【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
夏油(かおる)に受肉し、7年越しに宿儺は暴れ出す。
対して、猪野・狗卷・石流が食い下がる。



第2部 27話『環縫』

 

 ――海賊客船が、崩れ去る。

 悪名高き、日本海津々浦々から物資を奪い、人を奪い、一切合切を奪い去った害悪が滅び去る。

 

 それを港から見て初めて、夏油(かおる)によって逃がされた生き残りは歓声をあげた。己が解放されたのだと理解した。

 

 

 

「うおー船が爆発してる! けどあの変な前髪の少年はどうなったんだ!?」

 

「いや見て! 何人か外に出てこっちに泳いで来てるわ!」

 

「ペットの子達もいる! すげぇ、俺たち以外も逃がせたのかよ!」

 

「命の恩人が帰ってくるぞ! おーいこっちだ! せめてお礼だけでも言わせてくr――」

 

 

 

 大手を振って歓迎しようとする一同。

 だが彼等は所詮、無辜の民。右も左もわからぬままに海賊に掻っ攫われ、気付けば生きたまま食材にされかけた哀れなる弱者――今は、それどころではないと気付けない。

 

 

 

「――『吹っ飛べ』!!」

 

「「「ぎゃーっ!」」」

 

 

 

 よって、強制的に弾き出された。

 手荒極まるが致し方なし。

 

 無人となった港に、海を泳いで渡ったペット一同がどかどかと進軍する。

 その群れの上、運ばれる形で狗巻もまた遠くに離脱する。

 

 

 

「よしいいぞ、そのまま離脱してくれ狗巻っち!」

 

「しゃけー!」

 

「灰原さんも、逃げるなら今しかな――」

 

「……」

 

 

 

 狗卷を見送り、灰原へ向き直った猪野は息を呑む。

 ずぶぬれの彼女は、ガタガタと震え、腰が抜けていた。

 辛うじて這い上がれてこそいたが、これ以上動けるとは到底いい難く、

 

 

 

「言ってる場合じゃねぇ。もう来るぞ!」

 

 

 

 もはやそう言ってもいられない。

 石流は濡れたリーゼントを両手で整え、臨戦態勢で叫んだ。

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「―― 反発” ”番いの流星”」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 振り向いた時には、既にその身は港に立っていた。

 そして、空が切り裂かれていた。

 

 甲高く、鼓膜を破りかねないほどの風切り。

 今更斬られたと自覚した世界の絶叫。

 

 その、縫い目のようにか細い合間――『日本大結界』の外へと睥睨を飛ばした、夏油(かおる)――否。宿儺は。

 

 

 

「チッ。()()()()()()()()()()()()()()()()つくづく不愉快だ。蠱毒の壺に徹し、傍観に徹し。これで後追いのつもりとは、先が知れる……」

 

 

 

 何事もなかったかのように、ポケットから手を出し、三人に振り返る。

 

 

 

「――口直しだ。構えろ、呪術師ども」

 

 

 

 そう。たまたま余所見をしたに過ぎないとばかりの態度。

 彼らは、ほんの気紛れで殺されなかったに過ぎない。ともなれば、

 

 

 

「ぅ、ぁぁあああ!」

 

「ばっ、灰原さん!? 待っ――!」

 

 

 

 止める間もなく、灰原はやぶれかぶれに叫んで突っ込んでいた。

 危険なのは本能で、無謀なのは理性でわかっていた。

 考え出せば無理な理由などいくらでも湧く。

 だから何も考えずに殴りかかった。

 戦わずして危険からは抜け出せない、泳者として培われた条件反射。その結果、

 

 

 

「どけ。貴様なぞ呼んでおらん」

 

 

 

 ジャブ感覚の、一体のみを使った『うずまき』で吹っ飛ばされる。

 向かっていった体が、逆方向にまっすぐ弾け飛んで、積み重なったコンテナのひとつに叩き付けられる。

 

 ――生存特化の術式ゆえ、大ダメージではあるが一命はとりとめていた。

 そこまでが彼女の限界であった。もう、恐怖で動けなくなっていた。

 

 しかし、彼女の生死を知る間など、その場の石流・狩野にはなかった。

 

 

 

「ああ、安心しろ。貴様らに御廚子は使わん。ここはひとつ――呪霊操術(これ)で遊ぼう。それも準一級以下のみでな」

 

 

 

 鬼に金棒なんて言葉では生ぬるい。

 今の日本で最強の術式が、今の日本で最強の術師の手に収まったのだ。

 

 その事実を前には、何もかもが些事――!

 

 

 

(なんだ今の。俺を斬った時とはワケが違う。あんなもんをやられたら、どんな頑丈でも関係ねえ!)

 

(なんで掌印がなかった。詠唱だけで撃てた!? そうか、『最後の指』だけは五条悟と戦ってない。呪術的には別人だから『縛り』がないのか!? しかし()()()()()()撃った! 何が見えてるんだ宿儺には!?)

