【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
なぜか『宿儺の指』5本相当のパワーで襲いかかる、最後の『宿儺の指』にとっとられた夏油
石流・猪野・狗卷はこの危機を乗り越えられるのか……?
――『
獣の身体部位を持つ低級呪霊4体を、宿儺が切り分け、統合した合成呪霊。
素体は不要部位を削がれ、有用と判断した部位だけを利用される。
知能はあってもフィジカル不足だった猿は、頭だけを使われた。爪だけは立派な張子の虎は、爪のみを。蛇足の呪霊は足を失い――使える部位だけを組み合わされた、ソレは。
一級術師・狩野琢真を凌駕していた。
「ぐぁ!? 重ッッッも!?!?」
血を吐き、狩野は好き勝手に転げ回される。
噛みつかれたらいよいよ詰みだ。ダメージの中でも足を止める事は許されない。『
フィジカルの完成度、獣と人体の膂力差、なにより宿儺からの過剰呪力強化――単純な殴り合いでは打ち勝てる要素がない!
(継ぎ目に『7:3』をぶち当てて分解できりゃよかったが、こりゃあムリだ! 弱点なだけに念を入れて呪力で補強されてる。なにより――!)
「――貴様こそ、余所見が多いようだが?」
付け入る隙などなかった。
――シン・陰流『簡易領域』。
認識する間もなく懐に踏み入ってくる宿儺を、
筋繊維が断絶し体が軋むが、『
対して、宿儺が持ち出したのは、
「――ッ、ぐぇ!? せっこ! せっこい真似しやがって!!」
呪霊の、ハンマーだった。
どういう原理か、彼は低級呪霊を加工し、即席の呪具に仕立て上げていた。
そして低級呪霊は、その存在強度の弱さから、物体をすり抜けることがある。
その性質を利用し――
(チッ。思いつきではこんなものか。今どき甲冑を着込むわけもなし。普通に殴った方が早いな)
「どうした? 貴様が倒れれば次は呪言師だぞ。そうら、頑張れ、頑張れ!」
そう。これはもはや、単なる虐めであった。
ハンマーを受ければ背後から鵺に襲われる。鵺に対応すれば宿儺に潰される。どう転んでも殴られ、削られる。
宿儺が常に近接を選ぶ以上、『グラニテブラスト』は狩野の巻き添えが前提となり、現状打開にはなり得ない。
相手が相手。逃れる術などない。
このまま殴殺される以外の道はなかった。
――なのに、その男は。
「は、はは。そうだ、そうだよなぁ――がんばん、なきゃだよなぁ! 俺は、任されてんだからよぉ!!」
「――ほう?」
笑っていた。喜んで、その逆境を受け入れていた。
式神『
致命傷だけは回避して、少しでも長く殴られ続けられるために、肉と血を差し出す。
「俺は、肝心の時に役立てなかった。任された後輩ちゃんズになんにもできなかった――けど! 今は違う! 俺は! こうして立てている、戦えてる!」
――そうだ。これは彼にとって理不尽な死ではない。恐れる理由などどこにもない。
あの時とは違う。真正面から「お前を殴り殺す」と言った上でやってくれるのだ、いっそ親切でさえある。
それに――!
(ここで引くわけにはいかねぇ! 七海さんなら、絶対に引かねえ!)
まだ足掻ける。まだ動ける。
潰され、小さくなっていく体で。たとえ弄ばれる道化に過ぎないとしても。
(この騒動じゃ死人も生き帰るかもしれないんだ。どこかで見てくれてるかもしれないんだ。あの人は不謹慎だって言われるかもしれないけど――今度こそ、あの人に胸張って会うために!)
骨の刺さった肺で血を叫ぶ。
落ちようとした膝が、殴られて浮き上がる。
鈍痛に叩き起こされ、歓喜する。
「ここで! 引け、ねェんだよぉおお!!」
一級術師として。彼はそのナタを手放さない。
「――飽きた。もうよい」
その蛮勇は、しかし当然の結末として、『鵺』が剥く牙を前になす術なく――。
「――む?」
呪力出力の前に、なす術なく。
彼の拳ひとつで、『鵺』が叩き潰され、祓われていた。
「……ふむ。まぁ、有り合わせではこんなものか」
「バッ、おま、なんで前に――!」
宿儺は肩を顰め、ハンマーを手放す。
体力が底をつき、崩れ落ちた狩野は彼を見上げた。
「……あー、……やっぱシケってやがるか。畜生め」
そこには、タバコを吐き捨て、踏み潰し。
――己の心臓を叩く、男がいた。
「そうさ――理屈じゃねぇ。死因が克服できてねぇからなんだってんだ」
分厚い胸板が震わされ、大気は振動する。
彼の胸中には未だ恐怖があった。貫かれた死の冷たさが芯に残っていた。目の前の死神はその鎌を気紛れに振るわずにいるだけだ。だが、
「ありがとよ、イノタク。思い直せたぜ」
自分より遥かに若く弱い、泥臭い男の奮戦が――石流龍の、心を溶かした。
「――胸ん中のSweetを押し殺すなんざ、漢じゃねェだろ!」
「――フッ」
宿儺の、揺蕩爆撃が炸裂する。
ただの『消失反応に呪力を付与』した揺蕩ではない。『うずまき』で抽出した術式――『音に呪力を乗せて飛ばす』、楽巌寺嘉伸と同タイプの効果が付与されていた。
羽音、断末魔、『ザブッ』という消失音。
その全てが攻撃力を持ち、大群する絨毯爆撃を。
「しゃあっ!」
(――何?)
