【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
南北朝時代、呪術御三家を打ち負かした男・安曇野甘尾。その領域を突き破って出でた『戦車の式神』が、禍福一行に襲いかかる!
我が生涯、我が一挙手一投足は打算でしかなかった。
そのことに何ら後悔はない。すべては愛する我が家、安曇野の繁栄がため。
だが。安曇野ゆえに思わずにはいられなかった。
――"遊び"なくして、なにが安曇野か、と!
そのための第二の生。
――しかし許せ、我が祖先たちよ。
それでも、試したくなった。挑みたくなったのだ。
安曇野禍福――我等が血筋の行き着いた、ひとつの未来を!
―
――
―――
「いやっほおおおお!」
「「「「「ぎゃああああ!!?」」」」」
摩天楼の頂点。領域を突き破って現れた『式神』が降り立ち、生じるクレーター。
波打つ地面に、弾き飛ばされる大衆!
「善い! 善いぞ! 儂史上、最高記録の出来栄えだ! ありがとう諸君、君たちのリーダーは、こんなにも強くなった!!」
それでも、喝采は沸いていた。
咽び泣く者さえ居た。
安曇野甘尾は街の格差を助長した者。
その恩恵に預かったイエスマンも数知れず。
逃げ惑う大多数に反して、彼らは拍手喝采を叫び――。
(いいや! アイツはたとえイエスマンでも適当な理由で間引いてくるんだ! 信じられっか!)
否――それらは、恐怖政治により染みついた笑うフリ!
彼の取り巻きであろうとも、笑顔をかなぐり捨て、逃げ出す男がいた。盲信なんぞ、疑心暗鬼に満ちた彼らに何故出来ようか。
そして――疑いは、正しかった。
「さぁ、我が威光を仰み見よッ――
誰であろうとも――平等に、呪力の
さながら、悪ノリで回された遊園地のティーカップが如く、愚鈍なる者等をひき殺しながら。
戦車型式神は、その上体をぐるぐると巡らせ、砲身を向け回る!
「20、40、70点! あーっはっはっは! ポイントとは嬉しいモノよのぉ! もっとだ、もっと寄越せいっ!!」
破壊を振り撒き、狂笑する人面戦車。
誰も手のつけようがない一方的殺戮!
その災害に――、
「あーっもったいないーッ!」
空気を読まない、声が響いた。
「なぬ――こやつ、呪霊のクセして人を守るか!」
呪力の『波』が。周囲一帯、薄っトロい民衆を押し流し、軒並み射程外へと追いやる。
だが人面戦車はなんのその、モーセが如く大波を切り開いて前進し!
――呪いの呪霊の『残穢』と、激突する!
「そりゃあニンゲン、今際の際には善行するもんでしょ!」
「ええいっ、なんにせよ珍重なぁ――!!」
少女の形をした、ドス黒い呪力の塊。
全身を高専制服で縛られた『残穢』。
とってつけたような笑顔の仮面。
恐るべきかな――『
キャタピラと足で、牙と拳でもって、己が強大さをぶつけ合う両者!
――そこへ。間隙を縫って滑り込んだのは――呪力の
「あっぶないのぉ!?」
地面を掘削して軌道を描き、迫り来る破壊の螺旋。
カスっただけでも横転不可避の速度と威力の両立、対して。
「あッちょ、ズルいぞ〜! 逃げんなーっ!」
甘尾は、戦車のくせに装甲をパージし、直撃を回避。
式神本体に掘削が及ぶのを避け、背後へ飛び退いだ。
「さては……あの、女か!」
そう。これは
婪佳久による『
それも――先読みしたが如き、包囲網を形成するほどの!
