【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
さらわれた仲間の奪還のため、海賊客船に客として侵入した猪野と灰原結。
いよいよ戦乱の火蓋が切っておとされようとしていた。
――ある日。具体的には、2018年某日。
――このようなやりとりを記憶している。
「伏黒ぉ! パンはパンでも、食えないパンはなーんだ!!」
脈略不明。小学生以下のネタ振り。
そんな野薔薇の声に、オレのキュートな丸い耳は反応する。「オレのこと!?」と目を輝かせて顔を上げた矢先。
「……パンダは、食えるよな。その気になれば」
しれっと後輩に食べ物認定された。
以上。4コマで事足りる、オレのトラウマ話である。
……えっ? なんで急にそんな話したのって?
そりゃあ、お前……。
「――だから! オレは! 食えないパンだって言ってんだろ――ッ!!」
決まってるだろう!
パンダだって、現実逃避をするのだ!!
―
――
―――
大食堂。白い机と、500人を越す100点保持者が一堂に会する豪勢な空間。
「――お待たせしました、メインディッシュの、人語を喋るパンダでございます!」
そこに、執事の大声を伴って、メインディッシュは持ち出される。
なんなら、メインディッシュ自身も自己主張していた。
「やめろーっ! みんな動物愛護の精神を取り戻せー! そして思い出せ! パンはパンでも
それは――檻を掴んで、ガシャンガシャンと鳴らして脱出を試みるミニパンダ!
その物珍しさに、雑談に耽っていた一同は目を引かれ。
「えっパンダ? ちっさ……てかホントに喋ってる!?」
灰原結もまた、流れで視線を向けようとした、刹那。
「灰原さん。目を閉じて下さい」
猪野は、宣告していた――状況は変わったと。
「……はいっ?」
振り返った時には、とっくに猪野は舞踏会の仮面を捨て。
代わりに、銀行強盗じみた黒い覆面を被っていた。
「あれが仲間です。俺が道を作ります、合図で突っ込む用意を――コガネ、100点消費」
「あいよ!」
必要最低限、合理に律されたベテランの言葉。およそ異論の余地はなかった。
灰原は、その一声で頭を切り替える。
実際、こんなクズどもを切り捨てる事に躊躇はない。
目を閉じ、自身の命を預け、号令を待つ――即座。
「
肌で感じた。
なにか――死の体現としか言いようのないモノが。すぐそばで、牙を剥いたのだと。
「――――『龍』!!!」
その暴流が、堰を切ったかのように突き抜けていく。
幾重ものテーブルが、グラスが、食器が突き倒され破砕する。幾つもの悲鳴が飲み込まれる。
システマチックに「96点を獲得したぜ!」などとも聞こえた。
(……えっ、待って。96? 私が半月で稼いだ以上の点を、今の一瞬で――?)
「今です!」
「――了解!」
目を開き、灰原は蹴飛ばされた様に走り出す。
聞こえた通りの光景が視覚に飛び込んだ。
ひっくり返されたテーブルと皿。
ガラスに刃物、広がる血。
人を含め、折り重なった障害物。
――それらを、術式で一蹴する。
「術式解放『
その効果、髪の一本一本の式神化。
それぞれが自ら呪力を捻出し、呪力量だけ長く伸び、主人を防衛する。
障害物を押しよけ、一直線の
(走る分にはこれでいい。距離は40メートル、10秒で行き着く。問題は――!)
だが、障害はまだ残る。
最も厄介といってもいい。
そう――ここに蔓延る
「「「うお――! なんだか知らねえが邪魔すんなら死ねぇ――ッ!!」」」
危険を感知したら逃げる。それは当然だ。
だが、彼らは
――呪具等、物資を持ち逃げしようとする者。
――『点』を増やしてから逃げようとする者。
――そもそもシージャックを虎視眈々と伺っていた者。
彼らは一斉に暴力を持ち出した。
やらなければやられると、その他も
結果は、殺し合いだ。
この最も人口の密集した食堂は、狩野の一撃で秩序を失った、見渡す限りの大混乱。
そこへ、灰原は飛び込まねばならない――!
