【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
乙骨渾身の術式ラッシュ。だが九十九は、ここにきて『星の怒り』の拡張術式で逆転を狙う!
――呪具。それは呪術師にとって第二の体。
術者に扱われ、使い込まれることでやがて体の一部となり、術式が刻まれる。
――そこで、九十九由基はこう考えた。
どうせ呪具・術者が同じ術式を有するなら――『合体技』ができるんじゃあないか!?
よって九十九は、
ただの呪具ではダメなのだ、だって人体でも使って作らなきゃ自我がない。これには式神という、術式を自律制御できる存在が不可欠。
式神と九十九が、それぞれの技能と『
そうでなくば――『共振』は、成立しない。
「ぶっつけ本番だ、合わせろよ――『
即興合技――『必殺・稲妻重力落とし』。
それは、一瞬にして絶対の豪雷だ。
そのうえで注がれる、九十九由基の『
――仮想の質量の『重ねがけ』、仕様にない形での術式行使。
――
異なる存在、同じ術式の同時行使。
その『共振』は、術式出力の莫大化を招く。
九十九は
即ち、これは――『
「――燃えろ『
光輪と化した
刹那――過聴領域外に響く、畝り。
丸まっていた身が拡がり、振るわれる、蛇腹剣の
――白熱化したガルダの完全燃焼が、『
暴発である以上、術の質は『ブラックホール』実現に至らずとも――その威力は、列島沈没規模!
剣の荒野は灼かれて蒸発し、捲れ上がり、ひび割れ、断崖絶壁が細かく刻み込まれ――激光の果て。
乙骨の領域は、跡形もなく、内部から瓦解した。
「……お疲れ、
あくまでも、今のは領域内でのみ許される代物だ。
本来の世界に降り立つと同時、瞬きは消える。
当然だが自爆の結果、
丸まり、スリープモードで放っておく他にない。
式神の奮闘を労い、そして。
彼女は――顔を上げ、笑う。
「さて――マジで、どうなってんだよ。君は」
眼前――乙骨憂太は、リカを『庇って』立っていた。
「ゆう、だ……コレ」
「ありがとう。リカ――あとは、僕がやる」
刀を鞘に納め、拳を構えた乙骨憂太。
彼は欠損なく、五体満足で耐えきっていた。
――式神『リカ』を動員した反転術式、だけではない。
――シンプルな呪力強化? いいや、それで耐えられるものか。
そのカラクリを、他ならぬ九十九は見抜いていた。
「さっきの必中効果だね。私が知らないってことは呪霊
――術式『
その必中効果、呪力特性の完全解明。
受愚戴転はコントロールされていない呪力を吸収する。この場合、九十九の呪力
そして他人の呪力に晒された呪術師は、感じた呪力から逆算することで、籠った負の感情などを微かに読み取ることができる。
――必中効果まで昇華されたことで、乙骨は九十九個人が持つ呪力の
――そして『模倣』の術式を持つ者としての『素養』によって、呪力特性を模倣した。
「変幻自在の呪力。底なしとまではいかずとも、未だ健在だったわけだ」
自分の呪力で傷つく術師は、基本的に存在しない。
五条悟の自爆がそうであったように。九十九由基の『ブラックホール』が、一定以上は本人にダメージを与えないように。
本来喰らえば即死の『星の怒り』を――即死は免れるレベルまで軽減させていた!
「あくまで軽減です。全得点を呪力に変えないと、とても今のは耐えれなかった」
「ふむ――コガネ。乙骨憂太の消費した
「304点だぜ!」
「そりゃ凶悪だ。じゃあ私も――コガネ。全得点を呪力に代えてくれ」
「あいよ! 285点を消費したぜ!」
――すごい点数だ。
けれども、乙骨憂太に驚きはなかった。
――ここには、過去の猛者だって大量にいた。
それこそ、かつての仙台もかくやという程に。
乙骨個人が三日三晩暴れた程度で、あれほどの者達が拠点を放棄し、退去するとは思えない。
(――やっぱりそうだ。この場所を鎮圧した人がいたんだ――死んでも、呪術師のままでいてくれたんだ)
口にはしない。片や、刀を構えた。片や、拳を固めた。
それこそが、互いにとって何よりの
(シンプルだ。呪力による格闘戦。組みつかれでもしたら終わる、剣術で優位を取るしかない――さっきみたく折られたら、もう後がない)
――こればかりは、性分だ。
乙骨の内心、どこかで、及び腰になるのを感じずにはいられない。
僕一人で、僕だけの力で。
この、猛獣を狩れるのか――。
『――
――いや。大丈夫。
なにせ――死ぬほど、痛かったんだから。
「行くぞ、乙骨くん――最終ラウンドだ!」
―
――
―――
「――どおっ、せいッ!」
九十九のひと蹴り。振るわれる超質量が、地表をめくり上げる。
続く第二歩は、突き上がった地層を踏み砕き――否。
(マジでか君――!?)
