【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
2025年、復活した(よろず)が襲いかかる!
絶体絶命の実力差。新東京高専2年一同の運命やいかに。



第2部 16話『黒き残留』

 

 街を覆っていた帳は、一発で砕かれた。

 街の盟主は、その一撃でもって殺された。

 

 ――『真球』。不自然なほどに丸く整った、圧力の権化。

 

 圧壊した戦車の式神からは、廃油と、波のように赤い液の波が漏れ出ていた。

 

 

 

 そう。その女は。

 完膚なきまでに、争うまでもなく、勝ち残っていた。

 

 

 

「だぁーっまたスカじゃない! ここ半月でいっちばん手応えあったのにっ!」

 

 

 

 さっきまで、自分たちが必死に戦っていた相手さえ目に入っていない。

 何やら見当を外したらしく、ソレは伸び呆けた黒髪を掻きあげ、妄言を垂れながす。

 

 

 

「だいたい宿儺ったら、本名で参加してんだから向こうから探してくれても――いえ、そこは! 自分で見出してこその『愛』よねっ! 大丈夫よ私、今日はダメでも日進月歩。最後に必ず愛は勝つッ!!」

 

 

 

 騒がしいことだ。今度は勝手に気を持ち直す。

 

 つり上がっていた女のまろ眉は逆転。

 頬は火が付いたように赤く、瞳は高揚に染まっていた。

 

 そのくせ――盲目でないと言うのだから、厄介極まる。

 

 

 

「その時のためにも――多少の蓄えはなくっちゃね」

 

 

 

 

 ――(よろず)。2018年の死滅回游において、伏黒津美紀に受肉した平安猛者。

 今回においては――平安を生きた、正真正銘の本人。

 

 

 

 本命(すくな)でないにせよ、標的とした以上は仕留める。

 そう――その場にいた全員。新東京高専の三名が、己に向けられる加虐心を受け取っていた。だからこそ、結論は明白だった。

 

 

 

 挑まなければ、殺される!!

 

 

 

「――ぅ、おおおお!!」

 

 

 

 最初に動いたのは、禍福であった。

 

 短剣を手に飛び出し、加速して迂回、彼女を横切る。

 だが、切りかかるでもなく後ろへと走り抜けて通過し。

 

 ――加速を乗せ、投擲を飛ばした。

 

 

 

(頼むッ、頼むから。こいつでやられてくれ――!)

 

 

 

 ――三級呪具『香飛(きょうひ)』。

 

 彼が飛ばしたのは、授業の一環で自作した呪具。

 術式や特異な能力はない、使い捨て(インスタント)の投擲剣だ。

 

 

 

 この道中、一般市民の中には、石を呪力強化して投げる者が多くいた。

 実際、有効だ。身も蓋もない話、人は頭に硬くて速いモノをぶつけられるだけで死ぬ。

 

 拳銃を持たない大半の日本人にとって、呪術やら術式やら使い慣れないモノで襲うより、よっぽどやりやすい獲物だろう。

 

 ――安曇野禍福が振るう『香飛(きょうひ)』は、その最適化だ。

 

 

 

 常に30本、高専制服に忍ばせたうち都合8本を握る。

 持ち出し、抜刀、投擲。何度と訓練した三手順を、体は最短で実行していた。

 最短かつ最速。音速突破の爆音で唸る撃鉄。

 

 矢のように先端に重心の傾いた細長い牙は、1秒の間もなく女を串刺しにして――。

 

 

 

 全て、命中。胸を、足首を。手は指を落とし、脳天にも風穴が空いていた!

 

 

 

(――当たった!? 有り得るのかそんなこと!)

 

 

 

 眼を剥く。安曇野禍福の本領、呪術高専屈指の動体視力が困惑を叫ぶ。

 たしかに、女は体制を崩して見えた。

 たしかに、女は死角からの必殺に対応できていな――いや、違う。

 

 本能が叫んだ。

 あの女は、()()()()()()()()()()だけだ!

