【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

6 / 84

【前回のあらすじ】
呪霊による領域展開。
呪術師・禍福は、後悔と死の只中にいた――。



第4話「Re:廻廻奇譚」

 

 ――当時の俺は、本気で五条悟への復讐を誓った。

 

 つまりは――できるかでなく、やりたいからやっていたのだろう。

 でも。今では形だけの復讐を引きずっている。

 

 

 

 家を焼き、両親の血に塗られた男の六眼。

 瞼の裏に焼きついた、明るい夜。幼い日。

 

 ――あの理不尽のツケを払わせたいと思った。

 ――勧善懲悪を起こしてやりたかった。

 

 前例はあった。術師殺し・伏黒甚爾による暗殺。

 超速度のフィジカル、『天逆鉾』の組合せ。

 

 後者は、武者修行先の海外で必死こいて探しあてた。

 問題は前者、自身の強化。

 

 

 

 ――『最強』を越えるべく、『最速』で鍛えた。

 14歳から里親を離れて呪術を始め、すぐに俺はセンスがないとわかった。

 

 呪術は才能が八割、センスこそ最大の壁。

 その突破のために、こんな術式にした。

 

 死線を潜った数だけ、術師の体は呪術の核心に近づく。

 だから行使に失敗すれば死ぬ術式にした。

 常に最大パフォーマンスを強いる縛りで自身を押し上げてきた。

 

 

 

 今は――どうかしていた、としか思えない。

 そんなんで、燃え尽きたんだから大馬鹿だ。

 

 ……本当にバカだった。

 やりたいだけなら最初から自爆特攻の術式にでもすればよかった。打ち勝ちたい、できるようになりたいと思ったのがいけなかった。

 自分の名の意味を、信じるんじゃなかった。

 

 

 

 ――もう、いいんだ。

 

 

 

 悔いはある、だが。

 怒りを持ち続けるのは、心が疲れた。

 義務感だけで動くには、余分が多すぎた。

 

 この工場の不届でお子様を失い、

 示談を受け入れたというご両親ときっと同様に。

 

 もう走れない。なぜ失った側が、怒りを伴って動かねばならない。動きたくない。

 

 なんでか五条悟の『蒼』を受けて死に損なったが。

 これで、帳尻も――。

 

 

 

―――

――

 

「領域……!」

 

 領域外。工場と一体になった呪霊から吐き出され、帷の端に叩きつけられて。

 白制服の少女―― 婪佳久(らんかく)は目を剥いた。

 

「23区外で特級案件が!? 婪佳久さんっ、安曇野君は!」

 

 背後。車から顔を出した伊地知さんの声。

 だが耳に入らない。

 それ以上に感じるものがあった――人の死だ。

 

 

 

「――ダメっ!」

「ちょ、婪佳久さん! ――ああ、もうっ!」

 

 

 

 駆け出した。

 もはやお気楽ぶる余裕はなかった。

 そも、あのプレス機を見た時点で限界だった。

 

 

 

 負の呪力の感情を感じ取る体。

 非術師が呪力を出すのは決まって死ぬ間際。

 呪力と死はいつでも隣り合う。

 ――少女は、誰よりも死に敏感であった。

 

 

 

 また死ぬ。あそこで見て、焼きついた断末魔が。

 またひとつ――!

 

 

 

『――なんで。お前みたいな能天気が、呪術師なんて――』

 

「――――ムカつくんだよ、ほんッとにそういうの!」

 

 

 

 

 ――笑う事は戦いだった。

 ――軽薄さは生存本能だ。

 

 呪いに満ちた世界にばっか生きてきた。

 最期には、この持て余す呪力に食い殺されるかも知れない――冗談じゃない!

 

 ――なんで他所から呪いを回され続けなきゃならない。

 ――なぜ、そんな風に死んでいいと言える。

 

 ――呪われっぱなしじゃ、ムカつくだろう!

 

 

 

「わたしだって――なんかを呪わなきゃ、気が済まない!!」

 

 

 

 激情。呪力の巡りから理性が消えた。

 呪印の刻まれた痩身は軽々、工場の高さを超えて跳躍、振り墜ち――隕石が如く。

 領域の外郭に、拳を突き立てて、

 

 

 

「――、婪佳久!?」

「!?」

 

――――ッ!!!

