【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
海賊客船に囚われた仲間を救出せよ。
夏油
――夏油
(くくく、インポッシブルなミッションと言えばワイヤーアクションだよな。こんなこともあろうかと、命綱を隠し持っていた甲斐があったぜ!)
侵入行為に心躍らぬ少年がいようか。いやいまい。
その役を、
現実は、非情だったと知る。
「うわっなんだオマエらっ、侵入sy――!」
「――『眠れ』」
「ぐぅ」
――そう。呪言によるゴリ押し!
せせこましい事など一切しない、圧倒的ゴリ押し!!
(いやまぁ、うん。『これが一番速いと思います』けど……えぇ?)
若干のガッカリ感はあったが、まあいいだろう。
かくして二人は服を奪い、スタッフに扮して、最短コースで突き進む。そして辿り着いた。
彼等の目的地――食料庫へ!
「なっ。なんだぁっ!? なんだなんだこいつはよぉ――ッ!?」
そこには生き地獄が並んでいた。
さながら図書室の本棚のように。
運ばれ、積み上げられ、整頓された水槽達が列をなし。
その中には――体の一部をくり抜かれた、人や、呪霊や、動物たちがいた!
「して……ころ、して……」
一人の男と
空洞でしかない眼で、こちらを向いていた。
皆一様に、そう乞うていた。
四肢を失い、胸に大穴を開かれようと、何故だか死ねない。何故か生かされている。
そう、ここは食料庫――彼等は、鮮度のためだけに、食われるために命を繋がれているのだ!
「くっ――心臓を抜かれても生かされるだなんて。こんな不条理があっていいのかよ――!」
迷いなく、
コガネが、「1点が追加されました」などと報告するが、もはや耳に入らない。
義憤。少年の頭を埋め尽くしたのは、その一色!
「やっぱり、弱肉強食だなんて強者の戯れ言なんだ。力さえあれば、こんな間違いさえまかり通ると思い違ってしまうんだ――オレが、こういうことを終わらせねば!」
狗巻は、思った――やべーなアイツ、と。
真っ当な怒りを持てる感性がありながら、まったく殺しに躊躇がない。
初心者丸出しで不安だったが、これならば問題なさそうだ――。
「よぉ、お疲れ。あの食材ってどこあったかわかるか?」
「しゃけ」
「わかる。シャケのがマシだよな。人肉なんて何がいいんだか。食ってみた時なんてマズいのなんの」
「高菜」
とはいえ、今はあくまでも潜伏中。二人は職員から剥ぎ取った白衣に身を包んでいる。
まずは、ここに仲間がいないかを調べねば。そのために今は、しばらく我慢を覚えてもらうしか――。
「お、あったあった。呪霊の肉ってのも悪食なもんで――って、こいつまだ檻に自爆特攻してやがる。ザコ呪霊じゃひっくり返っても無理だってのにな」
と、思考する狗巻を他所に。
作業員の男は、棚に収まった水槽のひとつを担ぎ上げ、滑車に乗せようとした。
その時だった。
「そうら、おとなしく運ばれ――ぉわぁあ!?」
「なっ、なんだぁ!? 今の声は――」
「おい高尾! いったいどうし――」
「――『眠れ』」
「「ぐぅ」」
その他の狼狽えた職員が、みな抵抗の余地なく、気を絶したのは。
「いよっしゃあ今だ! 狗巻さん、俺片っ端からこの辺のヤツを助け回ります、アイツやれますか!?」
「しゃけ」
「頼んます!」
――我慢タイム終了!
