に対応でき、禍福を殺すだけのフォルムに至った。加えて、
「オマエさえ――オマエッ、さえ!!!」
その呪力全てを放棄、質量に変換する縛りにより。
その効果が切れる30分の間まで。
呪力皆無の――フィジカルギフテッドとなる。
(こいつはもう――俺を殺すだけの存在になったんだ!)
せめぎ合う斬撃の応酬は、『
唯一勝っていた速度でさえ逆転する。
禍福の加速要素――、
・爆縛呪法の『命を賭ける縛り』による術式効果
・空中の線を歩けという『無理難題の縛り』での効果向上
・空を面で捉えて蹴る加速
なのに対して、今の『
・呪霊の身で呪力を捨てる『命を賭ける縛り』
・領域による爆縛呪法の加速効果
・空を面で捉えて蹴る加速
そこに、フィジカルギフテッドの敏捷性までもが加わった。
肉体構造は呪霊のままの全身武器庫状態で、だ。
「ッ――『黒閃』!!!」
「コロ――――ッ!!?」
辛うじて、クリティカルを叩きだして殴り飛ばす。
むしろこっちの拳のが壊れるかと思わされる。
だが、これだけは通用した。
そりゃそうだ。人間のフィジカルギフテッドとは異なり、素体は呪霊である以上、多少丈夫でも、術師の呪力をぶつけられたら祓われる。
――禍福の呪力量は有限だ。
だが命を賭ける縛りによって、呪力出力の上限は限りなく解放されている。
速度でも体力でも押し切られたコイツを倒すには、今。
最大出力の黒閃を、決めるしかない……!
(完全に防御を解いて攻撃する。道中の鞭を全部足でちぎって――できるか?)
互いに加速した今、呪力のタイミング合致だけは実現できるだろう。
呪力のブレンドは自分の技量次第。
あとは運あるのみ――――否。
(いや。ここまでくりゃあ――理屈じゃないだろッ!!)
愚問。空の上で一呼吸、迷いなどない。
気分は、最高記録に挑むスプリンター。
自由落下手前の、マグマの上――見出した『面』と『線』を、蹴る。
「アズミノ――ッ!!!」
「勝負だ――復讐鬼」
――――水平、駆け出す、少年の身体。
領域による術式解釈拡張により、『線』は複数発生が可能となった。
よって結界の『線』と空中の『線』を交互に踏み分け、不規則に迫る。
出迎える殺意の応酬。
だが必然的に上から叩くとなれば『マグマ』に接触するリスクがある。
前傾姿勢で進む彼の足元をすくうには足りない。となれば、
「――――死ね――ッ!!!」
『
むしろこちらは、前方に鞭を渦巻かせ、ドリル状の矛を形成しての突貫であった。
互いの殺傷力の差は見るに明らか――否。
もう、安曇野禍福は一人ではない。
「だとよ――婪佳久」
「――!?」
――『
禍福しか目に入っていない以前に、『
婪佳久は吹っ飛ばされて以降、隠れ潜んでいたのだ。
周囲に展開された――我流・『簡易領域』。
自身を悟らせない結界によって。
「そっちがその気なら……こっちだって」
呪力を極限まで排除した、フィジカルギフテッドと同様、呪術的には建物に値する結界。
故に、禍福の領域を中和することはない。
そして、自身で張った結界を壊す縛りによって、再現されたのは。
「――『全部』、くれて、やるよ――!」
婪佳久の全呪力――『正の呪力』の高出力志向放出が。
『
「――――ッ、ラン、か、く――ッ!??!!!?」
13年、己を縛った母体への怒り。
質量のみの存在とはいえ呪霊。
致死の光線に身を焼かれて、再燃した怨恨の眼は他所を向き、
目の前を、見落とす。
「光栄だね――俺だって、そのつもりさ」
――正の呪力は呪霊に対し、致死となり。
――人体に対しては、治癒として働く。
正の呪力の光線に焼かれた禍福は――その間のみ、無敵。
故に放たれるのは自壊覚悟、『無制限』の。
「――――『黒閃』ッツ!!!!!」
最大加速、最大呪力の乗った一蹴りが。
脆く焼け爛れた怪物を穿ち――黒い火花が吹き荒ぶ。
響き渡る、音速突破の快哉。
これまでの疾走は、その一撃へと結実し。
「またな……今度は、呪い以外の何かを見つけろよ」
悪感情の器は――音を立てて、崩れ落ちていく。
――最期まで、その手が禍福の足を掴んでいた。
―
――
―――
「や~。完全、出し切ったぁ……」
領域が解ける。
呪力をごっそり吸い尽くされた、東京の空を仰ぎ、
無人都市の真ん中で、婪佳久は大の字になっていた。
「はは……勝手に術式使えるって。こんなに身軽なんだ……」
これで、この世に術式『受愚戴転』はひとつだけ。
人体の使用を前提としない呪いは、今後も彼女に注がれる。
「……あと。復讐達成、おめでとう。禍福クン」
「ついでみてえに言うな。てか、バテてる場合かよ。新東京校ふっ飛んだんだ。始末に行くぞ」
「え~やだよ。別にわたしがやったわけじゃないじゃん~」
生涯に渡る呪縛が確定した、というのに。