「邪魔だ、どけえええッ!!」
付き合っていられない。灰原はその悉くに対話拒否を敢行した。
突っ込んでくる群衆の列に、からめとったテーブルを遠心力たっぷりに叩きつけ。
その初見殺しに対応できる実力者たちは、正面から相手をせず、フルオートのカウンターで通過する。
とはいえ、全員が100点保持者。
彼等の攻撃は例外なく術式を用いたモノ。
――だが!
「こっちだってなぁ、伊達に100点いってねぇんだよ!」
この
折れたからなんだと、欠落を埋めて伸び広がる。
こと生存力の一点だけならば、『
――とはいえだ。何事にも、限度と言うモノはある。
「えぇい、野蛮人どもめ! 止まれい、止まらんか! パーティー中なのだぞ!」
船のオーナー・
もとい、客席海賊団『グランメゾン』の頭領・ヴァンサンの一存によって。
次の瞬間、灰原の周囲の人間は、諸共に
船の壁から突き出た、いくつもの――『肉の槍』によって!
(この攻撃ッ、呪力は大したことないけど物理ダメージがデカい!?)
灰原は死を覚悟した。なにせ相性が悪すぎる。
灰原結の迎撃はフルオート。より大きな呪力に反応する。
しかしこの肉の槍は低呪力の高質量。
カウンターができないし、できても潰される事に変わりはない――その間際!
「させるか! ――来訪瑞獣・一番『
戦闘機の如く。合間を縫うようにして。
ドリルのファンネルが飛来した。
そして肉の槍は、純粋に威力で打ち負けていた。
高速回転する式神に貫徹され、切り裂かれ、摩擦で弾かれ。
結果、灰原は走って死から免れ――そのまま前へ。
「っ、まったく君たちは。人がワインを楽しむ間もないではないか!」
(さっきの肉はコイツの術式か――!)
残りは数メートル。
パンダの手前、最後の障害が目に映る。
中肉中背のタキシード。ヴァンサンは、グラスを投げ捨て、腕を組んで彼女を待ち受けていた。
その体は突如――文字通りに膨張し、膨れ上がる。
(――やっぱ相性最悪! どうしろってのよこんなの!)
「見よっ、これが我が術式『
――異形だった。
肩から不自然に肉の山を積らせ、肥え太り、これでもかという圧をもって肥大化した右拳。
そうして練り上げられた呪術の
「させない、って、言ってんだろ!!」
「なに――ッ!?」
――強制的に付与される弱点。
――7:3で発生する不条理によって、その拳が、両断されていた。
灰原結より速く、彼女の前に走り出て振るわれた――猪野琢真の手にする、
「見てますか、七海さん! 俺はもう一人前――一級術師に、なっちゃったぞぉー!」
「舐めるな、銀行強盗頭がぁ!」
だがすぐに、傷は筋肉で埋め合わされた。
狩野を対象に、臆することなく攻撃は続く。
身体重量は脚力でゴリ押しで支え、人体の限界など無視して踏み込み、振るわれる大ぶりの一発。
――次の瞬間、足首手首は断裂して巨体は転げていた!
――猪野の、滑り込んで振るわれた四連撃によって!
「いっでええええ!?」
「どうだっ俺の大回転トゥーループは!」
身もだえ、唾液と弱音を垂れ流す肉塊はそれでも再生する。
知った事かと、猪野は氷のうえにいるかのように滑る足で身を回し、斬撃を連打した。
フィギュアスケート選手が如く、縦横無尽に駆ける彼の手で、ナタはロープで振るわれ踊り狂う。
彼自身が回り、そしてナタ自身も回る2重の遠心力。
そのうえでも『7:3』を外さないコントロールによって――彼は、フィジカルの差を問題なく埋め合わせ圧倒していた!
「技量は大した事ねぇ、牽制可能――灰原さん! こっちはやっておくんで、パンダっちの確保しちゃってください!」
「はっ、はい!」
灰原は、驚愕に呑まれそうな足を必死に走らせた。
――いったい、初激で何をやった。点だけを見れば自分と同等以上の相手を一瞬で97人殺すなど。これが本物の高専術師だというのか。なにより――そもそも仲間がパンダって、どう言う了見だ!
