【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
南北朝時代、呪術御三家を打ち負かした男・安曇野甘尾。その領域を突き破って出でた『戦車の式神』が、禍福一行に襲いかかる!



第2部 15話『白き蟲蔵』

 

 我が生涯、我が一挙手一投足は打算でしかなかった。

 そのことに何ら後悔はない。すべては愛する我が家、安曇野の繁栄がため。

 

 だが。安曇野ゆえに思わずにはいられなかった。

 

 

 

 ――"遊び"なくして、なにが安曇野か、と!

 

 

 

 監督泳者(エリアマネージャー)に課された業務はあくまでもデスゲームの円滑化だ。補給物資(あらそいのタネ)を落とし、区画(ブロック)のゲーム環境を調整し、殺し合いの停滞を許さない。

 

 そのための第二の生。高専術師(ジャマもの)は、誰であれ排除せねばならない。

 

 

 

 ――しかし許せ、我が祖先たちよ。

 それでも、試したくなった。挑みたくなったのだ。

 

 安曇野禍福――我等が血筋の行き着いた、ひとつの未来を!

 

 

 

――

―――

 

 

 

「いやっほおおおお!」

 

「「「「「ぎゃああああ!!?」」」」」

 

 

 

 摩天楼の頂点。領域を突き破って現れた『式神』が降り立ち、生じるクレーター。

 

 波打つ地面に、弾き飛ばされる大衆!

 

 

 

「善い! 善いぞ! 儂史上、最高記録の出来栄えだ! ありがとう諸君、君たちのリーダーは、こんなにも強くなった!!」

 

 

 

 

 それでも、喝采は沸いていた。

 咽び泣く者さえ居た。

 

 安曇野甘尾は街の格差を助長した者。

 その恩恵に預かったイエスマンも数知れず。

 

 逃げ惑う大多数に反して、彼らは拍手喝采を叫び――。

 

 

 

(いいや! アイツはたとえイエスマンでも適当な理由で間引いてくるんだ! 信じられっか!)

 

 

 

 否――それらは、恐怖政治により染みついた笑うフリ!

 

 彼の取り巻きであろうとも、笑顔をかなぐり捨て、逃げ出す男がいた。盲信なんぞ、疑心暗鬼に満ちた彼らに何故出来ようか。

 

 そして――疑いは、正しかった。

 

 

 

「さぁ、我が威光を仰み見よッ――戦車(パンツァー)ッ・レェェェェェェザぁあああ!!」

 

 

 

 誰であろうとも――平等に、呪力の超収束砲射(レーザー)が焼き切った。

 

 さながら、悪ノリで回された遊園地のティーカップが如く、愚鈍なる者等をひき殺しながら。

 

 戦車型式神は、その上体をぐるぐると巡らせ、砲身を向け回る!

 

 

 

「20、40、70点! あーっはっはっは! ポイントとは嬉しいモノよのぉ! もっとだ、もっと寄越せいっ!!」

 

 

 

 破壊を振り撒き、狂笑する人面戦車。

 誰も手のつけようがない一方的殺戮!

 

 その災害に――、

 

 

 

「あーっもったいないーッ!」

 

 

 

 空気を読まない、声が響いた。

 

 

 

「なぬ――こやつ、呪霊のクセして人を守るか!」

 

 

 

 呪力の『波』が。周囲一帯、薄っトロい民衆を押し流し、軒並み射程外へと追いやる。

 

 だが人面戦車はなんのその、モーセが如く大波を切り開いて前進し!

 

 ――呪いの呪霊の『残穢』と、激突する!

 

 

 

「そりゃあニンゲン、今際の際には善行するもんでしょ!」

 

「ええいっ、なんにせよ珍重なぁ――!!」

 

 

 

 少女の形をした、ドス黒い呪力の塊。

 全身を高専制服で縛られた『残穢』。

 とってつけたような笑顔の仮面。

 

 恐るべきかな――『喇誑(ラテブラ)』の呪力は、領域で最大出力となった安曇野甘尾と互角!

