【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第2部 22話『阿檀』

 

 ――ありのままッ、今起こったことを説明するぜ!

 

 呪胎から顔を出したヤドカリ呪霊が!

 目の前の中学2年生男子――夏油(かおる)に対して!

 

 

 

「――おかーちゃんッ!」

 

「え。……いや、違うけど!?」

 

 

 

 お目目キラッキラに、母親認定をカマしていたッ!!

 

 

 

「というか、オマエ喋れたのかよ。さっきの親個体知性なさそうだったのに!?」

 

「ハイ! 親の教えがよかったお陰で!」

 

「いやないから、オレ教えた覚えねーから! なんで妄想を生まれもってるんだオマエ!?」

 

 

 

 少年にとってもわけがわからなかった。

 頭がどうにかなりそうだった。

 

 

 

 まず――卵って何!?

 

 ヤドカリって卵から産まれるんだっけ?

 つうか呪霊って卵産んで育てられんの!?

 

 なんて、混乱も他所に。

 

 

 

「いいや絶対そう! だって愛された記憶があるんだもん! とにかくママーっ! とりあえず入れてくれー!!」

 

「お、おう。お前卵生のくせに回帰欲求あんのか……じゃあ、いいのか。取り込むけど」

 

「ハイっ! あと可塑曼陀羅(カポマンダラ)です!! よろしくマイマザーっ!!」

 

「初対面の自覚はあんの??」

 

 

 

 鼻息荒く、痛くもないハサミで(かおる)に引っ付く可塑曼陀羅(カポマンダラ)・ジュニア。

 

 その熱愛をもって、爆速で成り立つ相互同意。

 

 手で触れ、一気に呪霊は球体に変わり。

 それを少年は飲み込んで、取り込んだ。

 

 

 

 ――『呪霊操術』。

 ――――降伏の儀、完了!

 

 

 

「ええいっ、なんなんださっきから――だがこれで! 閉所の優位は崩されたぞ!」

 

「げえっ!? さっきの衝撃で、折角の誘導地点が台無しじゃあないか!」

 

 

 

 その間に、敵は。

 この海賊客船の副船長たるアルノーは、軍団を立て直していた。

 

 密度をもって、一点突破で突撃していた低級呪霊たちだったが――閉所が無くなれば横並びになって、楽々祓われるのみ。

 

 行き止まりに立つ少年を取り囲むは――例外なく、100点保持者ゆえに!

 

 

 

「増援に加わった全16名! 私に全ての『点』を譲渡せよ! そしてコガネ! 『点』を呪力に変換せよ! 全員を呪力強化――このガキを、叩きのめせ!」

 

「おうっ! 1502点を消費したぜ!」

 

「あ、相変わらずケタが違う……くそッどうすれば!」

 

 

 

 ――圧倒的な呪力量。

 ――迫るは、総勢105名の術式。

 

 おまけに、もれなく本物の呪術師ときた。

 紛い物の擬似術師――呪力を自力で捻出できない半端者は、その実力差をより大きく感じ取る。

 

 隔絶しきった戦力差。少年は大きすぎる壁に直面し――!

 

 

 

『ハイっ! やります! 可塑曼陀羅(カポマンダラ)やれまーっす!』

 

「――ようし、わかった。オマエに賭ける!!」

 

 

 

 即座、心に誓った――越えてみせると。

 

 だって、そうだろう。

 どんな積み重ねも――失ってもいいと、投げ打って初めて意味を持つ!

 

 

 

「――来ォい、可塑曼陀羅(カポマンダラ)!」

 

「――かぁぶりいいいい!」

 

「さっきの呪霊――それが、どうしたぁ!」

 

 

 

 叫ぶ少年の傍ら。顕現せしは、特級半精呪霊・可塑曼陀羅(カポマンダラ)

 

 そこへ、自己生存を顧みぬ軍勢は殴り込み――!

 

 

 

「――かぶりゃぁぁあ!?」

 

「えっ、あ、一発で死んだッ!?」

 

 

 

 ――爆☆散!!

 

 ヤドカリ型の呪霊は、囲んで棒で叩くまでもなく――第一打で、あえなく死亡!

 

 これには思わず副リーダーも唖然!

 

 だが――まあいいでしょう、とほくそ笑み、己が勝利に溜飲を下げた時。

 

 

 

「――かぶりいいぃ!」

 

「なにぃい!? 完全に復活している――ッ!?」

 

 

 

 ――復☆活!