「やっぱり、パワータイプには見えませんか」
乙骨の一歩が。妨害など知るかと踏み返し、大地を黙らせ――刻まれた、
両者は見合い、そして。
「「――シン・影流『簡易領域』!!」」
単なる、殴り合いにあらず――息つく間もない、カウンター合戦が幕開ける!
(――ワンパンできない。それがどうした、何発も殴ればいい。術式の焼き切れが復活する前にラッシュで押し切る!)
九十九による簡易領域、そのすべては攻撃だった。
シン・影流『簡易領域』はあらかじめ設定したモーションをオートで発生させる。
そう、オートなのだ。場面によらずに体が勝手に動く。本来反応できないタイミングであろうとも。前後の動きを無視し、体さえ耐えられる限り。
(だからって――そこまでするのか!?)
その、自傷行為に乙骨は目を剥く。
殴り、蹴りといった動作の後には隙がある。
緊張の前後には弛緩がある。
その間を、彼女はカウンターモーションで埋めていた。つまりひたすらに殴っていた。
常に相手が至近距離ともなれば出し放題。あり得ないタイミングで発生する攻撃は、あまりに凶悪なフェイントである。
代償に緊張を続けた手足の筋繊維は断裂し、全力疾走を続ける心肺は、もはや人間をやめていた。
その全てを、乙骨憂太もまた
(後がないのはこっちも同じだ。今『ブラックホール』を出されたら負ける。この刀だけはやらせない。絶対にこれでトドメを刺す!)
もはやこうなれば意地の張り合いだった。
乙骨は刀を手に、捌き、いなし、避ける。
動きの出を潰し、逸らし、徹底的に直撃を避け――直撃しても、カウンターモーションで死に体を強制的に踊らせ、二撃目を回避する。
耐え切る。乙骨の存命と勝利はイコールだ。
元の呪力量はこちらが上。呪力が先に切れるのは九十九の方だ。そうでなくとも、じきに焼き切れた術式が回復する。
(へへっ、焦ってら焦ってら。そりゃ怖いよな、だんだん『星の怒り』が高まってるんだから!)
だからこそ、九十九は止まらない。自分の『星の怒り』で自ら手足が壊れようとも、反転術式で無理矢理にでも生かし、踊る。
――実のところ、『ブラックホール』は起こせない。さっきの強引な焼き切れ解消の代償だ。
痩せ我慢で出力をこじ開けている体たらくだが、その甲斐あって――ダメージを受けない『一定』は、超えた。
これで振り出しに戻った。一発でも喰らわせれば、九十九は勝つ。
(思考の暇を与えるな、畳みかけろ九十九由基!)
(マズい、また即死しかねないほどに出力が膨れ上がってる――意識が途切れ出した、今になって酸欠し始めてたのか!?)
また一発、乙骨憂太の体が爆ぜる。
首の皮一枚、反転術式で繋がる命。
その後隙をカバーすべく、振るわれた一刀が九十九の血を散らす。
すでに土俵は真っ赤に染まっていた。
隙を突き合い動き続ける、イタチごっこさながらの泥沼戦。
だが、忘れるなかれ――九十九由基は、読み合いで勝てる相手ではない!
「――って、歯ぁ!?」
口に出た驚愕。その時点で、九十九の
――『星の怒り』を付与されたソレは、指に弾かれ、弾丸となって乙骨の――左眼を、貫通。
咄嗟に、乙骨は身を捻り軌道を逃れる。
そのまま行けば脳天を撃たれていただろう。
だが。その隙だけでも十分だ。
(もらった! いっぺんも触れさせてくれなかったその刀、今度こそ叩き壊す!)
