【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第3話「貧者の韋駄天」

 対面した呪霊。

 ツイストした二つの金属が合体した人形。

 その悪業は――許される間もなく。

 

 距離が消え、拳は届いた。

 

 

 

「正直、こういうのは性に合わん」

 

 

 

 挙動を絶たれ。

 そのまま、奪われた先手が重ねられていく。

 

 

 

「遊びで思いついたモンならフェアにすべきだ――さしあたり、開示するが」

 

 

 

「この術式は爆縛呪法(ばくばくじゅほう)と言う。要は、リスクとメリットを極端にした投射呪法だ」

 

「……!」

 

「見えるようになったろ、呪霊――白線から落ちたら自爆、乗ってるうちは加速と威力上昇が起こる」

 

 

 

 少年、安曇野(あずみの)禍福(かふく)の術式。

 その術式効果は――『疑似加速』である。

 

 

 

 彼の足元、半径10メートル内には、

 二種類の『判定』がランダムで配置される。

 太さ30センチの線と、それ以外。

 線に足が乗ると『疑似加速』が発生。

 

 また身体感覚の先鋭化により、

 結果的に呪力出力の上限は解放されていく。

 

 

 

「落ちたらマグマ。加算された速度がゼロになり、ブッ潰れて死ぬ――初めてだろう、呪霊」

 

「これは、『命を賭ける縛り』の開示だ」

 

 

 

 ギュン、とより加速が増す。呪力が膨れる。

 その全てに、ストレートに意志が通い――迸り。

 

 

 

「――という事で。正々堂々、()らせて貰う」

 

 

 

 滂沱の如く、閃いた。

 言ったからには卑怯にはあたらない、とばかりにお構いなしな打撃の雨。

 

 

 

 疑似加速に、Gなど伴わない。

 その加速に、上限はない。

 

 何を隠そう安曇野禍福は。

 ――2025年(五条悟を除く)最速の呪術師である。

 

 

 

「文句ないだろ。俺はこれを貫く。お前は、一歩でも俺を退かせればいいんだ」

 

 呪霊は驚愕しただろう。

 なにせ、この術式には根本的な欠陥がある。

 

 

 

 ――彼の状態は、新幹線の中で走っている人間のようなモノだ。

 外から見れば新幹線以上の速度が乗っている。

 だが、本人の感覚としては、ただ走っているだけ――彼には、()()()()()()()()()()()()

 

 そんな状態で加速しながら、ランダム発生する『線』を踏み外すな?

 それも、失敗すれば『命を賭ける縛り』で――!?

 

 

 

 否。禍福は、天性の動体視力(センス)で対応できる。

 

 一度のミスも許されないから、死ぬ気で訓練してきたから。今も一度として足元を見ずに加速し続けている!

 

 リスクはバネ。才能と覚悟によって、

 安曇野禍福はこの無茶を可能としている――!

 

 

 

「……!」

 

「させるか」

 

 

 

 なにかしらの掌印。だが組まれる前に崩す。

 

 この術式を使うときは、呪力出力の上限解放に伴って呪力消費も速まる、必然的に短期決戦。

 

 だが問題ない――自身の最大値を引き出しても無理なら、それまでの事――!

 

 

 

「……、な」

 

 

 

 ――条件反射で体は動いていた。

 後になって、置き去られた心は理解を得る。

 

 自分は加速の中断を決意し。

 瞬時に構えていたのだ――シン・影流『簡易領域』を。

 

 

 

「――ギャッ、ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ――!!

 

 

 

 ――――領域を、展開された。

 

 金属の身をよじって軋ませ、嗤う呪霊。

 その体には、呪印が浮かんでいた。

 掌印なしでの術の行使。それだけでなく、

 

 

 

「……領域。かなり狭い。それも、必中必殺か!」

 

 

 

 工場がうねり、球場に引き歪んだ空間内。

 飛び退いた、つい先程までいた場所。

 その足元の地面から――打ち上がったプレス機が、領域の天井にまでブチ当たっていた。

 

 かろうじて、回避できたが。

 

 

 

「コイツも、特級かよ!」

 

 

 

 即座。禍福は両靴のスイッチを押した。

 靴裏からローラーを解放。

 両足をつく縛りで展開した簡易領域を維持しつつ。

 

 

 

 ――眼前、迫る本体の突撃から飛び退いた。

 

 なんてことだ。本体の両腕もプレス機なのだ。

 領域による足元からの一発と、両腕とでの攻撃の合わせ技。食らえば必敗――!

 

 

 

「――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃッ!

 

 

 否。そんな手間をかけずとも。

 次の瞬間――領域内の地面全体が打ち上がった。

 

 

 

「必中を中和されて、これか……クソっ!」

 

 

 

 わかってる――誘い込まれている。

 

 このまま黙って天井に潰されるか、

 唯一、上がらなかった足場――ヤツ本体が待ち受ける穴へ落下するか。

 

 どちみちクソったれな二者択一。

 

 

 

(いつだって、そうだ。心を置き去りに体は動く)

 

 

 

 ――選ぶまでもなかった。

 

 体は、吸い込まれるように。

 速度の活かせない閉所、穴の中へ。

 

 無駄と知りながらも、悪路をくだる。

 

 刻一刻と簡易領域は剥がされている。

 とれる手段はシン影流によるオートカウンターの一発限り。

 術式の焼き切れた今ならば痛打は確実。

 

 

 

 分かり切ってる。

 決めさせてくれるわけがない。

 

 

 

(やっぱりだ。自分を見放して生きた日から――最後は、理想通りじゃなくなった)

 

 

 

 後悔のない死が、望める身分ではない。

 

 

 

 そう、わかっていても。

 彼は、ひとつだけの道に沿って動いた。

 

 そうする他にないと――これまでのように。

 ただ、義務のように。




いや負けるんかーい!
ってのはさておいて。

ここ数話、オリキャラ廻戦ばっかで申し訳ございません。
もうすぐオリキャラ二名のみの話は終わります。
もう少々、お付き合いくださいませ。



【オマケ・『擬似加速』について、補足】

 ――『擬似加速』ってなにが『擬似』やねん。
 ――『Gが起こらない』って、何やねん。

 お答えしましょう。理由はズバリ。
「これ全部『仮想の速度』だから」――以上です。

 九十九由基のブラックホール、まさに少年漫画的な表現だったじゃないですか。本来、本物のブラックホールは生じた時点で太陽系終わりますからね。

 そういう意味での『なんちゃって』な加速なのです。
 仮想の質量ならぬ『仮想の速度の付与』。
 フィクションの加速を現実にもってくるのです。

 要するに……空想科学読本的なツッコミは聞きませんので、悪しからず!

(実際『現象を起こす術式効果』って点では『星の怒り』と似ている……のかも?)

 ――以上、親友立案の能力設定解説でした。
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