 ―― 可塑曼陀羅(カポマンダラ)、復ッ活!!

 

 何事もなかったのように量の手にある鋏を掲げ、ヤドカリは叫んでいた。

 

 そう――ヤドカリ部分は、式神なのだ。

 ヤドカリ型の式神を出力する、ただそれのみの術式。

 

 より正確には!

 

 

 

「どっ、どうなっている!? ワンパンされては再発生し――どんどん、呪力を増していっているだと!?」

 

 

 

 本体である呪霊は、巻貝の中で領域を展開し、攻撃のみに特化した式神を出力。

 式神は絶命時に呪力を増し、その残穢を本体が吸収し――ひたすらに呪力を増し続ける。まさに無限ループ!!

 

 

 

「なら巻貝(ほんたい)を壊せ! 壊しなさい! ええいっ、なぜそうも手間取る。100個も術式を叩き込んでいるのに――というか、あの使役者(クソガキ)はどこにいった!?」

 

『オレだって驚いてるさ! いやぁ、まさかこっちが、呪霊に食われる側になる日が来ようとはね!』

 

 

 

 結界の内外距離は、必ずしも一致しない。

 夏油(かおる)は、可塑曼陀羅(カポマンダラ)の領域――防御特化の貝の中に囚われていた。

 

 ――袋叩きにされ、ぐわんぐわん揺れる領域内で、だ!

 

 

 

『うおおおやっべ、トランポリンかなんかか、つーかなんだここ、おわぁあ!!?』

 

「ワタシの『領域』です! マイマザーしばしご辛抱を! 螺鈿(天井のシミ)を数えている間に終わりますので!!」

 

『領域? なるほど分からん事が分かった。任すッ!』

 

 

 

 だが、そこは『宿儺の器』。

 その程度でやられるほどヤワじゃあない。

 

 ――夏油(かおる)は、目を瞑ることで、呪霊操術の使役対象と視覚を共有できる。

 

 ――よって、領域内から領域外の様子をバッチリと見ていた。

 

 

 

『ただし、いいか! 殺すのはアルノーだけにするんだ!』

 

「えーっ、ナンデ!?」

 

『その他大勢はあくまでも支配されてるだけなんだ。話せばわかるようなら高専のシェルターにブチ込む! つーか100人以上の術式持ちとか正攻法では勝ち目がない! 本体だけ狙うんだ!』

 

「はえぇ、まあ母ちゃんが言うならそーなのか!」

 

『……さっきから呼び方安定しないな。まあいい、とにかく頼むぜッ!』

 

 

 

 そう。主人が、見てくれているのだ。

 この気の休まらぬ領域内で、子を信じ、目を閉じ続けているのだ。

 

 この、105人もの100点泳者の総攻撃に、殺され続ける式神を見ているのだ。

 

 ならば――忠義を示すのが、下僕の道理!

 

 

 

 

『オレに後悔させるなよ――可塑曼陀羅(カポマンダラ)ぁ!』

 

「ハイ! マイマザーっ!!」

 

「なに――っ!?」

 

 

 

 刹那――玉体が、爆誕する。

 

 この数秒、累計299回に及ぶ爆散。

 式神が絶命を繰り返し、雪だるま式に超えた呪力量。

 それによって溜め込まれた呪力の塊は。

 

 ついに、105人を押し返し。吹っ飛ばした。

 ――そう、退けただけ。殺してはいない!

 

 

 

「隙あり! とりゃァあああ!」

 

『うわああああ!? Gがぁぁあ!!?』

 

 

 

 その隙で。式神(ヤドカリ)貝殻(ほんたい)をぶん投げた。

 

 ――自死を強制された式神は、それと同時に爆散。

 

 その呪力を、やはり貝は吸い上げ、より強固となって。

 

 

 

 ――アルノー本体へと、飛来する!

 

 

 

「ひぃっ! 庇え! 庇いなさい皆の者!!」

 

 

 

 が、斜線上。

 肉壁となって、立ち塞がる支配された者達!