「ええいっ、数だけは揃えおってからに――!」
さながら槍衾。
意趣返しだというなら、あまりにも狡猾な弾幕の雨。
どんなに動こうと、どこかしらが巻き込まれ、ねじ切られて破砕する。
直撃すれば防御不能。そう判断するや否や。
「――コガネぃ! 40点消費!」
「あいよーっ!」
『点』を消費して得る、呪力のドーピングによって防御を固めた。
ここにきて、ようやく発揮される戦車としての耐久性。そして、
「――
――負けじと、飛ばされる収束呪力放射!
サーカスを描く光線の雨霰は、空へと打ち上がり、曲がり落ちて――遥か遠方。爆散と共に、アスファルトは瞬時に蒸発した!
だがしかし!
「や〜いオジサンざっこー! もっとキッチリ狙って来いッ!!」
「……調子に乗りおってからに」
紙一重、というには汗ひとつ流すことなく。
真白の少女は走って躱し、休まず弾幕を放ち続けていた。
出の速さと手数、それだけは婪佳久の優利であった。
しかしながら素体の差は埋まらない。余裕ぶっているが、あと何度レーザーの熱量に耐えきれるものか。
故に、安曇野甘尾は冷徹に砲撃を続行し――。
――それ故に。少年は、鬼札となりえた。
「――止めろぉおおお!!!」
「なんと――!?」
――五条悟を除く、令和『最速』の術師。
――安曇野禍福は踊りかかる。
威力はズバリ、速さと重さ!
距離は一瞬で無となり、その一撃は。
真正面から、車体を揺るがす!
(けったいな呪具を持ち出したな。衝突のインパクトが、そのまま呪力になり、破壊力に転じた!)
――呪具『竜骨・改』。
頑丈さは皆無ながら、受けた衝撃を即座に呪力として吐き出す事で、絶対に壊れない妖刀。
なんたる鬼に金棒ぶりか。そんなものを亜音速で振るえば、そりゃあ超威力が量産できよう!
「――このまま、叩き出してやる!!」
「やりおるではないか、それでこその『最速』よ!」
縦横無尽、行き交う斬撃が火花を散らす。
人面戦車に、威力となって叩き込まれる少年の全力疾走。
もはや距離を取る取らないの話ではない、瞬きの間もなく、気づいた時には懐に踏み入ってくる!
「そうらキリキリ舞えいっ、この程度で止まっては先が立たぬぞ!」
「なんだって、こんな事をした! この街になんの恨みがあって!!」
「知れた事を、困るのだよ! デスゲーム中だというのに平和を保たれては――故に
「俺はッ、こんな
だが、『線』から落ちれば即死。
一度でも押し返されれば禍福は負ける。
その一点で、振り回される甘尾は彼との競り合いを演じていた。
――それだけではない。
この呪具を持つ禍福は、必然的に近接以外の選択肢をなくし――あの
安曇野禍福の役割は、もっぱら前衛での翻弄だ。
速度で囮となり、婪佳久の大砲を通す。
だが、これでは的に近すぎる!
なまじ強いが故にムキになっている!
「いいぞ少年、遊びはムキになってこそよのお! だーっはっは!」
「――ッ!」
「……ク!」
挑発され、安曇野禍福の怒りはより加速し――もう一歩、踏み込む。
「……フク!」
「――遊びでやってんじゃ、ねぇッ!!」
「なぬ――!?」
跳躍。それ即ち、二次元の競り合いに対する、三次元からの襲撃。
人面戦車の頭上へとジャンプした少年は、死角から串刺しにせんと下を向き、
思い知った。迂闊であったと。
「なぁんちゃって⭐︎
「な――!?」
戦車のくせに、
戦車のくせに、ばっちり真上へ向けられた
そう、これは戦車風の式神――ただの戦車ではない!
(まずい、こうなったら二段ジャンプしかない。はやく、はやく『面』を見出さないと――!)
「連れ帰るにも、その足くらいは切り落とさねばなぁ――
虚をつかれ、それは致命となる。
もはや、少年には逃れようがな――!