 

 

 

「――、ぶね!?」

 

 

 

 瞬時に抜いた『竜骨・改』で、轟々と身に打ち付けれる雨霰を叩き落とす。

 

 相手の強さを信じた甲斐があった。でなければ、シン・陰流『簡易領域』による迎撃は叶わなかっただろう。

 

 

 

 女は、こちら以上の手数と質をぶつけてきたのだ。

 意趣返しとばかりに、彼女に庇われた、彼女の体にまとわりついた呪霊が。

 

 ――その口から、ガトリングが如く、

 ――呪具を吐き出しまくってきたのだ。

 

 

 

(なんとか叩き落とせた、しかし今の――()()()()()()。最悪の組合せだ!)

 

「ふぅん、いいツラしてるじゃない。――干首(ほしくび)には丁度いいかしら」

 

 

 

 即座、距離を取る。

 一瞬にして数分にさえ思えた一撃離脱。

 

 その成果は、より互いの差を如実にするだけだった。

 

 ――絶えずこちらは加速しているというのに、顔立ちの感想を言ってくるとは。

 ――オマケに、もうすでにさっきの傷が治っているだなんて。

 

 伏黒先輩から話は聞いていた。聞いてはいたけれど――。

 

 

 

「バケモンが……ッ!」

 

「褒め言葉ありがと♡ ……って、あら?」

 

 

 

 次は、(よろず)が目を見張った。

 眼前にまで迫った呪力の収束放射(ビーム)に、ではない。()()()()、液体金属で迎撃できる。

 

 彼女の目を引いたのは――呪力が、複数あった点だ。

 

 

 

(出が異様に速い、妙ね。あの(しろいの)はそれほどのレベルでないはず――術式効果で本来の手順をスキップしているってとこかしら)

 

 

 

 婪佳久(らんかく)の呪力は、とにかく出が早い。

 スピードと手数による圧倒。

 

 その一点で、彼女は実力不足に関わらず、優位を獲得してきたのだ。

 

 

 

「ま、そんなんで負ける私じゃないけどね!」

 

 

 

 その全てを、液体金属は打ち負かした。

 反自律制御によるフルオートカウンター。次々と打ち落とされる呪力光線。

 ぶつかりあう波の差は如実。真正面から押し返し――婪佳久本体にまで飛沫が迫る。

 

 悪物質の飛翔、そこから婪佳久は。

 

 

 

 加速した禍福によって抱えられ、(まぬが)れた。

 

 

 

「アイツの術式は!」

 

「構築術式! しかも呪具作り溜めしてる!」

 

「逃げれるか!?」

 

「無理! アイツ逃す気皆無っ!」

 

「だよな――クソったれ。なんつうマッチングしてやがる!」

 

 

 

 走りながら、バカデカい声で二人は同じ結論に至る。

 今走れているのだって、無理やり止めるまでもないに過ぎない。

 

 禍福はスピードで、婪佳久は悪意で、その実力差を実感し歯噛みしていた。

 こんな奴と、逃れようもなく戦う羽目に遭うとは。

 

 

 

 そして、こうも思った。

 ――日下部学長の指示は、正しかったのだと。

 

 

 

「いよいしょぉっ!」

 

「――、へぇ」

 

「嘘ォ!?」

 

 

 

 刹那、点火する青い炎のリング。

 呪力の『渦』が、(よろず)を取り囲んで。

 

 その中心へ、『喇誑(ラテブラ)』の蹴りが飛び入り。

 

 それを、万能の腕は受け止めていた。

 

 ――足元、クレーターが深々と刻まれる大威力を。

 ――ただし、()()()

 

 

 

「やるじゃない。力量は勘違いじゃなかったのね、あなたは片手間ってわけにはいかないかしら」

 

「くっ、今のマジ蹴りだったのに――やっぱアンタの『愛』、すごい呪いネっ!」

 

