【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
運営の介入によって破綻した城塞都市の秩序。
膨れ上がった悪意が、新東京高専の面々に牙を剥く。



第2部 14話『連想呪法』

 

「行けーっ市民達よ! 全ての元凶たる、高専術師に報復せよ!!」

 

 

 

 演説に煽られた民意が牙を剥く。

 これでもか全方位、雪崩れ込んでくる市民達。

 

 

 

「あの声さっきのヤツか。やっぱこうなるよね。しゃあないしゃぁない――(ころ)すしかないか」

 

 

 

 婪佳久(らんかく)の目前。

 様々な呪具が角度を選ばず、真白の少女を血塗らんと迫るが――。

 

 

 

「見ろ! あのオンナ呪力ちっさいぜ! やっちまえ!」

 

「うおおお死ねっ!」

 

「くそッ、何であたらな――ぐぼぁ!?」

 

 

 

 否。当たらなければ、どうということはない!

 

 

 

「――我流『受愚戴転(じゅぐたいてん)』・『虞針鞍(クチクラ)』」

 

 

 

 術式『受愚戴転(じゅぐたいてん)』は、彼等の呪力漏出を吸収する!

 そして婪佳久は、受け取った呪力から逆算し、『負の感情』を感じ取れる!

 

 この術は、その範囲を半径20メートルに『縛る』事による一時的な底上げ。周囲の呪力を即座に吸収し、攻撃の悉くを詳細に感じ取り、完璧な立ち回りを実現する。

 

 加えて――『受愚戴転』は、自身の呪力特性を書き換えできる。

 

 

 

「からの、呪力特性付与(エンチャント)――『螺旋(スパイラル)』!!」

 

 

 

 今の婪佳久は、呪力放射に特化した術師である。

 

 ――大気中に霧散した呪力を、掴んで我が物とし、投げ付ける。

 ――指向性高出力呪力放射(ホーミングレーザー)が。角度を選ばず唸り、周囲に群がった雑兵らの首を死角から刈り取った。

 

 なるほど確かに、婪佳久自体の呪力量は四級術師のレベルだが――周囲の呪力を動員した場合は話が変わる。

 

 

 

「――ちりんちりーん♪ 15点を獲得したぜ!」

 

「ほうらほら! いっちばん(本体の)呪力が低いザコはここだよ~っ! さっさと殺しに来いッ!」

 

「「「こいつ……ッ!?」」」

 

 

 

 むろん、近接においても隙は無い。

 

 都合3本、自分を中心に廻る破壊の螺旋。

 旋回し、加速していく光輪(リング)は、間合いに入った者から風穴を開いていく。人の肉を裂き、骨を砕くがためのミキサー。

 

 これら呪力出力は――等級にして、すべてが1級相当の域!

 

 

 

(今はもう、どうだっていい。こんなヤツらも――()()()()()()()()

 

 

 

 もはや群衆に選択肢はなかった。

 

 ――死ぬと分かって『光輪』に飛び込むか。

 ――思わず足を止め――加速しきった呪力の『光線』に貫かれるか。

 

 殺戮の連鎖が、絶命の叫びが、色濃すぎる悪感情の数々が。血で血を洗うが如く、少女の視野をドス黒く埋め尽くしていく。

 

 

 

(禍福さえ、生きられるなら――いくらでも。祓ってやる)

 

 

 

 その、闇を祓って。少女は淀みなく殺意を廻す。

 その服の白さが保たれていることが、何より躊躇いのなさを示していた。だから、

 

 ――対して、

 

 

 

「――禍福! わたしがやるッ、なんもしないで!!」

 

「――っ、いいや、そんな場合じゃねえだろ!」

 

 

 

 ――安曇野禍福に余裕など無かった。

 加速をかけ、初速そのままに投擲剣を撒き散らし、悲鳴さえ許さぬ破壊を振り撒く。

 

 

 

 ――『爆縛(ばくばく)呪法』。

 その効果、己に対する『仮想の速度』の付与。

 

 彼の視野、半径10メートルに生じる『線』の上に足を置くことで、Gを伴わない加速を得る。

 『線』以外はマグマ、一度でも踏み外せば棚上げしてきた反動が一気に身を襲い、即死となる――そう、『命を賭ける縛り』!

 

 

 

 だが――加速しきれていないのだ!

