【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
夏油
対して、猪野・狗卷・石流が食い下がる。
――海賊客船が、崩れ去る。
悪名高き、日本海津々浦々から物資を奪い、人を奪い、一切合切を奪い去った害悪が滅び去る。
それを港から見て初めて、夏油
「うおー船が爆発してる! けどあの変な前髪の少年はどうなったんだ!?」
「いや見て! 何人か外に出てこっちに泳いで来てるわ!」
「ペットの子達もいる! すげぇ、俺たち以外も逃がせたのかよ!」
「命の恩人が帰ってくるぞ! おーいこっちだ! せめてお礼だけでも言わせてくr――」
大手を振って歓迎しようとする一同。
だが彼等は所詮、無辜の民。右も左もわからぬままに海賊に掻っ攫われ、気付けば生きたまま食材にされかけた哀れなる弱者――今は、それどころではないと気付けない。
「――『吹っ飛べ』!!」
「「「ぎゃーっ!」」」
よって、強制的に弾き出された。
手荒極まるが致し方なし。
無人となった港に、海を泳いで渡ったペット一同がどかどかと進軍する。
その群れの上、運ばれる形で狗巻もまた遠くに離脱する。
「よしいいぞ、そのまま離脱してくれ狗巻っち!」
「しゃけー!」
「灰原さんも、逃げるなら今しかな――」
「……」
狗卷を見送り、灰原へ向き直った猪野は息を呑む。
ずぶぬれの彼女は、ガタガタと震え、腰が抜けていた。
辛うじて這い上がれてこそいたが、これ以上動けるとは到底いい難く、
「言ってる場合じゃねぇ。もう来るぞ!」
もはやそう言ってもいられない。
石流は濡れたリーゼントを両手で整え、臨戦態勢で叫んだ。
――
「―― 反発” ”番いの流星”」
「「「!?」」」
振り向いた時には、既にその身は港に立っていた。
そして、空が切り裂かれていた。
甲高く、鼓膜を破りかねないほどの風切り。
今更斬られたと自覚した世界の絶叫。
その、縫い目のようにか細い合間――『日本大結界』の外へと睥睨を飛ばした、夏油
「チッ。
何事もなかったかのように、ポケットから手を出し、三人に振り返る。
「――口直しだ。構えろ、呪術師ども」
そう。たまたま余所見をしたに過ぎないとばかりの態度。
彼らは、ほんの気紛れで殺されなかったに過ぎない。ともなれば、
「ぅ、ぁぁあああ!」
「ばっ、灰原さん!? 待っ――!」
止める間もなく、灰原はやぶれかぶれに叫んで突っ込んでいた。
危険なのは本能で、無謀なのは理性でわかっていた。
考え出せば無理な理由などいくらでも湧く。
だから何も考えずに殴りかかった。
戦わずして危険からは抜け出せない、泳者として培われた条件反射。その結果、
「どけ。貴様なぞ呼んでおらん」
ジャブ感覚の、一体のみを使った『うずまき』で吹っ飛ばされる。
向かっていった体が、逆方向にまっすぐ弾け飛んで、積み重なったコンテナのひとつに叩き付けられる。
――生存特化の術式ゆえ、大ダメージではあるが一命はとりとめていた。
そこまでが彼女の限界であった。もう、恐怖で動けなくなっていた。
しかし、彼女の生死を知る間など、その場の石流・狩野にはなかった。
「ああ、安心しろ。貴様らに御廚子は使わん。ここはひとつ――
鬼に金棒なんて言葉では生ぬるい。
今の日本で最強の術式が、今の日本で最強の術師の手に収まったのだ。
その事実を前には、何もかもが些事――!
(なんだ今の。俺を斬った時とはワケが違う。あんなもんをやられたら、どんな頑丈でも関係ねえ!)