「――はぁ!? シツレーな純愛ですけど! もうピュアっピュアで、超プラトニックなんですけ、ど!!」

 

 

 

 瞬時――呪力の『渦』は、『棘』に変わる(スパークした)

 

 ならばこちらも、とばかりに『液体金属』の針千本が棘を折る。

 だが、同時に(よろず)を守るのは不可能。

 殴りかかる『喇誑(ラテブラ)』、対する(よろず)もまた拳を堅め。

 

 ――ぶつかりあう。

 

 真正面、一発一発が一級術師でも即死するパンチの応酬。

 超威力をぶつけあい、余波だけで地表を砕きあう格闘戦。

 鍛え抜かれたフィジカルが奏であう至上の喝采。

 まごうことなく、争いは対等に成立していた。

 

 

 

 だが、『喇誑(ラテブラ)』はあくまで呪霊――対人格闘で相手取るには、万全とは言いがたい。

 

 

 

――オラオラオラオラオラァ!」

 

「こいつ――!?」

 

 

 

 僅かな間隙を縫い、黒いラッシュが駆け抜ける。

 威力もさることながら、(よろず)を驚かせたのは、その呪力!

 

 

 

(私が火傷を!? これだけの熱量になぜ気づけなかったの――そうか、冷たい呪力で覆っている(コーティングした)のか、呪力特性を統合して!)

 

 

 

 異なる呪力特性が重なると、判別は困難。

 厄介だ。今後のどれも、単なる呪力パンチと見做せなくなる!

 

 

 

「なら、これならどう!?」

 

 

 

 万が飛ばす、呪力の放射。『喇誑(ラテブラ)』は平然と避けるも――狙いは、別だ。

 

 その奥。鎮座した、『真球』を。

 呪力をカーブさせ、押して――弾き飛ばす!

 

 

 

 捲れ上がる地表、背後より迫る無限の圧力。

 これにはさしもの『喇誑(ラテブラ)』も――!

 

 

 

「ならこっちも! 喰らえッ、呪力ピンボール返し!」

 

 

 

 ――否。こちらも呪力で。

 ――『真球』の軌道を逸らし、ノールックで回避した。

 

 

 

「って、流石に跳ね返せはしないかァ」

 

「……アンタ、嫌味のつもり? 『残穢』のクセに、私の必殺をいなすなんて」

 

 

 

 ――眉を寄せ、(よろず)の額に脈が浮かぶ。

 こいつ――どうやら呪力量もコントロールも、こちらと大差がないらしい。

 

 

 

 ――――そして、笑った。

 腹立たしくもあるが、やっと――これを使える相手が来た!

 

 

 

「いいわ、喜びなさい現代術師ども、見せてあげる――『構築術式』の、極点を!」

 

 

 

 換装は、ものの一瞬だった。

 液体金属で覆われた全身に、武器庫(じゅれい)の吐くパーツを繋げ、組み上がる。

 

 数多の生態機能を流用・特化させた――肉の、鎧を。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――対して。『喇誑(ラテブラ)』が持ち出したのは、気象現象だった。

 

 

 

「これでどぉだあああ!」

 

 

 

 ――呪力特性『風』。

 

 幾つもの無人のビルを引っこ抜いた、呪力によるハリケーン。

 その巨大質量には大気が、呪力が纏われ、行き届き。

 強化したうえで、投げつける。

 

 その即席の武器、『喇誑(ラテブラ)』の対抗札を――!

 

 

 

 ――投げ飛ばされた『真球』が、飲み込み。

 ――蟲の鎧は、悠々と摩天楼(かけはし)を駆け上がり。

 

 蹴りが、飛ぶ。

 

 

 

「――でぇあっ!」

 

「ぎぃあああ!?」

 

 

 

 スーパーボールの如く飛び跳ね、落下中のビルとビルの間を『喇誑(ラテブラ)』は跳弾する。

 ぐるぐると転がり、盛大に吹っ飛び――窓ガラスを突き破り、中へ。

 

 

 

 その余波に耐え切れず、摩天楼はバラバラの瓦礫に変わる!

