【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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あの戦いから半年。
呪縛を脱した安曇野禍福と婪佳久。
だが、彼等を取り巻く数奇な運命は、再び廻動(めいどう)を始めていた――。



エピローグ❹「再游廻逅」

 

 ――2025年10月31日・ハロウィン。

 

 横浜、カフェテラスの一角にて。

 思い出したように、少年は言った。

 

 

 

「なぁ。『喇誑(ラテブラ)』って、あれから変われたって思うか?」

 

 

 

 ……限定フレーバーのストローから口を離し、

 

 彼を覗き込むのは、不健康なまでに白い顔。

 

 より具体的には――。

 韓国系御用達のネクタイシャツに。

 色素の抜け落ちた、服よりも白い短髪の。

 

 

 

「……さっきのゾンビ映画、そこまでつまんなかった?」

 

「ボケんな。真面目に言ってんだぞ俺は」

 

「え〜なんだよ今更。祓ったんだからお終いでしょ」

 

「次があったらって話だよ」

 

 

 

 ――絵に描いたような、軽薄。

 あのアホ目隠しがチラつくのだけが玉に瑕の、中性的な――真白の少女。

 

 婪佳久の戯言に、だが頑として、安曇野禍福は真顔であった。

 

 

 

 ……実際は、女子への対応の正解を分かりあぐねている態度であるのだが、さておき。

 

 

 

「一応は仏教ベースだろ、呪術って。『呪いの呪霊』になりかけたってんなら、輪廻転生だって起きうるんじゃないか?」

 

「なぁにマジメに言ってんだか、一級術師サマは余裕でいいですね〜」

 

「……またそれか。何枚撮んだよ、お前」

 

 

 

 頬杖をついたまま、流れるように少女は自撮りの体制へと移る。

 

 禍福は困った。実のところ、彼はそれが苦手だ。

 

 そもそも笑うのが苦手だし、童顔(コンプレックス)を直視せねばならないし――まあそこは、より視線を尖らせて誤魔化すとして。

 

 後ろに迷惑がかかるのでは、なんて思って一度、背後に目をやって。

 

 

 

 ――見てしまった。

 

 

 

「そうっ! ワタシには、次があったのです!!」

 

「……、はい?」

 

「んん? なに、が――」

 

 

 

 つられて、婪佳久も振り返り、固まる。

 

 

 

 映ってはいけないモノが。

 大手を振って。

 

 彼らの背後に立っていたのだ。

 

 

 

「「……、は?」」

 

「わ~。ツギハギ顔と同じ反応しないでくれる? 新鮮味ないなァ」

 

 

 

 そう、左右に頭をふらふらと揺らすモノ。

 一見して、それは婪佳久の『影』であった。

 

 絵に描いたような、軽薄ぶりも。

 身長、体格共に比べて完全一致。

 

 だが――その髪は、異様に長く、山姥が如き荒れ様で。顔には、取ってつけたような、笑顔の仮面が微笑んでおり。

 

 全身は真っ白(アルビノ)でなく真っ黒(メラニズム)、そのうえ――。

 

 

 

 (わたし)たちは。

 こいつの、気配を知っている――!

 

 

 

「へい、そこのワタシの初めて奪ったオトコ。花火大会行くんだよね。行こっ、二人で

 

「――?? !? !??!?」

 

 

 

 知っているだけに意味不明すぎて。

 無理解の塊に、親し気に抱きつかれた刹那。

 

 安曇野禍福は、完全にフリーズしていた。

 

 

 

「……って、ちょ近っ、触るな抱きつくな! もう一人のわたし!」

 

「へいマミィ。君はいーでしょ、前行ったんだから。次はワタシの番ってわけよ!」

 

「なにがマミーじゃ……、って、……ぇ?」

 

 

 

 嫉妬によって自我を取り戻した婪佳久も、

 真っ白い顔がさらに一段階白くなる(物理)。

 

 

 

 ――処理限界を越え、オーバーフローする二人の思考。

 ――山と積み上がる無理解が無理解を産み、脳裏に広がる宇宙、混乱の果て。

 

 

 

 限界に至った人間の行動は、皆同じ。

 

 すなわち――逃げるは恥だが、役に立つ!!

 

 

 

「わお、ダイタン

 

 

 

 呪いの戯言なぞ聞く余裕などなく。

 食い逃げは犯罪という常識さえも棚に上げ。

 

 迷わず禍福は――『最速』の術師は、婪佳久を抱き上げ、癖っ毛を逆立てながら、その場から走り出していた!!

