【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 2話『灰原結 -怒れる女-』

 

 ――私の笑顔が褒められるのは、兄さんを見て育ったから。

 ――私の泣く演技が評価されたのは、兄を忘れられないからだろう。

 

 

 

「――(ゆい)、言ったじゃないか。呪術高専に来ちゃいけないんだって」

 

「なんで? 私、兄さんといっしょがいい!」

 

 

 

 制服の兄さんは、普段よりカッチリして格好いい。

 奥の教室、何人かの視線を遠巻きに感じる。

 

 けど、幼き日の私に遠慮などなかった。

 

 

 

「また今日も『いた』んだもん。お母さんもお父さんも見えないし、なにもしてくれないんだもん!」

 

「そっか……わかった。じゃあ一緒に帰ろう。まだ昼休憩だから退治に行ける。それで解決だ!」

 

「ちがう、違う! 一緒がいいんだってば!」

 

「……そうだよなぁ。ははっ。結は、そうでないとだよな」

 

 

 

 兄さんは、困ったように笑っていた。

 

 私は、頬を膨らませて地団駄を踏み、思いつく限りの不満を表明しつつも。

 

 彼が――灰原雄が、譲らないだろう事を知っていた。

 

 

 

『呪術高専に来てはいけない』

 

 

 

 私にも、オバケが見えると分かった時、

 彼は真顔で、私に言い聞かせたのだ。

 

 

 

 ――呪術師というのは嫌いだ。

 

 だって兄を独り占めする。

 兄と私の間に秘密を作る。

 

 兄が、私の知らない、呪術師としての顔を持つという事実。

 人と他人との境界を知りはじめた当時5歳の私にとって、それが我慢ならなかったのだ。

 

 

 

 ――けど、決して、ただの我儘でグズっていたわけじゃない。

 

 

 

「……兄さん。今日も、ちゃんと帰ってくるよね?」

 

「勿論だよ。結が良い子でいればね。できる?」

 

「……うん」

 

 

 

 兄さんが、私が起きている時間に帰る日は減っていた。

 

 それが、たまらなく怖かった。

 

 いつか、預かり知らぬ何処かで、預かり知れぬ原因で、離れ離れになってしまうのではないか。

 

 その大きな手を、離す事が怖かった。

 

 

 

 ――そして。その直感が的外れで無かったと知ったのは、すぐの事だった。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 産土神(うぶすながみ)信仰――。

 

 ――その集落では、土着信仰が根付いていた。

 ――そして、その信仰に酷似したモノが出現し、村民は歓喜した。

 

 だが、所詮それは呪霊(オバケ)でしかなく――。

 

 

 

「――危ない!」

 

 

 

 最初の犠牲者が、兄だった。

 

 彼は、無知な人間を庇って手傷を負い、それでようやく村民は、自身の育て上げたモノの正体を知った。

 

 血に染まった兄を狼狽して見て、迷わず置き去って、逃げ出した。

 

 自分で撒いた種の始末を、呪術師に任せて――。

 

 

 

「七海――、『――」

 

 

 

 ――最後の言葉だけは、聞き取れなかったけど。

 

 ――――――私だけが。

 ――――灰原雄の最期を、

 

 その遺灰の『残穢』から読み取ってしまった。

 

 

 

「なによ、そんなの――なんだよ、それッ!!!」

 

 

 

 母も父も、私も泣き喚いていた。

 

 父は、遺灰を持ってきた金髪の青年に、なぜ死んだのか、せめて遺体の段階で持ってこれなかったのかを玄関先で怒鳴りつけ、問い質していた。

 

 

 

 私だけは、その理由がわかった。

 彼ら呪術師は、こうやって情報を抜かれないために死体を処置するしかなかったのだ。

 

 そう、分かった上で。

 死念なんてものを受け取れる容量があるわけでもなく。

 

 私は、ひたすらに泣いて発散するしかなかった。

 

 

 

「なんで――なんでなの、どうして!」

 

 

 

 無意味とわかっていながら、叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

 どうしてだ。

 

 どうして、これを知って兄は呪術師になった。

 どうして、私を突き放して、自分が死ぬのを選んだ。

 

 どうして――呪術師は、見えない者のために死なねばならない!

 

 

 

 そんなの、ただただ見える人が損なだけじゃないか!!

 

 

 

「兄さんを返してよ! 呪術師なんかじゃなくていいから、人間の兄さんを返せよ、馬鹿野郎!!」

 

 

 

 ――私だけが見たものを、両親に伝えられるわけがない。

 ――金髪の彼もまた、決して口を割ってはならない。

 

 

 

 だって、呪い(これ)は。

 きっと、人が人として死ぬために持ってはならないモノなのだ。

 

 人の醜悪になど晒される事なく、

 知らぬ存ぜぬと、関わらずに死ねる方が幸せなのだ。

 

 

 

 それが、呪術だというなら。

 私はそんなもの、いらない――!