 

 

 

「今だあっ、喰らえ――呪力流星群ンッ!!」

 

 

 

 ――否、破壊されることは前提であった!

 

 その残骸すべてが、『喇誑(ラテブラ)』のラッシュによって撃ち出された!

 

 ひとつひとつに籠められる、色とりどりの呪力の数々。

 

 

 

 ――悉く、知ったことかと。

 ――液体金属の追撃(こうずい)が、塗りつぶす。

 

 

 

「ぎゃぁぁああああッ!!?!?」

 

「そぅら、どうした! まだまだよねェ!?」

 

 

 

 ――グサグサグサグサ!

 瓦礫諸共に『喇誑(ラテブラ)』を駆け抜ける黒い破滅!

 

 その渦中、遠慮抜きに叩き込まれる外骨格の拳。一方的なラッシュの意趣返し!!

 

 

 

――当ッ! 然だぁあああ!!」

 

 

 

 それに、負けじと残穢は肉薄し。

 衝突し合う、死に戻ったバケモノ同士の競り合いは。

 

 

 

 再び、地上に落下する。

 

 多くの瓦礫と、怒濤の重音を轟かせて。

 アスファルトを巻き上げ、天地を鳴らす――もはや、その応酬は災害そのもの。

 

 

 

 もはやそこに、『螺旋(ドリル)』の呪力が付け入る隙などない。

 

 

 

「――ウソっ、さっきの戦車ジジイにも通じたのに!?」

 

「残念。その程度の衝撃で、やられる造りじゃないのよ」

 

 

 

 婪佳久の射撃は、しかし届かない。

 

 あまりのスピードを前には、多少のホーミングがあろうと、先読み能力があろうと無意味極まる。たとえ当たっても、今のように構造によって衝撃は分散される!

 

 

 

 だが――逆に今度は、彼が刺さる。

 

 

 

「あらっ?」

 

 

 

 ――『喇誑(ラテブラ)』との殴り合いの刹那。

 ――横から滑り込む、『竜骨・改』が。

 

 確かに、その体制を揺らがせていた。

 

 

 

「――ちょこざいな!」

 

「後ろ見てる場合かよ、アァ!?」

 

 

 

 (よろず)の拳が振るわれる。だが遅い。すでに彼はそこにいない。

 空振りの間隙に、両の拳を叩き込む『喇誑(ラテブラ)』。

 そのバカにならない威力、真正面に集中しようとした、刹那。

 

 ――再び、視界外からの、『竜骨・改』!

 

 

 

「――あ〜もうっ! ウザったいわねぇ!!」

 

液体金属(ソレ)は、もう見たってのぉ!」

 

 

 

 撒き散らされる牽制を、ここぞとばかりに婪佳久の『螺旋(ドリル)』が貫き、封殺。

 

 ――紙一重の離脱を果たした禍福は。迂回しながらも加速を続け、次の瞬間を付け狙う。

 

 

 

(――ついてこれるのは、スピードだけだ。決して、俺とヤツは対等じゃない)

 

 

 

 圧倒的強者。正面から行けば必敗。

 

 だが、足取りは羽のように軽く。

 加速した少年は、『できると思うな』と己に言い聞かせる。

 

 断じて先手を取れているわけではない、誘い込まれて捕まればお終いなのだ。

 

 

 

 一瞬一瞬を見極めろ。

 超えるべき死線を判別せよ。

 その点、心構えは万全だ――安曇野禍福は、誰相手でも一歩間違えれば即死の身分ゆえに。

 

 

 

(間違えるな。常に――最高の、判断を!)

 

 

 

 条件が重なる刹那、再び踏み出す。『線』を蹴り、加速を得て、身を捻って――刺突。

 

 

 

(だが浅い。もっとだ、もっと最適に!)

