【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
手持ち呪霊、9割喪失。絶体絶命。
さぁどうする、夏油勲!?
――漆黒を身に纏った女は。
――ただ、嫣然と、そこに佇んでいた。
「……ま、マジですか」
手持ちの呪霊、九割を総動員した大攻勢。
考えうる限り最大の肉薄を経て。
夏油
何ひとつして、彼女の手傷にならなかったという結果を前に!
「へぇ。技量は足りてないけど、頭は足りてたってわけだ。困ったなぁ。――その方が厄介じゃんね」
壊れたステージのうえ、変わらずに立つ灰原
彼女は、うざったい風をやり過ごしたような顔色で――何をするまでもなく、正面から『うずまき』を耐え切っていた。
――出した呪霊は全て、祓われた。
――綱引き勝負でさえ、彼女の完勝だった。
そして、彼女は――壊れたステージを降り。
少年と同じく、地に足を下ろす。
「こんな長引いたのは初めてだ。――『
そのくせ、まだ本気じゃなかったと言うのだ。
――少年は、思った。
(素晴らしい……! 人間、こうも強くなれるものなのか!!)
夏油勲は、高揚していた。
感涙さえ浮かべていた。
――そう、これこそを求めていたのだ。
こんな世界があったんだ。
こんなにも、強くなれるんだ――なんて、面白い!!
……それはそれとして、
(――これを何とかする方法、何とか――宿儺ぁ! 何かないかっ!?)
スローモーションになる世界。
目の前にゆっくり迫る死の黒糸。
これに見惚れていては終わってしまう!
打開案を持たない頭で、迷いなく教えを乞うた。
――呪霊の手持ちはほぼ皆無!
――俺自身の呪力も限界が近い。『点』を呪力に変換して対抗――それだけで埋め合わせできる実力差か?
『……貴様。仮にも、その術式を持って半月であろう。思いつかないならば、ここで死ね』
(なんだって!? 頑張りゃ何とかなるのか、この場面!?)
――なんとかなる、らしい!
そう呆れ声でもって保証され、少年は目を剥いた。
(うおおお! なんかそう聞くと本当に何とかなる気がしてきたぁ!)
――ならば上等。俄然、抗う気になった!
――あとは手段だ、どうすればいい!?
これまでの情報を洗い直せ。
目の前の敵の事だけじゃない。
この術式に向き合った二週間を!
己が秘めたる力を引き出せ!
思いつけオレ、思いつ――!
「わかったァッ! こ〜ゆーことだぁああ!」
「コイツ、今度は何を――!?」
誰がどう見ても絶対絶命の崖っぷち。
だというのに、勝利を確信した声は堂々と轟く。
――本来、その術式運用には何らメリットがない。
――だが、この場面、この条件においては話が変わる!
夏油勲は輝く笑顔でもって、大手を広げ、その頭上にて仕掛けを披露する。それ即ち――!
「これだ――呪霊、合体だあああ!!」
そう! 低級呪霊同士の、合体を――!
―
――
―――
残った手持ち個体のほぼ全て。
30体を素材とした、15体の合体呪霊。
それらは――産まれた時から、破綻していた。
(呪力量だけはデカい、けど。それだけね。無理矢理くっつけられて苦しんでるし……)
――無意味な苦し紛れ。
――灰原結はそのように見做していた。
彼らの頭上、風船のように浮遊するそれらは――産まれながらに戦闘不能。攻撃能力はおろか生存能力がない。
整合性を無視してくっつけられ、壊れている。
瀕死のため呪力は莫大に見えるが、あくまでも蝋燭の最後の火に過ぎない。
下等で、不出来な、浅ましさここに極まれりの下策――。
――――全て、問題なし。
「さぁ、トドメを――!」
呪力全開。灰原結は攻撃に全力を投じる。
髪は勢いそのまま、少年を串刺しにせんとして――。
――髪が。すべて真上に向かった!
――夏油勲でなく、合体呪霊へと!
「――『
「――コガネ、47点ぶん、呪力ブースト!」
「あいよ――っ!」
それが、少年の狙いだった。
夏油勲は迷わず一直線。
剥き出しになった灰原結へと駆け寄る。
そう! これが、唯一の攻略法!
「即ち! ――フィジカルによるゴリ押しじゃぁあああ!!」
「ぐっ、あ――ァああッ!!?」
そう、シンプルに拳!
