【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第二章「不虞雷轟」
第5話「特級術師・伏黒恵」


 

 ――やっぱり、折れたやつの考えなんて分からない。

 弱いヤツの視野なんて見えない。

 だから、アイツに置いてかれたのかなぁ……なんて、思いつつ。

 

 

 

「僕が助けられるのは、助かる準備のできてるやつだけだ。僕に、恵は救えない」

 

 

 

 五条悟により、宿儺から有無を言わさず引っこ抜かれ――塞ぎ込んだ少年の部屋。

 学生寮、閉じ切られた扉の手前。

 

 そう、『最強』は匙を投げた。

 

 

 

 否――元より。

 なんでも自分でやろうとなんてしていない。

 

 

 

「だから、そこは任せる。僕には持てない強さだからねぇ――そこばっかはさ」

 

 

 

 隣立つ、少年にそう告げた。

 次世代の一翼を担うもの。

 五条悟が完全体両面宿儺を降し、この日まで生き残った――守り抜いた、その一人に。

 

 期待してるよ、と一言残して、五条悟は去る。

 そして、

 

 

 

「伏黒、俺――お前がいないと、寂しいよ」

 

 

 

 ――、鍵が、解かれる音。

 それが――彼らの、新たな時間の始まりで――。

 

 

 

――

―――

 

「おー、ここが……!」

「旧・東京高専か。初めて見た」

「うちより広いね〜、ほらアレ。呪術師うじゃうじゃ居んよ?」

 

 

 

 たしかにその通りではある。

 というか、元から庭も校庭も広すぎるのだ。

 そこにちゃんと利用者がいる光景は、むしろひどく自然でさえあった。

 

 

 

「うじゃうじゃ言うな。あと人を指差さない」

「はぁい」

 

 

 

 その手前、有り余る体力で校庭を駆け出していた相方。

 婪佳久(らんかく)の揺れる白髪に、慣れた眼の禍福は嘆息をこぼす。

 

 今日も今日とて、コイツは必要以上に活きがいい。

 

 

 

「七年前――高専だった頃より盛況だそうだぞ――高専結界は生きてるからな。東京自体の停止でインフラは死んでるが、攻略拠点には使える。単なる教育施設の新高専(おれら)とは違って、設備が豪華なのはそのためだろう……」

 

 

 

 

 だが。ここを一歩出れば――魔境。

 2025年呪いの坩堝、東京23区だ。

 

 

 

「しかし……高専は表向き、私立の宗教系学校だそうだな」

「うん? そのハズだけど。どうして?」

 

「いや。入ったとき見た表札、『東京都立』呪術高等専門学校とあったんだが」

「えっ、何それ知らない。こわっ」

「……忘れてくれ。野暮だった」

 

 

 

 ……既に、日本の首都は大阪となって久しい。

 二人の通う新東京高専と違い、いわばこの拠点は呪いの最前線。関東最大拠点である。

 

 

 

「それはそうと。なんなんだろうね火急の用って」

「……今にわかるさ」

 

 

 

 ……その辺は今更、安曇野禍福は気にしていなかった。

 

 ここ一ヶ月はずっと。

 コイツと俺の二人一組で任務にアサインされてきたが。

 ――特級術師(コイツ)一人で事足りない時点で、どうせロクな事が起きないのである。

 

 

 

―――

――

 

「――特級術師、伏黒恵だ」

 

「知ってます。お久しぶりで〜、伏黒さん」

「……」

「んな嫌な顔しないでくださいよ、特級仲間なのに。私も仕事とかイヤなんですから――」

 

 

 

 ――二人だった。

 特級が二人いても、事足りない案件が回ってきた――!

 

 

 

「はぁぁぁあぁ……」

 

 

 

 思わず頭を抱え、溜息を出さずにはいられない。

 

 

 

「そうか、禪院の。アンタも特級術師か……これで三人目って、特級のバーゲンセールだな」

 

「なんだよ、特級に悪い思い出でも――いや、わかるよ。お疲れ」

「いえこちらこそ。お宅のお父様の遺品には毎度お世話になっております」

「いい。活用できてるんだろ、もう暫くは貸す」

 

 

 

 元フリーランスとはいえど今や立派な高専生。

 実際『天逆鉾』なしには何度死んでたかわからない身分。

 

 自然と上下関係に沿い、禍福の頭は下がった。

 しかし……冷静に考えて、なに言ってんだ俺?

