【第二部開始】もしも新宿決戦で五条悟が北を向いて両面宿儺に勝っていたら? - 呪術廻戦『受愚戴転』 -   作:糾縄如氏

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【あらすじ】
東京遠征案件。
伏黒の監督の下、禍福と婪佳久は任務をこなす。
だが、ここは魔窟となった東京。タダでは帰れない――。


第6話「波羅蜜」

 

「だ、助けてくれ!金は出す!助けろガキ!」

「そうだ、ここの動画持ち帰れば、万バズ間違いなし――」

 

 

 

 どッがーん、と。

 伏黒は、おそらく史上最も物騒な壁ドンを見た。

 

 

 

「あ。ごめん、ムカついたから、つい咄嗟に」

 

 

 

 黙らせようとした禍福より先、

 婪佳久(らんかく)は動いた。

 

 おもむろに彼らの背後。

 ビル壁に深々、亀裂を刻んでいた。

 

 多少の老朽化はあれど、八王子の高層ビルに対して、だ。

 

 

 

 

「……婪佳久。わかってるな、一般人に手を出すのは」

 

 

 

 ヤシの木揺らしたみたく、呪霊が落ちてくるのではないか?

 などと、真顔で懸念する伏黒を他所に、

 

 

 

「やだなぁ伏黒さん、ちゃんと避けたじゃないですか」

 

 

 

 命知らずのバカ三名はすっかり押し黙り、

 

 

 

「この人いい人達ですよ、悪意はないだけの目立ちたがりみたいで。ちゃんと分かってくれますって。ね〜?」

 

 

 

 うんうんうん。と三者一様、赤べこばりに首肯する。

 

 

 

「……まぁ何にせよ」

「あぁ。無事発見だな」

 

 

 

 すぐに禍福は手をかざし、呪力で意識を奪う。

 無事、大人しくなった。

 

 

 

 あとは脱出だが――、

 

 

 

「そこはっ。ホームセンターの跡地に紐あったので、縛り上げて一緒くたに運び出そうよ、赤ちゃん紐みたく」

 

 

 

 ――悪意なくやってんのが悪質だな、色々。

 

 禍福としては、もはや彼等が可哀想に見えてくる。

 いや自業自得なんだけども。

 

 

 

「……わかった。じゃあ、縛り上げといてくれるか」

「わーってるって、やっとくよ」

 

 

 

 もはやツッコミを放棄した禍福。

 背後、伏黒の思わず同情的な溜息が聞こえた。

 

 だが。切り替えろ――と、

 努めて、禍福は現場に向き直る。

 

 

 

「どう考える」

 

「……呪いに当てられて衰弱し切ってます。留まらせるのはよくない。すぐ連れ返しましょう」

 

「そうじゃない」

 

 

 

 ……意図がわからない。

 不意に振り返ると、視線がかち合う。

 まっすぐ、伏黒は問うていた。

 

 

 

「禍福だっけか。お前は、こいつらをどうする」

 

 

 

―――

――

 

「……どうするって、救出任務ですよね?」

 

 

 

 なにわかりきってる事を、真面目顔に聞いているんだ。この人。

 と、禍福はつい首を傾げるも。

 

 

 

「貴方は現場監督なんだし。ここは、シン影使えてスピード特化の俺が運ぶしかないでしょう」

 

「ああ、だが客観的には、呪術師の命は一般人より重い」

 

 

 

 ――それはそうだ、と首肯せざるを得ない。

 

 仲間の損耗は、呪術師にとってよろしくない。

 

 もはやこれ以上の人材不足は業界、ひいては国の生死にかかわる。

 今でさえ、フリーの術師を強制雇用する始末なのだ。

 

 

 

「今の東京は紛争地帯だ。ここまでの道中、呪霊も強いのが多かった。『鵺』だけでの移動は厳しかったしな。既に多少の手傷は負ったハズだ。俺たちだけで帰るならまだしも――足手纏いを連れて、集中砲火を突っ切る。割に合うと思うか?」

 

 

 

 その懸念も、何ら不思議ではない。

 ここまで辿り着くにもタダじゃない……なんてレベルではなかった。

 

 今でさえ会話を交えつつ、

 挨拶代わりに顔を出す呪霊複数を一蹴する始末。

 

 人質を連れて脱出などリスクまみれ。

 おまけにコイツらは迷惑な配信者。

 片手片足を失ってでも生かせ、なんて割に合ったもんじゃない。

 

 

 

「……いいんですか。政府の意向に反するのでは?」

 

「可能な範囲でやれって言ってるんだ、助けろとは強制しない。本来は有償の行為だからな」

 

 

 

 しかし――強者の発言だ。

 言外に、「俺なら可能(ノーリスク)だが」とも聞こえるほどに。

 

 人にこんな仕事をさせて、監督役を決め込める厚顔さも含めて。

 

 

 

「ハッキリおっしゃる」

「人命の話だぞ」

「そりゃそうだ」

 

 

 

 ……言われるまでもない。

 元より、禍福の術式行使は命に関わる。

 こんな奴らに使うのは不本意極まる。

 

 自分より優先して助ける義理なんてない。

 

 

 

「失敗しようと俺が責任をとる。考えとけよ」

 

 

 

 しかし――この人。

 呪術師に向いてないんじゃないか?