夏油
狗巻は即座、人質の対応を彼に任せ、前へ。
「――かぁぶりいいいい!」
両の鋏を掲げ、自由を叫ぶ、超巨大ヤドガニ型呪霊。
――――特級半精呪霊『
―
――
―――
――むかしむかし、その呪霊はクソザコヤドカリであった。
オーストラリア東方の太平洋にて生を受けたはいいが、そこは国外、呪術的土壌皆無の悪条件。
できることといえば波にさらわれるのみ。
その呪霊は、巻貝に引きこもる他になかった。
術式は『ヤドカリ型の
終わり。閉廷。どないせいこんなもん。
とはいえ死ぬのはイヤだと、なけなしのハサミで抵抗にあけくれ、あえなく波に運ばれ幾星霜。
どんぶらこ、どんぶらこと重ねたパンプアップの果て。
現在、2025年12月7日――。
「――かぁぁあブリぃぃいい!」
ふたつの大鋏を振り翳し、ヤドカリ式神は荒れ狂う。
その矛先は――狗巻棘に向かった。
「――『おいで』」
その一言を置き去り、彼は走った。水槽らに被害が及ばない方へ。
――拳の、歓迎を受ける。
「すじこっ!」
「かぶ――!?(特別意訳:なに――ッ!?)」
狗巻棘の欠損した左腕を補う義手。
2025年4月より高専に保護された烏鷺亨子の呪具。
――『たなごころ』。
その効果、保有者以外から受けた呪力の吸収。
これによって、大鋏の呪力を吸い上げ、左拳の呪力は勝り。
木っ端微塵に、式神は砕け散っていた。
「かぶりゃああっ!?」
「いくら?」
あまりのあっけなさ。あまりの『脆さ』に。
狗卷は思わず二度見し、だが理解した。
壊れた式神は、次の瞬間には再び発生していた。
より大きく、より呪力を増して。
――推測するに、式神は『命を賭ける縛り』を強制され、攻撃に特化しているのだろう。
式神の術式は、往々にして物量を持ち出すもの。
だがこの呪霊は、式神を一体に限定する『縛り』で、その一体に呪力強化を集中させている。
叩くべきは――式神を吐き続ける、あの小さな
なのだが――!
「こんぶっ!」
「かぶりぃ!(特別意訳:効かぬわ!)」
――硬い!
パルクールでもって攻撃をかいくぐり、渾身の飛び蹴りを撃ち込んだはいいが、まるで
だがなるほど。これで全貌は見えた。
防御特化の
式神が破壊されるたび、式神の『死後強まる呪い』を吸収することで、雪だるま方式で呪力量は増していく!
放っておけばもっと強くなる。
それが、この呪霊が選んだ生存戦略。
――ならば。
「――す、ぅ」
やむを得ない。手加減などできない。
大きく息を吸って、決意する。
「――『領域展開』」
一級術師・狗巻棘。
掌印なし、詠唱のみの領域展開を!
―――
――
―
呪言のアドバンテージは、面制圧力である。
声の届く限り、多数を巻き込む範囲効果。
それ故に呪力が拡散しやすく、対象を絞るには高度なコントロールが必要となる。
――だが、『領域』においては。
――必中効果により、対象を絞れる!
「『
その一声で、澄み渡る世界は開かれた。
――そこは、山肌で出来た洞窟であった。
地面は水鏡が如く。透き通るような穏やかな風が、大気の凪が、閉鎖空間を
広々と牧歌的な小宇宙。
その主人はただ、透徹と佇む。
「かぶりいいい!(特別意訳:それがどおしたぁあ!)」
領域を使われた以上、一刻も早く倒すしかないのは自明の理。
なのだが――狗巻棘は、理解していた。
――――こいつ。
――故に今、自分とコイツは領域の押し合いをしている。
伏黒がやった、建物を結界に転用する手法だ。
必然、狗巻の必中効果は死んでいた。
改めて必中効果を得るには、
防御特化のあれには、そう並大抵の呪言は通るまい。
「んぐっ……、す、ぅ――――」
迫る、命を賭ける縛りの重ねがけ。
紛うことなく特級上位の呪力出力。
間違いなく、『たなごころ』では吸収しきれない超威力。
だが彼は動じない。
――これは『必中のみの領域』だ。
――とはいえ必中効果以外にも手段がある。
故に、喉薬を一口。
それから、大きく口を開けて息を吸って、
――――放った。
「――――『死ね』!!!」
――――刹那。小宇宙が砕けた。
「かぶりゃあああああ!!?」
一瞬で。
跡形もなく、
これほどの呪言。さしもの狗巻にも反動が――。
「……めんたいこ〜」
否。特になし!