我が意を得たり。踏み込み、身を捻り、打ち込まれる渾身の拳。
咄嗟に振るわれる刀、交わる互いの矛。超質量を前に鋼は砕け散り――!!
――否!
――その拳を、その刀は受け、弾き返す!
「――ここで、『領域展延』だとォ!?」
インパクトの一瞬。
その刀身は、空っぽの領域に覆われていた。
――本来は領域展開に用いられる結界に、相手の術式を流し込む結界術。
九十九にとって、それは思考の埒外だった。だって、『星の怒り』は概念突破の術式なのだ。
無下限を除き、あらゆる術式には『あべこべ』のようにキャパシティがある。それ以上の攻撃力を叩きつけ、突破する事こそ『星の怒り』の真骨頂。
だが乙骨は、『どうせ突破されるなら、一瞬でいい』と割り切った。
ほんのコンマ5秒間。無に等しい時間にのみ使用を限定する『縛り』で、効果を底上げし――『
(いいや、今しかない。彼の体制は崩れている。もう片方の手は後ろにある――こっちは、もう片腕のパンチがある!)
それでも、血を吐いて――九十九由基は再び、至近距離でシン・影流『簡易領域』を展開。
このカウンターモーションで、狩る。
最初で最後。身体限界を無視し、引きちぎれる筋肉を張り上げ、繰り出される蹴りは。
乙骨憂太とは、別の方を空振っていた。
「――、は?」
――なんだ。何に反応した。
――そう、目をやって、漸く理解する。
視線の先――あの少女が。
呪力強化させた出刃包丁を投げ、足裏に突き刺さっていたのを!
「――ッ、ぶちかませ!!」
少女は叫ぶ。次には、九十九の視野は揺さぶられていた。
――乙骨憂太の左ストレートが。
容赦なく、そっぽを剥いた頭蓋にめり込み、脳を揺さぶる。そして、
「――
術式、解放。
それは、七塚三可紗の骨を譲り受けて得た、13個目の
リカが領域から持ち出した最後の一刀。
乙骨は刀を逆手に、右拳で握り込み――下から、上へと振り上げる。
断面は、あまりにも鮮やかであった。
揺らぐ上体、散った金髪。
同時――裂かれた、地面は。
より細かく、ヒビ割れ、細かく細断され――呪力の行き渡った、銃弾となって。
「――――『
呪力強化された土石流が、彼女を飲み込む。
容赦なく、鈍く、怒涛の勢いをもって響き渡る大地の鳴動――幾度と虐待された地盤は、崩れ去り。
――刀は、消え去る。
その崖には――拳を掲げただけの男が、勝ち残っていた。
―――
――
―
――少女は確信していた。
今のは、一生分の覚悟が求められた行為だったと。
まずもって、そこに立ち続けるのが苦難だった。
擬似術師は、紛い物だからこそ本物をより強く感じ取る。
大半が領域内戦闘だったとはいえ――それが、呪術の極地にある死闘だったのは明白。
それでも。乙骨憂太を信じて、逃げろと叫ぶ本能の警鐘を振り切って。
今しかないと、見出した『3:7』の座標に、唯一の得物を投げ込んだのだ。
そして見届けた――彼の、勝利を。
「――乙骨、さん」
自分の知らない技だった。自分では出来ようはずのない、大規模な術だった。
全身全霊。自分の術式だからこそ、痛いほどにそう伝わって。
「――
――そういや、それどころじゃなかったと思い出した。
そして、二人は慌てて駆け出した。
そうなのだ、敵を倒しておわりじゃない。
彼女は『縛り』に殉じて戦ったに過ぎない。
――呪術的完全集団自決。
あの儀式の閉廷こそ、最重要である故に!
「ここ! で、でもどうやって――」
「任せて。考えがある」
「はっ、はい!」
キャンプ小屋、再び。
窓から何から、全面目張りの、内外が隔絶された密室空間。
その内に組まれた儀式構造――『祭壇』の完成度は、九十九由基のお墨付きだ。
だが、裏切り者の発生というイレギュラーが起きている。
儀式の失敗は、全員の呪霊化まで秒読みの状況!
