【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

63 / 84
【あらすじ】
海賊客船に囚われた仲間を救出せよ。
夏油(かおる)・狗巻棘はスタッフに扮し、潜入を開始した。



第2部 20話『一級術師・狗巻棘』

 

 ――夏油(かおる)・狗巻棘によるスニーキングミッション。その目標は、囚われた呪術高専員(なかま)の奪取であった。

 

 

 

(くくく、インポッシブルなミッションと言えばワイヤーアクションだよな。こんなこともあろうかと、命綱を隠し持っていた甲斐があったぜ!)

 

 

 

 侵入行為に心躍らぬ少年がいようか。いやいまい。

 その役を、(かおる)少年は意気揚々と買って出た。そして今――!

 

 

 

 現実は、非情だったと知る。

 

 

 

「うわっなんだオマエらっ、侵入sy――!」

 

「――『眠れ』

 

「ぐぅ」

 

 

 

 ――そう。呪言によるゴリ押し!

 せせこましい事など一切しない、圧倒的ゴリ押し!!

 

 

 

(いやまぁ、うん。『これが一番速いと思います』けど……えぇ?)

 

 

 

 若干のガッカリ感はあったが、まあいいだろう。

 かくして二人は服を奪い、スタッフに扮して、最短コースで突き進む。そして辿り着いた。

 

 彼等の目的地――食料庫へ!

 

 

 

「なっ。なんだぁっ!? なんだなんだこいつはよぉ――ッ!?」

 

 

 

 そこには生き地獄が並んでいた。

 

 さながら図書室の本棚のように。

 運ばれ、積み上げられ、整頓された水槽達が列をなし。

 

 その中には――体の一部をくり抜かれた、人や、呪霊や、動物たちがいた!

 

 

 

「して……ころ、して……」

 

 

 

 一人の男と(かおる)の眼が合った。

 空洞でしかない眼で、こちらを向いていた。

 

 皆一様に、そう乞うていた。

 四肢を失い、胸に大穴を開かれようと、何故だか死ねない。何故か生かされている。

 

 

 

 そう、ここは食料庫――彼等は、鮮度のためだけに、食われるために命を繋がれているのだ!

 

 

 

「くっ――心臓を抜かれても生かされるだなんて。こんな不条理があっていいのかよ――!」

 

 

 

 迷いなく、(かおる)の『うずまき』がそれを撃ち抜いた。

 

 コガネが、「1点が追加されました」などと報告するが、もはや耳に入らない。

 

 義憤。少年の頭を埋め尽くしたのは、その一色!

 

 

 

「やっぱり、弱肉強食だなんて強者の戯れ言なんだ。力さえあれば、こんな間違いさえまかり通ると思い違ってしまうんだ――オレが、こういうことを終わらせねば!」

 

 

 

 狗巻は、思った――やべーなアイツ、と。

 

 真っ当な怒りを持てる感性がありながら、まったく殺しに躊躇がない。

 初心者丸出しで不安だったが、これならば問題なさそうだ――。

 

 

 

「よぉ、お疲れ。あの食材ってどこあったかわかるか?」

 

「しゃけ」

 

「わかる。シャケのがマシだよな。人肉なんて何がいいんだか。食ってみた時なんてマズいのなんの」

 

「高菜」

 

 

 

 とはいえ、今はあくまでも潜伏中。二人は職員から剥ぎ取った白衣に身を包んでいる。

 職員(コック)の前では、それらしく会話をし、自身の露呈を最小限にせねばならない。

 

 まずは、ここに仲間がいないかを調べねば。そのために今は、しばらく我慢を覚えてもらうしか――。

 

 

 

「お、あったあった。呪霊の肉ってのも悪食なもんで――って、こいつまだ檻に自爆特攻してやがる。ザコ呪霊じゃひっくり返っても無理だってのにな」

 

 

 

 と、思考する狗巻を他所に。

 作業員の男は、棚に収まった水槽のひとつを担ぎ上げ、滑車に乗せようとした。

 

 その時だった。

 

 

 