 

 

 

 一気に離脱し、迂回し、より加速する。

 

 爆縛呪法の『命を賭ける縛り』によって、己の呪力出力上限(げんかい)をこじ開けていく。

 

 ――安曇野禍福の実力は、呪具の扱いに重き(ウェイト)を置いている。

 ――力の収束、直線的な呪力の運び、穂先にトップスピードをこめる技巧。

 

 

 

(来た――ここだ!)

 

 

 

 瞬間の決意を重ねた先、踏み込む。

 そこから繰り出される、渾身の一点突破は。

 

 

 

 ――鎧を、突き破って。

 ――万の首に、刃を突き通してみせた。

 

 

 

「へぇ、やるじゃない――ただ」

 

 

 

 目が合った。深々と、ぶちぬかれた喉笛の笑いが手に伝わる。

 目の前には複眼。浮かんだ余裕の色。

 

 ――それが次には、自分の吐いた、赤色で染まる。

 ――安曇野禍福の腹を、ノールックで――鎧の下から抜かれた、万本体の拳が、貫いていた。

 

 

 

「まだ青いわね。反転術式が、使えないなんて」

 

「……ごふッ、ぁ――、っ!?」

 

「――禍福ッ!!!」

 

 

 

 (よろず)は認めていた。彼の強さを。故に、その複眼は見逃さなかった。

 肉を切らせて骨を断つ。反転術式ありきの致命傷の踏み倒しで、彼女は彼の胸を、一撃でぶち抜いていた。

 

 そして、貫通した腕から――噴出する液体金属が、安曇野禍福を押し流し!

 そのまま、遠く――逡巡に止まった婪佳久をも巻き込んで、駆け抜ける!

 

 

 

「ぶ、ぁ――がっ、あ!!?」

 

「へぇ。女の方は使えるの。じゃあ、折角だし――二人まとめて殺してあげる♡」

 

 

 真っ白い少女を、空洞の空いた少年を塗りつぶす黒塗りの金属。

 盛大に笑って、(よろず)はここぞとばかりに――呪具の雨で、液体金属に呑まれた二人を貫かんとし――!

 

 

 

「ダメ――っ!!!」

 

「あらま」

 

 

 

 ――迷わず、『喇誑(ラテブラ)』は、身を挺して庇い立っていた!

 

 呪具の数々によって針の(むしろ)になりながら。

 液体金属の爆散に身を焼かれながら。

 

 それでも背後、刻一刻と身を焼かれる婪佳久と禍福に対して、

 

 

 

「ぜぇったい、死なせるもんかぁ――ぁぁあああ痛ッ、てぇええええええ!!?」

 

「ええっ!? 呪霊のくせに正の呪力――それも、()()()()()()を!?」

 

 

 

 ――焼身自殺。そう、言う他にない蛮行だ。

 

 『喇誑(ラテブラ)』は――持ちうる呪力を『正の呪力』という呪力特性に切り替えて放出し。

 液体金属を中和させ――二人を治癒し、首の皮一枚で助け出し、回復に導いていた!

 

 

 

「す、すごいのねぇ、今どきの呪霊って……」

 

「……お、ま――なん、で」

 

 

 

 (よろず)が。助け出された禍福までもが、驚愕せざるを得ない。

 

 ――紛れもない自己犠牲だ。現在進行形で、『喇誑(ラテブラ)』は己の身を切っているに等しい。

 

 あとは消え入るだけの『残穢』が、死を拒んでまでここまで憑いて来た『残穢』が、何故そうまでして――。

 

 

 

面倒(メンド~)でもッ、人は助ける! カフクもマミィも、ワタシの、クラスメイトなんだから!!」

 

「「――!!」」

 

「えっ。あ、あの女がママ!? ってことは、その二人、え……あらっ、あらあらあら!?」

 

 

 

 何やら昆虫女が顔を赤らめているが、気にしていられる奴はこの場にいなかった。

 虫の息の安曇野禍福は、この状況の打開のため――決意する。

 

