【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 19話『耽溺』

 

 ――俺たちは選ばれた!

 勝ち残り、『点』を懸命に集め、そして招待状が来た!

 

 

 

「なぁハニー、信じられるかい!? あの船についたら、ついに念願の結婚式だZE!」

 

「えぇ! もう母国には帰れないなんて悲しんでいたけど思い違いだったわ。だって、私達は最強ですもの!」

 

 

 

 なにやら、情熱的な言葉を交わしつつ。

 その男は、式神の靴に導かれるように、滑るように港へと降り立つ!

 

 そう――白ドレスを着込む金髪美女を抱きながら、式神の靴を履く、タキシードに包まれたメリケンマッチョボーイが!

 

 

 

「うん? ねぇアナタ、アレ見てあれ!」

 

「ううんなんだぁ!? なにやら弱っちそうなボロ女が、船の前で腰を抜かしているじゃあないか!」

 

 

 

 ひぃっ、やめて! 命だけは助けて!

 そんな、何百回と聞いてきた文言を前に、二人は笑った。

 そう、彼等は知っていた――バージンロードとは、己が力で以て開かれると!

 

 

 

「よくない? ちょうどよくない?」

 

「イエッサー、マイハニー! あんなザコは、僕らの服のシミにすらならないさ!」

 

 

 

「「さぁ、我等が花道の礎となれーッ!!」」

 

 

 

 ――シュルシュルシュルっ。

 

 

 

「「ぎゃああああ髪が!? 髪が首にぃいい!? ……ガクリ」」

 

「……ふぅ、こんなもんかな。猪野さん、出てきていいですよ」

 

 

 

 静かな港に響く窒息音。

 すくわれた足元で砕け散る式神(くつ)

 

 その脈は断つことなく、気絶を見計らい、髪は離れる。

 バタリ、と打ち捨てられる哀れなカップル二名。

 

 仕留めた獲物を前に、女――灰原結は、作り涙を真顔で拭い捨てた。

 

 

 

「マジでやれちゃったよ。すげぇ慣れてるな……」

 

「商売道具ですからね。今となっては命綱ですけど」

 

 

 

 声につられ、近くの茂みから顔を出すのは、狩野琢真。

 コソ泥のようで後ろめたいが、それはそれ。

 

 まずは――この船に乗り込むため、条件を満たさねば。

 

 

 

「まずは、門番(しきがみ)を通る要件を満たさないとですよね」

 

「そうそう。他者間の『縛り』を成立させてるものがあるはず……」

 

「ドレスは元から着てるからいいとして……こんなんなら招待状捨てなきゃよかったなぁ」

 

「あった! これじゃないっすか!?」

 

 

 

 だが、運は味方した。

 夏油(かおる)は、無遠慮にまさぐったポケットから件の封筒を掘り当て、そして、

 

 

 

「仮面! イカしたデザインじゃあないか! 早速つけてみ――」

 

「いやダメでしょ返しなさい!」

 

「それ何か変だな……へい、狗巻っち! コイツお願い!」

 

 

 

 嬉々として罠にハマろうとする彼に、さしもの灰原結はキレた。

 流れるように仮面は猪野の手に渡り、

 

 待ってました、とばかりにハイネックを引き下げ、彼は発した。

 

 

 

「――『剥がれろ』

 

「おわっ、普通に喋った!?」

 

 

 

 狗巻棘の、呪言。

 即座。仮面からこぼれ落ちる、呪力と肉片。

 

 ――ロクでもない仕掛けがあったのは間違いない。夏油と灰原は今更ながら理解した――だから彼はいつもオニギリ言葉だったのか、と。

 

 

 

「ったくもう。落ち着きがない。で、招待状は――」

 

 

 

 さて、次に見るべきは招待状。

 なにやらお高めの封筒に入っていたのは、フランス語地味な斜め字の羅列。内容としては――。

 

 あなたは特別に選ばれた!