 

 

 

「ていうか。五条先生から貸出の事後報告されて、こっちは首肯するしかなかったからな。遺品フルセット揃ったぞとかビックニュース抜かして……マジで、どうしてくれようか。あの人」

 

「そうでしたか……殴り行く時あったら、お声かけください。助太刀します」

 

「……なんか、二人のが仲良さげになってない?」

 

 

 

 なんなら共通敵を得て、シームレスに革命の機運が高まりつつあったが――、

 

 

 

「で、――早速だが任務だ。悪いが説明は道中で」

 

 

 

 とはいえ、雑談も程々に。

 高専結界を抜け――『鵺』と共に彼らは、その外へと飛び出した。

 

 

 

―――

――

 

「……一般人救出、ですか」

「そうだ、八王子に三人。確認されてから三十分」

「そんなの、特級二人もいります?」

 

「いや。俺は監督役。手出ししない」

「えっそーなの、結局私ら二人!?」

 

 

 

 予想外の返答。ガバっ、と鵺の羽毛に顔を埋めていた婪佳久の白い顔が上がる。

 

 一方、禍福はむしろ納得を示していた。

 

 

 

「なるほど。本来は俺ら二人だけの任務でしたか」

「……どういうこと?」

「いや分かれよ。なんで悪意以外では鈍感なんだよ」

 

 

 

「――五条先生は急用が入った。俺はワープとかできないから、こうして付き添いをして、なんならタクシー代わりになる羽目に遭ってる――ここまではいいか?」

 

 

 

 あー、そういう感じか!

 といった顔の婪佳久に、「やっぱ聞かされてないのか」と伏黒は苛立ちまじりに嘆息した。

 

 

 

 ……禍福としては、五条悟の名前が出るのは気に食わないが――この場合、押し付けられた婪佳久『暴走』鎮圧もやってもらえるんだろうか。

 

(……いや。そんな事ないか。どうせ俺の前で暴走しかけたら止めなきゃ、死ぬのは俺だ)

(生き残った以上、俺は今度こそ五条悟を打倒する――それまでは、まだ死ねない)

 

「……まあ、どちみち東京攻略の一貫。行政案件だ。俺ぐらいはいないと面目が立たない節もある」

 

 

 

 伏黒曰く――2025年において、

 23区での任務は、政府に秘匿されない。

 

 もちろん一般市民には秘匿されるが、

 事態を把握した政府だけはごまかせないのだ。

 呪霊は『東京にのみ現れる怪物』と公表されている。

 首都奪還は国民、ひいては政府の総意。

 

 ――今は総監部よりも、力を持った政府に逆らえない。

 成果は、必須となる。

 

 

 

「……分かりませんね。なぜ俺たちなんかが?」

 

「単に手が空いてたから。スピード重視の妥協だ。俺はお前らを呪術師として認めてない」

 

「そうですか。なら、安心しました」

 

 

 

 ……そりゃそうだ、と。

 禍福の肩は落ちた。この場合、安堵の意味で。

 

 

 

「……そこは気張って、認めさせてやっからなー! とか言っとかないの?」

 

「お前が自覚なさすぎなんだ馬鹿女」

「む、なんだよ。いじわるばっかり」

 

 

 

 そうだ。なにせ――禍福と婪佳久は不穏分子なのだ。

 

 

 

 片や、いつ爆発して国家転覆するかもわからぬ呪力の塊。

 片や、出所不明で、五条悟暗殺を謀ったフリー術師である。

 

 

 

 これが不穏分子でなくて何であるのか。

 ここ一カ月、五条悟から、二人だけで任務を任される方がおかしかったのだ。

 

 監督役、という名の監視。

 この方がよっぽど自然な対応といえよう。

 

 

 

「普段通り、手に追える仕事が渡されたんだ。俺たちは、普段通りにやり遂げるだけでいい」

「……」

 

 

 

 故に――本当に。しれっと、そう言われて。

 

 

 

「ん、そうだね……その通りだわ」

 

 

 

 目を丸くしたのち。

 ふにゃっと婪佳久は破顔した。

 

 ようやく真面目になったか、前のめりに任務についてを問い、

 

 

 

「それでそれで。なんで一般人入ったんですか?」

「陰謀論系配信者が動画撮りに結界内へ」

 

 

 

「うーわバカの尻拭いじゃん、しょうもなっ!」

 

 

 

 やっぱり、不真面目に言い放って、

 鵺のモフモフ毛並みへと轟沈した。

 