ただただ、呪力を纏っただけの拳!
男女平等パンチによる鉄拳制裁!!
「おっ、まえ――があっ!?」
「予想的中だぜ。髪にお任せしすぎてよぉ――ケンカの経験値が足りてないんじゃあないか!?」
驚くほどに一方的なタコ殴り。
しかしそれは必然であった。
この術式の仕様が――呪力の大きさに反応するフルオートであると、灰原結は知らなかったのだ。
(さっき大型呪霊を出した途端、ザコへの攻撃は一切なくなっていた――この術式は、より大きな呪力に反応する。死に際の呪力とは、この場で最も大きなモノ!)
――さっきの瞬間、夏油勲だけはそれに気づけた。
呪霊の喪失反応による濃霧。観測不能の只中であろうと、彼は『呪霊操術』で、どれだけの手駒が死んで、どれだけ残ったかを把握できる。
(何故!? あり得ない! 私の『
――では、なぜ今日まで彼女は気づけなかった?
――そもそも『外付けの術式』だからだ。
生得術式であれば4~6歳の時点で、術式の概要をおよそ自覚できるが、外付けではそういかない。マニュアルもない以上、彼女は術式を手探りで知っていくしかなかった。
あとは、すべて彼女自身が言っていた。
――これほどに時間が掛かった事は無い。
――襲ってくる奴は皆んな殺したハズ。
――演奏を最後まで聴かれた事は無い。
――――つまりだ!
「機会がなかった! アンタはこれまで、ピアノ演奏で無防備を装い、襲われた瞬間に術式を解放! 初見殺しの短期決戦で勝ってきた! そら初めてだろうさ――こういう泥臭いのはよぉ!!」
とはいえ――術式のマニュアル操作に切り替われば、その時点で負ける。それこそ『点』を呪力に変えられれば必敗!
「んぐ、が――ぁ、ああクソダラあああ!」
「でもなぁ、こちとら、ケンカなら負け無しなんだよッ!!」
故に間髪なく、腹や顔面に容赦なく
足を払いのけ、打撃を重ね、呪力強化された身体のHPを確かに削っていく。
一見して絶対的優位。だが夏油勲に後はない。
――今こうしている間にも、頭上の
これが最後の逆転要素。
タイムリミットは間近!
故に――いっさいの躊躇なく、機械的に、冷徹に。少年の拳は命を削りにかかる!
「どうだ、殺されるってのは痛いんだぞ、苦しいんだぞ! それでもまだ、弱肉強食なんて言えるのかよ!」
「――んなこと、最初から知ってんだよ! この世界は力がすべてだ!!」
殴り合いでなく、一方的な殴り。
その撲殺過程においてなお、女は叫んでいた。
それこそ、彼女の言ったように、剥き出しの感情を。己が本性を。
「兄さんも、誰もが、いつかは喰われるんだ! お前も、私も――――!!」
――そんな。
――噛み殺してきた、悲鳴に似た声さえも。
だが無情にも、少年の拳は、容赦なく黙らせにかかり――!
「――やめだ」
「――、は?」
『……む?』
――少年の、拳は、止まっていた。
否、それどころか。
その場の呪霊すべてが、自ら命を放棄し、消え去っていた。
彼の胸中、両面宿儺でさえ意図を図りかね、困惑を漏らす。
さっきまでの威勢が、嘘のように拳を下ろし、
――少年は、ただ静かに立って、女を見据えていた。
「……なんのつもりだよ」
「最初に言ったろ。アンタとは戦いに来たんじゃない。……改めて、戦うべき相手じゃないって分かった」
「んなこと、言ってる場合じゃねーだろが!」
もはや邪魔立ては一切無し。
振るわれた灰原結の
巨大呪霊さえも圧殺した質量と速度の両立。
それが容易に彼の体をふっとばし、盛大に転がした。
――にもかかわらず。
――少年は、何事もなかったかのように、再び立ち上がっていた。
――――わけが、わからなかった。
「余裕ぶっこきやがって、なんなんだよお前は! なんだって今更死にに来た、私相手に説教かよ、ええ!?」
幾度と、その身に鞭打ちは放たれた。
