【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
宿儺に勝利した五条悟は、しかし『怪物』となった。彼だけを怪物にさせてなるものかと、乙骨憂太、第二次・死滅回游に挑む!



第一幕 甲信越ブロック -乙骨憂太編-
第2部 6話『追いつかなきゃ』


 

 ――2018年12月24日。

 五条悟は、完全体両面宿儺を単独で屠った。

 

 

 

 ここは、乙骨憂太の式神『リカ』の口内。

 テレビが山と積まれ、さっきまで生徒たちは(レンズ)を通し、戦いの中継を見ていた。

 

 画面はもう砂嵐――残るのは、黄色い歓声と缶飲料だけ。

 

 

 

「ってなわけで! 祝勝会改め――

『五条先生、どのツラ下げて帰って来たんです会』開催ダーっ! 拍手――っ!」

 

「しゃけー!!」

 

 

 

 両手を振り回し、小ぶりのパンダは吠え猛る。

 狗巻も、器用に片手のみでクラッカーを鳴らして便乗する。

 

 ――ここにいるのは、呪術高専・東京校の二年生と三年生。その担任、日下部。そして、

 

 

 

「んわーい♪ ありがとーっ! ……それはそれとしてさあ歌姫ェ! もうちょっといい命名なかったわけ!?」

 

「なんで断定すんだバカ目隠し! つーか呼び捨てんなッ!」

 

「やっぱかぁ〜。だって歌姫しかいないっしょ」 

 

 

 

 缶ビール片手に吠える、歌姫。

 そのガナリ様に、迎えられた男は笑う。

 

 ――黒布で目を隠し、白髪を逆立てた男。

 ――過去の王を打ち破った、正真正銘の『最強』!

 

 そう、彼こそがグレートティーチャー・五条悟――!!

 

 

 

「てかさぁ! 祝勝会だってならもーちょっと飾りとかお菓子とかないわけ!?」

 

「しょーがないだろそこはっ! 死滅回游で物資流通断たれてんだから我慢しろっ!」

 

「「「そうだー! 大人気ねえぞ29歳児!」」」

 

「はぁ? 飲み水もロクに確保できない環境でデスゲームやってたの? 羂索ザルすぎない?」

 

 

 

 ……もとい、バカ目隠しの。

 

 息を吐く様にかますノンデリ発言に、数多の非難が轟々と投げられる。

 ホームなのにアウェイ。祝われているのにディスられるとは、これ如何に。

 

 

 

「……まあ、ぶっちゃけやる予定無かったからナ。誰かしら死ぬって想定だったし」

 

「しゃけしゃけ」

 

 

 

 ……しれっと、そんな発言も軽く流された。

 そう、今宵は無礼講。都合が良すぎるほど、全ては丸く収まったのだ。

 

 

 

「なぁ先生。魂でモノを考える生き物になったんすよね」

 

「ん? そうだけど?」

 

 

 

 秤金次が肘で突っつきにいく。

 五条先生は思わず黒布の下、片眉を上げた。

 

 

 

「まぁ珍しくもないっしょ、背骨で考えて戦う人もいるんだし」

 

「それモノの喩えっつってんだろ」

 

 

 

 流れ弾を食らって肩を落とす日下部。

 だが『優しく』受け流す。彼は今、久々のタバコで至福の一服中なのである――それはさておき。

 

 

 

「だったら! 今なら酒いけるんじゃないっすか!」

 

「——え」

 

「ってことで綺羅羅(きらら)!」

 

「合点! ほら先生、これどうぞ!」

 

「――えっ?」

 

 

 

 言うが早いや。三年生二名は息ピッタリ。

 差し出されるのは缶ビール。

 ポカンと口を開けた五条悟の手にソレは押し込まれ、

 

 そのまま二人は、

 

 

 

「「ほれいっき! イッキ! 五条先生の、かっこいいとこ見てみた~い!」」

 

「しゃ~け! しゃーけ!」

 

「そーだ! 私のなけなしのヱビスだ! 呑めねえとは言わせねえぞ!!」

 

「今日これ以上なくカッコつけてきたつもりなんだけど!?」

 

 

 

 手と手を叩いて、全力で囃立てた。

 無論、狗巻と歌姫ものっかかった。

 下手をすれば、宿儺と戦ってる時以上の応援ぶり。

 

 だが――そこは五条『先生』。ノリで負ければ、男が廃る。

 

 

 

「いや、実際いけるのか? 確かに今ならワンチャンあるのかも――ようし! やってみよう!」

 

 

 

 空間を歪め、指を使うまでもなく缶を開く。

 そして空いた観戦用席の上に立ち、高々とアルミの盃を掲げた。

 

 間違いなく、それは生涯最高の勝利の美酒!