 

 さっきから、初めてだ。

 仕事で、こうも至極真っ当な話を聞いたのは。

 

 てっきり、この業界において、

 信用に値する人間など居ないとばかり思ってたが――。

 

 

 

 この人、本当に、あの五条悟の教え子なのか?

 

 

 

「――助けますよ、私は。そういう仕事ですし」

 

 

 

 ……バカどもを縛り終えたらしい。

 ぱっぱっと手を払い、いい仕事をした顔の婪佳久はサラッと言い捨てた。

 

 

 

「どんなバカでも死んだら泣くバカもいるんです。ダーウィン賞の真似事なんて、(こら)えられませんよ」

 

 

 

 コイツは――逆に、根っから呪術師だ。

 堪えられない、というのは怒りの意味だろう。

 

 

 

 ――死の間際、放出される非術師の呪力。

 今際の際、負の感情をフィードバックする体質だからこその――『なんてもんを見せやがる』という怒りの意味だ。

 

 さながら、流し見してたSNSのタイムラインで、当然エログロ広告でも見せられたように。

 

 

 

「……大丈夫なのか。呪力量だとか」

 

「へっちゃらです。事前に、五条先生の蒼パンチ喰らって空っぽにしてんです。道中でも消費したから、もう二時間は余裕でしょう」

 

「なるほど。……アレかぁ」

 

 

 

 術式『受愚戴転』。

 婪佳久は非術師の呪力を受け取り――攻撃に転化する。

 

 まるで、負の感情に対する呪い――。

 高専に入る前は、どうしてきたのだろうか。

 

 

 

「わかった。暴走したら即失敗だ、注意しろ」

「はい」

 

 

 

 しかし――本人としても暴走は望まない。

 さしもの彼女も、声から気楽さが抜けていた。

 

 

 

「……お前ならどうする、か」

 

 

 

 ――見捨てるか、身を切って生かすかなど。

 復讐者に問うかね。そんなこと――。

 

 

 

――

―――

 

 ――特級『事象』呪霊という区分がある。

 

 それは、何年何月何日、

 特定の地域において起きた事象に対する呪霊――。

 

 

 

 2025年現在。

 呪霊発生が集中した東京区内において、

 最大の恐怖対象は、ふたつある。

 

 ――渋谷事変、新宿決戦。

 

 国内外問わず多くの人が『呪術』を認識し、世情を激変させた出来事。

 今だ情報が定かでなく、曖昧な――だが過去最大の量でかたどられた、恐怖。

 

 

 

 すなわち、その二つは。

 超特級――過去最強の呪霊に他ならない。

 

 

 

「――鉄ノ、鉄ノ味!」

 

 

 

 ――走る。それらは走っていた。

 

 互いに呪い。呪霊。同類ではある。

 多少の知恵・人格があれど、呪い合うだけのものは、そうそう共謀などしない。

 

 

 

 だが――脅迫されたのだ。

 

 この東京において、命令を達さねば命はない。

 東京で産まれるようになった呪霊は、たとえ特級であっても、あれらに逆らえない。

 自由を得るには。この外に呪いを回すには――。

 

 

 

「ナゼ殺ス、呪術師!」

 

 

 

 立ちはだかる邪魔者と――対象を、打倒すべし。

 

 

 

―――

――

 

「――ウソっ、特級複数体接近!」

「なんだと!」

 

 

 

 婪佳久は負の感情を感じ取り、

 禍福と伏黒は呪力で探知。

 戦慄し――全員。思わず目を疑った。

 

 

 

「伏黒さん、このような前例は――」

「あるわけないだろ、東京探索の前例は少ない。でなくても前代未聞だ」

 

 

 

 突如。無人のビルを打ち壊し、土煙をあげて迫るは――『虹龍』。

 その美しい体にまたがる生理的嫌悪――『黒沐死』。

 オマケに――『特級叛霊・悪路王大嶽』――さらに!