 

 

 

「やめろ! わかっているはずだ! 俺たちは一度会っている、敵じゃないんだ!」

 

 

 

 本来、その気になればソニックブームで周囲を蹴散らすくらいはできる術式を――殺しすぎないようにセーブしていた。

 

 とはいえ、命懸けなのに変わりはない。

 

 

 

「――黙れ! 見に来ただけで、なにもしてくれなかったクセに!」

 

「――甘尾様は、先陣を切って私達と一緒に戦ってくださった! その恩を返すんだ!」

 

「もっとだ! もっと固まれ!」

 

「陣形を崩すな! 行け!」

 

 

 

 ――槍衾(やりぶすま)。それが、長物の呪具を携えた民衆による攻撃。

 

 呪力を矛先に籠めて、動き回る禍福を包囲し、四方八方から振り回す。

 もはや技術など必要ない。どこかしらが引っかかればダメージになる。

 

 現に、少年の背をわずかに削ぎ――次の瞬間、持ち主諸共、陣形は見るも無惨に爆砕する。

 

 

 

(俺の、せいなのか――アイツより早く殺せていれば。あの時、ここを離れなければ。この街が壊れたのは、俺の――!?)

 

 

 

 彼等は術式を扱えるレベルではない。できた者は、とっくに彼等自身がクーデターで殺している。決して誰一人として、安曇野禍福の敵ではない。

 

 にもかかわらず、彼の対応は定まらない。

 時に峰打ちしたり、普通に首を吹っ飛ばしたりのどっちつかず。

 

 そんな、中途半端極まる痴態に対し、

 

 

 

「……ねェ。どうして、そうまでして頑張るの?」

 

 

 

 ――その、あまりの呪力量で狙われずにいた『呪いの呪霊』の残滓は、問う。

 ――かつて、己を(いか)した少年へ。

 

 

 

「そんな手間取る必要ないでしょ。こんなヤツら死んだって当然じゃない――ワタシを祓っておいて、どうしてこんな奴らに苦戦するのよ」

 

「……ッ!」

 

 

 

 返答の余裕などない。

 ないから、睨み返して彼は譲らない。

 

 

 

――ばっからし! ニンゲンって、そんな『縛り』持ってるわけ!?」

 

 

 

 そして。影帽子は、戦場に降り立つ。

 

 黒ずくめの呪力の塊が大気を沸き立たせる。

 誰でさえ手を出さなかった、どうあっても敵わないと見られた相手。

 

 そんな相手に――禍福は、矛先を向け対峙する。

 

 

 

 ――コイツが暴れる場合、抑えるのが俺達だ。

 ――『天逆鉾』は無いが、それでも――。

 

 などという、悲壮な覚悟は。

 

 

 

「あーもうっ! メンドくさいなァー!!」

 

 

 

 彼より早く、彼より迷いなく、彼を置き去って。

 『喇誑(ラテブラ)』は――殺すのでなく、周囲の群衆に、超高濃度の覇気(じゅりょく)を浴びせて気絶させていた。

 

 

 

「ヒトとして生きるには、こんなヤツらだって殺しちゃダメなんだもんなァー。あーも面倒くさい面倒くさい! ニンゲンって面倒くさい!」

 

 

 

 そのまま、群衆へと飛び込んで、二人よりも多く早く。

 拳に纏った高密度呪力でもって、一般人を次々と眠らせていく。

 

 

 

 ――『喇誑(ラテブラ)』の生得術式も『受愚戴転』であるが、呪術高専との契約により『縛られている』。

 

 だが、それでも呪力量が桁違いだ。

 手加減ができるほどに二人よりも強い。

 形勢逆転だ――どんなに敵が多かろうと、じき問題なく無力化されるだろう。

 

 

 

(なに、安心しかけてんだ――どこまで甘ったれてんだ、(おまえ)は――ッ!)

 

 

 

 止まりかけた足は、それでも走り出す。

 

 どんなに心が迷おうと、どんなに血を被ろうと。

 その身に得物を振るわぬ選択肢はなかった。

 その足は『線』を追い続けた。

 

 そう――『命を賭ける縛り』の術式。

 たった一歩が命を左右する術式。

 

 いつだって自殺行為にやつしてきた身は、その徹底的な条件付けに従っていた――そして仕事柄、禍福に殺人の躊躇はない。

 

 

 

(俺は、また分かっていなかった。また二人にやらせてしまった。もう守るべき人はここにいない――止まるな、できる事をやれ!)