そのうえで、乙骨憂太は――。
「リカの力だって、元は僕なんだ――やってみせる!」
――瞬く、指輪に呪力を通し。
――掲げられた掌に、渦巻く呪力。
それは彼の背後、台風さながらに力場を形成させ――!
「借りるよ――狗巻くん」
『――伏せろ!!』
音量マックス。ここぞとばかりに、温存させていたボイスレコーダーから響く声。有無を言わさぬ範囲制圧が敷かれた中――。
乙骨憂太、単独での指向性呪力収束放射が。
一瞬で、呪力耐性皆無のキャンプ小屋を焼き切り――文字通り、消し飛ばした。
「よし……終わったよ」
――伏せていた、信者たちは。
顔をあげ、辺りを見て――それから、茫然自失と、立ち尽くしていた。
「えっ、え? 壊しただけでなんとかなるの、これ?」
「この儀式は『祭壇』と『信者』、他者間の縛りで成り立っていた。命の受け手がいなくなったんだ、縛りは履行されないよ」
これ以上ない形で。断ち切られた、彼らの救い。
すでに、怒る気力など彼らに無く。
「……そ、そんな……バカなことが……!」
その声を、代弁するのは。
やはり――教祖であった。
「――なぜッ! なぜこんなことを! これが、唯一の救いであったのですよ!? 今の日本で至上に望ましき往生だったのですよ!?」
教祖は泣き叫び、乙骨を睨んでいた。
瞳の奥にある烈火が、視線を通して焼き殺さんと猛っていた。
「
――これは、僕の、罪だ。
――乙骨憂太は、目を剥き、しかし逸らそうとはしなかった。
単なる、
彼は、本気で人を救うつもりだったのたと分かった。
あの人の『大義』も、そうだったのだろうか――いいや。違う。
「……僕も、自殺を考えた時期はありました」
少女は。
自分は、なんて裏切りをしてしまったんだろうと、今になって涙ぐんでいた、少女は。
彼の言葉に、息を呑む。
――これほどの人にも、そんな事があるなんて――。
「だから、生きてればいいことがあるとか、そんな事は言えません。僕は――友達に恵まれただけですから」
努めて、見つめ返す。痛いほどの目に刺されながら――それでも、乙骨憂太に悔いなどなかった。
「けど、あなた達には諦めてほしくない。顔を知っている人間には、生きていて欲しいんです。だから――お願いします!」
頭を、深く下げた。
今はただ、これしかできないけど。
「……諦めるな? ――なんと、なんと傲慢な! そのような綺麗事で済まされるものか! 貴方は、ただ我々に呪いを巡らせただけだ!」
「責任は、取ります――僕ら呪術師は、必ず、日本の平和を取り戻しますッ!」
そう。こんな儀式、許されるべきことではない。
顔も知らない誰かですらない『何か』に、親しい人を、平穏を壊されるなんて――何故それで、その先を生きられる理由があろうか。
呪術師を、捌ける者など居ない。
呪術師は、ただただ証明するしかない。
己の価値を、己の在り方を。
この重みを、決して、忘れる事なく。
「だから、信じて待っていてくださいッ――どうか、お願いします!」
何度でも、頭を下げた。
己の狂信こそを、真実にして見せる。
折れた、彼らの分も、今は亡き人々の分までも。
彼らの無念を引き継いで――元凶に、ぶつけてみせると。
―――
――
―
――特別秘匿防護シェルター・『
それは呪術総監部が、全国各地に設置した地下施設。
2018年の死滅回游後に非常事態を想定して設計され、高専ほどではないが強力な結界を有する。平時には術師や『窓』の拠点として使用され、補助監督の管理運営で常時稼働。
しかもしかも、水食料や発電機・牢屋などがそろい踏み! それだけではなく――!
「……えっと。これ、ほんとに食べないとなの?」
「ごめん。でも必要なんだ、これがないと、みんなじきに呪力切れを起こすし、お腹が空いちゃうからね」
――そう、『
術師が長期任務にあたって腹に埋め、生理機能を代行させるアイテム。
それを改造し――腹に寄生することで、呪力出力上限を強制的に最小限にさせる特注品!
代償に、定着までに半日を要し、相互の同意なしには埋め込めない。
乙骨の手渡したそれを、最初こそ怪訝でいた少女は、それでも甘んじて受け入れた。
なにせ、それだけで――死なずに済むし、呪術は使えなくなるし、空腹にならず、不穏分子を足きりできる。超画期的アイテムであるのだから!