「そうら、おとなしく運ばれ――ぉわぁあ!?」

 

 

 

 職員(コック)が、その檻を突破した呪霊の、餌食となり。

 

 

 

「なっ、なんだぁ!? 今の声は――」

 

「おい高尾! いったいどうし――」

 

「――『眠れ』

 

「「ぐぅ」」

 

 

 

 その他の狼狽えた職員が、みな抵抗の余地なく、気を絶したのは。

 

 

 

「いよっしゃあ今だ! 狗巻さん、俺片っ端からこの辺のヤツを助け回ります、アイツやれますか!?」

 

「しゃけ」

 

「頼んます!」

 

 

 

 ――我慢タイム終了!

 

 夏油(かおる)、解放されたバネの如きスタートダッシュ。

 狗巻は即座、人質の対応を彼に任せ、前へ。

 

 

 

「――かぁぶりいいいい!」

 

 

 

 両の鋏を掲げ、自由を叫ぶ、超巨大ヤドガニ型呪霊。

 

 ――――特級半精呪霊『可塑曼陀羅(カポマンダラ)』を、迎え討つ。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 ――むかしむかし、その呪霊はクソザコヤドカリであった。

 

 オーストラリア東方の太平洋にて生を受けたはいいが、そこは国外、呪術的土壌皆無の悪条件。

 

 できることといえば波にさらわれるのみ。

 

 

 

 その呪霊は、巻貝に引きこもる他になかった。

 術式は『ヤドカリ型の行動端末(しきがみ)を産む』、以上。

 

 終わり。閉廷。どないせいこんなもん。

 

 

 

 とはいえ死ぬのはイヤだと、なけなしのハサミで抵抗にあけくれ、あえなく波に運ばれ幾星霜。

 

 どんぶらこ、どんぶらこと重ねたパンプアップの果て。

 

 現在、2025年12月7日――。 

 

 

 

「――かぁぁあブリぃぃいい!」

 

 

 

 ふたつの大鋏を振り翳し、ヤドカリ式神は荒れ狂う。

 その矛先は――狗巻棘に向かった。

 

 

 

「――『おいで』

 

 

 

 その一言を置き去り、彼は走った。水槽らに被害が及ばない方へ。

 可塑曼陀羅(カポマンダラ)は追走し、その背中に容赦なく大鋏を振り降ろさんとして。

 

 ――拳の、歓迎を受ける。

 

 

 

「すじこっ!」

 

「かぶ――!?(特別意訳:なに――ッ!?)」

 

 

 

 狗巻棘の欠損した左腕を補う義手。

 2025年4月より高専に保護された烏鷺亨子の呪具。

 

 ――『たなごころ』。

 その効果、保有者以外から受けた呪力の吸収。

 

 これによって、大鋏の呪力を吸い上げ、左拳の呪力は勝り。

 

 

 

 木っ端微塵に、式神は砕け散っていた。

 

 

 

「かぶりゃああっ!?」

 

「いくら?」

 

 

 

 あまりのあっけなさ。あまりの『脆さ』に。

 狗卷は思わず二度見し、だが理解した。

 

 壊れた式神は、次の瞬間には再び発生していた。

 より大きく、より呪力を増して。

 

 

 

 ――推測するに、式神は『命を賭ける縛り』を強制され、攻撃に特化しているのだろう。

 

 式神の術式は、往々にして物量を持ち出すもの。

 だがこの呪霊は、式神を一体に限定する『縛り』で、その一体に呪力強化を集中させている。

 

 叩くべきは――式神を吐き続ける、あの小さな巻き貝(ほんたい)

 

 

 

 なのだが――!

 

 

 

「こんぶっ!」

 

「かぶりぃ!(特別意訳:効かぬわ!)」

 

 

 

 ――硬い!

 

 パルクールでもって攻撃をかいくぐり、渾身の飛び蹴りを撃ち込んだはいいが、まるで巻き貝(ほんたい)にはダメージがなかった。

 

 

 

 だがなるほど。これで全貌は見えた。

 

 防御特化の巻き貝(ほんたい)は、攻撃特化の式神(ヤドカリ)を産む。

 式神が破壊されるたび、式神の『死後強まる呪い』を吸収することで、雪だるま方式で呪力量は増していく!