女にとって、ここまで己を傷つけた相手は初めてであった。もはや容赦する理由がなかった。たとえ、相手が無抵抗であろうと。
やられたらやり返す。殺さなきゃ殺される。血走った眼の女により、少年は当然の応酬を受け――。
「――そういう、アンタは気持ちいいのかよ――楽しいかよ、これが! 今、思いっきり殴らせてやってんだぞ!!」
「――、っ……!!」
それでも、その眼差しは健在であった。
それ故に――より、苛烈に、髪の嵐は黙らせんと荒れ狂う。
「クソ親父にも言えたことだがよぉ――力は、強いからこそ容易に間違う! アンタは強いから灰原結なんじゃない、灰原結だから強いんだろ! 今振るってる力は本当に、
「……ご立派な命乞いね。いい加減に――!!」
呪力を伴う髪の暴雨、決まり切った勝敗。
だが、少年に屈服の二文字はない。
その全てを、だから何だとばかりに声は、果敢と響く。
「この儀式を起こしたのはクソ親父だ! アンタが人を殺さないといけないのも、オレが傷付くのも――すべては、夏油傑の責任だ!」
「夏油傑……じゃあなに、復讐したいわけ? その前にここで死んじゃうけ、ど!?」
再度、ブッ飛ばす。
もはや何度目かも分からぬ鞭打ち。
スパーンと破裂音が空を裂き、裂傷を刻みつけ、
「そうだな、でも今、もっと大事なことを見つけた気がする――オレはァッ!」
だが――少年は。
何度でも立ち上がり、激怒を振りまく彼女の元へ。
歩みを進め、胸を張り――威風堂々、叫んだ。
「オレは、このくだらない戦いを――呪術を、終わらせるッ! これ以上、
……何もかも、チグハグだった。
敗北し、ここで死ぬ事が決まった男だ。
これ以上なく、攻めに回った女こそが、自覚していた。
だというのに、何が見えているのか。
――彼の目には、曇りひとつない信念があった。
「そんなの、できるわけが――」
「できるかできないかじゃない。まだ何様でも何者でもないんだ。全力を尽くさなきゃ、オレは死んだように生きているだけだ!」
何が、そうさせるのだ。
何が、そのように言わしめるのか。
何の確証もないと自ら認めておいて、何故そこまで。
「自分の持てる力、総てを注ぎ込んだ後じゃなきゃあ諦められねぇ――オレは、まだ産まれ落ちちゃいないんだ!!」
ずんずんと、歩みは進む。声は高らかに。
身を焼く拒絶など意に返すことなく。
真っ直ぐと澄んだ瞳が、女を見ていた。
――――、けれども、偽善だ。
――そのような綺麗事で身は守れない。
――そんなバカ正直でいたらバカを見る。
そう――――『あの人』の、よう、な――。
「だから、頼む。……オレに手を、貸してくれッ!」
――失ったハズの、
――その少年を前に、瞳孔が萎んだ。
「……本気で、言ってるの?」
「やるさ。必ず、生きている限りはやり通す」
――ああ、そうか。
ようやく、灰原結は自覚した。
いや、わからないふりをしてきたという方が正しい。
――本当に、バカみたいだ。
ただのガキの妄言だ。裏表のない、子供の善良さだ。
それを持ち続けられるヤツなんて、バカか底抜けの善人であると相場が決まっている――私には、無理だった。
きっと、そういう人たちが――兄を殺したのだろう。
「なにより……やれることを精一杯やるって、気持ちいいからな!」
「――、!」
そして。目の前にいるのは、その類の人間。
まさしく、底なしの善人で。
彼女は、悟った。
――否定できるわけがなかった、と。
「……、分かった――貴方の夢に、賭けてみる」
燈は、燃え移った。
滲み出す一筋が、その白貌に輝く。
微かに。けれども熱く。強く――失った輝きを、取り戻すかのように。
―――
――
―
……さて、灰原結は、危機に瀕していた。
なにせ、この状況はよろしくなかった。
――中学生男子の前で号泣する成人女性(24歳)、なんて絵面が爆誕する瀬戸際なのだ!!