 キャタピラと足で、牙と拳でもって、己が強大さをぶつけ合う両者!

 

 

 

 ――そこへ。間隙を縫って滑り込んだのは――呪力の()()()!!

 

 

 

「あっぶないのぉ!?」

 

 

 

 地面を掘削して軌道を描き、迫り来る破壊の螺旋。

 カスっただけでも横転不可避の速度と威力の両立、対して。

 

 

 

「あッちょ、ズルいぞ! 逃げんなーっ!」

 

 

 

 甘尾は、戦車のくせに装甲をパージし、直撃を回避。

 式神本体に掘削が及ぶのを避け、背後へ飛び退いだ。

 

 

 

「さては……あの、女か!」

 

 

 

 そう。これは喇誑(ラテブラ)からの攻撃ではない。

 

 婪佳久による『螺旋(ドリル)』のホーミングレーザー。

 それも――先読みしたが如き、包囲網を形成するほどの!

 

 

 

「ええいっ、数だけは揃えおってからに――!」

 

 

 

 さながら槍衾。

 意趣返しだというなら、あまりにも狡猾な弾幕の雨。

 どんなに動こうと、どこかしらが巻き込まれ、ねじ切られて破砕する。

 

 直撃すれば防御不能。そう判断するや否や。

 

 

 

「――コガネぃ! 40点消費!」

 

「あいよーっ!」

 

 

 

 『点』を消費して得る、呪力のドーピングによって防御を固めた。

 ここにきて、ようやく発揮される戦車としての耐久性。そして、

 

 

 

 

「――戦車(パンツァー)ーッ! ホォオオミング・レエェエ↑ザアア↓!」

 

 

 

 ――負けじと、飛ばされる収束呪力放射!

 

 サーカスを描く光線の雨霰は、空へと打ち上がり、曲がり落ちて――遥か遠方。爆散と共に、アスファルトは瞬時に蒸発した!

 

 

 

 だがしかし!

 

 

 

「や〜いオジサンざっこー! もっとキッチリ狙って来いッ!!」

 

「……調子に乗りおってからに」

 

 

 

 紙一重、というには汗ひとつ流すことなく。

 真白の少女は走って躱し、休まず弾幕を放ち続けていた。

 

 出の速さと手数、それだけは婪佳久の優利であった。

 しかしながら素体の差は埋まらない。余裕ぶっているが、あと何度レーザーの熱量に耐えきれるものか。

 

 故に、安曇野甘尾は冷徹に砲撃を続行し――。

 

 

 

 ――それ故に。少年は、鬼札となりえた。

 

 

 

「――止めろぉおおお!!!」

 

「なんと――!?」

 

 

 

 ――五条悟を除く、令和『最速』の術師。

 ――安曇野禍福は踊りかかる。

 

 威力はズバリ、速さと重さ!

 距離は一瞬で無となり、その一撃は。

 

 真正面から、車体を揺るがす!

 

 

 

(けったいな呪具を持ち出したな。衝突のインパクトが、そのまま呪力になり、破壊力に転じた!)

 

 

 

 ――呪具『竜骨・改』。

 頑丈さは皆無ながら、受けた衝撃を即座に呪力として吐き出す事で、絶対に壊れない妖刀。

 

 なんたる鬼に金棒ぶりか。そんなものを亜音速で振るえば、そりゃあ超威力が量産できよう!

 

 

 

「――このまま、叩き出してやる!!」

 

「やりおるではないか、それでこその『最速』よ!」

 

 

 

 縦横無尽、行き交う斬撃が火花を散らす。

 人面戦車に、威力となって叩き込まれる少年の全力疾走。

 

 もはや距離を取る取らないの話ではない、瞬きの間もなく、気づいた時には懐に踏み入ってくる!