「アイツらが躍起になるってことは、このパンダ相当に特別なのでは!?」
「よこせ! そのパンダは俺のモンだ!」
「うわー!? マジで客寄せパンダじゃないか! そこの美女! はやく捕まえてくれ~!」
「どけバカ野郎ども!」
檻に寄り集まったバカどもに、フルスイングの
出力最大の呪力を纏った大波は抵抗の余地なく、窓ガラスをたたき割り、彼等を船外へとフッ飛ばし。
暴徒の手から解放されたパンダを、難なく、灰原結は
「なにはともあれ、任務完了!」
「フッ、馬鹿どもめ。パンダを搾取するからそうなるのサ」
「何エラそうにしてんのよ……猪野さん! パンダ確保しましたんで逃げ―― 」
――そう、振り返った、その瞬間だった。
――これまで以上の、死の直感が降りかかったのは。
(まずい!)
咄嗟、手に取ったパンダを檻ごと、割れた窓に投げ捨てた。
「あーれー!」と間抜け声が船外に遠のいた。聞いているヒマはなかった。
――視野を覆う髪が、爆光に焼かれていた。
(なに、何が起きてる!? 見えたときには光がぶつかって――いや、カスっただけでこれなの!?)
確信していた。この『光線』に直撃していたら、即死だ。
それほどまでに、過去経験したことのない速度で削られる『
ほんの少しでも切れ間から漏れた光でも、肌を焦がされ肉を焼かれ、刺し貫かれた痛覚が絶叫し、思考が点滅する。
――なんだこれは。
――ただ呪力を投げつけるだけで、なぜこうなる。こうなる筈がない。それこそ『龍』と同等、いやそれ以上の大火力――!
「――ふっざけんなぁぁあ!!」
――意地を、沸騰する怒りを、頭から立ち昇らせる。
呪力を全力で術式に送り、
極限の集中力、痛覚を麻痺させる本能、全てを動員したことで。
灰原結は――永遠にも感じられた一瞬を、凌ぎきった。
「はぁっ……は――ッ、いったい、なにが――!?」
世界が、標準明度を取り戻す。
己の髪をかきわけ、周囲を見渡す。
猪野は――問題ない。光線の軌道にはいなかったらしい、相変わらずヴァンサンと殺し合っている。
射線外の泳者たちも、同様に生存していた――が。
「……生き残ったの、私だけかよ」
――光線を受けた者達は、全滅だった。
威力は縦一直線に駆け抜けたらしい。
分厚い絨毯は黒焦げて剥げあがり、人がいた名残は肉の焼けた酷い臭いだけ。
己の掴んだ生存がいかに奇跡的であったのか。
灰原は息を呑み、顔をあげる。
破壊の痕跡をなぞった先――ひとりの男が、立っていた。
「――209点を獲得したぜ!」
「へぇ、半分も生き残るかよ――Sweet! ウワサは伊達じゃあなかったわけだ」
煙をあげる
冬の寒さなど知らんとばかりに皮ジャンを羽織っただけの筋骨隆々。
そう、彼こそがかつての――仙台の、大砲。
「デザートは別腹、よく言ったもんだ。いいぜ――三度目の人生。豪勢にいただこうじゃねえか!」
次回は22です。
寝たい。シンプルに寝たい。繁忙期が憎い。
【補足・点数インフレ問題について】
原作では日車や鹿紫雲という100点プレイヤーが大台となっていましたが、
こちらは100点あたりの死者数は原作より多く、100点プレイヤーの価値は原作より低いです。
これは2018年の死滅回游と性質が違うせいです。
なんせ『千人の虎杖が解き放たれた』レベルじゃなく、
日本総人口が全プレイヤーですから。1億点ゲットを目指すゲームですから。
これだけ母数が大きいと、否が応でも数字は大きくなります。
たとえ誰を殺そうが1点しか得られないとしてもです。
なので、弱くて少ないやつを、強くて多い集団で淘汰するやり方は最適解です。