 

 

 

 貫通、崩壊する小宇宙。

 降り立ち、呪霊よりも『らしく』吠えた、それは。

 『非術師のコントロールされていない呪力』の塊。

 

 人体に巣食い意思を奪い、憑依した――『混沌』で。

 

 

 

「まずいまずいまずい――帷の対象を婪佳久さんにのみ限定、結界内側に機能集中――最悪すぎる!」

 

 

 

 即座、帷は塗り替わる。

 伊地知による大慌ての再構築だ。なにせ、

 

 

 

「せめて一撃くらいは耐えれるようにしないと――こうなった婪佳久さんは、あの時の宿儺よりヤバい!」

 

 そう――、一撃で『潰れた』工場そのものを前には。

 なおの生え際後退なんて気にできる余裕などない。

 

 

 

 ――虚式『茈』に相当する呪力と破壊力。

 記録されうる最悪のケース、

 術式『受愚載転』の独立稼働。

 特級術師・婪佳久の『暴走』。

 

 呪力出力の、完全無制限解放――!

 

 

 

――なん、だこりゃあ――ッ!

 

 

 

 実際、禍福の理性さえ耐えかねて悲鳴をあげた。

 デタラメなんてもんじゃなかった。

 

 侵入者を阻むべく、幾重にも縦に重なり並んだ防壁。

 それが、ただの一撃で。

 本体諸共、突き通された呪力を前に爆散した。

 

 

 

 それどころか――余波で工場自体が。

 くり抜かれたかの如く、木っ端微塵に打ち砕かれていた!!

 

 

 

 領域の攻撃として、押し上げられた地面が。

 返って脱出装置となり、実現した――あり得ざる生存。

 

 安曇野禍福は。混乱(こころ)を置き去り、行動に移る。

 

 

 

(――ふッざけんな、どこまで始末が悪いんだお前は!)

 

 

 

 暴れる視野に線を見出す。

 それを蹴り、さらに加速を得て、駆けた。

 

 自分同様に工場ごとぶっ飛んできたモノ。

 あらかじめ、呪力でマーキングしていた呪具へ。

 

 

 

(アレは負の呪力の漏出に反応してる――来る!)

 

 

 

 さっきまでとは比じゃない、無秩序な呪力の迫る気配。

 それに晒され、直感した。

 あれは御された呪力を許さない、次は俺だ。

 

 その前に、最速で手に取った――特級呪具『天逆鉾』を。

 

 

 

「――シン・陰流『簡易領域』ッ!!!」

 

 

 

 ――構えた。

 足場の爆発。突き破って現れる『怪物』との相対する。

 

 

 

 色の抜け落ちた真白の痩身。

 その頭から足先まで、脈打つ――枝分かれ、刻まれ、肌に滲み上がった『紅』くも幾何学的な呪印。さながら、血色の紋様を入れた白豹が如き――銀髪の、怪少女。

 

 

 

(先手は取れる。あとは当てるだけ。呪力強化解除、加速も消す、威力最小化――)

 

 

 

 さっきとは比にならない圧倒的悪意、その懐へ。

 両足はついたまま靴裏のローラーに任せて――加速して、滑り込む。

 

 刹那。膨大な悪意、真っ赤な二つの眼と、目があって、

 

 

 

「――!」

「抜刀」

 

 

 

 ――振り切った。

 心を無視して動くのは最早お家芸。

 そのお得意の殺人挙動は――峰打ちで、最大限優しく得物を撫ぜる。

 

 ついぞ想定されなかったダメ元の運用。

 およそ人体に当たったとは思えぬ金切りが響き――しかし。

 

 

 

「……ぅ、あ」

「――、っと」

 

 

 

 ぽすっ、と。呆気ない結果に至った。

 すうっ、と呪印が消え、

 赤錆た紋様は打ち解けた。

 

 憑き物の落ちたような顔の。

 力の抜けきった体を受けとめた。

 

 

 

 ――ちゃんと、生きている。

 

 成功の感触は、やけに柔く。

 初めての、静かな真白の少女と対面し、息を呑んだ。

 

 

 

 ……そして、その後の始末を忘れていた事に気づく。

 

 

 

「……え。ちょ、っと待て待った、ここにきて落下死は流石に御免だ!」

 

 

 

 脆く、立っていた足場は完全に崩壊していた。

 迫る眼下、工場全体も威力に耐えかね、原型がなく倒壊の一途。

 

 メーデーで頼れる先はなし。

 今試されるなけなしの英知。

 

 かくして少年は、緊急着陸に慌ただしく動き出した――。

 

 

 

―――

――

 

「はぁい、オーライオーライ……ストーップ!」

「お、わ――」

 

 すんでで、あらゆる落下が止まった。

 それも強引に。重力を押し上げて相殺した形。

 

 これは――無下限呪術。

 

「――五条悟!」

「イエス、キミのGTG・五条先生ですっ! ビックリした〜?」

 

