【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【前回のあらすじ】
呪霊による領域展開。
呪術師・禍福は、後悔と死の只中にいた――。
――当時の俺は、本気で五条悟への復讐を誓った。
つまりは――できるかでなく、やりたいからやっていたのだろう。
でも。今では形だけの復讐を引きずっている。
家を焼き、両親の血に塗られた男の六眼。
瞼の裏に焼きついた、明るい夜。幼い日。
――あの理不尽のツケを払わせたいと思った。
――勧善懲悪を起こしてやりたかった。
前例はあった。術師殺し・伏黒甚爾による暗殺。
超速度のフィジカル、『天逆鉾』の組合せ。
後者は、武者修行先の海外で必死こいて探しあてた。
問題は前者、自身の強化。
――『最強』を越えるべく、『最速』で鍛えた。
14歳から里親を離れて呪術を始め、すぐに俺はセンスがないとわかった。
呪術は才能が八割、センスこそ最大の壁。
その突破のために、こんな術式にした。
死線を潜った数だけ、術師の体は呪術の核心に近づく。
だから行使に失敗すれば死ぬ術式にした。
常に最大パフォーマンスを強いる縛りで自身を押し上げてきた。
今は――どうかしていた、としか思えない。
そんなんで、燃え尽きたんだから大馬鹿だ。
……本当にバカだった。
やりたいだけなら最初から自爆特攻の術式にでもすればよかった。打ち勝ちたい、できるようになりたいと思ったのがいけなかった。
自分の名の意味を、信じるんじゃなかった。
――もう、いいんだ。
悔いはある、だが。
怒りを持ち続けるのは、心が疲れた。
義務感だけで動くには、余分が多すぎた。
この工場の不届でお子様を失い、
示談を受け入れたというご両親ときっと同様に。
もう走れない。なぜ失った側が、怒りを伴って動かねばならない。動きたくない。
なんでか五条悟の『蒼』を受けて死に損なったが。
これで、帳尻も――。
―――
――
―
「領域……!」
領域外。工場と一体になった呪霊から吐き出され、帷の端に叩きつけられて。
白制服の少女――
「23区外で特級案件が!? 婪佳久さんっ、安曇野君は!」
背後。車から顔を出した伊地知さんの声。
だが耳に入らない。
それ以上に感じるものがあった――人の死だ。
「――ダメっ!」
「ちょ、婪佳久さん! ――ああ、もうっ!」
駆け出した。
もはやお気楽ぶる余裕はなかった。
そも、あのプレス機を見た時点で限界だった。
負の呪力の感情を感じ取る体。
非術師が呪力を出すのは決まって死ぬ間際。
呪力と死はいつでも隣り合う。
――少女は、誰よりも死に敏感であった。
また死ぬ。あそこで見て、焼きついた断末魔が。
またひとつ――!
『――なんで。お前みたいな能天気が、呪術師なんて――』
「――――ムカつくんだよ、ほんッとにそういうの!」
――笑う事は戦いだった。
――軽薄さは生存本能だ。
呪いに満ちた世界にばっか生きてきた。
最期には、この持て余す呪力に食い殺されるかも知れない――冗談じゃない!
――なんで他所から呪いを回され続けなきゃならない。
――なぜ、そんな風に死んでいいと言える。
――呪われっぱなしじゃ、ムカつくだろう!
「わたしだって――なんかを呪わなきゃ、気が済まない!!」
激情。呪力の巡りから理性が消えた。
呪印の刻まれた痩身は軽々、工場の高さを超えて跳躍、振り墜ち――隕石が如く。
領域の外郭に、拳を突き立てて、
「――、婪佳久!?」
「!?」
「――――ッ!!!」
貫通、崩壊する小宇宙。
降り立ち、呪霊よりも『らしく』吠えた、それは。
『非術師のコントロールされていない呪力』の塊。
人体に巣食い意思を奪い、憑依した――『混沌』で。
「まずいまずいまずい――帷の対象を婪佳久さんにのみ限定、結界内側に機能集中――最悪すぎる!」
即座、帷は塗り替わる。
伊地知による大慌ての再構築だ。なにせ、
「せめて一撃くらいは耐えれるようにしないと――こうなった婪佳久さんは、あの時の宿儺よりヤバい!」
そう――、一撃で『潰れた』工場そのものを前には。
なおの生え際後退なんて気にできる余裕などない。
――虚式『茈』に相当する呪力と破壊力。
記録されうる最悪のケース、
術式『受愚載転』の独立稼働。
特級術師・婪佳久の『暴走』。
呪力出力の、完全無制限解放――!