 

 

 

「あっババア! ババア走ってるっ!?」

「なに!? 全国16体しかいない登録済み特級呪霊ターボババアまで――四体同時か!?」

 

(……締まらねぇな、なんか)

 

 

 

 しかしどうやら、間違いないらしい。

 コイツらは何故か――。

 

 

 

「……何それ。そんな、恨み買った?」

 

 

 

 笑う、もはや笑うしかなくなっている少女。

 婪佳久に――なぜだか、殺意の目を集めていた。

 

 

 

 いくらなんでも、この数は。

 人質以前に、彼女の呪力量でも死にかねない。

 

 

 

「状況が変わった。俺も出る――禍福。置いてってもいいからな」

 

 

 

 伏黒は非常時を認識。

 即座に一般人を抱えた禍福が、問われた。

 

 

 

 二者択一だ。

 ――こちらとて特級術師が二名、呪霊らに応戦するか。

 ――あるいは人を優先し、逃がすか。

 

 あんな、逃す気ゼロの連中から?

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 歯軋る禍福。伏黒は、急かしているが。

 

 ――どちらでもいいと目で言っていた。

 

 

 

 そりゃそうだろう。

 こんなの失敗したって文句なしだ。

 

 だいたい禍福と特級二名で、特級四体を相手取って、

 天秤が釣り合うわけがない。

 

 こんな、大きな悪意に狙われた経験なんてない――だからか。

 

 

 

「……ふざけんじゃ、ねえぞ」

「禍福?」

 

 一周まわって。

 恐怖による震えが、怒りになっていた。

 

 

 

 ……だいたい、なんだよ。

 考えてみりゃ、最初から不条理じゃないか。

 

 

 

 逆らったら死刑とか言われて仕事するしかなくて。

 術式を使うには死のリスクがあって。

 この力は、五条悟の復讐に使う筈だったのに、

 

 ――こんなどうでもいい奴らのために働いて。

 

 挙句、特級呪霊四体を相手にする羽目に遭う?

 

 

 

「なんだよ。そりゃ」

 

 

 

 抱えていた三人を、その場に置いた。

 助けると、そう言った少女が不安げに自分を見ている――ふざけんな。

 

 

 

 ――なぜ、その目で見る。

 なぜ、こんな目に遭わねばならない。

 余計に仕事を増やしやがって。

 

 どいつもこいつも、モノの順序を守らない。

 飼い犬が飼い主より先に死んではならないだとか、子が親より先に死んではならないだとか。

 

 

 

 ――そういう人の大前提を、生きてもいないモノが平気で踏み荒らす。

 

 無責任に、ただ奪っていく。

 誰が、その始末をすると思っている――!!

 

 

 

「――もう、たくさんだ」

「ちょ――」

 

 

 

 止める間もなく、駆け出す。

 最も速度に長けたターボババアへ。

 その間合いは即座に消えた。

 

 

 

 ――『爆縛呪法』。それは、

 ただの一歩が、死線を潜る行為となる術式だ。

 

 ランダム出現する『線』以外は、直死(マグマ)

 線に乗る限りは、加速が発生。

 感覚は先鋭化し――呪力運用効率も上昇。

 

 加え、命を捧げる縛りにより、呪力出力上限が段階的に解放され――ボルテージが押し上がる。

 

 

 

 その一歩一歩の成功は、すなわち。

 

「いい加減――人様をッ、コケにするな――!!」

 

 クリティカルの、確率上昇を意味する。

 

 

 

「――あれって」

「あぁ――『黒閃』だ」

 

 

 

 ――真っ黒なフラッシュが世界を焼いた。

 

 

 

 飛び蹴りは刹那、真正面から打ち負けたターボババアがカッ飛んで虹龍を巻き込み、遥か摩天楼を突き抜け吹っ飛んだ。

 

 逃げ切るには、十分な距離の差。

 

 

 

 ……気は済んだ。そう長く、息を吐いて、

 

 

 

「伏黒さん。――俺は、コイツら助けます」

 

 

 

 一瞬で、元いた位置に立ち、禍福は複数人を抱え直す。

 

 

 

「こんなの不相応だ。贅沢なんですよ。こんなしょうもないやつら、あんなのに殺られていいはずがない!」

 

「……そうだな」

 

 

 

 気のせいだろうか。伏黒の声は、どこか嬉しげだった――そんな、感慨も置き去りに。

 

 

 

「婪佳久、一時離脱をする」

「トチったら殺すぞ」

 

 

 

 返答など聞かぬと。

 怒声だけを投げ、少年は駆け抜ける。

 

 

 

「……誰に言ってんのさ」

 

 

 

 白髪が靡く。

 返答は。場に似合わない程、穏やかだった。

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