【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 - 作:糾縄如氏
【あらすじ】
禍福 は 婪佳久 と 喧嘩 になってしまった!
助けて〜! 伏黒/虎杖先輩!!
――婪佳久は、怒ると黙るタイプの少女である。
「む……」
「おい。俺、変なこと言ってたか?」
変化は唐突だった。日常会話が途絶え、色素の抜けた少女はその白い貌をそっぽに向け、目線を合わせようとしない。
彼女は、黒い長袖ブラウスの上にキャミソールとワイドパンツの姿で、色素のない素足で椅子に座っていた。短い白髪が肩に落ち、薄いヘアバンドを付け、膝を抱えるように深く腰をかける姿勢でスマホを睨みつけていた。
困惑する他にない禍福だったが、彼へのフォローなんて一切なかった。
「いや、だから言ってんじゃん。今はいいから。そういうの」
「予定が前後したのは悪かったよ。謝る。昼飯作ってやれなかったし……」
「……そのこと『は』どうでもいいでしょ」
「じゃあ、なんで不機嫌になってんだよ」
「べっつに〜? 考えてみりゃいいんじゃない?」
(よりにもよって人の勉強机を占拠しやがって……)
ヒントを探ろうにも手応えなし。
これ以上ないほどに居心地の悪さを醸し出され――彼は困り顔のまま、いつの間にか廊下に出ていた。
「ああ、クソ。せっかくのゴールデンウィークだってのに。一級推薦されて修行計画組んで、一秒でも無駄にできねえってのにアイツときたら……!」
このままでは、部屋に置き去りにしたギッチギチのスケジュールが、遥か彼方に遠のいてしまう。
稀に彼女にはこういう事があるのだが――少なくとも、この時期の禍福の対婪佳久経験値では、難題であった。
それでも、何とか巻き返さねば――。
(……俺に原因があるのか? 正しい向き合い方が分かってたらそもそもこうならないよな――誰かと話した方が、気付かされる事があるかもしれない)
渋い顔をしながら、なんとか自力でスマホの予定帳を開く。長年格安ガラゲーだったので、隣に婪佳久がいないと満足に扱えない。
弱り目に祟り目か。今日の釘崎先生は任務で出払っていた。
仕方ない。呪術師は誰しも、人手不足すぎて手の空く方が珍しいのだ。自分がまとまった休日を享受できたのは、ひとえに学生への温情に他ならない。
必然――今コンタクトが取れる相手は、絞られた。
「二択か。虎杖さんか、伏黒さん――いや、どんな天文学的確率だよ。特級術師が二人も日本にいてフリーって……」
ますますゲンナリした目になった。
格上すぎて畏れ多い。
が、頼る先がいただけ不幸中の幸いだろう。
――さて、どちらを頼るべきだろうか?
しばし間を置いた後、意を決して、腰の低いメッセージを送る。
その少年がオフで連絡するなど、婪佳久を除けば滅多にない。すぐに既読がつき、快く返信が来て、彼は顔をあげて駆け出した。
かくして、禍福が選択した相手は――。
―
――
―――
【伏黒恵の場合】
「お疲れ様です、すみません。お忙しいところに」
「それはいい。今に始まった事じゃねえし。で、どうしたんだよ。オフに連絡よこすとか珍しいな」
旧高専の学生寮、自室で伏黒は禍福を出迎えた。
元より東京攻略の拠点なのだ、ここなら電気と水道も東京で唯一生きている。今の伏黒は日本に戻ると、決まって学生時代から使い古したこの部屋に戻る。
なので、この状況は彼の実家にお邪魔しているようなもの。茶を出され、机の前に座った禍福には妙な緊張感を覚えつつも。
本題を、切り込んだ。
「それが、その。なんか……婪佳久と、喧嘩になってしまって……」
「――、とりあえず全部話せ」
禍福は最初こそ視線を散らしていたものの、その一言で腹を決めた。
かくかくしかじか、と語り出し、伏黒はスマホでメモを取りつつ、聞きに徹する。普段は自分について多くを語らない禍福だが、こと伏黒に対しては例外だった。
安曇野禍福にとって伏黒恵は、一番信頼できる先輩だ。価値観が合うし、何より彼女さんがいる。乙骨さんと同等、いやそれ以上の、手放しに尊敬できる先達なのだ。
「しかしそうか。婪佳久ってそういう怒り方するんだな……それで、心当たりあるのか?」
「言ったけど、どれも違うって言われます」
「じゃあ、この事じゃないか?」
そうして、一通り話し終えたあと。
ツンツン頭を掻きながらも、伏黒はさっきからスマホに打ち込んでたメモのうち、一文を選択して見せる。
「……あー……それかもしれません」
これは正鵠を得る指摘だった。
後々当たっている事が判明し、裏で女性陣が「あーそれは確かに……」と微妙な顔になったのだが、さておき。
「……いいか禍福。謝るというのは押し付けることじゃないんだ。謝意は示してるわけだし、もう待つしないんじゃないか」
――悪手! これについては、圧倒的悪手!