「――なん、だこりゃあ――ッ!」
実際、禍福の理性さえ耐えかねて悲鳴をあげた。
デタラメなんてもんじゃなかった。
侵入者を阻むべく、幾重にも縦に重なり並んだ防壁。
それが、ただの一撃で。
本体諸共、突き通された呪力を前に爆散した。
それどころか――余波で工場自体が。
くり抜かれたかの如く、木っ端微塵に打ち砕かれていた!!
領域の攻撃として、押し上げられた地面が。
返って脱出装置となり、実現した――あり得ざる生存。
安曇野禍福は。
(――ふッざけんな、どこまで始末が悪いんだお前は!)
暴れる視野に線を見出す。
それを蹴り、さらに加速を得て、駆けた。
自分同様に工場ごとぶっ飛んできたモノ。
あらかじめ、呪力でマーキングしていた呪具へ。
(アレは負の呪力の漏出に反応してる――来る!)
さっきまでとは比じゃない、無秩序な呪力の迫る気配。
それに晒され、直感した。
あれは御された呪力を許さない、次は俺だ。
その前に、最速で手に取った――特級呪具『天逆鉾』を。
「――シン・陰流『簡易領域』ッ!!!」
――構えた。
足場の爆発。突き破って現れる『怪物』との相対する。
色の抜け落ちた真白の痩身。
その頭から足先まで、脈打つ――枝分かれ、刻まれ、肌に滲み上がった『紅』くも幾何学的な呪印。さながら、血色の紋様を入れた白豹が如き――銀髪の、怪少女。
(先手は取れる。あとは当てるだけ。呪力強化解除、加速も消す、威力最小化――)
さっきとは比にならない圧倒的悪意、その懐へ。
両足はついたまま靴裏のローラーに任せて――加速して、滑り込む。
刹那。膨大な悪意、真っ赤な二つの眼と、目があって、
「――!」
「抜刀」
――振り切った。
心を無視して動くのは最早お家芸。
そのお得意の殺人挙動は――峰打ちで、最大限優しく得物を撫ぜる。
ついぞ想定されなかったダメ元の運用。
およそ人体に当たったとは思えぬ金切りが響き――しかし。
「……ぅ、あ」
「――、っと」
ぽすっ、と。呆気ない結果に至った。
すうっ、と呪印が消え、
赤錆た紋様は打ち解けた。
憑き物の落ちたような顔の。
力の抜けきった体を受けとめた。
――ちゃんと、生きている。
成功の感触は、やけに柔く。
初めての、静かな真白の少女と対面し、息を呑んだ。
……そして、その後の始末を忘れていた事に気づく。
「……え。ちょ、っと待て待った、ここにきて落下死は流石に御免だ!」
脆く、立っていた足場は完全に崩壊していた。
迫る眼下、工場全体も威力に耐えかね、原型がなく倒壊の一途。
メーデーで頼れる先はなし。
今試されるなけなしの英知。
かくして少年は、緊急着陸に慌ただしく動き出した――。
―――
――
―
「はぁい、オーライオーライ……ストーップ!」
「お、わ――」
すんでで、あらゆる落下が止まった。
それも強引に。重力を押し上げて相殺した形。
これは――無下限呪術。
「――五条悟!」
「イエス、キミのGTG・五条先生ですっ! ビックリした〜?」
突如、かつ今更に、足元へ現れた『最強』。
睨む禍福。だがそんなものはどこ吹く風と。
「婪佳久に持たせてた呪具が反応したんで飛んで来たんだけど〜……嬉しい誤算だ。どうやら、君が止める方が速いみたいだね――てかごめん、アオハルの邪魔しちゃった?」
下からなのに上から目線で、清々しいまでに悪びらない。絵に描いたような軽薄は、禍福の尖った神経を逆撫で、
「ああ、邪魔だとも。さっさと降ろせ、息の根を止めてや――」