 

 

 

「そうらキリキリ舞えいっ、この程度で止まっては先が立たぬぞ!」

 

「なんだって、こんな事をした! この街になんの恨みがあって!!」

 

「知れた事を、困るのだよ! デスゲーム中だというのに平和を保たれては――故に運営(われわれ)が手ずから壊してやったのだ! 貴様こそ軍門に降るがいい、我が子孫!」

 

「俺はッ、こんな未来(こと)なんて望んでいない――ッ!」

 

 

 

 だが、『線』から落ちれば即死。

 一度でも押し返されれば禍福は負ける。

 

 その一点で、振り回される甘尾は彼との競り合いを演じていた。

 

 

 

 ――それだけではない。

 

 この呪具を持つ禍福は、必然的に近接以外の選択肢をなくし――あの狙撃手(おんな)の邪魔になる。

 

 安曇野禍福の役割は、もっぱら前衛での翻弄だ。

 速度で囮となり、婪佳久の大砲を通す。

 

 だが、これでは的に近すぎる!

 なまじ強いが故にムキになっている!

 

 

 

「いいぞ少年、遊びはムキになってこそよのお! だーっはっは!」

 

「――ッ!」

 

「……ク!」

 

 

 

 挑発され、安曇野禍福の怒りはより加速し――もう一歩、踏み込む。

 

 

 

「……フク!」

 

「――遊びでやってんじゃ、ねぇッ!!」

 

「なぬ――!?」

 

 

 

 跳躍。それ即ち、二次元の競り合いに対する、三次元からの襲撃。

 人面戦車の頭上へとジャンプした少年は、死角から串刺しにせんと下を向き、

 

 思い知った。迂闊であったと。

 

 

 

「なぁんちゃって⭐︎ 戦車(パンツァー)・ジャアアンプ!」

 

「な――!?」

 

 

 

 戦車のくせに、両脚(キャタピラ)を屈めて弾みをつけ。

 戦車のくせに、ばっちり真上へ向けられた人面(かお)が牙を剥く。

 

 そう、これは戦車風の式神――ただの戦車ではない!

 

 

 

(まずい、こうなったら二段ジャンプしかない。はやく、はやく『面』を見出さないと――!)

 

「連れ帰るにも、その足くらいは切り落とさねばなぁ――戦車(パンツァー)・キイイィック!!」

 

 

 

 虚をつかれ、それは致命となる。

 もはや、少年には逃れようがな――!

 

 

 

――カフクっ! 危ないって言ってんでしょーがぁっ!!」

 

「おわ!?」

 

「ちょぉっ、空気読まぬかワレェ!」

 

 

 

 ――割って入る、『喇誑(ラテブラ)』の手によって。

 回避が実現――その間隙、人面戦車にこれでもかと注がれる婪佳久の射撃。

 

 

 

「なに正直に突っ込んでんのバカ禍福、周り見てッ!!」

 

「すま――っ、『喇誑(ラテブラ)』! 第一拘束限定解除! 術式解放だ!」

 

「いよっしゃい! 好感度ポイントアップいただきましたンッ

 

 

 

 禍福の一級権限によって、拘束具(せいふく)が緩む。長袍(チャンパオ)の長袖は縦に裂け、あらわになる呪霊の拳。

 

 即座、『喇誑(ラテブラ)』は畳みかける。限定開放された『受愚戴転』――その効果、学習した呪力特性の模倣によって。

 

 

 

「手始めにぃ――溶かす!」

 

「どわ!? なんじゃこれは、車体が! キャタピラまでもがぬめりおる!?」

 

 

 

 ――呪力特性『酸』。

 式神の構成要素を分析したことで、それを分解させる毒液の呪力が。

 

 これでもかと、人面戦車に塗りたくられ!

 

 

 

「ええい止めい! やめろ! 戦車(パンツァー)・レェザァーッ!!」

 

「効かないねぇ、ゴムだから!!」

 

「なんですと――ォ!?」

 

 

 

 ――呪力特性『弾性』。

 突如、黒い少女の両拳に纏う呪力は変質――貫かれるべきレーザーを受け止め、ぐにょーんと伸びる呪力でもって受け止め!