 

 

「『喇誑(ラテブラ)』――第二拘束・限定解除!」

 

――えっ、マジですか!!?」

 

 

 

 ――刹那、黒ずくめの少女を覆う高専征服(こうそく)が、弾けた。

 

 背中に展開されたのは、文字通り、百色の呪力(いろ)鮮やか両翼であった。

 制服の背面はぺらりと(めく)れ上がり、巻き上がり、縫い付けられた呪印は赤熱化し――真っ赤なマフラーとなって、その首を覆う。

 

 

 

 それが――特級超過(ちょうか)呪霊喇誑(ラテブラ)・第二拘束形態。

 

 

 

「うおぉおおおお! ――命! 燃やすぜえええッ!!」

 

「へぇ――まだ、これだけの呪力を!」

 

 

 

 両翼が広がり、大気を揺らがす。その弾幕(かぜ)が、万の声に昂らせる。

 

 ――翼の羽ひとつひとつ、299の呪力特性(いろ)を帯びた揺蕩(ようとう)の特攻。

 ――超呪力の蝗害(オーロラ)が、虫の鎧へと叩き込まれていた!

 

 

 

(一体一体に異なる呪力特性を与え、絶命の縛りを強制して最大化させている――それだけじゃない!)

 

「いっ、くぞおおおお!」

 

 

 

 嵐の奥、輝く虹色の翼。

 

 あえて揺蕩(はね)を飛ばさず、呪力(ガソリン)として消費し、(ブースター)で背を押し――飛来する、『喇誑(ラテブラ)』本体。

 

 接敵の間際、(よろず)は気づく。

 

 

 

「こいつ――揺蕩とはいえ、呪霊を生み出せるの!? いくらお子さんだからって、こんな厄ネタ動員するとか人材不足すぎない!?」

 

 

 

 そう。この翼は『発生器官』!

 

 呪力特性(こせい)に命を与え、羽ばたかせる、『呪いの呪霊』として内包した『呪霊発生』というシステム!

 

 

 

「文句あるか! ワタシだって、高専術師だぁ――!!」

 

 

 

 まさしく、呪術の縮図を背に押し出され――迫る『喇誑(ラテブラ)』の咆哮(えんさ)

 万もまた、翼を広げ。両者は平然と空へあがった。

 

 そして中空――再び幕開ける、何度目かも分からない拳の応酬。

 極光の羽吹雪(ファンネル)に対しては、万もまた――呪力強化で性能を底上げさせた、呪具の数々を飛ばし、応戦していた!

 

 

 

「けどいいの!? あなたの場合、パパとママを庇いながら戦わないとよねぇ!」

 

 

 

 ――そう、呪具を飛ばすのだ。

 必然、流れ弾はこれでもかと、背後の少年少女に向かっていく。

 

 揺蕩は攻撃特化、盾には使えない。

 

 

 

「よくない! 痛ッてえぇぇえええ!?」

 

 

 

 必然――どうしても『喇誑(ラテブラ)』は全ての攻撃を受けざるを得ない。

 

 なるほど、両者は対等だが。ダメージレースにおいて、万の優位は圧倒的!

 

 

 

「悩む理由? ないね! ――テメェを(たお)せば、解決だろォがよぉ!!」

 

 

 

 ――否、問題なし!

 ――すでに、『喇誑(ラテブラ)』の狙いは定まっていた!

 

 この『揺蕩』たちの特攻によって、『喇誑(ラテブラ)』はどれが有効なのか、どれが効かないかが分かる。

 

 そう――最高最適の、統合特性が割り出せる!

 

 

 

(――揺蕩たちの呪力特性が、統一された!?)

 

 

 

 虹彩が。極光が。一色に転じる。

 全ての揺蕩が、その拳に集まる。

 

 ――『正の呪力』を帯びた揺蕩で表面を覆い、液体金属を阻害させ!

