【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
――客船海賊団グランメゾンは、100
食事、ドレスの提供、プールや館内温泉。
劇場、映画館、図書館。高級羽毛布団。
リゾート船をフル活用した大盤振る舞い。
多くの者が、その噂を耳にした。
多くの者が、その船に自ら踏み入った。なぜならば。
第二次・
一挙手一投足が己が生存を左右する、余分なき世界。
社会が崩壊し、弱肉強食の競争のみが列島に残った。
なまじ生き残り、勝ち残ってしまった現代人にとって――招待状と仮面の煌びやかさは、あまりに甘美であった。
再び、人間らしい生活ができるのだ。
今の自分は、元の生活以上に幸せであると肯定できるのだ。
などと、希望を望んだが最後――彼らの、術中にハマるのだ。
―
――
―――
「冥土の土産に教えて差しあげましょう――我が名はアルノー。この海賊客船の副船長でございます」
夏油
対して、黒スーツの男は恭しく一礼した。
この振る舞い、この所作の完璧ぶり。
この乱世で保たれた気品を誇示し、アルノーと名乗った男。
その口角は釣りあがっていた。
――貴様相手には、頭を下げるなんて隙にもならないと。如何に己が裕福であるかを。
如何に――己が勝者であるかを。
声高らかに、その紳士は騙る。
「さぁ、ご覧あれ侵入者よ――我が術式は、
天井は砕かれ。
着飾った
――例外なく、彼らは仮面をかぶっていた。
――そして例外なく、彼らは100
「ハッ、大ボラ吹いてるんじゃあないぞアルノーとやら! 仮面ありきの『縛り』だけで、こんな強いやつをたんまり使役できるもんか!」
が、夏油
――『呪霊操術』。この術式を、狩野は『今の日本で最強』だと断言してくれた。
今の自分が弱い事は、
だが少なくとも、術式の格で負けるわけがない。
こと『使役』において、こちら以上の効果を持ち出せるものかと、少年は吠え返した――が。
「いいえ、できます。だって彼らは、
「――、なんだって?」
それでも。アルノーの態度は揺らがない。
貴様なんぞいつでも踏み潰せるとばかりの眼で。
ここに、カラクリを種明かす。
「『招待状』の端っこには小さ〜く明記されていますとも。
「はぁ!? 仮面つけなきゃ入れない船なのにそりゃねーだろッ! せっっこいなオマエ!!」
「契約書を読まなかった方が悪いでしょう。さぁ皆のもの、やっておしまいなさい!」
――前言撤回だ。
万にひとつ、夏油
「ここは――逃げるんだヨォオオオ!!」
それ故のッ、迷いなきUターン! 戦略的撤退!
本体を叩くなんて選択は取れない、なんせアルノー本体が一番呪力がでかい。正面から相手取るなど愚の骨頂!
スタコラサッサと廊下を駆け抜け――怒涛の勢いでもって、人の波が彼を後追っていく。
「アルノー、テメェ! こんな事をなぜ平然とできる!」
「何をいうかと思えば。今の世の中はデスゲームで、今や我々は海賊なのですよ?」
「よく言いやがる! 社会人だった頃のクセが抜けてねー癖に!」
34名とのデスレース。
廊下に響く靴音の雨霰を背中に感じる。
この勢い、振り向かずともわかった。
肉体の限界を考慮していない全力疾走だ。彼らは、文字通りで命を削って走らされている!
(すまねぇ。できれば助けたかったがこりゃムリだ! 『自らの意思で踏み入る縛り』――言われてみれば。この船、まんま2018年の死滅回游と同じ方式じゃあないか!)
こちらとて『呪霊操術』だ。
本来ならば、数に対して数を持ち出せばいい。
「総員、『
「「「「ハイ!」」」」
「よろしい。では、獲得した3514点を消費――全員を呪力強化!」
しかしながら。
死滅回游の主役は人間だ――呪霊は、
総則⑤:泳者は他泳者に任意の『点』を譲渡することができる
総則⑥:泳者は『点』を消費し、呪力を獲得する事ができる
これらを利用した術式運用は、呪霊操術には不可能。
この状況に限れば、術式の格はアルノーが勝っている!
