【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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エピローグ③「北へ」

 

「――呪術師の成長曲線は一定じゃない。ってヤツ。アレいまだにわからないんだよね」

 

 

 

 そう。とある墓前にて、一人。

 独り言を溢す中年(には見えない)男性がいた。

 

 

 

「相手や味方との相性、呪力量。パラメータの変動はそりゃコンディションによりけりだけど――――明らか理由がないと説明がつかない、極端なレベルアップがなぜ起こるのか」

 

 

 

 13年越しの大仕事がひとつ片づいた彼は、いつぶりか。

 思い出したように、ここへと出向き、手を合わせていた。

 

 

 

「……今なら思うんだ、傑。意外と、呪術師としてより前に、人として当たり前なモノを大事にできれば、うまくいくのかもなって」

 

 

 

 なにしろ、年齢イコール呪術師歴なもんで。

 と彼――五条悟は破顔し、

 バカらしくなってあぐらをかいた。

 

 

 

「――――まっ、んな生き方、俺にはわっかんねーけど」

 

 

 

 ……いや本当。

 やってみたけど、やはり意味がわからない。

 

 

 

 コイツは死んだ。そんなことはあの日に、この手で下した、とっくに終わり切ったことだった。

 

 今更、肉体に魂がないのもわかりきっていたし。

 

 

 

 そいつをわざわざ――。

 

 化粧して棺桶に入れて、明らかな造花でその場を囲んで、少なくとも呪術的には無意味なお経を聞きながら、なんの灰かもわからないものを摘まんで取る反復動作をして、こんな墓用意して、燃えかすを埋めて。

 

 祀る花の値打ちなんて、金をドブに捨ててるようなものだと、ぶっちゃけ思う。

 

 費用で式の豪華さが変わるという現世の世俗さも何とも馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

「でもさ、ちょっとビックリしたよ……禍福のやつ、俺とまんま同じ事を言ったんだぜ?」

 

 

 

 けれど――だからと言って、蔑ろではいけないと、なんでか思いながら。

 

 

 

 つつましくはあれど、安くない式を7年前に経て、

 有り余るポケットマネーで華を添えた、今。

 

 2025年の、今なら――。

 

 

 

「……やっぱりさ、若人には期待していたいよね。――きっといつか、俺には見えないものを教えてくれるって思うんだ。だから……」

 

 

 

 だから。どうか、待っていてくれ。

 

 お前の言ってた事、言いたかった事。

 もうちょっとかかったら、呑み込める気がするから。

 

 いつか、ちゃんと謝るから。

 

 

 

「もう少しだけ、このままやらせてくれ。傑」

 

 

 

 その時は、お前を呪術師仲間としか思えなかった俺を、ブン殴ってくれ。

 その後に、握手してもいいって思える自分になれるように俺、生きるから。

 

 

 

 ――雲の上を仰ぐ。

 瓶には青々と紫陽花が咲いていた。

 

 

 

 

――

――――

 

 

 

「――最期に、ひとつだけ聞かせてくれないか? ――呪われっぱなしで悔しくないのかい、悟」

 

「……」

 

 

 

 いつまでいいようにされてんだ、と。

 

 その、空港で。

 久々に会った親友に、そう言われて――俺は。つい、言葉を失った。

 

 

 

『――君は、最強でなければ、自分であることをやめるのか』

 

 

 

 コイツは。夏油傑は。

 俺に、呪いを廻して、死んでいった。

 

 

 

『でも――ひとりは、寂しいよ』

 

 

 

 俺は。せめて呪いを吐かず、見届けた。

 それが――せめての、責任だと思ったから。

 

 

 

 この本心を、生徒への教訓に変えて。

 多くの花に水を焚べてきた。

 後ろを向きながら、形だけでも未来へ進んだ。

 今日この日まで、お前のいない世界を生きて――。

 

 

 

 そして、負けた。

 

 

 

「……悔しく、――ないわけが! ないだろッ!」

 

 

 

 一緒に座ろうとした席へ、蹴りが入る。

 

 

 

 席の裏、後輩達の目の色が変わる。

 天内の目に困惑の色が浮かぶ。

 

 傑は、逃さんとばかりに見てきている――というのに。

 

 

 

 その前で、みっともなく。

 泣き方も分からないガキみたいだ、なんで客観視さえ成り立たなかった。

 

 

 

「俺がいない間も生徒達は頑張ってた、レベルも上がってた! 命を張ってた! みんなのお陰で、獄門疆からやっと出られたんだ。きっと俺がいなくても皆んな大丈夫で――これから、もっと良くなる気がしたんだ。これから。もっと――見ていたかったに、決まってんだろッ!!!」

 

 

 

 年甲斐もなく唾を吐く。

 若い姿であっても、到底生徒には見せられない面に違いない。

 

 

 

 そもそも――五条悟は。呪力に乗った『負の感情』なんて知らない。呪いを汚いとも思わない。

 

 呪いの味なんて、知らない。

 だってそれは、産まれた時から見えていた一物質に過ぎず――故に。

 

 

 

『――じゃあな最強。俺がいない時代に産まれただけの――凡夫』

 

 

 

 初めてだった。

 こんなに、認めたくないと思うのが。

 

 

 

 呪術師として産まれ、呪術師として死ぬ。これまで、疑いなどなかった。

 

 常に勝ち残り、誰よりも多く負債を見た眼で。

 最後に、その矜持さえ切り刻まれる時を見た。

 

 今更、変わりようのない過去だ。

 だが、『変われ』と願わずにはいられない。

 

 

 

 まさしく死んでも死に切れない。

 呪術師である以前に承知できない。

 とても悟った風ではいられない。

 まるで負の感情が、制御できない。

 

 

 

 俺は、どうして今まで、他人からこんなのばっかを回されてヘラヘラしていられた――!

 

 

 

「……負けたくねぇよ……俺は。だって、俺――っ!」

 

 

 

 ――ぽん。

 と、肩に手が乗った。

 

 

 

「――なんだよ。悟でも、泣けるんじゃないか」

 

「……、傑」

 

 

 

 顔が、上がる。

 

 眩しい程に。滲む程に、

 幾度と夢見た過去は眼前で輝いていた。

 

 悔いと絆の『青』が、広がっていた。

 

 

 

 それなのに――自分でも、驚く。

 

 

 

 あれほど荒んでいた感情が、定まった。

 ここではない、向かうべき方へと。

 

 

 

「じゃあ、行ってこいよ」

 

 

 

 こっちの方が、ずっと楽しいと知っている。

 これを背にした先は、一生――生き地獄に違いない事も、わかっている――けれど。

 

 

 

「――君は、背中を押して欲しかったんだろ」

 

 

 

 これから、生きていけると。

 そう、思わせてくれたから――。

 





今度こそ、これで終了です。

呪術師でなく、人としての感情で宿儺を倒し、
北に行った五条悟の物語は、これにて完結となります。

(強いて続きがあるとすれば、プロローグに繋がってるぐらいでしょうか)

ともかく、すべて出しきれました。
長らくのご愛読、誠にありがとうございました。



こちら、オマケの動画です。
素人編集で恐縮ですが、お納め下さい。

今はただ、君に感謝を。
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