 

 

 

「まずーい! かぶりゃあぁあ!!?」

 

 

 

 支配された術師は殺さない。

 その命令を遵守すべく――貝殻(ほんたい)式神(ヤドカリ)を出力。

 

 どんなに強くなっても防御力は0。

 衝突の瞬間、式神のみが爆散し。

 ドミノ倒しで人々は転倒、直撃を免れる――この間、僅か0.01秒。

 

 かくして、邪魔者が消えた。

 

 

 

『よくやった! この重みを喰らえええッ!!』

 

 

 

 ――式神の消失反応(チャフ)を塗って、貝殻(ほんたい)は飛来。

 ――アルノーのみを貫いた。

 

 

 

「いっだぁああ!? うわあああやめろっ! やめてくれええ!」

 

 

 

 この場で最も、頑強な人間であるのがアルノーだ。

 彼の術式は本体に最も呪力が集中する。

 

 廊下を吹っ飛び転がる彼は大パニック、五体満足のくせに喚き散らす。

 

 だが。その少年に迷いなどなかった。

 

 

 

「とか言ってるけど、どーしますかマイマザー!?」

 

『痛ってて……許可する! やったれ、可塑曼陀羅(カポマンダラ)!!』

 

「ハイ!!」

 

 

 

 最高硬度、だからなんだ。

 この場の誰よりも呪力出力が高いのは――改めて顕現せし、超巨大式神(ヤドカリ)なのだ!

 

 

 

「――かぶりぃいいいい!!」

 

「ひぃっ――ぅぁぁああ!!?」

 

 

 

 大鋏(おおばさみ)が、その身に喰らい付く。

 抵抗(こうげき)を待たずして、彼は天高く掲げられ――真っ二つ。最後の爆散が、廊下を染め上げた。

 

 

 

 勝鬨をあげる、紅い巨体。

 

 それが何よりも――先代の培った術式構成の正しさを、物語っていた。

 

 

 

―――

――

 

 

 

「……ま、マジでか。マジで、やれちまった」

 

 

 

 真っ赤な噴水。血潮の藻屑と化し、倒れ伏すアルノー。

 圧倒的強者が死んだ瞬間を、少年は見た。

 

 ――どうやっても覆らない、隔絶。

 そうとしか思えなかった差が、逆転した。

 

 ヤツは負けた。自分が勝った。

 

 そのことを、静寂の中でようやく、実感し。

 

 

 

「ぃ――やったぁぁあ! やった!! やったぞ――ッ!!!」

 

 

 

 勝鬨が上がる。

 手を叩き、思わず飛び跳ね、目を輝かす。

 

 ――主人の歓喜を受け。下僕もまた息を呑み、胸を膨らました。

 

 

 

『いやったぁ! やれましたよォお母ちゃん!』

 

「おうでかした! 本当にスゴかった! よくぞやってくれた可塑曼陀羅(カポマンダラ)! オマエがいなきゃ、オレも周りも死ぬトコだったぜ!」

 

 

 

 いくらでも褒め称えよう。

 これほど好都合な事はない。パーフェクトゲームだ。

 

 だって、アルノー以外は死なずに済んだ。

 

 

 

 防御力皆無が功を奏した。

 操られた奴らにタコ殴りにされながらも突進し、あくまでも本体にのみ攻撃をぶつけた。

 

 ――余計な殺しをせずに済む! なんと素晴らしい!

 ――しかも、それだけではないのだ!

 

 

 

「何が最高かって相性の良さだ! オレにできないことをオマエは補える、自己成長してオレを庇うことができる!」

 

 

 

 このヤドカリ術式、『呪霊操術』のデメリットを踏み倒せる。

 

 ――呪霊操術で取り込まれた呪霊は、その時点で成長を止める。

 だが、術式効果による成長であれば、その限りではない。

 

 ――式神遣いと同様、使役者である(かおる)は真っ先に狙われる。

 だが可塑曼陀羅(カポマンダラ)は領域内に匿う事ができる。

 

 そして何より、天井知らずの呪力量!!

 

 

 

(命を賭ける――なるほど、そりゃ最上の『縛り』だろうな。術式効果と呪力が底上げされるんだ――乗算バフ(そんなの)()()()()できるなんて。こんなに嬉しいことはない!)