 この招待は、100点以上の泳者限定で送られています! ……などとある。

 

 とにかく、煽てて褒めちぎるニュアンスが詰められた文章であった。

 

 

 

「……何よ、この。チェーンメールみたいな」

 

「あ~、たぶんサバイバーズギルトを誤魔化すんスよ。特に現代人は殺人に抵抗感強いですから、自己正当化のために嬉々として飛びつくでしょうね」

 

「ぅぐッ!?」

 

 

 

 ガチ目にダメージが入る灰原。

 一方、イノタクは茂みから出てきて、引きはがしたタキシードで身を包んでいた。

 

 

 

「うし、スーツの拝借完了! やっぱどうせなら白じゃないなぁ。解呪した仮面もつけて――いよいよ行きま」

 

「いよっしゃ行こう! 乗り込め――っ!!」

 

(いや俺のセリフ……)

 

 

 

 作戦開始、二手に分かれる四名。

 

 ――灰原結、狩野琢真が。

 ――客として、真正面から踏み入った。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 式神(もんばん)に仮面と招待所を認識させ、開かれたゲート。

 

 入るなり、耳に入ったのは優雅なピアノの弾き語り。

 そして目にしたのは、天井を覆うLEDの空だった。

 

 甲板に上がるや視界を埋め尽くす、長さ百メートルを超えるガラスドームのプロムナード。天井はLEDの空で、万華鏡のような絨毯模様がアーチ状に敷かれ、仮面を付けた人々は手を取り合ってダンスに興じている。

 

 

 

(……これだけ貴重な電力、資源を湯水のように使うなんて)

 

 

 

 とはいえ、遊びに来たわけではない。灰原はカップル客を演じるべく、猪野のエスコートに促されるまま先を行く。

 

 

 

「狩野さん。怪しまれないための雑談なんですが――昔、高専に私と同じ苗字の生徒がいたんです。ご存知ですか?」

 

「ん? あぁ、そういや七海さんが言ってたかなぁ。俺が二級になった時に」

 

(二級? 英検じゃないわよね……?)

 

 

 

 ギャンブルに勤しむ人々を素通りし、『点』を叫び合うオークション会場を横切る。

 

 灰原の前を行く狩野は、不思議と白スーツに着せられている感がなかった。誰にも怪しまれることなく、澱みなく歩は進んでいく。

 

 

 

「その人の最期の言葉、知ってたりしませんか? 私、そこだけは聞き取れな――知らされてないんで」

 

「んー、ごめん。俺が聞かされたのは、土地神案件はまだ受けるなって業務注意(?)くらいで……」

 

「そうですか……」

 

 

 

 エントランスにそびえ立つ螺旋階段を登る。

 足元の大理石にはスワロフスキーのクリスタルが無数に埋め込まれ、歩くたびに光が波紋のように広がる。どこを切り取っても絵になる96段のクリスタル階段を降りた矢先。

 

 

 

「じゃ、交代しましょう。七海さんって人の話を聞かせてください」

 

「えっいいの!? どこから話そっかなぁ、うーむ……」

 

「あ、着きましたね」

 

 

 

 目的地への到達。

 雑談は、強制中断とあいなった。

 

 

 

「――ずっと思ってきました。甘んじてはいられぬと。私がこれまでしてきたことは、どれもが成功ではあっても大成功ではなかったのです」

 

 

 

 この船の最大コンテンツ。

 大食堂に踏み居った時には、そのスピーチは佳境に入っていた。

 ステージの上で、男が熱弁を振るっている。

 

 

 

「家庭教師複数人で用意されたカリキュラムをこなし小学校、中高一貫、大学院までストレート。経営においても継いだ財を順当に高め、このデスゲームの直中にあっても、組織は安泰を享受している――して、しまったのです」

 

 

 

 ――なるほど。お偉いサン特有の長い自慢話、らしい。

 

 スタッフに案内され、空いた白シーツの丸机に促されるまま座りつつ――周りの雰囲気を二人は伺う。

 

 

 

 500人あまりの来客が、所狭しと座ったり立っていたり。

 最初こそ彼を向いていた客達は、すでに興味が移ろい、小声で談笑したり欠伸をかいていた。

 

 だが。彼ら二人としては、無視するわけにもいかない。

 

 

 

「コガネ、あの偉そうな人の点は」

 

「1438点だぜ!」

 

「桁違いね……」

 

 

 

