【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 21話『ビート・イット!』

 

 ――客船海賊団グランメゾンは、100(ポイント)保持者(ホルダー)に招待状を送り、豪華なサービスを提供する。

 

 食事、ドレスの提供、プールや館内温泉。

 劇場、映画館、図書館。高級羽毛布団。

 リゾート船をフル活用した大盤振る舞い。

 

 多くの者が、その噂を耳にした。

 多くの者が、その船に自ら踏み入った。なぜならば。

 

 

 

 第二次・死滅回游(デスゲーム)中の日本には、娯楽がなさすぎる。

 

 一挙手一投足が己が生存を左右する、余分なき世界。

 社会が崩壊し、弱肉強食の競争のみが列島に残った。

 

 なまじ生き残り、勝ち残ってしまった現代人にとって――招待状と仮面の煌びやかさは、あまりに甘美であった。

 

 

 

 再び、人間らしい生活ができるのだ。

 今の自分は、元の生活以上に幸せであると肯定できるのだ。

 

 

 

 などと、希望を望んだが最後――彼らの、術中にハマるのだ。

 

 

 

――

―――

 

 

 

「冥土の土産に教えて差しあげましょう――我が名はアルノー。この海賊客船の副船長でございます」

 

 

 

 夏油(かおる)。廊下に立つ少年は、己の前後に呪霊を配置し、出方を伺う。

 

 対して、黒スーツの男は恭しく一礼した。

 

 

 

 この振る舞い、この所作の完璧ぶり。

 この乱世で保たれた気品を誇示し、アルノーと名乗った男。

 その口角は釣りあがっていた。

 

 

 

 ――貴様相手には、頭を下げるなんて隙にもならないと。如何に己が裕福であるかを。

 

 如何に――己が勝者であるかを。

 

 

 

 声高らかに、その紳士は騙る。

 

 

 

「さぁ、ご覧あれ侵入者よ――我が術式は、触媒(かめん)をつけた者を支配し操る、『仮面舞游(マスカレイド)』であります!!」

 

 

 

 天井は砕かれ。

 着飾った兵隊(きゃく)が、のべ34名、大手を開く男の背後に並び立つ。

 

 ――例外なく、彼らは仮面をかぶっていた。

 ――そして例外なく、彼らは100(ポイント)保持者(ホルダー)に招待状!

 

 

 

「ハッ、大ボラ吹いてるんじゃあないぞアルノーとやら! 仮面ありきの『縛り』だけで、こんな強いやつをたんまり使役できるもんか!」

 

 

 

 が、夏油(かおる)は動じず、叫び返した。

 

 

 

 ――『呪霊操術』。この術式を、狩野は『今の日本で最強』だと断言してくれた。

 

 今の自分が弱い事は、夏油傑(クソオヤジ)はおろか、この客の一人にも勝てないのは認めよう。

 

 だが少なくとも、術式の格で負けるわけがない。

 

 こと『使役』において、こちら以上の効果を持ち出せるものかと、少年は吠え返した――が。

 

 

 

「いいえ、できます。だって彼らは、()()()()()()()()()んですから」

 

「――、なんだって?」

 

 

 

 それでも。アルノーの態度は揺らがない。

 

 貴様なんぞいつでも踏み潰せるとばかりの眼で。

 ここに、カラクリを種明かす。

 

 

 

「『招待状』の端っこには小さ〜く明記されていますとも。()()()()()()()()()()()()()()とね!」

 

「はぁ!? 仮面つけなきゃ入れない船なのにそりゃねーだろッ! せっっこいなオマエ!!」

 

「契約書を読まなかった方が悪いでしょう。さぁ皆のもの、やっておしまいなさい!」

 

 

 

 ――前言撤回だ。

 万にひとつ、夏油(かおる)に敵う余地は無い!

 

 

 

「ここは――逃げるんだヨォオオオ!!」

 

 

 

 それ故のッ、迷いなきUターン! 戦略的撤退!

 

 本体を叩くなんて選択は取れない、なんせアルノー本体が一番呪力がでかい。正面から相手取るなど愚の骨頂!

