【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
石流、乱入。海賊客船での大混戦は、より混沌を極めていく……。


第2部 24話『輪解』

 クルーズ船の屋上食堂を焼き焦がし。

 戦場に降り立つは、かつての仙台の『大砲』。

 

 石流龍――対して。

 船のオーナーは、即断した。

 

 

 

「来たな、招かれざる強者よ――最高警戒体制(コンディションレッド)発令! 社員一同はマニュアルに従い配置につけ! そして『肉侵掌握』よ――この場すべての客を支配せよ!」

 

 

 

 逃げだそうとしていた、生き残り148名。

 灰原結・夏油勲・猪野・狗巻・パンダを除き――その場の全員が、戦闘人形と化す。

 

 

 

「なに――いやムリだろ! 戦ったからこそ断言できる、お前にそんな高度な術式運用できる技量は――!」

 

「ふん、銀行強盗頭には分かるまい――招待状の右端に、こうなることは記載済み! こやつらは同意してここにいるのだよ!」

 

「やっぱそーいうわけかお前!」

 

 

 

 ノリツッコミを交えつつ、猪野は想定通りの悪辣さに吐き気を催す。

 

 

 

 ――招待客に渡されていた仮面には、あらかじめ肉の芽が組み込まれていたのだ。

 

 彼の術式は『自分の所有するたんぱく質の操作』。

 芽吹いた肉は頭蓋に根を下ろし、脳を、そして全身を支配する。

 

 本来このような術式運用が可能なほどの技量は彼にはない。

 

 だが、『招待状』の右下に小さく仮面で支配する旨の内容を記載し、支配される事に同意したうえでなら――その限りではない。

 

 

 

「さぁ者ども! 私に全ポイントを献上せよ!」

 

「チリんチリーン! 16807点を獲得したぜ!」

 

「よろしい! ではそのすべてを消費! 呪力に替え、軍団を強化する!」

 

 

 

 残存していた無秩序な100点保有者らは、その一瞬で統率され。

 疑似術師でありながら、男は不遜な笑みを深めていた。

 

 

 

「そして――『命を賭けて』、あの男に対し進撃せよ!!」

 

 

 

 その身に宿る圧倒的な呪力。持て余すほどに肥やされた肉の山。

 引き締まるマッスルで、既に勝利したとばかりにキレッキレのポージング!

 故に、黄金のパンツの(ブーメラン)字の輝きを放っていた!

 

 

 

「どうだ驚いたか! この船にまんまと踏み入った時点で、貴様らは皿の上も同然よ! 諸共、職員一同で美味しくいただいてくれるわ――!」

 

 

 

 その自信満々の号令でもって。

 侵入者に対して、束になって術式をぶつけんと押し寄せるも。

 

 

 

「へぇ。そりゃいいな。つまり一緒くたにいただけるって事だ」

 

 

 

 低く、呟いた。

 次の刹那。

 

 

 

「――『グラニテブラスト』」

 

 

 

 砲口(モヒカン)から、極太の呪力奔流が一直線に迸んだ。

 幅二十メートルはあろうかという光の柱が、戦隊を根こそぎ撃ち貫き。

 人体が一瞬で炭化し、骨すら残さず消し飛んでいた。

 

 ――およそ、人体に向けられていいハズがない重機関銃の轟きは。

 ――むろん、ヴァンサンをも貫いた。

 

 

 

「いっでええええ――っ!?」

 

「こっちの台詞だ! 痛ってえなァこの野郎!!」

 

 

 

 流血を伴いながらも。

 屍の山を踏破し、石流はヴァンサンを殴りつけていた。

 

 ――命を賭ける縛りがあれば、カラスであろうと特級呪霊に痛手を与える。

 ――本気の『解』でなければ切断できない鋼のフィジカルであっても、無傷とはいかない。つまりだ。

 

 石流は、こう言いたいのである。

 この俺をこんな安物のナイフで刺しやがって!と!

 

 

 

「お前が頭領か! 兵隊連れてゴミゴミと、男なら一対一(タイイチ)で来いや!」

 

「ふっ、いいだろう。身の程を知るがいいチンピラ風情がぁ――!」

 

 

 

 もはや人型を放棄し、ヴァンサンは膨張し、肉の波と貸す。

 質量任せのフルスイング。

 有り余る筋力に対し――!