 そこはいい、組織の(ポイント)をほしいままにしているのだ、むしろ一個人で獲得できる以上の点でなければ話になるまい――灰原結が気にしたのは、呪力の『荒さ』だ。

 

 男の周囲に渦巻くそれは、洗練とは程遠い。

 

 

 

「私は悲しい。私は今でさえ、成功してしまった。故に紳士淑女の皆様。私は望んだのです。選び抜かれたあなた方との交流を。あなた方との祝杯を! 私の願望器にかける願い、それは新体験の到来である故に!」

 

「やっと終わりそうだな……こっちだって七海さんの話したいんですけど」

 

「猪野さん。あいつ、『疑似術師』ってヤツですよね」

 

「あぁ。ある意味すごいよ、それであんな堂々としてるなんてね」

 

 

 

 疑似術師は、本物の術師の存在を大きく意識するもの。

 この500人あまりの100点泳者は、その大半が『本物』だ。

 

 だというのに、その御曹司は自信に満ちていた。

 なんら自信を疑わず、ひるみもせず。ただ堂々として構え、己の勝利を語りながら。

 

 スポットライトの下――真っ赤なスーツで包んだ肥え太った体で。手つきだけは優美に、グラスを掲げる。

 

 

 

「さぁ、どうか。退屈が過ぎる私の人生に彩りを与えてくれ! ――乾杯!」

 

 

 

 それが――死滅回游・泳者(プレイヤー) 豊澤圭次(とみざわけいじ)

 またの名を、客席海賊団『グランメゾン』の頭領――『ヴァンサン』。

 

 

 

 その一声により、各地一斉、弾けるグラスの音。

 そして、振るわまれ始めるオードブル。

 

 

 

「一品目はこちら、揺蕩(ようとう)のハニースイート漬けでございまぁす!」

 

 

 

 一斉に参加者たちは群がり出す。

 マグロ解体ショーよろしく、目の前に持ち出された食材が捌かれ、盛り付けられる。

 

 ――もう食わなくてもわかる。絶対ロクでもない。とはいえ――客として潜入するからには。

 

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

 灰原結、さすがは俳優。

 配膳係より渡された皿を前に、笑顔で何ら澱みなく食す。

 

 狩野琢真、さすがは呪術師。

 真顔ではあるが苦心ひとつ漏らさず飲み込んだ。

 

 

 

(……揺蕩って、低級とはいえ呪霊だぞ呪霊。そういう術式でもなきゃ腹の足しにならないだろ。何で食べたがるんだこんなの。つうか味しねえし!)

 

 

 

 猪野はドン引きしつつも周りを伺う。

 何を感じたと言うのか、客達は誰もが舌に乗ったものに喜び震え、さかんに感想を交わしていた。

 

 当然、美女がいたのなら言いよる者もいよう。

 

 灰原結の元には、「これなんか美味しいですよ!」とイルカの心臓を持ち出す者もおり、

 

 

 

「あ、私は結構です」

 

(ちょ、灰原さん――!?)

 

 

 

 灰原結、ギブアップ。

 早くも露呈したボロ、焦るイノタク。

 

 だが――大丈夫、と灰原は何やら落ち着いた目でいた。

 

 その見立ては、正しかった。

 

 

 

「そうですか、わかりませんかこの美味しさが! ……んっ、美味い! こんなの食える俺らお愛想すぎるだろ!!」

 

「四品目は、牛の睾丸焼きにございまぁす!」

 

「サワートウ・カクテルのお代わりはこちらにございます! 人指の酒漬けと共にご賞味ください!」

 

 

 

 ――そう。彼らは、まるでイノタクも灰原も見ていなかった。

 

 ――ただただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この珍味の数々、美味いかどうかなど関係ないのだ。

 こういうのを食べている自分は特別であると、その結論を得るがため、彼らは参加したのだ。

 

 

 

 そして、やはり彼も、例外ではなかった。

 

 

 

「やぁ、楽しんでくれているかい?」

 

「あら、CM以来ですね、オーナーのおじさま。それはもう、来て良かったと思わされるばかりで。ご健在だったと分かってホッとしました」

 

「はっはっは。私も貴女と再会でき嬉しい限りです。まあ、今となっては我が社はこの船を残すのみですが、この体制を確立できたのも一重に私による――」

 