 

 

 

 加速する疾走。自らの心を置き去ってまで駆動する天性の歯車。故に、その体は――。

 

 

 

「――――領域展開」

 

 

 

 大音量、メガホン越しに知らされた第二の試練に対し。

 コンマ2秒足らず、シン・影流『簡易領域』を展開していた。

 

 

 

「なぜ――俺たちを、巻き込まなかった!?」

 

 

 

 が、すぐに困惑が漏れる。

 

 摩天楼の頂点。演説の声が響いた地点。

 そこに生じた『領域』を仰いだ、束の間、

 

 

 

「「「「マジカルバーナナっ!!」」」」

 

 

 

 演説は、彼らなどそっちのけに――()()を開始した。

 

 

 

「バナナと言ったら黄色!」

 

「黄色と言ったらお芋!」

 

「お芋と言ったら――」

 

 

 

「あれって――うちの相伝、『連想呪法』じゃないか!?」

 

「えッ、あれってマジカルバナ……あー。カフクもそう言えば」

 

 

 

 こっちをチラと見る『喇誑(ラテブラ)』など気にする余裕はなかった。

 

 安曇野の過去を知る禍福にはわかる。

 あれは明らかに安曇野家の術式だ。

 だが、辛うじて残った資料から読み解いたに過ぎず、領域の効果までは知らない。

 

 しかも、領域に巻き込んだ人々に遊びをやらせているなんて。いったい何の企みが――。

 

 

 

「なんにせよ――領域はッ、外からの衝撃に弱い!!」

 

 

 

 禍福に対し、ここでも婪佳久の判断は早かった。

 

 即座に手を翳し、撃ち出す呪力放射は結界もろとも、ビルの上階を焼き切らんと奔った。

 

 だが――。

 

 

 

 

「低いと言ったら匍匐前進!」

 

「匍匐前進と言ったら陸自!」

 

「陸自と言ったら戦車!」

 

「戦車と言ったら――ぶッぐぁ!?」

 

 

 

 一歩先、詠唱は途切れる。

 大音量で響いた殺人の瞬間。

 

 それをもって、儀式は、修了条件を満たす。

 

 

 

「あいつ、儀式の詠唱ぶっち切った!?」

 

「やべっ――二人とも、俺に乗れッ!」

 

「えっいいの!? ハァイよろこんでッ

 

 

 

 嫌な予感に疎い呪術師なぞ居ない。黒と白の少女を米俵方式で抱え、禍福は走りだす。

 いよいよ全方位から傾れ込むパンピーなど構ってられない、なにせ!

 

 

 

「あの術式は――集団詠唱で式神(かいぶつ)を産み出すんだ!!」

 

「――――だーっはっはっは! 当たりも当たり、大当たりよ!!」

 

 

 

 爆ぜる領域。砕け散る結界。

 

 ――婪佳久のビーム到達よりも早く、卵は破られ。

 ――ビルそのものが、あまりの重みで崩壊していた!

 

 

 

「……な、な……!!!」

 

 

 

 空いた口が塞がらないとはこの事か。

 婪佳久と『喇誑(ラテブラ)』は、上から下へと落下したソレを目で追い、固まった。

 

 自ら領域(カラ)をブチ壊し、現れた、それは。

 

 ――あまりにも大きく、重厚で、迷彩色であった。カーズの如く、或いはトーマスが如き人面でもって、歯茎全開の笑みを浮かべる車体だった。

 

 そして――キャタピラ走行であった!

 

 

 

「『戦車』ぁ――っ!?!?!!?」

 

 

 

 ――連想呪法。

 それは、ひとつの呪詩を集団詠唱し、一体の式神を創出する術式。

 

 だが、安曇野甘尾は、現代技術だろうと節操なく取り入れる男。

 この詠唱方式に、たまたま符号した現代の遊び(マジカルバナナ)を採用し。

 

 結果――術者さえ何が出力されるかわからないという、不確定要素の縛りによって!

 

 

 

「そーだともォッ! 現代における文明の利器、駆らせてもらおうか――!!」

 

 

 

 詠唱動員数、31人の数だけ。人面戦車(しきがみ)の呪力量は――指数関数的に跳ね上がる!!

 





次回は24(水)です。

ちなみに甘尾は自分で設定した『不確定要素の縛り』を、良さげな単語が出たらソイツが言い切ったタイミングで殺し、儀式を強制終了させることで踏み倒してます。
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