(なんで掌印がなかった。詠唱だけで撃てた!? そうか、『最後の指』だけは五条悟と戦ってない。呪術的には別人だから『縛り』がないのか!? しかし
「石流! あんたも一緒に――!」
呼びかけようとした狩野の声が途切れる。
石流は、目に見えて萎縮していた。
――『引くか。引かないのか』。
今際の際を想起し、彼は距離を取る事を選んでいた。
及び腰ながらも、遠距離攻撃を得意とする以上は必然であった。
「――いや、俺が前に出るんで! 援護頼んだ!」
「ああ、引いて撃つ! それっきゃねぇ!」
石流が飛び退き、狩野は前を向く。役割分担だ。
そもそも石流は高専術師でもなんでもない、巻き添えで殺されるリスクはある。が、承知した上で狩野は前へ出た。
「逃すと思うか?」
刹那。視野が暗く染まる。
青空を上塗り、瞬時に全方位へと広がる羽音――『揺蕩』によって。
「命ずる。喉笛を噛い千切れ」
「舐めやがって――石流!」
「やっぱ距離とって正解だったなぁ――『グラニテブラスト』!」
極太の呪力が一瞬で横へと奔る。
さながら大剣を振るったが如く、揺蕩の群れは半数が切り払われ、道半ばに爆ぜちった。
それでも、物量は覆らない。残り半数が狩野の首目掛けて突っ込んでくる。
(パンパンに膨らんだ風船みてえだ。過剰に呪力強化されてる――!)
狩野はナタをロープで括り、振り回し、斬撃を振り撒いて相対する。
単一の命令で攻めてくるだけならひたすらカウンターあるのみ。
――否。
(――揺蕩にこんな効果が!? いや違う、直撃しようがすまいが――!)
――この揺蕩は、祓われた後こそが本番だった。
単純な呪力強化だけではない。『消失反応』にも宿儺は呪力を付与していた。
狩野と石流に迎撃され、祓われた瞬間――文字通りの意味で、揺蕩は爆散する。
そして、揺蕩である以上――その爆撃は、一度では済まない。
「ふむ。これは中々、見栄えが良い」
狩野だけでなく、石流までをも飲み込んだ爆光の群れ。
その絨毯連鎖爆撃を一望し、宿儺は『まぁまぁだ』と嘆息する。
『
そう、見物を決め込んでいた彼の前に。
爆撃地帯を抜け出した狩野が、殴りかかる。
(危ねぇマジ死ぬかと思ったマジで俺宿儺と戦うのかよマジで――!?)
(――式神から堕した水のような呪力。迎撃でなく、受け流して相殺したというワケか)
「しかし、限度があろう?」
だが。一度で落とせぬなら二度やるまで。
羽音と共に広がる爆撃が、0距離で狩野を包み込む――否。
「いよっし、もらったァ!!」
「ほう?」
ここしかないと。狩野は己の足元を殴りつけた。
――来訪随従・二番『霊亀』。
体を覆う流体呪力の上、受け流した衝撃。
それらと全体重、全衝撃を乗せた拳で、猪野は地面を叩いた。
コンクリートの港を叩き割られ、亀裂が走り、宿儺の足元を含め――その瓦礫ひとつひとつが、呪力で爆ぜる。
そう。狩野の手には。ナタに巻きつけられてきた包帯――術式の刻まれた呪具がある。
「拡張術式――『
呪力強化された瓦礫が殴り飛ばされ。
揺蕩の群れを押し返し――もろとも宿儺に振りかかる。
爆発で視野が埋まり、消失反応で呪力探知も封殺され、なんなら足場を崩された。三つの悪条件を猪野は一度にぶつけていた。そして、
(狙い通り! 2018年の資料が正しければコレを宿儺は知らねえ――この隙を、突く!)