「――乙骨さん。ごめん、信じたいけど、今更、私にはできない。けど、お願い――死なないでね」
「もちろん。絶対生きて、また会おう」
それが、二人の最後であった。
長いようで、短い一日のみの関係。出逢ったときには夕方であったが、すでに朝焼けが彼等を照らしていた。
「次に会うときは、僕の友人を紹介するよ」
つい、そんな出来ない約束をしてしまった。
言って初めて、それほどに入れ込んでいた事を自覚する。
だが、後ろ髪を引かれてはいられない。
張り込み中の高専OBに彼ら生存者を預け――乙骨憂太は歩き去る。
……そして、再び、彼女の元に訪れた。
「――どう思いますか、九十九さん」
「お、終わった? うまくいったようだね、よかったよ」
今しがた倒された、九十九由基。
彼女は声をかけられるや否や、勢いよく土砂の下から埋まっていた上体を起こし、「ぺーっぺっ! 砂利の味くっさ!」と元気に唾を飛ばしていた。
「すみませんでした。その――」
「気にしないでいいさ、私が敵に回したのは君たち二人だった、なら君の全力に彼女は含まれて当然だ。あれは卑怯でもなんでもない……つうか、そこは『手伝ってくれ』じゃないの?」
「九十九さんからしたら、この儀式そのものだって
「あはは。バレてたか〜。ま、見逃してくれたんだ。よろこんで答えようとも」
思った以上の元気ぶり。「僕全力だったんですけど……」と苦笑しつつ、乙骨は隣で腰を落とした。
とはいえ、ただ遊び歩いている彼女ではない。
そこを誇る事もなく――九十九は、語り出す。
「そうだねぇ……では乙骨くん。この儀式の『
「――
「――私は違うと考えている。羂索は、二番煎じなんてやる性格ではなかった」
――乙骨の、膨れ上がった憎悪の向かう先。
だがそれは、この事態の元凶ではないと、彼女は言った。
そう――今にも殺しにかかってきてもおかしくない気迫の乙骨に。
だが九十九は忌憚なく、冷静に続ける。
「この儀式、前回の死滅回游とは表面上似ているけど全く別物だ。『1億点で何でも叶う』から殺す。ただ殺し合いを強要するだけのものじゃない――この儀式の
「……天元様を持ち去ったのは羂索です。一枚噛んでいるのは間違いないでしょう」
「そうだとも。君の憎悪は正しい――けども、最優先とは言い難いかもね」
その目は、相変わらずの知性の光でもって空を仰いでいた。
――日本を覆う、大結界。
――天元結界そのものを盗んだ、悪用品を。
「そもそもだ。2018年の死滅回游では相互同意が必須で、わざわざ羂索からの
「それは……確かに、そうですね」
「だろ。なにより一番おかしいのは『
――すいません。ドラゴンボール、読んでません。
という内心はさておいて。
――こうも情報を並べられては、乙骨も首肯せざるを得ない。
【総則⑨】
――泳者は1億点を消費宣言することで、あらゆる願望を実現できる。
――また、その後の『
……確かに、まるでゲームのバグじみた挙動だ。
本来ならば、『願望器』が現れてから、願いを言うのがセオリーだろうに。
この『見做す』という記述だって怪しい。
誰が『願望器』とやらの出現を観測・立証するのか。
それに、そもそも――『なんでも叶う』なんて俗っぽい事、羂索が望むのだろうか。
「察するに、誰が願望を叶えるかは重要ではないんだ。この総則が発動された後こそが、
「おわ!?」
突如。九十九は、斬られた右腕を投げ渡す。
流石に驚き、慌ててキャッチする乙骨。
なんのつもりだ、と顔を上げ、
「君は、1億
『京都大
――『
そう、これ以上のない彼女の激励であると知り、息を呑んだ。
「……なんで、京都なんですか」
「ここが最大の激戦区だからだよ――日本大結界の呪力が最も集まっていて、必然的に過去の呪術師の復活が多く、強力な呪霊も跋扈している」
「――、夏油傑ですか」
「エクセレント。その通りだ、現状で最も、1億
――乙骨憂太の目に、再び沸る殺意。
――羂索の次に、羂索の件を差し引いても、赦すべくもない対象。
