【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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第二次・死滅回游によって失われた夏の一欠片。
男女オリ主のみの日常回です。
読まなくても本編は楽しめますが、キャラの掘り下げが欲しい方はぜひ読んでください。



第1.5部 禍福と婪佳久の日常話
備忘録① 2025年6月28日


 

「――わたし、海嫌い」

 

 街道にて。今にも蜃気楼に溶け入りそうな、白い少女が毒を吐いた。

 

「なんでだ?」

 

「だってさぁ。海水って臭いし、砂浜鉄板だし、日ぃ強すぎて肌壊れるし! わたし色素ないから白飛びして否応にもクソ目立つし! それになにより、下手に焼きそばとかカレーが食べれないのです。海の家でさえ安息がないのです!」

 

 己の周囲全て、暑さと眩しさと湿気の全てに少女は不満だった。

 無理もない。隣を歩く少年の日傘がなければ、その色素の抜け落ちた痩身には日射なんて苛烈すぎる。なんなら白飛びしかねない。

 

 ――それだけに、

 

「めちゃくちゃ嫌だらけじゃないか。……よくそんなんで、海行きたいとか言い出せたなお前」

 

「うん。行きたい。行きたくないけど一度くらい行きたい。だって夏だから」

 

 なんで分かりきった苦手分野に飛び込むんだよ、お前は――と、呆れ半分の少年は。

 

 他ならぬ彼女にズルズル引きずられ、過剰に冷房の効いた大型ショッピングモールへと押し込まれたのであった。

 

 

 

――

―――

 

 

 

 言い出しっぺの少女――婪佳久(らんかく)は、夏休みの宿題を最後に慌ててやりだす性格に違いない。

 

 人であふれる店内を、二人は並んで歩いていた。その喧騒の中にあっても、彼ら二人は明らかに目立っていた。

 

 

 

「で、そーゆー禍福はどうなのさ。海得意?」

 

「俺だって不得意だ。夏なら海より山に行く。波やら砂やらで足元が不安だと落ち着かねぇんだよ。術式的に」

 

「ふーん。言われてみれば、禍福の立ち歩きって真希さんみたくヤバいもんね。タンスに小指ぶつけたりしなさそう」

 

 

 

 まず少年――禍福はガタイがヤバい。

 高専最速は伊達ではない。どう考えても高校生の体格ではない。

 

 薄手のTシャツの下に潜む筋肉は、余計な脂肪を一切許さない機能美そのものだった。


 浮き出た肩幅、胸板、腕のライン。安定した重心の取り方。どれをとってもモノが違う。

 

 日本刀の如き、しなやかな強靭さがそこにあった。

 

 

 

 対して、婪佳久はというと――。

 

 

 

「そりゃお前が不用心すぎるだけだ。なんで日常生活でアザ量産できるんだよ。そんなんだから呪具(はもの)禁止されてんだぞ」

 

「あっ今日なんか肘打ってたんだよね。ほらここ」

 

「見せんな。写真送るな。いちいち報告すんな」

 

 

 

 ――体幹が終わっている。

 

 隣で歩けば、差は歴然だ。普段からして車酔いしやすいあたり三半規管も弱い。

 ゆったりと着崩されたオーバーサイズシャツの下、ショートパンツから伸びる脚の長さが、悪い意味で仕事をしすぎている。加えて身長163という相乗効果。

 

 白い、細い、そして薄い。もはや血色すら怪しい。店内の照明の下で溶け込みそうなほどだ。これが呪術師の務まる体なのだろうか?

 

 禍福にはわからない。コイツのどこから、こうも長々ほっつき歩ける体力が湧いているのだろうか――。

 

 

 

「つうか、これは前から思ってた事だが。お前やたらと俺を連れ回しがちじゃないか?」

 

「はて?」

 

 

 

 聞いてみれば図星だった。

 

 かれこれ二ヶ月、安曇野禍福の休日はこの調子だ。元から筋トレしかやる事がないので別にいいんだが。

 

 ――なお、そう言いつつも禍福は誘われなかった日に少々不機嫌になるのだが、それはさておき――。

 

 

 

「はて、じゃねぇ。それだけじゃないぞ。たまにわざわざ俺からやたら離れて、遠巻きに見物している事もある。あれなんなんだ、反応試してるのか?」

 

「……バレてた?」

 