「――カフクっ! 危ないって言ってんでしょーがぁっ!!」
「おわ!?」
「ちょぉっ、空気読まぬかワレェ!」
――割って入る、『
回避が実現――その間隙、人面戦車にこれでもかと注がれる婪佳久の射撃。
「なに正直に突っ込んでんのバカ禍福、周り見てッ!!」
「すま――っ、『
「いよっしゃい! 好感度ポイントアップいただきました〜ンッ♪」
禍福の一級権限によって、
即座、『
「手始めにぃ――溶かす!」
「どわ!? なんじゃこれは、車体が! キャタピラまでもがぬめりおる!?」
――呪力特性『酸』。
式神の構成要素を分析したことで、それを分解させる毒液の呪力が。
これでもかと、人面戦車に塗りたくられ!
「ええい止めい! やめろ!
「効かないねぇ、ゴムだから!!」
「なんですと――ォ!?」
――呪力特性『弾性』。
突如、黒い少女の両拳に纏う呪力は変質――貫かれるべきレーザーを受け止め、ぐにょーんと伸びる呪力でもって受け止め!
再度、特性は塗り変わる。
「不良品につき、ご返品いたしまーっす!」
「あば――ッ! それは勘弁ッ!?」
呪力特性『鏡』――吸収しきれなかったぶん、45%の光線が『跳弾』し、人面戦車の面目を潰す!
そう、これぞ『受愚戴転』。あらゆる呪いを自己に置き換える――呪いの体現!
「攻略法みーっけ! さあ二人とも! このまま畳み掛けていこーッ♪」
「「言われなくても!!」」
すかさず、安曇野禍福と婪佳久は追撃に走った。
最速の斬撃、角度を選ばぬ弾幕の共演。
完全なる包囲網の完成に――さしもの安曇野甘尾にも、緊張が走った。
(ええいどうしたものか。遠距離攻撃は防がれ狙撃され放題! 包囲を抜けようにも速度で負けておる。何より、この狙撃がウザったらしい!)
――仮にも、『呪いの呪霊』のなり損ないと。
――それを真正面から祓った二人の呪術師。
彼らが束になってかかってきているのだ。
並の術師ならば、この時点で諦めるだろう。
だが――安曇野甘尾は、違う。
「ちょ、カフク危ないってば!」
「っ――婪佳久、さっきから俺らにも当たってないか!?」
「だっから、射線に入るなっていってんだろーがァ!」
そう――どんな逆境も、見方次第。
その中で、アガリを見出してこそ。
それこそが――安曇野家八代目当主の生き様故に!!
「安曇野禍福よ! 我ら運営が呉越同舟しておる『三馬鹿』とは何か、知りたくはないか!?」
「なにを――!?」
「よろしい、優しいオジさんが教えてしんぜよう!」
スピーカーを全開に。
人面戦車はあえて余裕たっぷりの声音で。
威風堂々と、叫んだ。
「そう、第二次・死滅回游の発起人は安曇野と――五条・加茂・禪院の
「「――――!?」」
「はひ?」
――来た! 見た!
そう、このアガリを待っていた――!
「今だあッ、
「って、また危なーいッ!」
「んぶ!?」
一瞬の間隙。刹那の空白。
そこを、人面戦車は押し通る。
ジェット噴射を全開に、スリップ状態のキャタピラをあえて滑らせ!
もはや一般人など残っていない、無人の道を、障害なく直走る!
狙うは、あのスナイパー!
「コガネぃ! もう一度40点をブーストだ!」
「あいよっ!」
溶けかけた装甲の防御力は呪力でカバー。
――あの女の貫通力は半端ではないが、この中で最もスピードで劣る。叩くならばヤツだ。
――ヤツさえいなければ、こちらとて防御を割かずに済む!
「――やめろ! 婪佳久に近づくな――!」
だがやはり、スピード筆頭が追い縋る。
速度対決では、こちらに勝ち目はない。
けれども――こういう時こそ、余裕たっぷりに、人面戦車は少年を睥睨した!