 

 

 

―――

――

 

 

 

 私は子役を続け、俳優になった。

 

 元から感情を出すのは得意だったし。

 あの時のショックは、怒りは、どんな演技に乗せても吐き出し切れないものだった。

 

 何か視点の違う不思議な人も、

 ありきたりな明るく優しい人にもなってみせた。

 

 

 

 努めて、人の日常を演じてきたつもりだ。

 

 

 

 ――2018年、死滅回游には参加せずに済んだ。

 偶然、一人暮らしでいたのが幸いしたのだ。

 両親もまた巻き込まれる事なく、その年の騒乱とも無縁で生きられた。

 

 けど――今度ばかりは、そうもいかなかった。

 

 

 

「――なに、これ」

 

 

 

 ――2025年11月1日。

 突如、脳内に溢れ出す情報が、そう告げた。

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

【第二次・死滅回游 -総則-】

 

①非泳者(プレイヤー)は『日本大結界』に侵入した時点で泳者となり、死滅回游に参加したものと見做す。

 

②非術師の泳者には、ランダムで『呪力』と『術式』が付与される。

 

③泳者は他泳者の生命を断つ事で『(ポイント)』を得る。

 

④『点』は管理者(ゲームマスター)によって泳者の生命にかけられた価値を指し、原則として泳者1点、二級以上の呪霊1点、その他は採点外である。

 

⑤泳者は他泳者に任意の『点』を譲渡することができる。

 

⑥泳者は『点』を消費し、呪力を獲得する事ができる。

 

⑦呪力が完全に枯渇した泳者は、その時点で術式を剥奪する。

 

⑧泳者は他泳者の情報(名前、点数、滞留区画(ブロック))を参照できる。

 

⑨泳者は1億点を消費宣言することで、あらゆる願望を実現できる。

また、その後の『願望器(オブザーバー)』出現をもって、『永続』は終了と見做す。

 

⑩この他の方法によって死滅回游の『永続』を妨げる行為は例外なく認められない。

 

⑪五条悟が『日本大結界』に侵入した場合、泳者の術式全てを剥奪する。

 

 

 

 

 

 ……前回の死滅回游との差異をまとめよう。

 

 ・『ルール追加』は撤廃された

 ・呪力切れを起こすと死亡する

 ・『点』を呪力に変換可能

 

 

 

 そして何より、最大の差異は――単なる、殺し合いではないこと。

 

 

 

 ――日本領土全てがひとつの結界に覆われ、

 ――日本国民全員が泳者となり、

 

 ――――『願望』を叶えるがために戦う、という点だった。

 

 

 

――

――――

 

 

 

 ――――日常は、簡単に壊れた。

 

 

 

 最初の一週間は大丈夫だった。

 

 なぜかスマホは軒並み圏外になったけど、謎のルールが全員に付与されて、謎のオーラが皆んなに生じていたけど――まだ大丈夫だった。

 

 

 

 みんなが凶器を持った手を隠して、

 日常を演じられていた。

 

 一般人の演技力も侮れるものではないな、

 なんて緊張感に欠けたことさえ思って過ごせた。

 

 

 

 ――けど、身内の人間が。

 ――呪力切れを起こして死に始めると、取り繕えなくなった。

 

 

 

 つい先日まで一般人だった人間に、呪力を扱うなんてできない。

 

 ひたすらに呪力は駄々洩れになってしまう。

 当然、呪力の捻出もできない。

 

 呪力切れを起こせば死ぬ。間違いなく。

 

 みんなはルールにある救済措置、『点を呪力に変換できる』事から――他人を殺して、点を得るしかなくなった。

 

 

 

 ――そして。

 私の手は、今、血に塗れていた。

 

 

 

「……、なんで」

 

 

 

 見ればわかる。

 相手は死んだ。

 殺されそうになったから殺した。

 私の方が強く、弱い方が死んだ。

 

 予定調和の因果が、横たえていた。

 

 

 

「どうして――逃げられないの」

 

 

 

 けど――どうして、自分がそれに巻き込まれているのか。

 

 私は――言いつけを守っていたのに。

 

 兄さんは、人を守ろうとして死んだのに。

 

 

 

「見たくもないのに! 知りたくもなかったのに! どうして、そう焚き付けるんだよ呪術(これ)は!」

 

 

 

 それでも、世界は変わっていなかった。

 それでも、悲劇は繰り返された。

 

 そして――遂に、私までもが。

 

 

 

 ――――すごく、頭にきた。

 

 

 

「――ふざけんじゃねぇよ。人が! どれだけ元から持ってた術式(ちから)を! 呪力(こころ)を! 隠して抑えて、演じてこれたと思ってるんだ!!」

 

 

 

 そう。頭にきて玄関を飛び出した。

 頭も髪も真っ赤だった。

 

 ――呪力が増すほどに伸びる呪物の髪。

 ――それも、自我があり、勝手に私を守護し、外敵排除に動く変幻自在の(きば)

 

 この死滅回游開始から抑えてきたソレを、結い付けた凶器らの拘束を、バカらしくなって解き放っていた。

 

 

 

「殺すしかできないモノを、日常に持ち出すんじゃねぇよ! 私の安息を、兄を! 誰も取り戻せなかったくせに! 誰も責任を取れないクセに!」

 

 

 

 ――もう、憎むのをやめられない。

 

 

 

 崇拝も期待も、ちっとも気持ちよくなかった。

 でも俳優が『できた』。人気のせいで、両親を安心づけるためにも、子役を辞められなかった。

 

 そうして胸の奥にふつふつと溜まったものを『演技』として出してきた。

 それを喜んで受け取り、拍手する者らなんて反吐がでる。

 

 

 

 私の本音(いかり)など、この世に受け入れ(ぶつけ)られる余地なんて無かったのだ。

 

 

 

 でも、今は――この、怨嗟だけは。

 

 

 

「――あは、はは――なんてッ、自由な世界!!」

 

 

 

 ――血を浴び、高揚する鬼が一人。

 ――真っ赤に染まった長髪で人に牙を立て、ひたすらに笑う。

 

 暴力という直接的手段(あじ)を覚えてしまった。

 

 どんなに演技を重ねても取り戻せなかった、子供のような笑顔が、ここに。

 

 これが、本当の私。

 

 

 

 死滅回游・泳者(プレイヤー)――灰原結である。




二部は二日おきで投稿していきます。
次回は18(火曜)になります

あとすいません、ややこしい書き方になってました!
灰原が術式を有したタイミングは第二次死滅回游の開始からです。コレ生得術式じゃないんで、ご注意ください…!
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