薄汚いアスファルトに、白髪と白い制服を汚し、
少女は、これ以上ない笑顔でいた。
「言い訳無用だ。今後は自己責任だろう、その道理は通らないんじゃないか?」
「そっか……そっかぁ。そうだね」
だって――ようやく。その呪いが、自分だけの力になったから。
「それはそれとして。これからはアンタのせいで呪われるんですけど。せめて小休憩を要求しまーす!」
「……参った。それはそうだ――大仕事だったしな」
「そうだよ。たぶん人生最大だよ?」
「それほど実感ねぇな。術式使うだけで、死ぬか生きるかだったし」
と、言いつつも。
隣に腰を落とした禍福は、それで漸く、疲労を自覚する。
確かに、これはしんどい。あと、
「……いい空だ」
呪いが晴れ、人口の光もなく。
僅かに顔を出した夜明けの灯と、まだ白く残る月。
「……花火、観に行かないか」
ふと、思い浮かんだコトが口に出ていた。
それは、いつかの雨に流された予定のやり直し。
「……任務?」
「んなわけがあるか」
「あ~……だよね。そうだよね?」
晴れ渡る空の下。
突然に切り出す少年を少女はからかい、少年は唇を尖らせる。
「一言で分かれバカ女。で、返事は?」
これまでと同じように。
つい先程まで、激闘の最中だったのが嘘のように。
「む。そのイヤミは変わらずなのかぁ……まぁ、でも――」
けれど――眼を逸らす事と、前を向く事の違いを知ったから。
これからの、彼ら若人が生きるのは――本物の、青春なのだ。
えー、完走した感想ですが。
疲れました。でも、なんだかんだ充実した日々でした。
何より、マイベストフレンドと積み上げてきた構想が、しっかりと形になって世に出し切れた事、嬉しく思います。
過去に屈さず、エゴを通して怒りを晴らし、前へ進む。
諦めたなんて言わせない。想像の先をいけと肯定する。
そんな呪術廻戦が、ひとつくらいあってもいいでしょう。
最後のお願いです、高評価コメントのほど、よろしくお願いします。
……などと、ゴールテープ切ったふうな雰囲気で言ってみたわけですが。
実は、次回あります。
エピローグ3話あります。
一応、禍福・婪佳久の出番もありますが、他も出ます。
てか、全体の幕引きするなら、五条さんの話しないと終わりませんよね。
ってなわけで、もう一週間だけ続くんじゃ。
【オマケ①・禍福の必中のみの領域展開】
第三話「貧者の韋駄天」にて、
命をかける縛りと、術式効果の開示を行うと、
相手にも『線』が視認できるようになる、という描写がありました。
この現象を、領域で拡張しています。
元が『線』見えるようになるだけだったのが、
『マグマ』も見えるようになり、
両方に触ることもできるようになりました。
禍福の領域はこの『ルール説明を必中させる』事で、
『線』や『マグマ』が視認できるようになり、
だから相手にもどっちか機能するようになる、という領域です。
結果的にマグマという『必殺』を相手が喰らうこともありますが、
あくまでも『必中』のみの領域となります。
そのため、相手にも『線』踏んだら恩恵あります。
ただ、このルールで命落とさず、
ランダム配置に対応できるもんならやってみな?って感じですね。
【オマケ②・最終回禍福ってどのくらい強い?】
原作における高専三強。乙骨、真希、秤には負けます。
真希は、呪霊直哉に勝ってるんだから、呪霊直哉未満の禍福が勝てる道理がありません。
秤は、無敵入られると長期戦になって、
禍福がミスを踏むか、先に呪力切れするかで負けます。
乙骨も同じ理由で呪力差的に敗色濃厚、そうでなくともリカちゃんに単純に敵わないので負けます。
あと、特級呪霊サークルには基本的に負けます。
ギリギリ陀艮に勝てるぐらい?(でもあれ生まれたてだよな…)
石流とならいい勝負できるのでは?
鹿紫雲は絶対ムリです。
結論。高専三強の手前くらいの強さです。
【オマケ③・婪佳久の『簡易領域』について】
作中の説明通り『呪術的に建物にあたる簡易領域』となります。
呪力で簡易領域を設け、
後から呪力を、術が維持できる限界まで引き抜いて作られた、
最終回限定で高まった呪力コントロールによる結界となります。
もちろん、呪力に対する防御力は皆無です。
とはいえ本領は隠密性。
いわばフィジギフの簡易領域内は、
呪術的透明人間が、内臓まで透明であるように、
中にいる婪佳久は視認する他に見つけようがありません。
……ていうか、内臓まで透明理論を参照するなら、
窓ガラスを目張りして中身見えない状態にした車両(呪術的には建物に値する)で領域に突入するのが、一番いい対領域の手段なのでは?
とか思ってたのですが、流石に作中ではやらせませんでした。
ラスボス候補相手に車で突っ込むなんて、高羽で十分です。