「そうですね……」
良い事言ってる感に流されてしまった禍福は、しかし自身の致命的な見落としに気付けない。
――そもそも、伏黒恵に彼女はいない!
いや、相手が「運命の人なんです!」とずっと言ってるし付き合ってるんだろうなぁと思うのは自然なのだが。その実、2025年現在いまだに付き合っていないのだ。
理由としては、伏黒がこの期に及んで責任どうこうなどと考えていたり――父親があんなだったのに自分は本当に彼女を幸せにできるのか、という悩みで踏み切れていないのだが――それはさておき。
この後、『何もしない』という選択をとった安曇野禍福は、余計に事態を悪化させ、伏黒共々、釘崎に「そういうとこだぞテメエら」と張り倒される事となる。
なお、こっそりと彼らの会議を盗み聞きしていた件の彼女は――、
「え、えぇ。流石にそれはどうかと……いやいやでもでも! 運命の人なのは間違いないんだし、最後の一言くらいは向こうから言ってもらうんだから!」
「華。それはよくない流れだぞ」
――などと、自身に受肉した存在と、もはや恒例とさえ言える独り相撲を演じていたのであった。
―――
――
―
【虎杖悠仁の場合】
合流地点は、適当な公園のベンチだった。
「たぶんこの時間には来れっから!」などとアバウトな返信が来て、禍福少年はすぐさまベンチに待機し――彼は、予定時刻より数分早く到来した。
「虎杖先輩、お疲れ様です。……って、どうしたんですか、そのお菓子」
「おー、いたいた。お疲れ! やー割と今日勝てたんだよね。どれか持ってってよ。俺食いながら話すからさ」
「はぁ、ありがとうございます。じゃあ、プリッツいただきます」
駄菓子屋帰りなのだろうか。虎杖は出会い頭に紙袋を広げ、ご機嫌にお菓子を押し付けてくる。
贅肉がつくような真似は嫌う禍福であるが、不思議と不快感は覚えなかった。自然とそれを受け取って、隣に座る彼と対面する。
パーカー姿の若々しい男は、側から見れば禍福とさして年齢が変わらない。しかし朗らかな表情の中に、どこか只者ではない気風も伴っている。
「……てか、もしかしなくても二人だけで話すの初めてだっけ、俺ら?」
「はい。会ったのは、こないだの飲み会ぶりかと。連絡先を交換したっきりでした」
「あー、そっか。じゃあ、そんな経ってない方か……」
「どうしました?」
「あーううん、こっちの話。
「それがですね……」
禍福は虎杖とはそれほど親密な仲では無いが、彼が気さくな人柄であるのは知っている。
およそ一般的呪術師には無い、一般人の素朴さを持ち合わせた貴重な人物。彼なら、なにかヒントをくれるのではと期待し――禍福は勇気を出して、あらましを説明した――その結果、
「ん〜……お出かけすれば何とかなるんじゃね? とりあえず会ってみないと変わらないでしょ。俺カラオケ予約とかして途中からいなくなるから、二人でじっくり話しなよ」
素晴らしい提案をいただいた。
これだ。これこそ最高の落とし所に違いない。
やはり今の禍福では出せない発想だったが、それでもこれ以上の正解はないと確信できた。
「本ッ当にありがとうございます。相談どころか仲を取り持ってくれるだなんて……!」
「いーってことよ。とりあえず急いで寮戻りな。熱は熱いうちにってね!」
(なんかバカな日本語が聞こえた気がするがまあいいか!)