 

 

 

 放っておけばもっと強くなる。

 それが、この呪霊が選んだ生存戦略。

 

 ――ならば。

 

 

 

「――す、ぅ」

 

 

 

 やむを得ない。手加減などできない。

 大きく息を吸って、決意する。

 

 

 

「――『領域展開』

 

 

 

 一級術師・狗巻棘。

 掌印なし、詠唱のみの領域展開を!

 

 

 

―――

――

 

 

 呪言のアドバンテージは、面制圧力である。

 

 声の届く限り、多数を巻き込む範囲効果。

 それ故に呪力が拡散しやすく、対象を絞るには高度なコントロールが必要となる。

 

 ――だが、『領域』においては。

 ――必中効果により、対象を絞れる!

 

 

 

嘉彦聳天唱(かげんそうてんしょう)

 

 

 

 その一声で、澄み渡る世界は開かれた。

 

 ――そこは、山肌で出来た洞窟であった。

 地面は水鏡が如く。透き通るような穏やかな風が、大気の凪が、閉鎖空間を反響する(ふきぬける)

 

 広々と牧歌的な小宇宙。

 その主人はただ、透徹と佇む。

 

 

 

「かぶりいいい!(特別意訳:それがどおしたぁあ!)」

 

 

 

 可塑曼陀羅(カポマンダラ)は彼へと走る。

 領域を使われた以上、一刻も早く倒すしかないのは自明の理。

 

 なのだが――狗巻棘は、理解していた。

 

 

 

 ――――こいつ。()()()()()()()()

 ――故に今、自分とコイツは領域の押し合いをしている。

 

 

 

 伏黒がやった、建物を結界に転用する手法だ。

 可塑曼陀羅(カポマンダラ)の引きこもった貝殻、閉じた空間を結界とする領域展開。

 

 必然、狗巻の必中効果は死んでいた。

 

 改めて必中効果を得るには、可塑曼陀羅(カポマンダラ)の領域を破綻させる必要があるが――本体もろとも貝の中に匿わられている。

 

 

 

 防御特化のあれには、そう並大抵の呪言は通るまい。

 

 

 

「んぐっ……、す、ぅ――――」

 

 

 

 迫る、命を賭ける縛りの重ねがけ。

 紛うことなく特級上位の呪力出力。

 間違いなく、『たなごころ』では吸収しきれない超威力。

 

 だが彼は動じない。

 

 ――これは『必中のみの領域』だ。

 ――とはいえ必中効果以外にも手段がある。

 

 故に、喉薬を一口。

 それから、大きく口を開けて息を吸って、

 

 

 

 ――――放った。

 

 

 

「――――『死ね』!!!

 

 

 

 ――――刹那。小宇宙が砕けた。

 

 領域(スピーカー)を通して増幅した音波が悉くを揺るがし、大音量で稼働する小宇宙が――世界が、応えた。

 

 

 

「かぶりゃあああああ!!?」

 

 

 

 一瞬で。

 跡形もなく、巻貝(ほんたい)の防御力なぞ関係なく、可塑曼陀羅(カポマンダラ)()()した。

 

 これほどの呪言。さしもの狗巻にも反動が――。

 

 

 

「……めんたいこ〜」

 

 

 

 否。特になし!

 なんなら『肝を冷やした』とばかりに緊張を解く始末!! いったい何故か!?

 

 

 

 ――シンプルだ。

 ――狗巻棘は、反動を踏み倒したのだ。

 

 

 

 この領域は、一度だけ『呪言』を最大化させる。

 代償に領域は自壊し、術式が焼き切れる。

 

 そう、術式が焼き切れるのだ!

 

 喉の負担というデメリット発生が、術式焼き切れによって阻害され、メリットのみが残る!