 

 

 

「――はは、ははははは、は! そうか婪佳久、おまえっ、妹いたんだな!!?」

 

「禍福っ、現実逃避(そーゆーの)いーから! とにかく遠く行って遠くっ!!」

 

 

 

 普段なら実現しない程のスキンシップ。

 だがその実は、脇目も知らぬ猛ダッシュ!

 

 これ以上なく少年の目は泳ぎ、少女はスマホ画面の二度見三度見を繰り返す!

 

 

 

「とっとととりあえず五条先生だ! 特級超過案件である以上っ、呼ぶしかないよな!」

 

「えっ、とゴジョセンどこいんだっけ、南極!?」

 

「お前も相当だなぁオイ!?」

 

 

 

 もはや、道を選んでいられるほどの余裕さえもなかった。

 

 バイクを置き去り、車を追い抜き、しまいには電車を追い抜いて。

 

 半ば帰巣本能だけで、その足は母校に向かう始末!

 

 

 

「って、ゴジョセン海外旅行中じゃん!? わたし仕事用携帯しか電話番号知らな――」

 

「いやなんでだよ、何年一緒にいんだよ!」

 

「だってプライベートでのお付き合いはちょっと」

 

「いーからかけろとりあえず!!」

 

「うわぁぁあアイツ追ってきてんだけどぉ!!?」

 

 

 

 ――かくして。横浜を中心に、『ターボババアを見た』というSNSトレンドが形成されたのであった――。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――特級超過呪霊喇誑(ラテブラ)とは。

 

 2025年4月20日に、日本列島上の呪霊の七割を『捕食』し、すべての呪霊に成り代わらんとしたモノ。

 非術師の呪力を吸収する術式『受愚戴転』を有し――それ故か、『残穢』のままで、今なお存続したイレギュラー。

 

 そして。その存在は当然、呪術総監部の議題となり――。

 

 

 

「へぇ、いいじゃん。生徒にしようよ、その消えかけ呪霊!」

 

 

 

 ――なに言ってんだコイツは。

 ――と、高専術師の全員が怪訝な目になったのは言うまでもあるまい。

 

 だが、結果から言えば、その要望は通ってしまった。なにせ、発案者は――かの、『最強』。

 

 新東京高専教頭・五条悟だったのである。

 

 

 

 かくして――――特級術師4名を集めた多数決は、1対3で可決された。

 

 リモート会議に呼ばれた、彼等の反応は様々であった。

 

 

 

匿名Oさん「うん。僕と里香ちゃんみたいなものと思えば、いけ……るのかな、これ」

 

匿名Iさん「先生、糖分足りてねぇんだな……」

 

匿名Fさん「本当に、アンタ本当にほんっとうに……ッ!」

 

 

 

 呪霊を生徒に迎える、などという前代未聞。先ず間違いなく楽巌寺は許可しないだろう内容なのは明白。

 

 だったが、こればかりは特級術師となった彼の教え子でも止めようがなかった。

 

 

 

「はーっ宿儺倒したのも渋谷事変と新宿決戦の『特級事象呪霊』祓ったのも、禍福覚醒させたのも、『喇誑(ラテブラ)』管理してたのも僕なんだけど?? 誰にもの言ってるのか分かってんのかなキミぃ~??」

 

 

 

 そう。モラハラである。

 これまでの功績を持ち出され、これが通ったのである。

 

 何と素晴らしき多数決。おお民主主義よ、寝ておられるのですか!

 

 後に議事録を渡された、日下部学長の顔色や如何に!?

 

 

 

 ……とはいえ、高専術師一同は、『なにか考えあってのことではあるのだろう』との共通認識があった。

 

 

 

「まぁまぁ。ぶっちゃけ『残穢』なんだから後は消えるだけでしょ? それに、あんなレア個体をタダで祓うなんてとんでもない。『呪いの呪霊』でありながら『天逆鉾』によって存在の根底を覆された、前代未聞のバグ個体。この学習材料を活かさない手はないでしょ――ま。ここはひとつ、僕の生徒を信じてくれ」

 

 

 

 魂まで見通す六眼をもって、彼がそう断言したのだ。

 その見識は測れないが、信用には十分であろう。

 

 ……それはそれとして。正気の沙汰じゃないのも、間違いないのだが……。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 ――2025年11月1日・午前。

 呪術高専新東京校・一年教室。

 

 

 

「ちゅーことでだ、ガキども。喜べ、クラスメイト三人目だ」

 

 

 