「まだ言うか! わからんのか、あれこそが! 女の形をしただけの『呪い』であろう!!」
「貴様に、婪佳久の何が――!」
「――逆に問おう安曇野禍福。貴様こそ、あの女が何者であるか分かっておらんのではないか!?」
「――、っ!」
より大きく、声を張り上げる。
より如実に、笑みは深まる。
少年の頬を強張らせた何か。
少年の目を剥かせた、覚えのある反応!
引き出した逡巡。その刹那、ここぞとばかりに!
「隙ありッ――
「しま――!?」
炸裂する光が。爆発が。盛大に、突っ走る痩身をコースアウトへと導く!
『
「我が時代は、全てが! 天皇様のお立場でさえもが揺らぐ、混沌の世であった! されどもな――貴様のような目をした者はいなかったぞ、女!!!」
「……っ、――ブチ
婪佳久と。人面戦車の視線がかちあう。
口撃に、真白の少女は息を呑み、だがすぐに余分を削り、尖らせた思考で最善を選んだ。
「――我流『受愚戴転』・『
――婪佳久は、呪力の『負の感情』を感じとる異常体質である。
――そして、『受愚戴転』は漏出された呪力を吸収する。
その範囲を、周囲20メートルに『縛る』ことで吸収を速め、探知精度は底上げされる。
(周囲一帯に術が敷かれた。『簡易領域』のようなものか)
加えて、重なる掌の上、呪力が渦巻く。
――最大まで
なるほど。確かに――衝突の瞬間が秒読みの今、これ以上なく最適な手段だ。
(しかし――この後に及んでも、身体強化に一切の呪力を使わないとは!)
そう。恐ろしい事だが。
婪佳久は、
この瞬間まで防御を捨て、呪力全てを攻撃に投じて、相手の攻撃は全て『回避』してきた。
格上相手に、裸一貫で挑むような愚策。
けれども、この瞬間まで一貫させる凄まじい気骨。
極限まで余分のない瞳は。
硝子玉のように、ただ標的へ、安曇野甘尾以上の『呪い』の籠った視線を注ぐのみ。
――なんたる、
――なんたる、呪いの体現であろうか。
けれども――否、問題なし!
「――、うそ」
「――きひッ」
間近、少女の声が漏れたのを聞いた。
そりゃそうだろう、と人面戦車は嗤った。
なにせ――この式神と、安曇野甘尾は完全に同化している!
すなわち、戦車の中に、狙うべき本体など初めから存在しな――!
「残念だったなァ――
刹那――少女は、飛沫に変わった。
跳ねる体、即座、人面戦車は齧り付く。
ごりん、と石を削ったような音が響く。
撃たれた鳥が如く、白い毛が舞い散る。
遅れて、四散する血飛沫。
四肢の切れ端までもが、その口元から散乱していた。
「いよし! やったぞ!
そして、この一瞬を待っていた。
人面戦車は180度転回。
女相手には温存した――最大チャージの砲塔を、立ちすくむ少年に向ける。
「婪、かく……」
一ヶ月に渡る
短期決戦仕様の術式による長期連戦。
信じていた
安曇野甘尾による首謀者の暴露。
なにより、相棒との不和。
安曇野禍福の心はもう――限界を超えていた。
「らっ――ぁ、あっ」
止まったら死ぬマグロの静止。
むろん、甘尾の狙いは禍福殺害にあらず。
頽れた彼を守らんとする『残穢』、その一点――!
「出力最大。
――砲身は、盛大に折れ曲がり、爆散する。
ひとえに、人面戦車を突き破り顔を出した――『
―
――
―――
人面戦車もとい、戦車風式神もとい、安曇野甘尾の口内にて。
――ズタズタに噛み切られた少女は。
――だが、その『胴体』だけは即死に至らず。
血に塗れ、首のない口の奥、
「ひゅっ、う。ひゅッ、ぶ――」
四肢欠損で横たえていながら。
どくどくと赤いガソリンを垂れ流しながら。
あまりの痛さと苦しさで――笑えてくる。
初めて知った。人間、喉が切られたままでも叫べるらしい。
声は出せずとも、溢れかえる血がごぼごぼと、煩く震い立つ。
「いよし! やったぞ!