 

 

 

「……マジかよ。あいつ」

 

 

 

 ――猪野は。さっきまでヴァンサンと戦っていた猪野は、目を疑った。

 ――石流のやったことは、ただの呪力を宿したゲンコツだった。なのに。

 

 右腕が鞭のようにしなり、呪力で強化された拳が。

 肉塊の中心にめり込み――衝撃波が大気を爆ぜさせ、全身に波打たせ、悉くの筋を断絶させた。

 

 こんな事が――こんなバカげた呪力出力が、ただの呪力操作で出来るわけが――!

 

 

 

「というか――あのリーゼントって味方なのk――!?」

 

「お! こっちのヤツも甘そうじゃねーか!」

 

「重ッッッッッッも!?」

 

 

 

 飢えた石流に見境などなかった。

 

 猪野は辛うじてガードするも踏ん張りは効かず。

 ――壁まで吹っ飛び、盛大に穴を人型の開け、吹き飛ばされていた。

 

 

 

「余所見とは余裕をこきおって! 見るがいい、我が肉体のスパークを!」

 

 

 

 その隙にヴァンサンは襲い掛かる。

 自身の体をハリセンボンの如くとがらせ、肉針を広げ――身を丸めて転がり込む!

 

 

 

「少しでも我が肉で手傷を負えば、そこからジワジワと肉に侵食され支配されるのだ。16807点ぶんの呪力を前に、いつまでも殴り合いできると思うな――!」

 

 

 

 が、知った事かと。針諸共に石流が殴り返す。

 その肉体に、手傷なんぞひとつもありはしない。

 

 そう。それこそ地力(フィジカル)が違う!

 

 

 

「ぐえーっ、なんだこのバカげた威力はああああ!?」

 

「タンパクすぎんだお前は。力押しばっかで芸がねぇ割に呪力(ボリューム)だけは傘増ししやがって。じっくり添え物まじりで食ってやる!」

 

「芸がないなどと! 貴様にだけは言われたくな――ぎゃあああ!!」

 

 

 

 二度目の、グラニテブラストが火を噴いた。

 

 頭頂、膨張した呪力の爆発。

 大袈裟に横倒れる肉の巨体。

 甲板がひび割れ、その奧で海水が噴きあがり、怒濤の反響が船を揺るがす。

 

 

 

 そして石流は、この場に残る最後の(プレイヤー)に手を付ける。

 

 そう――灰原結を!

 

 

 

「ぐ、っうぅううう――!?」

 

「――うん? マジか、殺す気で殴ったんだがな」

 

 

 

 距離は認識する間もなく消えていた。

 一瞬で到達した拳を、灰原と『蜘蛛の糸』は、だが奇跡的にしのいでいた。

 

 髪に任せるオートカウンターではない。自らの意志で髪を操作し。

 単純に受けるのでなく、伸ばした髪を流して躍らせ――衝撃を分散させていた!

 

 

 

(軽減させても、これだけのダメージ! どんなバカ力してんのよコイツ――!?)

 

「やり甲斐がありそうな女がいたもんだぜ。最近は味気のないやつばっかだったんだ。楽しませろよ!」

 

 

 

 しかも、気に入られたとあっては冗談ではない。

 今の一発でさえ、爆発四散したと思わされるほどの衝撃だったのに!

 

 

 

(つうか、こいつ――最初の『グラニテブラスト』、私狙いですらなかったの……!?)

 

 

 

 笑えない。あまりにも笑えない冗談だ。

 ――灰原が最初に受けた、あの攻撃。あの光線は、自分を狙ってすらいなかったなどと。

 ――こんなヤツを前にすれば、私はなんてマトモなのだろうか。そうだ私は正常だ。150人ぽっち殺したくらいでなにを思い違って――!?

 

 

 

(――って、現実逃避してる場合じゃねえ!)

 

 

 

 容赦なく、繰り出される両の拳。

 今度は本気で狩に来ている。

 脳が漂白される。不可能の文言が視野を埋め尽くす。己の生存は絶無と悟る間際。

 

 

 

「――式神か」

 

 

 

 両の拳の片方が、邪魔立てで軌道をそらされる。

 瞬間、全思考をもう片方の拳だけに傾け――再び、受けきる。

 

 

 

「ぶ、がえぇっ」

 

 

 

 吐いた。今度こそ瀕死だった。

 爆発しかけた身体は、とっさに口を開くことで外に衝撃を逃がし、ついでに胃の中身を全部ぶちまける。

 

 

 

「よくやったぞ『獬豸(カイチ)』! 灰原さん遅れてすみません、カバーします!」

 

「い、の。さん……」

 

 

 

 そうして庇い立つ、猪野琢真。

 ――吹っ飛ばされてなお、傷ひとつなくナタを構える男を前に。

 

 

 

「へぇ、さっきの受けて喧嘩したりないのか――Sweet!!」

 

 

 

 石流は決断した。

 まずは、お前を食べきってやると。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 例に漏れず、石流は殴りかかる。

 まっすぐ行ってぶっ飛ばす。これ以上のないシンプルイズベスト。

 

 対して――!

