【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
運営の介入によって破綻した城塞都市の秩序。
膨れ上がった悪意が、新東京高専の面々に牙を剥く。
「行けーっ市民達よ! 全ての元凶たる、高専術師に報復せよ!!」
演説に煽られた民意が牙を剥く。
これでもか全方位、雪崩れ込んでくる市民達。
「あの声さっきのヤツか。やっぱこうなるよね。しゃあないしゃぁない――
様々な呪具が角度を選ばず、真白の少女を血塗らんと迫るが――。
「見ろ! あのオンナ呪力ちっさいぜ! やっちまえ!」
「うおおお死ねっ!」
「くそッ、何であたらな――ぐぼぁ!?」
否。当たらなければ、どうということはない!
「――我流『
術式『
そして婪佳久は、受け取った呪力から逆算し、『負の感情』を感じ取れる!
この術は、その範囲を半径20メートルに『縛る』事による一時的な底上げ。周囲の呪力を即座に吸収し、攻撃の悉くを詳細に感じ取り、完璧な立ち回りを実現する。
加えて――『受愚戴転』は、自身の呪力特性を書き換えできる。
「からの、
今の婪佳久は、呪力放射に特化した術師である。
――大気中に霧散した呪力を、掴んで我が物とし、投げ付ける。
――
なるほど確かに、婪佳久自体の呪力量は四級術師のレベルだが――周囲の呪力を動員した場合は話が変わる。
「――ちりんちりーん♪ 15点を獲得したぜ!」
「ほうらほら! いっちばん(本体の)呪力が低いザコはここだよ~っ! さっさと殺しに来いッ!」
「「「こいつ……ッ!?」」」
むろん、近接においても隙は無い。
都合3本、自分を中心に廻る破壊の螺旋。
旋回し、加速していく
これら呪力出力は――等級にして、すべてが1級相当の域!
(今はもう、どうだっていい。こんなヤツらも――
もはや群衆に選択肢はなかった。
――死ぬと分かって『光輪』に飛び込むか。
――思わず足を止め――加速しきった呪力の『光線』に貫かれるか。
殺戮の連鎖が、絶命の叫びが、色濃すぎる悪感情の数々が。血で血を洗うが如く、少女の視野をドス黒く埋め尽くしていく。
(禍福さえ、生きられるなら――いくらでも。祓ってやる)
その、闇を祓って。少女は淀みなく殺意を廻す。
その服の白さが保たれていることが、何より躊躇いのなさを示していた。だから、
――対して、
「――禍福! わたしがやるッ、なんもしないで!!」
「――っ、いいや、そんな場合じゃねえだろ!」
――安曇野禍福に余裕など無かった。
加速をかけ、初速そのままに投擲剣を撒き散らし、悲鳴さえ許さぬ破壊を振り撒く。
――『
その効果、己に対する『仮想の速度』の付与。
彼の視野、半径10メートルに生じる『線』の上に足を置くことで、Gを伴わない加速を得る。
『線』以外はマグマ、一度でも踏み外せば棚上げしてきた反動が一気に身を襲い、即死となる――そう、『命を賭ける縛り』!
だが――加速しきれていないのだ!
「やめろ! わかっているはずだ! 俺たちは一度会っている、敵じゃないんだ!」
本来、その気になればソニックブームで周囲を蹴散らすくらいはできる術式を――殺しすぎないようにセーブしていた。
とはいえ、命懸けなのに変わりはない。
「――黙れ! 見に来ただけで、なにもしてくれなかったクセに!」
「――甘尾様は、先陣を切って私達と一緒に戦ってくださった! その恩を返すんだ!」
「もっとだ! もっと固まれ!」
「陣形を崩すな! 行け!」
――
呪力を矛先に籠めて、動き回る禍福を包囲し、四方八方から振り回す。
もはや技術など必要ない。どこかしらが引っかかればダメージになる。
現に、少年の背をわずかに削ぎ――次の瞬間、持ち主諸共、陣形は見るも無惨に爆砕する。
(俺の、せいなのか――アイツより早く殺せていれば。あの時、ここを離れなければ。この街が壊れたのは、俺の――!?)