「バレバレだ。どんだけ連れ回されたと思ってんだ」

 

「む……いいでしょう。なら逆に聞いてあげようじゃない」

 

 

 

 足が止まる。

 彼が質問を質問で返すな、と言おうとする前に、白い指が目の前に立てられる。

 

 

 

「クエスチョン。禍福にとって、わたしといて周りの人にチラチラ見られがちになるのは気持ちいいでしょーか。はい、イエスかノーか。半分はなし」

 

 

 

 ……あー、なるほど。合点が入った。

 つまりだ。彼単体が店にいた時、周囲にどう見られているかを見ていたわけだ。

 

 安曇野禍福という個人を展示し、その後に自分のものです、とこれみよがしに持ち去っているわけだ。

 

 

 

「率直に意地が悪いなお前」

 

「イエスかノーか。それ以外は承っておりません」

 

 なんだこの女、など間違っても思ってはいけない。

 

 

 

 自身の外見に興味のない禍福でもわかる。危機感知能力の高い禍福だからこそわかる。

 

 コイツは稀に、こういう婉曲な真似をしたがる。この時ばかりは、嫌味を言ってはならない。余計に拗れたら手に負えなくなるのだ。

 

 などと思いつつ――やや目を逸らしながら、彼は答えた。

 

 

 

「……まぁ、悪い気はしない」

 

「ふふん。そうでしょうそうでしょう。悪い気しないでしょう♪ ……してたら即、読み取れてるからねぇ。『負の感情』」

 

 

 

 ほれ見たことか、と禍福は底冷えした。

 なんとか危機は去ってくれたらしい。

 

 つくづく、こいつと練り歩くのがライフワークのヤツなんて気がしれない。こんなんだから一人で行かせるのが心配になるのだ。

 

 

 

「そりゃあ連れ回したくもなるに決まってんじゃん。身長175の草食文系童顔男子(伊達メガネ付属)だよぉ? 目つき悪くて白髪でもサングラスじゃなくても超高水準なんだから、禍福って」

 

「……やはり眼鏡は絶対条件なんだな」

 

「うん。外せません。外す理由がないでしょ。これ丸二日語れる話題だけど?」

 

「またの機会で頼む(死んだ目)」

 

 

 

 などと、だべり倒しつつも彼女は次の店に入り、品揃えに目を向け始める。

 また手荷物が増える、と嘆息しつつも少年はついてくる。もはやレディース区画に踏み入るのは慣れたものである。

 

 が――その時、禍福に電流が走る。

 アハ体験というのはこういう事を言うのだろう。服屋の鏡に映る自分を垣間見、こう思った。

 

 ――今のサングラスをつけた俺から、目つきの悪さを捨て、髪を白くした場合とは即ち。

 

 それって――!

 ――あぁ。

 

 五j――!

 

 

 

(……ふざッけんなこんな時にツラ見せんなつうかフツーにイラつくんだがそれ?)

 

 

 

 ――禍福は激怒した。

 かの邪智暴虐なバカ目隠し、脳裏に浮かびかけた考えを、即座にブン殴って沈下させた。

 

 そうして努めて深呼吸し、浮き出た血管を落ち着かせる。

 

 というか、いっそ同情せざるを得ない。こいつと14年も接していたら、そりゃあドライな教師になって当然だろう――。

 

 

 

「実際、禍福としちゃどーなの」

 

 

 

 虚を突かれた。

 甘い匂いが鼻をつく。

 禍福が隙をつくのは珍しい。他所に目を取られるなんて事はほぼない。それを見過ごす婪佳久ではなかった。

 

 その距離感のなさを遺憾なく発揮し、ふわりと至近距離に踏み入っていた。

 

 ――どいつもこいつも不躾だ。見るものは選んでいると言うのに。

 

 

 

「……どうってのは」

 

「だからぁ。わたしといて、周囲の目どう感じてんの〜?」

 

「悪い気はしないって言っただろ」

 

「だーかーらぁ、もっと具体的に〜! これでもインスタでそこそこ有名なんだからねわたし?」

 

(まずテメェが答えろよ……)

 

 

 

 コイツはまさに最たる例だ。

 ぐいぐいと袖を掴んできて、目を輝かせて、ダルがらんでくる。

 

 色々と台無しだ。黙っていればせがむまでもなく非の打ち所がないというのに。

 

 

 