立体軌道。狩野は、自ら飛ばした瓦礫たちを足蹴に、飛び移って迫る。
――相手は宿儺の指5本相当、今や自分は一級術師。
最大威力で『7:3』を突けば、片腕を斬り落とすくらいはできるハズ。その狙いは正しかった――が。
「――いない!? どこだ。どこにいる!?」
いたはずの宿儺が、もうそこにはいなかった。
その体は、既に――上空30mに位置していた。
「そうか、七三術師の。悪くない発想ではあるが」
とんとんとんとんっ、と『空の面』を連続で蹴っての跳躍。
そう。三次元戦闘においては、宿儺が遥かに上手をいく。
「これで、奇襲のつもりか?」
再び空の面を蹴り、その身は直下に射出された。
消失反応と爆撃の坩堝へと飛び入る。
自由落下も相まって、踵は俊足にて狩野の首を捉え、断頭に至る――間際。
「――『グラニテブラスト』ぉ!」
「チッ」
「ぶねぇ!?」
超高出力呪力放出に吹き飛ばされた。着地を狙った一射。
巻き込まれるギリギリで狩野は脊髄反射で逃れ、直撃した宿儺は身を転がす。
(呪力の『起こり』を感じ取れなかった。揺蕩の消失反応のせいか。ヤツが爆撃を耐えているのは当然として――)
「――『動くな』」
体制を立て直すと同時。探知できないほどの遠くから、拡声器越しに声が響いた。
「そうくるだろうな。俺に隙を作り、呪言を通す。それしか勝算はあるまい」
宿儺は耳から脳に至るまでを、常に呪力強化して防いでいた。
ジャストガードが望めぬ以上、そうせざるを得なかった。
――今回の宿儺は、無理やり夏油
宿儺の動きが止まれば、肉体の主導権を奪い返されかねない。
(想定より呪力を使わされている。この体では術師としての強度が低いうえ――術式を解除できない呪言師ともなれば『起こり』で予見できん)
――だから、どうした。
探知できないはずの呪言師に睥睨を飛ばしながら、彼は嘆息した。
負けるわけがない。たとえそうなっても夏油
この程度の条件で――遊びを止めるつもりはない。
「みーつけたっ! やっぱ奇襲でも無理かよクソッ! また余所見してんじゃねえぞ宿儺サマ!」
狩野が再び接近する。
彼は何がなんでも唯一の前衛として、宿儺を足止めせねばならないからだ。
(今は少しでも喰らいつけ、二人のアシストを決定打にできるかは俺次第!!)
(イレギュラーは『うずまき』で抽出した呪霊の術式による領域展開だが、考えるだけ無駄だ! これ以上の条件は望めな――アレは!)
故に、彼は、いの一番にそれを見た。
「いいだろう。次といこう」
宿儺によって生じた呪霊、獣の形をしたそれら複数体が――一瞬にして、『解』で切断され。
「下拵えはこれでよいな――合体だ」
命ずるまま、合わさった。
必要とされた部位同士が、綺麗な断面同士でピッタリと合わさって、呪霊の核が統合され、ひとつになった。
それは――猿、狸、虎、蛇――以上の身体的特徴をもつ低級の『物の怪』の要素を複合した、
「――『
十種影法術のそれとは異なり、より伝承に寄った形をとる、
投稿が遅れました。申し訳ない。
次回は29日です
【補足①】宿儺の揺蕩爆撃
宿儺に過剰呪力強化された揺蕩が突っ込んでくる。
直撃すれば当然大ダメージ。
迎撃しようにも、わずかな刺激で破裂するクソ択の押しつけ。
消失反応自体に呪力が付与されており、どう転んでも連鎖爆撃に発展し、相手を視覚封鎖・呪力探知無効化においやる。
なお、自分の呪力で傷付くわけがないため、この爆撃の中でも宿儺だけはノーダメで動きたい放題。
ぶっちゃけ揺蕩爆撃を敷いて、上から質量攻撃するだけで基本勝てる。
(今回はその場の勢いで船を粉微塵にしてしまったせいで出来ない)
【補足②】狗卷の「呪言」はいつ飛んでくるかわからない
モジュロにて、任意でオンオフできる「呪言」が描かれましたが、本作ではオフにできない「呪言」だからこその利点を設定しました。
オフができないということは、常に術式が発動しているということです。
よって、術式発動を感知した瞬間だけ防ぐ、という対応は宿儺でさえできません。
となると、呪力を耳の防御に一定以上割き続けるしかなく、100%で戦う事ができなくなります。「いるだけで強い」のが、一級術師・狗卷棘です。