一瞬で踏破し、石流は宿儺の懐に飛び込んでいた。
目の前に迫る拳、四つ眼が怪訝に歪む。
(やっとわかった。
(何故だ。殺す気で撃った。少なくとも無傷でいられるわけが――)
宿儺の想定とズレた状況変化。
防御体制をとり、宿儺は分析を選択する。
――間違いだった。
「
(――! この『起こり』は!)
花火が、瞬く。
一撃は撃鉄の如く。盛大に光を散らし、世界を染める――黒い女神の微笑みが。
「――『黒閃』ッ!!!」
第一次における最高呪力出力保持者の、拳に宿った。
―
――
―――
宿儺が宿る夏油
拳を受けた右腕は肘が折れ、血を噴き、威力を受け止めきれず転げ回る。
(……耳の呪力強化は維持できた。しかし体重が軽い。踏ん張りが効かん。餓鬼の体ではこんなものか)
転がる最中に『空の面』を見出し、足をかける。
体制を立て直すため、いったんは上空に逃れようとした。が、
「――『グラニテブラスト』」
「チッ!」
中断せざるを得なかった。
頭上を掠めた呪力放射がそれを許さない。受け身をとって立ち直るに留まる。そして、
「ハッハァ! デザートは別腹、ガツガツいこーかッ!」
通り過ぎた光線の向こうから、飛びかかった石流の拳がまたも迫る。
宿儺は反転術式で復活させた片手で受け止め、握り返し。
――互いに、空いた
「ああ。考えてみりゃそーだ。なんで俺は黙ってお行儀よくしていられたんだ――生涯手のかかるハズがない上物にありつけるとか、激アマじゃねーかッ!!」
何かに取り憑かれたように生き急ぐ石流の攻撃。
その怒涛の勢いを、宿儺は技巧によって捌いていた。
(流石は宿儺! 純粋な格闘能力じゃ向こうが上! ゾーン状態でもなきゃ殴り合えねえな!)
(流石に呪力出力では押し負けるな。いや、それ以前だ――肉体の差が開き切っている)
――夏油
しかし、その肉体はあくまで14歳、中学二年生の、発育途上の少年だ。
基礎技能を突き詰めた石流――鍛え抜かれた成人男性を相手取るうえで。
絶対的に、覆せない
ボクシングを極めても相撲取りを倒せるわけではない。
――殴り合いでは、勝てない。
(かと言って、距離は取れん。先程の『グラニテブラスト』が俺とヤツの周囲を旋回し続けている。元より初撃であれば魔虚羅を屠れるだろう威力だ。加速し切った
「――『うずまき』」
格闘の最中、宿儺は飛び道具を至近距離で放つ。
装填されたのは、準一級が一体と二級下位が64体。
射出までの工程を宿儺の技量で省略でき、速射できる限界値。対して、
「しゃらくせぇッ!」
石流は、真正面からそれを受け切り、一歩も引かずに殴りかかる。
そう――『領域展延』だ。
石流龍の術式効果は極めて単純な『呪力の放出』。
焼き切れてなお同等のパフォーマンスを発揮する。故に。
――『領域展延』のデメリットが、石流龍には発生しない。
(成る程。元の硬さに、このダメ押し。道理で無傷なわけだ。だが――)
「――領域展開」
それがどうした、宿儺は嗤っていた。
『うずまき』の詠唱と同時、関節技によって拘束を脱し、解放された両手で掌印が組まれる。
抽出した術式――準一級疾病呪霊『
彼は
宿儺の技量にかかれば、この僅かな時間で、プロセスを省略し領域を構築できる――。
ただし、
「――『動くな』!」
(――、やはりか)
それは、全神経全呪力を領域構築に費やせた場合の話だ。
間隙を縫って耳に差し込まれる、狗巻棘の『呪言』。
その回避に宿儺の呪力は費やされ、
「――今だ! 出し切れ石流!」
激突する『
「0距離、200%ぉ――!」
宿儺は見上げる。
彼は見下ろす。
0.01秒の空白が生じていた。
如何にプロセスを省略しようとも、必中のみの領域に機能を限定しようとも、領域展開である以上は埋められない時間があった――『大砲』の速射性を前には、尚更の事。
それも両手で
「――『グラニテブラスト』ぉおおッ!!」
比喩でなく、海が裂かれていた。
港の地面を瞬時に気化させ、水柱の大飛沫が高々と舞い上がる。
宿儺は領域展開を解除、構築した結界にあえて術式を付与せず、『領域展延』に転用――その
夏油
「すうっ――――『起きろ』ぉッ!!」
(……時間切れだな)
それらは、決定打に昇華された。
光線が消えると同時、肉体の自我は復活を始め――ニョキニョキっと、夏油
(まったく、なんなのだこの体は。俺が肉体を奪った時には、消し飛んだハズの両腕が既に治っていた。反転術式による治癒ともまた違う――)