 

 

 

「……高菜」

 

 

 

 故に、何事もなかったかのように彼は、少年を後追った。

 

 仲間を探すためだけではない。人を助けねばならない。

 渋谷事変でそうだったように――あの時以上に、救いの声を届かせるがために。

 

 

 

死滅回游・泳者(プレイヤー)

狗巻棘(いぬまきとげ) 所持得点(ポイント) 35

 

 

 

―――

――

 

 

 

「いいかっ皆んな! 助かりたければ、魚の呪霊(こいつ)に食われろっ!!」

 

 

 

 ……なに言ってんだコイツ。

 

 と、弱者一同。手をとって引き出してくれた奇跡のヒーローへの目の色が変わる。

 

 

 

 それもそうだろう。やっとこさ生き殺しの檻から放たれたと思いきや、急に大口を開ける魚の呪霊の中に入れというのだ。

 

 

 

「いーから入ってくれっ! 俺らがうまいこと甲板に穴を開ける! そしたら、こいつと海に飛び込んで逃げるんだ!!」

 

 

 

 だが、(かおる)少年とて本気だった。余裕などなかった。

 

 

 

 狗卷の仲間と覚しき人外は見当たらなかった。

 そこはいい。裏にいなかったのなら表にいる。狩野と灰原が見つけてくれるだろう。

 

 しかし――なんとか救い出せた百人弱。

 これは全体の三割に満たない。残りの全員は、欠損が致命的すぎて助かりようがなかった。檻で叫ぶ野生化した犬猫は、救助する余力などなく置き去りにせざるを得なかった。

 

 彼は涙ぐましいトリアージの果て、選別された全員を、何としても脱出させようとしたのだ。

 

 

 

「合図はどっかで出す! 『点』を分けてやったっていい、とりあえず信じてくれ!!」

 

 

 

 その気迫と必死さに、廊下に連れ出された彼らも決心づく。

 

 自分以上のサイズをした魚の口内へと身を投げ、ファーストペンギンにつられてその他も動いた。

 

 ――そして、時が来た。

 

 

 

「って、危ねぇっ!!?」

 

 

 

 脊髄反射かつ、身体能力により実現した緊急回避。

 

 勲の避けた――指向性呪力収束放射が。

 的を横切って、壁を撃ち貫いていた。

 

 

 

「いよっしゃ今だッ! いけーっゴーゴーゴー!!」

 

 

 

 命じられ、呪霊は一斉に海へと飛び込む。

 かくして、人助けは完了した。

 

 

 

「おやおや。逃げられてしまいましたか。そうなると――坊ちゃんに、それ以上の穴埋めをせねばなりませんね」

 

 

 

 次は――問題の根源。

 攻撃を飛ばしてきた男に、少年は向き合う。

 

 

 

 

「――で。テメェが、海賊の頭領か?」

 

「いいえ。強いて言えば副頭領でしょうか――『アルノー』と申します。貴方も、我らが肥やしになりなさい」

 

 

 

 

死滅回游・泳者(プレイヤー)

高山花臣(たかやまはなおみ) 所持得点(ポイント) 35 消費得点(ポイント) 531

 





狗卷くんは呪言で殺すまでもなく無力化できたり、
強者を倒すより複数の弱者を制圧・保護しまくっているため、
あまり点は高くありません。やっぱり優しいですね。

次回は2月1日です。



【補足:『たなごころ』について】

これは真人が烏鷺用に作った義手呪具だったのですが、
烏鷺は高専の治療で左腕を治癒してもらい、用済みとなっていたのを改修して使っています。(すでに真人は祓われてるので、ただの呪具です)

『たなごころ』を手にする前から、狗巻は腕をあえて治癒してもらわず、義手(呪具)で近接能力をカバーしていました。

理由は、呪力コントロールの質を高めるため。

呪具という異物を肉体の延長として扱い、呪具の呪力を操作する技術を磨いて、実際に上達することができました。

つけて半年も経っていない『たなごころ』も、彼にかかれば元の腕同然に操作できます。



【アニメ最新話見た感想】
「えっ竜骨そんなブーメランみたいにできるんだ……よし禍福。お前もやれるな。なっ?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。