 

 拳に籠った――この、虫の鎧の分解に特化した呪力のブレンドを!!

 

 

 

「装甲ッ! ご開帳――ッ!!!!」

 

 

 

 叩き込まれる、全力が。

 その鎧をも、焼き焦がした。

 

 

 

 ――ただし。

 ――――一層だけ!

 

 

 

「……、あれま?」

 

「うん。頑張り賞ってとこね。ただ、まぁ――平安(むかし)に、この手の初体験は済ませてるのよ!」

 

 

 

 そう、多層構造!

 虫の鎧は、その程度の状況など想定済!

 

 そして―― (よろず)は、お返しとばかりに繰り出した。

 

 

 

 右腕のみ、部分換装させた――()()()()()

 禍福を捉えた、時速80キロを越す生物のパンチが!!

 

 

 

「お〜疲れサマでしたァッ!」

 

「あばーッ!? サヨナラぁ――――!!?」

 

 

 

 

 ――軽々、地平線の彼方へと。

 遠く遠く、『喇誑(ラテブラ)』を吹っ飛ばし――キラーンと輝く、一番星に変えた。

 

 

 

「ふぅ……さて。あなた達の番よ。子供があれだけ頑張ったんだから――それ以上に、血を流しなさい」

 

 

 

 そして――今度こそ、(よろず)は降り立つ。

 安曇野禍福と、婪佳久の眼前に。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 ――『喇誑(ラテブラ)』の、奮戦を見ながら。

 ――『喇誑(ラテブラ)』の、正の呪力に充てられながら。

 

 安曇野禍福と婪佳久は。

 己の、弱さを噛み締めていた。

 

 

 

(いいなぁ。あんなに、できるんだ。……同じ術式なのに、こんなにも違うんだ)

 

 

 

 そう――つい、半年前まで。

 婪佳久は、宿った呪胎の『喇誑(ラテブラ)』の力で呪術を扱ってきた。

 

 だがもう、『喇誑(ラテブラ)』とは切り離されている。 

 

 

 

 ――それが問題だった。

 

 

 

 術式を剥奪された術師は、呪力操作までガタガタになるという。

 『喇誑(ラテブラ)』を引き抜かれた婪佳久は、いわば呪術を扱う基盤を失ったも同然。

 

 

 

 ――婪佳久は、あの日に再誕した。

 ――呪術師として、ゼロから新たに基盤を作らねばならなかった。

 

 

 

 四級程度の呪力しか扱えないのだって、そのためだ。

 今の自分では扱えない、自分の(スペック)では耐えられない。

 

 呪力放射が異様に速いのだって、単に踏むべき手順(きそ)をすっとばしているだけ。

 腹で呪力を回す事さえ、『螺旋』の呪力特性がなければできない。

 身体強化は、やらない以前にできない。

 

 

 

 できることを、その場その場で繋ぎ合わせて、拙く抗うように戦う。

 

 それが――今の、四級術師・婪佳久。

 

 

 

(――そっか。わたし、焦ってたんだ)

 

 

 

 はじめて、自覚した。

 

 ――禍福を守りたくて。

 ――アイツに、成り代えられたくなくて。

 

 ひたすら、最善を選ぶしかなかった。

 ひたすら、己の余分を捨てるしか。

 

 たとえ、アイツに、どう思われようとも――。

 

 

 

(――あいつは。あんなにも本気で、人間になろうとしていたのか)

 

 

 

 ――安曇野禍福は、『喇誑(ラテブラ)』を祓った時、残した言葉を思い出していた。

 

 

 

『じゃあな――次は、呪い以外の何かを見つけろよ』

 

 

 

 だから、心の中でずっと思っていた。

 アイツは、あれから変われたのだろうか。

 

 

 

(あんなにも、身を切って……あんなに!)

 

 

 

 ――信じない。あくまでも、呪霊だ。

 呪術師としても、婪佳久を守るためにも信じるわけにはいけない。信じられるわけがない。

 

 でも――見せつけられた。

 アイツは、本気だったのだ。

 

 

 

((けど――だからこそ!))