――ぐおん。と、空間の捻れる音。
一瞬で瓦礫だけは爆縮し。
ぽーいと擬音の似合うふうに、傍に廃棄された。
「無理無理、キミ弱いもん。もっと強くなってからじゃなきゃ、相手してあげないよ?」
「……!」
禍福は。対応どころか反応さえできなかった。
「でも会うたびこうなるのは面倒だし……ずっと軟禁は可哀想だったからね……。――よし」
……それ故に、たぶん。
隙を見せたのが悪かった。
「決めた。今後は婪佳久をキミに任せる! 天逆鉾については僕から恵に言っとくから、預けるよ。――ってなわけで。これからもよろしくね、マブとして⭐︎」
歯を光らせてのグッドサイン。
誰がやるかと言いたいが無論、拒否権などなく。
「あっ五条さん待っ――」
「ぐッは!」
「……ぅ、ん?」
ついに落下。視野に星が瞬いた。
婪佳久を庇った代償は、物理的に降りかかった。
後頭部と顎が痛い。なんつう石頭だ。
……てか、庇うんじゃなかった。
コイツ、常に呪力が立ち昇ってフルオートで防御できるんじゃねぇか!
「ふぁ……え。禍福、なんでお布団に……?」
その、ガチガチ防御からの、頭突き。
今日一番いいのを喰らって、悶える禍福の上で婪佳久は呑気していた。
「あー、行っちゃった。もう、どーしましょうこれ……けど二人とも、無事でよかったです」
「よかない、退け。クソ……どいつもこいつも……」
――しかし。さっきのコイツ。
術式が、暴走――独立稼働したというのか。
だいたい、他人の呪力で動く術式?
あり得るのか、そんな事――つうか。
今後アレを止める係って、マジで言ってるのか?
「ごめん伊地知さん。私、またやっちゃったみたい」
「謝ってくれるだけ偉いです、いや本当……それに、おかげで禍福さんは助かったし、あなたは禍福さんが止めてくれましたから」
「みたいだね。よか――五条先生じゃ、なくて?」
(いや、語弊ある。呪具ありきなんだが……)
反論しようにも、すでに気が遠かった。
勘弁してほしい――そんな丸々と、期待の膨らんだ眼で見ないでほしい。イヤでも先が読めてしまう。
(……負けた上にこれとか。どんな厄日だ、全く)
地面で大の字、嘆息が漏れた。
……一番、悪質なのは。
こいつが、俺の命の恩人であるという事実だろう――。
―
――
―――
――後日。廃工場を巡る裁判は、国の要請によって大規模な業務改善命令が言い渡され、遺族に支払われる賠償金は増額された――。
諦めたなんて言わせない。想像の先をいけ。
という姿勢こそが、本シリーズでの正解なんですね。
なんで、禍福少年にはまだまだ転がされてもらいます。
さてさて次回からは、いよいよ本題・東京となります。
ガッツリ話に1年ズがコラボってきますよ〜。
三人のうち誰が出るのか、ご期待下さい。
【オマケ①・婪佳久の暴走形態について】
デッドマンワンダーランド シロ でご検索ください。
元ネタそのまんまです。
【オマケ②・禍福少年のコンセプトについて】
最後のヒロインを救った(?)、
禍福の合わせ技ですが…。
・投射呪法モドキ
・特級呪具『天逆鉾』
・両足を着ける縛りによる三輪ちゃん式『簡易領域』
……いや〜、弱者のあらがいフルセットですね。
そう。禍福少年のコンセプトは、
打倒『最強』、打倒『強者』です。
某ドブカスイモムシ君然り、
某フィジギフおじさん然り、
強者から身を守る『弱者の領域』然り。
準最強、対弱者のイメージを寄せ集めてみました。