【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
第2部 1話『夏油勲が往く! 第二次・死滅回游!!』
――五条悟に、負けた。
ただそれだけで、全ての意味は失われた。
『負けた場合は?』
万に問われ、『全て』と俺は即答した。
その言葉に偽りはない。
その他の生き方など知った事ではなかった。
――いざ本当に負けて初めて、負けた場合を考えていなかったのだと自覚した。
無敗、最強。天上天下唯我独尊。
それ故の、両面宿儺。
それ故の、呪いの王。
――最強でなくなった俺など、死体も同然。
――それ以外の何だというのか。
少なくとも、五条悟は、その答えを齎すものでなかった。
(だというのに……まだ、次があるというのか)
どうやら何者か、最後の『指』を宿したらしい。
強制的に魂が浮上する。
明瞭となっていく意識に、期待などない。
これから、どうしろというのだ。
これまでの、全てが否定されたというのに――。
ー
――
――――
――2025年11月15日・朝
滞留
――――両面宿儺、7年越しの受肉。
彼は目を開き、そして見て、思った。
――なんだこれは、と。
「食えーっ! 食えなきゃ死んじゃうんだぞーっ!!」
「ぐえええゲロ雑巾の味がずるぶばばばばば――」
その少年の所業は、端的に言って拷問であった。
タンコブまみれで倒れた相手の口を強制的に開かせ、真上から呪霊を潰して、体液を飲ませる。
これを拷問と言わずしてなんと言う。
それに、よりにもよって、食の拷問とは――。
「おい坊主、何をしている」
「え、誰? 誰か知らないが、見てわかんないのか?」
わかってたまるか。
と、さしもの宿儺も怪訝のあまり口が出る。
文字通り、少年の口を勝手に動かす形で。
しかし、コイツ――受肉直後であるだというのに。
「なに? しゃあないな、なら1から説明するけど――」
まるで苦しむ様子がない。
少年の応対は、極めてニュートラルであった。
「このチンピラ、悪いヤツなんだよ。中2だからって舐め腐ったふうに、オレを襲いに来やがってな」
「見ればわかる」
「で、オレがボコして勝った。命乞いされたんで『
「……『点』?」
「だから呪霊を食わせてやった。ご要望通りの人命救助っつーわけだッ!」
「貴様、説明が不得手とよく言われるだろう」
そう。極めてニュートラルに狂っていた。
主に、味覚が。
今しがた呪霊を口に入れたというのに、その顔に苦痛は見られない。
ちなみに宿儺としては、呪霊の肉などつまらん味でしかない。ただただウザったいに尽きる。
「なにを〜。突然生えた口のくせして偉そうなこと言うんじゃないよ、オマエ」
「……そもそも、その時点で驚け。なぜ受け入れている」
「いやぁ、異物混入なんて珍しくもないだろ。ただでさえ、ヘンなのばっか食ってんだから」
――けれど、体を奪えない。
現に、この体の挙動に抵抗さえできない。
今も、コイツは減らず口を叩き、学ランの汚れを余裕綽々と手で払っている。
小僧以上の『檻』――否。俺が、それだけ弱体化しているのだろう。
よもや、全く手が出せないとは――少しばかり惜しい。
なにせ、こいつの術式は。
「まぁ――食った呪霊が喋り出したのは、流石に初だけど」
――そう、まさかだ。
まさか、『呪霊操術』を有するとは。
「戯け、俺を呪霊なんぞと一緒にするな」
「違うって、まさか――いや、よしてくれ。オレはそういうの卒業してるんだぞ、『もう一人のオレ』ッ!」
「俺は宿儺、呪いの王――だったものだ」
勝手に自家中毒を起こす騒がしい少年。
その頬に突き出た小さな口は、ウンザリと自己紹介を終える。
そう。『宿儺の指』は僅かひとつ。
全20本中19本が失われた、過去最強の残滓。それが今の俺――。
ヤケクソ半分の自嘲を経て、
「いちおう聞いてやる――貴様。名を名乗れ」
――少年の体から、呪印が薄まっていく。
不承ながら、その身に収まることを甘んじた。
「
「では坊主、何をするつもりだ」
「なんだ。呼び方変わんないじゃんか」
ヘンな前髪。塩顔ながら屈託のない笑み。
そんな少年は、一転し――ただただ、真顔になって吐き捨てた。
そう、彼の名は。
「――――殺すんだよ。この儀式を起こした、