彼等は術式を扱えるレベルではない。できた者は、とっくに彼等自身がクーデターで殺している。決して誰一人として、安曇野禍福の敵ではない。
にもかかわらず、彼の対応は定まらない。
時に峰打ちしたり、普通に首を吹っ飛ばしたりのどっちつかず。
そんな、中途半端極まる痴態に対し、
「……ねェ。どうして、そうまでして頑張るの?」
――その、あまりの呪力量で狙われずにいた『呪いの呪霊』の残滓は、問う。
――かつて、己を
「そんな手間取る必要ないでしょ。こんなヤツら死んだって当然じゃない――ワタシを祓っておいて、どうしてこんな奴らに苦戦するのよ」
「……ッ!」
返答の余裕などない。
ないから、睨み返して彼は譲らない。
「――ばっからし! ニンゲンって、そんな『縛り』持ってるわけ!?」
そして。影帽子は、戦場に降り立つ。
黒ずくめの呪力の塊が大気を沸き立たせる。
誰でさえ手を出さなかった、どうあっても敵わないと見られた相手。
そんな相手に――禍福は、矛先を向け対峙する。
――コイツが暴れる場合、抑えるのが俺達だ。
――『天逆鉾』は無いが、それでも――。
などという、悲壮な覚悟は。
「あーもうっ! メンドくさいなァー!!」
彼より早く、彼より迷いなく、彼を置き去って。
『
「ヒトとして生きるには、こんなヤツらだって殺しちゃダメなんだもんなァー。あーも面倒くさい面倒くさい! ニンゲンって面倒くさい!」
そのまま、群衆へと飛び込んで、二人よりも多く早く。
拳に纏った高密度呪力でもって、一般人を次々と眠らせていく。
――『
だが、それでも呪力量が桁違いだ。
手加減ができるほどに二人よりも強い。
形勢逆転だ――どんなに敵が多かろうと、じき問題なく無力化されるだろう。
(なに、安心しかけてんだ――どこまで甘ったれてんだ、
止まりかけた足は、それでも走り出す。
どんなに心が迷おうと、どんなに血を被ろうと。
その身に得物を振るわぬ選択肢はなかった。
その足は『線』を追い続けた。
そう――『命を賭ける縛り』の術式。
たった一歩が命を左右する術式。
いつだって自殺行為にやつしてきた身は、その徹底的な条件付けに従っていた――そして仕事柄、禍福に殺人の躊躇はない。
(俺は、また分かっていなかった。また二人にやらせてしまった。もう守るべき人はここにいない――止まるな、できる事をやれ!)
加速する疾走。自らの心を置き去ってまで駆動する天性の歯車。故に、その体は――。
「――――領域展開」
大音量、メガホン越しに知らされた第二の試練に対し。
コンマ2秒足らず、シン・影流『簡易領域』を展開していた。
「なぜ――俺たちを、巻き込まなかった!?」
が、すぐに困惑が漏れる。
摩天楼の頂点。演説の声が響いた地点。
そこに生じた『領域』を仰いだ、束の間、
「「「「マジカルバーナナっ!!」」」」
演説は、彼らなどそっちのけに――
「バナナと言ったら黄色!」
「黄色と言ったらお芋!」
「お芋と言ったら――」
「あれって――うちの相伝、『連想呪法』じゃないか!?」
「えッ、あれってマジカルバナ……あー。カフクもそう言えば」
こっちをチラと見る『
安曇野の過去を知る禍福にはわかる。
あれは明らかに安曇野家の術式だ。
だが、辛うじて残った資料から読み解いたに過ぎず、領域の効果までは知らない。
しかも、領域に巻き込んだ人々に遊びをやらせているなんて。いったい何の企みが――。
「なんにせよ――領域はッ、外からの衝撃に弱い!!」
禍福に対し、ここでも婪佳久の判断は早かった。
即座に手を翳し、撃ち出す呪力放射は結界もろとも、ビルの上階を焼き切らんと奔った。
だが――。
「低いと言ったら匍匐前進!」
「匍匐前進と言ったら陸自!」
「陸自と言ったら戦車!」
「戦車と言ったら――ぶッぐぁ!?」
一歩先、詠唱は途切れる。
大音量で響いた殺人の瞬間。
それをもって、儀式は、修了条件を満たす。
「あいつ、儀式の詠唱ぶっち切った!?」
「やべっ――二人とも、俺に乗れッ!」
「えっいいの!? ハァイよろこんでッ♡」
嫌な予感に疎い呪術師なぞ居ない。黒と白の少女を米俵方式で抱え、禍福は走りだす。
いよいよ全方位から傾れ込むパンピーなど構ってられない、なにせ!
「あの術式は――集団詠唱で
「――――だーっはっはっは! 当たりも当たり、大当たりよ!!」
爆ぜる領域。砕け散る結界。
――婪佳久のビーム到達よりも早く、卵は破られ。
――ビルそのものが、あまりの重みで崩壊していた!
「「……な、な……!!!」」
空いた口が塞がらないとはこの事か。
婪佳久と『
自ら
――あまりにも大きく、重厚で、迷彩色であった。カーズの如く、或いはトーマスが如き人面でもって、歯茎全開の笑みを浮かべる車体だった。
そして――キャタピラ走行であった!
「「『戦車』ぁ――っ!?!?!!?」」
――連想呪法。
それは、ひとつの呪詩を集団詠唱し、一体の式神を創出する術式。
だが、安曇野甘尾は、現代技術だろうと節操なく取り入れる男。
この詠唱方式に、たまたま符号した
結果――術者さえ何が出力されるかわからないという、不確定要素の縛りによって!
「そーだともォッ! 現代における文明の利器、駆らせてもらおうか――!!」
詠唱動員数、31人の数だけ。
次回は24(水)です。
ちなみに甘尾は自分で設定した『不確定要素の縛り』を、良さげな単語が出たらソイツが言い切ったタイミングで殺し、儀式を強制終了させることで踏み倒してます。