 

 

 ――今現在、23区を覆う帳は、呪霊を内側から出さないためのもの。

 外から人が侵入するなんて想定されていない。

 

 ましてやここは――本来、全土に発生する呪霊発生の七割が、一点集中する魔境。

 

 もうそんなの、入ってくるバカが悪いと言わざるを得ない。

 

 

 

「そこ。認めさせるんじゃなかったのか」

「伏黒さ〜ん、特級でもないヤツが揚げ足とってきます〜」

「伏黒さんマジすいません。あとでアイツ締めとくんで」

 

「いやいい。むしろ――可愛げある方だからな。あれって」

「……下には下があるわけでしたか」

 

 

 

 ……伏黒の、真っ暗なものを見る目を前に。

 禍福も思わず同情を禁じ得ない。

 

 今でさえ不穏分子を、五条悟から前置きなしで押し付けられたのだ。

 心中、察するに余りある。

 

 

 

「しかし、これも大事な任務だ。心してかかれよ」

 

「あいさー」

「はい」

 

 

 

 いやぁ、しかし――正直ホッとした。

 

 どうなる事かと思ったが、俺ら二人の手に追える仕事だったなら何より――、

 

 

 

「再三になるが。基本的にやり方はお前らに任せる。俺は不測の事態以外、手を出さないからな」

 

 

 

 ――あの。頼むから。

 真顔でフラグたてないでくれませんかね――。

 

 と。魔境の渦中、禍福は切に思わずにはいられなかった。

 

 

 

―――

――

 

 ――五条悟によって呪力というエネルギーは、海外諸国に認識された。

 

 昨今、日本人では海外への拉致被害が大量発生。それにより解決ノウハウのない海外で呪術案件が激増。

 

 

 

 その対処に、五条悟とその教え子一同は終始。

 祓っても祓っても呪霊の湧く東京23区は、封じ込めに留まった。

 

 

 

 ――天元抜きで、現東京結界を維持する結界師複数人。

 その防衛は、極度の人手不足。

 

 つまるところ。この任務は、呪術界のブラック体質が産んだ労災(しわよせ)

 

 新人研修兼、身内の不始末処理である――。

 





ネタバレ。もちろん伏黒も参戦せざるを得なくなります。



【オマケ①・五条先生、天坂鉾を勝手に貸した件】

 事は、電話口から伝えられた。

五条「ごめーん恵。天坂鉾の封印場所わすれてたけど~なんとっ。このたび無事に見つかりました! これで晴れて遺品三点セット揃い踏みだね、イェーイ!」
伏黒「は?」
五条「あーでも後輩にしばらく貸すことになったから。もーちょいお楽しみに待っててね、伏黒センパイ♪ ……ぷ、恵が、先ぱ……やば、大福むせそ」
伏黒(……この人、マジでどうしてくれようか)

 ちなみに、なんで忘れていたかというと。

 獄門疆に封印された際、
 瞑想に近い、記憶と意識の一部を捨てた状態でないと心が死んでいたから、
 という切実な理由だったり。

 それはそれとして、いっぺんいっぺん殴られるべきだろう。このバカ目隠し――。



【オマケ②・婪佳久ちゃんはジェネリック五条悟】

 白髪短髪の中性顔、強者、軽薄さと察しの良さ。
 なにかと共通する、婪佳久と五条悟ですが。

 決定的に違う点があります。

 呪いが汚いものとして見えているか。
 人の負の部分を感じとれるか、です。

 婪佳久は、軽薄であっても根明ではありません。

「役所は嫌いだけど、役所を困らすのが生き甲斐の人間はもっと嫌い」
「私、こんなバカみたいにはならないよ」

 と、悪意には悪意で返すスタンスを一貫してたら、
 結果的に善人側になってました、というような。

 憎悪を知っている五条悟モドキ。
 それが、婪佳久ちゃんなのです。



(それはそれとして五条の曇り顔は全部大好きです。

 過去編夏油の「私たち最強」が強がりなのに対し、
 学生五条の「俺たち最強だし」って、事実を言っただけ感ありませんか?

 意外と根っこがロジカルで、だからこそ夏油を問いただす時に理屈でしか言葉を返せない。こんな時に、どんな顔を見せればいいのかわからない。

 憎悪を知らない故に、泣き方を知らない子供のように、
 夏油への怒りと悲しみはひどくストレートに顔に出る。

 そういう幼稚な欠陥がある気がして、好きでした)
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