 突如、かつ今更に、足元へ現れた『最強』。

 睨む禍福。だがそんなものはどこ吹く風と。

 

「婪佳久に持たせてた呪具が反応したんで飛んで来たんだけど〜……嬉しい誤算だ。どうやら、君が止める方が速いみたいだね――てかごめん、アオハルの邪魔しちゃった?」

 

 下からなのに上から目線で、清々しいまでに悪びらない。絵に描いたような軽薄は、禍福の尖った神経を逆撫で、

 

「ああ、邪魔だとも。さっさと降ろせ、息の根を止めてや――」

 

 

 

 ――ぐおん。と、空間の捻れる音。

 一瞬で瓦礫だけは爆縮し。

 ぽーいと擬音の似合うふうに、傍に廃棄された。

 

 

 

「無理無理、キミ弱いもん。もっと強くなってからじゃなきゃ、相手してあげないよ?」

 

「……!」

 

 禍福は。対応どころか反応さえできなかった。

 

「でも会うたびこうなるのは面倒だし……ずっと軟禁は可哀想だったからね……。――よし」

 

 

 

 ……それ故に、たぶん。

 隙を見せたのが悪かった。

 

 

 

「決めた。今後は婪佳久をキミに任せる! 天逆鉾については僕から恵に言っとくから、預けるよ。――ってなわけで。これからもよろしくね、マブとして⭐︎」

 

 

 

 歯を光らせてのグッドサイン。

 誰がやるかと言いたいが無論、拒否権などなく。

 

 

 

「あっ五条さん待っ――」

 

「ぐッは!」

「……ぅ、ん?」

 

 

 

 ついに落下。視野に星が瞬いた。

 婪佳久を庇った代償は、物理的に降りかかった。

 後頭部と顎が痛い。なんつう石頭だ。

 

 ……てか、庇うんじゃなかった。

 コイツ、常に呪力が立ち昇ってフルオートで防御できるんじゃねぇか!

 

「ふぁ……え。禍福、なんでお布団に……?」

 

 その、ガチガチ防御からの、頭突き。

 今日一番いいのを喰らって、悶える禍福の上で婪佳久は呑気していた。

 

「あー、行っちゃった。もう、どーしましょうこれ……けど二人とも、無事でよかったです」

 

「よかない、退け。クソ……どいつもこいつも……」

 

 

 

 ――しかし。さっきのコイツ。

 術式が、暴走――独立稼働したというのか。

 

 だいたい、他人の呪力で動く術式?

 あり得るのか、そんな事――つうか。

 

 今後アレを止める係って、マジで言ってるのか?

 

 

 

「ごめん伊地知さん。私、またやっちゃったみたい」

「謝ってくれるだけ偉いです、いや本当……それに、おかげで禍福さんは助かったし、あなたは禍福さんが止めてくれましたから」

 

「みたいだね。よか――五条先生じゃ、なくて?」

 

 

 

(いや、語弊ある。呪具ありきなんだが……)

 

 

 

 反論しようにも、すでに気が遠かった。

 勘弁してほしい――そんな丸々と、期待の膨らんだ眼で見ないでほしい。イヤでも先が読めてしまう。

 

(……負けた上にこれとか。どんな厄日だ、全く)

 

 地面で大の字、嘆息が漏れた。

 

 

 

 ……一番、悪質なのは。

 こいつが、俺の命の恩人であるという事実だろう――。

 

 

 

――

―――

 

 ――後日。廃工場を巡る裁判は、国の要請によって大規模な業務改善命令が言い渡され、遺族に支払われる賠償金は増額された――。





諦めたなんて言わせない。想像の先をいけ。

という姿勢こそが、本シリーズでの正解なんですね。
なんで、禍福少年にはまだまだ転がされてもらいます。



さてさて次回からは、いよいよ本題・東京となります。

ガッツリ話に1年ズがコラボってきますよ〜。
三人のうち誰が出るのか、ご期待下さい。



【オマケ①・婪佳久の暴走形態について】

デッドマンワンダーランド シロ でご検索ください。
元ネタそのまんまです。



【オマケ②・禍福少年のコンセプトについて】

 最後のヒロインを救った(?)、
 禍福の合わせ技ですが…。

・投射呪法モドキ
・特級呪具『天逆鉾』
・両足を着ける縛りによる三輪ちゃん式『簡易領域』

 ……いや〜、弱者のあらがいフルセットですね。

 そう。禍福少年のコンセプトは、
 打倒『最強』、打倒『強者』です。

 某ドブカスイモムシ君然り、
 某フィジギフおじさん然り、
 強者から身を守る『弱者の領域』然り。

 準最強、対弱者のイメージを寄せ集めてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。