彼のノリに浮かされ、声を弾ませた禍福は激し目に握手を交わす。かくして、ここに協力関係は確立された。
作戦開始だ――虎杖はカラオケを抑え、禍福は足早に寮に戻り、ドアを開いて、そしてこう言った。
「婪佳久、一緒に遊びに行かないか」
などと――
――さて、こうなると事態は急転する。
珍しく自信満々、真っ向勝負という気構えで予定を持ちかけた禍福。
その顔に何を見たか、婪佳久は大人しく自身の部屋に戻った。
「別にぃ? アイツが言ったこと許してないしぃ?」
そして迷わずクローゼットを開き、服を見繕いつつもスケジュールに目を配り、放置していたレポートといったタスクを列挙する。
「とりあえず、来週は絶対なんの邪魔も挟まらないようにしよう」
こんな機会は滅多にない。
何が何でもモノにしたい。
彼女は珍しく計画立てて課題を済ませ、任務に取り組み、万全の体制を期した――そして、当日。
合流地点に行き着いた、彼女が見たのは。
「うわ。また持って来たんですか。この土偶みたいな土産」
「いやぁなんかチベットで土地神無力化させたはいいんだけど、誰も呪具の引き取り先いなくってさぁ。貰ってくんね? 最悪食おうかと思ってたんだけど」
「はい? 食うって、呪具を。え??」
当然のように虎杖悠仁もいたわけで。
――婪佳久は、キレた。
「お、婪佳久ちゃ――きゃぁああ!?」
「ぐぼあ!?」
男二人が気づいた時には全てが遅かった。
盛大に崩れ落ちた禍福を見て、虎杖は悲鳴をあげる。日常の只中で油断し切っていた顔面に、婪佳久の拳骨は容易くめり込んでいた。
そのまま彼女はUターン、ダッシュで場を離れ――散々たる事件現場のみが、残される。
((――やべぇぜってぇやらかしたどうしよこ――))
無言。二人は口を閉じ、顔を青くし、事の重大さを咀嚼する――最悪だ。失敗した失敗した失敗した。何でか、急に、とにかく盛大に。
「こっ……この後、どうしましょうか」
背をびっしり流れる嫌な汗。駆け巡る無数の思考、気まずい静寂。
問うてみた所で答えられる者はいない。
すでに手遅れな事だけは確かなのだ。
その中で、苦し紛れに出力された答えは――!
「……と、とりあえず。カラオケ行かね? 予約しちゃった以上はさ」
「――、……じゃあ、仕方ないかぁ(思考放棄)」
正常性バイアス!
圧倒的、危機感の欠如!
最も安直な答えに流されるまま、筋骨隆々のヤロウ二人はカラオケに入店。たっぷり二時間の現実逃避を経て――帰宅した結果。
「テメェら何しとんじゃボケぁぁあんっ!?」
「「ひぃいいすんませんすんませんすびませんッ!!!」」
婪佳久に泣き付かれ、怒髪天をついた釘崎野薔薇にコテンパンにされたのであった。
―――
――
―
――そもそも、発端である些細な行き違いは、軽く謝るだけで終わる話に過ぎない。
さもそれを大事のように捉えて対応する時点で、安曇野禍福は失敗していたのである――。
なお、五条悟は全てが終わった後に、「えっ二人喧嘩してたの?」などと供述したのであった。
婪佳久の自室については次回をお楽しみに!
来週には何とか本編再開できそうです。します。
流石にこれずっとやる気はないんで。ストック回復せねば……。
あと金ちゃんも来栖華も出番ある想定です。気長にお待ちください。
【補足】
この場合、秤パイセンが介入したら多分なんとかなりました。
フリーレンのザインみたく禍福と婪佳久に一人ずつ面談して事情を聴取し、禍福は殴られ、婪佳久は言葉で絆される、的な感じで。
ただ、こういう和解の相談ができるタイプ(釘崎・乙骨・秤)はみんな出払ってるタイミングでした。
そもそも秤あんま高専いないし。
だからまぁ、ドンマイ⭐︎
【オマケのオマケ 禍福と婪佳久のカラオケでのひと時】
婪佳久「禍福〜! このビノミってやつデュエット練習しよ! 当然そっちが男性パートね」
禍福「断る」
婪佳久「えーいいじゃん持ちネタ増やせるよ? 無心でマラカス振ってるよりよくない?」
禍福「動画撮ろうとしてる時点で嫌な予感しかしねぇよ却下だ」
婪佳久「じゃあメズマライザーは?」
禍福「言うまでもなく却下だ。あのキンキンした目に悪いやつだろ。寝る前に見せられたの忘れちゃいないぞ」
婪佳久「ちぇっ」
禍福「で結局次なに入れるんだよ」
婪佳久「スローダウナー!」
禍福「あの歌詞が意味わからんヤツか」
婪佳久「おじいちゃんうっさい」
禍福(そもそも肺活量足りねえだろオマエ……)
※なお声が綺麗なのは禍福もケチがつけられない。