 

 

 

「悪いなぁ、こっちは対フィジカルエリート特化で鍛えてんだよぉ!!」

 

 

 

 猪野は、中距離戦闘に終始していた。

 

 

 

 ――来訪随獣・二番『霊亀(レイキ)』。

 

 液状呪力のコーティングでもって、常に足を滑らせ回転、衝撃を受け流しつつ。

 回転で得た遠心力をロープに運ばせ、先端につながったナタで叩き込む。

 

 このナタには、特定条件で防御を無視する『十劃呪法』が刻まれている。

 故に無視はできない。石流は回避か迎撃が必要となり、その間に猪野は後ろに引き――リーチを維持する。

 

 

 

「だったら、『グラニテブラ――』ぶね!?」

 

 

 

 ――来訪随獣・一番『獬豸(カイチ)』。

 

 飛来するホーミング弾頭。

 真正面に集中した呪力と意識が、虚を突かれそうになり回避に動く。

 

 まずは厄介なコイツを落とさねばなるまい。そう判断し、石流は照準を『獬豸(カイチ)』に合わせようとした――間際。

 

 

 

「こっちも、遠距離攻撃はできんだよ!」

 

(息つく間もねぇな――!)

 

 

 

 ここぞとロープをたわめ、最長化されたリーチでもってナタが撃ち出される。

 遠心力の最中であっても、3:7は射貫かれた。

 

 防御無視の斬撃――石流の腕が、わずかに肉を切り落とされる。

 

 

 

「やるねぇ! だが、それじゃあ隙つかれるのはそっちだぞ!」

 

 

 

 タダで喰らったわけではなかった。

 

 石流は、今度こそ踏み込んで殴りかかっていた。

 接近を実現するため、骨を断つために肉を断たれたのだ。

 

 ――ロープはまっすぐ最大限に伸びきっている。あのナタは機能しない。

 ――『獬豸(カイチ)』は通り過ぎた直後、石流に間に合わない。

 

 中距離戦闘は破綻した。これならば――!

 

 

 

「――シン・影流『簡易領域』」

 

(へぇ、結界術も――!?)

 

 

 

 否。動作の前後を無視し、前もって設定(プログラム)されたカウンター動作が繰り出された。

 猪野は、石流の拳をすんでで免れ、むしろ横っ面を殴り返していた!

 

 

 

「悪ぃな、徹底的に封殺させてもらうぜ!」

 

「……存外、ダラダラやんのも美味いもんだな」

 

 

 

 俄然がっつきたくなった。

 とばかりに、加えていた煙草を吐き捨て踏みつぶし、より追い詰めんと迫る石流。

 

 だが狩野は式神で、呪具で、あの手この手で阻み、再び中距離戦闘を形成する。

 

 

 

 ――そう、これこそが、狩野流・凡人でもやれる対フィジカルエリート戦闘術。

 ――呪具・式神・簡易領域の3つを、すべて準一級レベルに扱える地道な基礎訓練(どりょく)の結集!

 

 

 

「にしたって上手く組み合わせるもんだ――俺は石流龍。テメェ、名前は!?」

 

「狩野琢真、イノタクでいーよ。勝ったら俺に『点』くれねえか!」

 

「いいぜ。こうなりゃとことん喰らい合おうや」

 

 

 

 

 泥臭くもスマートにまとまった戦闘スタイル。

 技術だけで格上に拮抗してみせる総合力。

 

 ――石流龍は魅せられていた。

 なるほど、この戦術は鍛えれば誰でも鍛えれば出来る。

 しかしここまで出来たヤツは記憶にない。息切れを起こす気配もない。

 コイツがどこまでやれるのか、とことん突き詰めたくなっていた。

 

 ――猪野は、内心ホッとしていた。

 なんせ領域展開に対し、こちらは簡易領域しかできないのだ。

 この調子で『本気出せば領域もできますけど?』という雰囲気を維持しつつ、順当に削って、隙があればサクッと殺――。

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待ったバカ男2名! 今それどころじゃないでしょ!」

 

 

 

 ……と。お互いがお互いしか見えなくなった頃合いだった。

 

 灰原の声が、割って入ったのは。

 

 

 

「おい。順番守れよ髪女」

 

「ひっ」

 

「……って、そうじゃんしまった。オーナーどうなった、あとパンダっちは!?」

 

「あん? パンダがなんだって?」

 

 

 

 

 猪野、当初の目的を思い出す。

 

 ――連れ去られたパンダを奪取し、トンズラして、京都を目指す。

 ――そうなのだ。なにやら大事になってしまっているが、その目的を逸しては意味が無い。

 

 それに何より――この船のリーダーは、いまだ健在なのだ!