 

「石流! あんたも一緒に――!」

 

 

 

 呼びかけようとした狩野の声が途切れる。

 石流は、目に見えて萎縮していた。

 

 ――『引くか。引かないのか』。

 

 今際の際を想起し、彼は距離を取る事を選んでいた。

 及び腰ながらも、遠距離攻撃を得意とする以上は必然であった。

 

 

 

「――いや、俺が前に出るんで! 援護頼んだ!」

 

「ああ、引いて撃つ! それっきゃねぇ!」

 

 

 

 石流が飛び退き、狩野は前を向く。役割分担だ。

 そもそも石流は高専術師でもなんでもない、巻き添えで殺されるリスクはある。が、承知した上で狩野は前へ出た。

 

 

 

「逃すと思うか?」

 

 

 

 刹那。視野が暗く染まる。

 青空を上塗り、瞬時に全方位へと広がる羽音――『揺蕩』によって。

 

 

 

「命ずる。喉笛を噛い千切れ」

 

「舐めやがって――石流!」

 

「やっぱ距離とって正解だったなぁ――『グラニテブラスト』!」

 

 

 

 極太の呪力が一瞬で横へと奔る。

 さながら大剣を振るったが如く、揺蕩の群れは半数が切り払われ、道半ばに爆ぜちった。

 それでも、物量は覆らない。残り半数が狩野の首目掛けて突っ込んでくる。

 

 

 

(パンパンに膨らんだ風船みてえだ。過剰に呪力強化されてる――!)

 

 

 

 狩野はナタをロープで括り、振り回し、斬撃を振り撒いて相対する。

 単一の命令で攻めてくるだけならひたすらカウンターあるのみ。

 

 ――否。

 

 

 

(――揺蕩にこんな効果が!? いや違う、直撃しようがすまいが――!)

 

 

 

 ――この揺蕩は、祓われた後こそが本番だった。

 単純な呪力強化だけではない。『消失反応』にも宿儺は呪力を付与していた。

 狩野と石流に迎撃され、祓われた瞬間――文字通りの意味で、揺蕩は爆散する。

 

 そして、揺蕩である以上――その爆撃は、一度では済まない。

 

 

 

「ふむ。これは中々、見栄えが良い」

 

 

 

 狩野だけでなく、石流までをも飲み込んだ爆光の群れ。

 その絨毯連鎖爆撃を一望し、宿儺は『まぁまぁだ』と嘆息する。

 

 『(カミノ)』ほどではないにせよ、揺蕩は無尽蔵。ノーコストの飽和攻撃としては悪くない。安直な思いつきの割には破格とさえ言える。

 

 そう、見物を決め込んでいた彼の前に。

 

 

 

 爆撃地帯を抜け出した狩野が、殴りかかる。

 

 

 

(危ねぇマジ死ぬかと思ったマジで俺宿儺と戦うのかよマジで――!?)

 

(――式神から堕した水のような呪力。迎撃でなく、受け流して相殺したというワケか)

 

「しかし、限度があろう?」

 

 

 

 だが。一度で落とせぬなら二度やるまで。

 羽音と共に広がる爆撃が、0距離で狩野を包み込む――否。

 

 

 

「いよっし、もらったァ!!」

 

「ほう?」

 

 

 

 ここしかないと。狩野は己の足元を殴りつけた。

 

 ――来訪随従・二番『霊亀』。

 体を覆う流体呪力の上、受け流した衝撃。

 それらと全体重、全衝撃を乗せた拳で、猪野は地面を叩いた。

 

 コンクリートの港を叩き割られ、亀裂が走り、宿儺の足元を含め――その瓦礫ひとつひとつが、呪力で爆ぜる。

 

 そう。狩野の手には。ナタに巻きつけられてきた包帯――術式の刻まれた呪具がある。

 

 

 

「拡張術式――瓦落瓦落(ガラガラ)』!」

 

 

 

 呪力強化された瓦礫が殴り飛ばされ。

 揺蕩の群れを押し返し――もろとも宿儺に振りかかる。

 

 爆発で視野が埋まり、消失反応で呪力探知も封殺され、なんなら足場を崩された。三つの悪条件を猪野は一度にぶつけていた。そして、

 

 

 

(狙い通り! 2018年の資料が正しければコレを宿儺は知らねえ――この隙を、突く!)