「だーっクソ! 数も質も負けてちゃ
圧倒的な呪力量が。
34の術式が降ってくる。
――夏油勲の有する呪霊のうち、術式を持つのは、この船で手に入れた3体のみだ。それらを持ち出しても意味がない。
リソース差が開き過ぎている。争うまでもなく負けている。
呪霊を身代わりにさせつつ全力疾走する他、抗いようがない!
「いまさら気付いたようだねぇ少年。君は奪われる側であり、我らこそが何もかも得る、環境に適応した勝利者なのだと!」
対するアルノーは、優雅に赤ワインを傾けていた。
さながら運動会の騎馬戦が如く。
自らを神輿として奴隷に掲げさせ、悠然と少年の足掻きを見下ろし、嗤っていた。
「そもそも死滅回游は数がすべてだ! 強者を殺そうが弱者を殺そうが同じ1点。ならば『多数で少数を襲う』に限る! 呪力や点のみならず、食糧衣服洗剤薬品ッ――夜をやり過ごせない有象無象が、
アルノーの支配は、より苛烈に攻め立てる。
夏油勲の横切ろうとしたドアが突如として開いた。そのスイートルームにいた客までもが支配され、「ばぁっ!」と彼に襲いかかったのだ。
が――構わず、パルクールの要領で少年は潜り抜ける。
一瞬でも足を止めれば破滅に追い付かれる。
人体に埋もれたハズの野生本能が、彼にそうさせていた。
「まぁ、物理的に食い物にするのは不衛生だがね。ファッションでカニバリズムに走るなんぞバカ舌でしょうバカ舌。こんなヤツらが勝ち残るだとは、嘆かわしい!」
「自分だけは違うと言いたげだな!」
「ええ。見ての通り! 支配者なのですから!」
廊下ですれ違う人々が、片っ端から殺しにくる。
ホップステップ。文字通り、夏油勲は踊らされていた。如何に彼が懸命に死を回避しようとも――この船の構造は、アルノーの方が熟知している。
(む? ――なにやら騒がしいですね。客が暴れ出したのでしょうか)
それどころか――アルノーは、『仮面』を通し、全ての客の動向をある程度は把握できる。
故に、勲には気づかない異常を察知していた。
――今、船体が何者かに揺さぶられた。
――いっきに何人もの客の生体反応が消えた。
何者かが暴れ始めたのか。
となれば、さっそく警備に向かわねば。
この術式の支配域は、自分を中心として広がるのだ。自らが出向く他にない。
そう。彼にとって既に、夏油勲なんぞは終わった仕事なのだ。
「安心なさい、少年。自らの術式に感謝することです。彼らのように使い捨てはしない……」
――行き止まりが待っていた。
少年がそう悟った瞬間に、アルノーはそう告げた。心から誠実に、至極真面目に――少年の反応を見るために。
最後の数秒を、少年はどうするのか。
それでも進むか、止まるのか。
「今後の私は、人だけでなく呪霊をも支配する! だいたい私は常々思っていた。あの
ついに取り繕うことさえせず。
歯茎全開、アルノーの牙が剥かれた。
そして振り返る、変な前髪をした塩顔は――。
「――歴史の授業を忘れたのかァ!? 武田信玄っつー偉人サマをよぉ!!!!」
――などと。白い歯を光らせ、笑っていた。
「は――ぁ!?」
死角、予想外の角度からの殺気を察知。
驚愕したアルノーは振り返る。
そう、背後から。
――ありったけの呪霊が、廊下を雪崩れ込み、こちらに向かってきていたのだ!
「アンタはずっと余所見していた。だが今だけは
夏油
挟み撃ちの構図であった。
前と後ろ。両方向から、怒涛の勢いで迫る呪霊らの一斉行進!!
「お見それした。その術式は想像以上のスペックのようですね――なんたる宝の持ち腐れか!」
――それがどうした、と。
アルノーは、軍団を前後に構えさせる。
こちらは100
道中で合流し今やその数は89人。
いまさら術式のない呪霊達なんて敵ではない。
そう――その、はずだった。
「なにっ!? 既に全員が疲労困憊になっている――っ!?!?」
そう。全員が全力疾走したことで、息も絶え絶えになっていた!