 日下部は普段通りに教卓に立ち、その横に。

 

 長袍(チャンパオ)に身を包んだ『喇誑』が、長い袖を振り回しダブルピースを決めていた。

 

 

 

「いぇーい⭐︎ ワタシ専用制服もらッちゃいました! 二人とも、これからよろしくネーっ♪」

 

 

 

 ――全身くまなく、金色の刺繍による『呪印』が施されたガチガチの拘束具。

 ――そして、相変わらずの「ワタシ無害です」とばかりな、取ってつけられた笑顔の仮面に。

 

 安曇野禍福は、思わず叫ぶ。

 

 

 

「こいつが生徒!? 何言ってんすか先生! お前からもなんか言えよ婪佳久!」

 

「あー五条先生が言うならまあいっかな」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 

 

 そして、唯一の仲間にハシゴを外され。

 ぽかんと開いた口は言葉を失った。

 

 ……なんなら婪佳久、机にもたれかかり、興味なさげにスマホを弄っている始末!

 一体なぜ。『喇誑』の存在は彼女にとって唾棄すべきモノのハズ――!?

 

 

 

「いやだって、あんとき怒りはぶつけ終えたし。ほっときゃ消えるんでしょ? 有効活用しとこうよ」

 

「……お前って、ちょくちょく驚くほどにドライだよな」

 

「じゃあ逆に聞くけど。五条先生に異議申し立て通ると思う?」

 

「……、それもそーだな」

 

 

 

 ――諦観。言論封殺による、圧倒的諦観!

 

 よって、もはや『喇誑』を遮るものはなし!

 

 もう煮るなり焼くなり好きにしろ、と渇いた笑みを浮かべる他にない禍福の横隣。

 

 空席に真っ黒なキョンシーはルンルンと座り、そしてシームレスに机を横へ移動させ!

 

 

 

 安曇野禍福の机と机を連結させ!

 一切の躊躇なく、抱き締めにいった!!

 

 

 

(な――ッ!?)

 

 

 

 婪佳久は目を剥き、飛び起きた。

 真白の少女にとって、その光景は青天の霹靂なのだ。

 

 なにせ――席の合体は、婪佳久が授業を集中して受けなくなるため、日下部に禁止された行為であるが故に!

 

 

 

「なんだよー禍福クン。ワタシにあんな素敵なこと言ッといて嬉しくないのー? うりうりー」

 

ね、ぇ、わ!! 俺ら殺そうとしたやつが復活して喜べるかッ! つうか復活って何だよ、あんだけ苦労したのに軽すぎるだろ!」

 

「あっはははー、まァそっか! ったくモー相変わらず真っ直ぐでグサグサした呪力だコト!」

 

 

 

(……。なんでそう、さっきから距離感バグってんのかなぁコイツ)

 

 

 

 全力拒否する禍福の態度なぞ完全無視。

 肩をバンバン叩き、親し気に笑う『喇誑』と。

 

 対抗心を燃やし、バレない程度に、机をジリジリ近づけていく婪佳久。

 

 そんな、オジサンの目には辛いほどの青春の輝きを仰ぎながらも。

 

 ――日下部の報告は、淡々と続く。

 

 

 

「そうだ、その通り。いくら五条家謹製の『対呪霊三重拘束』を仕込んだ制服とはいえ、監視は必要不可欠だ――つーわけで。『喇誑』の監視役には、安曇野禍福を任命する」

 

「は、なんで俺が!?」

 

「もう一級術師なんだ。そのぐらいはやってもらわなきゃ困るってもんよ。今日の任務も全員で行ってこい」

 

「えぇ〜……先生、それはちょっと」

 

 

 

 ここに来て、禍福と婪佳久の利害は一致した。

 ここぞとばかりに禍福は抗議の声を張り上げんとし、

 

 ――だが日下部は「チッチッチ」と芝居っぽく遮る。

 

 

 

「もちろんタダとは言わねえ。婪佳久なんか禍福の任務同行者だからな……お前らには、それぞれ一級術師相当のボーナスが発生する!