まぁいい、と宿儺は笑い、黒い呪印が薄れ、不出来な器の奥へと沈んでいく。
「これはこれで愉しめたぞ――羂索」
などと。過去最悪の呪詛師の名を、口にしながら――。
―
――
―――
――魂の奥。宿儺の生得領域の最中。
置き去りにされ、事の顛末を見ているしかできなかった少年は――悔し涙に塗れていた。
「クソ……くそッ、畜生! 何もできなかった。何も――アイツは、宿儺は、あんな化け物だったのか。オレは、生きてていいのか!?」
灰原結を殺しかけた。
狩野琢真を、狗巻棘を。
数奇な出会いで得た仲間を、この手自らで潰そうとしていた事実。自分の体を駆け巡った凶悪極まる殺人能力に恐れ慄いていた。
「――不愉快だ。坊主、さっさと戻れ」
「――ッ!」
顔を上げる。正真正銘、呪いの王だったモノが、骨の山の上から見下ろしていた。
自分と同じ面の男が、冷徹な面相で頬杖をついて、如何に自分とは別物かを突きつけていた。
こいつがあのまま暴れていたら、想像するだけで恐ろしい――。
「本当だったんだな。呪いの王サマってのは。じゃあ――この強さをオレのモノにできたら! 最強に近づけるって、そういう事なんだな!?」
そう、正しく怖がり、涙と鼻水を垂れ流しながらも。
その少年は、そんな自惚れたような台詞を、口にする。
「いや! オレはそうならなきゃならない! 誰であろうと助け出せる。どんな敵にも勝てる。今知った強さを、一欠片でも食らって強くなる――そうでないと顔向けできねぇ。オレが、生きてていい理由がないッ!」
そう宣言し、顔を手で拭い、背を向け走り出す。
子供の癇癪同然の一人問答、普段では聞き流すだろう妄言だった。が、
(どいつもこいつも――不撓不屈か。存外、誰しもがそうなのかも知れんな)
己が死に様を定めた男達を見た。所詮は、山と屠ってきた相手のひとつ、歯牙にもかけぬ雑魚に過ぎない。
この坊主とて、歩む先は弱肉強食だ。戯言のまま終わるか、或いは――。
「――やってみせろ。やれるものなら、な」
どちらに転ぼうと、一向に構わないが。
精々、味気ない終わりを拒み、足掻く様を見下ろすとしよう――。
―
――
―――
石流龍は、その港を後にした。
狗卷棘によって呼び出された高専補助監督が到着するまでの間、彼は重傷を負い気絶した猪野琢真・灰原結を応急手当し、そしてあっさりと立ち去っていった。
「報酬? んなもんいらね――いや、嘘つくとこだった。煙草と、ワックスってヤツをくれ。あればっかは、いくらあっても足りねぇんだ」
乙骨によろしく、とだけ言い残し、煙草の煙は尾を引いていく。
散らした髪は整えられ、次なる戦いを待つ。
海の煌めきを背に、四百と十一年の渇望を胸に。
彼は、今後もその身を駆り立て行く事だろう――。
「――おーい! お~~い!!」
「……あん? ……なんだ、呪骸か」
一度、立ち去る前に海を振り返えるも、それきりだった。
現場に頭を抱える補助監督にも、しばらく、ソレは目に入らなかった。
「お~い、忘れてるぞ~! 誰か、誰か見てくれ~!!」
――第二次・死滅回游において、海は呪霊の楽園である。
2025年現在、第一次と異なり、『日本大
必然、呪霊発生が多発。血で血を洗う共食いによる弱肉強食のピラミッドが構築され、深くに潜るほど強力な個体が潜んでいる。
故に――溺れたら、一巻の終わりである。
「うおおお何が弱肉強食だァ! こちとら文字通り雑魚にも敵わないんだぞ! もうワタ湿りまくってんだぞ!」
それ以前の問題だった。
波にさらわれ、鳥に狙われないよう必死に足掻く始末。
悲しいほどの非力、そして悲運。
「誰か~! 俺を見つけてくれよぉ~! すごいんだぞ! ほら! パンダは、泳げるんだぞー!!」
当の本人はしごく真面目で必死なのだが――それでも可愛らしい光景に見えてしまうのは、ひとえに
これしか思いつかなかったとはいえ、サブタイの法則が乱れてきました。
渋谷事変とか新宿決戦とか仙台結界みたいに①②って感じにしようかな…。
次回は未定です。来週出せる以前にストーリーが定まりきっておらず、リアルの多忙さが悪化してます。
場つなぎがてら、第一部のオリ主・オリヒロイン(禍福と婪佳久)の日常回を挟む事になるかも知れません。需要あるかは知らん。
アニメ石流の声がエッジランナーズのメインですごい嬉しかったです。
せめてこの回だけでも知った後に書けてよかった。