コガネを使うまでもないらしいと分かり、九十九は苦笑した。
「この環境、あの術式にとって最高すぎるんだよ。東京・京都を同時に襲えた、あのアドバンテージは計り知れない。『呪霊操術』という一点ならば、今の彼は、羂索だった頃よりも強いだろうね」
「当然でしょう、五条先生が居ないんだ――喜んで、僕がやります」
「ああ待って、まだもう一人いるんだよ」
――やばい、焚きつけ過ぎたらしい。
勢いそのまま、今にも走り出しそうな彼を止めて、咳払いひとつ。
その、もう一人についても、語った――。
―
――
―――
――12月3日。
――愛知県某所は、赤く燃えていた。
「――チリンチリ〜ン♪ 503点を獲得したゼ!」
「ガーッバッハ!! やった! やったぞ、一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやった!」
何をどうしたらこうなるのか。
生きている者がいたなら、そう思わざるを得ないほどの辺り一面、ペンペン草も残らぬ焼け野原。
その中心、黒く積み上がった丘の上に立ち。
宇宙服のようなスーツを着た男は。
勝利の雄叫びを轟かせる。
そう、彼こそが――。
「ざまあないぜ! あ〜っはっはっは!!!」
―――
――
―
「彼は、一度行動すると途端に大量の『点』を得る。よほどの面制圧能力があるんだろうが、いかんせん過去の呪術師ではなさそうだ」
「前回だって、現代人の中にも、五条先生に並ぶような人たちはいました。おかしな話じゃありません」
――以上の2名が、1億点泳者の候補者。
彼女の話を聞き終え、乙骨は。
「よく分かりました。ありがとうございます――候補者も、羂索も、僕が殺します」
深く、頭を下げて感謝し。
そして――顔をあげ、髪が落とす影の向こう、
誰がどう見ても、危険極まる形相。しかし、彼自身が望んだのならと、九十九は止めない。事実、彼は憎悪をもって、これで本望と断言しよう。
あとは簡単だ。この呪いを、ぶつけるだけでいい――。
「ああ――私の術式は、好きに使ってくれて構わない。君が何を決断しようと、私に腕を治す気はないよ」
――急がないと。この死滅回游は、前回とは比にならない。
誰でもいいから願いを叶えさせる、そのために死人さえ、誰も彼もを巻き込んでいるのだ。
1秒に、何人もが死んでいる。
この選別の中で残る者らの練度を思うと――短期決着、それしかない。
――だったら。
(そうだ。僕はなってみせる。羂索も、夏油傑も。何もかもを打ち砕けるような――怪物に)
――総て、覆してみせる。
過去の猛者も、現代術師も――願いの果て、起こる災厄を相手取る事になろうとも。
(人間性を捨てる――僕にやれることは。
――『現代の異能』は。
仲間の腕さえも、喰らって――走り出した。
次回は15日(月)です。分かりやすく伏線置いたからには回収します。
てか実際、本誌のガルダが『呪具化した式神』なのって、どんな理由なんでしょうね。まず式神ってなんだよ(タッセル並感)
【次回予告(15・月に投稿予定)】
関東某高級ビル街に、運営サイドの悪意が牙を剥く。
翻弄され焦燥する『最速』の少年。
元『呪いの呪霊』のなりそこないに、あらわになった『受愚戴転』を有する少女の本性。
学生の身に余る災厄のオンパレード。
果たして彼は駆け抜けられるのか!?
そして何より、少年少女の『愛』の行方は!?
今こそ構築せよ、君たちのハートをッ!!
第一幕 関東
【オマケ・乙骨のストック一覧】
・鄒霊呪法(釘崎野薔薇)
・呪言(狗巻棘)
・?????(???)
・付喪操術(西宮桃)
・心身掌握(ラルゥ)
・G戦杖(シャルル・ベルナーク)
・御廚子(虎杖悠仁)
・治天下大王(ドルゥヴ・ラクダワラ)
・邪去侮の梯子(来栖華・天使)
・宇守羅彈(烏鷺亨子)
・???(??)
・受愚戴転(婪佳久)
・【NEW】十割呪法(七瀬三可紗)
・【NEW】星の怒り(九十九由基)