 

 

 

 立体軌道。狩野は、自ら飛ばした瓦礫たちを足蹴に、飛び移って迫る。

 

 ――相手は宿儺の指5本相当、今や自分は一級術師。

 最大威力で『7:3』を突けば、片腕を斬り落とすくらいはできるハズ。その狙いは正しかった――が。

 

 

 

「――いない!? どこだ。どこにいる!?」

 

 

 

 いたはずの宿儺が、もうそこにはいなかった。

 その体は、既に――上空30mに位置していた。

 

 

 

「そうか、七三術師の。悪くない発想ではあるが」

 

 

 

 とんとんとんとんっ、と『空の面』を連続で蹴っての跳躍。

 そう。三次元戦闘においては、宿儺が遥かに上手をいく。

 

 

 

「これで、奇襲のつもりか?」

 

 

 

 再び空の面を蹴り、その身は直下に射出された。

 消失反応と爆撃の坩堝へと飛び入る。

 自由落下も相まって、踵は俊足にて狩野の首を捉え、断頭に至る――間際。

 

 

 

「――『グラニテブラスト』ぉ!」

 

「チッ」

 

「ぶねぇ!?」

 

 

 

 超高出力呪力放出に吹き飛ばされた。着地を狙った一射。

 巻き込まれるギリギリで狩野は脊髄反射で逃れ、直撃した宿儺は身を転がす。

 

 

 

(呪力の『起こり』を感じ取れなかった。揺蕩の消失反応のせいか。ヤツが爆撃を耐えているのは当然として――)

 

「――『動くな』」

 

 

 

 体制を立て直すと同時。探知できないほどの遠くから、拡声器越しに声が響いた。

 

 

 

「そうくるだろうな。俺に隙を作り、呪言を通す。それしか勝算はあるまい」

 

 

 

 宿儺は耳から脳に至るまでを、常に呪力強化して防いでいた。

 ジャストガードが望めぬ以上、そうせざるを得なかった。

 

 ――今回の宿儺は、無理やり夏油(かおる)の肉体を奪っている状態だ。

 宿儺の動きが止まれば、肉体の主導権を奪い返されかねない。

 

 

 

(想定より呪力を使わされている。この体では術師としての強度が低いうえ――術式を解除できない呪言師ともなれば『起こり』で予見できん)

 

 

 

 ――だから、どうした。

 探知できないはずの呪言師に睥睨を飛ばしながら、彼は嘆息した。

 

 負けるわけがない。たとえそうなっても夏油(かおる)に戻るだけのこと。

 

 この程度の条件で――遊びを止めるつもりはない。

 

 

 

「みーつけたっ! やっぱ奇襲でも無理かよクソッ! また余所見してんじゃねえぞ宿儺サマ!」

 

 

 

 狩野が再び接近する。

 彼は何がなんでも唯一の前衛として、宿儺を足止めせねばならないからだ。

 

 

 

(今は少しでも喰らいつけ、二人のアシストを決定打にできるかは俺次第!!)

 

(イレギュラーは『うずまき』で抽出した呪霊の術式による領域展開だが、考えるだけ無駄だ! これ以上の条件は望めな――アレは!)

 

 

 

 故に、彼は、いの一番にそれを見た。

 

 

 

「いいだろう。次といこう」

 

 

 

 宿儺によって生じた呪霊、獣の形をしたそれら複数体が――一瞬にして、『解』で切断され。

 

 

 

「下拵えはこれでよいな――合体だ」

 

 

 

 命ずるまま、合わさった。

 必要とされた部位同士が、綺麗な断面同士でピッタリと合わさって、呪霊の核が統合され、ひとつになった。

 

 それは――猿、狸、虎、蛇――以上の身体的特徴をもつ低級の『物の怪』の要素を複合した、

 

 

 

「――『(ぬえ)』」

 

 

 

 十種影法術のそれとは異なり、より伝承に寄った形をとる、合成獣(キメラ)の誕生であった。

 




投稿が遅れました。申し訳ない。
次回は29日です



【補足①】宿儺の揺蕩爆撃

 宿儺に過剰呪力強化された揺蕩が突っ込んでくる。

 直撃すれば当然大ダメージ。
 迎撃しようにも、わずかな刺激で破裂するクソ択の押しつけ。

 消失反応自体に呪力が付与されており、どう転んでも連鎖爆撃に発展し、相手を視覚封鎖・呪力探知無効化においやる。

 なお、自分の呪力で傷付くわけがないため、この爆撃の中でも宿儺だけはノーダメで動きたい放題。

 ぶっちゃけ揺蕩爆撃を敷いて、上から質量攻撃するだけで基本勝てる。
(今回はその場の勢いで船を粉微塵にしてしまったせいで出来ない)



【補足②】狗卷の「呪言」はいつ飛んでくるかわからない

モジュロにて、任意でオンオフできる「呪言」が描かれましたが、本作ではオフにできない「呪言」だからこその利点を設定しました。

オフができないということは、常に術式が発動しているということです。
よって、術式発動を感知した瞬間だけ防ぐ、という対応は宿儺でさえできません。

となると、呪力を耳の防御に一定以上割き続けるしかなく、100%で戦う事ができなくなります。「いるだけで強い」のが、一級術師・狗卷棘です。
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