 

 

 

「貴様ら、よくもここまで我が船で勝手を! こうなったら、社員・観客――全融合だあああ!」

 

「「「なに――っ!?!?」」」

 

 

 

 その地団駄で、船が上下し、盛大に三人はすっころんだ。

 その呼び声で、船全体が震えあがっていた。

 

 あらゆる部屋から人の波が走り、一体化し、ぶくぶくと膨らみあがっていく肉の山。

 針はよび強靭に、長く伸び、身じろぎひとつで絨毯をズタズタに引き裂いていく。

 

 そうして――肉の塊が、際限なく、空間をどんどん塗り潰していく。

 

 

 

「だーっクソ、雑味が多い!」

 

「なんつー質量してやがる! こうなりゃもっかい『龍』やるしかないか!? いや範囲広すぎるだろどこ狙えば有効なんだ!?」

 

「ああもうだから言ったのに! このさい海でもいいから脱出するしかな――嘘、下まで肉まみれなの!?」

 

 

 

 文字通り、船全体に及ぶ袋小路。

 ともすれば選択肢は限られていた。

 

 ――強行突破。火力で押し通る他にない!

 

 

 

「デカいのブチかます。イノタク、女庇っとけ!」

 

「なんだか知らんが分かった! 芸のあるとこ見せたれ石流!」

 

 

 

 大砲(リーゼント)が、煌々と呪力を練り上げる。

 本来、その呪力放射は一点突破の収束、面制圧はできない。

 

 だから――今回はあえて、絞らない。

 

 

 

()()()()()()――『グラニテブラスト』ぉ!!!」

 

 

 

 撃ち放たれる光はーー全方位に、拡散した。

 男のリーゼントを爆心地にさく裂したの、悉くを爆ぜ飛ばす波状呪力!

 

 それは船を横一直線に貫き、()()()()()()()()()()()吹きすさび。

 視野を覆う肉の壁を、大幅に焼き焦がす。

 

 

 

「――32点を獲得したぜ!」

 

「いっでえええええ!? 貴様、よくも副団長(アルノー)までをもおお!!」

 

「へぇ、流石にタフだな」

 

 

 

 だが、削っただけだ。

 16807点を消費して得た呪力量、船の全員を巻き込んだタンパク質。

 その元手(リソース)を削りきるには足りない。

 

 とはいえ――結界に押し込める程度には小さくなった!

 

 

 

「残飯処理には贅沢だが、喰らいやがれ――領ォ域展開ッ!!」

 

 

 

 示されるは呪術戦の極地。

 広がるは彼一人のための独壇場。

 

 結界に仕切られる世界が、その肉を覆いつぶす。

 

 

 

「……えっと。なんですか、あの黒いドーム」

 

「あ、そっか。灰原さんは初めて見るもんね。あれは領域って言って……」

 

「ああいいです。もうこの際、終わってくれるんなら何だって」

 

 

 

 巻き込まれなかった灰原は、もういっそ、わけが分からず途方に暮れていた。

 とてもついていけない。さっきのリーゼント野郎も、あの贅肉の塊も――猪野の人間離れした戦闘技巧も。

 

 というか、とっくに大ダメージで元気がない。自然、猪野に庇われたまま、その瞼は重く落ちる――。

 

 

 ――間際、思った。

 ――いっそ、気絶できるほどに弱かったらよかったのに、と。

 

 

 

 

 

「――――()が高いな」

 

 

 

 

 

 声がした。

 

 聞き逃してはならない。

 聞き逃すなど許されない。

 

 石流の領域が外から斬られて崩壊し倒壊音を掻き鳴らす只中でも響く、絶対。

 

 さっきの光線――無制限のグラニテブラストで砕かれた、壁の向こうから。

 

 

 

「一秒やる――(ひざまず)け」

 

 

 

 呪いの王が。夏油(かおる)の肉体を奪い、その姿をさらしていた。




寝るの優先して投稿遅れました。申し訳ない。
次回は3/1です。
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