 

「よし! ならしょーがないか! しょーがないよね! 監視はいないといけないもんね!」

 

「いや俺だけ普通のボーナス貰うだけじゃないですか! つうか俺の意思は――!」

 

「多数決完了だな。ようしそうと決まれば行ってこいや」

 

 

 

 かくして、買収される唯一の仲間。

 彼の異議申し立てなぞ蹴飛ばされ、

 

 彼ら三人組は――とうとう、外に追い出された。

 

 

 

「んじゃ張り切って行こう! すぐ行こっ! 禍福っ、またタクシーしてくれるよねっ?」

 

「おい忘れてないか、俺の加速『命を賭ける』んだぞ。つうか金に弱すぎるだろオマエ……」

 

 

 

 こんな時にだけ、迷いなくウルウル目を作って婪佳久は媚び入る。

 

 ……普段からそのぐらいの愛想は見せろ、なんて禍福が思ったのは内緒である。

 

 

 

「いよッしゃい! 見ててよね禍福、ワタシの安心安全ぶりを!」

 

「信用の対義語が何言ってやがる。いいか、怪しいことしたら、即『天逆鉾(コレ)』だからな?」

 

「そんなァ折角頑張って蘇ったのにィ……いや禍福ならいっか♪ むしろウェルカムよ、ワタシ!」

 

(……どう扱えってんだよ、コイツ)

 

 

 

 だがまあ、嫌とは言ったが出来ないとは言っちゃいない。

 

 なにせ――彼は『最速』にして『天逆鉾』を有する呪具遣いである。

 

 現に、全盛期のコイツとさえ渡り合ってみせた。

 

 いざってときは、再びコイツを――。

 

 

 

 ――などと、決意を固めていたときだった。

 ――2025年11月1日・14時8分。

 

 彼らの目の前――『喇誑』が、消失したのは。

 

 

 

「「――はい?」」

 

 

 

 監視対象、ロスト。

 あまりに脈略なく、痕跡なく、瞬時に。

 禍福の動体視力をもってしても、そうとしか見えないほど――気づいたら、消えていた。

 

 

 

 

「――何だったんだ、あいつ……」

 

「えっと、禍福。今なんか怪しいことしてた?」

 

「いや、俺じゃな――バカな!? さっきまで持っていたのに! 『天逆鉾』も消えている!?

 

 

 

 ――更なる、混乱。

 

 今しがた、禍福の手にあった特級呪具も、消えていたのだ。

 

 もはや、何もないところを凝視していられる場合ではなかった。

 

 

 

「なんだ、術式効果なら弾かれるハズだ! いったい何が起きたって言うんだ!?」

 

「それだけじゃないよ! 呪力反応が同時多発的に――なんなんだよ、この馬鹿げた数!?」

 

 

 

「――おいガキども、戻れ! 緊急事態だ!!」

 

 

 

 校舎から、血相を変えた日下部が呼びかける。

 禍福は、即座に婪佳久を抱えて教室に舞い戻る。

 

 そして起きた事を伝え、『窓』からの鬼電を聴きながら、彼らは情報を照合し。

 

 

 

 ……最悪でしかない、結論に辿り着いた。

 

 

 

「何者かによって、撤去中の天元結界がハックされた――その上、全日本人が術式と呪力を獲得した!」

 

「「それって――」」

 

「あぁ――『第二次・死滅回游』だ!」

 

 

 

 彼らの頭上、浮かんだ『コガネ』に導かれ。

 

 ――2018年の災害が。

 再び、巡り出したのだと――。

 

 

 

 

―――

――

 

 

 

 

【第二次・死滅回游 -総則-】

 

①非泳者(プレイヤー)は『日本大結界』に侵入した時点で泳者となり、死滅回游に参加したものと見做す。

 

②非術師の泳者には、ランダムで『呪力』と『術式』が付与される。

 

③泳者は他泳者の生命を断つ事で『(ポイント)』を得る。

 

④『点』は管理者(ゲームマスター)によって泳者の生命にかけられた価値を指し、原則として泳者1点、二級以上の呪霊1点、その他は採点外である。

 

⑤泳者は他泳者に任意の『点』を譲渡することができる。

 

⑥泳者は『点』を消費し、呪力を獲得する事ができる。

 

⑦呪力が完全に枯渇した泳者は、その時点で術式を剥奪する。

 

⑧泳者は他泳者の情報(名前、点数、滞留区画(ブロック))を参照できる。

 

⑨泳者は1億点を消費宣言することで、あらゆる願望を実現できる。

また、その後の『願望器(オブザーバー)』出現をもって、『永続』は終了と見做す。

 

⑩この他の方法によって死滅回游の『永続』を妨げる行為は例外なく認められない。

 

⑪五条悟が『日本大結界』に侵入した場合、泳者の術式全てを剥奪する。

 





ぎりっぎり映画の日に間に合っだぁ……(満身創痍)

大変お待たせしました。いよいよ第二部、本格始動です。
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