 

 スタコラサッサと廊下を駆け抜け――怒涛の勢いでもって、人の波が彼を後追っていく。

 

 

 

「アルノー、テメェ! こんな事をなぜ平然とできる!」

 

「何をいうかと思えば。今の世の中はデスゲームで、今や我々は海賊なのですよ?」

 

「よく言いやがる! 社会人だった頃のクセが抜けてねー癖に!」

 

 

 

 34名とのデスレース。

 廊下に響く靴音の雨霰を背中に感じる。

 

 この勢い、振り向かずともわかった。

 

 肉体の限界を考慮していない全力疾走だ。彼らは、文字通りで命を削って走らされている!

 

 

 

(すまねぇ。できれば助けたかったがこりゃムリだ! 『自らの意思で踏み入る縛り』――言われてみれば。この船、まんま2018年の死滅回游と同じ方式じゃあないか!)

 

 

 

 こちらとて『呪霊操術』だ。

 本来ならば、数に対して数を持ち出せばいい。

 

 

 

「総員、『(ポイント)』全てを私に譲渡しなさい」

 

「「「「ハイ!」」」」

 

「よろしい。では、獲得した3514点を消費――全員を呪力強化!」

 

 

 

 しかしながら。

 死滅回游の主役は人間だ――呪霊は、泳者(プレイヤー)になれないのだ。

 

 

 

総則⑤:泳者は他泳者に任意の『点』を譲渡することができる

 

総則⑥:泳者は『点』を消費し、呪力を獲得する事ができる

 

 

 

 これらを利用した術式運用は、呪霊操術には不可能。

 この状況に限れば、術式の格はアルノーが勝っている!

 

 

 

「だーっクソ! 数も質も負けてちゃ()りようないじゃんか、大人気ねぇにも程があんぞ!」

 

 

 

 圧倒的な呪力量が。

 34の術式が降ってくる。

 

 ――夏油勲の有する呪霊のうち、術式を持つのは、この船で手に入れた3体のみだ。それらを持ち出しても意味がない。

 

 リソース差が開き過ぎている。争うまでもなく負けている。

 

 呪霊を身代わりにさせつつ全力疾走する他、抗いようがない!

 

 

 

「いまさら気付いたようだねぇ少年。君は奪われる側であり、我らこそが何もかも得る、環境に適応した勝利者なのだと!」

 

 

 

 対するアルノーは、優雅に赤ワインを傾けていた。

 

 さながら運動会の騎馬戦が如く。

 自らを神輿として奴隷に掲げさせ、悠然と少年の足掻きを見下ろし、嗤っていた。

 

 

 

「そもそも死滅回游は数がすべてだ! 強者を殺そうが弱者を殺そうが同じ1点。ならば『多数で少数を襲う』に限る! 呪力や点のみならず、食糧衣服洗剤薬品ッ――夜をやり過ごせない有象無象が、勝利(リソース)にありつける道理などないッ!!」

 

 

 

 アルノーの支配は、より苛烈に攻め立てる。

 

 夏油勲の横切ろうとしたドアが突如として開いた。そのスイートルームにいた客までもが支配され、「ばぁっ!」と彼に襲いかかったのだ。

 

 

 

 が――構わず、パルクールの要領で少年は潜り抜ける。

 

 一瞬でも足を止めれば破滅に追い付かれる。

 人体に埋もれたハズの野生本能が、彼にそうさせていた。

 

 

 

「まぁ、物理的に食い物にするのは不衛生だがね。ファッションでカニバリズムに走るなんぞバカ舌でしょうバカ舌。こんなヤツらが勝ち残るだとは、嘆かわしい!」

 

「自分だけは違うと言いたげだな!」

 

「ええ。見ての通り! 支配者なのですから!」

 

 

 

 廊下ですれ違う人々が、片っ端から殺しにくる。

 

 ホップステップ。文字通り、夏油勲は踊らされていた。如何に彼が懸命に死を回避しようとも――この船の構造は、アルノーの方が熟知している。

 

 

 

(む? ――なにやら騒がしいですね。客が暴れ出したのでしょうか)

 

 

 

 それどころか――アルノーは、『仮面』を通し、全ての客の動向をある程度は把握できる。

 

 故に、勲には気づかない異常を察知していた。

 