 

「……さて、あなた達の番よ」

 

 

 

 ――眼前。女は、悠然と佇んでいた。

 かつての『喇誑(ラテブラ)』より呪力が小さいハズなのに、それ以上に無慈悲に思わされる。

 

 そんな、殺意の具現を前に――想った。

 

 

 

「なぁ、婪佳久……一緒に、ゴールしてくれないか」

 

「――いいよ。先行ったら、祟ってやる」

 

 

 

 ――――ここで、今。

 ――全力を尽くさずに、どうして死ねる!!

 

 

 

「……へぇ、いい顔つきになったじゃない」

 

 

 

 双方――並び立ち、構えた。

 

 この平安猛者を、狩る。

 今こそ、己の全てを投げ打つ時。

 

 ――故に。一か、八か。

 

 

 

「――――領域、展開」

 

 

 

死滅回游・泳者

安曇野禍福(あずみのかふく) 所持得点(ポイント) 45 消費得点(ポイント) 140

婪佳久(らんかく) 所持得点(ポイント) 67 

 

 

 

 彼らの掌印が、象られた――。

 




次回は30(土)です。
体力の限界ががが……恐るべし仕事納めの業務量……。



【補足①・三級呪具『香飛』について】

柄のみが実体としてあり、呪力を通す事で刀身が出現する『投げナイフ』。

安曇野禍福が2年生の授業で自作した。
(名前の元は、将棋のコマの飛車・香車)

基本に忠実な造りで、必要最低限のシンプルイズベストな構造。
素材の調達も容易く、死滅回游中でも量産でき、もっぱら使い捨てで使われる。

これを禍福は常に30本、高専制服に忍ばせて、最短で投擲できる。
その早撃ちに対処できて初めて禍福の相手ができる。足切りラインの呪具である。

……そのため、たいてい猛者には通用しない。
速度で圧倒されるんじゃ戦いにならないんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。

ちなみに、禍福は投擲後に可能であれば、拾って再利用しています。この状況ではとにかく手数が大事ですから、さもありなん。



……これ裏話ですが、この自信作について禍福から熱弁された婪佳久は、

「服に忍ばせた仕込みナイフ、三段階の動作による最短投擲。ふむふむなるほど……禍福って実は厨二び(ry」などと言いかけ、その日の禍福はずっと凹んでいたそうな。

婪佳久「もー、ごめんってば。いいじゃんカッコよくて。男の子の生態的に自然な考えだと思うよ~。うんうん」
禍福「生態とか言うな。フォローになってねえからなそれ……」



【補足②・竜骨改について】

ちなみに、竜骨・改も禍福が自ら改造したものです。

真希さんが「もう使わないから」と後輩のために高専に預け、そこに目を付けた禍福が手にした一級権限を行使して拝借。今や立派な彼の専用呪具です。

防御力を0にする縛りで、即座に衝撃を呪力に変換させ破壊を免れる。
実質壊れない呪具と化しています。

(二部開始直後までは、コレと天逆鉾の二刀流でした。コワ〜……)

なんでこう、極振り性能にしか仕上げられないんでしょうね、この子は。



【オマケ・婪佳久の戦闘スタイルはフェルン】

攻撃手段をひとつの遠距離ビームに絞って、その数と速度で相手を圧倒する。
婪佳久のスタイルは、ほぼフリーレンのフェルンです。

そこに、相手を詰め将棋に追いやる、呪力に乗った『負の感情』を読む能力。
ダメージを受けようが、秤級の反転術式で踏み倒して、ひたすら攻撃。
それでもダメなら、術式反転で強化ビーム。

なんつうかもう、身も蓋もない強さですねこれ……。

とはいえ、これ呪術廻戦ですからね。フリーレンの世界と違って、フィジカルを疎かにした以上は、立ち行かない事も多そうです。
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