(馬ぁ鹿。残穢もなしに術師が消えっかよ……ま。叫んだの、バレてないならいっか)
――この『簡易領域』は呪力を極限まで撤廃した、いわば透明人間の内臓だ。
――この中の呪力を、ヤツは探知できない。
そして。こちらだけは、手に取るように挙動を把握できる。
「――す、ぅ――んじゃ、
真白の少女から、笑みさえもが抜け落ちた。
あえて治さずにいた喉を修復させ、同時、四肢にも『正の呪力』を回し、立ち上がる。
――今の婪佳久は
「第一呪力特性『正の呪力』、第二呪力特性『
受愚戴転は、いかなる呪力特性も構成を学習し『
よって彼女は、
この2つの特性に縛られた術式は――最大の自己治癒能力を発揮した。
範囲も限定していた。彼女は首と心臓と頭、即死部位にのみに限る『即興の縛り』で生存したのだ。
(――――この痛み。倍にして返す)
改めて、両手を重ねる。ここまで途切れる事なく続いた
――術式『受愚戴転』は、つまるところ呪力リソースでしかない。
婪佳久にできる攻撃手段は結局、呪力をぶつけること、だが――『摂取』の反転、『排出』の術式効果では、その限りではない。
「我流・受愚戴転――術式反転」
親指、人差し指と中指を立て、指鉄砲のように向けた先――白黒の呪力は流入し、煌々と渦巻く。
とはいえ、婪佳久の呪力運用効率は、肥大化した呪力出力量に見合ったものではない。技の成立過程には精緻さが足りない。実用性に欠けた火力だけの技。
現に、術の行使に総動員される
真白の肌を裂くように、
それは己の
けれども、向けられた
「――――『
この『簡易領域』内に使用を限定し、その『簡易領域』自体を壊して放つ、二つの『縛り』によって――結実する。
「出力最大。
刹那。芽吹いた竜巻が、人面戦車を突き抜けて開花した。
吹き荒ぶ激流が内部から構造を捲り上げ、掻き回し、壮絶に咲き乱れる。
「――思ってた通りッ! 確かに硬いけどよぉ、内部からは想定してねーんじゃあないかァ!?」
「なにっ、なんだぁっ!? これだけの呪力、いったいどこから――ッ!?」
負けじと、人面戦車は喰らいつく。
この場合、物理的に。
口内の婪佳久を――舌で転がし、何度でも、歯のギロチンを叩きつける!
「ぅツ、ごぷ――いっ――――てぇ、なぁぁあ! ぃははははははッ!!」
――嗤っていた。
策に溺れた策士を。肋骨の刺さった肺で、血の味に犯された喉で、ゲラゲラと白い女は嘲笑っていた。
――甘尾にとっては、理解不能であった。
――だって彼女の治癒速度は、あまりにも早すぎた。
無理もない──婪佳久の不死身さは、『大当たり』を当てた秤金次に次ぐのだ!
「ええぃ、なんなのだ! 省略は呪術の極み! 貴様のような
だが。結局のところ呪力量の差は絶対。
相手の呪力量は一級以上、こちらは四級程度。
このままやれば、婪佳久は噛み砕かれる。
――このままが、許される場面なら。
「こんだけお膳立てしてやったんだ! ――ブチ噛ませ、禍福!」
「しまっ――!?」
振り返る。
もう遅い。
『最速』を前に、その隙は、致命に他ならない。
「死ぬべきは、――オマエだぁぁあああッ!!」
「ぬおおおお――ッ!?」
音速突破間際。時速1000キロを超した、少年の怒りがブチ当たる。
戦車の人面は、木っ端微塵に砕け散り!