 

 再度、特性は塗り変わる。

 

 

 

「不良品につき、ご返品いたしまーっす!」

 

「あば――ッ! それは勘弁ッ!?」

 

 

 

 呪力特性『鏡』――吸収しきれなかったぶん、45%の光線が『跳弾』し、人面戦車の面目を潰す!

 

 そう、これぞ『受愚戴転』。あらゆる呪いを自己に置き換える――呪いの体現!

 

 

 

「攻略法みーっけ! さあ二人とも! このまま畳み掛けていこーッ♪」

 

「「言われなくても!!」」

 

 

 

 すかさず、安曇野禍福と婪佳久は追撃に走った。

 最速の斬撃、角度を選ばぬ弾幕の共演。

 完全なる包囲網の完成に――さしもの安曇野甘尾にも、緊張が走った。

 

 

 

(ええいどうしたものか。遠距離攻撃は防がれ狙撃され放題! 包囲を抜けようにも速度で負けておる。何より、この狙撃がウザったらしい!)

 

 

 

 ――仮にも、『呪いの呪霊』のなり損ないと。

 ――それを真正面から祓った二人の呪術師。

 

 彼らが束になってかかってきているのだ。

 並の術師ならば、この時点で諦めるだろう。

 

 

 

 だが――安曇野甘尾は、違う。

 

 

 

「ちょ、カフク危ないってば!」

 

「っ――婪佳久、さっきから俺らにも当たってないか!?」

 

「だっから、射線に入るなっていってんだろーがァ!」

 

 

 

 そう――どんな逆境も、見方次第。

 その中で、アガリを見出してこそ。

 

 それこそが――安曇野家八代目当主の生き様故に!!

 

 

 

「安曇野禍福よ! 我ら運営が呉越同舟しておる『三馬鹿』とは何か、知りたくはないか!?」

 

「なにを――!?」

 

「よろしい、優しいオジさんが教えてしんぜよう!」

 

 

 

 スピーカーを全開に。

 人面戦車はあえて余裕たっぷりの声音で。

 

 威風堂々と、叫んだ。

 

 

 

「そう、第二次・死滅回游の発起人は安曇野と――五条・加茂・禪院の()()()()である!」

 

「「――――!?」」

 

「はひ?」

 

 

 

 ――来た! 見た!

 そう、このアガリを待っていた――!

 

 

 

「今だあッ、戦車(パンツァー)・ダァァアッシュ!!」

 

「って、また危なーいッ!」

 

「んぶ!?」

 

 

 

 一瞬の間隙。刹那の空白。

 そこを、人面戦車は押し通る。

 

 ジェット噴射を全開に、スリップ状態のキャタピラをあえて滑らせ!

 

 もはや一般人など残っていない、無人の道を、障害なく直走る!

 

 

 

 狙うは、あのスナイパー!

 

 

 

「コガネぃ! もう一度40点をブーストだ!」

 

「あいよっ!」

 

 

 

 溶けかけた装甲の防御力は呪力でカバー。

 螺旋(ドリル)の雨霰を、真正面から突っ切って前進する!

 

 ――あの女の貫通力は半端ではないが、この中で最もスピードで劣る。叩くならばヤツだ。

 ――ヤツさえいなければ、こちらとて防御を割かずに済む!

 

 

 

「――やめろ! 婪佳久に近づくな――!」

 

 

 

 だがやはり、スピード筆頭が追い縋る。

 

 速度対決では、こちらに勝ち目はない。

 けれども――こういう時こそ、余裕たっぷりに、人面戦車は少年を睥睨した!