 

 

 近えわクソジジイ。

 つうか私が言うまで忘れてたろ、CMに起用してたの。

 

 という本音は毛ほども見せずにグラスを合わせ、灰原はみめ麗しゅう淑女となって、社交辞令で応対する。

 

 

 

 ……こういう硬いノリは苦手な猪野。それだけに『任せて』と目を配る灰原が心底ありがたい。

 

 そんなやりとりなど知るよしもなく、御曹司は饒舌であった。

 

 

 

 

「そう、私も貴女も特別なのです、だから敗者を糧に生き残れた。我等は強いからこそ弱い者を背負い、食わせ、また感謝する。さながら皿の前で手を合わせるようにね」

 

 

 

 口でこそ同意はするが――反吐が出る。

 

 強者生存。弱肉強食。

 ノブリスオブリージュを口にする男の顔には、まるで年齢が伴っていない。

 ただ貪欲に、食欲旺盛に、灰原結という肉をメラメラとした目で見ていた。

 

 何より、耐え難いのは――前までの私も、こんな風に見えていたのだろうか、という事で。

 

 

 

「そうそう、ここにはスパもあるんですよ。岩盤浴が大変好評でして、よければ――」

 

 

 

 ――危なかった。

 

 ついつい、その腰に伸ばされた余分な手を、切り刎ねそうになっていた。

 猪野が、灰原結を引き寄せていなければ。

 

 

 

「おっと、失礼。そろそろメインディッシュが届く時間でした。では引き続き、お楽しみ下さい」

 

 

 

 紳士ぶった肉塊は、そう笑って立ち去っていく。

 つい、灰原は自分の頬に手を置く。

 

 己の役者魂に、はじめて感謝した。

 笑顔の仮面は崩れていなかった、らしい。

 

 

 

「落ち着け、灰原さん」

 

 

 

 だが、気持ちは一緒だと。

 彼の暖かな手が、遠慮がちながら、僅かに強張った肩に乗っていた。

 

 

 

「怒るときはとことん怒るべきだけど、今じゃない――俺の仲間が持ち出された場合、腕づくで奪還する。それまでは、ここで耐えましょう」

 

「狩野さんらしくないですね」

 

「……ちぇーっ、バレてたかぁ。ええそうです、請負ですよ」

 

 

 

 しかし。そのキザさは三流といったところか。

 苦笑を交わし、灰原結は買って出た汚れ仕事に向き直る。

 

 ――もう、兄さんに顔向けできる身分でなくとも。

 それでも、こんなヤツらと同じにだけはなるものかと、心に決めて――。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 一方、ステージの裏手では、もう一手の侵入が進行していた。

 

 

 

「お前ら! 女の脊髄足りないから食糧庫から持ってこい!」

 

「うっす!」

 

 

 

 どだどだどた。廊下に響く厨房の喧騒。

 元スタッフらは、デスゲームの中でさえ通常業務をこなしていた。

 

 環境に適用した者だけで構成される彼らは、迷う事なく業務に邁進し――だが、異変を前に立ち止まる。

 

 

 

「なんだダクトから物音が――誰だ!?」

 

 

 

 振り返る。侵入者の気配。

 彼等とて紛い物でも呪術師だ。呪力の気配を見過ごすバカではない。

 現に、感じた存在がこうして目の前に――!

 

 

 

「なんだよ、死にかけの低級呪霊か。びびらせやがって」

 

 

 

 ――死にかけの呪霊だった。

 侵入する過程でトラップに引っかかり、今しがた祓われようとしている。

 

 興醒めし、職員はそこを立ち去った。

 

 

 

 呪霊の、中身も知らないで。

 

 

 

「よし、狗巻さん――」

 

 

 

 呪力を纏った拳が、突き破る。

 化けの皮を剥ぎ落とし、顔を出したのは。

 

 

 

「侵入成功っすね!」

 

「しゃけ」

 

 

 

 ――夏油勲。そして狗巻棘。

 

 二人の潜兵は。

 視線を交わし合い、駆け出した。

 




牛の睾丸焼きと人の指を酒漬けした食べ物は現実にも存在します。
ここでは度胸試しのゲテモノしか提供されてません。

次回は1/25です。
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