ドリルによって生じた亀裂が、甚大化する!
なにせ、安曇野禍福によって加速した『竜骨・改』の威力は――特級呪具『游雲』に匹敵する!
(こやつ、『点』でブーストした装甲を真正面から!?)
「ワタシも、忘れちゃ困るぞぉ〜っと!!」
「ぎぇええええ――ぁっ!?」
次いで、追いついた『
最高最適の統合呪力が車体を焼き!
――キャタピラが引き千切れ、車体がひっくり返り――そして!
「婪か――!」
外れた顎から、血の波に押し出される――白い少女。自然、少年の目は彼女を追い、
「――構うなッ!
――もはや、恐怖した。
真白の制服を血に染めてなお、着地や受け身よりも、
だが実際、呪術師として彼女はなんら間違ってなどいない。
(くそ、こんだけ撃ってるのに自己修復機能が勝るの、コイツ!?)
点数ブーストと本体性能、装甲の上から倒すには傷口を抉るしかない。だがこれだけやっても、自己修復によって塞がる方が早い!
今必要なのは総攻撃だ。それこそ禍福と『
キャタピラを徹底的に砕き、移動を封じた上で嬲り殺す。それだけがこの人面戦車の攻略法!
「ぐぬぬぬ――こうなればぁ、
「――ッ、させるかぁ!!」
これ以上やらせはしない。
その一点で心はひとつに。
踊りかかる三つの呪いが、その巨体を今度こそ潰さんと牙を剥き。
その、刹那。
――それらを上塗るモノが、それらよりも高くから、降り落ちた。
「――っ、避けてッ!!」
「なにっ!?」
「んばぁ――!? なんだ、今度はなんだぁっ!?」
衝撃波。吹っ飛ぶ三者。
いの一番に気づいた婪佳久は、着地し、顔をあげ、
「……、う、ぁ」
――恐怖が。声に出ていた。
つい先ほどまでの、勇猛果敢さなど消え失せていた。ただただ、震えを噛み殺し、逃げるしかないという結論で思考が埋め尽くされていた。
安曇野禍福もまた、ソレを見やり――同じ理解に至って、コガネに問う。
「……おい。なんだ、あのプレイヤーは」
それは、女だった。あまりにも、不自然なほど綺麗に整った『真球』を伴い、降り立った、女。
あれだけの敵を、なんでもないかのように足蹴にした――。
「あれは『
――平安猛者が。
逃れようのない殺意の具現が。
少年少女と残穢を、見下ろしていた。
激ヤバ女にはもっと激ヤバな女をぶつけんだよ!
次回は27(土)です。
【補足①・婪佳久の戦闘スタイルについて】
分かりにくかったかも知れませんが、やってることはかなりシンプルです。
①通常攻撃:『螺旋』を付与した呪力ビーム
→出所:大気中の呪力
②正の呪力による自己治癒
→出所:自身の呪力(4級程度)
③術式反転:『正の呪力』を込めた『螺旋』
→出所:大気中の呪力
※なお、身体の呪力強化は一切やれない『縛り』となっている。
【補足②・『受愚戴転』による呪力特性の書き換え】
この術式は、呪力特性を任意の内容に変更できます。
今では『呪力構成の学習』だとか条件ありきですが、本来なら無条件かつ自然にどんな呪いも吸い込む術式でした。
なんせ『呪いの呪霊』を作り出しかけた術式なので。
列島上の呪霊の7割に1個体が成り代わる、呪術世界に開いた池の水全部抜くレベルの大穴なので。
今のラテブラも婪佳久も、この術式の力は2、3割しか発揮できません。
【オマケ・2013年の安曇野のやらかしを知った時の甘尾の反応】
「えーッ何あんな見えてる地雷拾って実験とかしてんのじゃ我が子孫は!? バカなの死ぬの? あっもう死んでおったなガーッハッハ!! ……え〜マジ何やってんのよ無いわ〜……」