 あらゆる術師をブッチぎりで超越した今ならば、或いは!?

 

 という興味に彼は動かされ、結果――!

 

 

 

「じゃあ、みんなドリンク持って! 乾杯~!! ――がくっ」

 

 

 

 どたーん。

 

 勝利の美酒に、『最強』が負けた。

 飲んだ勢いそのまま、背後にぶっ倒れ、床に広がる白い髪。

 

 

 

「だーっはは! 一発ダウンじゃん!」

 

「宿儺には勝てても酒には負けるのか……」

 

「こら残すな――! 私の酒――ッ!!」

 

 

 

 歌姫が缶を振りかざす。

 パンダが腹を抱えて転げ回る。

 狗巻はスマホで一部始終を激写する。

 

 わいわい、ガヤガヤと。

 リカの口内は、まるで学園祭の教室のようだった。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 その、喧騒の片隅で。

 乙骨憂太だけは、笑えずにいた。

 

 テレビの砂嵐が、チリチリと鳴る。

 五条は倒れたまま、微動だにしない。

 

 

 

 ――本当なら、彼は、あのまま立ち上がる事などなかったのだ。

 

 

 

「――乙骨。どうした、ずっと浮かない顔しやがって」

 

「あぁ、いや。なんでもないよ、ホント」

 

 

 

 歩み寄る真希にさえ、満足な笑みを返せなかった。

 

 ――嬉しい。けどそれ以上に、笑えない。

 ――戻ってきた五条悟は、もう『人間』ではなかったのだ。

 

 

 

 あれは、死体なのだ。『世界を断つ斬撃』を受け、死に向かっている体。

 

 その死亡経過を、『無下限呪術』の拡張によって、『無限』に引き延ばしているに過ぎない。

 

 体に残存した魂は、確実に、刻一刻と消えていく。

 

 

 

(――本当に、五条先生は、とんでもない『怪物』になってしまった)

 

 

 

 僕は。ついに、羂索を殺せなかった。

 ついに、何ひとつ、できなかった。

 

 

 

(五条先生は、僕らの弱さを背負って、自分の指針を折ってまで総監部を殺して――人間であることを。死ぬことすら、やめた)

 

 

 

 それでも、笑ってる。

 それでも、『先生』でいてくれる。

 

 あの笑顔が本音で、これが望んで選んだ道であっても――そう『させた』のは、紛れもなく――。

 

 

 

 自分への怒りで、どうにかなりそうだった。

 

 

 

(……ごめん。ごめんなさい、五条先生――僕が。僕こそが、人間性を捨てるべきだったのに……ッ!)

 

「……」

 

 

 

 鞘の中の刀を握り締め、歯の根を噛んで、乙骨は顔を伏せた。

 

 真希は、ただその肩に手を乗せ、隣に佇むしかできなかった。

 

 

 

 ――なるほど。確かに五条悟は勝った。呪術高専は勝利した。

 

 けれど――五条先生は、いいのか。

 果たして、これでよかったのか。

 これをハッピーエンドだと、認められるか。

 

 

 

 ――――否だ。誰よりも、乙骨憂太には許せない。

 

 

 

(……次こそは、僕が――!)

 

 

 

 そして――七年後。2025年。

 

 ――噛み締めてきた、決意(のろい)が。

 ――試される時が来たのだと、彼は知る。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――2025年11月1日14時8分。

 第二次・死滅回游は、突如として始まった。

 

 

 

 だが、高専が有する、(五条悟を除く)特級戦力――。

 

 乙骨憂太、虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇、秤金次、来栖華、日車寛見、鹿紫雲一、そして『喇誑(ラテブラ)』――以上9名の行動は、一ヶ月遅れる。

 

 

 

 この死滅回游開始と同タイミングで、忽然と『消失(ロスト)』し、一ヶ月後の日本で、散り散りに『再発生』したのである。

 

 

 

 ついさっきまで、任務中だったのに。

 

 気づけば、見知らぬ場所――12月1日14時8分、新潟県M市。目の前には、悪化し切った生き地獄!