 

 

 

「まだ言うか! わからんのか、あれこそが! 女の形をしただけの『呪い』であろう!!」

 

「貴様に、婪佳久の何が――!」

 

「――逆に問おう安曇野禍福。貴様こそ、あの女が何者であるか分かっておらんのではないか!?」

 

「――、っ!」

 

 

 

 より大きく、声を張り上げる。

 より如実に、笑みは深まる。

 

 少年の頬を強張らせた何か。

 少年の目を剥かせた、覚えのある反応!

 

 引き出した逡巡。その刹那、ここぞとばかりに!

 

 

 

「隙ありッ――戦車(パンツァー)・焼夷弾!!」

 

「しま――!?」

 

 

 

 炸裂する光が。爆発が。盛大に、突っ走る痩身をコースアウトへと導く!

 

 『喇誑(ラテブラ)』が受け止め、即死こそ免れたようだが――これで、今度こそ遮る者はいない!

 

 

 

「我が時代は、全てが! 天皇様のお立場でさえもが揺らぐ、混沌の世であった! されどもな――貴様のような目をした者はいなかったぞ、女!!!」

 

「……っ、――ブチ(ころ)す!」

 

 

 

 婪佳久と。人面戦車の視線がかちあう。

 

 口撃に、真白の少女は息を呑み、だがすぐに余分を削り、尖らせた思考で最善を選んだ。

 

 

 

「――我流『受愚戴転』・『虞針鞍(クチクラ)』」

 

 

 

 ――婪佳久は、呪力の『負の感情』を感じとる異常体質である。

 ――そして、『受愚戴転』は漏出された呪力を吸収する。

 

 その範囲を、周囲20メートルに『縛る』ことで吸収を速め、探知精度は底上げされる。

 

 

 

(周囲一帯に術が敷かれた。『簡易領域』のようなものか)

 

 

 

 加えて、重なる掌の上、呪力が渦巻く。

 

 ――最大まで収束(チャージ)した出力で、目前の式神から『本体』を見出し、ピンポイントで貫く。

 なるほど。確かに――衝突の瞬間が秒読みの今、これ以上なく最適な手段だ。

 

 

 

(しかし――この後に及んでも、身体強化に一切の呪力を使わないとは!)

 

 

 

 そう。恐ろしい事だが。

 

 婪佳久は、()()()()()()()()()()()()()()()。完全な生身。

 この瞬間まで防御を捨て、呪力全てを攻撃に投じて、相手の攻撃は全て『回避』してきた。

 

 格上相手に、裸一貫で挑むような愚策。

 けれども、この瞬間まで一貫させる凄まじい気骨。

 

 

 

 極限まで余分のない瞳は。

 硝子玉のように、ただ標的へ、安曇野甘尾以上の『呪い』の籠った視線を注ぐのみ。

 

 

 

 ――なんたる、(おぞ)ましさか。

 ――なんたる、呪いの体現であろうか。

 

 けれども――否、問題なし!

 

 

 

「――、うそ」

 

「――きひッ」

 

 

 

 間近、少女の声が漏れたのを聞いた。

 そりゃそうだろう、と人面戦車は嗤った。

 

 なにせ――この式神と、安曇野甘尾は完全に同化している!

 すなわち、戦車の中に、狙うべき本体など初めから存在しな――!

 

 

 

「残念だったなァ――戦車(パンツァー)・タァァアックル!!」

 

 

 

 刹那――少女は、飛沫に変わった。

 

 跳ねる体、即座、人面戦車は齧り付く。

 ごりん、と石を削ったような音が響く。

 撃たれた鳥が如く、白い毛が舞い散る。

 

 遅れて、四散する血飛沫。

 

 四肢の切れ端までもが、その口元から散乱していた。

 

 

 

「いよし! やったぞ! ()()()女の呪力は消えた!」

 

 

 

 そして、この一瞬を待っていた。

 人面戦車は180度転回。

 女相手には温存した――最大チャージの砲塔を、立ちすくむ少年に向ける。

 

 

 

「婪、かく……」

 

 

 

 一ヶ月に渡る無休業務(デスゲーム)

 短期決戦仕様の術式による長期連戦。

 信じていた秩序(まち)の崩壊。

 安曇野甘尾による首謀者の暴露。

 

 なにより、相棒との不和。

 

 

 

 安曇野禍福の心はもう――限界を超えていた。

 

 

 

「らっ――ぁ、あっ」

 

 

 

 止まったら死ぬマグロの静止。

 むろん、甘尾の狙いは禍福殺害にあらず。

 頽れた彼を守らんとする『残穢』、その一点――!