なんなら『肝を冷やした』とばかりに緊張を解く始末!! いったい何故か!?
――シンプルだ。
――狗巻棘は、反動を踏み倒したのだ。
この領域は、一度だけ『呪言』を最大化させる。
代償に領域は自壊し、術式が焼き切れる。
そう、術式が焼き切れるのだ!
喉の負担というデメリット発生が、術式焼き切れによって阻害され、メリットのみが残る!
「……高菜」
故に、何事もなかったかのように彼は、少年を後追った。
仲間を探すためだけではない。人を助けねばならない。
渋谷事変でそうだったように――あの時以上に、救いの声を届かせるがために。
―――
――
―
「いいかっ皆んな! 助かりたければ、
……なに言ってんだコイツ。
と、弱者一同。手をとって引き出してくれた奇跡のヒーローへの目の色が変わる。
それもそうだろう。やっとこさ生き殺しの檻から放たれたと思いきや、急に大口を開ける魚の呪霊の中に入れというのだ。
「いーから入ってくれっ! 俺らがうまいこと甲板に穴を開ける! そしたら、こいつと海に飛び込んで逃げるんだ!!」
だが、
狗卷の仲間と覚しき人外は見当たらなかった。
そこはいい。裏にいなかったのなら表にいる。狩野と灰原が見つけてくれるだろう。
しかし――なんとか救い出せた百人弱。
これは全体の三割に満たない。残りの全員は、欠損が致命的すぎて助かりようがなかった。檻で叫ぶ野生化した犬猫は、救助する余力などなく置き去りにせざるを得なかった。
彼は涙ぐましいトリアージの果て、選別された全員を、何としても脱出させようとしたのだ。
「合図はどっかで出す! 『点』を分けてやったっていい、とりあえず信じてくれ!!」
その気迫と必死さに、廊下に連れ出された彼らも決心づく。
自分以上のサイズをした魚の口内へと身を投げ、ファーストペンギンにつられてその他も動いた。
――そして、時が来た。
「って、危ねぇっ!!?」
脊髄反射かつ、身体能力により実現した緊急回避。
勲の避けた――指向性呪力収束放射が。
的を横切って、壁を撃ち貫いていた。
「いよっしゃ今だッ! いけーっゴーゴーゴー!!」
命じられ、呪霊は一斉に海へと飛び込む。
かくして、人助けは完了した。
「おやおや。逃げられてしまいましたか。そうなると――坊ちゃんに、それ以上の穴埋めをせねばなりませんね」
次は――問題の根源。
攻撃を飛ばしてきた男に、少年は向き合う。
「――で。テメェが、海賊の頭領か?」
「いいえ。強いて言えば副頭領でしょうか――『アルノー』と申します。貴方も、我らが肥やしになりなさい」
狗卷くんは呪言で殺すまでもなく無力化できたり、
強者を倒すより複数の弱者を制圧・保護しまくっているため、
あまり点は高くありません。やっぱり優しいですね。
次回は2月1日です。
【補足:『たなごころ』について】
これは真人が烏鷺用に作った義手呪具だったのですが、
烏鷺は高専の治療で左腕を治癒してもらい、用済みとなっていたのを改修して使っています。(すでに真人は祓われてるので、ただの呪具です)
『たなごころ』を手にする前から、狗巻は腕をあえて治癒してもらわず、義手(呪具)で近接能力をカバーしていました。
理由は、呪力コントロールの質を高めるため。
呪具という異物を肉体の延長として扱い、呪具の呪力を操作する技術を磨いて、実際に上達することができました。
つけて半年も経っていない『たなごころ』も、彼にかかれば元の腕同然に操作できます。
【アニメ最新話見た感想】
「えっ竜骨そんなブーメランみたいにできるんだ……よし禍福。お前もやれるな。なっ?」