【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
本作における「エピローグ 伏黒恵」です。
前回までを知らなくても読めます。
「――
ふと、街を歩いていたとき。
そう呼ばれて振り返った。そこには、
「あ、ぁ――恵くんかぁ。見ない間にデカくなったなぁ、ガタイすっげえし。ハハ」
――
かつての、父の同業者がいた。
……気まずげだったのは無理もない。
嬉しさ半分――まさかの高専バッチをつけた人物と接触した、絶望半分なのだろう。
「なぜ俺とアイツを見間違えるんだ。死んでから何年かかったと思ってる」
「いや、ひょこっと出てきて飯せびってきてもおかしくないだろ。アイツなら」
「……それもそうだな」
それはそれとして。
既に、俺――伏黒恵は。
俺の父親についてのあれこれを、知っている。
―
――
―――
「俺……オマエがいないと寂しいよ」
その言葉が。「もういい」って言ったのに、俺を動かした。
受肉した両面宿儺から五条先生に引っ張り出されて、それ以降、引き籠ってきた寮の自室を出た。
んで。性懲りも無く、釘崎の「オッパッピー」を見せられた。
……いやお前ら。ソレ未だにノリ気だったのかよ。
釘崎お前。それされて泣いてたじゃないか。
虎杖、お前は懲りてなかったのか。
俺はというと……一周回って、笑ってしまった。
思えば、あの時もそうだった。
違うのはアイツらにそれを直視され、「伏黒が笑った!」などと囃し立てられた事だろうか。
ともかく。――俺が引き篭もりを脱した時には、宿儺との戦いから数日経っていた。
もうとっくに『五条先生どの面下げて帰ってきたんですか会』、もとい戦勝パーティーは終わっていて。見かねた俺は声をかけられた、という経緯だったらしい。
だが――そんなことは些末事になった。
「ごめーん! 恵の父親殺したの、実は僕なんだよね~っ☆」
「……、五条先生。術式を解いて下さい」
「えっ。いやもうばっちこいな件は終わったんだけd――」
領域展延、習得。
その場で初めて、五条先生を殴った。
訂正、殴り飛ばした。
――別に親を殺されて怒ったわけじゃない。
そんなことを、出てくるなり堂々と言ってくる神経が信じられなかったからだ。
と、まぁ、そのような事があって。
五条先生の口から直接、父親については伝えられている――。
―――
――
―
「アイツは本当のとこ、お前を大事に思ってた……なんてことはなく金ヅルと思ってたぞ」
まぁ、そうだろうな。
と、最寄りのカフェに連れ込んで、聞かされた言葉を容易にブラックコーヒーと呑み込む。
俺が、父親と実際に会った覚えは殆ど無い。
というか、むしろ怨んでいた。
とはいえ、知らない事には憎みようもない。
つうか、元から頓着も期待もしてない。
ようやっと、憎き父の背中に輪郭が伴った程度の話。
だけど、
「……でも、名前にはこだわりあったみたいだぞ」
……ふと、思い出す事があった。
『――よかったな』
あの、渋谷での一幕。
とてもあの頃は感傷に浸れる間もなく、
実際、次には知らない男の死体が転がっていたので、
見間違いとさえ思っていたが。
確かに、俺は――アイツから、名前を聞かれた。
「そうか。……なら、よかったよ」
――やっと、実感を得られた気がした。
――やっぱり、アイツはちゃんと死んだんだな、と。
「次。もうひとつ質問だ――ここで捕まるのと強制雇用、どっちがいい?」
「……悪いな、俺はもう足洗ってんだ。俺から絞っても何も出ねぇぞ」
「やっぱりか。道理で最近の資料に名前なかったわけだ。もういい、失せろ」
「うっわ捕捉されてたのかよ、怖ぇ〜……お勤めご苦労様くらい言ってくんない?」
こっちだってヒマじゃない。
用が済んだので男を解放した。
そそくさとトンヅラしようとする世渡り上手は、
しれっと二人分の料金をテーブルに置き去り、
見送る俺を、振り向いて言った。
「……恵。友達いるか?」
「――あぁ、たくさんいる」
「そっか。そのうち、紹介してくれよ」
そして今度こそ、行ってしまう。
首を傾げ、携帯を開いてみると、
「連絡先教えてないじゃ……あれ。いつの間に?」
いつの間にやら、ヤツの連絡先が加わっていたのであった――。
次回で正真正銘、最後の投稿になります。