 

 

 

「出力最大。戦車(パンツァー)・レェェェェェェザ、――ぁあああっ!?」

 

 

 

 ――砲身は、盛大に折れ曲がり、爆散する。

 ひとえに、人面戦車を突き破り顔を出した――『竜巻(ドリル)』によって!!

 

 

 

――

―――

 

 

 

 人面戦車もとい、戦車風式神もとい、安曇野甘尾の口内にて。

 

 ――ズタズタに噛み切られた少女は。

 ――だが、その『胴体』だけは即死に至らず。

 

 血に塗れ、首のない口の奥、空白地帯(のどもと)にまで逃げ延び――我流『簡易領域』を展開していた!

 

 

 

「ひゅっ、う。ひゅッ、ぶ――」

 

 

 

 四肢欠損で横たえていながら。

 どくどくと赤いガソリンを垂れ流しながら。

 あまりの痛さと苦しさで――笑えてくる。

 

 初めて知った。人間、喉が切られたままでも叫べるらしい。

 声は出せずとも、溢れかえる血がごぼごぼと、煩く震い立つ。

 

 

 

「いよし! やったぞ! ()()に女の呪力は消えた!」

 

(馬ぁ鹿。残穢もなしに術師が消えっかよ……ま。叫んだの、バレてないならいっか)

 

 

 

 ――この『簡易領域』は呪力を極限まで撤廃した、いわば透明人間の内臓だ。

 ――この中の呪力を、ヤツは探知できない。

 

 そして。こちらだけは、手に取るように挙動を把握できる。

 

 

 

「――す、ぅ――んじゃ、()ろう」

 

 

 

 真白の少女から、笑みさえもが抜け落ちた。

 あえて治さずにいた喉を修復させ、同時、四肢にも『正の呪力』を回し、立ち上がる。

 

 ――今の婪佳久は防御(フィジカル)を捨て、自己回復に全振りした術師である。

 

 

 

「第一呪力特性『正の呪力』、第二呪力特性『螺旋(スパイラル)』――並列展開」

 

 

 

 受愚戴転は、いかなる呪力特性も構成を学習し『摂取(わがものに)』できる。そして婪佳久は反転術式――『正の呪力』を使用した経験がある。

 

 よって彼女は、()()()()()()()()()()()を再現できる。

 この2つの特性に縛られた術式は――最大の自己治癒能力を発揮した。

 

 範囲も限定していた。彼女は首と心臓と頭、即死部位にのみに限る『即興の縛り』で生存したのだ。

 

 

 

(――――この痛み。倍にして返す)

 

 

 

 改めて、両手を重ねる。ここまで途切れる事なく続いた収束(チャージ)が加速する。

 

 

 

 ――術式『受愚戴転』は、つまるところ呪力リソースでしかない。

 婪佳久にできる攻撃手段は結局、呪力をぶつけること、だが――『摂取』の反転、『排出』の術式効果では、その限りではない。

 

 

 

「我流・受愚戴転――術式反転

 

 

 

 親指、人差し指と中指を立て、指鉄砲のように向けた先――白黒の呪力は流入し、煌々と渦巻く。

 

 (プラス)の呪力は、(ニュートラル)な呪力と掛け合わせると、より大きな負の呪力(マイナス)を産む。

 

 とはいえ、婪佳久の呪力運用効率は、肥大化した呪力出力量に見合ったものではない。技の成立過程には精緻さが足りない。実用性に欠けた火力だけの技。

 