 

 

 

 紛れもない、特級レベルの力を手にし。

 少年は――大きく近づいた目標を、睨んだ。

 

 

 

 いま、自分を囲う空間――『領域』。

 

 原理の検討もつかない、高度なモノ。

 圧倒されるしかない、術式の最大化。

 

 だが、確かにコレは今、自分に使役されている。

 

 

 

 ――自分は領域を使えなくても、領域を使える呪霊がいる。

 この個体の技能から逆算し、己を鍛えられるのならば――。

 

 

 

「強くなれる。勝てる――格上を! 夏油傑(クソオヤジ)を、やれる!!」

 

「ハァイ!! 夏油傑(クソジジイ)(?)もお任せくださいマイマザーっ!!」

 

「おうそうだとも! 灰原さんに狗巻さん、イノタクさんだっているんだ! このまま敵全員ぶち倒していこうぜ!!」

 

 

 

 と、ひとしきり勝利の味を堪能しつつ。

 

 ――それはそれとして。夏油(かおる)可塑曼陀羅(カポマンダラ)に指示し、貝から出て、辺りを見渡す。

 

 

 

 これほどの呪霊の相手をさせてしまった狗巻さんは、果たして無事なのか。目の前で支配を脱して「ここはどこ?」とキョドっている泳者、105人をどうすべきか。

 

 まずは交渉すべきだ。人殺しであろうと助けられる者は助ける。そのために来たのだ。故に、迷わず土下座(ファーストコンタクト)を――。

 

 

 

「――な」 

 

 

 

 ――刹那。赤信号に、思考が染まる。

 

 

 

可塑曼陀羅(カポマンダラ)、戻れ!」

 

 

 

 危険。直感に従う行動は一瞬だった。

 絶対に失えない手駒を引っ込め、危機から庇う。

 

 それが、限界だった。

 

 

 

「な――」

 

 

 

 瞬きに遅れ――視野全てが、灼ける。

 

 ()が。光線としか言い様のないモノが、壁を突き抜けた。

 

 105名を、そして少年を呑み込んでいた。

 

 

 

 咄嗟に顔の前にかざした両腕は、消えていた。

 踏ん張るなんて叶うわけもなく、身体そのものが横に投げ出され、

 

 

 

「――が、ぁ」

 

 

 

 ――夏油(かおる)は。

 転がり、横たえ――止まった。

 

 立ち上がれなかった。

 過程で、頭を打った。

 

 どんなに力を込めても、体はいうことを効かない――否。効かせるべき部位が、欠落していた。

 

 

 

 両腕は。肘から先を失っていた。

 

 

 

(すごい、今の。ただ呪力を飛ばしただけだった。なのに可塑曼陀羅(カポマンダラ)と同じ以上の出力だなんて! かすっただけでも、こんな――いったい誰が、どうやっ、て――)

 

 

 

 全員、即死だった。焼け爛れていた。眩んだ目でなく、身をもって分かった。

 

 ――助けられなかった。

 

 その認識が、悔しさに繋がる時間さえなく。

 夏油(かおる)の意識は、途絶えたのであった……。




ストックが…尽きた…!!
なのにちっとも残業が減らねえ…!
たのむーッ! みんなの高評価(げんき)を分けてくれぇーっ!

次回は15日です。



【補足・特級半精呪霊とは?】

原作において、花御は『限りなく精霊に近い』との記述がありました。

本作ではこのケースを、負の感情の中でも、とりわけ宗教的な想いが折り重なって産まれた呪霊と解釈しました。

高貴なモノへの畏れ多さ。神聖に対する後ろめたさ。
それら畏敬によって産まれるモノ。

それが特級仮想呪霊の亜種、『特級半精呪霊』という区分です。

2018年には無かった基準なのですが、
2025年初頭まで多発した海外案件の中で、他国の観念を取り込んだ宗教色豊かな呪霊が増え、区別のために設けられました。

呪術もグローバルになってきましたね。

(同様に『特級特定思想呪霊』という区分も新設されていますが、そこはあまり触れない方向で)



可塑曼陀羅(カポマンダラ)は、当初こそオーストラリア東方の呪術的土壌の低い地域で発生したものの、

日本某所に漂着した際、その土地の神話とたまたま符合し、強化されました。後天的な特級半精呪霊です。

(もちろんゴミ術式を工夫してる努力の成果でもあります)



【オマケ・『式神を出力する』タイプの領域展開】

ちょっとばかりネタバレをば。

安曇野甘尾といい可塑曼陀羅(カポマンダラ)といい、
領域という過程から、ひとつの結果を出力するタイプを最近書いてますが、これは布石です。

後々、このタイプの領域が大暴れします。乞うご期待。
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