――夏油
たとえ100
「だったら、加わった55人に『点』を譲渡させるまで――なにっ!? 有金を溶かしたヤツらしか居ないだと!!?」
オマケに、クジ運が悪かった。
――オークション。ギャンブル。
加わった大多数は、すでに所有していた『点』を使い果たし、自室でヤケ酒をあおっていた者ばかり。
――今更アルノーに譲渡できる『点』など持ち合わせていなかった!
「いいや問題ない! 所詮お前は呪力をモノにしていない『擬似術師』! そんなんで埋まる実力差ではない――!」
アルノーは叫んだ。
体力が尽きたからどうした。点がないから何だ。
敵本体は目の前にある。一点突破で突き進めば勝てる。
何より、小細工では埋まらぬ実力差が、両者にはあ――!
「なにぃっ!? 閉所を利用し、呪霊を密集させただとぉ――っ!?」
否――ここは、閉所!
人気のない、枝分かれした道の先。
末端も末端の狭い通路。
本来、横並びなら容易く倒せるハズの呪霊達は縦一列――ギッチギチの密度を持って。
それこそ、一点突破で傾れ込んでくるのだ!
(まずい。あくまで『
事こうなれば、話は変わる。
満員電車で身動きが取れなくなれば、どんなに手数を持っていようと意味がない。
ここは船の末端、援軍到達までには時間がかかる――!
(どうする――さらに他の泳者を巻き込んで『点』を譲渡させるか? あるいはこの通路を壊してでも形勢を変えるか?)
――否。ここはレストランの裏側だ。援軍派兵も船の破壊も、表舞台に伝わりかねない。
そうなれば失態が
「――いいや、違う。私は間違えない。だって、なぜなら――私は! 『特別』なのだ!!」
根拠も、理性も、体裁をも越えて。
目を剥き、アルノーは絶叫する。
なぜ今日までやってこれたかを。
なぜ自分だけは生き残っているのかを。
なぜ、支配された彼らより自分が優れているのかを。
「コガネ! 私自身の『
「あいよーっ!」
最重要のリソースが注がれる。
厳選された術式の数々――『全てが本体になる分身の作成』『あべこべ』『構築術式』――その他諸々が、死守命令によって最大化される。
「――なるほど、確かに。
その必死ぶりに、夏油
呪霊の壁の向こう――怒り混じりの笑みで中指を立て、叫び返した。
「だからと言って! 脇役が勝てねー道理はないッ! なにせ今『最強』の術式は、この――『呪霊操術』だッ!!」
(こいつ。ここで術式開示を――!?)
――そう。術式開示は、領域展開以外で唯一、術式効果そのものを底上げされる手段。
たとえバフの倍率が少ないとしても――これだけの数全てに適用されるのなら。
総合力は、爆発的に向上する――!
「んでもってオレも全『
――出力最大。200%の。
――数VS数が、正面衝突する。
「「うおおお負けるな! 押し合えええええ!!」」
意地と意地のぶつかり合い。
所狭しと立ち込める呪霊の喪失反応。
吹き荒ぶ血飛沫。弾け合う肉と肉。
構うな、負けるなと勝敗の綱を引き合う両軍――その、土俵際。
「「なにィ――ッ!?」」
両陣営、共に吹っ飛んだ。
突如として、互いの足元が爆発した。
盤面そのものがひっくり返された。
立ち込める土煙。彼らは無理解の世界に放り出されて転がり回る。
いったい何が!?
慌てて勲は上体を起こし、見た。
「なっ、なんだぁっ――あれは!」
――突如、床を割り芽吹いたのは『呪胎』だった。
その殻を破り、突き出たものは――『巻貝』だった。
そうして、顔を出したのは、さっきのヤドカリ呪霊――『
「――おかーちゃんッ!」
「え。……いや、違うけど!?」
産まれたてホヤホヤ。
キラッキラのお目目とのご対面。
――目と目が合う、瞬間。
――刷り込み効果、という言葉が、夏油
第一幕でもそうでしたが、
夏油勲は14歳の中学2年生です。
次回は8日です。