 

 

 現に、術の行使に総動員される呪物(からだ)には。

 真白の肌を裂くように、呪印(あかいろ)が刻まれ、脈打っていた。

 それは己の技量(レベル)を超えた術式行使、このままでは暴発するという赤信号。

 

 けれども、向けられた掌印(しょうじゅん)にブレはない。

 

 

 

「――――歐帯(カラザ)

 

 

 

 この『簡易領域』内に使用を限定し、その『簡易領域』自体を壊して放つ、二つの『縛り』によって――結実する。

 

 

 

「出力最大。戦車(パンツァー)・レェェェェェェザ、――ぁあああっ!?」

 

 

 

 刹那。芽吹いた竜巻が、人面戦車を突き抜けて開花した。

 吹き荒ぶ激流が内部から構造を捲り上げ、掻き回し、壮絶に咲き乱れる。

 

 

 

「――思ってた通りッ! 確かに硬いけどよぉ、内部からは想定してねーんじゃあないかァ!?」

 

「なにっ、なんだぁっ!? これだけの呪力、いったいどこから――ッ!?」

 

 

 

 負けじと、人面戦車は喰らいつく。

 この場合、物理的に。

 

 口内の婪佳久を――舌で転がし、何度でも、歯のギロチンを叩きつける!

 

 

 

「ぅツ、ごぷ――いっ――――てぇ、なぁぁあ! ぃははははははッ!!」

 

 

 

 ――嗤っていた。

 

 策に溺れた策士を。肋骨の刺さった肺で、血の味に犯された喉で、ゲラゲラと白い女は嘲笑っていた。

 

 ――甘尾にとっては、理解不能であった。

 ――だって彼女の治癒速度は、あまりにも早すぎた。

 

 反転術式(かてい)を吹っ飛ばして正の呪力(けっか)のみを出力している。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そのロスの皆無さもスピードも六眼でもなければ実現しない理論値(じんがい)

 

 

 

 無理もない──婪佳久の不死身さは、『大当たり』を当てた秤金次に次ぐのだ!

 

 

 

「ええぃ、なんなのだ! 省略は呪術の極み! 貴様のような()()()()()()()()()()()()が、何故それほどの自己治癒力を――!?」

 

 

 

 だが。結局のところ呪力量の差は絶対。

 相手の呪力量は一級以上、こちらは四級程度。

 このままやれば、婪佳久は噛み砕かれる。

 

 ――このままが、許される場面なら。

 

 

 

「こんだけお膳立てしてやったんだ! ――ブチ噛ませ、禍福!」

 

「しまっ――!?」

 

 

 

 振り返る。

 もう遅い。

 

 『最速』を前に、その隙は、致命に他ならない。

 

 

 

「死ぬべきは、――オマエだぁぁあああッ!!」

 

「ぬおおおお――ッ!?」

 

 

 

 音速突破間際。時速1000キロを超した、少年の怒りがブチ当たる。

 

 戦車の人面は、木っ端微塵に砕け散り!

 ドリルによって生じた亀裂が、甚大化する!

 

 なにせ、安曇野禍福によって加速した『竜骨・改』の威力は――特級呪具『游雲』に匹敵する!

 

 

 

(こやつ、『点』でブーストした装甲を真正面から!?)

 

「ワタシも、忘れちゃ困るぞぉ〜っと!!」

 

「ぎぇええええ――ぁっ!?」

 

 

 

 次いで、追いついた『喇誑(ラテブラ)』による。

 最高最適の統合呪力が車体を焼き!

 

 ――キャタピラが引き千切れ、車体がひっくり返り――そして!