大人の威厳が損なわれる――既に結構損なった気がするが、これ以上の被害は回避したい。
ぐっと防波堤を呪力強化し、分水嶺間際で何とか押し留めんとして、
「うわ、分かっちゃいたけど、この学ランもうダメかぁ……ですがご安心! 何を隠そう呪霊に替えを携帯させているのです!」
「うっわ汚ねっ」
すんっ、と、急速に落ち着きを取り戻す。
それほどまでに――大口を開く呪霊から、綺麗な日用品がお目見えする絵面は強烈であった。
「え~、リアクション悪っ――いやそっか、今は服より薬品ですよね。はい薬箱どうぞ!」
「いや違うし。まず君でしょ。滅多切りされてブたれまくって。終盤の煉獄さんみたくなってるし……」
取り戻した冷静さでもって、灰原結は薬箱を受け取り、中身を漁る。
――彼の状態は深刻だ。見ているだけでも痛々しい。なにせ真新しい傷がたくさん――あれ?
「……えっ、もう塞がってんの。キモっ」
「ふふん、傷の治りには定評があるんすよ。こないだプールの授業で勢いよく飛び込みすぎた時なんか、頭打ったけど数分で治りましたし!」
「ダチョウか何か……?」
「そのせいか、この前髪いくらチョン切ってもすぐ戻っちゃうんですよね〜……というか灰原さん、なんでそんなテンション低いんです?」
「いやこれ素だから。もう酒抜けてっし」
思わず低めの声が出ていた。
そして、今更取り繕うのもバカらしくなって、術式を解除した髪を搔く。
……このガキに、全てを賭けた。
自分で、自分の感性がわからない。泳者として無謀が過ぎる。
けれども――これでよかったのだと。
不思議なくらい、そう思えているのだ。
「……どうせだから、私の荷物も入れてくれる?」
「はい! ……って、いや。危なくないですか、荷物分散させた方が、いざって時――」
「そん時は必ず私が守る。あと、敬語じゃなくていいし、呼び捨てでいいから」
モヒカンから奪った特攻服を羽織り、歯を見せて笑う少年。
似ても似つかない塩顔だけれど――やっぱり、重ねてみてしま――。
「では、結姐さん! お近づきの印に、こちらをどうぞ!」
――、はい?
えっ、なんで空のコップを手渡された?
なんで、手持ちの呪霊2体、わざわざ潰した?
そんで、えっ、なんか汁出して、コップに注がれて――えええええ、コイツ、呑んでる!?!?
「……(無言で口をパクパクさせる結)」
「っか~染みる~! 呪力カラッカラの体に活力が戻ってくるぜぇ! ほら姐さんも、ぐいっといっちゃいなって、ぐいっと!」
「い、いや、私、こんなことしなくても呪力捻出でき……」
「ほらイッキ! イッキ! 姐さんの良いとこ見てみた〜いっ!」
「その台詞言いたくて姐さん呼びにしたんじゃないでしょーね!? ああもう分かったわようざったい!」
灰原結は、推しに弱かった。
ヤケクソ染みた気分で呪霊を掴み、毒杯を煽り――、
「ごっぶ、マッズい辛っ!? 喉焼け、えっう゛――オェ、ェェェェェ!」
「あれま、姐さん二日酔い? も〜、しょうがないなぁ」
……コイツ。やっぱロクでもないヤツなのでは?
なんて思考を最後に、意識を放棄したのであった……。
【次回予告(27・木に投稿予定)】
――五条悟は、完全体両面宿儺に勝利した。
全部が全部、丸く収まったと思われた2018年。
だが、それでいいのか。
彼だけは喜べなかった。
噛み締めた
特級術師・乙骨憂太
滞留
――2025年。『現代の異能』、再始動――。
―
――
―――
……え~。ハイ。そういうわけで。
本当に申し訳ございません(土下座)
夏油
2部が群像劇である都合上、原作同様こうならざるを得ませんでした。
来年頭には
どうか引き続き応援の程、よろしくお願いします。
【シリーズ構成について、より詳しく↓】
第二部は『幕』の中に、
A編、B編、C編といった複数のストーリーがあります。
※イメージ↓
第一幕 池袋ブロック -虎杖悠仁編-
第一幕 新宿ブロック -伏黒恵編-
第二幕 仙台ブロック -乙骨憂太編-
第二幕 東京第二ブロック -秤金次編-
それぞれ主人公は異なり、滞留区画も異なります。
つまり、第一幕・勲編が終わったら、
「一方そのころ」と別主人公の話が挟まってから、
第二幕・勲編につながっていくわけです。
そうして広がった話や伏線が、最終的には全て合流し、夏油勲のストーリーに帰結します。
読み進めてくだされば雰囲気でわかるよう作るつもりです。
それだけ遠大な話になるんだなー、ということだけ、ご承知おきください。