 

 

 

(――僕が、やらないと!!)

 

 

 

 ――乙骨憂太は修羅となった。

 

 突如、生じた『現代の異能』を前に。

 蔓延った猛者は悉く、殲滅された。

 

 

 

(大結界のせいか携帯が繋がらない、けど、コガネの検索で五条先生以外全員の名前は確認できた――死滅回游が、また始まった。一ヶ月も、なぜ動けなかった!?)

 

 

 

 ――羂索だ。

 間違いない。全ての原因はアレしかない。

 

 2018年、五条が宿儺を屠った直後。アイツは夏油傑の肉体を棄て、天元を持ち去って逃げ仰せている。

 

 

 

(――あのとき殺せなかった。僕が悪い。五条先生は海外、ルール上参加できない――覚悟を決めろ。成るときが来たんだ。怪物に!)

 

 

 

 文字通りの意味で三日三晩。

 目標にひたすら直走る男は、『点』を荒稼いで幾星霜――またひとつ。

 

 呪霊を串刺しに、降り立った。

 

 

 

「――大丈夫!? 怪我、ない? びっくりした?」

 

 

 

 顔をあげ、乙骨は駆け寄る。

 佇む、セーラー服の少女の元へ。

 

 今しがた、この呪霊に襲われかけた相手に。

 

 

 

「怖かったね。シェルターって安全な所があるから、一緒に……」

 

 

 

 なんとか笑顔を作って、

 腰を落とし、目線を合わせた。

 そして、彼は知る。

 

 

 

「――なんだよ。せっかく、死ねるかって思ったのに」

 

 

 

 その少女の、瞳の虚ろさを。

 

 

 

「死にたい、って……」

 

「そうだよ。その前に、なんとなく散歩がしたかった。それだけ」

 

 

 

 ひどく蒼白な、幼さの残る顔。

 無造作に伸びた前髪。

 その影に溶け込むような眼には、光がなかった。

 

 

 

(……だから、あんなに無防備だったのか)

 

 

 

 ……否定できなかった。

 

 それほどまでに、ここは――新潟県M市は、一か月で終わりきっていた。

 

 むしろ、驚いてさえいた。

 ひとりでも、生き残りの住民がいた事実に。

 

 

 

『――でも。一人は、寂しいよ』

 

 

 

 だからといって、捨て置けるわけがない。

 その言葉こそが、乙骨憂太の起源である故に。

 

 

 

「……じゃあ、せめて、一緒に連れて行ってくれないかな」

 

「……変なヒト」

 

 

 

 いっぱいいっぱいであっても、彼は、一人の少女に手を伸ばす。

 

 

 

死滅回游・泳者 乙骨憂太
 

死滅回游・泳者 七瀬(ななせ)三可紗(みかさ)

 

 

 

 12月3日。それが、二人の出会いであり。

 乙骨憂太にとって、二度目となる――『死滅回游』の幕開けであった。

 




次回は30(日)です。
やっぱ五条出したいな〜。と思いつつも我慢我慢。



てか内容を見もせずに⭐︎0評価つける人なんているんスね……赤だったのが気づいたら黄になってたんだよね怖くない?

なにとぞ高評価コメントなどよろしくお願いします。今なら超喜びます、超。



【パーティに一年いない理由】

・伏黒
→心に折り合いをつけられてないのに五条に引き出され引き篭もりに

・虎杖と釘崎
→伏黒の様子見。あと『魂』認識した術師であるため、死なずに済んだ受肉体一同の対応中

・日車
→自首。果たして懲役何年なのか。

 てか五条先生! 大丈夫なんですよね!? おたくの新総監部、初仕事で行政に圧力かけて不起訴にするなんて腐敗した事しませんよね、ねっ!?

 そして頑張れ! 日車の後輩ちゃん!
 こっちの2025年では総監部は政府にパワー負けしてるからワンチャンある。なんとか牢にぶち込むんや! Vやねん六法全書!



あっカッシーは当然、宿儺とやれずにブチギレて、
後日五条悟に襲いかかり、コテンパンにされてます。
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