 

 

 

「婪か――!」

 

 

 

 外れた顎から、血の波に押し出される――白い少女。自然、少年の目は彼女を追い、

 

 

 

「――構うなッ! (ころ)せぇええええ!!」

 

 

 

 ――もはや、恐怖した。

 

 真白の制服を血に染めてなお、着地や受け身よりも、呪力(ドリル)を突き立て続ける少女。その肉薄ぶりに。

 

 だが実際、呪術師として彼女はなんら間違ってなどいない。

 

 

 

(くそ、こんだけ撃ってるのに自己修復機能が勝るの、コイツ!?)

 

 

 

 点数ブーストと本体性能、装甲の上から倒すには傷口を抉るしかない。だがこれだけやっても、自己修復によって塞がる方が早い!

 

 今必要なのは総攻撃だ。それこそ禍福と『喇誑(ラテブラ)』の威力、婪佳久の貫通力の総動員!

 

 キャタピラを徹底的に砕き、移動を封じた上で嬲り殺す。それだけがこの人面戦車の攻略法!

 

 

 

「ぐぬぬぬ――こうなればぁ、戦車(パンツァー)・アトミックを使ってでもぉ!!」

 

「――ッ、させるかぁ!!」

 

 

 

 これ以上やらせはしない。

 その一点で心はひとつに。

 

 踊りかかる三つの呪いが、その巨体を今度こそ潰さんと牙を剥き。

 

 

 

 その、刹那。

 

 ――それらを上塗るモノが、それらよりも高くから、降り落ちた。

 

 

 

「――っ、避けてッ!!」

 

「なにっ!?」

 

「んばぁ――!? なんだ、今度はなんだぁっ!?」

 

 

 

 衝撃波。吹っ飛ぶ三者。

 いの一番に気づいた婪佳久は、着地し、顔をあげ、

 

 

 

「……、う、ぁ」

 

 

 

 ――恐怖が。声に出ていた。

 

 つい先ほどまでの、勇猛果敢さなど消え失せていた。ただただ、震えを噛み殺し、逃げるしかないという結論で思考が埋め尽くされていた。

 

 安曇野禍福もまた、ソレを見やり――同じ理解に至って、コガネに問う。

 

 

 

「……おい。なんだ、あのプレイヤーは」

 

 

 

 それは、女だった。あまりにも、不自然なほど綺麗に整った『真球』を伴い、降り立った、女。

 

 あれだけの敵を、なんでもないかのように足蹴にした――。

 

 

 

「あれは(よろず)――11月15日から活発化した、注目のプレイヤーだぜ!!」

 

 

 

 ――平安猛者が。

 

 逃れようのない殺意の具現が。

 少年少女と残穢を、見下ろしていた。

 




激ヤバ女にはもっと激ヤバな女をぶつけんだよ!
次回は27(土)です。



【補足①・婪佳久の戦闘スタイルについて】

 分かりにくかったかも知れませんが、やってることはかなりシンプルです。

①通常攻撃:『螺旋』を付与した呪力ビーム
→出所:大気中の呪力

②正の呪力による自己治癒
→出所:自身の呪力(4級程度)

③術式反転:『正の呪力』を込めた『螺旋』
→出所:大気中の呪力

※なお、身体の呪力強化は一切やれない『縛り』となっている。



【補足②・『受愚戴転』による呪力特性の書き換え】

 この術式は、呪力特性を任意の内容に変更できます。

 今では『呪力構成の学習』だとか条件ありきですが、本来なら無条件かつ自然にどんな呪いも吸い込む術式でした。

 なんせ『呪いの呪霊』を作り出しかけた術式なので。
 列島上の呪霊の7割に1個体が成り代わる、呪術世界に開いた池の水全部抜くレベルの大穴なので。

 今のラテブラも婪佳久も、この術式の力は2、3割しか発揮できません。



【オマケ・2013年の安曇野のやらかしを知った時の甘尾の反応】

「えーッ何あんな見えてる地雷拾って実験とかしてんのじゃ我が子孫は!? バカなの死ぬの? あっもう死んでおったなガーッハッハ!! ……え〜マジ何やってんのよ無いわ〜……」
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