「そうだな……安心するよ。俺ありきとはあえ、お前が普通に外出れてるのは、ホッとする」

 

 

 

 観念して、ここでも本音を語った。

 不意に婪佳久は、急に黙って目を丸くする。

 

 珍しい反応だ――もう少し、試してみたいと言う好奇心が湧いた。

 

 

 

「この際だから白状すると、たまに俺もお前一人だけの様子を見ている。さっきなんかレジ通してるのをみて安心した。ネットじゃなくても買い物できんだなって」

 

「……ひ、人聞き悪いなぁ。まるで社会不適合者みたいに言っちゃって」

 

(自覚はあったのか……)

 

 

 

 対抗意識で踏み込み返した。

 率直な言が刺さる。

 

 だが――そう、そうなのだ。

 婪佳久は体質上、対人経験が極端に少ない。

 それゆえ、しばしば無防備で常識知らずなきらいがある。

 五条悟を真似てか軽薄なノリで誤魔化しているが、禍福はお見通しだ。なので、放っておけず、なんだかんだでついてくる。

 

 ――非術師のコントロールされていない呪力を吸収し、そこに籠った『負の感情』を読み解く術式『受愚戴転』。

 

 暴走のリスクがあり、外出は五条悟を含めた特級戦力の同伴が必須だった。小中学校は通信教育で済ませたという。

 

 親もなく、五条悟に拾われたとあっては、人としてのモラルが備わる道理がない。

 

 術式効果によって、他人の嫌がる事は避けているだろうが――幾度と、危ういと思わされたことか。

 

 とはいえ、もうその制約は過去の話。今の彼女は、他人とのコミニュケーションを通じて、一般社会に参入できるのである。

 

 

 

「望み通り素直な感想を言ってるまでだ。さっきなんか、服屋の店員に呼ばれても速攻で逃げず、小さい声ながらも返答できていたろ。偉かったぞ」

 

 

 

 つい、彼は自分でも思っていた以上に語ってしまった。気づけば、ぽんぽんと帽子の上から頭を撫でていた。

 

 

 

「ちっげーよ! そういうんじゃねぇよお母さんかぁっ!!」

 

「悪い、悪かった! なんか調子に乗ってた! 袖伸びるから離せ!」

 

 

 

 耳を真っ赤にした婪佳久、その癇癪を禍福は慌てて宥める。

 

 ――頭突きじゃないだけ有情である。こいつの頭突きは、下手な呪力強化よりも高威力なのだ。

 

 

 

「あー、もう。調子崩れるなぁ……次っ、次の水着見に行こう。泳がないタイプの水着!」

 

「水着と言えるのか、それ……?」

 

 

 

 禍福はまた、黙って鞄を持たされ連れ歩かされる。これ以上の小言は言うまい。

 

 ――ガサツで適当な女だが、自覚はあるのだ。コイツはいくら料理を手伝うよう言っても聞かない節がある。女子力のなさに直面したくないのだろう。

 

 

 

「まぁ、折角だからな……高校の夏はあと二度しかないんだ。泳ぐのに挑戦してみるのも悪くない」

 

「……!」

 

 

 

 ほんの気まぐれを口にする。

 少女の目の色が変わる。

 これは休暇だ。過去を思えば、このくらいの自惚れは許されるだろう。

 

 

 

「じゃ、泳ぐタイプの水着も見ますか!」

 

「うわ。火に油だったか……」

 

 

 

 なお、このあと婪佳久は水着を選び終え、通販で取り寄せた。たとえ世界(さいふ)が滅ぼうが某カードマンのポイントだけは裏切らない、などと供述していた――。

 

 ――どれを選んだかは当日にまで内緒にしたかった、という説もある。




エイプリルフール滑り込みセーフ!
って言おうとしたけど、本シリーズそのものがエイプリフールみたいなもんでしたね。

次章は禍福編を予定しています。これはその前振りを兼ねています



【オマケのオマケ 禍福の水着選び】

禍福「袴みたいな水着ってないのか」

婪佳久「急に真顔で何言ってんの。なんで?」

禍福「上裸に袴の呪術師が弱かった試しはない。今の俺がやったらどう見えるかが気になる。術式的に任務では着れないと諦めていたが、折角の機会だし……」

婪佳久「却下。悪目立ちするから。パンピーだらけのビーチなんだよ? そんな気持ちは秘匿しな?」

禍福「……」
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