 ――今、船体が何者かに揺さぶられた。

 ――いっきに何人もの客の生体反応が消えた。

 

 何者かが暴れ始めたのか。

 となれば、さっそく警備に向かわねば。

 

 この術式の支配域は、自分を中心として広がるのだ。自らが出向く他にない。

 

 

 

 そう。彼にとって既に、夏油勲なんぞは終わった仕事なのだ。

 

 

 

「安心なさい、少年。自らの術式に感謝することです。彼らのように使い捨てはしない……」

 

 

 

 ――行き止まりが待っていた。

 

 少年がそう悟った瞬間に、アルノーはそう告げた。心から誠実に、至極真面目に――少年の反応を見るために。

 

 最後の数秒を、少年はどうするのか。

 それでも進むか、止まるのか。

 

 

 

「今後の私は、人だけでなく呪霊をも支配する! だいたい私は常々思っていた。あの社長(ボンボン)よりもッ、副社長(わたし)の方がずっと上手くやれるのだとな!!」

 

 

 

 ついに取り繕うことさえせず。

 歯茎全開、アルノーの牙が剥かれた。

 

 そして振り返る、変な前髪をした塩顔は――。

 

 

 

「――歴史の授業を忘れたのかァ!? 武田信玄っつー偉人サマをよぉ!!!!」

 

 

 

 ――などと。白い歯を光らせ、笑っていた。

 

 

 

「は――ぁ!?」

 

 

 

 死角、予想外の角度からの殺気を察知。

 驚愕したアルノーは振り返る。

 

 そう、背後から。

 

 ――ありったけの呪霊が、廊下を雪崩れ込み、こちらに向かってきていたのだ!

 

 

 

「アンタはずっと余所見していた。だが今だけは(オレ)だけを見てくれていた……本気を出すタイミングはここぞじゃあないとなァ!」

 

 

 

 夏油(かおる)もまた、ここぞとばかりに呪霊を展開。

 

 挟み撃ちの構図であった。

 前と後ろ。両方向から、怒涛の勢いで迫る呪霊らの一斉行進!!

 

 

 

「お見それした。その術式は想像以上のスペックのようですね――なんたる宝の持ち腐れか!」

 

 

 

 ――それがどうした、と。

 

 アルノーは、軍団を前後に構えさせる。

 

 こちらは100(ポイント)保持者(ホルダー)の連合軍。

 道中で合流し今やその数は89人。

 

 いまさら術式のない呪霊達なんて敵ではない。

 

 

 

 そう――その、はずだった。

 

 

 

「なにっ!? 既に全員が疲労困憊になっている――っ!?!?」

 

 

 

 そう。全員が全力疾走したことで、息も絶え絶えになっていた!

 

 ――夏油(かおる)は、夏油傑より受け継いだ天性のフィジカルを有する。

 

 たとえ100(ポイント)保持者(ホルダー)であろうと、大半は一カ月前まで普通に暮らしていた一般人――体力勝負なら比べるべくもない。

 

 

 

「だったら、加わった55人に『点』を譲渡させるまで――なにっ!? 有金を溶かしたヤツらしか居ないだと!!?」

 

 

 

 オマケに、クジ運が悪かった。

 

 ――オークション。ギャンブル。

 加わった大多数は、すでに所有していた『点』を使い果たし、自室でヤケ酒をあおっていた者ばかり。

 

 ――今更アルノーに譲渡できる『点』など持ち合わせていなかった!

 

 

 

「いいや問題ない! 所詮お前は呪力をモノにしていない『擬似術師』! そんなんで埋まる実力差ではない――!」

 

 

 

 アルノーは叫んだ。

 

 体力が尽きたからどうした。点がないから何だ。

 敵本体は目の前にある。一点突破で突き進めば勝てる。

 

 

 

 何より、小細工では埋まらぬ実力差が、両者にはあ――!

 

 

 

「なにぃっ!? 閉所を利用し、呪霊を密集させただとぉ――っ!?」

 

 

 

 否――ここは、閉所!

 

 人気のない、枝分かれした道の先。

 末端も末端の狭い通路。

 

 

 

 本来、横並びなら容易く倒せるハズの呪霊達は縦一列――ギッチギチの密度を持って。

 

 それこそ、一点突破で傾れ込んでくるのだ!

 

 

 

(まずい。あくまで『(ポイント)』による呪力ブーストは一時的なもの。道中で時間を食い過ぎた――今の呪力出力は、すぐに維持できなくなる!)

 

 

 

 事こうなれば、話は変わる。

 

 満員電車で身動きが取れなくなれば、どんなに手数を持っていようと意味がない。

 

 ここは船の末端、援軍到達までには時間がかかる――!

 

 

 

(どうする――さらに他の泳者を巻き込んで『点』を譲渡させるか? あるいはこの通路を壊してでも形勢を変えるか?)

 

 

 

 ――否。ここはレストランの裏側だ。援軍派兵も船の破壊も、表舞台に伝わりかねない。

 

 そうなれば失態が社長(ヴァンサン)にバレる――切り捨てられかねない。このデスゲームについて行けなかった同僚達(ノロマども)のように!

 

 

 

「――いいや、違う。私は間違えない。だって、なぜなら――私は! 『特別』なのだ!!」

 

 

 

 

 根拠も、理性も、体裁をも越えて。

 目を剥き、アルノーは絶叫する。

 

 なぜ今日までやってこれたかを。

 なぜ自分だけは生き残っているのかを。

 なぜ、支配された彼らより自分が優れているのかを。

 

 

 

「コガネ! 私自身の『(ポイント)』すべて――35点を、呪力に変換しろ!」

 

「あいよーっ!」

 

 

 

 最重要のリソースが注がれる。

 

 厳選された術式の数々――『全てが本体になる分身の作成』『あべこべ』『構築術式』――その他諸々が、死守命令によって最大化される。

 

 

 

「――なるほど、確かに。死滅回游(このゲーム)に参加できるのは人間だけだ。呪霊なんてのは脇役に過ぎない――だがな!」

 

 

 

 その必死ぶりに、夏油(かおる)は。

 呪霊の壁の向こう――怒り混じりの笑みで中指を立て、叫び返した。

 

 

 

「だからと言って! 脇役が勝てねー道理はないッ! なにせ今『最強』の術式は、この――『呪霊操術』だッ!!」

 

(こいつ。ここで術式開示を――!?)

 

 

 

 ――そう。術式開示は、領域展開以外で唯一、術式効果そのものを底上げされる手段。

 

 たとえバフの倍率が少ないとしても――これだけの数全てに適用されるのなら。

 

 総合力は、爆発的に向上する――!

 

 

 

「んでもってオレも全『(ポイント)』消費! さぁ――相撲、しようぜ!!!」

 

 

 

 ――出力最大。200%の。

 ――数VS数が、正面衝突する。

 

 

 

「「うおおお負けるな! 押し合えええええ!!」」

 

 

 

 意地と意地のぶつかり合い。

 所狭しと立ち込める呪霊の喪失反応。

 吹き荒ぶ血飛沫。弾け合う肉と肉。

 

 構うな、負けるなと勝敗の綱を引き合う両軍――その、土俵際。

 

 

 

「「なにィ――ッ!?」」

 

 

 

 両陣営、共に吹っ飛んだ。

 

 

 

 突如として、互いの足元が爆発した。

 盤面そのものがひっくり返された。

 

 立ち込める土煙。彼らは無理解の世界に放り出されて転がり回る。

 

 いったい何が!?

 

 慌てて勲は上体を起こし、見た。

 

 

 

「なっ、なんだぁっ――あれは!」

 

 

 

 ――突如、床を割り芽吹いたのは『呪胎』だった。

 

 その殻を破り、突き出たものは――『巻貝』だった。

 

 

 

 そうして、顔を出したのは、さっきのヤドカリ呪霊――『可塑曼陀羅(カポマンダラ)』!!

 

 

 

「――おかーちゃんッ!」

 

「え。……いや、違うけど!?」

 

 

 

 産まれたてホヤホヤ。

 キラッキラのお目目とのご対面。

 

 ――目と目が合う、瞬間。

 ――刷り込み効果、という言葉が、夏油(かおる)の脳裏をよぎったのだった。





第一幕でもそうでしたが、
夏油勲は14歳の中学2年生です。

次回は8日です。
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